がんかたうるふ 「輪舞~真~」弐章 大雪の刻 ~幸村~ その3 忍者ブログ
こちらはサークル「がんかたうるふ」のうずみとみっしの二人組が、ラッキードッグ1とばさらのこばなしを黙々と投下する場所です。
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昨日誕生日だったので、色々忙しかった…
で、この章はこれで終わりです。

それと、自家通販の「とよとみけてんせいぱろ しょうがくせいへん」と「月孤譚」の前編後編の在庫がもうなくなりそうです。
というか、イベント売り分がもうないので、通販分で販売終了です、再版予定は今のところありません。



 *****
 自分が合図をしたら、大谷が気づいても逃げられぬ程の速度で彼の部屋に踏みいって欲しい。


 官兵衛に頼まれたのは、ただそれだけ。
 一体彼は自分に何をさせたいのかわからないし、後ろからは秀頼を抱いた幸村と佐助がついてくるのだ。官兵衛の話し方から考えると大谷が謀反を企んでいるというわけではないようだが、自分が知らぬ間にこの城で何が起こっているのか。
 すべてがわかれば説明する、そう言ってくれた官兵衛の言葉を信じるしかない。
 一日動き回って疲れているのか秀頼は幸村の腕の中でうとうとし始めているし、佐助は足音を消して周囲の警戒に余念がない。そんな彼の姿とどんな些細な音も聞き逃すまいとしている官兵衛の姿を見ていると、自分たちが一応隠密行動をしていることに気がつくのだが。
 幸村だけは全然緊張感がない。
 東雲や薄暮がついてきていないので爪が廊下を叩く音が響かないだけましだが、幸村の足音は結構うるさい。もし誰かにあったら彼に大坂城を案内しているように見せかける、事前に決めてはいたが幸村の足音だけで気がつかれるのではないだろうか。
 それが心配になったので後ろを振り返り無言で官兵衛を見つめると、表情を緩めた彼に優しく肩を叩かれた。何があろうとも自分がどうにかするとでも言いたげに頷くと、再び顔に緊張の色を滲ませ始めた。
 官兵衛はただ優しい。
 秀吉のように厳しさの中に暖かみを感じる類のものではなく、彼の優しさは気がつけば側にあるぬくもりそのもの。与えられていることにすら気がつかないが、確実にそこにある官兵衛の細やかな気遣いに三成はどれだけ助けられてきただろうか。
 礼を言う機会すらわからなくなるほどのさりげなさに、ずっと守られてきた。だからこそ官兵衛が望む役割は、完璧にこなさなければならない。
 たとえ急に合図代わりに肩を叩かれたとしても。
「……い、石田ど…………早い……」
瞬時に爪先に力を込め、磨かれた床が滑ることを計算に入れ体を前に倒す。
 目指す大谷の部屋は今歩いている場所からわずかに進み、左に曲がった先にある。行き慣れた部屋とはいえ、全速力で彼の部屋に押し入ったことなど今まで一度もない。
 角で速度が落ちぬように急激に体を倒して力尽くで曲がり、その勢いを殺さぬまま襖を破壊する勢いで大谷の部屋に突っ込んだ。
「ぎょぉぶぅぅぅぅぅぅぅっ!!!」
 というか、全力で突っ込みすぎて転げながら大谷の部屋に突入した。
 襖の木枠がばきばきと壊れていく音が聞こえたりしたが、それは目的のための犠牲だということで無理矢理納得することにする。前髪を思いっきり畳に叩きつけ、手足をおかしな角度で宙に彷徨わせ。
 もう少し遅く走っても良かったのではないかと思いながら、とりあえずこんがらがった手足を元に戻そうと悪戦苦闘していた三成の耳に聞こえたのは。


「……まっしろなのにまっくろなおきゃくさんなのね…………ちょうちょさん……」


 甘い蜜を思わせるような、可愛らしい女の笑い声であった。
 何故女が大谷の部屋にいる、そして自分を笑っているのか。部屋の真ん中でおかしな格好で転んだままの三成が何とか顔を上に持ち上げた時に視界に移ったのは、大事な友である大谷吉継と色鮮やかな花のような色合いの戦装束を身に纏った女の姿だった。
 おまけに女は、大谷の体にしなだれかかり嬉しそうに体をすり寄せている。
「刑部! 貴様この非常時に女を連れ込んでいるのか!」
「三成……怪我はないのか?」
「怪我などない! 少しどころではなく足が滑りすぎただけだ! 貴様の部屋の襖を壊したことについては反省する!」
「別にそれは構わぬが……まずは体を起こすといい」
「そうさせてもらう」
 四苦八苦しながらなんとか体制を整え直し畳の上に座ることに成功すると、目の前にいたのは包帯に包まれた大谷と美しい女。豊かな長い黒髪を背に流す女は幼子のように好奇心に満ちた目で自分を見つめてくるし、大谷は付き合いの長い三成にしかわからないが気まずさで混乱しきっているらしい。
 よくわからないが、この女のことが自分にばれてしまうのは余程まずいことなのか。
「女……貴様は何者だ?」
「いちはいちなの……あなたは……ちょうちょさんのおともだち?」
「そうだ」
「いちもちょうちょさんのおともだち……いっしょね」
「私は貴様が何故ここにいるのかをまだ聞いていない」
 周りの人間から見れば、相当おかしな光景だったのだろう。
 髪も着物もぐしゃぐしゃになっている三成が、大谷と彼に抱きついた女を問い詰めている。部屋は飛び込んできた三成のせいで襖が壊れその破片があちこちに散らばっているし、頭巾を取った大谷の頭にまでそれが乗っている始末。
 しかしそれを指摘してやる人間は誰もいない。
浮気の現場を押さえられた男のように大谷が硬直してしまっているので、俗に言う『突っ込み不在』という状況になっているのだ。しかしそれを気にする三成ではないし、女もそこら辺を考える性格ではないらしい。
 かくして男二人と女一人、微妙な雰囲気で互いを見つめ合うという奇妙な状況が生まれたわけだが。
 女の方は三成の事が気になってしょうがないらしい。
「おなじいろにぬりつぶされているの……まっくろで……よるのいろなのね……きれい」
 子供のように可愛らしく首をかしげ、女は三成を見つめ続けている。
 空虚と狂気が満ちた目は無邪気にこちらを見返しており、その澄んだ輝きとは相反したどろりと濁った狂気が奥底から覗く。無垢だからこそ残酷なのか、澄んでいるからこそ濁りをはっきりと見て取れるのか。少しでも長くその瞳を覗きこむと、悪夢という深淵に飲み込まれそうだったのだが。
 その時三成はあることに気がついた。
「私の夢に出てきたのは……貴様なのか?」
「……それは……かなしいゆめ?」
「わからん、だが私は貴様を覚えている」
 どのような夢を見たかは覚えていない。
 だが目を覚ました瞬間に感じた恐怖と嫌悪感と、この女の目の奥底にあるものがよく似ていたのだ。人の背を怖気で粟立たせるのに物悲しい、そして重苦しいのに澄んでいる。
 そして怖気が立つほどの恐怖を振りまいているのに造作は凄まじく美しいのだ。
「何故ここにいる」
「ちょうちょさんがおいでって……いちと……あそんでくれるんだって……」
「何を求める」
「……さがしてるの……でもみつからないの……」
 大谷の腕に子供のようにしがみつきながら、妙なる美女は悲しげに首を振る。
 普通の男であれば何があろうとも助けたいと思うのだろうが、生憎三成は普通の男ではなかった。惚れた男に敬愛する君主を殺されているし、おまけに飼っているのは虎だ。誰がどこから見ても普通ではない三成は、自らのことを『いち』と呼ぶ歪な女の歪な美に惑わされることはなかった。
 だが何を求めてここにいるのかは気になる。
「言え、刑部が助けたのなら私にとっても貴様は助けるべき者ということになる」
「三成、その女は……」
「私はこの女と話している。刑部……貴様の言い分は後で聞くことにしよう」
 わずかに動揺を声にのせながら言ってくる大谷を一瞥で押さえ込み、三成は女に話の続きを求めた。
 理由はわからないがこの女を見捨ててはいけない、そんな気がしてならないのだ。
「…………いちはね…………さまをさがしているの……」
「人捜しか。だが私は貴様の探し人を知らぬ」
「わすれてしまったの……いち……どうしたらいいのかしら……」
「忘れたなら思い出せばいいだろう」
 顔をぎゅっと歪め、目に涙を溜め始める女に三成が言ったのはそれだけだった。
 失ったのなら取り戻せばいい。取り戻せないものは存在するが、それを埋める物はこの世に確実に存在するはず。
 秀吉は討たれた、半兵衛は病でこの世を去った。
 この世の全てを恨むほどに嘆き、自分が代わりに死ねればよかったのにと悔やみ。しかしそれでも彼等は還ってこないことに気がつき、更に嘆く。それを何度も繰り返し、積み重なっていく時間が鮮やかな痛みを忘れさせていくことを悲しみ。

 そして全てを飲み込み歩み続ける。

 そうしてきたからこそ三成は、今この場にいることができるのだから。
「…………ほんとうなの…………やみいろさん」
「私は闇色さんなどという名前ではない!」
「まっくろなのにきれいなの……ねえやみいろさん……いちとおともだちになってくれる……?」
「友だと?」
「いちとおともだちになって……いっしょに…………さまをさがしてほしいの……」
「勝手に探せ。その間ここにいることは許してやる」
「ありがとう……やみいろさん……だいすきよ……」
 普通にしているだけで衆目の目線を集めるような美女が、自分にだけ向けて微笑みかけてきているのだ。さすがの三成も思わず頬を赤らめてしまうと、その原因が可愛らしい笑い声を上げた。
 その姿を壊れた襖の影から官兵衛たちが覗いていることも、大谷が官兵衛を殺意のこもった視線で睨み付けていることも。
 大切な存在を失い、心に空いた空洞を埋める術を知らない二人の初めての邂逅の前では些細な出来事。

 こうして大谷吉継がもう一人の『凶王』に仕立て上げようとした女、お市と三成は出会ったのだった。










「……お疲れのようですな」
「疲れたわけではないが……面倒な女と関わってしまった」
「お気持ち、お察し致します」
 深々と三成に向けて頭を下げてくる幸村は、横で繰り広げられている光景を見ながら少しだけ表情を和らげた。あれから起こった混乱と騒がしさを収束させるために三成の部屋に移動したのはいいのだが、何故か大谷を置いてお市までついてきてしまったのだ。
 お市が何をするかわからないと言い出して大谷もついてこようとしたのだが、包帯の隙間から見える顔色が死人のそれのようであったので無理矢理床にたたき込んだ。
 そんな理由で三成の物が極端に少ない部屋では、壁や床から漆黒の花弁を思わせる腕がいくつも生えていた。漆黒の花畑のようである意味美しくはあったのだが、灯りを嫌がるので覆いをつけた小さな灯籠だけが部屋を彩っている。
 小さな光と闇が競演する中、可愛らしい赤子の笑い声を楽しむかのように女は体をくねらせて囁き続けていた。
「…………あかちゃん……たかいたかいなのよ…………」
「その変な黒いのであやさないでよ!」
「食わんでくれよ、そいつは食い物じゃないんだからな」
「ちょ、ちょっと! 第五天魔王って人間食べるの!?」
「その嬢ちゃんはともかく、黒いのは食うんじゃないのか?」
「……いち……あかちゃんは……たべないの……」
 お市は自らの影から現出させた闇の腕で秀頼を抱き上げて遊んでいるし、実態を持たぬ闇に抱き上げられた秀頼は可愛らしい声を上げながら喜んでいる有様。それを顔を真っ青にしながら見守っている佐助は今にも倒れてしまいそうだし、官兵衛は疲れたのかごろりと寝転がっていた。闇の腕に枷をいじられたり鉄球を転がされたりしているが、彼はお市から目を離そうとしない。
 佐助も部屋の隅で三成と話をしている幸村とお市を交互に見つめているのは、まだお市のことを信用しきっていないからなのだろう。
 三成は初めて会ったが、幸村と佐助はこのお市と名乗る女の事をよく知っていた。魔王織田信長の妹であり、第五天魔王と呼ばれる魔性の美女。そして大谷が三成の許可無くこの女を城へ連れ込んでいたことについて官兵衛は追求し尽くしたいようだったのだが。
 三成は全て不問とし、客人として彼女が大坂城に滞在することを許した。
 大事な物をなくしたが、それがなんなのか思い出せなくなってしまった。そう言いながら泣き続ける女を哀れに思ったというのもあるが、秀頼が彼女を気に入ったのが一番大きな要因だった。
 一番最初にお市の顔を見た時、秀頼はぎゃあぎゃあと手足を振り回して泣きわめいた。ここ数日ずっと急にこんな感じでぐずり始めるのも一過的なもの。そう思っていた三成だったが、得体の知れない恐ろしい者から逃げようとするかのように恐怖をあらわにする悲鳴のような泣き声を聞いて全てを理解した。
 この女が姿を現した時、秀頼はそれを察知して泣いていたのだ。
 しかし秀頼の胆力と女好きは相当なものだったようで、お市の顔を見てにっこりと笑いかけられた瞬間。まだ言葉すら話せないというのに、彼は理解したらしい。
 こんな美女は滅多に見ることができない、その事実を。
 それ以後一切泣かなくなったどころか、大喜びでお市に懐き始めた秀頼をお市も全力で愛おしんだ。夫を戦場で失った彼女は、愛する相手との子を産むことができなかった。だからこそ秀頼を愛することでそれを埋めようとしているのでは。
 お市に聞かれないように小さな声で教えてくれた佐助は、彼女の境遇に同情してはいるものの受け入れるつもりはないらしい。幸村の大願を叶える障害となるのならば、女子供であろうと容赦しない。
 忍びらしくない絶対的な忠誠と、忍びそのものの冷徹な考え方。
 だが君主になったはずなのに君主になりきれない幸村には、こんな従者が似合っている。今もお市と秀頼の様子を見守りながら、幸村の口から出るのは奥州の君主であるという好敵手のことだけ。
「政宗殿の六爪の一撃の美々しさと激しさに、某はこれ以上ないほど感動させられたのでございます! 何度であろうとも槍を打ち合わせたいと思った相手は今まで何人かお会い致しましたが、永遠に……それこそ終世の時まで己が魂を重ね合わせたいと思ったのは、あのお方が初めてでございます!」
「…………そうか」
「一国の君主としても政宗殿は優れたお方でして、文を通じて色々と教えていただきました……」
「貴様は敵国の君主と文を交わしあっているのか?」
「はい、わからぬことはわからぬままにせずに誰であろうと教えを請え……それがお館様の教えでございます」
背筋をしっかりと伸ばし、膝をきちんとそろえ。
 まっすぐな瞳で幸村はそう言い切った。
 若さ故の純粋さと、後ろを振り向こうとすらしない前向きさは三成の心を少しだけざわめかせる。昔は、秀吉と半兵衛を失う前は自分もこんな目をしていた。自分の内にある秀吉と半兵衛の教えこそが正しいと信じ、誰であろうと喧嘩を売って敵を無駄に増やして。
 それは変わっていないと思うが、今の三成には秀頼と家康がいる。
 秀吉の地を継ぐ物として守らなければならない秀頼と、愛しい存在ではあるが仇でもある家康と。その二人と、自分を愛おしんで守ってくれようとする官兵衛のためにもできることは行わなければならない。
 徐々にではあったが薄れていく大切な存在を喪った時の鮮烈な感情を大事にするのではなく、目をそらしてはならない現実を向き合わなくては。
 そう、幸村のように。
 政宗がどれだけ素晴らしいかを繰り返し語り続ける幸村の言葉に適当な相づちを打ってやっていると、お市と闇の腕から秀頼を取り戻そうとしていた佐助から笑い混じりの声。
「冬の間の民の生活を成り立たせる方法を教えてくれなんて、わざわざ独眼竜の旦那に教えてもらわなくてもいいんだけどね……なんでも聞くんだよね……」
「そ、某は政宗殿であれば一国を預かる者としての答えを教えてくださると……」
「またまた~ 単に独眼竜の旦那に手紙を出す口実にしたいだけでしょ?」
「佐助ぇぇぇぇぇ!」
「いい加減大将と独眼竜の旦那に甘えるのやめてよね……道の真ん中で政宗殿ぉぉぉぉとか叫ばれると、俺様恥ずかしいんだってば」
「あの方のことを思うとこう……血が滾るのだ!」
「滾る度に叫んだら隠密行動なんてできないよね? いい加減覚えようよ……」
 聞いている人間が笑い出したくなるような小気味のいい言葉の応酬。
 状況を理解できていないであろうお市すら笑い出しているのだ。三成も思わず呼気と共に体を震わせてしまったのだが。
「石田殿…………ようやく笑ってくださいましたな」
「その言い方だと、私が笑えぬようではないか」
「いえ、今の石田殿の笑いはなんというか……楽しそうでございました」
「楽しいから笑うのだろう、当たり前のことを言うな」
「本当に楽しい時は、楽しく笑えるのです。悲しい時には悲しい笑いしかでてこないと……お館様が言っておりました…………お館……様……っ」
 半兵衛が死に、秀頼が討たれ。
 主君を喪った豊臣軍をまとめるために、三成は奔走し続けた。必死に己を奮い立たせ、主の遺したものを瓦解させまいと力を尽くし。まだその道の途中にあるからこそ、三成は立っていることができると自認していたが。

 幸村は失いつつあるのだ、大切な者を。

 彼がお館様と呼ぶ武田信玄は、まだ目覚めの兆候すらみせていないという。
 もう喪ってしまった者よりも、喪う恐怖を抱え続けている者の方が辛い。病で衰えゆく半兵衛を見続けていた三成だからこそそれが痛いほど理解でき、そして。
 子供のように顔を大きく歪め、ぼろぼろと涙をこぼしだした幸村の心境が誰よりも理解できた。
「…………某は……お館様の教えを…………ずに…………」
「武田信玄は貴様に己の信念とあり方を刻み込んだ、そう信じているはずだ。貴様が揺らげば、その全てを無にすることになる」
「…………も……某に…………そが……も……なく……」
「貴様の好敵手とやらは、そこまで器の小さな男なのか? 私は会ったことがないが、貴様がそこまでに褒めちぎるのだ……見事な男なのだろう」
「当たり前で…………ます…………あの方は……な……方…………は」
「ならば貴様ではなくその男を信じろ。そして貴様の事をその男が好敵手と呼ぶのなら……貴様もそれだけの価値があるということだ。私は価値無き者と同盟を結ぶ気はない、貴様は己を卑下すると言うことは私をも卑下するという。私はそれを許可しない……豊臣の同盟国となるのならば、その身と結果をもって示すことだな」

 貴様にその価値があると。

秀頼が闇の腕の上を這いお市の胸元にたどり着く様を眺めながら、三成は幸村にそう告げた。
 嗚咽混じりで何を言っていたかは聞き取れなかったが、彼が言おうとしていることは何故だか理解することができた。器の大きすぎた先代と己を比べ、自分の矮小ぶりに嫌気がさしながらでも弱音を吐くことができない。
 そして愛しい相手に甘えることも自分に許してやれないのだ。
 直情で不器用な馬鹿、前髪で目を隠しながらもこちらを無言で見守っている官兵衛なら自分たちのことをそう言うだろう。感情を常に吐き出しているように見えるのに、一番大事な思いだけは表に出そうとしない。
 側にいるのが他国の人間と家族同然の佐助だからこそ、幸村はようやく弱音を吐くことができた。もしかしたら幸村の陣羽織の裾を弄んだり、髪を引っ張ったりしている闇の腕も一因なのかもしれないが。
 今は幸村が少しだけ心の重荷を下ろすことができたことを、喜んでおくことにしよう。
「…………官兵衛、文が書きたい」
「文…………そういうことか」
 今自分が幸村のために、そして自分のためにできること。
 たった一つだけ思いついたそれを口にすると、官兵衛はすぐに三成の心中を察してくれたらしい。ゆっくりと立ち上がり、部屋を出る前に三成と幸村の頭を優しく撫で。
「紙がたくさん必要だな……」
 と、枷がついたままの手で顎を撫でながら小さく呟き去っていく。
 まだ事情が理解できていない三成以外の部屋にいた人間は、理由を聞くためにずっと視線を三成へと向け続けている。焦らすのは好きではないし、目の周囲を赤く腫れ上がらせながら何度も手の甲でこすっている幸村を見ているのも忍びない。
 だから官兵衛の足音が消える前に、彼等に説明を始めることにした。
「私は家康に文を書く……だから真田……貴様も独眼竜とやらに手紙を書け」
「ま、政宗殿にでございますか!?」
「……ただし決して偽りは書かない、私も……貴様もだ」
「偽りとは……」
「家康に会いたい……私はその思いを書く。独眼竜に伝えたいことがあるのならば、貴様も書け。それが同盟を結び条件の一つだ」
「うわ、厳しいこと言うね……」
 幸村は目を白黒しているし、佐助は笑い半分諦め半分といった顔。
 お市だけは秀頼を抱きながら満面の笑みで若い二人を見守っていたが。状況を理解しているのかしていないのか、それを聞く人間は誰もいなかった。
 一度あふれ出した涙はそう簡単に泊まりはしないのか、幸村の目からはまだ涙がこぼれ続けている。だが泣いて少しすっきりしたのか、それとも三成の言葉に励まされたのか。
 まっすぐな気性の若武者の目からは、惑いや悲しみはすっかり洗い流されていた。
「…………その条件、お受けいたしましょう」
「そうか」
「政宗殿に某の思いをお伝えするのでございますな。この真田幸村、一世一代の文を書いてご覧にいれましょう!」
 ぐっと拳を握り、気合いを入れる幸村を見て三成と佐助は顔を見合わせる。

 こいつ、どんなおかしな文を書く気だ。

その時そう思った三成と佐助の予想はほぼ正確に的中し。
 恋文なのだか果たし状なのだかわからないが、無駄に勢いのあるおかしな文が伊達政宗の元へ。そして三成の率直すぎる思いをわずかの照れもなく書き綴った文が家康の元へ。
 様々な人間の手を経て、よりにもよって家康と政宗が互いの意志と武器をぶつけ合っている真っ最中に届くことになるのだが。

 当然二人はそんなことなど知らず。

 芽生えた友情と互いの思い人への文に託す思いに喜びつつ、夜が明けるまで仲睦まじく騒ぎながら筆を動かし続けたのだった。




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ということで、~偽~では裏で動き続けて最後の最後に大暴れしたお市さんがここで登場。

次の章ではようやく家康さんが普通に再登場、ついでに筆頭も出ます。


BGM「迷宮バタフライ」
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色々説明






拍手現在豊臣家転生パロ中学生編入ってます
(現在2本 家三 チカナリです)


注意事項
・フリーリンクじゃないです、基本的にはリンクはお断りしています
・ひっそりこっそりが信条なので、黙々と
・捏造、not公式のこばなしが多いので、スルー推奨


ラキドでは幹部全員を溺愛しておりますが、ベルナルドとイヴァンは特に偏愛。ばさらは家三とか奥州の愉快な仲間達と毛長がメインです。うずみさんが現在官三とか官佐にずっぽりとはまり中。
基本は、愛想のかけらもない「ネット怖い~」の書き手が二人で色々書いている場所です。


書いている人


みっし

・生真面目で堅物でムキムキな男性と一見そうじゃなくても根は真面目極まり ないキャラをこよなく愛している、がんかたうるふの片割れ。編み物とお菓子作りが趣味という、第三者曰く可愛らしい一面を持つ反面、パニクると踊ったり、オロオロしだして周囲は見ていて楽しいらしい。荒ぶる舞は、職場の名物だったりする……らしい。
イヴァンちゃんと片倉さんとシズちゃんとスカイハイさんと陛下を思いっきり愛している。好きなアニメは銀魂と最近はFate/zero。型月ファンというよりは元から虚淵ファンでうずみさんからオススメされまくった末にようやっと手を付けて完読した。ライダー組おいしいです。エクシリアではダントツで陛下が好き。陛下が使用可能になる完全版があるなら複数買いしても構わないとのたまう日々。バサラの好きキャラは片倉さん一強だったはずなのに最近はアニキも熱い。かっちり着込むキャラがすきだったはずなのにいきなり露出度が高いキャラを好きになったのは何故か悩む日々。二次元の向かう愛と同じぐらい甥っ子への愛を叫んでいる気がしてならない。



うずみ
・相方を愛しすぎている変な人。趣味は畑仕事に漬け物作り、好きな物は不幸属性の美人(男女問わず)。ばさらでは石田さんと黒田さんをこよなく愛していたり、赤い子めんこいにゃぁとたまに叫んでいる。

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ばさら垢できました
こんな二人で、ここを更新しております。

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