こちらはサークル「がんかたうるふ」のうずみとみっしの二人組が、ラッキードッグ1とばさらのこばなしを黙々と投下する場所です。
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書き上がりました、昨夜の内に書き上がっていたのですが何故だかアップできなかったという……
今回のリレーのルール
・キリのいいところと書いている人が判断した段階でバトンタッチ
・どれだけ多くても1回が原稿用紙40枚以内
・へたれてたり、イヴァンべったりだったりするジュリオはなし
・ジュリイヴァでラグベル
・メガネはどんな時でも腹黒
・埋さんがどれだけ(グロ方面で)暴走しても、温かい目で見守ること
今回のリレーのルール
・キリのいいところと書いている人が判断した段階でバトンタッチ
・どれだけ多くても1回が原稿用紙40枚以内
・へたれてたり、イヴァンべったりだったりするジュリオはなし
・ジュリイヴァでラグベル
・メガネはどんな時でも腹黒
・埋さんがどれだけ(グロ方面で)暴走しても、温かい目で見守ること
*****
「大体イヴァン、お前はここに子守の仕事をしに来たのか? その方が性に合っているというのなら、戻った後も子守の仕事を斡旋してやるが」
「テメーこそ、んな歩き方してるってことはもうトシなんだろ? さっさと引退して、うちの風通しをよくしやがれ」
「そうか……俺が引退したらルキーノが筆頭幹部で、俺が顧問ってことになるんだが、それでもいいのか?」
「……………アイツが筆頭幹部? 潰れっだろうが……」
「そう思うんなら、少しは俺を労ることだな」
「ハゲてるだけならまだしも、腰痛かよ……本気でジジイだな」
「俺の前髪は今のところは安泰だ……」
長時間の車の運転で腰を痛めたというベルナルドは、春の日差しを思わせる柔らかな色合いの絨毯が敷き詰められたろうかをよろよろしながら歩いていた。並んで歩いているというか、文句を言いながらベルナルドを支えてやっているイヴァンの髪が揺れる様を見ながら、ジュリオは黙々と歩き続ける。
この屋敷の全てが気に入らないのだ。
例えば誰にも気づかれぬように軽く壁を叩いてみると、空の箱を叩いたような感触。決して費用をけちって壁を張りぼてにしたわけではなく、今ジュリオが叩いてみた壁の奥に、もう一枚壁が存在しているのだ。
目に見えている白い壁の奥に、この館の真の姿が隠れている。
先程イヴァンに気づかれぬように自分たちが宿泊する部屋もチェックしてみたが、大人では通り抜けることが出来ないであろう隠された抜け道がいくつか見つかった。ここから侵入して自分とイヴァンに危害を加えることが出来る相手はそういないだろうが、そこからガスなどを流し込まれたら?
自分はどうにでもなるが、イヴァンを守りきることが出来なくなるかもしれない。
イヴァンが寝てしまったら対策をしておこうと改めて思いながら、ジュリオは再度数メートル前を歩くイヴァンの背を見つめた。
ジャンと同じくらいの身長。
だがジャンとは違う髪の色。
ジャンと背格好が近かったからあの夜を共に過ごしたわけではない。
なりゆきと誤解の末にああいうことになってしまったが、あの時イヴァンがくれた言葉も、そしてぬくもりも。今までの人生で一度も与えてもらえなかった、だがもっとも欲していたものだったのだ。
イヴァンが覚えていなくても、彼に受けた恩を返す必要がある。
だからこそジャンの命令ではなくお願いに素直に従いイヴァンに着いてきたのだが。いざ一緒に過ごすことになってみると、彼とどう接していいのかが全くわからなくなってしまっていた。
今までイヴァンはどちらかといえば味方の中にいる敵だった。
無視をするか冷たい言葉を放つだけでよかったのに、彼を守らなければと決めた瞬間からどう関わればいいのかが全くわからなくなった。ベルナルドに時折肩を貸しながら、悪戯好きの子供のような笑い顔を見せるイヴァンは何も感じていないのだろうか。
この胸を締め付けるような、奇妙な熱さを。
「どうしました?」
顔をしかめていたのだろう、ジュリオのわずかに後ろを歩いていたラグトリフが肩を並べる位置まで移動してきていた。後ろにいたのにジュリオの変化に気がついたのはさすがだが、顔をのぞき込んで得体の知れない笑みを向けてくるのは気分が悪い。
無視をしてやろうと思ったが、前を行くベルナルドたちに聞こえぬように吐息に混ぜて吐き出された言葉が、ジュリオの表情を更に硬く強ばらせた。
「お客さん、お部屋にいらっしゃいました?」
「…………部屋には、来ていない。だが……危なかった」
「おや、あなたに気がつかせなかったんですか、なかなかやりますね~」
ジャケットの内ポケットに収めておいたそれを取り出し、ラグトリフに見せてやる。
この近辺でとれる石を加工した物だろうか。
鋭い、まるで大弓の鏃のような黒々と輝く切片は、先程イヴァンに当たりそうになった雪玉の中に隠されていた。泣きながら謝っていた子供が投げた雪玉が投げられるタイミングにあわせて、何者かが確実な害意をこめて石を入れた雪玉を投げたのだ。
当たればイヴァンは確実に怪我をしていただろう。
大勢いた子供の騒がしさに紛れ込み、確実にイヴァンを狙った。この土地を買い取ろうとしている他の人間の仕業だろうが、嫌がらせにしては手が込みすぎている上にジュリオですら直前まで気がつくことが出来なかった。
相当の手練れがいるということなのだろう。
「それにしても今日はお客さんがたくさんいるみたいですね、わざわざお部屋に挨拶に来てくださった方もいましたし」
「………来たのか?」
「はい、しばらく覗いていきましたけどすぐに消えてしまいましたよ」
「……………」
この得体のしれない男のことだ、覗くだけ覗かせて消える時の音でどこへ向かっているかを探っていたのだろう。誰が敵かもわからないこの状況だ、少しでも情報が欲しいのは事実。
先をゆく二人に気がつかれぬよう、外の景色を隠す程に降り続ける豪雪でびりびりと窓が震えるタイミングでラグトリフに問うてみる。
「どちらへ、向かった?」
「………おや、それが聞きたいんですか?」
「言え」
「あちらですよ……ほら、ボクたちがこれから向かう場所です」
ラグトリフが指さしたのは、今まさに夕食の会場となっている大広間のドアを開けようとしているイヴァンの背だった。
「………………………」
館の中を姿無く移動する謎の存在、イヴァンを傷つけようとした害意の持ち主。そして今回の仕事を邪魔しようとする多数の欲にまみれた人間たち。
それらの全てからイヴァンを守ることができるのだろうか。未だにイヴァンの背を狙っているラグトリフの行き先を手で押さえることで止め、ジュリオは足早に前をゆく二人に近づいて行った。
誰であろうと、イヴァンに触れることも彼を冗談であっても狙うことなんて許せなかったのだ。
窓と壁を隔てた外では、雪と風が荒れ狂っている。
だが夜闇を浸食する白を、夕食会の会場にいる人間は誰も見ていなかった。ひっきりなしに風と雪に叩かれる窓の音すら会場の音が打ち消した上で、それを上回る賑やかさが振りまかれている。
はっきり言えば、うるさくてしょうがない。
今回イヴァンのライバルとなる他の客たちだけならこうはならなかったのだろうが、特別に招かれた聖歌隊の子供たちが皿を片手に室内を集団で走り回っているのだ。付き添い兼伴奏役として着いてきた年若いシスターがおろおろしながら止めようとしているが、それすら子供たちにとっては遊びの種になってしまっていた。
数人の子供たちがばたばたと賑やかな足音を立てて、ジュリオの側を通り過ぎていく。その中に先程イヴァンに雪玉をぶつけそうになった少年がいるのを確認し、ジュリオは大きく彼と距離を取るために背後へと下がった。
壁を背にすれば、少なくとも子供たちが四方から迫ってくることはない。この壁の中に何者かが潜んでいる可能性が高いが、今はその存在はここには来ていないようだった。壁の中からは、何の音も響いては来ない。この館の主人があえて住まわせているのか、それとも勝手に住み着いたのか。
禿頭を隠すことなく善良極まりない笑顔を浮かべ客の応対をしている小柄な主人を見ていると、悪意を持つ物を住まわせる人間には見えなかった。
だが、人には裏があるものだ。
周囲の人間を惹きつける、爽やかかつ知的な笑みを浮かべたまま主人と談笑しているイヴァンだって、普段は悪態をつきながら周囲を睨み付けているのだ。それに比べれば、あの主人が実は悪人だったとしてもジュリオは普通に信じられる。
それにしても、あのイヴァンの変わりぶりは凄まじいを通り越して気持ちが悪い。
丸テーブルの上に置かれた豪華な料理には目もくれず、鮮やかなカッティングが施されたシャンパングラスを片手に持ち。ダークスーツに包まれた細身だが貧弱な印象を与えない体を優雅に動かし、うるさく思われない程度の身振り手振りで会話を盛り上げる。
笑うために細められる瞳の涼やかさと、わずかに撫でつけられた髪の輝きは、いい意味でも悪い意味でも周囲の注目を集めていた。
ざっと見た感じでは、この土地を買い取ろうと集まった客は10組程。そのうち数名が金銭面の都合や実際に施設を見ることで脱落するだろう。館の主人が開いたこの夕食会に、明日は何人の人間が参加するかはまだ読めないが、子供たちと使用人以外はライバルだと考えた方がいいだろう。その中でも際立った存在感と鮮やかな話術で主人を惹きつけているイヴァンは、この場にいるだけで人を惹きつける役割を十分に果たしていた。
彼のわずかな動きや会話で、この空間の雰囲気が変わる。
今まで色々なパーティに参加してきたジュリオだったが、一人の人間がここまで影響力を持つことを見るのは稀だった。
「ミスター・フィオーレ、いや冗談が手厳しい」
「私の仕事を考えていただければ、理解していただけるかと思うのですが」
「オルトラーニ氏から話は聞いておりましたが……色々な方がいるものですなあ」
「ベルナルドは私の人生の師のようなものです。今回も私にストラトン氏に拝謁する名誉を与えてくれましたし、彼には返す恩が増えていくだけで困ります」
聞こえてくる会話は洗練されており、イヴァンの周りにはいつの間にか人が集まっていく。歯切れが良くしっかりとした言葉遣いと爽やかな弁舌は、確実に館の主人と周囲の客たちの心を掴んでしまっていた。
そしてジュリオも。
周囲の状況に目を配っていなければいけないというのに、どうしても意識のかなりの部分をイヴァンに向けてしまっている。彼のわずかな動き、会話の合間に漏れる吐息、そして合間に取っている食事の油のためなのだろう。濡れたように輝きながら動く唇は、ジュリオの背に得体の知れない痛みに近い熱を生み出し始めていた。
不快な熱さではない、むしろこの熱に溺れてしまいたいのに。それと同時にこのまま熱に酔ってはいけない、そんな警告が体の奥底が生まれてくる。
背を壁に預け、イヴァンに姿を目で追い。
ばたばたと遠慮無く走り回る子供たちの足音に消えてしまいそうな彼の声を一つでも聞き逃すまいと集中し、半ば目を閉じていると聞き慣れた足音が近づいてきた。
そのままジュリオに並ぶと、手に持つグラスを掲げながら甘い笑みをこちらに向けてくる。
「イヴァンも成長したな、俺の出る幕がない」
「………………………」
「あそこにいるのはカインズ上院議員か……ロスの奴も大物を引っ張り込んだものだ。ジュリオ、お前も知ってる顔がいくつかはあるだろう?」
「…………数名だ…………いい噂は聞かないが」
「俺たちも向こうにとってはいい噂を聞かない人間だろうさ。それにしても『解体屋』のロスが来ているとなると……面倒なことになりそうだな」
食事用の皿を持っていないのは、ここの食事が子供も食べることを配慮して味付けや材料的に濃いめにしすぎているからか。元々小食のベルナルドには、ここの料理は重すぎたらしい。
長い指にシェリー酒の入ったグラスを絡ませ、いくつも並ぶ丸テーブルに所狭しと置かれた料理を見てはため息をついている。目はイヴァンと走り回る子供たちを追っているが、子供とイヴァンに向けられる視線の質が同じなのは気のせいだろうか。
それについて聞いてみると、
「俺にとっては子供もイヴァンも同じだ、可愛いものだよ。若者には若さという価値がある、それを愛でるのも年長者の仕事さ」
とさらりと言葉を返してきた。
その意見の全てが納得できるわけではないが、目で追う価値がある存在がいるという部分は理解できる気がする。館の主人であるストラトン氏との会話を終え、偶然出会ったであろう知り合いと歓談するイヴァンの姿は、周囲の存在を霞ませる程の力を持っていた。
「ずいぶん楽しそうだな……お前、子供が好きだったのか?」
「………子供は………好きじゃない」
「そうか、俺は好きだがな。特にあの子……10年後には惚れた男が列を作るだろうな。気立ても良さそうだ……養女にでもして、寄宿舎に入れて教育するのも悪くないな」
ベルナルドが指さしたのは、先程イヴァンに張り付いていた子供の一人だった。側頭部で二つに分けて結わえられた黒髪と同色の大きな瞳を持つ少女は、確かに将来はかなりの美女になることが予想できる容貌の持ち主だった。テーブルに手が届かない年少の子供たちに食事を取ってやったりと進んで面倒を見ているところから考えると、美少女特有の傲慢さもないようだ。
ベルナルドのことだ、将来しかるべき相手に嫁がせるために養女にしたいのだろうが、彼のことだ一度懐に入れた相手には打算抜きで愛情を注ぐだろう。それこそ少し離れた場所で食事を楽しんでいる男を受け入れた時のように。
ジャンがカポになる少し前、気がついたらベルナルドはラグトリフと親密さを増していた。ベルナルドの使っている石けんの香りをあの掃除屋が身に纏うようになっていたり、ベルナルドの肌から掃除屋の臭いがするようになったり。あの当時はジャン以外の事はどうでもよかったジュリオだったが、彼と二人で飲みに行った時ベルナルドが男に取られたと散々彼が愚痴ったのをよく覚えている。
将来どうなるかもわからない関係、おまけに同性相手に筆頭幹部が何をしているのか。
その時はそれしか思わなかったが、今ならわかる気がする。どんな相手でも、たとえ同性でも、目が離せなくなる程吸い寄せられてしまう相手というのは確実に存在するのだ。
ジュリオの目が常にイヴァンを見てしまうように。
ベルナルドに養女にでもするかと言わせた少女は、今度はイヴァンに背中から抱きついている。日頃は年下の子供たちの面倒をみなければならない少女にとって、イヴァンのような気さくで甘えられる大人というのは貴重な存在なのだろう。
少女の浮かべる屈託のない笑顔は、短い時間の中でイヴァンという人を知ったから故。
今日招かれた客のほとんどは、そんなイヴァンを馬鹿にするような目線を送っていた。だがいつの間にか子供に囲まれ、彼らの尊敬と愛情を勝ち得ているイヴァンをジュリオは何よりも誇らしく感じていた。
それと同時に、彼にどう近づいていいのかわからない自分に対する悲しみも。
「ね~イヴァン~、明日もいっしょに遊んでくれる?」
「マルゴーばっかりずるいよ、ぼくも!」
「あたしも~!」
「わかったわかった、順番な……マルゴー、さっさと降りろ」
「……………うん………」
黒髪に編み込まれた古めかしいリボンを揺らし、秀麗な容貌を悲しみで曇らせたマルゴーは渋々イヴァンの背から降りた。年長者なので順番を守らなければならないが、甘えさせてくれる優しい相手と離れるのは寂しかったのだろう。
聖歌隊の制服である揃いの濃紺の衣装の裾を掴み、唇を尖らせた彼女の目の前にチョコレートがふんだんに練り込まれた焼き菓子が差し出された。
「あ、ありがとう!」
「いえ、どういたしまして。皆様もいかがですか?」
大きな籠にたくさんの焼き菓子。
濃緑のメイド服の裾を美しく翻しつつ一礼するメイドに向かって、途端に子供たちが群がり始める。彼女は確かベルナルドを部屋に案内していったメイドのはず。
確認のためにベルナルドに目線をやると、出来のいい娘さんだと小さく呟いていた。
客であるイヴァンに子供の世話をさせるのは使用人として不本意と感じたのだろう。巧みに焼き菓子を使い子供たちをイヴァンと離れた方向へ誘導していく彼女は、毎年やってくる子供たちの世話に慣れている様子だった。
「ねえねえエレナさん、ようせいさんのごはんは?」
「ええ、今日もちゃんと用意してありますよ。いつもの妖精さんのテーブルに置いておきますから、明日の朝にでも確認してくださいね」
「妖精?」
「ええ……フィオーレ様でしたね。この地域に伝わる伝承なんです、双子の妖精が家に住んでいて、ご飯をあげないと悪戯してしまうっていう」
「飯を食わせなきゃいやがらせするってワケかよ……めんどくせえ妖精だな」
「そうですね。ですけど、ご飯をあげていれば色々してくれるんですよ」
エレナと呼ばれたメイドとイヴァンの会話の間に、子供たちが背伸びをしながら無理矢理入り込んでくる。
「ボク見たよ、ようせいさん」
「ジェームスが無くしたボタン、妖精さんが探してくれたんだよ」
「トーマスの楽譜も!」
「リネットのリボンも朝起きたらお部屋のすみっこにおいてあったよ」
「捜し物が得意な妖精さんか……確かにいりゃあ楽そうだな」
「この話には続きがあるのですが……あまり楽しい話ではありませんので」
子供には言う必要がないということなのだろう。
ふっと表情を曇らせたエレナだったが、まとわりついてくる子供たちに菓子を渡しながら綺麗にまとめられた頭を振ってみせる。気落ちした姿を子供に見せるわけにはいかないと思ったらしく、次の瞬間には子供たちだけではなく周囲の大人すらも和ませる笑顔をその顔に貼り付けていた。
ただ一人を除いて。
「妖精だの何だの、そんなのどうでもいい! さっさと酒を持ってこい!」
「ロス様、ご所望のお酒は今アンネが取りに行っておりますので、もう少々だけお待ちいただけ……」
「ここの使用人はすぐに物を持ってくることができないのか、妖精のメシを用意する暇があったら人間の酒を持ってこい!」
先程から室内を歩き回っては他の客を牽制していた男が、メイドに食ってかかっていた。相当酒を飲んでいるのだろう、赤ら顔で年若い女性に絡む様ははっきり言って見苦しい以外の何物でもない。
イヴァンの目の前でこれ以上女性を侮辱すれば、きっとイヴァンもじっとしていられないだろう。ここは自分が介入すべきか、そう考えて動こうとする前に、ベルナルドはもうこの場を収める手段を考えていたようだった。
「商売のやり方も汚いが、根性も悪かったようだな……ラグ」
「はいはい~」
「大人の節度ある行動ってやつを教えてやってきてくれ。カインズ上院議員には俺から話を通しておく」
「了解しました、後でごほうびをくださいね?」
「………………か……考えておく」
いつの間にか近づいてきていたラグトリフに指示を与えると、自分は何もしていませんと言いたいかのようにグラスを口に運ぶ。
その後は全てスムーズに物事が進んでいった。
意味不明の言いがかりをつけるロスが、背後から現れたラグトリフに羽交い締めにされながら室内から退場することになり、いつの間にかベルナルドは上院議員と会話を始めていた。元々知り合いだったのだろう、にこやかに会話を進める二人の口からは先代のカポの名前がよく出てきている。
気になることがあるとすれば、ロスが無理矢理退席させられる前に『妖精さんのテーブル』とやらを蹴倒していったことだろうか。ドアの横に置かれた小さく背の低い丸テーブルは、この部屋にも当然の如く存在している謎の存在の通り道の出口に置かれていたのだから。
そしてそこに置かれていた物も、ジュリオの興味を引くには十分だった。
「………ジュリオ?」
「なんでもない」
議員と歓談しながらこちらに声をかけてくるベルナルドに短く言葉を返し、壁から背を離す。あの通り道にイヴァンを絶対に近づけてはいけない、そんな思いを強めながら割れた皿と食物が混ざり合う場所へと近づく。
「…………………………………………」
近づいてみて、感じた恐怖に近い違和感の原因を改めて理解する。
妖精なんて可愛い存在が、ほとんど火の通っていない肉の塊なんて物を食べるわけがない。他のメイドが片付け始めているのは、付け合わせの野菜すら添えられていない、血と肉汁がしたたる肉の塊と、生クリームがたっぷりとかけられたチョコレートケーキだった。床に散らばったそれを汚らわしい物を見るかのように見つめながら、ジュリオはメイドの尽力もかなわず子供たちに結局絡まれることになっているイヴァンを無言で見つめていた。
テーブルの上に置かれた造花やテーブルクロスで柔和な雰囲気を演出す室内。その中で鮮やかすぎる存在感で浮かび上がっているイヴァン、いつもより彼のそばに近く、長くいられることに感謝しつつも。
本当に食事を食べるために妖精が近づいてきたのか、遠くからずるずると天井を這う『何か』が近づいてきていることに気がつき、ジュリオは彼がどれだけ嫌がろうとも彼を引きずってここをでることを決意していた。
・ということでここでみっしさんにバトンタッチ~
と、とりあえず打ち合わせした部分はほとんど入れましたよ!
BGM 『Sudden Death R99』 by電気式華憐音楽集団
「テメーこそ、んな歩き方してるってことはもうトシなんだろ? さっさと引退して、うちの風通しをよくしやがれ」
「そうか……俺が引退したらルキーノが筆頭幹部で、俺が顧問ってことになるんだが、それでもいいのか?」
「……………アイツが筆頭幹部? 潰れっだろうが……」
「そう思うんなら、少しは俺を労ることだな」
「ハゲてるだけならまだしも、腰痛かよ……本気でジジイだな」
「俺の前髪は今のところは安泰だ……」
長時間の車の運転で腰を痛めたというベルナルドは、春の日差しを思わせる柔らかな色合いの絨毯が敷き詰められたろうかをよろよろしながら歩いていた。並んで歩いているというか、文句を言いながらベルナルドを支えてやっているイヴァンの髪が揺れる様を見ながら、ジュリオは黙々と歩き続ける。
この屋敷の全てが気に入らないのだ。
例えば誰にも気づかれぬように軽く壁を叩いてみると、空の箱を叩いたような感触。決して費用をけちって壁を張りぼてにしたわけではなく、今ジュリオが叩いてみた壁の奥に、もう一枚壁が存在しているのだ。
目に見えている白い壁の奥に、この館の真の姿が隠れている。
先程イヴァンに気づかれぬように自分たちが宿泊する部屋もチェックしてみたが、大人では通り抜けることが出来ないであろう隠された抜け道がいくつか見つかった。ここから侵入して自分とイヴァンに危害を加えることが出来る相手はそういないだろうが、そこからガスなどを流し込まれたら?
自分はどうにでもなるが、イヴァンを守りきることが出来なくなるかもしれない。
イヴァンが寝てしまったら対策をしておこうと改めて思いながら、ジュリオは再度数メートル前を歩くイヴァンの背を見つめた。
ジャンと同じくらいの身長。
だがジャンとは違う髪の色。
ジャンと背格好が近かったからあの夜を共に過ごしたわけではない。
なりゆきと誤解の末にああいうことになってしまったが、あの時イヴァンがくれた言葉も、そしてぬくもりも。今までの人生で一度も与えてもらえなかった、だがもっとも欲していたものだったのだ。
イヴァンが覚えていなくても、彼に受けた恩を返す必要がある。
だからこそジャンの命令ではなくお願いに素直に従いイヴァンに着いてきたのだが。いざ一緒に過ごすことになってみると、彼とどう接していいのかが全くわからなくなってしまっていた。
今までイヴァンはどちらかといえば味方の中にいる敵だった。
無視をするか冷たい言葉を放つだけでよかったのに、彼を守らなければと決めた瞬間からどう関わればいいのかが全くわからなくなった。ベルナルドに時折肩を貸しながら、悪戯好きの子供のような笑い顔を見せるイヴァンは何も感じていないのだろうか。
この胸を締め付けるような、奇妙な熱さを。
「どうしました?」
顔をしかめていたのだろう、ジュリオのわずかに後ろを歩いていたラグトリフが肩を並べる位置まで移動してきていた。後ろにいたのにジュリオの変化に気がついたのはさすがだが、顔をのぞき込んで得体の知れない笑みを向けてくるのは気分が悪い。
無視をしてやろうと思ったが、前を行くベルナルドたちに聞こえぬように吐息に混ぜて吐き出された言葉が、ジュリオの表情を更に硬く強ばらせた。
「お客さん、お部屋にいらっしゃいました?」
「…………部屋には、来ていない。だが……危なかった」
「おや、あなたに気がつかせなかったんですか、なかなかやりますね~」
ジャケットの内ポケットに収めておいたそれを取り出し、ラグトリフに見せてやる。
この近辺でとれる石を加工した物だろうか。
鋭い、まるで大弓の鏃のような黒々と輝く切片は、先程イヴァンに当たりそうになった雪玉の中に隠されていた。泣きながら謝っていた子供が投げた雪玉が投げられるタイミングにあわせて、何者かが確実な害意をこめて石を入れた雪玉を投げたのだ。
当たればイヴァンは確実に怪我をしていただろう。
大勢いた子供の騒がしさに紛れ込み、確実にイヴァンを狙った。この土地を買い取ろうとしている他の人間の仕業だろうが、嫌がらせにしては手が込みすぎている上にジュリオですら直前まで気がつくことが出来なかった。
相当の手練れがいるということなのだろう。
「それにしても今日はお客さんがたくさんいるみたいですね、わざわざお部屋に挨拶に来てくださった方もいましたし」
「………来たのか?」
「はい、しばらく覗いていきましたけどすぐに消えてしまいましたよ」
「……………」
この得体のしれない男のことだ、覗くだけ覗かせて消える時の音でどこへ向かっているかを探っていたのだろう。誰が敵かもわからないこの状況だ、少しでも情報が欲しいのは事実。
先をゆく二人に気がつかれぬよう、外の景色を隠す程に降り続ける豪雪でびりびりと窓が震えるタイミングでラグトリフに問うてみる。
「どちらへ、向かった?」
「………おや、それが聞きたいんですか?」
「言え」
「あちらですよ……ほら、ボクたちがこれから向かう場所です」
ラグトリフが指さしたのは、今まさに夕食の会場となっている大広間のドアを開けようとしているイヴァンの背だった。
「………………………」
館の中を姿無く移動する謎の存在、イヴァンを傷つけようとした害意の持ち主。そして今回の仕事を邪魔しようとする多数の欲にまみれた人間たち。
それらの全てからイヴァンを守ることができるのだろうか。未だにイヴァンの背を狙っているラグトリフの行き先を手で押さえることで止め、ジュリオは足早に前をゆく二人に近づいて行った。
誰であろうと、イヴァンに触れることも彼を冗談であっても狙うことなんて許せなかったのだ。
窓と壁を隔てた外では、雪と風が荒れ狂っている。
だが夜闇を浸食する白を、夕食会の会場にいる人間は誰も見ていなかった。ひっきりなしに風と雪に叩かれる窓の音すら会場の音が打ち消した上で、それを上回る賑やかさが振りまかれている。
はっきり言えば、うるさくてしょうがない。
今回イヴァンのライバルとなる他の客たちだけならこうはならなかったのだろうが、特別に招かれた聖歌隊の子供たちが皿を片手に室内を集団で走り回っているのだ。付き添い兼伴奏役として着いてきた年若いシスターがおろおろしながら止めようとしているが、それすら子供たちにとっては遊びの種になってしまっていた。
数人の子供たちがばたばたと賑やかな足音を立てて、ジュリオの側を通り過ぎていく。その中に先程イヴァンに雪玉をぶつけそうになった少年がいるのを確認し、ジュリオは大きく彼と距離を取るために背後へと下がった。
壁を背にすれば、少なくとも子供たちが四方から迫ってくることはない。この壁の中に何者かが潜んでいる可能性が高いが、今はその存在はここには来ていないようだった。壁の中からは、何の音も響いては来ない。この館の主人があえて住まわせているのか、それとも勝手に住み着いたのか。
禿頭を隠すことなく善良極まりない笑顔を浮かべ客の応対をしている小柄な主人を見ていると、悪意を持つ物を住まわせる人間には見えなかった。
だが、人には裏があるものだ。
周囲の人間を惹きつける、爽やかかつ知的な笑みを浮かべたまま主人と談笑しているイヴァンだって、普段は悪態をつきながら周囲を睨み付けているのだ。それに比べれば、あの主人が実は悪人だったとしてもジュリオは普通に信じられる。
それにしても、あのイヴァンの変わりぶりは凄まじいを通り越して気持ちが悪い。
丸テーブルの上に置かれた豪華な料理には目もくれず、鮮やかなカッティングが施されたシャンパングラスを片手に持ち。ダークスーツに包まれた細身だが貧弱な印象を与えない体を優雅に動かし、うるさく思われない程度の身振り手振りで会話を盛り上げる。
笑うために細められる瞳の涼やかさと、わずかに撫でつけられた髪の輝きは、いい意味でも悪い意味でも周囲の注目を集めていた。
ざっと見た感じでは、この土地を買い取ろうと集まった客は10組程。そのうち数名が金銭面の都合や実際に施設を見ることで脱落するだろう。館の主人が開いたこの夕食会に、明日は何人の人間が参加するかはまだ読めないが、子供たちと使用人以外はライバルだと考えた方がいいだろう。その中でも際立った存在感と鮮やかな話術で主人を惹きつけているイヴァンは、この場にいるだけで人を惹きつける役割を十分に果たしていた。
彼のわずかな動きや会話で、この空間の雰囲気が変わる。
今まで色々なパーティに参加してきたジュリオだったが、一人の人間がここまで影響力を持つことを見るのは稀だった。
「ミスター・フィオーレ、いや冗談が手厳しい」
「私の仕事を考えていただければ、理解していただけるかと思うのですが」
「オルトラーニ氏から話は聞いておりましたが……色々な方がいるものですなあ」
「ベルナルドは私の人生の師のようなものです。今回も私にストラトン氏に拝謁する名誉を与えてくれましたし、彼には返す恩が増えていくだけで困ります」
聞こえてくる会話は洗練されており、イヴァンの周りにはいつの間にか人が集まっていく。歯切れが良くしっかりとした言葉遣いと爽やかな弁舌は、確実に館の主人と周囲の客たちの心を掴んでしまっていた。
そしてジュリオも。
周囲の状況に目を配っていなければいけないというのに、どうしても意識のかなりの部分をイヴァンに向けてしまっている。彼のわずかな動き、会話の合間に漏れる吐息、そして合間に取っている食事の油のためなのだろう。濡れたように輝きながら動く唇は、ジュリオの背に得体の知れない痛みに近い熱を生み出し始めていた。
不快な熱さではない、むしろこの熱に溺れてしまいたいのに。それと同時にこのまま熱に酔ってはいけない、そんな警告が体の奥底が生まれてくる。
背を壁に預け、イヴァンに姿を目で追い。
ばたばたと遠慮無く走り回る子供たちの足音に消えてしまいそうな彼の声を一つでも聞き逃すまいと集中し、半ば目を閉じていると聞き慣れた足音が近づいてきた。
そのままジュリオに並ぶと、手に持つグラスを掲げながら甘い笑みをこちらに向けてくる。
「イヴァンも成長したな、俺の出る幕がない」
「………………………」
「あそこにいるのはカインズ上院議員か……ロスの奴も大物を引っ張り込んだものだ。ジュリオ、お前も知ってる顔がいくつかはあるだろう?」
「…………数名だ…………いい噂は聞かないが」
「俺たちも向こうにとってはいい噂を聞かない人間だろうさ。それにしても『解体屋』のロスが来ているとなると……面倒なことになりそうだな」
食事用の皿を持っていないのは、ここの食事が子供も食べることを配慮して味付けや材料的に濃いめにしすぎているからか。元々小食のベルナルドには、ここの料理は重すぎたらしい。
長い指にシェリー酒の入ったグラスを絡ませ、いくつも並ぶ丸テーブルに所狭しと置かれた料理を見てはため息をついている。目はイヴァンと走り回る子供たちを追っているが、子供とイヴァンに向けられる視線の質が同じなのは気のせいだろうか。
それについて聞いてみると、
「俺にとっては子供もイヴァンも同じだ、可愛いものだよ。若者には若さという価値がある、それを愛でるのも年長者の仕事さ」
とさらりと言葉を返してきた。
その意見の全てが納得できるわけではないが、目で追う価値がある存在がいるという部分は理解できる気がする。館の主人であるストラトン氏との会話を終え、偶然出会ったであろう知り合いと歓談するイヴァンの姿は、周囲の存在を霞ませる程の力を持っていた。
「ずいぶん楽しそうだな……お前、子供が好きだったのか?」
「………子供は………好きじゃない」
「そうか、俺は好きだがな。特にあの子……10年後には惚れた男が列を作るだろうな。気立ても良さそうだ……養女にでもして、寄宿舎に入れて教育するのも悪くないな」
ベルナルドが指さしたのは、先程イヴァンに張り付いていた子供の一人だった。側頭部で二つに分けて結わえられた黒髪と同色の大きな瞳を持つ少女は、確かに将来はかなりの美女になることが予想できる容貌の持ち主だった。テーブルに手が届かない年少の子供たちに食事を取ってやったりと進んで面倒を見ているところから考えると、美少女特有の傲慢さもないようだ。
ベルナルドのことだ、将来しかるべき相手に嫁がせるために養女にしたいのだろうが、彼のことだ一度懐に入れた相手には打算抜きで愛情を注ぐだろう。それこそ少し離れた場所で食事を楽しんでいる男を受け入れた時のように。
ジャンがカポになる少し前、気がついたらベルナルドはラグトリフと親密さを増していた。ベルナルドの使っている石けんの香りをあの掃除屋が身に纏うようになっていたり、ベルナルドの肌から掃除屋の臭いがするようになったり。あの当時はジャン以外の事はどうでもよかったジュリオだったが、彼と二人で飲みに行った時ベルナルドが男に取られたと散々彼が愚痴ったのをよく覚えている。
将来どうなるかもわからない関係、おまけに同性相手に筆頭幹部が何をしているのか。
その時はそれしか思わなかったが、今ならわかる気がする。どんな相手でも、たとえ同性でも、目が離せなくなる程吸い寄せられてしまう相手というのは確実に存在するのだ。
ジュリオの目が常にイヴァンを見てしまうように。
ベルナルドに養女にでもするかと言わせた少女は、今度はイヴァンに背中から抱きついている。日頃は年下の子供たちの面倒をみなければならない少女にとって、イヴァンのような気さくで甘えられる大人というのは貴重な存在なのだろう。
少女の浮かべる屈託のない笑顔は、短い時間の中でイヴァンという人を知ったから故。
今日招かれた客のほとんどは、そんなイヴァンを馬鹿にするような目線を送っていた。だがいつの間にか子供に囲まれ、彼らの尊敬と愛情を勝ち得ているイヴァンをジュリオは何よりも誇らしく感じていた。
それと同時に、彼にどう近づいていいのかわからない自分に対する悲しみも。
「ね~イヴァン~、明日もいっしょに遊んでくれる?」
「マルゴーばっかりずるいよ、ぼくも!」
「あたしも~!」
「わかったわかった、順番な……マルゴー、さっさと降りろ」
「……………うん………」
黒髪に編み込まれた古めかしいリボンを揺らし、秀麗な容貌を悲しみで曇らせたマルゴーは渋々イヴァンの背から降りた。年長者なので順番を守らなければならないが、甘えさせてくれる優しい相手と離れるのは寂しかったのだろう。
聖歌隊の制服である揃いの濃紺の衣装の裾を掴み、唇を尖らせた彼女の目の前にチョコレートがふんだんに練り込まれた焼き菓子が差し出された。
「あ、ありがとう!」
「いえ、どういたしまして。皆様もいかがですか?」
大きな籠にたくさんの焼き菓子。
濃緑のメイド服の裾を美しく翻しつつ一礼するメイドに向かって、途端に子供たちが群がり始める。彼女は確かベルナルドを部屋に案内していったメイドのはず。
確認のためにベルナルドに目線をやると、出来のいい娘さんだと小さく呟いていた。
客であるイヴァンに子供の世話をさせるのは使用人として不本意と感じたのだろう。巧みに焼き菓子を使い子供たちをイヴァンと離れた方向へ誘導していく彼女は、毎年やってくる子供たちの世話に慣れている様子だった。
「ねえねえエレナさん、ようせいさんのごはんは?」
「ええ、今日もちゃんと用意してありますよ。いつもの妖精さんのテーブルに置いておきますから、明日の朝にでも確認してくださいね」
「妖精?」
「ええ……フィオーレ様でしたね。この地域に伝わる伝承なんです、双子の妖精が家に住んでいて、ご飯をあげないと悪戯してしまうっていう」
「飯を食わせなきゃいやがらせするってワケかよ……めんどくせえ妖精だな」
「そうですね。ですけど、ご飯をあげていれば色々してくれるんですよ」
エレナと呼ばれたメイドとイヴァンの会話の間に、子供たちが背伸びをしながら無理矢理入り込んでくる。
「ボク見たよ、ようせいさん」
「ジェームスが無くしたボタン、妖精さんが探してくれたんだよ」
「トーマスの楽譜も!」
「リネットのリボンも朝起きたらお部屋のすみっこにおいてあったよ」
「捜し物が得意な妖精さんか……確かにいりゃあ楽そうだな」
「この話には続きがあるのですが……あまり楽しい話ではありませんので」
子供には言う必要がないということなのだろう。
ふっと表情を曇らせたエレナだったが、まとわりついてくる子供たちに菓子を渡しながら綺麗にまとめられた頭を振ってみせる。気落ちした姿を子供に見せるわけにはいかないと思ったらしく、次の瞬間には子供たちだけではなく周囲の大人すらも和ませる笑顔をその顔に貼り付けていた。
ただ一人を除いて。
「妖精だの何だの、そんなのどうでもいい! さっさと酒を持ってこい!」
「ロス様、ご所望のお酒は今アンネが取りに行っておりますので、もう少々だけお待ちいただけ……」
「ここの使用人はすぐに物を持ってくることができないのか、妖精のメシを用意する暇があったら人間の酒を持ってこい!」
先程から室内を歩き回っては他の客を牽制していた男が、メイドに食ってかかっていた。相当酒を飲んでいるのだろう、赤ら顔で年若い女性に絡む様ははっきり言って見苦しい以外の何物でもない。
イヴァンの目の前でこれ以上女性を侮辱すれば、きっとイヴァンもじっとしていられないだろう。ここは自分が介入すべきか、そう考えて動こうとする前に、ベルナルドはもうこの場を収める手段を考えていたようだった。
「商売のやり方も汚いが、根性も悪かったようだな……ラグ」
「はいはい~」
「大人の節度ある行動ってやつを教えてやってきてくれ。カインズ上院議員には俺から話を通しておく」
「了解しました、後でごほうびをくださいね?」
「………………か……考えておく」
いつの間にか近づいてきていたラグトリフに指示を与えると、自分は何もしていませんと言いたいかのようにグラスを口に運ぶ。
その後は全てスムーズに物事が進んでいった。
意味不明の言いがかりをつけるロスが、背後から現れたラグトリフに羽交い締めにされながら室内から退場することになり、いつの間にかベルナルドは上院議員と会話を始めていた。元々知り合いだったのだろう、にこやかに会話を進める二人の口からは先代のカポの名前がよく出てきている。
気になることがあるとすれば、ロスが無理矢理退席させられる前に『妖精さんのテーブル』とやらを蹴倒していったことだろうか。ドアの横に置かれた小さく背の低い丸テーブルは、この部屋にも当然の如く存在している謎の存在の通り道の出口に置かれていたのだから。
そしてそこに置かれていた物も、ジュリオの興味を引くには十分だった。
「………ジュリオ?」
「なんでもない」
議員と歓談しながらこちらに声をかけてくるベルナルドに短く言葉を返し、壁から背を離す。あの通り道にイヴァンを絶対に近づけてはいけない、そんな思いを強めながら割れた皿と食物が混ざり合う場所へと近づく。
「…………………………………………」
近づいてみて、感じた恐怖に近い違和感の原因を改めて理解する。
妖精なんて可愛い存在が、ほとんど火の通っていない肉の塊なんて物を食べるわけがない。他のメイドが片付け始めているのは、付け合わせの野菜すら添えられていない、血と肉汁がしたたる肉の塊と、生クリームがたっぷりとかけられたチョコレートケーキだった。床に散らばったそれを汚らわしい物を見るかのように見つめながら、ジュリオはメイドの尽力もかなわず子供たちに結局絡まれることになっているイヴァンを無言で見つめていた。
テーブルの上に置かれた造花やテーブルクロスで柔和な雰囲気を演出す室内。その中で鮮やかすぎる存在感で浮かび上がっているイヴァン、いつもより彼のそばに近く、長くいられることに感謝しつつも。
本当に食事を食べるために妖精が近づいてきたのか、遠くからずるずると天井を這う『何か』が近づいてきていることに気がつき、ジュリオは彼がどれだけ嫌がろうとも彼を引きずってここをでることを決意していた。
・ということでここでみっしさんにバトンタッチ~
と、とりあえず打ち合わせした部分はほとんど入れましたよ!
BGM 『Sudden Death R99』 by電気式華憐音楽集団
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色々説明
拍手現在豊臣家転生パロ中学生編入ってます
(現在2本 家三 チカナリです)
注意事項
・フリーリンクじゃないです、基本的にはリンクはお断りしています
・ひっそりこっそりが信条なので、黙々と
・捏造、not公式のこばなしが多いので、スルー推奨
ラキドでは幹部全員を溺愛しておりますが、ベルナルドとイヴァンは特に偏愛。ばさらは家三とか奥州の愉快な仲間達と毛長がメインです。うずみさんが現在官三とか官佐にずっぽりとはまり中。
基本は、愛想のかけらもない「ネット怖い~」の書き手が二人で色々書いている場所です。
書いている人
みっし
・生真面目で堅物でムキムキな男性と一見そうじゃなくても根は真面目極まり ないキャラをこよなく愛している、がんかたうるふの片割れ。編み物とお菓子作りが趣味という、第三者曰く可愛らしい一面を持つ反面、パニクると踊ったり、オロオロしだして周囲は見ていて楽しいらしい。荒ぶる舞は、職場の名物だったりする……らしい。
イヴァンちゃんと片倉さんとシズちゃんとスカイハイさんと陛下を思いっきり愛している。好きなアニメは銀魂と最近はFate/zero。型月ファンというよりは元から虚淵ファンでうずみさんからオススメされまくった末にようやっと手を付けて完読した。ライダー組おいしいです。エクシリアではダントツで陛下が好き。陛下が使用可能になる完全版があるなら複数買いしても構わないとのたまう日々。バサラの好きキャラは片倉さん一強だったはずなのに最近はアニキも熱い。かっちり着込むキャラがすきだったはずなのにいきなり露出度が高いキャラを好きになったのは何故か悩む日々。二次元の向かう愛と同じぐらい甥っ子への愛を叫んでいる気がしてならない。
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うずみ
・相方を愛しすぎている変な人。趣味は畑仕事に漬け物作り、好きな物は不幸属性の美人(男女問わず)。ばさらでは石田さんと黒田さんをこよなく愛していたり、赤い子めんこいにゃぁとたまに叫んでいる。ついったのフォローは下 のアイコンから。
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ばさら垢できました
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