こちらはサークル「がんかたうるふ」のうずみとみっしの二人組が、ラッキードッグ1とばさらのこばなしを黙々と投下する場所です。
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
書き終わりました。
新刊作業のため、数日こちらの続きはアップできないかと。
「豊臣家~」の書き下ろしが思ったより長くなりそうです……松永先生は私に呪いでもかけてるんでしょうか……
新刊作業のため、数日こちらの続きはアップできないかと。
「豊臣家~」の書き下ろしが思ったより長くなりそうです……松永先生は私に呪いでもかけてるんでしょうか……
*****
「これがうちの旦那から預かった団子」
「後で喰う、そこに置いておけ」
「駄目だよ、ちゃんと食べるまで見届けてこいって旦那に言われてるからね」
「真田め……」
「この頃全然食べてないんだって? 夜も寝てないっていうし……もっと体を大事にしないと、戦の最中にぶっ倒れちゃうよ」
「腹が減れば食べる……私のことは放っておけ」
膝を崩し、小さな文机の前で筆を動かし続ける三成を前に、佐助は大仰なため息を見せつけるようについてみせた。
佐助が見た限り、黒田官兵衛は精神的に非常に健全な男である。間違っても目の前にいる色気のある女を放置して男を口説くような馬鹿ではないはずなのだ。
それなのに彼は三成に惹かれ、己の全てを捧げようとしている。
最初はいい年をした大人が何を血迷ったのかと苦笑したのだが、今なら佐助にもそれがわかる。石田三成は、満ちた部分と欠けた部分の落差が非常に大きく、その欠けた部分を埋めなければと周囲の人間に思わせる青年だった。
まるで満ち欠けを繰り返す月のように。
時には周囲を睥睨するかのように輝いたと思ったら、次の瞬間には輝きを失い周囲の庇護欲をかき立てる。戦場では一騎当千の将として縦横無尽に駆け巡り、一つの国を治める者としては堅実な政治を心がける統治者であり。そのくせ人間として生きるために必要な物を彼は全く重視していなかった。
ほとんど眠ろうとせず、自分が必要だと思わなければ食べる事も拒否する。
天賦の才の代わりに人として生きるために大切な物を全て失ったのでは、そう思わせる程に何も欲しがらないのだ。生きるために必要な食物も水も、そして眠ることすらも。
療養でここに来ているというのに今も真剣な形相で紙を見つめ、仕事をこなし続けているのだろう。周囲には字が書き連ねられた紙が積み重ねられ、使用人が用意した食事は部屋の隅に押しやられている始末。
彼に仕事を渡している人間を見つけて、一度文句を言ってやらなければいけないなと思いつつ、佐助は幸村から託された竹皮に包まれた団子を彼に向かって差し出した。
「旦那のお気に入りの店の団子だよ、お茶でも飲みながらつまんだら?」
「これが終わればな」
「いっつもそう言うけどさ、その仕事が終わるのはいつ?」
「………………………」
途端にぷいと横を向いた三成だったが、そうすると以前より更に細くなった首筋が更によく見えるようになる。白い肌にうっすらと透けて見える鮮やかな血の道は、男にしては滑らかすぎる皮膚を更に美しく彩っておりある意味芸術品のよう。女とは違う美しさを持つこんな肌をずっと見つめていれば、衆道の気のない男でもぐらついてしまうだろう。これでもう少し背が小さくて性格が素直だったら、その手の野郎が引く手あまただったろうにと思いながら、佐助は三成に気がつかれないように静かに背後を伺った。
襖一枚隔てた隣の部屋では、家康と慶次が待機している。
今はまだ大人しくしているが、今後の三成の言動次第では興奮して襖をぶち破って飛び出しかねないのが今の家康だ。三成は家康は自分の事をただの友人としか思っていないと言っていたが、家康の澄んだ瞳に宿っていたのは三成に向けた深すぎる愛情だった。あんな目で常時見つめられて、それでも家康は友人だと信じている三成の鈍さも相当なもの。だが、家康の方もよく我慢したものだ。
彼の忍耐強さに敬服はするが、佐助は基本的には官兵衛の味方である。
できればこの戦に石田軍が勝利し、その後は大谷主導ではなく官兵衛の補佐で三成に治めていって欲しい。それが武田を繁栄させる方法であり、幸村が名君として甲斐を守っていく為の最善の道だともわかっているのだ。
だからできれば家康には三成の顔を一目見たらそのままお引き取り願いたい。
一度会わせて振られれば三成も諦めるだろうと言っていた官兵衛の意見に賛同していた佐助だったが、家康を見た瞬間にあっさりと考えを変えることとなった。
徳川家康は一度愛した人間をどのようなことがあっても諦める人間ではない。
彼の人間としての大きすぎる器は、愛しい人間を受け入れるためにまず存在する。家康という人間をよく知らないが故に、官兵衛は色々と甘く考えているようだが、
二人を再会させれば、間違いなく思いは更に燃え上がるだろう。
そんなことになったら官兵衛が可哀想だし、まず幸村の今後に影響が出るかもしれない。さてどうすべきかと考えながらあたりさわりのない話を続けながら、背後のある襖に全神経を集中させる。
これがわずかでも音を立てて揺れたら、三成を言いくるめて外に出してしまおう。
相変わらず仕事を続けようとする三成を笑顔で睨み付けながら、なんとか仕事をやめさせようとしているとある事に気がついた。
「あれ? 白いのは連れてこなかったの?」
「ああ『しの』か。あれなら外に出て行った、多分餌でも取りに行ったのだろう」
「うちの紅丸もよく外に遊びに行くけど、この間は猪捕まえてきてさ……まあ美味しく食べさせてもらったけど」
「しのも鹿くらいなら捕らえてくるがな」
「結局名前はしのになったんだ?」
「しのと呼べ……と官兵衛が言った」
どこか含みがあるような三成の言い方に、佐助の背筋を何故か寒気のような物が走る。
たかが虎の名前で何が変わる。そう思いながら三成に名前の由来を問うと、彼の口から出てきたのは予想だにしなかった本当の名前だった。
「本当の名前は東雲というのだ……だが官兵衛はしのと呼べ、と」
「しののめって……」
「あれは白くて綺麗だ……家康に似ている」
「だからって、あんたがその名前を付けちゃ駄目だよ……」
あの厳つい外見に反して和歌を嗜み、自然を詠むことを楽しんでいた信玄の側にいたので佐助もその言葉の意味は知っていた。
夜の闇に挿す一条の光を暁と呼び、
日が昇り世界が光に包まれる時のことを曙と呼ぶ。
そして暁と曙の間、闇に満ちた世界から光の時へと移り変わる瞬間のことを、東雲というのだ。
日月とも呼び称される家康と三成、その二人を繋ぐ意味を持つ名を自らに付き従う虎に与える。その意味の重さを三成がわかっていないはずがないだろうし、官兵衛も勿論止めたはず。そしてその結果『しの』という愛称が生まれたというのなら、官兵衛は三成を止めることができなかったのだろう。
しののめ、という名前を半分に切って呼ぶように仕向けたのは、二人の間が切れるようにという願いを官兵衛なりに込めているのだろうか。
とはいえ、西の武将達が彼の元へ様々な理由で集まり始めている現在の状況で、東という名のつく獣を側に寄せていることが知れたら三成の立場が危なくなる。そしてこれを聞いているはずの家康がどう反応するのか、それを全く予想することができないのだ。
慶次が家康を止めていてくれればいいが、と考えている合間にも三成の言葉は続く。
「しのならそろそろ帰ってくると思うが、会っていくのか?」
「俺様の仕事はあんたがちゃんと飯を食って、寝ていることを確認することだから。あまり眠らないのは知ってるけどさ、この頃本当に寝なくなったんだって?」
「日が昇っている内は少し横になる」
「普通は夜に寝るんだよ? 夜寝たくない理由でもあるわけ?」
「…………夜に眠ると夢見が悪い」
子供じゃないんだから。
それがすぐに思いついた言葉だったのだが、筆を止めた三成の顔があまりにも青ざめていたのでそれを口に乗せるのをやめることにした。
かわりにできるだけ優しい声で、
「どんな夢?」
と聞いてやると、三成はわずかの間眉根を寄せ悩んでいるような様子を見せる。
「どうしたの?」
「悪夢は話すと聞いた者に受け渡してしまうと聞いたことがある」
「俺様のこと、心配してくれてるわけだ」
「別に貴様を心配しているわけではない!」
「なら言えるよね? 別に自分の臣下でもない俺様を心配するなんて、石田の大将らしくないことするわけないし」
からかうように、挑発するようににやにやしながら笑いかけてやると、観念したのか目線を下に落とした三成がぼそりと小さな声でそれを口にした。
「…………黒い花の花弁のような物に絡みつかれる夢だ」
「それは確かにあまりいい夢じゃないね」
「皆が死んでいく……あの花に喰われた骨の山を踏み越え、私は家康の元に行こうとするのだが……家康は……」
「言わなくていいよ。それだけ話せば、俺様も悪い夢の半分くらいは分けてもらえるんじゃないかな」
「………………………」
「俺様に夢を半分渡したと思えば少しは眠れるんじゃないの? そろそろ仕事を片付けて、一度横になるといいよ」
三成が夜毎見る悪夢は、彼の不安を形にしているのだろう。
夜の闇は人の心を曇らせ、奥底に潜む闇を引きずり出す。眠りの仲ですら安らぎを与えられない今の三成を家康に会わせたら、彼は救いを得ることができるのだろうか。
否。
敵と味方という状況の中で愛しい人の心が自分に向いていることを知ることこそ、三成にとっての不幸だろう。
愛する相手に素直に心を預けられない不幸は、自分が一番知っている。
「……貴様、名前はなんだ?」
「物覚え悪いの? 俺様は猿飛佐助……そろそろ覚えてよね」
「そうか」
じいっと佐助を見据えた後、三成は素直に頷いて自分の周囲に散らばる紙を片付け始めた。佐助の言葉の何が三成に響いたのかはわからない。
だが三成はその時始めて、佐助の存在を受け入れたのだろう。
自分を気遣ってくれる人間がまた一人増えたことを喜んでいるのか、外に出たというしのの戻りを待っているのか。光を透かし白く輝く障子の方を見つめながら。
少しだけ顔をほろこばせた。
家康に似ている。
彼が会話の合間に自分の名を呼んでくれた。
そこに憎しみや恨みが何もこもっていないこと、そして隠しきれない友を懐かしむような響きがあるのを感じ取り。家康は体を震わせ大粒の涙をこぼしながら、必死に襖の向こうにいる三成の元へ行こうとする己を押さえていた。
隣では慶次がじっと自分を見つめている。
自分にここまで同行してくれた彼の面子を潰すわけにもいかないし、三成の姿を覗き見てることで今会ってはいけないという言葉の意味もよくわかった。襖の隙間から気付かれぬようにほんのわずかの間見ただけでも、三成がどれだけ追い込まれているのかがわかったのだ。周囲の人間が彼を精神的に大きく揺さぶりたくないと考えるのは当然のこと。
研ぎすぎたて薄くなってしまった刃のように、鋭く美しいがわずかの衝撃で砕け散ってしまいそうな儚さを持ち。そのくせ各所への侵攻を経て成長したのだろう、一軍の主としての風格を備えつつある。
できればこのまま無理にでも掠っていきたかった。
拒まれるのがわかっていたとしても、思いの丈をぶつけたかった。
だが今何を言っても三成は首を縦には振らないだろう。佐助との会話を聞いていてわかったが、三成は今の状況を前向きとは言えないにしても受け入れて前に進もうとしている。不安定極まりない精神の均衡を自ら律しながら生きている今の三成に、自分という存在をぶつけたら。
いい方向に転がればいいが、悪い方に行ってしまった時のことを考えたくない。
幸い三成は身近な人間には大切にされているらしい。佐助との会話の端々に三成を気遣う幾人もの人間の存在を感じたが、気になるのは官兵衛のこと。
彼はどこまで三成の心を手に入れたのだろう。
布団も敷かず、そのまま畳の上に体を倒し。すぐ側に家康がいるというのに全く気付く様子もなく深い寝息を立て続けている三成の姿を見ながら、家康はその事ばかり考えていた。
三成を守るように部屋の隅に寝転がっているのは、一件純白に見える獣。
「二匹もらったのを、うちの旦那と石田の大将で分け合ったんだよ。餌は自分で取ってくるし、旦那にも懐いてるし、結構可愛い奴だよ」
「三成のことが好きなのだな……儂も好きだ」
日の当たる障子に体を預け、佐助は周辺を警戒してくれている。
小間物屋という名目で中に入れてもらったので、慶次は厨房で飯炊き女達に簪やら飾り紐などを見せており。家康はひょっこり帰ってきたしのという名をもらった獣と佐助に見張られながら、久方ぶりの三成との再会を果たすこととなった。
痩せたとは思う。
眠れていないというのも本当なのだろう。
彼の肩からわずかも離れていない位置に体を置き、じっと上から顔をのぞき込まれているというのに三成に目覚める様子はなかった。時折首を軽く動かす以外は指先一つ揺らそうとせず、むしろ人が側にいることに安堵しているのか寝息にはわずかの乱れも感じられない。
昔は修練という名の模擬戦の後、疲れ果てた体を横たえそのまま二人で眠ってしまったこともあった。
そんな時は三成に何故起こさなかったと怒られたものだが、家康もあの時は熟睡してしまっていたのだ。三成の規則正しい寝息と、肩口に触れる彼のぬくもりが心地よくて。気がついたら日がすっかり沈んでしまっていたのも今ではいい思い出だ。
できれば今の三成が、少しでも長く眠ることができればいいのだが。
「久しぶりだな三成、儂はこの通り元気だ……お前は少し痩せたな」
自分の声では子守歌にはならない、起こしてしまうかもしれない。
でも家康は語りかけずにはいられなかった。
「儂は天下を諦める気はない。万民が幸福に暮らせる国を作る……それが儂の夢だ。だがな三成、儂はお前を諦める気もないのだ。こんな形になってしまったが、儂はこの戦を終わらせ、そしてお前に新しい国造りを手伝ってもらいたい。新しいことを考えるのは好きだが、儂はどうも細かい仕事をするのが苦手でな。お前が常に隣にいて儂を補佐してくれれば、きっと間違いも減るだろうな」
語りかけながらそっと肩に触れ、三成の熱を確認する。
伝わってくるのは暖かさと、ほんのわずかの脈動。
三成は生きている、そして自分の側にいる。
その事実だけで体の芯が熱くなり、歓喜に満たされていくのは自分が愚かな男だからだろうか。愛しい者を追い込んでいるくせに、彼の存在を感じただけで力がわき上がってくる。
三成を苦しめているのはきっと、自分の存在だというのに。
それでもできるだけ三成に触れていたくて、鼻の横に落ちた前髪を直してやっていると呆れたように肩をすくめながら佐助が小声で話しかけてきた。
「あんたといい、黒田のおっさんといい…………大将のこと甘やかしすぎ」
「官兵衛もそうなのか?」
「あのおっさんは過保護すぎるから。まあそのおかげで大将も今まで正気でいられたんだろうけどね」
「官兵衛には礼を言わねばならんな」
「あんたの礼だけは欲しくないんじゃないかな」
にやっと笑ってそう言いはしたが、佐助はすぐに表情を凍らせてしまった。
家康に対していい感情を持っていないのは会った瞬間にわかった。彼にとって主である幸村は、何よりも大切な存在なのであろう。そんな彼を差し置いて謙信に認められた家康を、佐助が認めてくれるわけがない。
わかっていても家康は何度も佐助に話しかける、言葉がいつかわだかまりを消してくれることを願いながら。
「確かに儂がやったことは道義に反しているのだろうな。だがそれを後悔する気はない、儂にはやらねばならぬ事があるのだ」
「…………誤解される事ばかり言うよね、あんたは」
「お前の主人とも話をしたい。儂は話し合いで全てが解決できればいいと……」
「あんたがそう思っていても、あんたの周りの人間は話し合い『以外』で解決したがってるんだよ。それが現実……さっさとそれに気がつくことだね………………さすがの俺様も長い時間はごまかせないよ、石田の大将がいつ起きるかもわからないし。さっさと終わらせて、出て行ってくれるかな」
もう話はしたくない、そう言いたげに佐助の顔が背けられた。
彼はもう家康がどれだけ言葉を尽くしても、聞くことすら拒否するだろう。だが最初のうちは話をしようとしてくれた、その事実があれば今はいい。
いつか最後まで話を聞いてくれる日が来るはずだから。
幼い頃は話すらできずに力で押しつぶされ続けてきた。長じてからも自らの領地を守るために、己の意見を封じ恭順し。だからこそ家康は己の言葉で己の意見を言えなくなることの恐ろしさを知り尽くしていた。
言葉を押し込めれば、自分を失っていくのだ。
三成はそんな事になって欲しくないし、豊臣という檻から解放してやりたい。
この世界は広く美しい。
彼と共に見たあの輝く湖のような美しいものが、まだたくさんあるのだ。
忠誠という檻の中で見る世界ではなく、自分の意志で思うがままに進む人生を彼に与えてやれるように。
彼を救うために彼と戦う。
「三成……そろそろ行かねばならぬようだ。だが儂は必ずお前にまた会いに来る、そしてまた共に……あの湖を見よう」
三成に顔を寄せ、囁きかけるようにそっとその言葉を口にする。
眠っている三成には届かないのはわかってる。だがそれでも家康は思いを言葉にすることを選ぶ。
口にしなければ心が折れてしまう、それは家康も同じだったのだから。
最後に佐助に気付かれぬように耳に唇を寄せ、短く頼りないが不変とも言える愛の言葉を届けると。
家康は眠り続ける愛おしい人に自分の体を覆い隠してくれていた布をかけてやり。
そっとその部屋を後にした。
石田三成が目覚めたのは、空が赤く染まり始めた頃であった。
体を起こすと最初に感じたのは自分に体をすり寄せてくる巨大な獣の毛皮の暖かさ。そして次に気がついたのは、部屋の隅に座って自分が目覚めるまで待っていてくれた細身の忍びの存在だった。
冬らしいほのかな夕焼けの赤が、佐助の髪を鮮やかな赤に染めている。
「ぐっすり寝てたね」
「そうだな……こんなに眠ったのは久しぶりだ」
「そんだけ寝たら、ご飯食べれるよね。暖かいの用意してもらうから、もう少し休んでるといいよ」
「猿飛、聞きたいことがある」
さっと立ち上がり厨房へ向かおうとする佐助を言葉で止めると、三成は気になったことを矢継ぎ早に彼にぶつけ始めていた。
「貴様以外に誰かがこの部屋に来たのか? しのが戻ってきたのは私が眠ってからどれくらいたってか……」
「ちょ、ちょっと! 少し落ちついてよ……なにか気になることでもあったの」
「気になること……というわけではないが」
寝乱れて乱れた髪を指先で整えながら、触れるのは耳。
畳にすりつけて擦れたわけでもないのに熱く、寝起きだというのに心臓の鼓動が跳ね上がっているのが自分でもわかる。戦の後でもここまで胸が苦しくなることなどないというのに、一体何があったのだろうか。
一つだけ思い当たることがあるとすれば、
「夢を……見たような……気がする…………」
「えっと、見たの? それとも見てないの?」
「それがわからないのだ……だが、悪い夢ではなかった」
夢の中で自分の側にいた『誰か』は、愛おしむような目線で自分を見つめ。
愛してる
そう言ってくれたのだ。
たかがそんな夢で心を乱す自分が情けないし、愚かだとも思うのだが。何故だろうか、不眠と過労で追い込まれていた心と体が、少しだけ軽くなったような気がする。
空を泳ぐ濁った雲のような縞模様を紅の光に浮き上がらせた、しのの背を撫でてやりながら三成は小さく笑む。
少し軽くなった心を暖かい毛皮に癒されていると、気がついたのは自分の体にかけられた布のこと。
鮮やかな山吹色に紅の糸で刺繍をされた厚めの布は、三成の体を寒さから守るように膝の上でわだかまっていた。
「これも貴様が」
「まあね、結果的には俺様がってことになるのかな」
「それはどういう意味だ?」
「布を用意したのは、俺様って事」
「貴様の言うことはよくわからんが……礼は言っておく」
佐助に向かって軽く頭を下げながら、指に布を絡ませる。
この夏の日の光を思わせる色合いと暖かさが、愛しい相手を思い出させてくれたのと同時に。彼と共に過ごすことができた、過去の優しい思い出を三成の脳裏にありありと思い出させ。
三成は愛おしげにその布を抱きしめたのだった。
_______________________________________
次はアニキの出番です。
もともとこの話自体が「もしも君が願うのなら」という曲を聴いて、そのまんま感じたことをプロットにしたものでして。
曲自体はこんな感じ、公式チャンネルの動画です。
ttp://www.youtube.com/watch?v=stzageAIuys
またしばらく会えなくなるんですが、ちゃんと幸せになればいいなあ……でも次はアニキの出番ですw
BGM「もしも君が願うのなら」 by May'n
「後で喰う、そこに置いておけ」
「駄目だよ、ちゃんと食べるまで見届けてこいって旦那に言われてるからね」
「真田め……」
「この頃全然食べてないんだって? 夜も寝てないっていうし……もっと体を大事にしないと、戦の最中にぶっ倒れちゃうよ」
「腹が減れば食べる……私のことは放っておけ」
膝を崩し、小さな文机の前で筆を動かし続ける三成を前に、佐助は大仰なため息を見せつけるようについてみせた。
佐助が見た限り、黒田官兵衛は精神的に非常に健全な男である。間違っても目の前にいる色気のある女を放置して男を口説くような馬鹿ではないはずなのだ。
それなのに彼は三成に惹かれ、己の全てを捧げようとしている。
最初はいい年をした大人が何を血迷ったのかと苦笑したのだが、今なら佐助にもそれがわかる。石田三成は、満ちた部分と欠けた部分の落差が非常に大きく、その欠けた部分を埋めなければと周囲の人間に思わせる青年だった。
まるで満ち欠けを繰り返す月のように。
時には周囲を睥睨するかのように輝いたと思ったら、次の瞬間には輝きを失い周囲の庇護欲をかき立てる。戦場では一騎当千の将として縦横無尽に駆け巡り、一つの国を治める者としては堅実な政治を心がける統治者であり。そのくせ人間として生きるために必要な物を彼は全く重視していなかった。
ほとんど眠ろうとせず、自分が必要だと思わなければ食べる事も拒否する。
天賦の才の代わりに人として生きるために大切な物を全て失ったのでは、そう思わせる程に何も欲しがらないのだ。生きるために必要な食物も水も、そして眠ることすらも。
療養でここに来ているというのに今も真剣な形相で紙を見つめ、仕事をこなし続けているのだろう。周囲には字が書き連ねられた紙が積み重ねられ、使用人が用意した食事は部屋の隅に押しやられている始末。
彼に仕事を渡している人間を見つけて、一度文句を言ってやらなければいけないなと思いつつ、佐助は幸村から託された竹皮に包まれた団子を彼に向かって差し出した。
「旦那のお気に入りの店の団子だよ、お茶でも飲みながらつまんだら?」
「これが終わればな」
「いっつもそう言うけどさ、その仕事が終わるのはいつ?」
「………………………」
途端にぷいと横を向いた三成だったが、そうすると以前より更に細くなった首筋が更によく見えるようになる。白い肌にうっすらと透けて見える鮮やかな血の道は、男にしては滑らかすぎる皮膚を更に美しく彩っておりある意味芸術品のよう。女とは違う美しさを持つこんな肌をずっと見つめていれば、衆道の気のない男でもぐらついてしまうだろう。これでもう少し背が小さくて性格が素直だったら、その手の野郎が引く手あまただったろうにと思いながら、佐助は三成に気がつかれないように静かに背後を伺った。
襖一枚隔てた隣の部屋では、家康と慶次が待機している。
今はまだ大人しくしているが、今後の三成の言動次第では興奮して襖をぶち破って飛び出しかねないのが今の家康だ。三成は家康は自分の事をただの友人としか思っていないと言っていたが、家康の澄んだ瞳に宿っていたのは三成に向けた深すぎる愛情だった。あんな目で常時見つめられて、それでも家康は友人だと信じている三成の鈍さも相当なもの。だが、家康の方もよく我慢したものだ。
彼の忍耐強さに敬服はするが、佐助は基本的には官兵衛の味方である。
できればこの戦に石田軍が勝利し、その後は大谷主導ではなく官兵衛の補佐で三成に治めていって欲しい。それが武田を繁栄させる方法であり、幸村が名君として甲斐を守っていく為の最善の道だともわかっているのだ。
だからできれば家康には三成の顔を一目見たらそのままお引き取り願いたい。
一度会わせて振られれば三成も諦めるだろうと言っていた官兵衛の意見に賛同していた佐助だったが、家康を見た瞬間にあっさりと考えを変えることとなった。
徳川家康は一度愛した人間をどのようなことがあっても諦める人間ではない。
彼の人間としての大きすぎる器は、愛しい人間を受け入れるためにまず存在する。家康という人間をよく知らないが故に、官兵衛は色々と甘く考えているようだが、
二人を再会させれば、間違いなく思いは更に燃え上がるだろう。
そんなことになったら官兵衛が可哀想だし、まず幸村の今後に影響が出るかもしれない。さてどうすべきかと考えながらあたりさわりのない話を続けながら、背後のある襖に全神経を集中させる。
これがわずかでも音を立てて揺れたら、三成を言いくるめて外に出してしまおう。
相変わらず仕事を続けようとする三成を笑顔で睨み付けながら、なんとか仕事をやめさせようとしているとある事に気がついた。
「あれ? 白いのは連れてこなかったの?」
「ああ『しの』か。あれなら外に出て行った、多分餌でも取りに行ったのだろう」
「うちの紅丸もよく外に遊びに行くけど、この間は猪捕まえてきてさ……まあ美味しく食べさせてもらったけど」
「しのも鹿くらいなら捕らえてくるがな」
「結局名前はしのになったんだ?」
「しのと呼べ……と官兵衛が言った」
どこか含みがあるような三成の言い方に、佐助の背筋を何故か寒気のような物が走る。
たかが虎の名前で何が変わる。そう思いながら三成に名前の由来を問うと、彼の口から出てきたのは予想だにしなかった本当の名前だった。
「本当の名前は東雲というのだ……だが官兵衛はしのと呼べ、と」
「しののめって……」
「あれは白くて綺麗だ……家康に似ている」
「だからって、あんたがその名前を付けちゃ駄目だよ……」
あの厳つい外見に反して和歌を嗜み、自然を詠むことを楽しんでいた信玄の側にいたので佐助もその言葉の意味は知っていた。
夜の闇に挿す一条の光を暁と呼び、
日が昇り世界が光に包まれる時のことを曙と呼ぶ。
そして暁と曙の間、闇に満ちた世界から光の時へと移り変わる瞬間のことを、東雲というのだ。
日月とも呼び称される家康と三成、その二人を繋ぐ意味を持つ名を自らに付き従う虎に与える。その意味の重さを三成がわかっていないはずがないだろうし、官兵衛も勿論止めたはず。そしてその結果『しの』という愛称が生まれたというのなら、官兵衛は三成を止めることができなかったのだろう。
しののめ、という名前を半分に切って呼ぶように仕向けたのは、二人の間が切れるようにという願いを官兵衛なりに込めているのだろうか。
とはいえ、西の武将達が彼の元へ様々な理由で集まり始めている現在の状況で、東という名のつく獣を側に寄せていることが知れたら三成の立場が危なくなる。そしてこれを聞いているはずの家康がどう反応するのか、それを全く予想することができないのだ。
慶次が家康を止めていてくれればいいが、と考えている合間にも三成の言葉は続く。
「しのならそろそろ帰ってくると思うが、会っていくのか?」
「俺様の仕事はあんたがちゃんと飯を食って、寝ていることを確認することだから。あまり眠らないのは知ってるけどさ、この頃本当に寝なくなったんだって?」
「日が昇っている内は少し横になる」
「普通は夜に寝るんだよ? 夜寝たくない理由でもあるわけ?」
「…………夜に眠ると夢見が悪い」
子供じゃないんだから。
それがすぐに思いついた言葉だったのだが、筆を止めた三成の顔があまりにも青ざめていたのでそれを口に乗せるのをやめることにした。
かわりにできるだけ優しい声で、
「どんな夢?」
と聞いてやると、三成はわずかの間眉根を寄せ悩んでいるような様子を見せる。
「どうしたの?」
「悪夢は話すと聞いた者に受け渡してしまうと聞いたことがある」
「俺様のこと、心配してくれてるわけだ」
「別に貴様を心配しているわけではない!」
「なら言えるよね? 別に自分の臣下でもない俺様を心配するなんて、石田の大将らしくないことするわけないし」
からかうように、挑発するようににやにやしながら笑いかけてやると、観念したのか目線を下に落とした三成がぼそりと小さな声でそれを口にした。
「…………黒い花の花弁のような物に絡みつかれる夢だ」
「それは確かにあまりいい夢じゃないね」
「皆が死んでいく……あの花に喰われた骨の山を踏み越え、私は家康の元に行こうとするのだが……家康は……」
「言わなくていいよ。それだけ話せば、俺様も悪い夢の半分くらいは分けてもらえるんじゃないかな」
「………………………」
「俺様に夢を半分渡したと思えば少しは眠れるんじゃないの? そろそろ仕事を片付けて、一度横になるといいよ」
三成が夜毎見る悪夢は、彼の不安を形にしているのだろう。
夜の闇は人の心を曇らせ、奥底に潜む闇を引きずり出す。眠りの仲ですら安らぎを与えられない今の三成を家康に会わせたら、彼は救いを得ることができるのだろうか。
否。
敵と味方という状況の中で愛しい人の心が自分に向いていることを知ることこそ、三成にとっての不幸だろう。
愛する相手に素直に心を預けられない不幸は、自分が一番知っている。
「……貴様、名前はなんだ?」
「物覚え悪いの? 俺様は猿飛佐助……そろそろ覚えてよね」
「そうか」
じいっと佐助を見据えた後、三成は素直に頷いて自分の周囲に散らばる紙を片付け始めた。佐助の言葉の何が三成に響いたのかはわからない。
だが三成はその時始めて、佐助の存在を受け入れたのだろう。
自分を気遣ってくれる人間がまた一人増えたことを喜んでいるのか、外に出たというしのの戻りを待っているのか。光を透かし白く輝く障子の方を見つめながら。
少しだけ顔をほろこばせた。
家康に似ている。
彼が会話の合間に自分の名を呼んでくれた。
そこに憎しみや恨みが何もこもっていないこと、そして隠しきれない友を懐かしむような響きがあるのを感じ取り。家康は体を震わせ大粒の涙をこぼしながら、必死に襖の向こうにいる三成の元へ行こうとする己を押さえていた。
隣では慶次がじっと自分を見つめている。
自分にここまで同行してくれた彼の面子を潰すわけにもいかないし、三成の姿を覗き見てることで今会ってはいけないという言葉の意味もよくわかった。襖の隙間から気付かれぬようにほんのわずかの間見ただけでも、三成がどれだけ追い込まれているのかがわかったのだ。周囲の人間が彼を精神的に大きく揺さぶりたくないと考えるのは当然のこと。
研ぎすぎたて薄くなってしまった刃のように、鋭く美しいがわずかの衝撃で砕け散ってしまいそうな儚さを持ち。そのくせ各所への侵攻を経て成長したのだろう、一軍の主としての風格を備えつつある。
できればこのまま無理にでも掠っていきたかった。
拒まれるのがわかっていたとしても、思いの丈をぶつけたかった。
だが今何を言っても三成は首を縦には振らないだろう。佐助との会話を聞いていてわかったが、三成は今の状況を前向きとは言えないにしても受け入れて前に進もうとしている。不安定極まりない精神の均衡を自ら律しながら生きている今の三成に、自分という存在をぶつけたら。
いい方向に転がればいいが、悪い方に行ってしまった時のことを考えたくない。
幸い三成は身近な人間には大切にされているらしい。佐助との会話の端々に三成を気遣う幾人もの人間の存在を感じたが、気になるのは官兵衛のこと。
彼はどこまで三成の心を手に入れたのだろう。
布団も敷かず、そのまま畳の上に体を倒し。すぐ側に家康がいるというのに全く気付く様子もなく深い寝息を立て続けている三成の姿を見ながら、家康はその事ばかり考えていた。
三成を守るように部屋の隅に寝転がっているのは、一件純白に見える獣。
「二匹もらったのを、うちの旦那と石田の大将で分け合ったんだよ。餌は自分で取ってくるし、旦那にも懐いてるし、結構可愛い奴だよ」
「三成のことが好きなのだな……儂も好きだ」
日の当たる障子に体を預け、佐助は周辺を警戒してくれている。
小間物屋という名目で中に入れてもらったので、慶次は厨房で飯炊き女達に簪やら飾り紐などを見せており。家康はひょっこり帰ってきたしのという名をもらった獣と佐助に見張られながら、久方ぶりの三成との再会を果たすこととなった。
痩せたとは思う。
眠れていないというのも本当なのだろう。
彼の肩からわずかも離れていない位置に体を置き、じっと上から顔をのぞき込まれているというのに三成に目覚める様子はなかった。時折首を軽く動かす以外は指先一つ揺らそうとせず、むしろ人が側にいることに安堵しているのか寝息にはわずかの乱れも感じられない。
昔は修練という名の模擬戦の後、疲れ果てた体を横たえそのまま二人で眠ってしまったこともあった。
そんな時は三成に何故起こさなかったと怒られたものだが、家康もあの時は熟睡してしまっていたのだ。三成の規則正しい寝息と、肩口に触れる彼のぬくもりが心地よくて。気がついたら日がすっかり沈んでしまっていたのも今ではいい思い出だ。
できれば今の三成が、少しでも長く眠ることができればいいのだが。
「久しぶりだな三成、儂はこの通り元気だ……お前は少し痩せたな」
自分の声では子守歌にはならない、起こしてしまうかもしれない。
でも家康は語りかけずにはいられなかった。
「儂は天下を諦める気はない。万民が幸福に暮らせる国を作る……それが儂の夢だ。だがな三成、儂はお前を諦める気もないのだ。こんな形になってしまったが、儂はこの戦を終わらせ、そしてお前に新しい国造りを手伝ってもらいたい。新しいことを考えるのは好きだが、儂はどうも細かい仕事をするのが苦手でな。お前が常に隣にいて儂を補佐してくれれば、きっと間違いも減るだろうな」
語りかけながらそっと肩に触れ、三成の熱を確認する。
伝わってくるのは暖かさと、ほんのわずかの脈動。
三成は生きている、そして自分の側にいる。
その事実だけで体の芯が熱くなり、歓喜に満たされていくのは自分が愚かな男だからだろうか。愛しい者を追い込んでいるくせに、彼の存在を感じただけで力がわき上がってくる。
三成を苦しめているのはきっと、自分の存在だというのに。
それでもできるだけ三成に触れていたくて、鼻の横に落ちた前髪を直してやっていると呆れたように肩をすくめながら佐助が小声で話しかけてきた。
「あんたといい、黒田のおっさんといい…………大将のこと甘やかしすぎ」
「官兵衛もそうなのか?」
「あのおっさんは過保護すぎるから。まあそのおかげで大将も今まで正気でいられたんだろうけどね」
「官兵衛には礼を言わねばならんな」
「あんたの礼だけは欲しくないんじゃないかな」
にやっと笑ってそう言いはしたが、佐助はすぐに表情を凍らせてしまった。
家康に対していい感情を持っていないのは会った瞬間にわかった。彼にとって主である幸村は、何よりも大切な存在なのであろう。そんな彼を差し置いて謙信に認められた家康を、佐助が認めてくれるわけがない。
わかっていても家康は何度も佐助に話しかける、言葉がいつかわだかまりを消してくれることを願いながら。
「確かに儂がやったことは道義に反しているのだろうな。だがそれを後悔する気はない、儂にはやらねばならぬ事があるのだ」
「…………誤解される事ばかり言うよね、あんたは」
「お前の主人とも話をしたい。儂は話し合いで全てが解決できればいいと……」
「あんたがそう思っていても、あんたの周りの人間は話し合い『以外』で解決したがってるんだよ。それが現実……さっさとそれに気がつくことだね………………さすがの俺様も長い時間はごまかせないよ、石田の大将がいつ起きるかもわからないし。さっさと終わらせて、出て行ってくれるかな」
もう話はしたくない、そう言いたげに佐助の顔が背けられた。
彼はもう家康がどれだけ言葉を尽くしても、聞くことすら拒否するだろう。だが最初のうちは話をしようとしてくれた、その事実があれば今はいい。
いつか最後まで話を聞いてくれる日が来るはずだから。
幼い頃は話すらできずに力で押しつぶされ続けてきた。長じてからも自らの領地を守るために、己の意見を封じ恭順し。だからこそ家康は己の言葉で己の意見を言えなくなることの恐ろしさを知り尽くしていた。
言葉を押し込めれば、自分を失っていくのだ。
三成はそんな事になって欲しくないし、豊臣という檻から解放してやりたい。
この世界は広く美しい。
彼と共に見たあの輝く湖のような美しいものが、まだたくさんあるのだ。
忠誠という檻の中で見る世界ではなく、自分の意志で思うがままに進む人生を彼に与えてやれるように。
彼を救うために彼と戦う。
「三成……そろそろ行かねばならぬようだ。だが儂は必ずお前にまた会いに来る、そしてまた共に……あの湖を見よう」
三成に顔を寄せ、囁きかけるようにそっとその言葉を口にする。
眠っている三成には届かないのはわかってる。だがそれでも家康は思いを言葉にすることを選ぶ。
口にしなければ心が折れてしまう、それは家康も同じだったのだから。
最後に佐助に気付かれぬように耳に唇を寄せ、短く頼りないが不変とも言える愛の言葉を届けると。
家康は眠り続ける愛おしい人に自分の体を覆い隠してくれていた布をかけてやり。
そっとその部屋を後にした。
石田三成が目覚めたのは、空が赤く染まり始めた頃であった。
体を起こすと最初に感じたのは自分に体をすり寄せてくる巨大な獣の毛皮の暖かさ。そして次に気がついたのは、部屋の隅に座って自分が目覚めるまで待っていてくれた細身の忍びの存在だった。
冬らしいほのかな夕焼けの赤が、佐助の髪を鮮やかな赤に染めている。
「ぐっすり寝てたね」
「そうだな……こんなに眠ったのは久しぶりだ」
「そんだけ寝たら、ご飯食べれるよね。暖かいの用意してもらうから、もう少し休んでるといいよ」
「猿飛、聞きたいことがある」
さっと立ち上がり厨房へ向かおうとする佐助を言葉で止めると、三成は気になったことを矢継ぎ早に彼にぶつけ始めていた。
「貴様以外に誰かがこの部屋に来たのか? しのが戻ってきたのは私が眠ってからどれくらいたってか……」
「ちょ、ちょっと! 少し落ちついてよ……なにか気になることでもあったの」
「気になること……というわけではないが」
寝乱れて乱れた髪を指先で整えながら、触れるのは耳。
畳にすりつけて擦れたわけでもないのに熱く、寝起きだというのに心臓の鼓動が跳ね上がっているのが自分でもわかる。戦の後でもここまで胸が苦しくなることなどないというのに、一体何があったのだろうか。
一つだけ思い当たることがあるとすれば、
「夢を……見たような……気がする…………」
「えっと、見たの? それとも見てないの?」
「それがわからないのだ……だが、悪い夢ではなかった」
夢の中で自分の側にいた『誰か』は、愛おしむような目線で自分を見つめ。
愛してる
そう言ってくれたのだ。
たかがそんな夢で心を乱す自分が情けないし、愚かだとも思うのだが。何故だろうか、不眠と過労で追い込まれていた心と体が、少しだけ軽くなったような気がする。
空を泳ぐ濁った雲のような縞模様を紅の光に浮き上がらせた、しのの背を撫でてやりながら三成は小さく笑む。
少し軽くなった心を暖かい毛皮に癒されていると、気がついたのは自分の体にかけられた布のこと。
鮮やかな山吹色に紅の糸で刺繍をされた厚めの布は、三成の体を寒さから守るように膝の上でわだかまっていた。
「これも貴様が」
「まあね、結果的には俺様がってことになるのかな」
「それはどういう意味だ?」
「布を用意したのは、俺様って事」
「貴様の言うことはよくわからんが……礼は言っておく」
佐助に向かって軽く頭を下げながら、指に布を絡ませる。
この夏の日の光を思わせる色合いと暖かさが、愛しい相手を思い出させてくれたのと同時に。彼と共に過ごすことができた、過去の優しい思い出を三成の脳裏にありありと思い出させ。
三成は愛おしげにその布を抱きしめたのだった。
_______________________________________
次はアニキの出番です。
もともとこの話自体が「もしも君が願うのなら」という曲を聴いて、そのまんま感じたことをプロットにしたものでして。
曲自体はこんな感じ、公式チャンネルの動画です。
ttp://www.youtube.com/watch?v=stzageAIuys
またしばらく会えなくなるんですが、ちゃんと幸せになればいいなあ……でも次はアニキの出番ですw
BGM「もしも君が願うのなら」 by May'n
PR
色々説明
拍手現在豊臣家転生パロ中学生編入ってます
(現在2本 家三 チカナリです)
注意事項
・フリーリンクじゃないです、基本的にはリンクはお断りしています
・ひっそりこっそりが信条なので、黙々と
・捏造、not公式のこばなしが多いので、スルー推奨
ラキドでは幹部全員を溺愛しておりますが、ベルナルドとイヴァンは特に偏愛。ばさらは家三とか奥州の愉快な仲間達と毛長がメインです。うずみさんが現在官三とか官佐にずっぽりとはまり中。
基本は、愛想のかけらもない「ネット怖い~」の書き手が二人で色々書いている場所です。
書いている人
みっし
・生真面目で堅物でムキムキな男性と一見そうじゃなくても根は真面目極まり ないキャラをこよなく愛している、がんかたうるふの片割れ。編み物とお菓子作りが趣味という、第三者曰く可愛らしい一面を持つ反面、パニクると踊ったり、オロオロしだして周囲は見ていて楽しいらしい。荒ぶる舞は、職場の名物だったりする……らしい。
イヴァンちゃんと片倉さんとシズちゃんとスカイハイさんと陛下を思いっきり愛している。好きなアニメは銀魂と最近はFate/zero。型月ファンというよりは元から虚淵ファンでうずみさんからオススメされまくった末にようやっと手を付けて完読した。ライダー組おいしいです。エクシリアではダントツで陛下が好き。陛下が使用可能になる完全版があるなら複数買いしても構わないとのたまう日々。バサラの好きキャラは片倉さん一強だったはずなのに最近はアニキも熱い。かっちり着込むキャラがすきだったはずなのにいきなり露出度が高いキャラを好きになったのは何故か悩む日々。二次元の向かう愛と同じぐらい甥っ子への愛を叫んでいる気がしてならない。
@3missiy3をフォロー
うずみ
・相方を愛しすぎている変な人。趣味は畑仕事に漬け物作り、好きな物は不幸属性の美人(男女問わず)。ばさらでは石田さんと黒田さんをこよなく愛していたり、赤い子めんこいにゃぁとたまに叫んでいる。ついったのフォローは下 のアイコンから。
@uzumi1250をフォロー
ばさら垢できました
こんな二人で、ここを更新しております。
ツイッターは基本鍵をかけていますが、フォロー申請してくださったらフォローさせていただきます。
カテゴリー
カウンター