こちらはサークル「がんかたうるふ」のうずみとみっしの二人組が、ラッキードッグ1とばさらのこばなしを黙々と投下する場所です。
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書き終えた。
あとアンケートの内容を変更してます。
あとアンケートの内容を変更してます。
*****
夜の闇に浮き上がるような白い外套を渡してきたのは官兵衛だった。
これを着てそこに立ってくれているだけでいい、ただし決して動くな。
普段は誰になんと言われようとも佐吉に対して命令することのない官兵衛。そんな彼が、今の主として命ずるという前置きをしてまで佐吉にそう伝えてきたのは、何故なのだろうか。
「官兵衛!」
「……だから動くなと言っただろうが!」
「だが!」
官兵衛の周囲から発せられる轟と風が啼く音は、佐吉の声をかき消してしまう。
木々に包まれながらも人々の通り道として機能している町外れの道、昼政吉が他の小姓立ちに散々殴られた場所だ。夜の闇に包まれるこの時間帯には、この街道を照らすのは旅人の持つ提灯だけのはずなのに。
今そこは青黒い輝きに支配されていた。
首塚、と人々が呼び出した陶器製の髑髏が積み重なった子供の背丈よりも大きい山。その上だけではなく街道を焼き尽くすために現れたかのように、蒼く切なく輝く炎の固まりがいくつも宙に浮かんでいるのだ。
そしてそれは、首塚へと向かおうとしている官兵衛を邪魔するかの如く彼の行く手を塞ぎ。
官兵衛の体を燃やし尽くそうと襲いかかってくる。
「面倒なもんだな!」
黒田官兵衛は軍師として豊臣軍で力を振るっている。
だが今の彼は歴戦の武人の如く薄い金属を貼り合わせた皮の戦鎧を纏い、手には赤子の腕よりも太い鎖。地面まで伸びるその鎖が蛇のように蠢き宙を舞うと炎の玉は一時的にかき消され、官兵衛は一歩前に進む。
目指す先にあるのは青き炎に護られた偽りの首塚。
「官兵衛……燃えてしまうぞ!」
「心配すんな…………っと! お前さんがそこにいてくれりゃあ、やる気も湧くってもんよ」
「何を馬鹿なことを言っている!」
「軍師ってのはな……見てもらうことで力がでるんだよ。いくらいい策を考えついてもな……見てもらわんと意味がないっ!」
小さな火の玉を鎖で吹き飛ばすのには無理がある。
官兵衛の肩に、足に。時には頭にまで蒼い炎が当たり、その度に官兵衛のみに纏う鎧や髪を焼き焦がしていく。顔の正面に当たりそうになった時には悲鳴のような声が漏れてしまった佐吉だったが、首を大きく振った官兵衛がその動きで炎をかき消したので動きかけた足を止めることができた。
普段は前髪に覆われ見ることができない官兵衛の瞳。
大きな体に似合わぬ理知的な輝きを収めた澄んだそれが自分を見る度に、佐吉は胸の中で暴れ続ける不安が少しずつ引いていくのを感じた。官兵衛の歩みは確実で、彼の体に怪我は増えていくが彼は必ずあの場にたどり着く。
佐吉の願いに近い核心は、官兵衛に力を与えたらしい。
「随分と邪魔をしてくれたな……だがそれも終わりだ」
さっさと諦めることだな。
その言葉と共に、官兵衛の手をが振るわれ。
首塚に、鈍い輝きを放つ鎖の一撃がたたき込まれた。
派手な音を立てて真っ二つに割れた首塚の前に立つ官兵衛は、大きな息を吐いてから佐吉を手招きで呼び寄せた。
「終わったのか!?」
「ああ…………見ておけ。これが首塚の正体って奴だ」
「これ……は……?」
「こんな気持ちの悪い物……お前さんなら触りたくないだろう? 誰もが触りたくない物なら、ずっとこの場に放置される。これはそれを逆手にとって考えられたものなんだろうよ……」
積み上げられた陶器の髑髏の中全てに、ある物が入っていた。
『怨』
『豊臣』
『滅亡』
豊臣家への呪いの言葉、そして佐吉には読むことのできない幾何学的な文字。それらがびっしりと書き込まれた札全てに絡みついている黒い糸のような物は髪の毛だろうか。
これを作った物は豊臣家への、そして秀吉を呪い滅亡へ追い込むためにこれを作った。
それだけ怨まれるようなことを、秀吉がするわけがない。そう思い込みたいのだが、常軌を逸した恨みがなければこれだけの物を作れるわけがない。
時間をかけ恨みを札に刻み込み。
偽りの髑髏を重ね。
豊臣家の滅亡を願ったのだ、これを作った人間は。
あまりにも大きすぎる怨念に背筋に寒気が走るのを止められない。大きく身震いした佐吉だったが、その震えを止めるかのように官兵衛の大きな手がそっと頭に乗せられた。
「初陣もまだのお前さんにはわからんかもしれんがな。戦には必ず勝ったやつと負けた奴が生まれる……そうすりゃ怨まれるのも当たり前だ。秀吉が戦に勝ち続けりゃ、こんなやつが山のように出てくるだろうよ」
「もっと……増えるのか?」
「いくらでも出てくる。お前さんも当然怨まれて、もっと大きな首塚を作られるかもしれんな……」
頭を撫でてくれてはいるが、官兵衛の言葉に甘さは一切含まれていない。
蒼い炎が消え去ってしまった今、この暗闇の中では官兵衛の表情を察する事はできず。彼がどんな答えを求めているのか、それを知る術は佐吉にはないが。
恐怖や未来への不安を全て飲み込み、佐吉は薄闇の向こうにある割れた髑髏の破片を見ながらそれを口にする。
「…………私はそれでも秀吉様をお助けしたい。怖いのは怖い……だが、秀吉様はもっと怖いはずだ。だから私は秀吉様が怖くならないようにする!」
「そうか、それがお前さんの答えか。それなら小生は、お前さんをそうなるように育ててやらなきゃいけないって訳だな……面倒な話だ」
「官兵衛痛いぞ」
「すまんな」
勝てば怨まれる、負ければ相手を怨むことになる。
当たり前の論理だが、そこから外れる道もあるのだ。官兵衛はそちらの方を選んで欲しかったのだろう、どこか悲しげな官兵衛の声と頭に触れる手に力が込められたことでそれがわかる。
だが逃げるつもりはない。
人の恨みも憎しみも全て乗り越える事のできる存在になり、秀吉の力となりたい。それがまだ戦に出たことがなく、人の世の本当の意味での苦しみを知らない佐吉が出した結論だったが。
神にも等しい秀吉という存在を失うまで、その思いが揺らぐことはなかったのだった。
「あの子達は首塚の近くで見つかったよ」
「そうか」
「大火傷しててね…………実家に帰らせることにしたから」
「そうか」
「それと首塚の供養は、終わらせたけど……作った奴はまだ見つかってない」
「そうか」
「それから、ようやく彼から書状の返事が来てね……随分家臣たちと揉めたみたいだけどうちに膝を折る気になったみたい……ところで、官兵衛君、僕の話ちゃんと聞いてる!?」
音を立てて茶を飲みながら書物に目をやり、生返事しかしてこない官兵衛の態度が気に障ったのだろう。行儀良くお茶を飲んでいた竹中半兵衛は、急に手を伸ばして官兵衛が読んでいた書物を奪い取った。
火傷だらけの体にはあちこち布が巻かれているが、本人は怪我をしたのをいいことに仕事をさぼって読書三昧。しばらく休みを取ることができていない半兵衛には、そんな楽しみはないというのに。
苛立ちにまかせて奪い取った書物をぱらりとめくると、読んでいたのはザビー教の聖典。なにを読んでいるんだと思う反面、九州に城を持つ彼がザビー教についての知識を深めようとしていることに気がつき関心しはしたのだが。
やっぱり腹が立つのは変わらない。
「何をするんじゃ!」
「僕の話をちゃんと聞いてよね! 佐吉君もなんか言ってやってよ……」
「半兵衛様……この男から本を奪い取るのは私には無理です」
部屋の隅で行儀良く座っている佐吉は、首を振りながら顔をしかめている。
本が好きなのは知っているが、人が大事な話をしている時まで本を読むことはないだろうに。ちゃんと話を聞いてくれてることは知っているが、いい気分はしないのだ。
佐吉の入れてくれたお茶が美味しいから今日は彼に免じて許してやるが。
軍議の際に同じ事をしたら、秀吉の前で思いっきり説教してやる。
「そういやな、半兵衛」
そんな事を考えていたら、本を取られて機嫌が悪そうな官兵衛が話しかけてきた。
「なに?」
「そろそろ小生は中津城に一度帰るぞ、勿論佐吉も連れて行く」
「…………僕、それ始めて聞いたんだけど」
「島津のじいさんから酒につきあえと文が届いてな」
「………………へえ……それ、面白いね」
「そうだろう? 十日後には出発したいんだが」
本を読んでだらだらしていると思ったら、そんなことを考えていた訳か。
佐吉を目の仇にする小姓たちが少なくなったのを幸いに秀吉の元に戻そうと思っていたのだが、多分官兵衛と共に九州に行かせた方がよい勉強になるだろう。
様々な人に会い。
様々な物を見て。
色々なことを学んでくればいい。
佐吉は前もって話をされていたのだろう。驚く様子もなく、こくこくと頷きながら大人達の様子を見守っている彼の顔には以前のような影は存在しなかった。
少なくともここには佐吉の存在を否定する人間はいない。
その顔を見られただけでも、官兵衛に預けた意味があったと思いはするのだが。
「ところで官兵衛君……佐吉君に経文びっしり縫い込ませた外套着せて、自分はほとんど丸腰の状態で行ったって本当?」
「小生の分が間に合わなかったのだからしょうがないだろう……」
「佐吉君を連れて行かなかったらよかっただけじゃないの?」
「それでは佐吉に小生のかっこいいところを見せてやれ……いやいや。佐吉の学ぶ機会を奪うつもりか?」
「本音が漏れてるよ……」
早口だったので佐吉には言っていることがわからなかったらしい。
首をかしげながらこちらを見ている佐吉に笑いかけてやると、官兵衛が苦虫をかみつぶしたような顔で睨み付けてくる。
佐吉があっという間に官兵衛に懐いたことは嬉しい。
官兵衛も佐吉を大事にしてくれているのはありがたい。
だが、なんだろうこの違和感は。
「…………佐吉君を大事にしてくれるのは嬉しいけど…………変なことはしないでね。もう一度言うけど、僕はそういうことをしない人間だと思って君に預けたんだから」
「小生がガキに手を出すわけなかろう」
今はまだ元服前の子供だ。
背は伸びてきているが中身はまだ幼いというか、真面目すぎるので大人の世界のあやふやさを受け入れきれていないが。
数年後の佐吉は、どうなっているだろうか。
少なくとも今より遙かに大きく、そして人として成熟しているだろう。
「私をガキと呼ぶな!」
「ガキと呼ばれたくなきゃ、さっさと大きくなることだな」
「随分背も伸びたのだぞ……みろ、着物が小さくなってきた」
「昨日の今日でそこまで伸びるか」
「貴様が大きすぎるのだ! 少し小さくなれ!」
不毛な言い争いを始めている二人を見ながら、半兵衛は小さく笑む。
できればこの時間が、そして彼らの関係が末永く続くように祈りながら。
数日後にやってくる客人にどういう対応をすべきか、思いを巡らせ始めた。
________________________________________
一編はさんで、次は九州編になります。
半兵衛様いないの寂しいなあ……
これを着てそこに立ってくれているだけでいい、ただし決して動くな。
普段は誰になんと言われようとも佐吉に対して命令することのない官兵衛。そんな彼が、今の主として命ずるという前置きをしてまで佐吉にそう伝えてきたのは、何故なのだろうか。
「官兵衛!」
「……だから動くなと言っただろうが!」
「だが!」
官兵衛の周囲から発せられる轟と風が啼く音は、佐吉の声をかき消してしまう。
木々に包まれながらも人々の通り道として機能している町外れの道、昼政吉が他の小姓立ちに散々殴られた場所だ。夜の闇に包まれるこの時間帯には、この街道を照らすのは旅人の持つ提灯だけのはずなのに。
今そこは青黒い輝きに支配されていた。
首塚、と人々が呼び出した陶器製の髑髏が積み重なった子供の背丈よりも大きい山。その上だけではなく街道を焼き尽くすために現れたかのように、蒼く切なく輝く炎の固まりがいくつも宙に浮かんでいるのだ。
そしてそれは、首塚へと向かおうとしている官兵衛を邪魔するかの如く彼の行く手を塞ぎ。
官兵衛の体を燃やし尽くそうと襲いかかってくる。
「面倒なもんだな!」
黒田官兵衛は軍師として豊臣軍で力を振るっている。
だが今の彼は歴戦の武人の如く薄い金属を貼り合わせた皮の戦鎧を纏い、手には赤子の腕よりも太い鎖。地面まで伸びるその鎖が蛇のように蠢き宙を舞うと炎の玉は一時的にかき消され、官兵衛は一歩前に進む。
目指す先にあるのは青き炎に護られた偽りの首塚。
「官兵衛……燃えてしまうぞ!」
「心配すんな…………っと! お前さんがそこにいてくれりゃあ、やる気も湧くってもんよ」
「何を馬鹿なことを言っている!」
「軍師ってのはな……見てもらうことで力がでるんだよ。いくらいい策を考えついてもな……見てもらわんと意味がないっ!」
小さな火の玉を鎖で吹き飛ばすのには無理がある。
官兵衛の肩に、足に。時には頭にまで蒼い炎が当たり、その度に官兵衛のみに纏う鎧や髪を焼き焦がしていく。顔の正面に当たりそうになった時には悲鳴のような声が漏れてしまった佐吉だったが、首を大きく振った官兵衛がその動きで炎をかき消したので動きかけた足を止めることができた。
普段は前髪に覆われ見ることができない官兵衛の瞳。
大きな体に似合わぬ理知的な輝きを収めた澄んだそれが自分を見る度に、佐吉は胸の中で暴れ続ける不安が少しずつ引いていくのを感じた。官兵衛の歩みは確実で、彼の体に怪我は増えていくが彼は必ずあの場にたどり着く。
佐吉の願いに近い核心は、官兵衛に力を与えたらしい。
「随分と邪魔をしてくれたな……だがそれも終わりだ」
さっさと諦めることだな。
その言葉と共に、官兵衛の手をが振るわれ。
首塚に、鈍い輝きを放つ鎖の一撃がたたき込まれた。
派手な音を立てて真っ二つに割れた首塚の前に立つ官兵衛は、大きな息を吐いてから佐吉を手招きで呼び寄せた。
「終わったのか!?」
「ああ…………見ておけ。これが首塚の正体って奴だ」
「これ……は……?」
「こんな気持ちの悪い物……お前さんなら触りたくないだろう? 誰もが触りたくない物なら、ずっとこの場に放置される。これはそれを逆手にとって考えられたものなんだろうよ……」
積み上げられた陶器の髑髏の中全てに、ある物が入っていた。
『怨』
『豊臣』
『滅亡』
豊臣家への呪いの言葉、そして佐吉には読むことのできない幾何学的な文字。それらがびっしりと書き込まれた札全てに絡みついている黒い糸のような物は髪の毛だろうか。
これを作った物は豊臣家への、そして秀吉を呪い滅亡へ追い込むためにこれを作った。
それだけ怨まれるようなことを、秀吉がするわけがない。そう思い込みたいのだが、常軌を逸した恨みがなければこれだけの物を作れるわけがない。
時間をかけ恨みを札に刻み込み。
偽りの髑髏を重ね。
豊臣家の滅亡を願ったのだ、これを作った人間は。
あまりにも大きすぎる怨念に背筋に寒気が走るのを止められない。大きく身震いした佐吉だったが、その震えを止めるかのように官兵衛の大きな手がそっと頭に乗せられた。
「初陣もまだのお前さんにはわからんかもしれんがな。戦には必ず勝ったやつと負けた奴が生まれる……そうすりゃ怨まれるのも当たり前だ。秀吉が戦に勝ち続けりゃ、こんなやつが山のように出てくるだろうよ」
「もっと……増えるのか?」
「いくらでも出てくる。お前さんも当然怨まれて、もっと大きな首塚を作られるかもしれんな……」
頭を撫でてくれてはいるが、官兵衛の言葉に甘さは一切含まれていない。
蒼い炎が消え去ってしまった今、この暗闇の中では官兵衛の表情を察する事はできず。彼がどんな答えを求めているのか、それを知る術は佐吉にはないが。
恐怖や未来への不安を全て飲み込み、佐吉は薄闇の向こうにある割れた髑髏の破片を見ながらそれを口にする。
「…………私はそれでも秀吉様をお助けしたい。怖いのは怖い……だが、秀吉様はもっと怖いはずだ。だから私は秀吉様が怖くならないようにする!」
「そうか、それがお前さんの答えか。それなら小生は、お前さんをそうなるように育ててやらなきゃいけないって訳だな……面倒な話だ」
「官兵衛痛いぞ」
「すまんな」
勝てば怨まれる、負ければ相手を怨むことになる。
当たり前の論理だが、そこから外れる道もあるのだ。官兵衛はそちらの方を選んで欲しかったのだろう、どこか悲しげな官兵衛の声と頭に触れる手に力が込められたことでそれがわかる。
だが逃げるつもりはない。
人の恨みも憎しみも全て乗り越える事のできる存在になり、秀吉の力となりたい。それがまだ戦に出たことがなく、人の世の本当の意味での苦しみを知らない佐吉が出した結論だったが。
神にも等しい秀吉という存在を失うまで、その思いが揺らぐことはなかったのだった。
「あの子達は首塚の近くで見つかったよ」
「そうか」
「大火傷しててね…………実家に帰らせることにしたから」
「そうか」
「それと首塚の供養は、終わらせたけど……作った奴はまだ見つかってない」
「そうか」
「それから、ようやく彼から書状の返事が来てね……随分家臣たちと揉めたみたいだけどうちに膝を折る気になったみたい……ところで、官兵衛君、僕の話ちゃんと聞いてる!?」
音を立てて茶を飲みながら書物に目をやり、生返事しかしてこない官兵衛の態度が気に障ったのだろう。行儀良くお茶を飲んでいた竹中半兵衛は、急に手を伸ばして官兵衛が読んでいた書物を奪い取った。
火傷だらけの体にはあちこち布が巻かれているが、本人は怪我をしたのをいいことに仕事をさぼって読書三昧。しばらく休みを取ることができていない半兵衛には、そんな楽しみはないというのに。
苛立ちにまかせて奪い取った書物をぱらりとめくると、読んでいたのはザビー教の聖典。なにを読んでいるんだと思う反面、九州に城を持つ彼がザビー教についての知識を深めようとしていることに気がつき関心しはしたのだが。
やっぱり腹が立つのは変わらない。
「何をするんじゃ!」
「僕の話をちゃんと聞いてよね! 佐吉君もなんか言ってやってよ……」
「半兵衛様……この男から本を奪い取るのは私には無理です」
部屋の隅で行儀良く座っている佐吉は、首を振りながら顔をしかめている。
本が好きなのは知っているが、人が大事な話をしている時まで本を読むことはないだろうに。ちゃんと話を聞いてくれてることは知っているが、いい気分はしないのだ。
佐吉の入れてくれたお茶が美味しいから今日は彼に免じて許してやるが。
軍議の際に同じ事をしたら、秀吉の前で思いっきり説教してやる。
「そういやな、半兵衛」
そんな事を考えていたら、本を取られて機嫌が悪そうな官兵衛が話しかけてきた。
「なに?」
「そろそろ小生は中津城に一度帰るぞ、勿論佐吉も連れて行く」
「…………僕、それ始めて聞いたんだけど」
「島津のじいさんから酒につきあえと文が届いてな」
「………………へえ……それ、面白いね」
「そうだろう? 十日後には出発したいんだが」
本を読んでだらだらしていると思ったら、そんなことを考えていた訳か。
佐吉を目の仇にする小姓たちが少なくなったのを幸いに秀吉の元に戻そうと思っていたのだが、多分官兵衛と共に九州に行かせた方がよい勉強になるだろう。
様々な人に会い。
様々な物を見て。
色々なことを学んでくればいい。
佐吉は前もって話をされていたのだろう。驚く様子もなく、こくこくと頷きながら大人達の様子を見守っている彼の顔には以前のような影は存在しなかった。
少なくともここには佐吉の存在を否定する人間はいない。
その顔を見られただけでも、官兵衛に預けた意味があったと思いはするのだが。
「ところで官兵衛君……佐吉君に経文びっしり縫い込ませた外套着せて、自分はほとんど丸腰の状態で行ったって本当?」
「小生の分が間に合わなかったのだからしょうがないだろう……」
「佐吉君を連れて行かなかったらよかっただけじゃないの?」
「それでは佐吉に小生のかっこいいところを見せてやれ……いやいや。佐吉の学ぶ機会を奪うつもりか?」
「本音が漏れてるよ……」
早口だったので佐吉には言っていることがわからなかったらしい。
首をかしげながらこちらを見ている佐吉に笑いかけてやると、官兵衛が苦虫をかみつぶしたような顔で睨み付けてくる。
佐吉があっという間に官兵衛に懐いたことは嬉しい。
官兵衛も佐吉を大事にしてくれているのはありがたい。
だが、なんだろうこの違和感は。
「…………佐吉君を大事にしてくれるのは嬉しいけど…………変なことはしないでね。もう一度言うけど、僕はそういうことをしない人間だと思って君に預けたんだから」
「小生がガキに手を出すわけなかろう」
今はまだ元服前の子供だ。
背は伸びてきているが中身はまだ幼いというか、真面目すぎるので大人の世界のあやふやさを受け入れきれていないが。
数年後の佐吉は、どうなっているだろうか。
少なくとも今より遙かに大きく、そして人として成熟しているだろう。
「私をガキと呼ぶな!」
「ガキと呼ばれたくなきゃ、さっさと大きくなることだな」
「随分背も伸びたのだぞ……みろ、着物が小さくなってきた」
「昨日の今日でそこまで伸びるか」
「貴様が大きすぎるのだ! 少し小さくなれ!」
不毛な言い争いを始めている二人を見ながら、半兵衛は小さく笑む。
できればこの時間が、そして彼らの関係が末永く続くように祈りながら。
数日後にやってくる客人にどういう対応をすべきか、思いを巡らせ始めた。
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一編はさんで、次は九州編になります。
半兵衛様いないの寂しいなあ……
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色々説明
拍手現在豊臣家転生パロ中学生編入ってます
(現在2本 家三 チカナリです)
注意事項
・フリーリンクじゃないです、基本的にはリンクはお断りしています
・ひっそりこっそりが信条なので、黙々と
・捏造、not公式のこばなしが多いので、スルー推奨
ラキドでは幹部全員を溺愛しておりますが、ベルナルドとイヴァンは特に偏愛。ばさらは家三とか奥州の愉快な仲間達と毛長がメインです。うずみさんが現在官三とか官佐にずっぽりとはまり中。
基本は、愛想のかけらもない「ネット怖い~」の書き手が二人で色々書いている場所です。
書いている人
みっし
・生真面目で堅物でムキムキな男性と一見そうじゃなくても根は真面目極まり ないキャラをこよなく愛している、がんかたうるふの片割れ。編み物とお菓子作りが趣味という、第三者曰く可愛らしい一面を持つ反面、パニクると踊ったり、オロオロしだして周囲は見ていて楽しいらしい。荒ぶる舞は、職場の名物だったりする……らしい。
イヴァンちゃんと片倉さんとシズちゃんとスカイハイさんと陛下を思いっきり愛している。好きなアニメは銀魂と最近はFate/zero。型月ファンというよりは元から虚淵ファンでうずみさんからオススメされまくった末にようやっと手を付けて完読した。ライダー組おいしいです。エクシリアではダントツで陛下が好き。陛下が使用可能になる完全版があるなら複数買いしても構わないとのたまう日々。バサラの好きキャラは片倉さん一強だったはずなのに最近はアニキも熱い。かっちり着込むキャラがすきだったはずなのにいきなり露出度が高いキャラを好きになったのは何故か悩む日々。二次元の向かう愛と同じぐらい甥っ子への愛を叫んでいる気がしてならない。
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うずみ
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