こちらはサークル「がんかたうるふ」のうずみとみっしの二人組が、ラッキードッグ1とばさらのこばなしを黙々と投下する場所です。
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この章はこれで終わり、次が最後です。
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大阪城に戻ってから、三成は夜中に官兵衛の布団に潜り込んでくるようになった。
大谷に気付かれてはまずいのでもう枷はつけ直していたし、城主である三成が夜毎半ば罪人扱いの官兵衛の元へ行けばよからぬ噂が立つというのに。何度諭しても三成はその行動をやめようとはしなかった。
官兵衛の側ならば、夜も悪夢に魘されずに眠ることができる。
だから側にいるだけだと言いながら、三成は来るべき戦の為に精力的に動き続けていた。臣下たちと軍議を重ね、東へ居城を移した家康を徹底的に打ちのめそうと主張する大谷の意見を退け。同盟している他軍との連携も考え、野戦にすることを選んだ時に周囲から漏れたのはこれが本当にあの三成様かという声。
ただ目の前の敵を討ち倒すことしか考えていなかった過去の彼を知っている人間にとって、それは驚くべき事なのだろうが。官兵衛の影での助言もあったし、なにより三成は佐助の処刑を経て大きく成長したのだ。
自分にとって正しいことを全ての人間が受け入れてくれるとは限らない。
家康と三成の和平が正しいことと信じ、首をはねられる寸前まで追い込まれた佐助。彼のことを考えると猪突猛進を信条としているのではと陰口をたたかれていた三成も、様々な事を考えざるを得ない。
各地から集まってくる物資。
悪天候に巻き込まれることを考え厳重に密封される火薬や大筒の類。
物資の管理は得意な三成だが、さすがに各地の軍を巻き込む大戦に向けて集まる物資を一人で管理はできなかったらしい。大谷や官兵衛の手を借り、時には部下たちを叱りつけ。日々疲れ果て眠るのは、官兵衛の腕の中。
しかし三成から性的な関係を求めてくることはなかった。
ただ官兵衛の腕に己の腕を絡ませ、数刻だけ落ちついた寝息を立て。日が昇る前に、注意深く辺りを見回しながら部屋へ戻っていく。
子供のように体を擦りつけ甘えてくる三成に、体の奥底から愛おしさが湧き上がっては来るが、そこで抱いてしまうわけにはいかなかった。周囲の人間に気がつかれてしまうし、なにより三成がそれを望んでいない。
そんな理由で官兵衛は毎晩必死に耐えていた訳なのだが。
さすがに疲れてしまったので少しの間うとうとし、次に目を覚ましたした時には三成の姿はもう自分の布団の内から消えてしまっていた。窓の方を見れば、障子から透けて見える月はまだ空の高いところに鎮座している。
普段はもう少し月が下に落ちてから自分の部屋に戻るというのに。
今日は早めに戻りたかったのだろう、そう結論づけてそのまま眠ってしまおうかとも思ったのだが、どうにも落ち着かない。愛しい存在が目の前にいるというのに、手を出すこともできず。毎夜悶々とさせられていたのに、いなくなると寂しいというのはなんて自分勝手な考えなのだろう。
夜の空気は昼よりも遙かに冷たい。
だが優しさを含んだ静寂が体に触れ、奇妙な安堵感を官兵衛に与えてくれる。この心地よい静寂に誘われて外に出てしまったのだろうか、それならばきっと三成がいるのはあの場所に違いない。
深夜なので眠っている人々を起こさないように気をつけながら鉄球を引きずり、たどり着いたのはいつもの場所。
何かを考えたい時、三成はいつも一人でここにいる。
もう雪は積もっていないし、戦車に繋がれた巨大極まりない馬も足を折って安らかな寝息を立てている。そして戦車天君が思う存分に動く事ができる広大な空間の真ん中には、夜着ではなく普通の袴姿に着替えた三成の姿があった。
地面に腰を下ろすわけでもなく、ぼうっと立ち尽くしていいる彼に声を掛けようとすると。
「…………官兵衛か」
「なにしてんだよ、こんなところで」
「刑部と話をしてきた」
地面に鉄球で線を引きながら近づいてくる官兵衛の方へ体を向き直し、三成は短くそれだけを言う。
「…………刑部と? 何を話してきたんだ?」
「色々だ…………今までのことと、そしてこれからのことと言えばいいのか……」
「結果はどうだった」
「私たちは相容れない、それはわかった。そして刑部の命が尽きようとしていることも……冬まで生きられるかどうか……」
「おいおい……」
二人が何を話したのかを、三成が詳しく話してくれることはないだろう。
淡々と大切な友人の死期について語る三成の顔からは、悲しみの色は感じられなかった。あまりにも事実が重すぎて受け止められないのか、それとも刑部との会話の中で何かを悟ったのか。どちらにしても三成は彼と何かを話し、全てを受け入れた。きっと自分の意見も伝え、彼らの間でなんらかの和解がはたされたのだろう。
三成の中に惑いや悩みはなく、かわりに芽生えているのは満足感。
だから官兵衛は何も聞かない。長々と話をさせれば三成は様々の悲しいことを思い出してしまうだろうし、いくら暖かくなってきたとはいえ夜空の下に長居させるのは好ましくない。まだ夜明けまではかなりの時間がある、明日も忙しいのだもう少し眠らせてやった方がいい。
聞きたい気持ちを抑え込み、部屋に戻ろうと声をかける。
すると三成は急に顔に力を込め、周囲をきょろきょろと見回すと無言で手招きしてきたのだった。
「なんだ?」
「いいから来い!」
「あまりでかい声だすなよ……気付かれるぞ」
と口で言いはするが、ここは本丸から遠く離れている。
それでもまだ周囲を伺っている三成は、よほど重要なことを伝えたいのだろう。官兵衛が近づいてくるのを見ながら、唐突に三成は手を広げ。
あと数歩で三成の手を掴むことができる距離にたどり着く官兵衛に、その場で止まるように告げたのだった。
「来いと言ったり止まれと言ったり……忙しい奴だな」
「わ、私にだって都合がある!」
「じゃあその都合ってやつを教えてもらおうか」
「……………………」
途端に口を尖らせて、三成はそっぽを向こうとするが。
それでは官兵衛を呼び寄せた意味がないと気がついたのだろう。恥ずかしそうにしながら顔を朱の色に染め、だが広げた両手は変えることなく。
一度小さく頷いてから、三成は『それ』を語り出したのだった。
「明後日には大阪城を出ると刑部と決めた。私にとっても刑部にとっても……最後になるのだろうな、この城で過ごすのは」
「小生の命をかけても、そんなことにはさせん。お前さんに命をくれてやるつもりではあるがな、まずは共に生き延びるのが小生の望みだ」
「だから色々見てみようと思ったのだが、ついここで足が止まってしまった。官兵衛……私はここで貴様に救ってもらった」
「…………三……成?」
救ってもらった、何故三成は今更そんなことを言うのだろうか。
恩を着せようと思った事など一度もないし、三成が官兵衛に救われていたと感じていたことなど今始めて知った。ただ自分の能力を世に知らしめたい、そしてあわよくば天下を。それだけしか考えていなかった官兵衛に主君に仕える喜びを与え、己の全てを誰かに与えたいと思わせてくれたのは三成なのだ。
官兵衛こそ三成に感謝しなければならないのに。
その思いを伝えようと口を開こうとすると、それを察したかのように三成が矢継ぎ早に言葉を連ねてくる。
「貴様がいてくれた……だから私は今まで生き延びられた。家康にも会わせてくれた、だから私は…………貴様に感謝している」
「何言ってんだ、小生だってお前さんに惚れて……楽しかったんだ、お互い様ってとこだろ」
「そうだな……」
小さな声を上げて笑う三成の顔は、今まで見たことがない程に晴れやかだった。
月に照らされた雲の影すら見えない空の下、優しい眼差しを官兵衛へと向ける彼に近づき抱きしめたくなったが、近づくことは許可されていなかった。
あと数歩で三成の体に手が届くのに、触れることを許されない。
そんな苛々がつのる状況の中、三成は広げていた手を唐突に腰元へと戻す。あの広げていた手にこめられた意味を一つしか考えつかなかった官兵衛は、おとなしく三成の話の続きを待つことにした。
きっと官兵衛の予想通りで、不運につきまとわれている男にふさわしい結果が待っているのだ。
妙な期待をしてはいけない。
「本当なら最後に貴様に何かしてやろうと思ったのだが……やめることにした。貴様が側にいてくれた事には感謝している。だが私は……」
「やっぱり家康の方がいい、だろ? そんなこと見てりゃわかる、小生のことは気にすんな、好きなだけあいつに気持ちをぶつけて……生き延びて帰ってこい」
「馬鹿なことを言うな」
三成はふわりと優しく笑む。
だがそれは官兵衛が見たいと望む幸せに満ちた笑顔ではないし、その奥底にある物も家康への思いであり官兵衛へは向けられていない。
何故そこまであの男だけを愛する。
そんなことを聞いても、愛情なんてものを言葉で説明できるわけがない。
ただ魂が惹かれ合い、互いだけを求め。どれだけの障害があろうとも、相手だけを恋い慕い続ける事を。
恋慕と呼ぶのだ。
三成を抱こうが、腕に抱いて眠ろうが。三成の思いが官兵衛へと向いていないのは最初からわかっていたこと。だからそれほど悲しんでいるわけではないのだが、心配なのは三成のことだった。
生真面目な彼のことだ、相当気にしているはず。
「小生は惚れた相手を抱けていい思いができた、お前さんは家康にまた会える。それでいいだろうが」
「…………貴様が、私の兄か父であれば良かったのに」
「こんなでかい上に飯を食わん息子はいらん」
「そうか」
「だが……そうだな、輪廻転生という言葉を知っているか?」
「半兵衞様に聞いたことがある」
「死んだ後また新しい生き物に魂が宿るってことなら…………今度は小生の子供に生まれりゃいい。そうすりゃずっと側にいて、今度は家康みたいな馬鹿には会わせん。お前さんが大人になって、嫁をもらって自分の家庭を持つまで……それこそよぼよぼのジジイになってもずっと守ってやるさ」
「………………」
語りかけながら、ゆっくりと三成へと近づいていく。
結局三成の官兵衛への感情は魂の伴侶へ向けるものではなく、頼れる身内へ向ける甘えと信頼であったわけだ。体まで重ねたというのにそんな結論に達した三成の家康に向ける愛情の強さに驚かされるが、それ以上に呆れたのは自分の運のなさ。
命をかけてもいいとまで愛した相手に、父か兄であれば良かったと言われる。
悲劇を通り越して喜劇にしか見えない結果、普通なら嘆くはずなのだろうが。官兵衛は全く逆のことを考えていた。
三成が自分をそこまで必要としてくれている。
恋人よりも強い絆で結ばれた家族でありたいと言ってくれた。
だからもう、何も悔やむことも悲しむこともない。
官兵衛の言葉に戸惑ったような目をしている三成をそっと、愛おしい息子を抱くかのように抱きしめてやる。
「頑固なお前さんのことだ、どうせ家康の為に死ぬつもりなんだろうがな……お前さんのことを本気で心配している男がここにいるってことを覚えておいてくれ」
優しく頭を抱き、ぽんぽんと後頭部を叩いてやると三成の顔が強く歪められた。
濡れ光る瞳には今にもこぼれ落ちそうな程の涙が溜まり、わずかの瞬きで溢れ出そうな程。一歩体を引けば強く縛り付けているわけではない官兵衛の腕から簡単に抜け出すことができるが、三成はそれをしようとはしなかった。
代わりに行ったのは、官兵衛の背に腕を回し肩口に顔を押しつけること。
何かを堪えているかのような重い吐息と、しゃくりあげているかの様に震える体。そしてそれごと三成を受け止め、優しく背を撫でてやっていると。
薄く、鋭い天に浮かぶ月が目に入った。
以前、三成はあの月に似ていると思った事がある。闇を切り裂く鋭さと輝きを持つ彼の美しさにその時は見とれたものだが。
今官兵衛の腕の中にあるのは、春の夜空に浮かぶ月のように柔らかな光を放つ青年だった。
官兵衛の思いに答えられない自分を責めているのか、それとも別な何かを抱えているのか。彼の内にあるその全てを見ることができない自分を責めつつ。
官兵衛は子供のような鳴き声を漏らし続ける三成を、ただ優しく抱きしめ続けたのだった。
________________________________________
次が最後の章「小暑の刻 ~閉幕~」となります。
ようやくここまできたか……という感じ。
BGM「Bon Voyage!」
大谷に気付かれてはまずいのでもう枷はつけ直していたし、城主である三成が夜毎半ば罪人扱いの官兵衛の元へ行けばよからぬ噂が立つというのに。何度諭しても三成はその行動をやめようとはしなかった。
官兵衛の側ならば、夜も悪夢に魘されずに眠ることができる。
だから側にいるだけだと言いながら、三成は来るべき戦の為に精力的に動き続けていた。臣下たちと軍議を重ね、東へ居城を移した家康を徹底的に打ちのめそうと主張する大谷の意見を退け。同盟している他軍との連携も考え、野戦にすることを選んだ時に周囲から漏れたのはこれが本当にあの三成様かという声。
ただ目の前の敵を討ち倒すことしか考えていなかった過去の彼を知っている人間にとって、それは驚くべき事なのだろうが。官兵衛の影での助言もあったし、なにより三成は佐助の処刑を経て大きく成長したのだ。
自分にとって正しいことを全ての人間が受け入れてくれるとは限らない。
家康と三成の和平が正しいことと信じ、首をはねられる寸前まで追い込まれた佐助。彼のことを考えると猪突猛進を信条としているのではと陰口をたたかれていた三成も、様々な事を考えざるを得ない。
各地から集まってくる物資。
悪天候に巻き込まれることを考え厳重に密封される火薬や大筒の類。
物資の管理は得意な三成だが、さすがに各地の軍を巻き込む大戦に向けて集まる物資を一人で管理はできなかったらしい。大谷や官兵衛の手を借り、時には部下たちを叱りつけ。日々疲れ果て眠るのは、官兵衛の腕の中。
しかし三成から性的な関係を求めてくることはなかった。
ただ官兵衛の腕に己の腕を絡ませ、数刻だけ落ちついた寝息を立て。日が昇る前に、注意深く辺りを見回しながら部屋へ戻っていく。
子供のように体を擦りつけ甘えてくる三成に、体の奥底から愛おしさが湧き上がっては来るが、そこで抱いてしまうわけにはいかなかった。周囲の人間に気がつかれてしまうし、なにより三成がそれを望んでいない。
そんな理由で官兵衛は毎晩必死に耐えていた訳なのだが。
さすがに疲れてしまったので少しの間うとうとし、次に目を覚ましたした時には三成の姿はもう自分の布団の内から消えてしまっていた。窓の方を見れば、障子から透けて見える月はまだ空の高いところに鎮座している。
普段はもう少し月が下に落ちてから自分の部屋に戻るというのに。
今日は早めに戻りたかったのだろう、そう結論づけてそのまま眠ってしまおうかとも思ったのだが、どうにも落ち着かない。愛しい存在が目の前にいるというのに、手を出すこともできず。毎夜悶々とさせられていたのに、いなくなると寂しいというのはなんて自分勝手な考えなのだろう。
夜の空気は昼よりも遙かに冷たい。
だが優しさを含んだ静寂が体に触れ、奇妙な安堵感を官兵衛に与えてくれる。この心地よい静寂に誘われて外に出てしまったのだろうか、それならばきっと三成がいるのはあの場所に違いない。
深夜なので眠っている人々を起こさないように気をつけながら鉄球を引きずり、たどり着いたのはいつもの場所。
何かを考えたい時、三成はいつも一人でここにいる。
もう雪は積もっていないし、戦車に繋がれた巨大極まりない馬も足を折って安らかな寝息を立てている。そして戦車天君が思う存分に動く事ができる広大な空間の真ん中には、夜着ではなく普通の袴姿に着替えた三成の姿があった。
地面に腰を下ろすわけでもなく、ぼうっと立ち尽くしていいる彼に声を掛けようとすると。
「…………官兵衛か」
「なにしてんだよ、こんなところで」
「刑部と話をしてきた」
地面に鉄球で線を引きながら近づいてくる官兵衛の方へ体を向き直し、三成は短くそれだけを言う。
「…………刑部と? 何を話してきたんだ?」
「色々だ…………今までのことと、そしてこれからのことと言えばいいのか……」
「結果はどうだった」
「私たちは相容れない、それはわかった。そして刑部の命が尽きようとしていることも……冬まで生きられるかどうか……」
「おいおい……」
二人が何を話したのかを、三成が詳しく話してくれることはないだろう。
淡々と大切な友人の死期について語る三成の顔からは、悲しみの色は感じられなかった。あまりにも事実が重すぎて受け止められないのか、それとも刑部との会話の中で何かを悟ったのか。どちらにしても三成は彼と何かを話し、全てを受け入れた。きっと自分の意見も伝え、彼らの間でなんらかの和解がはたされたのだろう。
三成の中に惑いや悩みはなく、かわりに芽生えているのは満足感。
だから官兵衛は何も聞かない。長々と話をさせれば三成は様々の悲しいことを思い出してしまうだろうし、いくら暖かくなってきたとはいえ夜空の下に長居させるのは好ましくない。まだ夜明けまではかなりの時間がある、明日も忙しいのだもう少し眠らせてやった方がいい。
聞きたい気持ちを抑え込み、部屋に戻ろうと声をかける。
すると三成は急に顔に力を込め、周囲をきょろきょろと見回すと無言で手招きしてきたのだった。
「なんだ?」
「いいから来い!」
「あまりでかい声だすなよ……気付かれるぞ」
と口で言いはするが、ここは本丸から遠く離れている。
それでもまだ周囲を伺っている三成は、よほど重要なことを伝えたいのだろう。官兵衛が近づいてくるのを見ながら、唐突に三成は手を広げ。
あと数歩で三成の手を掴むことができる距離にたどり着く官兵衛に、その場で止まるように告げたのだった。
「来いと言ったり止まれと言ったり……忙しい奴だな」
「わ、私にだって都合がある!」
「じゃあその都合ってやつを教えてもらおうか」
「……………………」
途端に口を尖らせて、三成はそっぽを向こうとするが。
それでは官兵衛を呼び寄せた意味がないと気がついたのだろう。恥ずかしそうにしながら顔を朱の色に染め、だが広げた両手は変えることなく。
一度小さく頷いてから、三成は『それ』を語り出したのだった。
「明後日には大阪城を出ると刑部と決めた。私にとっても刑部にとっても……最後になるのだろうな、この城で過ごすのは」
「小生の命をかけても、そんなことにはさせん。お前さんに命をくれてやるつもりではあるがな、まずは共に生き延びるのが小生の望みだ」
「だから色々見てみようと思ったのだが、ついここで足が止まってしまった。官兵衛……私はここで貴様に救ってもらった」
「…………三……成?」
救ってもらった、何故三成は今更そんなことを言うのだろうか。
恩を着せようと思った事など一度もないし、三成が官兵衛に救われていたと感じていたことなど今始めて知った。ただ自分の能力を世に知らしめたい、そしてあわよくば天下を。それだけしか考えていなかった官兵衛に主君に仕える喜びを与え、己の全てを誰かに与えたいと思わせてくれたのは三成なのだ。
官兵衛こそ三成に感謝しなければならないのに。
その思いを伝えようと口を開こうとすると、それを察したかのように三成が矢継ぎ早に言葉を連ねてくる。
「貴様がいてくれた……だから私は今まで生き延びられた。家康にも会わせてくれた、だから私は…………貴様に感謝している」
「何言ってんだ、小生だってお前さんに惚れて……楽しかったんだ、お互い様ってとこだろ」
「そうだな……」
小さな声を上げて笑う三成の顔は、今まで見たことがない程に晴れやかだった。
月に照らされた雲の影すら見えない空の下、優しい眼差しを官兵衛へと向ける彼に近づき抱きしめたくなったが、近づくことは許可されていなかった。
あと数歩で三成の体に手が届くのに、触れることを許されない。
そんな苛々がつのる状況の中、三成は広げていた手を唐突に腰元へと戻す。あの広げていた手にこめられた意味を一つしか考えつかなかった官兵衛は、おとなしく三成の話の続きを待つことにした。
きっと官兵衛の予想通りで、不運につきまとわれている男にふさわしい結果が待っているのだ。
妙な期待をしてはいけない。
「本当なら最後に貴様に何かしてやろうと思ったのだが……やめることにした。貴様が側にいてくれた事には感謝している。だが私は……」
「やっぱり家康の方がいい、だろ? そんなこと見てりゃわかる、小生のことは気にすんな、好きなだけあいつに気持ちをぶつけて……生き延びて帰ってこい」
「馬鹿なことを言うな」
三成はふわりと優しく笑む。
だがそれは官兵衛が見たいと望む幸せに満ちた笑顔ではないし、その奥底にある物も家康への思いであり官兵衛へは向けられていない。
何故そこまであの男だけを愛する。
そんなことを聞いても、愛情なんてものを言葉で説明できるわけがない。
ただ魂が惹かれ合い、互いだけを求め。どれだけの障害があろうとも、相手だけを恋い慕い続ける事を。
恋慕と呼ぶのだ。
三成を抱こうが、腕に抱いて眠ろうが。三成の思いが官兵衛へと向いていないのは最初からわかっていたこと。だからそれほど悲しんでいるわけではないのだが、心配なのは三成のことだった。
生真面目な彼のことだ、相当気にしているはず。
「小生は惚れた相手を抱けていい思いができた、お前さんは家康にまた会える。それでいいだろうが」
「…………貴様が、私の兄か父であれば良かったのに」
「こんなでかい上に飯を食わん息子はいらん」
「そうか」
「だが……そうだな、輪廻転生という言葉を知っているか?」
「半兵衞様に聞いたことがある」
「死んだ後また新しい生き物に魂が宿るってことなら…………今度は小生の子供に生まれりゃいい。そうすりゃずっと側にいて、今度は家康みたいな馬鹿には会わせん。お前さんが大人になって、嫁をもらって自分の家庭を持つまで……それこそよぼよぼのジジイになってもずっと守ってやるさ」
「………………」
語りかけながら、ゆっくりと三成へと近づいていく。
結局三成の官兵衛への感情は魂の伴侶へ向けるものではなく、頼れる身内へ向ける甘えと信頼であったわけだ。体まで重ねたというのにそんな結論に達した三成の家康に向ける愛情の強さに驚かされるが、それ以上に呆れたのは自分の運のなさ。
命をかけてもいいとまで愛した相手に、父か兄であれば良かったと言われる。
悲劇を通り越して喜劇にしか見えない結果、普通なら嘆くはずなのだろうが。官兵衛は全く逆のことを考えていた。
三成が自分をそこまで必要としてくれている。
恋人よりも強い絆で結ばれた家族でありたいと言ってくれた。
だからもう、何も悔やむことも悲しむこともない。
官兵衛の言葉に戸惑ったような目をしている三成をそっと、愛おしい息子を抱くかのように抱きしめてやる。
「頑固なお前さんのことだ、どうせ家康の為に死ぬつもりなんだろうがな……お前さんのことを本気で心配している男がここにいるってことを覚えておいてくれ」
優しく頭を抱き、ぽんぽんと後頭部を叩いてやると三成の顔が強く歪められた。
濡れ光る瞳には今にもこぼれ落ちそうな程の涙が溜まり、わずかの瞬きで溢れ出そうな程。一歩体を引けば強く縛り付けているわけではない官兵衛の腕から簡単に抜け出すことができるが、三成はそれをしようとはしなかった。
代わりに行ったのは、官兵衛の背に腕を回し肩口に顔を押しつけること。
何かを堪えているかのような重い吐息と、しゃくりあげているかの様に震える体。そしてそれごと三成を受け止め、優しく背を撫でてやっていると。
薄く、鋭い天に浮かぶ月が目に入った。
以前、三成はあの月に似ていると思った事がある。闇を切り裂く鋭さと輝きを持つ彼の美しさにその時は見とれたものだが。
今官兵衛の腕の中にあるのは、春の夜空に浮かぶ月のように柔らかな光を放つ青年だった。
官兵衛の思いに答えられない自分を責めているのか、それとも別な何かを抱えているのか。彼の内にあるその全てを見ることができない自分を責めつつ。
官兵衛は子供のような鳴き声を漏らし続ける三成を、ただ優しく抱きしめ続けたのだった。
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次が最後の章「小暑の刻 ~閉幕~」となります。
ようやくここまできたか……という感じ。
BGM「Bon Voyage!」
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色々説明
拍手現在豊臣家転生パロ中学生編入ってます
(現在2本 家三 チカナリです)
注意事項
・フリーリンクじゃないです、基本的にはリンクはお断りしています
・ひっそりこっそりが信条なので、黙々と
・捏造、not公式のこばなしが多いので、スルー推奨
ラキドでは幹部全員を溺愛しておりますが、ベルナルドとイヴァンは特に偏愛。ばさらは家三とか奥州の愉快な仲間達と毛長がメインです。うずみさんが現在官三とか官佐にずっぽりとはまり中。
基本は、愛想のかけらもない「ネット怖い~」の書き手が二人で色々書いている場所です。
書いている人
みっし
・生真面目で堅物でムキムキな男性と一見そうじゃなくても根は真面目極まり ないキャラをこよなく愛している、がんかたうるふの片割れ。編み物とお菓子作りが趣味という、第三者曰く可愛らしい一面を持つ反面、パニクると踊ったり、オロオロしだして周囲は見ていて楽しいらしい。荒ぶる舞は、職場の名物だったりする……らしい。
イヴァンちゃんと片倉さんとシズちゃんとスカイハイさんと陛下を思いっきり愛している。好きなアニメは銀魂と最近はFate/zero。型月ファンというよりは元から虚淵ファンでうずみさんからオススメされまくった末にようやっと手を付けて完読した。ライダー組おいしいです。エクシリアではダントツで陛下が好き。陛下が使用可能になる完全版があるなら複数買いしても構わないとのたまう日々。バサラの好きキャラは片倉さん一強だったはずなのに最近はアニキも熱い。かっちり着込むキャラがすきだったはずなのにいきなり露出度が高いキャラを好きになったのは何故か悩む日々。二次元の向かう愛と同じぐらい甥っ子への愛を叫んでいる気がしてならない。
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うずみ
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