がんかたうるふ 「輪舞~偽~」 立夏の刻~三成~ その1 忍者ブログ
こちらはサークル「がんかたうるふ」のうずみとみっしの二人組が、ラッキードッグ1とばさらのこばなしを黙々と投下する場所です。
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書き終わりました。



 *****
 半兵衞が没した部屋は当時のまま、何も物を動かしていないらしい。
「一度刑部が家康と話をするために使いはしたが……それ以降は誰も入っていない」
「そのようだな。随分とほこりが溜まって……」
「貴様は部屋の中を調べにきたのだから、勝手に部屋の中を見ていろ。私は私の好きなようにさせてもらう」
「お前さんに掃除をさせて、小生だけ調べ物をするわけにはいかんだろうが」
「私が許可したのだ」
 つんと顎をそらせながら、三成は手に持った雑巾で柱を拭き続けていた。
 この稲葉山の別邸を三成は療養のために何度か使ってはいたが、その間一度もこの部屋に立ち入ることはなかった。使用人たちにも入ることを固く禁じ、ずっと閉ざし続けてきたのはきっと。
 そこに残る半兵衞の痕跡を消したくなかったからなのだろう。
 部屋の隅にほこりが溜まり、空気が濁っているように感じられる中。久方ぶりにこの部屋に立ち入った三成が最初に行ったのは、官兵衛の手枷を外すことだった。
 手枷を付けたままではろくに調べ物もできないので外してくれ。そう要求したのは官兵衛だったが、あっさりとそれを受け入れた三成には非常に驚かされた。官兵衛に言うことを聞かせるには手枷を嵌め続けるしかない、そう三成に大谷は言い聞かせてきただろうに。
 佐助の処刑以来、三成は王と呼ばれるだけの力を凄まじい勢いで身につけつつある。
 戦を始めることを主張する大谷を押さえ込み、今や自分の臣下になった元同僚たちへは一度国に戻り畑の状況を確認することを命じる。それは臣下たちも望んでいたことなので大谷の意見は黙殺されることとなり、三成は自分の領地の様子を見に行くという名目で大阪城から出る事を選んだのだった。
 豊臣軍の残党と呼ばれていた集団が、石田三成という王を抱いた軍へと変わりつつある。
 この状況を官兵衛は大いに喜んだが、喜ぶ人間ばかりではない。まずはこの状況を一番苦々しく思っているであろう大谷、しかし彼は三成を忠臣として軍が動くようになったので自らの思うように事を進めることができなくなった。三成とは仲違いをしたくないのか、彼の意見に表だって反対することはないが。何かを考え準備を進めているのは、誰の目から見ても明らかだった。
 そしてもう一人は真田幸村。
 彼は佐助の処刑以来、何故か急速に大谷へと近づいていった。処刑を命じたのは大谷というのに何故、という周囲の反応を気にすることなく二人きりでの話し合いを何度も行い。暗い炎を宿した瞳で三成を睨み付け、甲斐へと戻っていったのだった。
 佐助を目の前で殺されたのだ、仇と思われても当然。
 あまりの変わりように官兵衛や長宗我部など事情を知っている人間たちは、佐助の生存について幸村に教えるべきだと三成に進言した。しかし三成は佐助の命を案じているからか、それを良しとはせず。
 時折官兵衛や長宗我部の部下たちが届けてくれる佐助の近況を聞いて、満足げに頷くだけであった。
 佐助は歩くことはまだ無理だが起き上がれるようになり、三成への深い恩義を何度も口にしているらしい。生存を知れば大谷が手を回すのは確実なので、今は九州から動かすことができないが。
 戦が終わった後、幸村の元へと帰してやりたい。
 佐助の生存を知っている人間の願いは皆同じなのだ。そして三成の真意を幸村が知り、二人がまた仲睦まじくすごせれば。
 今は真剣な顔で柱を磨いている三成に、本来の笑顔が戻るかもしれない。
「官兵衛、貴様……調べ物をしに来たのではないのか?」
 細帯で袖をたくし上げ、細いがしっかりと筋肉がのった腕を動かす三成をぼんやりと見つめていると、当の本人に叱責される。
「そのつもりだったんだがな…………この部屋、本当に物がないな」
「半兵衞様は質素を旨とするお方だった。貴様のようにがらくたを部屋に並べておくわけがなかろう」
「なさすぎだ」
 短く言いきると、官兵衛は改めて部屋の中を見回す。
 壁に掛け軸の一枚もなく、目立つのは隅に寄せられた簡素な文机だけ。その文机の中を真っ先に確認しては見たが、半兵衞がこんなところに大事な物を隠すわけがないのだ。
 さて、多分この部屋にあるであろう官兵衛の求める物はどこにあるのか。
 死んだ人間と知恵比べというのもおかしな話だが、こういう謎ときは大好きなのだ。久々に解放された腕を上に突き上げ大きく体を伸ばし、半兵衞が考えそうなことを思考で追いかけ始めた。
「おい三成、一つ頼んでいいか?」
「私は忙しい」
「見てりゃわかるんだがな…………すまんが、お前さんがこの部屋に来る時いつも座っていた場所に座ってみてくれ」
「奇妙なことを言い出すな」
 いぶかしげな顔をしながらも、三成は馴染んでいるであろう場所に素直に腰を下ろしてくれた。うすぼんやりとした茶色い染みが広がる畳、その前にきちんと正座をしてから少し離れた場所へ座る官兵衛へと首を向ける。
 勿論雑巾は手に持ったままで。
「これでいいのか?」
「そこから見える物と……手を伸ばしやすい場所を教えてくれ。それと、お前さんがこの部屋に入る時よく触っていた物とな」
「どういうことだ?」
「小生はお前さんのために半兵衛の奴が『何か』を遺したと考えている。もしお前さん以外に見つけられたくないのだとしたら、お前さんが見つけやすい場所に隠しておくよな。刑部の奴はお前さんより大分背が低い、さすがのあいつも半兵衞の遺した物を部下には見られたくないだろうから一人で探すはずだ。半兵衞ならそう考えて……お前さんなら手が届いて、刑部にゃ手が届かない場所を選ぶはずだ」
「………………………」
「な、なんだよ」
「貴様は……軍師なのだと改めて思っただけだ」
 静かな尊敬を込めた眼差しに、気恥ずかしさが急に増してくる。
 三成の部下たちは、自分たちが寝泊まりするための部屋を掃除するために動き回っている。なのであちこちから賑やかな声は聞こえてくるが、この部屋には自分と三成だけ。
 惚れた相手と二人きりになって、意識しない男などいないのだ。
 おまけにこの頃の三成は一段高いところへ登ったというか、人としても将としても著しい成長を遂げており。常に側にいるというのに近づきがたい印象を受けてしまっていたのだ。
そんな三成が、今は素直に自分を賞賛してくれている。
 ぞくぞくするような喜びと、初恋でもないというのに異常な程に高鳴る鼓動。かなり年上の男が自分に初心な娘のようにときめいていることを知ったら、三成は確実に自分から逃げ出すだろう。
 なんとか自分と三成をごまかすために、必死に言葉を紡ぐ。
「…………その場所に座ったまま見える物で……何かおかしく見える物はないか?」
「私はこの部屋に入る時は半兵衞様の顔しか見ていない。わかるわけが…………」
「何か、あったな?」
「文机がおかしい」
そう言いながら立ち上がった三成は、文机へ近づいてそれをそのまま持ち上げた。
 小柄な半兵衞が使っていた文机を簡単に持ち上げた三成は、ゆっくりと大切そうにそれを抱え官兵衛の元へと持ってきた。
 そして自分も机を挟んで官兵衛の前に座る。
「前はこんな形ではなかった気がするのだ。もう少しあちこち出ていたような……」
「なるほどな…………半兵衛の奴、意地の悪いことしやがる」
「これに半兵衞様が遺した何かが入っているということなのか?」
「入ってはいるが、普通にやってちゃ取り出せない……面白いことをしやがる」
 それは真四角で突起物など一つも存在しない、簡素な引き出しが一つだけの机だった。一応足を入れる為の部分はあるが、三成や官兵衛では膝を入れようとすると文机を持ち上げることになってしまうだろう。
 官兵衛の膝の上に乗ってしまいそうな小さなそれの引き出しを引いて三成に中を見せてやるが、中には当然何も入っていない。
「入っていないではないか」
 文句を言う三成に向けて笑いかけ、官兵衛は目の前まで持ち上げた文机をじっくりと観察する。滑らかな木で作られたそれは、複雑な構造をもって組み上げられているわけだが。
 まず官兵衛が足の部分を強く押すと、その部分が大きくずれた。
「っ!!」
「寄せ木細工っていうんだよ……順番を守ってこう……ずらしていくとな……」
 一つずらすと、新しい面が出てくる。
 何度もそれを繰り返し、元の形がわからなくなる程あちこちが飛び出た文机とどれだけ格闘し続けたのだろうか。
 この部屋に入った時と、日の明るさは変わらない。
 だが自分の額には大きな汗が浮き、何も言わずに手元を見つめ続けていた三成の首筋にも汗が流れ。障子から差し込む光が、閉め切った部屋全体を暖めていたことにようやく気がつかされた。
「暑いだろう? 障子開けてこい」
「もう少し……なのだろう? ならばここで見ている」
「汗でどろどろになっちまうぞ」
「構わん」
 文机の構造が気になるのだろうか。
 額が当たりそうになる距離まで顔を近づけ、真剣な表情で三成は文机を見つめている。未だ手の中にある雑巾が指が食い込む程に強く握りしめられているのは、三成が待っているからなのだろう。

 恩師である半兵衞の思いを受け取る時を。

 三成にとって半兵衞は厳しい師であり、時には優しい兄のような存在であり。かけがえのない大切な人間だったのは官兵衛もわかっている。
 だからこそ三成は、思い人と殺し合えという命令を受け入れたのだ。
 この机の中から見つかるであろう物が、少しでも三成の心を癒してくれれば。そんな祈りをこめながら慎重に一つ一つの部品を動かしていると。
 天板が大きくずれ、薄く小さな空間が現れた。
「ようやくか…………苦労させやがって」
 あちこちが飛び出て、文机はすっかり不格好な形になってしまっている。
 だがそれは時間を掛ければ戻すことができるだろうし、それは今でなくてもいい。早急にしなければならないことはただ一つ、三成に半兵衞が遺した物を見せてやることだけ。


 三成君へ。


 官兵衛がようやくたどり着いた場所には、そんな表書きの文が眠っていたのだから。
















 その文を、二人で体を並べて読むことにした。
 三成が文を両手で捧げ持つように広げ、官兵衛はそっと彼の肩を抱く。一緒に見るには体を近づけた方がいいからこうしているのだ、と自分に言い聞かせてはいるが。
 久しぶりに自由に動かせている手で、とにかく三成に触れたかったのだ。
 なにせ普段は頭を撫でてやるのが精一杯、それも鎖の重さに耐えながらなので三成の感触を味わう余裕などあるわけがないのだ。しかし今は大谷の監視もなく、自由に枷を外してもらうことができる。
 あの鋭い大谷のことだ、官兵衛の手首を常に覆っている枷の痕が薄れただけで疑いだしかねない。
 枷を付けられている周辺の肌だけが他の部分より白く、自分の体とは思えない程そこだけが肉が失われている。手首の皮膚が裂けぬようにそこだけ布を巻いたりしてきたのだが、それでも長時間拘束されるとこういうことになるわけだ。
 それだけの長い時間が流れたのだ、半兵衞が死んでから。
 感慨深げに、そして愛おしそうに手紙に目を走らせている三成も、同じ感情を抱いているのだろう。非情な策に三成を追いやった事への謝罪が何度となく書き連ねられている手紙には、半兵衞の性格をあらわしているかのような流麗な筆致が綺麗に並び続けている。
 綺麗に巻かれていた手紙を読み進めるために広げていき、近い距離にいる官兵衛の顔を時折見つめ。三成は嬉しげに手にしていたそれを見ていたわけだが、手紙がある部分にさしかかった時。
「…………半兵衞様……?」
 と、苦鳴に似た声を漏らした。
 三成の横顔を見つめていた官兵衛は、この声を聞いて慌てて手紙へと目線を走らせる。大谷に対する対処について書いてあるのだろう、手紙の中身についてその程度に考えていた官兵衛だったが。短期間で豊臣軍という常勝無敗の集団を作り上げた男は、非情極まりない策を遺していたのだ。
 大谷の性格上この国をまとめるために戦を行うのではなく、この国を不幸へと追いやるために動く可能性が高い。そこまでは官兵衛も知っていることだ、死す前の半兵衞が予想していても当然と思う。しかしその次からが、竹中半兵衞の恐ろしいところだった。

 この手紙が三成の手に渡るのは、大谷の所行があまりにも非道なものであった時のみ。

 半兵衞の配下の人間は大谷を殺害し、それを徳川方の仕業として戦を開戦させる。

 これは三成の合意なく行われるものであり、大谷を殺害するための人間はもう彼の周辺に複数人潜り込ませてある。

 官兵衛も大谷がいなくなれば三成を救えるのではと考えたことはあった。
 だが三成にとって大谷は友。彼を害して三成を今の境遇から救ったとしても、彼は喜びはしないだろう。だからこそ、その手段を避けていたというのに、半兵衞は死す前にもうその手はずを整えていたというわけか。
 知謀で彼に負ける気はしない。
 だが情を挟まず冷酷に全てを進めていく半兵衞には、策略面で勝てる気がしなかった。官兵衛はどうしてもその策で追い込まれる人間のことを考えてしまうし、情けを掛けてしまう。甘いと何度も周囲から言われてきたが、策というのは結果的に相手方を苦しめるためのものなのだ。
 人を苦しめる事に力を割きたくなどない。
それでもやるべき事はやってきたつもりだが、人の不幸はできる限り見たくない。ましてや半兵衞にとって大谷は弟子のような存在のはず。
 秀吉の死後の名誉のために三成と家康を争わせ。
 大谷が邪魔になれば彼を殺害する。
 軍師というのはそこまでしなければならないものなのだろうか。自分の嘆きを押し殺し、人の嘆きを作り上げ。
「ったく…………やってられんな」
「……官兵衛?」
「小生が何かをする必要はないって事か……半兵衛の奴……そろそろゆっくり休めよ……」

 馬鹿が。

 ため息と共にその言葉を吐き出すと、いつなりの予想通りの反応が返ってきた。
「半兵衞様は馬鹿などではない!」
「頭が良すぎると馬鹿になるんだよ……自分の幸せって奴を、どうしてあいつは考えられない……なんでもかんでも秀吉の為かよ。秀吉のためなら、お前さんや刑部の奴を道具扱いしてもいいのか? 自分の思い通りに動かなくなったら殺すのか? あいつこそ死んでまで周囲を操る亡霊になっちまってるだろうが!」
「官兵衛、落ち着け」
「これが落ち着けるか! 今の刑部はただの憎たらしい馬鹿だがな、半兵衛の奴はそんな刑部すら手玉にとって弄んでんだよ! 豊臣の派手な終わりを演出したきゃ勝手にしろってんだ…………ちょ、ちょっとまてよ………………」
 話している内に、半兵衞への怒りは徐々に増していった。
 自分が手塩に掛けて育てた将たちを使い捨てにするかのような扱い、そこにあるのは何なのか。

 豊臣の終わり。

 自分が口にしたその言葉が妙に頭に突き刺さる。
「そもそも半兵衛の奴は、この戦はどちらが勝ってもいいと思っていたのか? あいつのことだ、こいつが家康に刃を向けられないことなど予想済みのはずだ」
「官兵衛、何を言っている?」
「豊臣が勝つ可能性が低い戦を、自分が死んだ後に行わせる意味はなんだ? あいつが一番に望むのは秀吉の奴の名誉、なら次は…………」
 突然ぶつぶつと呟きながら考え込み始めた官兵衛へ、三成が当惑の視線を向ける。
 だがいまは三成に構ってやる余裕はない。一つの違和感から正当を導き出す、それが今官兵衛がしなければならないことなのだから。
 三成の肩を抱き、強く抱き寄せながら追い続けるのは半兵衞の思考。
「三成が生き延びても家康が生き延びても、どちらでもあいつの目的は達成される……そりゃつまり新しい国が出来上がるって事だ。そしてそこには豊臣軍って存在はなくなる……この国が一つになるのなら、強大な他を圧倒するだけの力を持つ集団なんていらなくなるんだからな」
 半兵衛の目的は、豊臣軍の解体なのだろう。
 三成に豊臣の血族を全て処刑させ、秀吉と同じ血を引く豊臣を名乗る存在をまず消す。その上で大きな戦を起こせば、勝っても負けても疲弊した豊臣軍の残党は以前の力を保てなくなるはず。豊臣の名を持つ存在が三成の手によって処刑されたことは、この国中に知れ渡っている。つまりそれは『豊臣軍』という冠を抱いた集団をもう作れなくなるということ。
 三成が力を失った残党の上に立ち、新しい国を作ってもいい。
家康が全てを打ち倒せば、豊臣軍の残党なんて物は存在しなくなる。
 どちらに転がるにしても、豊臣軍の残党は存在しなくなるのだ。


 半兵衛は自分の作り上げた強大すぎる軍の終わりを演出したかったわけか。


 それにしてもなんてはた迷惑な、と思いはするが何となく彼の気持ちはわかった気がする。
 豊臣の名を持つ自分が作り上げた兵たちが制御を失い単なる暴徒となることを封じ、全てを終わらせるにはそれが一番いい方法なのだろう。天下分け目の大戦に彼らの力を全て向け、そして最後の幕を引く。
 自分が半兵衛の立場なら絶対に使いたくはない手ではある。
 だが半兵衛は秀吉と自分が育てた兵たちを、最後まで気に掛けていたというわけだ。自分勝手な判断ではあったが、それも愛情。
愛おしんできた三成も半兵衛にとっては豊臣軍の一員なのだろう。だからどのような形になろうとも、三成も豊臣軍から解放しなければならない。かなり乱暴な半兵衛の策だが、が、これを上手く使えば三成を解放してやれるかもしれない。半兵衛は秀吉の名誉と豊臣軍の最後の場を作り上げることを望んだが、官兵衛は違う。
 三成を生かしてやりたい。
 そのためにはさてどうすればいいのか、軽さを存分に味わっている片手で頭をかいていると胸のあたりから苦しそうな声。
「官兵衛……貴様は……」
「悪い、抱き心地が良かったのでつい……な」
「つい、ではない!」
 三成を抱く手に力を込めすぎていたのか、思いっきり自分の胸元へと押しつけていた。
 文句と共に官兵衛の手を振り払い、三成は少し少し体を離す。しかし口で言う程には不機嫌ではなかったようで、読み終えた半兵衛の手紙を綺麗に畳み直しながら小さな声でそれを口にする。
「貴様のおかげだ……半兵衞様のお心を知ることができた、礼を言う」
「お前さんを豊臣軍を終わらせるための道具にするってことだぞ? そんな内容でもありがたいのか……」
「半兵衞様は最後まで私に詫び続けてくれていた、それだけで十分だ。それに豊臣軍がこのまま力を保持し続ければ破綻が訪れることくらい、私にでもわかる」
「そうか……だがな、これからどうする? お前さんはその……まだ家康の為に死ぬつもりなのか?」
「私は貴様との賭に負けた、だから死ぬとはもう言わない」
「言わないが決めたことは覆さないって事だよな、そりゃ」
「………………………ああ」
 この頑固さが三成なのだが、さすがにここまで見事に生への渇望を捨ててくれるとさすがに苛ついてくる。
 別にすぐに自分に惚れろとは言わないが、家康に殺されるのが彼のため。その考えだけは捨てて欲しいのだが。
 そんな官兵衛の気持ちはわかってくれているのだろう。三成は気まずそうにしながら、だがしっかりとした口調でこちらに話しかけてきた。
「貴様には悪いと思っている」
「思ってんのなら態度で示せよ、例えば……抱かせてくれるとかな」
「それで……いいのか? 貴様に衆道の趣味があったとは意外だが……」
「男が好きだなんていつ言った! 小生はお前さんに惚れてるから、お前さんを抱きたいと……まあ、そんなこと言ってもしょうがないんだがな」
 思わず口から本音が出たが、この話は早く流してしまった方がいいだろう。
 家康へ向けた自分の思いすら処理し切れていない三成に、官兵衛の思いを受け止めることなど不可能。だから思いの全てをおどけた口調に込め、冗談めかして伝え続けてきたのだ。

 お前のことを愛しているからこそ守りたいのだ、と。

 三成もそれを冗談の一環として受け止めていると思っていたのだが、どうやらそれは官兵衛の思い込みだったらしい。
 夏と勘違いしそうな暑さの室内で、三成の首からは汗が一滴。
 濡れ光る肌と、耳の脇に張り付いた髪。そして真摯に官兵衛を見つめ続ける瞳、そのどこにも偽りや戯れはひとかけらも存在していなかった。
「私は貴様にどれだけ言葉を尽くしても伝えきれない程の恩を受けた。だが貴様の思いには答えられない……」
「わかった上で小生はお前さんの世話を焼いてるんだ、気にするな」
「駄目だ、恩はちゃんと返せと半兵衞様は私に教えてくださった。だが私には貴様に返せるものがない……ならば……私の体を好きに……」
「いや……そりゃありがたいんだがな……その……」
「何故だ! 私の体では駄目だというのか!」
「少し落ち着けって。確かに小生はお前さんに惚れてる、好きにしろと言われたらすぐに押し倒したいさ」
「では何故……っ!」
 思い通りにいかないから怒っているのか、それとも恥ずかしさが頂点に達して混乱しているのか。
 膝立ちになって官兵衛より高い位置に顔を移動し、威圧してくるかのように睨み付けてくる三成に、官兵衛はあっさりと答えを告げる。
 それと同時に三成の肩に手をやり、再度座らせてやることも忘れない。
「今ここでそんなことしたら、お前さんの部下に殺されちまう」
「そ……そうか……」
「とりあえず少し落ち着けって。半兵衛の手紙を見ちまったからな……気持ちが高ぶってんだよ。小生はお前さんの気持ちがこっちに向くまで我慢するさ、耐えるのは得意なんでな」
「私は一生、貴様を思うことはない」
「それでもいい、それが小生の決めたことだ」
 自分から抱けと言ってきたのだ、このまま閨に引きずり込んでしまいたいというのが本音。
 ここで少しでも三成が色気のある発言をしたら、官兵衛も男だ。色々な意味で自分を抑えられなくなっただろうし、実際下半身が反応し始めているので微妙に足を組み替えて三成に見えないようにしているのだ。
 これで本気で迫られたら、間違いなく自分はこの場で三成を抱いてしまう。
 三成が性的な手管を知らないことに感謝しながら、官兵衛は慎重に言葉を選びながら話を続けた。
「小生の望みはお前さんを生き残らせること……惚れてもらうのはその後でいいってことだ」
「だがそれでは私の気持ちが収まらない」
「別な方法でいいだろうが。そのな……小生に抱かれるだけがやり方じゃない」
「ならば私が貴様を抱けばいいのか」
「それだけはやめてくれ……」
 真顔でそう言い出す三成に、官兵衛は頭を抱えるしかない。
 それにしても、何故三成はそういう思考に至ったというのか。それを彼に聞いてみると、三成は先程畳んだ半兵衛からの手紙を再度開き、とある場所を指さしてみせたのだった。
「ここに半兵衞様が書いてくださっている……必要ならば体を与えてもいいと」
「半兵衛の奴、何を書き残してやがるんだ!」
 後半部分はざっと目を通しただけだったので、半兵衛がそんなことを書き残していることは知らなかった。ろくでもない事を三成に教えるなと思いながら、思いつく限りの悪口雑言を心の中で半兵衛にぶつける。
 すると、横からためらいを多分に含んだ声が聞こえてきた。
「一つだけ言わせてもらう。私は半兵衞様がそう書かれていたから、貴様に抱けと言ったわけではない。それしか…………貴様にしてやれることがないのだ」
「三成……」
「すまない、本当に……何故私は貴様を思うことができないのだろうな……」
 三成の肩は女のように細くはない。
 背丈も頭一つ飛び出る程に大きいし、余分な肉はないが女のように華奢でもなかった。

 だがその時官兵衛は、口に力を込めて嘆く三成を抱きしめたいと思ったのだ。

 体から離していた手を再び三成の肩に回し、そのまま自分の方へと引き寄せる。
「官兵衛……?」
「最低だな小生は」
「何がだ?」
「抱かないって自分で言ったってのに……何やってんだか」
 胸の中に落ちてきた三成を愛おしむようにその背を撫でる。
 びくりと体を震わせ、だが離れようとしない三成の耳元に顔を寄せると何かを堪えるかのような押し殺した吐息が聞こえてきた。
 自分で誘ってきたくせに、何を怯えているんだか。
 抱けと言ってきた時の強気な態度とは裏腹の、今の姿。そのどちらにも愛おしさを感じながら、官兵衛はゆっくりと三成をじらすかのように顔を近づけ。
 その首筋に顔を埋めていった。








_________________________________________
ということで、次はR-18になります。

エロ神様の降臨を踊りながら待っている今日この頃……


BGM「帰りたくなったよ」
PR
[350] [349] [348] [347] [346] [345] [344] [343] [342] [341] [340]
色々説明






拍手現在豊臣家転生パロ中学生編入ってます
(現在2本 家三 チカナリです)


注意事項
・フリーリンクじゃないです、基本的にはリンクはお断りしています
・ひっそりこっそりが信条なので、黙々と
・捏造、not公式のこばなしが多いので、スルー推奨


ラキドでは幹部全員を溺愛しておりますが、ベルナルドとイヴァンは特に偏愛。ばさらは家三とか奥州の愉快な仲間達と毛長がメインです。うずみさんが現在官三とか官佐にずっぽりとはまり中。
基本は、愛想のかけらもない「ネット怖い~」の書き手が二人で色々書いている場所です。


書いている人


みっし

・生真面目で堅物でムキムキな男性と一見そうじゃなくても根は真面目極まり ないキャラをこよなく愛している、がんかたうるふの片割れ。編み物とお菓子作りが趣味という、第三者曰く可愛らしい一面を持つ反面、パニクると踊ったり、オロオロしだして周囲は見ていて楽しいらしい。荒ぶる舞は、職場の名物だったりする……らしい。
イヴァンちゃんと片倉さんとシズちゃんとスカイハイさんと陛下を思いっきり愛している。好きなアニメは銀魂と最近はFate/zero。型月ファンというよりは元から虚淵ファンでうずみさんからオススメされまくった末にようやっと手を付けて完読した。ライダー組おいしいです。エクシリアではダントツで陛下が好き。陛下が使用可能になる完全版があるなら複数買いしても構わないとのたまう日々。バサラの好きキャラは片倉さん一強だったはずなのに最近はアニキも熱い。かっちり着込むキャラがすきだったはずなのにいきなり露出度が高いキャラを好きになったのは何故か悩む日々。二次元の向かう愛と同じぐらい甥っ子への愛を叫んでいる気がしてならない。



うずみ
・相方を愛しすぎている変な人。趣味は畑仕事に漬け物作り、好きな物は不幸属性の美人(男女問わず)。ばさらでは石田さんと黒田さんをこよなく愛していたり、赤い子めんこいにゃぁとたまに叫んでいる。

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