こちらはサークル「がんかたうるふ」のうずみとみっしの二人組が、ラッキードッグ1とばさらのこばなしを黙々と投下する場所です。
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なつやすみはこれで終わりです。
*****
8/29
「石田殿! 何故某のたこ焼きだけこげるのですか!?」
「姫のはちゃんと綺麗に焼けてますよ? 真田さんは鉄板を熱くしすぎなんじゃないですか?」
「たこ焼きなど焼いて何が楽しい……この暑さだというのに」
「でも毛利さん……しっかり焼いて食べてますね」
「我は焼くのを好まぬと言っただけだ、たこ焼きが嫌いだと言った覚えはないが」
「毛利殿~、某のたこ焼きが真っ黒になってしまいました……」
「責任をとって自分で食べる事だな。姫…………こちらに茶が冷えている。石田が煎れたものだ、なかなかの味よ」
「石田さんのお茶ですか!? 今日はお花が浮いているお茶なんですね♪」
ガラスの急須の中で鮮やかに咲き誇る花を見ながら、鶴姫は氷が打ち鳴らされる涼やかな音を楽しみながらお茶を楽しみ始めた。
空はまだ日が高く、室内に吹き込んでくる風も肌を灼くかのよう。
そんな中、子供たちは和室に大きなテーブルを持ち込み。そこにどこから借りてきたのかわからぬ大きなたこ焼き器を設置し、買い物袋に詰め込んだ小麦粉などを使ってあっという間にたこ焼きパーティのセッティングを済ませてしまった。最初に場所を使わせて欲しいと言いながら遊びに来た時は、何か親に言えぬことでもするのかと思っていたが。
彼らは自分を楽しませるために、これを用意してくれたというわけだ。
枯れかけた人間の心すら沸き立たせる明るい子供たちの声、そして満面の笑顔で自分にたこ焼きを差し出してくる三成の姿。
夏ばてと盆の疲れで寝込んでいた大谷にとって、これは何よりの褒美になった。
「刑部、これは私が焼いたのだ。早く食べろ!」
「やれそんなに急かされても我の口は上手く開かぬのでな……」
「大丈夫だ、美味しい物を食べれば口が大きく開くと秀吉様が言っていた」
「口にソース付けて言う事かよ」
大谷の横に座っていた官兵衛が手を伸ばして、指で三成の口の端を乱暴に拭う。
今日は暑いので有休を取ったなどと言っていたが、三成たちと事前に打ち合わせていたのだろう。薄手のスーツに手入れをしていないぼさぼさの髪はいつもと同じ、しかしその顔には疲労の色が濃い。
きっと土日返上で働いて、この時間を作ったのだろう。
子供たちに冗談まじりでたこ焼きの焼き方を教え、火傷しないように声を掛けてやりながらも基本官兵衛は手伝おうとはしなかった。できることは全部やらせる、できなければ手伝うという考えなのだろう。だからこそ子供たちは笑い合いながら、どうすれば美味しいたこ焼きになるのかを自分で考えていくのだ。
さっさと結婚して、子供を作ればいい父親になるだろうに。
官兵衛は自分が死ぬまでは心配で結婚などできないというのだ。
常に死と向かい合わせで生きている人間を心配して何になるというのか。そう何度も伝えたというのに、官兵衛は自分から離れようとしない。
死者に何かを期待しても、答えることなどできないというのに。
「刑部、たこ焼きが冷めてしまう!」
「そうか……では食べねばならぬな」
「あ~んと口を開けるのだ」
三成が箸でつまんで口元に差し出してくるたこ焼きは、本人と同じでどうも不格好というか。重力に負けてでろんとたれさがってしまっている上に、今にも中身がこぼれでそうな有様。
美味しく焼いてくれたのはありがたいが、早く食べなければ自分の着物か畳が犠牲になってしまう。そう決意し、ゆっくりと口を開けた大谷の口の中に三成はゆっくりと気遣いながらたこ焼きを押し込んでくれた。
事前にふうふうと息を吹きかけて冷ましてくれたので、口の中の皮膚が焼ける程熱くはない。
「美味しいか!?」
「上手く焼けたものよ……店を開けるかもしれぬな」
「官兵衛の方が上手く焼けるのだ。刑部も官兵衛に焼いてもらうといい!」
「昔取った杵柄ってやつだ」
「ぬしもおかしな事ばかりしているものよ」
「バイトって奴はやってみると楽しいもんでな…………おい、鉄板一個貸してくれ」
よっこいしょと立ち上がりながら、官兵衛はテーブルの上でまだ格闘している幸村たちに声を掛ける。以前も官兵衛にたこ焼きを焼いてもらったことがあるのだろう、子供たちは大喜びしながら慌てて官兵衛の居場所を確保し出す。
ちびたちの嬉しそうな顔を眺め、無造作に上着を脱ぎ。
それを大谷が受け止めることをわかっているかのように無造作に下に投げ、ワイシャツの腕をまくり始めると。
官兵衛はごく自然に、そっと。
「少し待ってろ……テキ屋仕込みのたこ焼きを食わせてやるからな」
眠る子供にするかのように、そっと大谷の頭を撫で。
腰にしがみついてきた三成をおどけながら片手で掴み、そのまま抱き上げると皆が待つテーブルへと歩いて行ったのだった。
最後に一度だけ振り返り、大谷にへたくそなウインクすることも当然忘れない。
「あの阿呆…………」
昔から官兵衛は変わってくれない。
大谷を損得抜きで大切にしなくてもいいのに、むしろ自分の利益を追求するくらいずるい男だったら。
こんなに気にならなかった。
子供たちの明るい声に迎えられた官兵衛は、時折気遣うかのように大谷を見ながらプロも裸足で逃げ出すような見事な手際を見せてくれ。完璧ともいえる球形の、三成曰くかりふわのたこ焼きを食べさせてもらうことになり。
時折たこ焼きを作ってくれるようねだるようになるのだが、それはもう少しだけ後の話となる。
8/30
上杉家の屋敷を支配しているのは常に静寂だった。
同じくらいの大きさの幸村の家は常に賑やかだというのに、何故ここはこんなに静かなのだろう。常にたくさんの人が出入りしているのはこの部屋も一緒だというのに、主の部屋には風の吹く音すら入ってこない。
纏う着物も頭を覆う頭巾も白い、浮世離れした男が唯一赤い唇を開く。そしてその手には、三成が夏休みの間を使って制作した木刀。
「よいできですね」
「はい、ありがとうございます!」
「たくさんのひとのこころがこめられております」
「…………そ、それは…………」
自分一人で作ったのではない、一瞥しただけでそれを見抜かれ三成は体を硬くする。
優しいだけの師匠ではない、悪いことをしたら烈火の如く怒りだすし礼儀作法には嫌になるほど厳しい。おかげで三成は長時間正座しても全く足がしびれないという特技を得ることができた。
そんな師匠に一人で作っていないことを気付かれてしまったら、また叱られるのでは。
顔を下に向け、叱責の言葉に耐えるために膝の上に置いた拳に力を込めると。
「ひとはひとりでいきるものではありません たくさんのこころをうけたからこそ これはすばらしいできになったのです」
「…………そうなのですか?」
「ながめにつくりましたね」
「大人になっても使えるようにした方がいいと秀吉様に言われました」
「あのかたらしいですね」
大輪の花を思わせる艶やかな笑顔が目の前で咲き誇っていく。
秀吉と半兵衞の次に尊敬している師匠が、自分の作った木刀を褒めてくれた。その事実だけでも嬉しかったのだが、それ以上に嬉しかったのは三成が人の手を借りたことを良いことだと褒めてくれたことだった。
秀吉が材料を調達してくれた、半兵衞がバランスを取れるように柄と刃の部分のバランスを考えてくれた。豊臣の家のおじさんは木工所の人に頼んで表面を整えてくれた、そして家康は自分の宿題もあったのに一緒に削ってくれたのだ。刃物を使うのが始めてなので見ているだけでハラハラするような家康の手つきだったが、三成のために心を込めながらしっかり削ってくれたのだ。
全部一人でやらなければ宿題にならないといわれそうだが。
それでもたくさんの人たちが協力して出来上がったこれを、始業式の日に持って行ったらみんなはどんな顔をするだろう。明後日にはまた楽しい学校が始まることを思い、顔をほころばせていると木刀をじっくりと検分していた師匠が、話しかけてきた。
「どうでしたかなつやすみは」
「今年は家康と旅行に行けましたし、たこ焼きもいっぱい食べました! 秀吉様のお茶会も手伝えたのです!」
「たのしかったのですね」
「はい!」
目の細かいやすりで綺麗に整えた木刀の表面を、師匠の細く美しい指が撫でていく。
師匠が自分の作った物を愛でてくれている、それは三成の夏休みを肯定してくれたと言うことに他ならない。
それが嬉しかったのと、楽しかった夏休みを思い起こしながら三成はもう一度だけ師匠に言ったのだった。
夏休み全体を表現する感想を。
「とても、楽しかったです!」
8/31
夏休み最終日、宿題をとっくに終えていた三成はのんびりとその一日を楽しむはずだったのだが。
「貴様! 面白かっただけ書いても読書感想文にならぬというのがわからぬのか! 何度同じ事を繰り返す!」
「ですが面白かった以外の感想など……思いつきません」
「愚か者め! 我が佐竹に怒られることになるのだ……貴様の不出来は我の責任、あの男は常にそう言うのだからな!」
幸村は、最終日まで宿題を残していた。
毛利に罵られ、半泣きになりながら原稿用紙を埋めようと頑張ってはいるのだが、文章を書くのが苦手な幸村がそう簡単に終わらせられるわけがない。蜻蛉の数も減り、蝉の鳴き声も薄れつつある残暑の午後。キラキラとした夏の輝きが封じ込まれているような、住んだ色合いのサイダーを鶴姫と並んで飲んでいると横から菓子が大量に盛られた菓子鉢が差し出される。
「三成、これも食べるがいい」
「刑部、毎年すまないな」
「大谷さん、ありがとうございます!」
「よいよい、我にとってもこれは楽しみよ……」
くすくすと笑う大谷は、夏休みの宿題という物で苦労したことがないのだという。
学校にほとんど行けなかったので、幸村が夏休みの宿題に苦しめられているところを見ると、自分も夏休みを味わっているような気分になるらしい。
そういうことなので大谷としては毎年幸村に宿題に困って欲しいらしいが、さすがに毎年これだと毛利が精神的におかしくなりそうだ。妙なところで放任主義の担任は、優等生の毛利に幸村の面倒を押しつけているのだ、いい意味で。
毛利はそれで宿題をやろうとしない人間の気持ちを知ることができるし、幸村は勉強を城とせっついてくれる人間ができる。
なかなかいい関係ではあるのだが、
「読書感想文だけではないのか! 自由研究まで残してあったとは……ぬかったわ」
「そ、それは……こ、これからやるつもりだったのです!」
「この工作は何だ!」
「それは空き缶で作ったお館様ロボでございます!」
「去年も同じものを作ったであろうが!」
後数年これが続いたら、毛利が倒れるだろう。
ぜいぜいと荒い息を吐きながら、大谷家の大きな机の上に突っ伏す毛利の背を一緒に遊びに来ていた元親がそっと撫でてやる。
「今日の夜まで頑張りゃ、なんとかなるんじゃないのか?」
「去年は朝までかかったのだ……皆で協力してな」
「…………悪い、俺帰るわ」
「我が貴様を帰すと思うか? 貴様と徳川は真田のどりるの答え合わせをするのだ」
「家康? あいつ……今いないだろうが」
「石田が今日ここに泊まると言えば、嬉々として来るだろうよ」
顔を上げてにいっと笑った毛利を見て、元親は肩をがっくりと落とす。
三成と鶴姫の出番はこの調子ならもう少し後。細かいところに気がつく鶴姫は幸村の自由研究を手伝うと自ら言い出すだろうし、三成は去年とほぼ同じデザインのお館様ロボを改修してやらなければならないはず。
この大谷が用意してくれた菓子のゴミでも使おうか。
綺麗な包み紙に包まれていたり、アルミカップにのっていたりする菓子を綺麗に開けながら口に入れようとすると、幸村の悲壮な声。
「某も食べたいでござる……」
「読書感想文が終わったら、いくらでも食べさせてやろう。さあ書け、せめて原稿用紙2枚は書くがいい」
「無理でござる……」
「我は8枚書いた。姫も6枚だったな……」
「はい! 今年はふかふかウサギを読んだんです。石田さんは何を読んだのですか?」
「去年の続きでガンバとカワウソの冒険だ」
「私も読みたいので貸してください!」
「刑部に借りたのだ、姫も刑部に借りるといい」
三成がそう言うと、鶴姫は大谷の方へと向き直り愛らしい笑顔で本を貸してくれるようにお願いを始める。大谷も三成の次くらいに鶴姫には甘いので、書庫の場所を教えいつでも本を持っていっていいと言い出しているのだ。
眼を細め、自分たちを見る大谷の目は本当に楽しそうで。
毎年夜遅くまで世話になるのは悪いと思うのだが、この時間を大谷も楽しみにしているような気がするのは三成だけなのだろうか。
それでもさすがに一言言っておくべきだろうと思い、鶴姫と談笑している大谷の袖を引っ張る。
「刑部……家康も来たらうるさいと思う……すまない」
「皆で食べるのであれば、今日の夕餉は何がいいのであろうな」
「…………カレーがいい」
「そうか、ならば喰う物にも困り果てている暗も呼ぶとするか」
「そうだな!」
三成の頭にゆっくりと手を乗せ、大谷はゆっくりと唇を持ち上げた。
いつもと変わらぬこの時間を大谷が楽しんでくれている、そう思うだけで三成も幸せな気分になるのだ。
あとは足りない人間を呼ぶだけ。
そうすれば去年と変わらぬ、いやもっと楽しい時間を過ごせるはず。相変わらずうめき続けている幸村には悪いが。
これはもう夏休みの風物詩なのだから。
________________________________________
一応明日のエピローグもありますが、夏休みのお話はこれで終了。
土日は休みだったとはいえ……毎日こつこつと書いたものだ。
「石田殿! 何故某のたこ焼きだけこげるのですか!?」
「姫のはちゃんと綺麗に焼けてますよ? 真田さんは鉄板を熱くしすぎなんじゃないですか?」
「たこ焼きなど焼いて何が楽しい……この暑さだというのに」
「でも毛利さん……しっかり焼いて食べてますね」
「我は焼くのを好まぬと言っただけだ、たこ焼きが嫌いだと言った覚えはないが」
「毛利殿~、某のたこ焼きが真っ黒になってしまいました……」
「責任をとって自分で食べる事だな。姫…………こちらに茶が冷えている。石田が煎れたものだ、なかなかの味よ」
「石田さんのお茶ですか!? 今日はお花が浮いているお茶なんですね♪」
ガラスの急須の中で鮮やかに咲き誇る花を見ながら、鶴姫は氷が打ち鳴らされる涼やかな音を楽しみながらお茶を楽しみ始めた。
空はまだ日が高く、室内に吹き込んでくる風も肌を灼くかのよう。
そんな中、子供たちは和室に大きなテーブルを持ち込み。そこにどこから借りてきたのかわからぬ大きなたこ焼き器を設置し、買い物袋に詰め込んだ小麦粉などを使ってあっという間にたこ焼きパーティのセッティングを済ませてしまった。最初に場所を使わせて欲しいと言いながら遊びに来た時は、何か親に言えぬことでもするのかと思っていたが。
彼らは自分を楽しませるために、これを用意してくれたというわけだ。
枯れかけた人間の心すら沸き立たせる明るい子供たちの声、そして満面の笑顔で自分にたこ焼きを差し出してくる三成の姿。
夏ばてと盆の疲れで寝込んでいた大谷にとって、これは何よりの褒美になった。
「刑部、これは私が焼いたのだ。早く食べろ!」
「やれそんなに急かされても我の口は上手く開かぬのでな……」
「大丈夫だ、美味しい物を食べれば口が大きく開くと秀吉様が言っていた」
「口にソース付けて言う事かよ」
大谷の横に座っていた官兵衛が手を伸ばして、指で三成の口の端を乱暴に拭う。
今日は暑いので有休を取ったなどと言っていたが、三成たちと事前に打ち合わせていたのだろう。薄手のスーツに手入れをしていないぼさぼさの髪はいつもと同じ、しかしその顔には疲労の色が濃い。
きっと土日返上で働いて、この時間を作ったのだろう。
子供たちに冗談まじりでたこ焼きの焼き方を教え、火傷しないように声を掛けてやりながらも基本官兵衛は手伝おうとはしなかった。できることは全部やらせる、できなければ手伝うという考えなのだろう。だからこそ子供たちは笑い合いながら、どうすれば美味しいたこ焼きになるのかを自分で考えていくのだ。
さっさと結婚して、子供を作ればいい父親になるだろうに。
官兵衛は自分が死ぬまでは心配で結婚などできないというのだ。
常に死と向かい合わせで生きている人間を心配して何になるというのか。そう何度も伝えたというのに、官兵衛は自分から離れようとしない。
死者に何かを期待しても、答えることなどできないというのに。
「刑部、たこ焼きが冷めてしまう!」
「そうか……では食べねばならぬな」
「あ~んと口を開けるのだ」
三成が箸でつまんで口元に差し出してくるたこ焼きは、本人と同じでどうも不格好というか。重力に負けてでろんとたれさがってしまっている上に、今にも中身がこぼれでそうな有様。
美味しく焼いてくれたのはありがたいが、早く食べなければ自分の着物か畳が犠牲になってしまう。そう決意し、ゆっくりと口を開けた大谷の口の中に三成はゆっくりと気遣いながらたこ焼きを押し込んでくれた。
事前にふうふうと息を吹きかけて冷ましてくれたので、口の中の皮膚が焼ける程熱くはない。
「美味しいか!?」
「上手く焼けたものよ……店を開けるかもしれぬな」
「官兵衛の方が上手く焼けるのだ。刑部も官兵衛に焼いてもらうといい!」
「昔取った杵柄ってやつだ」
「ぬしもおかしな事ばかりしているものよ」
「バイトって奴はやってみると楽しいもんでな…………おい、鉄板一個貸してくれ」
よっこいしょと立ち上がりながら、官兵衛はテーブルの上でまだ格闘している幸村たちに声を掛ける。以前も官兵衛にたこ焼きを焼いてもらったことがあるのだろう、子供たちは大喜びしながら慌てて官兵衛の居場所を確保し出す。
ちびたちの嬉しそうな顔を眺め、無造作に上着を脱ぎ。
それを大谷が受け止めることをわかっているかのように無造作に下に投げ、ワイシャツの腕をまくり始めると。
官兵衛はごく自然に、そっと。
「少し待ってろ……テキ屋仕込みのたこ焼きを食わせてやるからな」
眠る子供にするかのように、そっと大谷の頭を撫で。
腰にしがみついてきた三成をおどけながら片手で掴み、そのまま抱き上げると皆が待つテーブルへと歩いて行ったのだった。
最後に一度だけ振り返り、大谷にへたくそなウインクすることも当然忘れない。
「あの阿呆…………」
昔から官兵衛は変わってくれない。
大谷を損得抜きで大切にしなくてもいいのに、むしろ自分の利益を追求するくらいずるい男だったら。
こんなに気にならなかった。
子供たちの明るい声に迎えられた官兵衛は、時折気遣うかのように大谷を見ながらプロも裸足で逃げ出すような見事な手際を見せてくれ。完璧ともいえる球形の、三成曰くかりふわのたこ焼きを食べさせてもらうことになり。
時折たこ焼きを作ってくれるようねだるようになるのだが、それはもう少しだけ後の話となる。
8/30
上杉家の屋敷を支配しているのは常に静寂だった。
同じくらいの大きさの幸村の家は常に賑やかだというのに、何故ここはこんなに静かなのだろう。常にたくさんの人が出入りしているのはこの部屋も一緒だというのに、主の部屋には風の吹く音すら入ってこない。
纏う着物も頭を覆う頭巾も白い、浮世離れした男が唯一赤い唇を開く。そしてその手には、三成が夏休みの間を使って制作した木刀。
「よいできですね」
「はい、ありがとうございます!」
「たくさんのひとのこころがこめられております」
「…………そ、それは…………」
自分一人で作ったのではない、一瞥しただけでそれを見抜かれ三成は体を硬くする。
優しいだけの師匠ではない、悪いことをしたら烈火の如く怒りだすし礼儀作法には嫌になるほど厳しい。おかげで三成は長時間正座しても全く足がしびれないという特技を得ることができた。
そんな師匠に一人で作っていないことを気付かれてしまったら、また叱られるのでは。
顔を下に向け、叱責の言葉に耐えるために膝の上に置いた拳に力を込めると。
「ひとはひとりでいきるものではありません たくさんのこころをうけたからこそ これはすばらしいできになったのです」
「…………そうなのですか?」
「ながめにつくりましたね」
「大人になっても使えるようにした方がいいと秀吉様に言われました」
「あのかたらしいですね」
大輪の花を思わせる艶やかな笑顔が目の前で咲き誇っていく。
秀吉と半兵衞の次に尊敬している師匠が、自分の作った木刀を褒めてくれた。その事実だけでも嬉しかったのだが、それ以上に嬉しかったのは三成が人の手を借りたことを良いことだと褒めてくれたことだった。
秀吉が材料を調達してくれた、半兵衞がバランスを取れるように柄と刃の部分のバランスを考えてくれた。豊臣の家のおじさんは木工所の人に頼んで表面を整えてくれた、そして家康は自分の宿題もあったのに一緒に削ってくれたのだ。刃物を使うのが始めてなので見ているだけでハラハラするような家康の手つきだったが、三成のために心を込めながらしっかり削ってくれたのだ。
全部一人でやらなければ宿題にならないといわれそうだが。
それでもたくさんの人たちが協力して出来上がったこれを、始業式の日に持って行ったらみんなはどんな顔をするだろう。明後日にはまた楽しい学校が始まることを思い、顔をほころばせていると木刀をじっくりと検分していた師匠が、話しかけてきた。
「どうでしたかなつやすみは」
「今年は家康と旅行に行けましたし、たこ焼きもいっぱい食べました! 秀吉様のお茶会も手伝えたのです!」
「たのしかったのですね」
「はい!」
目の細かいやすりで綺麗に整えた木刀の表面を、師匠の細く美しい指が撫でていく。
師匠が自分の作った物を愛でてくれている、それは三成の夏休みを肯定してくれたと言うことに他ならない。
それが嬉しかったのと、楽しかった夏休みを思い起こしながら三成はもう一度だけ師匠に言ったのだった。
夏休み全体を表現する感想を。
「とても、楽しかったです!」
8/31
夏休み最終日、宿題をとっくに終えていた三成はのんびりとその一日を楽しむはずだったのだが。
「貴様! 面白かっただけ書いても読書感想文にならぬというのがわからぬのか! 何度同じ事を繰り返す!」
「ですが面白かった以外の感想など……思いつきません」
「愚か者め! 我が佐竹に怒られることになるのだ……貴様の不出来は我の責任、あの男は常にそう言うのだからな!」
幸村は、最終日まで宿題を残していた。
毛利に罵られ、半泣きになりながら原稿用紙を埋めようと頑張ってはいるのだが、文章を書くのが苦手な幸村がそう簡単に終わらせられるわけがない。蜻蛉の数も減り、蝉の鳴き声も薄れつつある残暑の午後。キラキラとした夏の輝きが封じ込まれているような、住んだ色合いのサイダーを鶴姫と並んで飲んでいると横から菓子が大量に盛られた菓子鉢が差し出される。
「三成、これも食べるがいい」
「刑部、毎年すまないな」
「大谷さん、ありがとうございます!」
「よいよい、我にとってもこれは楽しみよ……」
くすくすと笑う大谷は、夏休みの宿題という物で苦労したことがないのだという。
学校にほとんど行けなかったので、幸村が夏休みの宿題に苦しめられているところを見ると、自分も夏休みを味わっているような気分になるらしい。
そういうことなので大谷としては毎年幸村に宿題に困って欲しいらしいが、さすがに毎年これだと毛利が精神的におかしくなりそうだ。妙なところで放任主義の担任は、優等生の毛利に幸村の面倒を押しつけているのだ、いい意味で。
毛利はそれで宿題をやろうとしない人間の気持ちを知ることができるし、幸村は勉強を城とせっついてくれる人間ができる。
なかなかいい関係ではあるのだが、
「読書感想文だけではないのか! 自由研究まで残してあったとは……ぬかったわ」
「そ、それは……こ、これからやるつもりだったのです!」
「この工作は何だ!」
「それは空き缶で作ったお館様ロボでございます!」
「去年も同じものを作ったであろうが!」
後数年これが続いたら、毛利が倒れるだろう。
ぜいぜいと荒い息を吐きながら、大谷家の大きな机の上に突っ伏す毛利の背を一緒に遊びに来ていた元親がそっと撫でてやる。
「今日の夜まで頑張りゃ、なんとかなるんじゃないのか?」
「去年は朝までかかったのだ……皆で協力してな」
「…………悪い、俺帰るわ」
「我が貴様を帰すと思うか? 貴様と徳川は真田のどりるの答え合わせをするのだ」
「家康? あいつ……今いないだろうが」
「石田が今日ここに泊まると言えば、嬉々として来るだろうよ」
顔を上げてにいっと笑った毛利を見て、元親は肩をがっくりと落とす。
三成と鶴姫の出番はこの調子ならもう少し後。細かいところに気がつく鶴姫は幸村の自由研究を手伝うと自ら言い出すだろうし、三成は去年とほぼ同じデザインのお館様ロボを改修してやらなければならないはず。
この大谷が用意してくれた菓子のゴミでも使おうか。
綺麗な包み紙に包まれていたり、アルミカップにのっていたりする菓子を綺麗に開けながら口に入れようとすると、幸村の悲壮な声。
「某も食べたいでござる……」
「読書感想文が終わったら、いくらでも食べさせてやろう。さあ書け、せめて原稿用紙2枚は書くがいい」
「無理でござる……」
「我は8枚書いた。姫も6枚だったな……」
「はい! 今年はふかふかウサギを読んだんです。石田さんは何を読んだのですか?」
「去年の続きでガンバとカワウソの冒険だ」
「私も読みたいので貸してください!」
「刑部に借りたのだ、姫も刑部に借りるといい」
三成がそう言うと、鶴姫は大谷の方へと向き直り愛らしい笑顔で本を貸してくれるようにお願いを始める。大谷も三成の次くらいに鶴姫には甘いので、書庫の場所を教えいつでも本を持っていっていいと言い出しているのだ。
眼を細め、自分たちを見る大谷の目は本当に楽しそうで。
毎年夜遅くまで世話になるのは悪いと思うのだが、この時間を大谷も楽しみにしているような気がするのは三成だけなのだろうか。
それでもさすがに一言言っておくべきだろうと思い、鶴姫と談笑している大谷の袖を引っ張る。
「刑部……家康も来たらうるさいと思う……すまない」
「皆で食べるのであれば、今日の夕餉は何がいいのであろうな」
「…………カレーがいい」
「そうか、ならば喰う物にも困り果てている暗も呼ぶとするか」
「そうだな!」
三成の頭にゆっくりと手を乗せ、大谷はゆっくりと唇を持ち上げた。
いつもと変わらぬこの時間を大谷が楽しんでくれている、そう思うだけで三成も幸せな気分になるのだ。
あとは足りない人間を呼ぶだけ。
そうすれば去年と変わらぬ、いやもっと楽しい時間を過ごせるはず。相変わらずうめき続けている幸村には悪いが。
これはもう夏休みの風物詩なのだから。
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一応明日のエピローグもありますが、夏休みのお話はこれで終了。
土日は休みだったとはいえ……毎日こつこつと書いたものだ。
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色々説明
拍手現在豊臣家転生パロ中学生編入ってます
(現在2本 家三 チカナリです)
注意事項
・フリーリンクじゃないです、基本的にはリンクはお断りしています
・ひっそりこっそりが信条なので、黙々と
・捏造、not公式のこばなしが多いので、スルー推奨
ラキドでは幹部全員を溺愛しておりますが、ベルナルドとイヴァンは特に偏愛。ばさらは家三とか奥州の愉快な仲間達と毛長がメインです。うずみさんが現在官三とか官佐にずっぽりとはまり中。
基本は、愛想のかけらもない「ネット怖い~」の書き手が二人で色々書いている場所です。
書いている人
みっし
・生真面目で堅物でムキムキな男性と一見そうじゃなくても根は真面目極まり ないキャラをこよなく愛している、がんかたうるふの片割れ。編み物とお菓子作りが趣味という、第三者曰く可愛らしい一面を持つ反面、パニクると踊ったり、オロオロしだして周囲は見ていて楽しいらしい。荒ぶる舞は、職場の名物だったりする……らしい。
イヴァンちゃんと片倉さんとシズちゃんとスカイハイさんと陛下を思いっきり愛している。好きなアニメは銀魂と最近はFate/zero。型月ファンというよりは元から虚淵ファンでうずみさんからオススメされまくった末にようやっと手を付けて完読した。ライダー組おいしいです。エクシリアではダントツで陛下が好き。陛下が使用可能になる完全版があるなら複数買いしても構わないとのたまう日々。バサラの好きキャラは片倉さん一強だったはずなのに最近はアニキも熱い。かっちり着込むキャラがすきだったはずなのにいきなり露出度が高いキャラを好きになったのは何故か悩む日々。二次元の向かう愛と同じぐらい甥っ子への愛を叫んでいる気がしてならない。
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うずみ
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