こちらはサークル「がんかたうるふ」のうずみとみっしの二人組が、ラッキードッグ1とばさらのこばなしを黙々と投下する場所です。
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2.5はこれで終わりです。
あとはエピローグという名の参のプロローグを書く予定。
あとはエピローグという名の参のプロローグを書く予定。
*****
「い~え~や~すぅぅぅぅ!」
「きゅきゅきゅきゅ~!」
「ロボロボロボロボ~!」
『家康登場希望』
「だから貴様ら……私の真似をするのはやめろ!」
石田三成と愉快な仲間たちは、毛利家のあちこちをひたすら歩き回っていた。
使用人たちの更衣で握り飯を作ってもらえたので朝食としてそれを食べ、食後のおやつに花が食べたいという忠子のために庭を捜すついでに地面に落ちたばかりの花を取ってやり。
あちこち寄り道をし、毛利家の人間に暖かい眼差しで見守られながらただ家康を捜し続けていた。
日が高くなった頃ようやく起き出した毛利とナリとチカも一緒に探してくれると言ったのだが、それは断った。これは三成がやらなければならないことだし、昨夜自分のせいで毛利は眠れなかったのだ。
そんな彼にこれ以上迷惑をかけるわけにはいかない。
そう告げて礼を言ってから断った時、毛利は何故だかわからないがいきなり笑いだし。疑問に思った三成が問いただしても理由を答えてはくれなかった。
ただ一言だけ、だからこそ貴様は徳川に避けられるのよと口にし。
遅い朝餉を食べた後政務を始めた毛利に甘えながら応援してくれたナリとチカに礼を言い、両肩に掴まる竹千代と佐吉と満腹になったので力を取り戻した忠子を引き連れて再度家康探索に乗り出したわけだが。
空を飛んでいる忠子に上から見てもらっても、あのつんつん頭はどこにもいない。館の中も探せるだけ探したのだが、家康を見かけたという情報は一度も手に入らなかった。
長宗我部もいないのだ、二人はきっと屋敷の外にいると考えた方がいいだろう。
そう結論づけられるほどの情報が集まった頃には、もう太陽は西の方へと随分傾いていた。もしかしたら家康は忠子をおいて長宗我部の船で三河に戻ってしまっているのでは。そんなことも考えたがそれではあまりにも忠子がかわいそうだし、なによりも三成の知っている家康はそんなことをしない男なのだ。
自分をここへ連れてきてくれた忠子をおいて、何も告げずに一人で帰るわけがない。
忠子もそれはわかっているらしく、行李の中や壺の中をのぞき込んでは首をひねり。そんなところに家康は入っていないと何度教えても、それを改めることはなかった。彼はきっとこの近くにいるはずなのだから、普段探さないところに入っているかもしれない。
家康を見失ったら父に怒られるとでも考えているのか、普段は家康よりも花が好きなようにしか思えない忠子はそれほどまでに必死だったのだ。
お腹がすくからあまり飛びたがらないというのに自ら率先してあちこち飛び回り、ふらふらになりながら家康だけを捜し続ける。そんな姿を見せられると、家康ほど臣下に慕われている男はいないと思う三成だったが。
忠子の思いを知らずにどこに隠れた。
これが忠子の父(?)である忠勝だったら、今頃発狂してもおかしくない状況なのだ。周囲を気遣うことを信条としている家康だというのに、一体何故姿を現してくれないのだろう。
「いえやすぅぅぅぅっ!」
今日の口癖になってしまうその叫びを聞いて、忙しく働き回っている人々は笑いながら三成の側を通り過ぎていく。忠子の栄養補給用に花束を持ち歩いているのが面白いのか、それとも探されている人間が逃げ出してしまいそうな叫び声が笑いを誘うのか。
どちらにしても嫌がられているわけではないらしい。
ふよふよと隣を飛んでいる忠子の高度が落ちてくる度に口に花を突っ込んでやると、あむあむと食べると高度を回復する。それを何度となく繰り返しながらあちこち歩き回っていると、夕日に照らされて橙色に染まった小さな影が二つ、こちらに近づいてきた。
「ナリにチカ……どうしたのだ?」
「ぴぃぴぃ!」
「ぎゃぎゃぎゃぎゃ!」
「ぴぃ~!」
「ぎゃ~!」
「貴様らの言葉が私にはわからないのだ! 佐吉が通訳するまで待て!」
三成が声をかけると彼らなりの全速力で近づいてきた二人は、何か大事なことを伝えたいのか必死に手足をばたばたさせているのだが。佐吉の言葉の意味はなんとなくわかる三成だが、他のちびたちの言葉は全くわからない。逆に毛利はナリの言葉の意味がわかっても、それ以外のちびたちの言葉は表情と仕草で推察するしかないと語ったことがあったが。
半兵衛も毛利も、絶対に彼らの言葉の意味がわかっている。
普通に謎の鳴き声と会話できている姿を見るとそう思えて仕方がないのだが、そこら辺は人生経験の差なのだろう。自分がその域に達するまでかなり時間がかかるはずなので、今は佐吉に訳してもらうしかないのだが。
長すぎる隠れ鬼に飽き始めていた佐吉は肩に掴まりながら、うとうとと船をこぎ始めていた。
「起きろ佐吉ぃぃぃぃ!」
「……きゅ~?」
『起床拒否』
「眠いのはわかるが起きろ! ナリとチカが何かを伝えようとしているのだ」
『通訳開始』
目をこすりながら体をくねらせ、それを何度か繰り返してようやく目を開けたらしい佐吉は必死すぎて息切れを起こし始めている二人をじいっと見つめ。
『家康発見』
さらりとそう書いてから眠りに落ちようとし、とんでもない情報がもたらされたことにようやく気がついたのだった。
「家康だと!?」
「きゅ!?」
「ロボロボ!?」
『倉地下隠遁』
「家康め……私から隠れるとは……」
ようやく言いたいことが伝わったことで安堵したらしいナリとチカは、廊下に座り込んで息を整えている。そんな彼らに礼を言おうとした瞬間、三成はとあることに気がついた。
「ナリ……チカ……貴様らは何故それを知ったのだ?」
家康の場所もわかった、後は捕まえるだけ。
心の余裕ができたからか、忠子に花を食べさせながらそれを聞くと。ナリはささっと懐から取り出した半紙と筆で、のんびりと理由を書き始めてくれた。
『おとさんもいっしょ』
「家康と長宗我部が一緒に行動しているということか……」
『いえやすくん おさけくさい』
「ぎゃ」
『おとさんおつきあい』
「意味がよくわからないが……二人で酒を飲んでいるということか」
こくりと頷く二人が指さしたのは、廊下につけられた明かり取りの窓から見える大きな倉。あの中も探したはずなのだが、地下に部屋はなかった気がした。
つまり、三成たちも気がつかない隠し部屋が存在していたということなのだろう。
それにしてもナリたちの言葉を信じるのなら、昼間から酒臭いというのは一体。家康は酒は嫌いではないが、客として滞在している場所で昼間から飲み始めるほど節度をわきまえない男ではなかったはず。
ここに来てからの家康は本当におかしい。
その原因の一部が自分にあるというのなら、家康に聞かねばならない。自分のことが嫌いになったのか、それとも。
もう会いたくないと思っているのか。
三成の顔を見たくないからこそ、倉の地下に閉じこもってしまっているのでは。そう考えはするが、結論を出すのは家康の顔を見てから。
疲れ切って床に座り込むナリとチカに礼を言い、三成は横に浮いていた忠子を掴んで頭の上にのせるとそのまま全速力で倉に向かって走り始めた。竹千代に頼ろうかと思わなかったわけではないが、同じ失敗は二度としないと決めたのだ。
逸る心を抑えながら必死に走り、草履を履くのももどかしく思いながら目当ての倉にたどり着く。逃げる間を与えぬように一気に倉の中に突入し、階段の下にぽっかりとあいた何も置かれていない空間の下からわずかに響いた物音を聞き逃すことなく。
手を伸ばした先にあった竹製の柄の箒に己の力の全てを込めて、その部分を力尽くで破壊したのだった。
「うぉぉぉぉぉぉ! い~え~や~すぅぅぅぅぅっ!」
そして元は床の一部だった木材が下に落ちていくのにあわせ、ちびたちがしっかりと掴まっているのを確認してそこへと飛び込んでいく。どれだけ深さがある場所だかわからないというのに満面の笑顔だったちびたちは、こういう問題ごとにすっかり慣れてしまっているのか。
それとも下も見ずに着地しようとしている無謀な三成を、なにがあろうとも抱き留めてくれる『誰か』がそこにいることがわかっていたからか。
素早く駆け寄ってきたがっしりとした体が、ちびたちを掴まらせた三成の体を全力で受け止め。しかし大人一人とちび三人が落ちてきた衝撃を完全に受け止めきれず、側にあった麻の袋の山に体を埋めることで衝撃を殺しきったのだった。
袋の中に入っていたのは衣類か何かだったのだろう。
ぼふっという音と共に全員そろって麻の袋に埋もれ、面白かったのか体を寄せ合って喜んでいるちびたちを尻目に、家康と三成は深刻な顔で睨み合っていた。昨夜あんな別れ方をした上に、いきなりこんな形で出会ってしまったのだ。
勢いでここまで来てみたものの、いざ顔を合わせてみると何を話せばいいのかが全くわからないのだ。どうすべきか考えながら自分の下にいる酒の臭いが強い家康を見つめていると、口火を切ったのは家康が先だった。
「どうして三成はそう後先考えずに動くのだ!? 何かあった時に儂が必ず側にいるとは限らぬのだぞ?」
「貴様はいつも私の側にいてくれるのではないのか?」
「もう側にいられぬから言っているのだ!」
「それは私に興味がわかなくなったということか。抱くだけ抱いて、飽きたらもういらなくなったとでも? 貴様にとって私はその程度の存在だったのか……」
「元親が聞いているのだ……そういう発言は慎んでくれ」
家康の目線を追って横を見ると、酒が入っているらしい陶器の瓶を片手に長宗我部がこちらへにこやかに微笑みかけてきていた。三成の来訪を察して部屋の隅へと移動していたらしく、彼だけは三成の落下の被害をまるで受けていない。
「俺はここで楽しんでるから……ま、がんばれや」
「すまない長宗我部、礼を言う! よし家康、長宗我部はもう気にしなくていい……話の続きをするぞ。何故私の側にいられないなどと言い出した?」
「…………領地の移動を秀吉に命じられた。関東に行けとな……領地は大きく増えるが、儂は三河を失うことになる」
「秀吉様がそのようなことを……」
「しばらくの間は三成に会いに来ることもできないだろうな。江戸の方に古い城がある、これを改築して儂の居城にしようと考えているのでな、落ち着くまでは安芸まで会いに来ることはまず無理となる」
「私が大阪城に戻れば近くなるではないか」
「…………秀吉から先日言われた。三成は怪我が治った後もしばらく安芸に預けておくとな、豊臣の臣下として西方を監視させたいと」
「そんなことは聞いていない! 私は大阪城に戻り……秀吉様のお役に立ち……そして家康、貴様と……」
貴様の側にいるのだ。
麻の袋の背を預け横たわっている家康の胸元を掴み言葉を続けようとするが、出てくるのは重い息だけだった。何かを言う代わりに何度も家康の胸を軽く叩き、憤りをぶつけるていると家康の手がそっと背中に触れてきた。
そのまま子供をあやすかのように優しく動き始める。
「……三成、儂は秀吉の言葉を受けようと思っている。三河を捨てることになるのは正直辛い、だが儂は三成と並んで歩むことのできる己になりたいのだ」
「今でも十分貴様は……私と共にいてくれている」
「儂は今の三成に相応しい男ではない」
「それを決めるのは私だ!」
「三成……お前は佐吉たちと会って大きく変わった、何度も惚れ直してしまうほどにな。しかし儂も男だ……年の近い同僚が頭角を現しているのを間近で見せられると、妬んでしまいそうになる。それではいけないとわかってはいるのだがな……」
そんなことはない、そう言えばよかったのだろう。
しかし切なげな顔の家康に慰めの言葉を口にすることができず、言うことができたのは一つだけ。
慰めも労りも全てすっ飛ばして、ただ物事を解決に導く。
非常に三成らしい結論であり、答えであった。
「…………私が……どうにかしてみせる!」
「三成?」
「私は家康と離れたくはない! 家康を関東にやるなどもってのほかだ! ならば秀吉様に直談判するしかないだろう!」
「し、しかしな三成……今の秀吉は天下人だ、それに逆らうというのは……」
「逆らうわけではない、お願いするのだ。半兵衛様が相手なら勝てぬが、秀吉様なら一つだけ手がある!」
「普通は……逆ではないのか…………?」
半兵衛が命じたことならば、口で彼に勝てない三成にはそれを覆すことができないだろう。
だが三成は秀吉の弱点を一つだけ握っていた。それをうまく使えば、家康の関東行きを阻止することができるはずなのだ。
「佐吉、竹千代! 一度大阪城に戻るぞ、秀吉様に家康の件について直談判する!」
「きゅ!」
『合点承知』
「ということで大坂城へ行ってくる、夕食までには戻るからな。私たちの分は残しておいてくれと毛利に伝えてくれ」
家康から体を離し、慌てて立ち上がる。
どれだけ周囲のことを気遣えるようになろうが、反省するようになっていようが。即断実行する癖だけは未だに直らない。
だが三成はそれでいいと思っている。
成長したとか大人になったとか言われるよりも、家康とちびたちと共に暮らせる生活を守れた方がいい。家康は三成よりも色々なことを考えて抱え込んでしまうので、今回相当悩んだのだろう。
いつも彼の優しさが自分を守ってくれているのだ、ならば今度は自分が彼を守る。
三成のそんな決意に満ちた立ち姿に、家康はただ圧倒され続けているらしい。ぽかんと口を開けて三成を見上げ、おそるおそるといった風情で心配げに問うてきた。
「あ……ああ……だが三成……」
「なんだ?」
「秀吉が決めたことを覆そうとするなど……いいのか?」
「秀吉様は偉大なお方だ、私はあの方に全てを捧げ尽くす覚悟だが……家康、貴様を失うことだけは耐えられない。それに秀吉様は私の言葉で機嫌を損ねるような心の狭い方ではない! 海よりも深く広く……空よりも大きな心の持ち主なのだ!」
「……三成の話を聞いていると、儂の悩みはなんだったんだろうなと思わされるな……」
「貴様は考え過ぎなのだ、少しは竹千代を見習え」
「きゅきゅ」
三成の頭の上に乗り、大いばりでふんぞり返る竹千代は三成の意図を察しているのだろう。
今度こそ自分も失敗しない。
威張りながらもその目は真剣そのもの、そして彼は三成の合図を待ち続けていた。
竹千代を追うように三成の足にへばりついて定位置へと登り始めている佐吉を待つことなく、三成は家康に向けて小さく頷き。
竹千代に聞こえるように大きく、しっかりと手を叩いた。
それからの三成は、本当に忙しかった。
水に落ちずに大坂城の天守閣に戻ってくることができた上に、半兵衛を膝の上にのせてそれは楽しそうに仕事をしていた秀吉をとっつかまえ。何が起こったかを理解できていない内にを無理矢理半兵衛と引き離し、二人きりの会談を行うことに成功した。
半兵衛が乱入してくるのではないかと内心心配でしょうがなかったが、それは三成の体から下りた佐吉と竹千代がどうにか止めてくれたらしい。
頭を畳にこすりつけて三成が願ったのは家康の関東移動の中止と、彼との将来を見据えた付き合いを認めてもらうこと。そういえば三成の口から秀吉に家康との仲を認めて欲しいと正式に願ったのは、これが初めてだった。
絶対的な主君に意見を言うことなど、今まで一度も考えなかったのだから。
当然秀吉からは三成のわがままで国を動かすことはできないと叱責されたが、三成にはこの時のために使える切り札が一つだけあった。
竹千代と佐吉とのお風呂。
竹千代と佐吉と一緒に寝る権利。
小さくて可愛い生き物が大好きだが、体が大きすぎてちびたちには避けられがちな秀吉にとってこれはとてつもなく魅力的な提案のはず。もちろん風呂には三成が同行しなければ、慣れていない秀吉はちびたちを溺れさせてしまう恐れがあるのでそれも付け加えておく。
最初は思いっきり渋った秀吉だったが、最後の最後に忠子をだっこできる権利をつけたのがとどめだった。
結局お風呂と添い寝と尻尾の毛を梳かす権利と、おまけに忠子が大坂城に来た時に好きなだけだっこできる権利で秀吉は納得してくれた。そうなれば軍師である半兵衛が君主の決定に異を唱えることができるわけがなく。
思い通りに物事を動かすことができなかった半兵衛には思いっきり嫌みを言われた上に、しばらく毛利家から帰ってこなくていいからと冷たく言い放たれたが。
帰る間際に小さく、大人になっちゃったねと呟いた半兵衛の言葉で三成は半兵衛の気持ちが少しだけわかった気がした。
そうして三成は慌ただしい一時帰省を終え、安芸へと戻ってきたのだった。
毛利にはもう少しだけ安芸においてほしいと願い、三成が半兵衛の企みを打ち砕いたことで上機嫌の毛利にそれを受理され。何も食べることなく何度も力を使わされて疲れ切っていた竹千代は、用意されていた山のような夕食を嬉しそうに食べていた。
今回は水に落ちなかった、その事実は竹千代に自信をつけてくれるだろう。
「…………と、いうわけだ。貴様の関東行きは中止……秀吉様と半兵衛様には目の前で書状を書いてもらって早馬で送らせた、数日後には三河に届くだろうな。佐吉と竹千代が文句を言っていたが秀吉様はお優しい方だ、慣れれば私よりも秀吉様に懐くかもしれん」
「今回は三成に助けられたな……」
「いつも私が貴様に助けられているのだ、たまには私に助けられるべきなのだ。それと、次に秀吉様に無理難題を突きつけられた時は私に言え、一人で悩むな」
「そうさせてもらおう」
澄んだ夜空に真円の月。
昼の間は咲き誇っている花が力をなくし、地に向けて花びらを垂らしているのを見ながら二人は体を寄せ合いながら庭を歩き続けていた。家康の腕の中では佐吉がくうくうと寝息をたてながら、心地よさげに眠っている。
忠子は竹千代と一緒に、今日何度目になるかわからない食事を摂っているはずだ。
「見事な……月だな」
「まるでお前のようだな。綺麗で、輝いていて……そして手が届かない」
「私は貴様の目の前にいるだろう」
「それはわかっているのだがな、儂がどれだけ頑張っても三成の全てを手に入れる事などできない気がするのだ」
「それは私も同じだ。今回は、貴様が何を考えているのか皆目見当がつかなかった」
「…………儂らは互いを気にしすぎていて、逆に見えていなかったのかもしれないな」
感慨深げに呟いた家康に向かって無言で頷いてやる。
自分が好きなら隠し事をするわけがない、そう思い込んでしまった三成にも責任はあるのだ。気になることがあるのなら正直に口にする、決して相手を疑わない。
簡単なことのはずなのに、どうしてうまくできないのだろう。
「難しいのだな」
「確かに難しい……だが、儂らならばできるのではないのか? 互いをしっかりと理解し合うことが」
ため息混じりに呟いた言葉を、家康はちゃんと受け止め優しい言葉を返してくれる。
だからこそ三成は彼を選んだ、そして彼も選んでくれた。こうやって何度もぶつかりあい、時には立ち止まり。
ずっと共にいることができるように、この月に祈っておこう。
「家康……三河からなら、安芸もそこまでは遠くないだろう?」
「そうだな、またすぐに会いに来ることができる。今度は忠子だけではなく忠勝も一緒に……そして、元親の船で魚でも捕りに行こう」
「毛利の所に厄介になるのだ、少しは仕事を手伝わねば……」
「元親の『世話』も十分毛利の手助けになると儂は思うが」
茶目っ気たっぷりの笑みを向けてくる家康を見て、三成も思わず吹き出してしまう。
安芸の完璧な支配者の唯一の悩みの種である長宗我部。確かにあの男の面倒を見ていれば、毛利の肩の荷も少しは下りるだろう。
顔を見合わせて笑い出すと、その声で起きてしまったのだろう。
『空腹食物要求』
そんな紙を掲げながら、佐吉がむくりと体を起こした。
「竹千代が夕食を残しておいてくれていればいいがな……家康」
「わかっている。佐吉、竹千代に会いに行くか」
『竹千代再会超絶希望』
尻尾を大きく揺らして喜び出す佐吉の頭をわしゃわしゃと撫でてやり、腕を伝って肩へと移動した佐吉に笑いかけてやると。
「行こう三成」
澄んだ青空のような笑顔を浮かべてこちらに向けて差し伸べてきた手を、三成も笑顔でつかみ取り。
月の光を浴びながら、ゆっくりと毛利たちの待つ館の中へと戻っていった。
___________________________________________
結局安芸に長期滞在が決定したので、結局は半兵衛様の手の中で踊っている石田さんでしたw
ちなみにエピローグ兼、参プロローグは毛利さんとナリチカの話。
BGM「SHORT CIRCUIT」
「きゅきゅきゅきゅ~!」
「ロボロボロボロボ~!」
『家康登場希望』
「だから貴様ら……私の真似をするのはやめろ!」
石田三成と愉快な仲間たちは、毛利家のあちこちをひたすら歩き回っていた。
使用人たちの更衣で握り飯を作ってもらえたので朝食としてそれを食べ、食後のおやつに花が食べたいという忠子のために庭を捜すついでに地面に落ちたばかりの花を取ってやり。
あちこち寄り道をし、毛利家の人間に暖かい眼差しで見守られながらただ家康を捜し続けていた。
日が高くなった頃ようやく起き出した毛利とナリとチカも一緒に探してくれると言ったのだが、それは断った。これは三成がやらなければならないことだし、昨夜自分のせいで毛利は眠れなかったのだ。
そんな彼にこれ以上迷惑をかけるわけにはいかない。
そう告げて礼を言ってから断った時、毛利は何故だかわからないがいきなり笑いだし。疑問に思った三成が問いただしても理由を答えてはくれなかった。
ただ一言だけ、だからこそ貴様は徳川に避けられるのよと口にし。
遅い朝餉を食べた後政務を始めた毛利に甘えながら応援してくれたナリとチカに礼を言い、両肩に掴まる竹千代と佐吉と満腹になったので力を取り戻した忠子を引き連れて再度家康探索に乗り出したわけだが。
空を飛んでいる忠子に上から見てもらっても、あのつんつん頭はどこにもいない。館の中も探せるだけ探したのだが、家康を見かけたという情報は一度も手に入らなかった。
長宗我部もいないのだ、二人はきっと屋敷の外にいると考えた方がいいだろう。
そう結論づけられるほどの情報が集まった頃には、もう太陽は西の方へと随分傾いていた。もしかしたら家康は忠子をおいて長宗我部の船で三河に戻ってしまっているのでは。そんなことも考えたがそれではあまりにも忠子がかわいそうだし、なによりも三成の知っている家康はそんなことをしない男なのだ。
自分をここへ連れてきてくれた忠子をおいて、何も告げずに一人で帰るわけがない。
忠子もそれはわかっているらしく、行李の中や壺の中をのぞき込んでは首をひねり。そんなところに家康は入っていないと何度教えても、それを改めることはなかった。彼はきっとこの近くにいるはずなのだから、普段探さないところに入っているかもしれない。
家康を見失ったら父に怒られるとでも考えているのか、普段は家康よりも花が好きなようにしか思えない忠子はそれほどまでに必死だったのだ。
お腹がすくからあまり飛びたがらないというのに自ら率先してあちこち飛び回り、ふらふらになりながら家康だけを捜し続ける。そんな姿を見せられると、家康ほど臣下に慕われている男はいないと思う三成だったが。
忠子の思いを知らずにどこに隠れた。
これが忠子の父(?)である忠勝だったら、今頃発狂してもおかしくない状況なのだ。周囲を気遣うことを信条としている家康だというのに、一体何故姿を現してくれないのだろう。
「いえやすぅぅぅぅっ!」
今日の口癖になってしまうその叫びを聞いて、忙しく働き回っている人々は笑いながら三成の側を通り過ぎていく。忠子の栄養補給用に花束を持ち歩いているのが面白いのか、それとも探されている人間が逃げ出してしまいそうな叫び声が笑いを誘うのか。
どちらにしても嫌がられているわけではないらしい。
ふよふよと隣を飛んでいる忠子の高度が落ちてくる度に口に花を突っ込んでやると、あむあむと食べると高度を回復する。それを何度となく繰り返しながらあちこち歩き回っていると、夕日に照らされて橙色に染まった小さな影が二つ、こちらに近づいてきた。
「ナリにチカ……どうしたのだ?」
「ぴぃぴぃ!」
「ぎゃぎゃぎゃぎゃ!」
「ぴぃ~!」
「ぎゃ~!」
「貴様らの言葉が私にはわからないのだ! 佐吉が通訳するまで待て!」
三成が声をかけると彼らなりの全速力で近づいてきた二人は、何か大事なことを伝えたいのか必死に手足をばたばたさせているのだが。佐吉の言葉の意味はなんとなくわかる三成だが、他のちびたちの言葉は全くわからない。逆に毛利はナリの言葉の意味がわかっても、それ以外のちびたちの言葉は表情と仕草で推察するしかないと語ったことがあったが。
半兵衛も毛利も、絶対に彼らの言葉の意味がわかっている。
普通に謎の鳴き声と会話できている姿を見るとそう思えて仕方がないのだが、そこら辺は人生経験の差なのだろう。自分がその域に達するまでかなり時間がかかるはずなので、今は佐吉に訳してもらうしかないのだが。
長すぎる隠れ鬼に飽き始めていた佐吉は肩に掴まりながら、うとうとと船をこぎ始めていた。
「起きろ佐吉ぃぃぃぃ!」
「……きゅ~?」
『起床拒否』
「眠いのはわかるが起きろ! ナリとチカが何かを伝えようとしているのだ」
『通訳開始』
目をこすりながら体をくねらせ、それを何度か繰り返してようやく目を開けたらしい佐吉は必死すぎて息切れを起こし始めている二人をじいっと見つめ。
『家康発見』
さらりとそう書いてから眠りに落ちようとし、とんでもない情報がもたらされたことにようやく気がついたのだった。
「家康だと!?」
「きゅ!?」
「ロボロボ!?」
『倉地下隠遁』
「家康め……私から隠れるとは……」
ようやく言いたいことが伝わったことで安堵したらしいナリとチカは、廊下に座り込んで息を整えている。そんな彼らに礼を言おうとした瞬間、三成はとあることに気がついた。
「ナリ……チカ……貴様らは何故それを知ったのだ?」
家康の場所もわかった、後は捕まえるだけ。
心の余裕ができたからか、忠子に花を食べさせながらそれを聞くと。ナリはささっと懐から取り出した半紙と筆で、のんびりと理由を書き始めてくれた。
『おとさんもいっしょ』
「家康と長宗我部が一緒に行動しているということか……」
『いえやすくん おさけくさい』
「ぎゃ」
『おとさんおつきあい』
「意味がよくわからないが……二人で酒を飲んでいるということか」
こくりと頷く二人が指さしたのは、廊下につけられた明かり取りの窓から見える大きな倉。あの中も探したはずなのだが、地下に部屋はなかった気がした。
つまり、三成たちも気がつかない隠し部屋が存在していたということなのだろう。
それにしてもナリたちの言葉を信じるのなら、昼間から酒臭いというのは一体。家康は酒は嫌いではないが、客として滞在している場所で昼間から飲み始めるほど節度をわきまえない男ではなかったはず。
ここに来てからの家康は本当におかしい。
その原因の一部が自分にあるというのなら、家康に聞かねばならない。自分のことが嫌いになったのか、それとも。
もう会いたくないと思っているのか。
三成の顔を見たくないからこそ、倉の地下に閉じこもってしまっているのでは。そう考えはするが、結論を出すのは家康の顔を見てから。
疲れ切って床に座り込むナリとチカに礼を言い、三成は横に浮いていた忠子を掴んで頭の上にのせるとそのまま全速力で倉に向かって走り始めた。竹千代に頼ろうかと思わなかったわけではないが、同じ失敗は二度としないと決めたのだ。
逸る心を抑えながら必死に走り、草履を履くのももどかしく思いながら目当ての倉にたどり着く。逃げる間を与えぬように一気に倉の中に突入し、階段の下にぽっかりとあいた何も置かれていない空間の下からわずかに響いた物音を聞き逃すことなく。
手を伸ばした先にあった竹製の柄の箒に己の力の全てを込めて、その部分を力尽くで破壊したのだった。
「うぉぉぉぉぉぉ! い~え~や~すぅぅぅぅぅっ!」
そして元は床の一部だった木材が下に落ちていくのにあわせ、ちびたちがしっかりと掴まっているのを確認してそこへと飛び込んでいく。どれだけ深さがある場所だかわからないというのに満面の笑顔だったちびたちは、こういう問題ごとにすっかり慣れてしまっているのか。
それとも下も見ずに着地しようとしている無謀な三成を、なにがあろうとも抱き留めてくれる『誰か』がそこにいることがわかっていたからか。
素早く駆け寄ってきたがっしりとした体が、ちびたちを掴まらせた三成の体を全力で受け止め。しかし大人一人とちび三人が落ちてきた衝撃を完全に受け止めきれず、側にあった麻の袋の山に体を埋めることで衝撃を殺しきったのだった。
袋の中に入っていたのは衣類か何かだったのだろう。
ぼふっという音と共に全員そろって麻の袋に埋もれ、面白かったのか体を寄せ合って喜んでいるちびたちを尻目に、家康と三成は深刻な顔で睨み合っていた。昨夜あんな別れ方をした上に、いきなりこんな形で出会ってしまったのだ。
勢いでここまで来てみたものの、いざ顔を合わせてみると何を話せばいいのかが全くわからないのだ。どうすべきか考えながら自分の下にいる酒の臭いが強い家康を見つめていると、口火を切ったのは家康が先だった。
「どうして三成はそう後先考えずに動くのだ!? 何かあった時に儂が必ず側にいるとは限らぬのだぞ?」
「貴様はいつも私の側にいてくれるのではないのか?」
「もう側にいられぬから言っているのだ!」
「それは私に興味がわかなくなったということか。抱くだけ抱いて、飽きたらもういらなくなったとでも? 貴様にとって私はその程度の存在だったのか……」
「元親が聞いているのだ……そういう発言は慎んでくれ」
家康の目線を追って横を見ると、酒が入っているらしい陶器の瓶を片手に長宗我部がこちらへにこやかに微笑みかけてきていた。三成の来訪を察して部屋の隅へと移動していたらしく、彼だけは三成の落下の被害をまるで受けていない。
「俺はここで楽しんでるから……ま、がんばれや」
「すまない長宗我部、礼を言う! よし家康、長宗我部はもう気にしなくていい……話の続きをするぞ。何故私の側にいられないなどと言い出した?」
「…………領地の移動を秀吉に命じられた。関東に行けとな……領地は大きく増えるが、儂は三河を失うことになる」
「秀吉様がそのようなことを……」
「しばらくの間は三成に会いに来ることもできないだろうな。江戸の方に古い城がある、これを改築して儂の居城にしようと考えているのでな、落ち着くまでは安芸まで会いに来ることはまず無理となる」
「私が大阪城に戻れば近くなるではないか」
「…………秀吉から先日言われた。三成は怪我が治った後もしばらく安芸に預けておくとな、豊臣の臣下として西方を監視させたいと」
「そんなことは聞いていない! 私は大阪城に戻り……秀吉様のお役に立ち……そして家康、貴様と……」
貴様の側にいるのだ。
麻の袋の背を預け横たわっている家康の胸元を掴み言葉を続けようとするが、出てくるのは重い息だけだった。何かを言う代わりに何度も家康の胸を軽く叩き、憤りをぶつけるていると家康の手がそっと背中に触れてきた。
そのまま子供をあやすかのように優しく動き始める。
「……三成、儂は秀吉の言葉を受けようと思っている。三河を捨てることになるのは正直辛い、だが儂は三成と並んで歩むことのできる己になりたいのだ」
「今でも十分貴様は……私と共にいてくれている」
「儂は今の三成に相応しい男ではない」
「それを決めるのは私だ!」
「三成……お前は佐吉たちと会って大きく変わった、何度も惚れ直してしまうほどにな。しかし儂も男だ……年の近い同僚が頭角を現しているのを間近で見せられると、妬んでしまいそうになる。それではいけないとわかってはいるのだがな……」
そんなことはない、そう言えばよかったのだろう。
しかし切なげな顔の家康に慰めの言葉を口にすることができず、言うことができたのは一つだけ。
慰めも労りも全てすっ飛ばして、ただ物事を解決に導く。
非常に三成らしい結論であり、答えであった。
「…………私が……どうにかしてみせる!」
「三成?」
「私は家康と離れたくはない! 家康を関東にやるなどもってのほかだ! ならば秀吉様に直談判するしかないだろう!」
「し、しかしな三成……今の秀吉は天下人だ、それに逆らうというのは……」
「逆らうわけではない、お願いするのだ。半兵衛様が相手なら勝てぬが、秀吉様なら一つだけ手がある!」
「普通は……逆ではないのか…………?」
半兵衛が命じたことならば、口で彼に勝てない三成にはそれを覆すことができないだろう。
だが三成は秀吉の弱点を一つだけ握っていた。それをうまく使えば、家康の関東行きを阻止することができるはずなのだ。
「佐吉、竹千代! 一度大阪城に戻るぞ、秀吉様に家康の件について直談判する!」
「きゅ!」
『合点承知』
「ということで大坂城へ行ってくる、夕食までには戻るからな。私たちの分は残しておいてくれと毛利に伝えてくれ」
家康から体を離し、慌てて立ち上がる。
どれだけ周囲のことを気遣えるようになろうが、反省するようになっていようが。即断実行する癖だけは未だに直らない。
だが三成はそれでいいと思っている。
成長したとか大人になったとか言われるよりも、家康とちびたちと共に暮らせる生活を守れた方がいい。家康は三成よりも色々なことを考えて抱え込んでしまうので、今回相当悩んだのだろう。
いつも彼の優しさが自分を守ってくれているのだ、ならば今度は自分が彼を守る。
三成のそんな決意に満ちた立ち姿に、家康はただ圧倒され続けているらしい。ぽかんと口を開けて三成を見上げ、おそるおそるといった風情で心配げに問うてきた。
「あ……ああ……だが三成……」
「なんだ?」
「秀吉が決めたことを覆そうとするなど……いいのか?」
「秀吉様は偉大なお方だ、私はあの方に全てを捧げ尽くす覚悟だが……家康、貴様を失うことだけは耐えられない。それに秀吉様は私の言葉で機嫌を損ねるような心の狭い方ではない! 海よりも深く広く……空よりも大きな心の持ち主なのだ!」
「……三成の話を聞いていると、儂の悩みはなんだったんだろうなと思わされるな……」
「貴様は考え過ぎなのだ、少しは竹千代を見習え」
「きゅきゅ」
三成の頭の上に乗り、大いばりでふんぞり返る竹千代は三成の意図を察しているのだろう。
今度こそ自分も失敗しない。
威張りながらもその目は真剣そのもの、そして彼は三成の合図を待ち続けていた。
竹千代を追うように三成の足にへばりついて定位置へと登り始めている佐吉を待つことなく、三成は家康に向けて小さく頷き。
竹千代に聞こえるように大きく、しっかりと手を叩いた。
それからの三成は、本当に忙しかった。
水に落ちずに大坂城の天守閣に戻ってくることができた上に、半兵衛を膝の上にのせてそれは楽しそうに仕事をしていた秀吉をとっつかまえ。何が起こったかを理解できていない内にを無理矢理半兵衛と引き離し、二人きりの会談を行うことに成功した。
半兵衛が乱入してくるのではないかと内心心配でしょうがなかったが、それは三成の体から下りた佐吉と竹千代がどうにか止めてくれたらしい。
頭を畳にこすりつけて三成が願ったのは家康の関東移動の中止と、彼との将来を見据えた付き合いを認めてもらうこと。そういえば三成の口から秀吉に家康との仲を認めて欲しいと正式に願ったのは、これが初めてだった。
絶対的な主君に意見を言うことなど、今まで一度も考えなかったのだから。
当然秀吉からは三成のわがままで国を動かすことはできないと叱責されたが、三成にはこの時のために使える切り札が一つだけあった。
竹千代と佐吉とのお風呂。
竹千代と佐吉と一緒に寝る権利。
小さくて可愛い生き物が大好きだが、体が大きすぎてちびたちには避けられがちな秀吉にとってこれはとてつもなく魅力的な提案のはず。もちろん風呂には三成が同行しなければ、慣れていない秀吉はちびたちを溺れさせてしまう恐れがあるのでそれも付け加えておく。
最初は思いっきり渋った秀吉だったが、最後の最後に忠子をだっこできる権利をつけたのがとどめだった。
結局お風呂と添い寝と尻尾の毛を梳かす権利と、おまけに忠子が大坂城に来た時に好きなだけだっこできる権利で秀吉は納得してくれた。そうなれば軍師である半兵衛が君主の決定に異を唱えることができるわけがなく。
思い通りに物事を動かすことができなかった半兵衛には思いっきり嫌みを言われた上に、しばらく毛利家から帰ってこなくていいからと冷たく言い放たれたが。
帰る間際に小さく、大人になっちゃったねと呟いた半兵衛の言葉で三成は半兵衛の気持ちが少しだけわかった気がした。
そうして三成は慌ただしい一時帰省を終え、安芸へと戻ってきたのだった。
毛利にはもう少しだけ安芸においてほしいと願い、三成が半兵衛の企みを打ち砕いたことで上機嫌の毛利にそれを受理され。何も食べることなく何度も力を使わされて疲れ切っていた竹千代は、用意されていた山のような夕食を嬉しそうに食べていた。
今回は水に落ちなかった、その事実は竹千代に自信をつけてくれるだろう。
「…………と、いうわけだ。貴様の関東行きは中止……秀吉様と半兵衛様には目の前で書状を書いてもらって早馬で送らせた、数日後には三河に届くだろうな。佐吉と竹千代が文句を言っていたが秀吉様はお優しい方だ、慣れれば私よりも秀吉様に懐くかもしれん」
「今回は三成に助けられたな……」
「いつも私が貴様に助けられているのだ、たまには私に助けられるべきなのだ。それと、次に秀吉様に無理難題を突きつけられた時は私に言え、一人で悩むな」
「そうさせてもらおう」
澄んだ夜空に真円の月。
昼の間は咲き誇っている花が力をなくし、地に向けて花びらを垂らしているのを見ながら二人は体を寄せ合いながら庭を歩き続けていた。家康の腕の中では佐吉がくうくうと寝息をたてながら、心地よさげに眠っている。
忠子は竹千代と一緒に、今日何度目になるかわからない食事を摂っているはずだ。
「見事な……月だな」
「まるでお前のようだな。綺麗で、輝いていて……そして手が届かない」
「私は貴様の目の前にいるだろう」
「それはわかっているのだがな、儂がどれだけ頑張っても三成の全てを手に入れる事などできない気がするのだ」
「それは私も同じだ。今回は、貴様が何を考えているのか皆目見当がつかなかった」
「…………儂らは互いを気にしすぎていて、逆に見えていなかったのかもしれないな」
感慨深げに呟いた家康に向かって無言で頷いてやる。
自分が好きなら隠し事をするわけがない、そう思い込んでしまった三成にも責任はあるのだ。気になることがあるのなら正直に口にする、決して相手を疑わない。
簡単なことのはずなのに、どうしてうまくできないのだろう。
「難しいのだな」
「確かに難しい……だが、儂らならばできるのではないのか? 互いをしっかりと理解し合うことが」
ため息混じりに呟いた言葉を、家康はちゃんと受け止め優しい言葉を返してくれる。
だからこそ三成は彼を選んだ、そして彼も選んでくれた。こうやって何度もぶつかりあい、時には立ち止まり。
ずっと共にいることができるように、この月に祈っておこう。
「家康……三河からなら、安芸もそこまでは遠くないだろう?」
「そうだな、またすぐに会いに来ることができる。今度は忠子だけではなく忠勝も一緒に……そして、元親の船で魚でも捕りに行こう」
「毛利の所に厄介になるのだ、少しは仕事を手伝わねば……」
「元親の『世話』も十分毛利の手助けになると儂は思うが」
茶目っ気たっぷりの笑みを向けてくる家康を見て、三成も思わず吹き出してしまう。
安芸の完璧な支配者の唯一の悩みの種である長宗我部。確かにあの男の面倒を見ていれば、毛利の肩の荷も少しは下りるだろう。
顔を見合わせて笑い出すと、その声で起きてしまったのだろう。
『空腹食物要求』
そんな紙を掲げながら、佐吉がむくりと体を起こした。
「竹千代が夕食を残しておいてくれていればいいがな……家康」
「わかっている。佐吉、竹千代に会いに行くか」
『竹千代再会超絶希望』
尻尾を大きく揺らして喜び出す佐吉の頭をわしゃわしゃと撫でてやり、腕を伝って肩へと移動した佐吉に笑いかけてやると。
「行こう三成」
澄んだ青空のような笑顔を浮かべてこちらに向けて差し伸べてきた手を、三成も笑顔でつかみ取り。
月の光を浴びながら、ゆっくりと毛利たちの待つ館の中へと戻っていった。
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結局安芸に長期滞在が決定したので、結局は半兵衛様の手の中で踊っている石田さんでしたw
ちなみにエピローグ兼、参プロローグは毛利さんとナリチカの話。
BGM「SHORT CIRCUIT」
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色々説明
拍手現在豊臣家転生パロ中学生編入ってます
(現在2本 家三 チカナリです)
注意事項
・フリーリンクじゃないです、基本的にはリンクはお断りしています
・ひっそりこっそりが信条なので、黙々と
・捏造、not公式のこばなしが多いので、スルー推奨
ラキドでは幹部全員を溺愛しておりますが、ベルナルドとイヴァンは特に偏愛。ばさらは家三とか奥州の愉快な仲間達と毛長がメインです。うずみさんが現在官三とか官佐にずっぽりとはまり中。
基本は、愛想のかけらもない「ネット怖い~」の書き手が二人で色々書いている場所です。
書いている人
みっし
・生真面目で堅物でムキムキな男性と一見そうじゃなくても根は真面目極まり ないキャラをこよなく愛している、がんかたうるふの片割れ。編み物とお菓子作りが趣味という、第三者曰く可愛らしい一面を持つ反面、パニクると踊ったり、オロオロしだして周囲は見ていて楽しいらしい。荒ぶる舞は、職場の名物だったりする……らしい。
イヴァンちゃんと片倉さんとシズちゃんとスカイハイさんと陛下を思いっきり愛している。好きなアニメは銀魂と最近はFate/zero。型月ファンというよりは元から虚淵ファンでうずみさんからオススメされまくった末にようやっと手を付けて完読した。ライダー組おいしいです。エクシリアではダントツで陛下が好き。陛下が使用可能になる完全版があるなら複数買いしても構わないとのたまう日々。バサラの好きキャラは片倉さん一強だったはずなのに最近はアニキも熱い。かっちり着込むキャラがすきだったはずなのにいきなり露出度が高いキャラを好きになったのは何故か悩む日々。二次元の向かう愛と同じぐらい甥っ子への愛を叫んでいる気がしてならない。
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うずみ
・相方を愛しすぎている変な人。趣味は畑仕事に漬け物作り、好きな物は不幸属性の美人(男女問わず)。ばさらでは石田さんと黒田さんをこよなく愛していたり、赤い子めんこいにゃぁとたまに叫んでいる。ついったのフォローは下 のアイコンから。
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ばさら垢できました
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