がんかたうるふ 「輪舞~真~」弐章 大雪の刻 ~幸村~ その2 忍者ブログ
こちらはサークル「がんかたうるふ」のうずみとみっしの二人組が、ラッキードッグ1とばさらのこばなしを黙々と投下する場所です。
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書き終わりました。

その3で終わりで、次はようやく……でございます。



 *****
「石田殿はそれほどまでに徳川殿を恋い慕っておるのですな……」
「その話はもういい。さっさと秀頼様を返せ」
 乳母が持ってきてくれた秀頼の夕食を脇に置き、三成は秀頼を抱き上げながら満面の笑みの幸村にきつめに声をかけた。これから秀頼は夕食の時間なのだ、熱い物を食べさせるわけにはいかないが冷めすぎてしまうのも季節を考えると体に悪い。
 大人のものより遙かに味付けの薄い刻んだ白菜入りのすまし汁と、汁気のかなり多い粥。
 こんなに長い時間赤子と遊ぶのは初めてだと言っていた幸村は、当然食事を食べる所など見たこともなかったのだろう。渋々といった様子で三成に秀頼を返すと、今度は真剣さと好奇心の入り交じった眼差しをこちらへと向けてきた。
 始めてはいる三成の私室だというのに、幸村は長年の友の居室であるかのように遠慮無く振る舞っている。すっかり日も沈み、そろそろ秀頼は眠る時刻。部屋の片隅にある大きめの灯りが幸村の大仰な動きで揺れ、何も掛けていない壁に大きな影を刻み込む。
「秀頼殿は随分と小食なのですな……」
「赤ん坊はそんなに食べないんだよ、そのかわり何度も食べるけどね」
「佐助は赤子についても詳しいのだな」
「子供の世話はしてたからね……まあ今もしてるけど」
 秀頼を膝に乗せ、食事の準備を始めた三成を見つめてくる幸村はまるで大きな子供のよう。
 好奇心と勢いのままに行動し、何度も痛い目を見て。それでも前に進むことをやめようとしない、挫折も絶望も知らぬ強さ。それは君主の資質としてもっとも必要な物なのだろう。目指す物を道半ばで諦めてしまう主を欲しがる部下などいないし、一国の運営というものは困難だからといって途中で放り投げていいものではないのだ。
 幸村は愚直に信玄が目覚めるまでの間、甲斐を守ることだけを考えている。
 だからこそ甲斐の民は信玄が倒れても希望を失うことはないのだろう。
 まだ年若く失敗も多いが、幸村は民と臣下に信頼されている。そんな彼が豊臣との同盟を決めたのだ、武田家家臣から反対するものはまずでないだろう。豊臣の内部でも武田からの同盟の誘いを好意的に見ている者が多く、このまま三成と幸村で話を進めていけば数日中に話はまとまるはず。
 しかし何故か官兵衛だけは、ずっと何かを考え込んでいた。
 秀頼の機嫌が悪いのと自分の夢見が悪いことくらいで何をそんなに心配するのか。最初はそう思っていたが、官兵衛はあの半兵衛が一目置いていた男なのだ。きっと自分が考えつきもしないことで悩み、解決策を練り続けているのだろう。
 手枷を破壊してからはまめに風呂には入れるようになったので今は一人、湯で体を温めながら思索にふけっているはず。
できれば三成も、もう少し風呂に入っていたかったのだが、秀頼に食事を食べさせて寝かしつけなければならない。乳母たちに任せてもいいのだが、できれば秀頼とは多く触れあう機会を持っておきたいのだ。
 この戦多き世では、いつ会えなくなるかわからないのだから。
「秀頼様……今日は白菜のすまし汁でございます」
「美味そうな汁でございますな」
「貴様は食うことしか頭にないのか!」
「ですが秀頼殿はそれは美味しそうに食べていらっしゃいます」
「たくさん食べて早く秀吉様のようになっていただかねばならないのでな」
「あんなに大きくなったら大変だよ……」
 幸村の後ろでそう呟く忍びの名前は猿飛佐助というらしい。
 普通ならば他国の将と語り合う場に忍びを同席させることなどない。しかし幸村は佐助三成の私室に連れてきた上に、普通に会話を交わし続けている。それに関しては咎める気はないのだが、彼はいつでも忍びを連れて歩いているのだろうか。
 少しだけそれが気になったので、秀頼の唇に木の匙ですまし汁を吸わせながら聞いてみた。唇についた汁をわずかに口をつけて味わい、徐々に大胆になっていく動きで秀頼は匙の上にある柔らかくなった刻んだ白菜を口の中に招き入れる。そんな赤子のいる家ならば当たり前の光景すら気になるのか、幸村は更に秀頼に顔を近づけてきた。
「某は佐助がいなければ一人では何も決められませぬ」
「…………そうなのか」
「お館様のように何事も即断できぬのです……情けないことではありますが」
「私とて一人で全てを動かしているわけではない。刑部や官兵衛に頼らなければできぬことばかりな上に、秀頼様の世話も一人では行えない。貴様が不出来なら、私は更に不出来ということになる」
「石田殿……」
「わかったら顔をどけろ、秀頼様が粥を召し上がれないだろう」
「お心の広いお方なのですな、石田殿は……」
 心が広いわけではない、ただ単に思ったことを口にしているだけ。
 三成をよく知る人間はそれがわかっているので、突然何を言い出そうとも驚かない。自分の有能さを誇示しようとか、誰かを傷つけようと思って口を開いているのならば一度は誰かに叱責のだろうが、三成には全く悪気がないのだ。
 だからこそ愛され、時に嫌がられる。
 どうやら幸村も佐助も三成の言動には好感を持ってくれたらしい。秀頼が時折言葉にならぬ声を出しながら食事に勤しむ姿を優しく見守ってくれているし、傍らに置いた布で時折口を拭ってやっている三成にもそれは向けられている。
 それでも周囲に気を配り、佐助は鋭い目線を時折虚空へ投げる。
 有能で主思いの忍びというのは得難い存在なのだろうが、水も漏らさぬ警備を徹底している大坂城で敵を探そうと躍起になっているのを見れば一言言ってやりたくなるもの。
「そこの忍び、私が……豊臣軍が信用ならないのか?」
「そういうわけじゃないんだけどね。あんたと黒田官兵衛って人は信用してもいいかなって思ってるし……ま、気分の問題だね」
「そうしなければ落ち着かないか」
「正解、だから俺様のことは気にしないでおいてよ。勝手に色々やらせてもらうからさ」
「おかしな忍びだな……」
「よく言われるよ」
 明るい色のおさまりの悪そうな髪を揺らしながら笑い、片膝をたてて座る忍びは自らの主の首筋をひっつかむ。
「旦那、あんまりじろじろ見続けたら、そこの坊やに穴が開いちゃうって」
「だがな佐助、秀頼殿はこう……愛らしいのだ」
「赤ん坊が可愛いのは当たり前!」
 食事風景をじろじろ見るのは、行儀のいい行いではないと思ったのだろう。
 また近づき始めていた幸村の顔を体ごとひっぱると、佐助は目を軽く細めて頭を下げ三成に無言で謝罪してきた。秀頼が可愛いのは周知の事実だし、それを見たいというのはわからないでもないのだ。可愛らしい声をあげながらあちこち這い回っている姿は愛おしいし、三成の膝に掴まって立ち上がれるようになったのはまだ記憶に新しい。このふくふくした手足を触っていると、どれだけ政務が忙しくとも心が和むのだ。
 幸村も秀頼を見て同じことを思っているのなら、怒る必要など無い。
 小さく頷いてやり何も気にしていないことを伝えると、幸村の首根っこを掴んだままの佐助の顔がようやく柔らかく笑んでくれた。
 きっとあれが本当の彼の笑顔。
 誰であろうと自分の行動がきっかけで素直な笑顔を見せてくれるのは嬉しい。家康と次にいつ会えるのか、そして会った時に自分はどうすればいいのか。少しでも気落ちするとそのことばかり考え始めてしまう今、この賑やかな客人たちは三成の心を十分に和ませてくれていた。
「真田……秀頼様にお食事を食べさせてみるか?」
 少なくともこんな提案をしてしまう程度には、幸村の素直さに好感を抱いている。
「い、いいのですか!?」
「ダメだって……うちの旦那手加減とか苦手だから……怪我させちゃうよ」
「是非お願いいたします!」
「これから同盟するんだよ!? 何かあったら俺様も旦那も生きてここからは出られないって!」
「大丈夫だ!」
 羽交い締めして止めようとした佐助を引きずりながら移動してきた幸村は、子犬のような無垢な瞳で手を差し出してきた。三成の腹に背を預け、口を何度も開け閉めして食事の続きを待つ秀頼を彼に渡そうと思い。
本気で幸村を止めようとしている佐助の様子であることに気がついた。
「真田……貴様、赤子をまともに抱いたことはあるのか?」
「今日が初めてでございます。お館様も佐助も何故かそれだけはしてはならぬと」
「馬鹿力なんだから、下手したら潰しちゃうって! 少し抱っこするだけならいいけど、ご飯あげるだなんて……っ!」
「今日の某ならできる!」
「その無駄な自信はさっさと捨ててよ!!」
 この主従は見ていて面白い。
 もう少し観察していても良かったのだが、食事を待ちきれなくなってきた秀頼が三成の匙を持ったままの指を小さな前歯で囓りだしている。これ以上主君を飢えさせてはならないと慌てて口から指を抜き、匙を置いて秀頼を抱き上げた。
 そしてそのまま腰を上げて幸村の膝の上にのせてやると、先ほどまでのやる気はどこへ行ったのか一気にその体が強ばった。
「お、おぉぉぉぉぉぉぉ!」
 声だけは無駄に大きいが、体は動き出す気配すら見せないので三成と佐助で目配せして準備を整える。秀頼が膝から落ちないように位置を整え、宙を漂う手に匙を握らせ。
「ほら旦那、一口だけあげたら終わりって事で……」
「秀頼様が待っている、早くしろ」
幸村の脇に移動した佐助と共に声をかけるが、当の幸村は自分が切望したというのに動くことができなかった。このまま幸村がおろおろしていては、固形物の味を覚え始めた秀頼が食事を楽しめなくなってしまう。
なので三成は粥の入った器を無理矢理幸村に押しつけた。
「一度行うと言ったのだ、貴様が食べさせろ」
「で、ですが……」
「一度に食べさせる量は少なく……だ。貴様と違い秀頼様の口は大きくない」
「は……はい」
 恐る恐る、匙を動かしほんの少しだけ粥の表面を削る。
 見様見真似ではあったが自分の口元に持って行く何度か息を吹きかけ、わずかに揺らめいていた湯気を消すと。待ち疲れて必要以上に手足をばたつかせ始めた秀頼の口に、そっと運んでいったのだった。
 常に全力で動いている幸村とは思えないほどの繊細な手の動きと真剣な眼差し。
 それに答えるかのように大きく口を開け、匙の先端に乗せられた粥にかぶりついた秀頼は可愛らしく口を動かして咀嚼しながらほんのわずかだが顔を上げた。それで自分の食事を与えてくれているのが三成ではないと気がついたのだろう。
 少し逡巡した後、赤子らしい素直な笑みを幸村へと向ける。
「おおっ、秀頼殿が喜んでくださいましたぞ!」
「もっとよこせって言ってるんだよ。一回あげたんだからそろそろ石田の大将に返して……」
「駄目だ、某に求められているのだから某が差し上げなくては! 秀頼殿、待っていてくだされ。すぐに差し上げますのでっ!」
「今のだけで相当疲れてるくせに……石田の大将もなんか言ってやってよ~」
 助けを求めるかのような佐助の目線。
 彼が言うとおり今の動作だけでも幸村は相当気を遣ったのだろう。力を加減することなくあらゆる所作を行う幸村にとって、か弱い赤子に食事をやるという行為は別な意味での戦いだったはず。
 力を入れるのではなく、あくまで自然体に。
 己の力で相手を打ち倒して事をなすのではなく、相手を喜ばせることを結果とする。
 三成も秀頼の世話を通じて様々なことを学んだが、幸村はそれ以上の物を得たらしい。最初の一口目だけは見ている方が心配になるようなぎこちなさだったが、少しずつコツを掴み始め。
 時折膝の上の秀頼の腹を撫でて笑い声を上げさせる余裕すら生まれ始めていた。
 それでも横ではらはらしながら見守っている佐助の過保護ぶりに苦笑いしつつ、三成は秀頼用の布団を出すために立ち上がった。この様子なら食事が終わった秀頼は早々に眠ってしまうだろうし、もしかしたら幸村は寝かしつけるところまでやってみたいと言い出すかもしれない。
それならもう一つ布団を用意した方がいいだろう。
通常なら食事は三成が食べさせても、布団の支度は使用人たちに頼むのだが。彼等を呼んで食事に水を差すのも悪いし、なにより幸村は秀頼との時間を心底楽しんでいる。
 自分の部屋に満ちる賑やかな声、それを聞くのはいつ以来だろうか。
 あの頃は刑部と官兵衛だけではなく、家康や敬愛する秀頼と半兵衛がいた。もう二度とあの時は戻ってこない、それはわかっているが。
 同じような時をまた誰かと作ることができるのなら。 
 そう思えるからこそ人は大切な者を失っても生きていけるのかもしれない。そんなことを考えながら、三成は小さく唇を笑いの形に作る。
 時間がたてば悲しみも憎しみも薄れていくが、きっと彼への愛情はかわらないのだろう。
 今はここにいない自分の部屋を誰よりも賑やかにしてくれた存在を思い出し、流れた時間がほんの少しだけ癒してくれたことに気がつく三成だった。








 長風呂を終えて三成の部屋を訪問した官兵衛は、口元に手を当てて静かにしろと伝えてくる佐助の笑みに出迎えられた。
「寝ちまってんのか……それにしてもガキみたいな寝顔だな」
「お子様二人と赤ん坊一人だからね」
「三成は随分真田のことを気に入ったみたいだな」
「うちの旦那もそうみたいだし、仲良しになれるんじゃないかな?」
「そうなってくれりゃあ小生も嬉しい」
 部屋の真ん中にしかれた子供用の布団の中央では、秀頼が両手を広げて心地よさそうに眠っていた。その秀頼を守っているのか安眠のお裾分けに預かりたいのか、服を着替えることなく三成と幸村は両脇で眠りに落ちてしまっている。
 いつもは眠気が限界に達しないと眠らないというのに、秀頼と幸村につられたのか。
 自らの腕を枕にし体を横にして眠っている三成の体には、彼の着物が掛けられていた。物入れを開けた形跡があるので、きっと佐助が探してかけてくれたらしい。
 そのことに礼を言いながら腰を下ろし、側にあった三成の頭にそっと触れる。
 きっと幸村の素直さと闊達さが三成の心を癒してくれたのだろう。手を伸ばし秀頼の布団の上に片方の手を置き、同じように近くに置かれている幸村の手と指先だけを重ね合わせ。
 落ち着いた寝息を立てて眠る姿に安心させられていると、同じように幸村の側で彼を見守っていた佐助に見つめられていることに気がついた。
「どうした?」
「…………石田の大将が、武田を大事にしてくれる人だっていうのはわかった。あんたも石田の大将が武田に好意的である限りは裏切らないだろうしね」
「褒めてくれてるんだよな、当然」
「俺様、お世辞は得意じゃないから。だからこそ素直に聞くけど、あんたは何を目指してるわけ? 俺様にはあんたが石田の大将と秀頼坊やに天下を取らせるために動いているようには見えない」
 佐助が知りたいのは官兵衛の真意、そして天下をどうしていくのか。
 先程あんな話をし、協力を仰いだからこそ佐助は気になっているのだろう。官兵衛の目的が三成に天下をとらせることに見えないからこそ、佐助は疑うのだ。
 この男はなんのために三成に仕えているのか、と。
 近いうちに聞かれることだと思っていたし、今は三成も幸村も眠っている。今が佐助に説明する一番いい機会だと察し、官兵衛は三成の体に掛かる着物を直してやりながら話を始めることにした。
 薄手の着物では寒いかと思ったので、首筋まで隠れるようにしてやる。
「小生の目標は遺恨を残すことなくこの戦国の世を終わらせることだ。敵討ちだの相手が憎いだので殺し合っては天下分け目の戦の意味など無い……一兵卒までが納得して戦う新たな時代を作るためだけの戦……それを作り上げるのが小生の仕事だ」
「…………冗談じゃあ……ないよね?」
「冗談でこんなことを言えるか。秀吉が殺されようとも、三成は家康に心を残している……家康も三成のことを憎からず思っているしな。ならば若い二人が幸せになれるよう、場を整えてやるのが『軍師』の仕事だろう?」
「それはわかるんだけどさ……あまりにも突拍子ないっていうか……」
「小生だって一人でそんな舞台を作り上げられるとは思っていない。家康と三成には話をしてあるが……味方は一人でも多く欲しいんだよ」
「俺様に話してくれたのは、当然……味方にしたいってことだよね?」
「当たり前だ、お前さんと真田には何があろうとも力を貸して欲しい」
 この場で頭を下げて佐助と幸村を味方に引き入れることができるなら、迷わずそうするだろう。だが佐助はそんなもので心を動かさないし、幸村は眠ってしまっている。
 将である幸村だけを動かすなら簡単、だが彼の影である佐助は一筋縄ではいかない。
 常に自分の置かれている環境を疑い、主のために偽りを見破るのが忍びの仕事。幸村に向けた絶対の忠誠と忍びとしての卓越した能力があるからこそ、佐助は甲斐の家臣たちのすら信頼されるようになっているのだ。
 もし幸村が起きていれば、そんな彼の目の前で幸村を言葉で籠絡することになってしまう。自分の主の心を言葉で変えてしまうような男を、佐助は心の底から信じてはくれないだろう。
 だからあえて今頼んだのだ、幸村だけでなく佐助の信をも得られるように。
 そんな官兵衛の意図を佐助もわかっていたのだろう、少しだけ考え込むように上を向き目を宙に彷徨わせ。
「もしあんたの言う味方になったとしたら、俺様と旦那は何をすればいいわけ?」
 と、声を潜めて聞いてきた。
 官兵衛が風呂に入っている間、三成と彼等の間でどんな会話が交わされたのかはさすがにわからなかった。だが三成は彼等の好意と信頼を、十分以上に勝ち取ることに成功していたのだろう。
 だから佐助は官兵衛の味方になることに返事をする前に、それが自分たちと三成のためになるかを遠回しに聞いてきている。
「お前さんに上杉に行ってもらいたい」
「……上杉?」
「それもあえて気がつかれるように、だ。豊臣からの密書を頼まれて届けたが、上杉家には色よい返事をもらえなかった……そんな噂が流れるようにして欲しい」
「そして俺様が届けた密書は、上杉経由で徳川家康に届くってわけか」
「上杉には家康が頭を下げているはずだ。あの軍神は家康のことを気に入ってるようだからな、無下に断ることはないと小生はみている」
「武田は友好国として豊臣と上杉の間の話をまとめようとしたけど無理だった。だけど武田の大将には他国に気を配る余裕がある……っていうのを周囲に見せつけることができるわけだね」
 主よりも聡い従者は、官兵衛の目指すものを完全に理解したらしい。
 武田が間に入り豊臣と上杉の同盟を進めようとした。その事実が周辺に知れ渡るだけで、信玄の代わりに国をまとめている幸村を見る目は変わってくる。
 あの豊臣家が他国に仲介を頼んだ、それが諸国に伝わるだけでいいのだ。
 ついでに大坂城周辺の宿場町で秀頼が幸村を大層気に入って懐いているという噂をばらまけば、あっという間にその話は広がっていくだろう。豊臣と武田は親密きわまりない関係を築いている、そう思われれば混乱の極みにある武田に手を出す人間は少なくなるはずだ。
 三成への好意と、官兵衛の提示した条件。
 ぐらつきはじめている佐助にだめ押しするかのように、官兵衛の言葉は続く。
「戦ばかりの世の中でいいのか……そりゃ皆が思っていることだが、終わらせる方法が今まではなかった。だが小生はこれを好機とみている、家康と三成を中心にこの国が動き始めている今なら……な」
「大それた夢だね、それは」
「夢は大きい方がいい、お前さんはそうは思わんのか?」
 彼の目を見ながらそう言うと、佐助の表情がふっと緩んだ。
 満面の笑顔なのに、どこか張り詰めた雰囲気が漂っていた佐助の体から一気に力が抜ける。それが佐助にとって、その人間を信じたという合図だったのだろうか。
 注意して聞かねばわからないくらいだが、少しだけ口調が柔らかくなる。
「俺様は何も望まないよ……旦那が望むように物事を動かすのが仕事なんでね……でも、あんたが言っていることは面白いと思った」
「手を貸してくれるのか!?」
「うちの旦那を説得できればね、まず断らないだろうとは思うけど」
「ありがたい! ならば次は四国の長宗我部か……」
「………………え? 長宗我部って、確か徳川の……」
「家康に言葉添えをしてもらいたくてな、だから連絡を取りたいんだよ」
「あの二人の仲の良さは有名なんだけど……」
 さすがにそれは無理なんじゃないか、そう言いたそうな佐助の考えはわかる。
徳川家康と長宗我部元親の仲の良さは有名だ、豊臣が力を貸してくれと言っても彼は断固として断り続けるだろう。それならば他に力を貸してくれそうな人間を捜した方がいいし、長宗我部にかける時間は無駄でしかない。
だが官兵衛の戦略では、長宗我部こそが要だったのだ。
「この国を大きく二つに分けたい……西と東にな。まあそんなにうまくいかんことはわかっているが、長宗我部が家康についちまったら小生の策は失敗に終わるだろうよ」
「それなら最初から失敗だよね」
「お前さんは三成より厳しいな……」
 頭を掻きながら官兵衛は苦笑いするしかなかった。
 確かに難しいだろうが、長宗我部をこちらに引き込まなければ大きく戦況が変わってくる。西の将たちの力を借りることに成功しても、四国が敵に回っているだけでこちらは動きにくくなるのだ。
 自由に兵を動かせるように、海を自由に航行する長宗我部にはこちらについてもらわなければ困るのだ。補給の面でも、兵の移動の面でも。長宗我部の力を軽視するわけにはいかなかった。
 今日これから起こるであろう一件を片付け、その後すぐに長宗我部を味方に引き入れるために動く予定にはなっているが。
 自分が行けばまず失敗するだろう。
 誰をどう動かし、どう説得してもらうか。それがまだ決まっていない上に、友誼に厚い彼は家康に頼まれれば頼まれるほど家康の味方につくことを考えるだろう。
 どうすればいいのか佐助に笑われながら考えていると、ぴくりと秀頼の手が動いた。熟睡している赤子らしからぬ、唐突すぎる大げさな動きに佐助の口からは笑い声が漏れる。
「子供って寝てる時面白い動き方するよね、うちの旦那はこんだけ大きくなってもおかしな寝相で寝てるけどさ」
「…………そろそろ時間か。思ったより早かったな」
「え? 合図があったらあの大谷さんの所に行くとは言ってたけど……」

 もしかして今のが合図?

 有能な忍びらしくないきょとんとした顔の佐助。
 それを尻目に三成を揺すり、ついでに秀頼を挟んで反対側にいる幸村も頭をぶん殴ることで起こしてやる。佐助も別に文句を言ってこないので、きっと今のが幸村の正しい起こし方なのだろう。
「あさでござるか……ずいぶんとうすぐうらいのでござるな……きょうは……」
「眠っていたか、私は」
「さっさと起きろ、楽しい肝試しの時間だ!」
「……きもだめし……?」
 それでようやく自分が今どこにいて、何をしなければならないのかを思い出したのだろう。のろのろとであったが体を起こし、真田幸村は眠る時も側に置いてある槍を手に取り立ち上がる。
 それに続いて三成も軽く衣類の乱れを直してから立ち上がり、官兵衛同じく立ち上がった官兵衛についてくるように命じた。
「行くぞ、詳しい理由はわからんが……今私が行くことが必要なのだろう? 乳母を呼んで秀頼様を見ていてもらわなければならないな」
「面倒だから連れて行くぞ、乳母を呼ぶ手間が惜しい」
「そうか……ならば真田、貴様に秀頼様を預ける」
「お任せください! 某、秀頼様に全てを捧げさせていただきましょう!」
 喜び勇んで眠っているのでくったりとしている秀頼の体を抱き上げると、まだ状況が飲み込めておらず座ったままの佐助へ手を差し伸べた。
 状況がわからずとも、幸村は進むことができる。
 これがきっと信玄が幸村に後継を託した理由なのだろうと思いながら、赤子一人と大人四人の奇妙な組み合わせは目的の場所目指して出発したのだった。











_____________________________________________

書き上げた。
多分何もない三成部屋……物入れに秀吉様からもらった物が大事にしまい込んである三成部屋……想像しただけで興奮してきたw

次の章は雑賀荘に行きます、再会します。
まあ、そんなところ。

BGM「笑顔の魔法」
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色々説明






拍手現在豊臣家転生パロ中学生編入ってます
(現在2本 家三 チカナリです)


注意事項
・フリーリンクじゃないです、基本的にはリンクはお断りしています
・ひっそりこっそりが信条なので、黙々と
・捏造、not公式のこばなしが多いので、スルー推奨


ラキドでは幹部全員を溺愛しておりますが、ベルナルドとイヴァンは特に偏愛。ばさらは家三とか奥州の愉快な仲間達と毛長がメインです。うずみさんが現在官三とか官佐にずっぽりとはまり中。
基本は、愛想のかけらもない「ネット怖い~」の書き手が二人で色々書いている場所です。


書いている人


みっし

・生真面目で堅物でムキムキな男性と一見そうじゃなくても根は真面目極まり ないキャラをこよなく愛している、がんかたうるふの片割れ。編み物とお菓子作りが趣味という、第三者曰く可愛らしい一面を持つ反面、パニクると踊ったり、オロオロしだして周囲は見ていて楽しいらしい。荒ぶる舞は、職場の名物だったりする……らしい。
イヴァンちゃんと片倉さんとシズちゃんとスカイハイさんと陛下を思いっきり愛している。好きなアニメは銀魂と最近はFate/zero。型月ファンというよりは元から虚淵ファンでうずみさんからオススメされまくった末にようやっと手を付けて完読した。ライダー組おいしいです。エクシリアではダントツで陛下が好き。陛下が使用可能になる完全版があるなら複数買いしても構わないとのたまう日々。バサラの好きキャラは片倉さん一強だったはずなのに最近はアニキも熱い。かっちり着込むキャラがすきだったはずなのにいきなり露出度が高いキャラを好きになったのは何故か悩む日々。二次元の向かう愛と同じぐらい甥っ子への愛を叫んでいる気がしてならない。



うずみ
・相方を愛しすぎている変な人。趣味は畑仕事に漬け物作り、好きな物は不幸属性の美人(男女問わず)。ばさらでは石田さんと黒田さんをこよなく愛していたり、赤い子めんこいにゃぁとたまに叫んでいる。

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ばさら垢できました
こんな二人で、ここを更新しております。

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