こちらはサークル「がんかたうるふ」のうずみとみっしの二人組が、ラッキードッグ1とばさらのこばなしを黙々と投下する場所です。
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序章はこれで終わりです。
続きはスパーク発行の「ぷちばさ! 弐」で。
続きはスパーク発行の「ぷちばさ! 弐」で。
*****
久方ぶりにあった真田幸村は、良くも悪くも全く変わってなかった。
いつもと同じく忍びの佐助を後ろに従え、隣に巨大な包みを置き。澄んだ瞳で上座に座る秀吉を見やり、両手をつき深々と頭を下げてみせた。
「秀吉殿、半兵衛殿、お久しぶりでござる!」
「幸村君は相変わらず元気だね……」
「武田信玄は息災か」
「はい」
短く答えた幸村は、紅の戦装束のまま傍らには大槍を置き。
凛々しい眼差しを秀吉へと向け、爽やかに微笑む。その秀吉の膝の上には入浴を終えたばかりのちび村と。
当然の如くそこに座る半兵衛の姿があった。
「半兵衛様……その……非常に言いづらいのですが……」
「三成君どうしたの?」
「客人が来ているというのにさすがにその……そのお姿はどうかと……」
「僕と秀吉の仲の良さを見せつけたいんだけど。別にいいよね、秀吉?」
「半兵衛が望むなら我は構わぬが」
自分の胸にもたれかかる半兵衛の頭を撫でてやりながら、秀吉は苦笑いをしてみせる。
半兵衛が死の宿命から抜け出してから、秀吉は異常な程半兵衛に対して過保護になった。大事な存在を失っていたかもしれないのだ、そうなってしまうのはわからないでもないのだが。
客の前でも甘やかすのか。
秀吉に絶対的な忠誠を誓っている三成でも、さすがにこれはまずいのではないかと思っていたら。
「さすが秀吉殿! なんという器の大きさ……この幸村、素晴らしい物を見せていただきました!」
「君はそう言ってくれると思ったんだよね~ 僕、君のその馬鹿正直すぎるところ大好きだな」
「天下一の軍師殿に褒めていただけるとは! この幸村、感激しております!!」
三成に意味ありげな目線を向けて、半兵衞は幸村をわざとらしい程大きな声で褒め称えてみせた。幸村は感激に打ち震えているし、半兵衞も楽しそうではあるのだが。
褒めている方と褒められている方以外は全く楽しそうに見えない。
幸村にこの姿を見られたくないが故に、三成は散々ごねて家康の膝から下ろしてもらっていた。家康は散々抵抗したのだが、ちび村を肩に乗せて戻ってきた風呂上がりの秀吉の実力行使で部屋の外に放り出されてしまったのだ。
天下を取った男とまともに戦うには、家康もまだまだ力不足だったらしい。
そんな理由で久々に尻を畳に付けることができた三成だったのだが。幸村が半兵衞を見ても気にしないのなら、あんなに騒いで下ろしてもらう必要はなかったのではないだろうか。別に家康がここにいても、幸村は何も気にしなかったのでは。
一瞬そう思いかけたが、後ろから遠慮がちにかけられた声でとりあえず正気らしき物を保つことができた。
「石田の旦那……俺様がおかしいわけじゃないよね…………?」
「……半兵衞様のお考えは私のような卑小な者には掴みきれないのだ……多分そうに違いない」
「旦那も大変だね……」
しみじみとそう言ってから、幸村の保護者的忍びである佐助は三成の膝の上のちびたちに目を向けた。
「この子達が豊臣さんのちびなんだ。うちのちび村とちがっておとなしいんね」
「ちび村は確かに騒がしいが、食べ過ぎて寝込むこともなかったし、悪戯もしない。多少声が大きいくらい、いくらでも我慢できるだろう」
「こんなに可愛いのに、そんなにやんちゃなんだ……」
すすっと音もなく近づいてきた佐助が気になったのか、佐吉と竹千代は三成の膝から降りて佐助へと近づいていく。きょろきょろと辺りを見回してからじっと佐助を見上げると、佐吉は無言で懐に手を突っ込みささっと書いた字を佐助に見せるように突きだしてみせた。
『隠滅斬滅』
「きゅ! きゅ~!」
「佐吉……何を言っている?」
「ちびはちびがわかるんだね……旦那、もうばれちゃった」
「そうか……」
秀吉達と談笑をしていた幸村に佐助は笑い混じりで声をかける。
その言葉が合図だったかのように、幸村はおもむろに膝の上にのせていた手を持ち上げ。
それを無造作に自分の影の中に突っ込んだ。
畳を手が突き破ったのか?
三成がそんな疑問を抱いたのもつかの間、畳ではなくそこに映った影の中に潜り込んだ手は、ぷるぷると震える何かをつまみ上げて戻ってきたのだった。
「…………みゃ?」
「ちび助、豊臣の方々に挨拶をするのだ」
「みゃっ! みゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
緑の忍び装束を着た、明るい色の髪をしたちびが幸村の手の中にいた。
いきなり影から引きずり出されて驚いたのか、それとも見知らぬ人間があまりに多すぎる空間が怖いのか。ちび助と呼ばれたちびは、手足をバタバタを動かして何とか幸村から逃げだそうともがいていた。おまけに頭の上にある純白の猫のような耳と尻尾が、体に合わせてぴこぴこと動いており。
なんというか泣きそうな顔と相まって、妙に可愛らしかった。
「えっと……もしかしてその子……人見知り激しい?」
「極端に臆病なのでございます。外に出る時は常に某の影の中に隠れておりまして……」
「旦那のこと大好きなんだけど、怖いんだよねえ」
「佐助、某はちび助を怯えさせるようなことなどしておらぬぞ!」
揶揄するような佐助に思わず声を荒げた幸村だったが、それが悪かったらしい。
両手で耳を塞ぎ、かたかたと震えながらなんとか幸村から脱出すると。ちび助はまた影の中に潜り込んでしまった。
後に残ったのは、わずかな空気の揺れのみ。
「ほら、また引きこもっちゃった」
「…………某の声が大きかったのだな」
「真田、声が大きいのは戦では役立つ。だが平時も戦と同じ心構えでは、人を怯えさせてしまうのだ」
「秀吉殿……お館様と同じお言葉を! 感動でございます! 優れた武人は心も通じ合うのでございますな!」
秀吉の言葉に感激したらしい幸村は、膝立ちになり拳を振るわせながら陶酔している。
それはいつものことなので結構どうでもいいのだが、ちびたちには衝撃的な出来事だったらしい。
影から出てきたちびと仲良くなって、楽しく遊べると思っていたのだろう。ちび助が影の中に戻ってしまったことで、すっかりしょげかえってしまった佐吉たちを佐助が優しい声で慰める。
「ごめんね、ちび助はちょっと弱虫だから……もう少しここに慣れたら出てくると思うよ」
「きゅ~きゅ~」
『猫耳友情獲得』
「うん、根は素直ないい子だからちび旦那達とも仲良くなれるって」
その言葉に勇気づけられたのか、佐吉と竹千代、そして秀吉の膝から降りたちび村は幸村ではなく彼の体から産まれた影の周りに集まり。
『猫耳誕生希望』
「きゅきゅ~♪ きゅ~きゅきゅ~♪」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
手を振り、腰を振り。
体をくねらせながら謎の踊りを踊りだし始めた。
とはいえこの場にいるのはちびたちのおかしな行動に慣れきっている、歴戦の強者達ばかりである。
「そういえばこの間の酒宴は楽しかったよ。信玄公にお礼を言っておいて」
「わかりました。お館様も謙信殿も大層楽しかったとのことで」
「強者と酒を飲む……これ以上の楽しみはない。三成にはまだ早いかもしれぬがな」
「三成君も今度は連れて行ってあげるから…………って、うちにちびがいることはこの間話したのに、なんで教えてくれなかったのかな?」
「お館様がちび助のことを心配し、まだ話す時期ではないと。さすがのお館様もまさかちび村が大阪城まで飛んでいくとは夢にも思わず……」
「普通は誰も思わないって」
佐助の冷静な突っ込みに一斉に皆が笑い出す程に、誰もちびたちの奇っ怪な行動を気にしてはいなかった。
その間もちびたちは必死に体をくねらせ、おかしな声を上げながらちび助を影から引きずり出すために努力(?)していた。当然物理的にも精神的にも引きこもってしまったちび助にそれが届くわけがないのだが、ちびたちの努力に終わりは見えなかった。
叫びながら頑張っているちび村は、ぜいぜいと息切れし始めているのでそろそろ止めた方がいい気がする。そう思い、首根っこをひっつかんで止めようと思った三成だったが。
三成の腕は二本、ちびは三人。
誰から止めればいいのだろうかと悩んでいると、幸村が持ち込んだ大きな包みをごそごそと漁り、その中身を三成へと差し出してきた。
「これは石田殿にお渡しする物でございます」
「私に……だと?」
「半兵衞殿から先日頼まれまして……石田殿のお体に合わせて作って欲しいと」
「半兵衞様?」
渡された包みは大きく、ずっしりと重い。
自分の体に合わせて半兵衞は何を作らせたというのだ。確認するためにちらりと目をやるが、稀代の軍師はにこりと笑ってこちらに手を振ってくるのみ。
何を企んでいるのかは知らないが、ここは素直に開けるべきだろう。
「…………これは…………?」
幾重もの和紙にくるまれた中にあったのは、白藤色の布だった。
自分に着せる戦装束を甲斐に頼んでくれたのだろうかと一瞬喜びはしたのだが、それにしても。
「…………半兵衞、甲斐に何を頼んだというのだ?」
「内緒♪」
と、秀吉までが顔色を変えているのはどういう事なのだろうか。
余計に気になってきたので紙を破り、布を自分の手で持ち上げたのだが……この布は、明らかにおかしかった。
いや、おかしすぎる。
「半兵衞様…………あの…………もしかして………」
「そう、女物の着物。君の体に合わせて作ってもらうの大変だったんだから」
「特上の絹に職人が刺繍をいたしました。これほどの品は甲斐のどこを探しても見つかりませぬ!」
幸村が力説しているが、もう三成にそれを聞いている余裕はなかった。
綺麗に折りたたまれた着物を乱暴に広げると、絹特有の心地よい衣擦れの音。その音と共に三成の視界に広がったのは、刺繍で作られた鮮やかな紅の牡丹だった。
これは明らかに男物の着物ではないし、普段使いの着物でもない。
「私にこれをどうしろと……」
「えっとね、十日後に宴を開く予定だから…………三成君はそれを着て踊ってくれればいいから」
「……そのようなこと、今始めて聞いたのだが……それはいつ決まったのだ?」
「秀吉がいない時に決めたから」
そうさらりとこの城の城主に言い返すと、半兵衞はきりりと表情を引き締め。三成にこう命じたのであった。
「次の宴には客人がたくさん来る。普通の余興でもいいのだけど、僕は君が踊った方が周囲の気を引けると思った」
「それは……策略の一環なのですか」
「ううん、君の女装が見てみたいっていう声があちこちから上がったからなんとなく」
「勝手に決めないでください!」
「でも見たいっていう人がいっぱいいるんだよね。君の部下達からは嘆願書まで上がってるし」
「お断りします! 絶対に嫌です!」
今まで三成は一度も半兵衞に口答えをしたことがない。
いつも言われたことには素直に従い、なにかおかしな事を言われていると思っても決して反論しなかったのだ。
だが、さすがに戦の策でもないのに女装させられるのは受け入れたくない。しつけに厳しい半兵衞の教育のおかげで、一応困らない程度に踊ることはできるが。普通に宴会の余興として踊らされるとの、女装させられて踊らされるのでは意味が違う。
絶対に受け入れたくないし、そんな物を着せられるくらいなら逃げ出してやる。そう思いはするが、秀吉が命じたら自分はどんなことでもするだろう事を三成はちゃんと理解していた。
しかしその時三成が考えていたことはただ一つ。
女装なんて家康に見せられない。
ただそれだけ。
冷静に秀吉に訴えれば、きっと秀吉は半兵衞を諫めてくれただろうに。三成は家康にこの姿を見せたくない、その思い故に突発的にとんでもない行動をとってしまった。
「佐吉、竹千代、来い!」
幸村の影の周りで踊るちびたちのうち、自分になじみが深い二人を掴みあげ自分の膝の上にのせると。
突発的に竹千代の前で大きく手を叩いたのだった。
「三成君!?」
「家出しますので!」
竹千代の目の前で手を叩けば、竹千代と彼に触れている存在が瞬間的にどこかへ移動する。竹千代が望む場所があればそこへ行くのだが、まだ踊りの余韻が冷め切らない竹千代には居場所を設定する余裕はないだろう。
どこへ行くのかわからないが、女装させられるよりはまし。
手を叩いた瞬間に襲ってくる体と周囲が大きく揺れ出す感触にはもう慣れ始めていたが、大きく目を見開き泣きそうな顔をしている半兵衞を見るのははじめてだった。
この人は、こんな顔もするのか。
霞み歪み始めている視界の中、顔を歪めて自分の名を呼ぶ半兵衞とその方を抱く秀吉の顔を見て。
少しだけ後悔しながら、どこへ行くのかわからぬ旅へ出発したのだった。
程よい渋みと旨味が調和した茶を口へと運ぶと、瑞々しい香りが鼻孔をくすぐってくれる。
蜜ときな粉をかけた餅を楊枝で刺し、時間をかけて口の中で味わう時間の何と素晴らしいこと。独特の弾力と粘り、そして米の芳醇な味わい。日の光の注ぐ私室で餅を愉しむ、これほどの楽しい時間があるだろうか。
いや、あるわけがない。
背筋をぴしりと伸ばし、自然が奏でる音だけを耳に入れ。
窓の外に見えるのは、瀨戸内の海とそれを彩る鮮やかな木々。庭石の隙間から見える潮風を生み出す碧を見つめながら茶をもう一度口に含み、満足の吐息を漏らすと。
毛利元就は急に外で聞こえ始めた騒がしい音に耳を傾け始めたのだった。
「竹千代! どうして貴様は水の中に落ちることしかできないのだ!」
「きゅ! きゅきゅ!」
「本当にここは毛利の城なのだろうな!?」
「ぴぃ? ぴぴっ!」
「きゅ~!」
「ナリ……竹千代に触ると濡れる、側に来るな!」
窓の外にやけに色白な大きな何かが降ってきたかと思うと、まるで先日訪問した大阪城のような大騒ぎが起こり始めた。あの騒がしい城は正直好きではないが、あの城には自分の現在の被保護者の友人達がいる。
ならば丁重に迎え入れなければならないだろう。
「賑やかなものよ……今度はどんな想像の種を運んできた?」
外から聞こえ続ける賑やかな声を聞きながら、毛利は様子を見に行くために立ち上がるわけでもなく、小さく笑い声をもらす。すぐに誰かが様子を見に行くだろうし、このところ毛利家は豊臣家とかなり親密に交流を行っている。
豊臣秀吉の右腕と呼ばれている三成の顔を見たことがない臣下の方が少ないはずだし、毛利家と豊臣家に共通する現状について、知らない人間はまずいないはず。
だから自分がわざわざ出て行かなくとも、多分空から落ちてきて池に落ちたはずの客人達は自分の部屋へと確実に通される。
それがわかっているのに、わざわざ当主が出て行く必要はないのだ。
こういう瑣末な出来事は、臣下に任せればいい。
もう一個だけ餅を口に運び、そして茶をすする。
「それにしてもわざわざ我の所へ来るとはな……何の用だというのだ、石田三成?」
三成が来るまでの間、彼がこんな手段を使って来訪した理由を考えておく必要があるだろう。心穏やかな一時は、思考をまとめてくれるが。
たまには賑やかなのも悪くない。
それを教えてくれた者たちが来訪したのも、また何かの意味があるのだろう。ほとんど感情を顔に表さないくせに世話焼きで、妙な所で庇護欲をそそるあの年若い青年が今度はどんな面白い事件を持ち込んできてくれたのか。
戦が遠ざかり、己の領地の中でも揉め事はなく。
穏やかに時が過ぎゆくからこそ、新しい揉め事を求めてしまう。だが新たな戦を求めるよりは民のためになるだろう、そう思いながら毛利元就はつい最近己が城に居候しはじめたもう一人の同居人の名を呼び。
水の中にまだいるであろう客人達が来るのを待ち続けたのだった。
_____________________________________
ということで、この後はスパーク発行の「ぷちばさ! 弐」で書き下ろしとなります。
弐の最初は前ちらっと書いたんですが、こう繋がっておりましたとさ。はじめての家出を体験した石田さんの明日はどっちだ!
といったところで続きます、みっしさんの奥州編とも多少リンク予定。
いつもと同じく忍びの佐助を後ろに従え、隣に巨大な包みを置き。澄んだ瞳で上座に座る秀吉を見やり、両手をつき深々と頭を下げてみせた。
「秀吉殿、半兵衛殿、お久しぶりでござる!」
「幸村君は相変わらず元気だね……」
「武田信玄は息災か」
「はい」
短く答えた幸村は、紅の戦装束のまま傍らには大槍を置き。
凛々しい眼差しを秀吉へと向け、爽やかに微笑む。その秀吉の膝の上には入浴を終えたばかりのちび村と。
当然の如くそこに座る半兵衛の姿があった。
「半兵衛様……その……非常に言いづらいのですが……」
「三成君どうしたの?」
「客人が来ているというのにさすがにその……そのお姿はどうかと……」
「僕と秀吉の仲の良さを見せつけたいんだけど。別にいいよね、秀吉?」
「半兵衛が望むなら我は構わぬが」
自分の胸にもたれかかる半兵衛の頭を撫でてやりながら、秀吉は苦笑いをしてみせる。
半兵衛が死の宿命から抜け出してから、秀吉は異常な程半兵衛に対して過保護になった。大事な存在を失っていたかもしれないのだ、そうなってしまうのはわからないでもないのだが。
客の前でも甘やかすのか。
秀吉に絶対的な忠誠を誓っている三成でも、さすがにこれはまずいのではないかと思っていたら。
「さすが秀吉殿! なんという器の大きさ……この幸村、素晴らしい物を見せていただきました!」
「君はそう言ってくれると思ったんだよね~ 僕、君のその馬鹿正直すぎるところ大好きだな」
「天下一の軍師殿に褒めていただけるとは! この幸村、感激しております!!」
三成に意味ありげな目線を向けて、半兵衞は幸村をわざとらしい程大きな声で褒め称えてみせた。幸村は感激に打ち震えているし、半兵衞も楽しそうではあるのだが。
褒めている方と褒められている方以外は全く楽しそうに見えない。
幸村にこの姿を見られたくないが故に、三成は散々ごねて家康の膝から下ろしてもらっていた。家康は散々抵抗したのだが、ちび村を肩に乗せて戻ってきた風呂上がりの秀吉の実力行使で部屋の外に放り出されてしまったのだ。
天下を取った男とまともに戦うには、家康もまだまだ力不足だったらしい。
そんな理由で久々に尻を畳に付けることができた三成だったのだが。幸村が半兵衞を見ても気にしないのなら、あんなに騒いで下ろしてもらう必要はなかったのではないだろうか。別に家康がここにいても、幸村は何も気にしなかったのでは。
一瞬そう思いかけたが、後ろから遠慮がちにかけられた声でとりあえず正気らしき物を保つことができた。
「石田の旦那……俺様がおかしいわけじゃないよね…………?」
「……半兵衞様のお考えは私のような卑小な者には掴みきれないのだ……多分そうに違いない」
「旦那も大変だね……」
しみじみとそう言ってから、幸村の保護者的忍びである佐助は三成の膝の上のちびたちに目を向けた。
「この子達が豊臣さんのちびなんだ。うちのちび村とちがっておとなしいんね」
「ちび村は確かに騒がしいが、食べ過ぎて寝込むこともなかったし、悪戯もしない。多少声が大きいくらい、いくらでも我慢できるだろう」
「こんなに可愛いのに、そんなにやんちゃなんだ……」
すすっと音もなく近づいてきた佐助が気になったのか、佐吉と竹千代は三成の膝から降りて佐助へと近づいていく。きょろきょろと辺りを見回してからじっと佐助を見上げると、佐吉は無言で懐に手を突っ込みささっと書いた字を佐助に見せるように突きだしてみせた。
『隠滅斬滅』
「きゅ! きゅ~!」
「佐吉……何を言っている?」
「ちびはちびがわかるんだね……旦那、もうばれちゃった」
「そうか……」
秀吉達と談笑をしていた幸村に佐助は笑い混じりで声をかける。
その言葉が合図だったかのように、幸村はおもむろに膝の上にのせていた手を持ち上げ。
それを無造作に自分の影の中に突っ込んだ。
畳を手が突き破ったのか?
三成がそんな疑問を抱いたのもつかの間、畳ではなくそこに映った影の中に潜り込んだ手は、ぷるぷると震える何かをつまみ上げて戻ってきたのだった。
「…………みゃ?」
「ちび助、豊臣の方々に挨拶をするのだ」
「みゃっ! みゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
緑の忍び装束を着た、明るい色の髪をしたちびが幸村の手の中にいた。
いきなり影から引きずり出されて驚いたのか、それとも見知らぬ人間があまりに多すぎる空間が怖いのか。ちび助と呼ばれたちびは、手足をバタバタを動かして何とか幸村から逃げだそうともがいていた。おまけに頭の上にある純白の猫のような耳と尻尾が、体に合わせてぴこぴこと動いており。
なんというか泣きそうな顔と相まって、妙に可愛らしかった。
「えっと……もしかしてその子……人見知り激しい?」
「極端に臆病なのでございます。外に出る時は常に某の影の中に隠れておりまして……」
「旦那のこと大好きなんだけど、怖いんだよねえ」
「佐助、某はちび助を怯えさせるようなことなどしておらぬぞ!」
揶揄するような佐助に思わず声を荒げた幸村だったが、それが悪かったらしい。
両手で耳を塞ぎ、かたかたと震えながらなんとか幸村から脱出すると。ちび助はまた影の中に潜り込んでしまった。
後に残ったのは、わずかな空気の揺れのみ。
「ほら、また引きこもっちゃった」
「…………某の声が大きかったのだな」
「真田、声が大きいのは戦では役立つ。だが平時も戦と同じ心構えでは、人を怯えさせてしまうのだ」
「秀吉殿……お館様と同じお言葉を! 感動でございます! 優れた武人は心も通じ合うのでございますな!」
秀吉の言葉に感激したらしい幸村は、膝立ちになり拳を振るわせながら陶酔している。
それはいつものことなので結構どうでもいいのだが、ちびたちには衝撃的な出来事だったらしい。
影から出てきたちびと仲良くなって、楽しく遊べると思っていたのだろう。ちび助が影の中に戻ってしまったことで、すっかりしょげかえってしまった佐吉たちを佐助が優しい声で慰める。
「ごめんね、ちび助はちょっと弱虫だから……もう少しここに慣れたら出てくると思うよ」
「きゅ~きゅ~」
『猫耳友情獲得』
「うん、根は素直ないい子だからちび旦那達とも仲良くなれるって」
その言葉に勇気づけられたのか、佐吉と竹千代、そして秀吉の膝から降りたちび村は幸村ではなく彼の体から産まれた影の周りに集まり。
『猫耳誕生希望』
「きゅきゅ~♪ きゅ~きゅきゅ~♪」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
手を振り、腰を振り。
体をくねらせながら謎の踊りを踊りだし始めた。
とはいえこの場にいるのはちびたちのおかしな行動に慣れきっている、歴戦の強者達ばかりである。
「そういえばこの間の酒宴は楽しかったよ。信玄公にお礼を言っておいて」
「わかりました。お館様も謙信殿も大層楽しかったとのことで」
「強者と酒を飲む……これ以上の楽しみはない。三成にはまだ早いかもしれぬがな」
「三成君も今度は連れて行ってあげるから…………って、うちにちびがいることはこの間話したのに、なんで教えてくれなかったのかな?」
「お館様がちび助のことを心配し、まだ話す時期ではないと。さすがのお館様もまさかちび村が大阪城まで飛んでいくとは夢にも思わず……」
「普通は誰も思わないって」
佐助の冷静な突っ込みに一斉に皆が笑い出す程に、誰もちびたちの奇っ怪な行動を気にしてはいなかった。
その間もちびたちは必死に体をくねらせ、おかしな声を上げながらちび助を影から引きずり出すために努力(?)していた。当然物理的にも精神的にも引きこもってしまったちび助にそれが届くわけがないのだが、ちびたちの努力に終わりは見えなかった。
叫びながら頑張っているちび村は、ぜいぜいと息切れし始めているのでそろそろ止めた方がいい気がする。そう思い、首根っこをひっつかんで止めようと思った三成だったが。
三成の腕は二本、ちびは三人。
誰から止めればいいのだろうかと悩んでいると、幸村が持ち込んだ大きな包みをごそごそと漁り、その中身を三成へと差し出してきた。
「これは石田殿にお渡しする物でございます」
「私に……だと?」
「半兵衞殿から先日頼まれまして……石田殿のお体に合わせて作って欲しいと」
「半兵衞様?」
渡された包みは大きく、ずっしりと重い。
自分の体に合わせて半兵衞は何を作らせたというのだ。確認するためにちらりと目をやるが、稀代の軍師はにこりと笑ってこちらに手を振ってくるのみ。
何を企んでいるのかは知らないが、ここは素直に開けるべきだろう。
「…………これは…………?」
幾重もの和紙にくるまれた中にあったのは、白藤色の布だった。
自分に着せる戦装束を甲斐に頼んでくれたのだろうかと一瞬喜びはしたのだが、それにしても。
「…………半兵衞、甲斐に何を頼んだというのだ?」
「内緒♪」
と、秀吉までが顔色を変えているのはどういう事なのだろうか。
余計に気になってきたので紙を破り、布を自分の手で持ち上げたのだが……この布は、明らかにおかしかった。
いや、おかしすぎる。
「半兵衞様…………あの…………もしかして………」
「そう、女物の着物。君の体に合わせて作ってもらうの大変だったんだから」
「特上の絹に職人が刺繍をいたしました。これほどの品は甲斐のどこを探しても見つかりませぬ!」
幸村が力説しているが、もう三成にそれを聞いている余裕はなかった。
綺麗に折りたたまれた着物を乱暴に広げると、絹特有の心地よい衣擦れの音。その音と共に三成の視界に広がったのは、刺繍で作られた鮮やかな紅の牡丹だった。
これは明らかに男物の着物ではないし、普段使いの着物でもない。
「私にこれをどうしろと……」
「えっとね、十日後に宴を開く予定だから…………三成君はそれを着て踊ってくれればいいから」
「……そのようなこと、今始めて聞いたのだが……それはいつ決まったのだ?」
「秀吉がいない時に決めたから」
そうさらりとこの城の城主に言い返すと、半兵衞はきりりと表情を引き締め。三成にこう命じたのであった。
「次の宴には客人がたくさん来る。普通の余興でもいいのだけど、僕は君が踊った方が周囲の気を引けると思った」
「それは……策略の一環なのですか」
「ううん、君の女装が見てみたいっていう声があちこちから上がったからなんとなく」
「勝手に決めないでください!」
「でも見たいっていう人がいっぱいいるんだよね。君の部下達からは嘆願書まで上がってるし」
「お断りします! 絶対に嫌です!」
今まで三成は一度も半兵衞に口答えをしたことがない。
いつも言われたことには素直に従い、なにかおかしな事を言われていると思っても決して反論しなかったのだ。
だが、さすがに戦の策でもないのに女装させられるのは受け入れたくない。しつけに厳しい半兵衞の教育のおかげで、一応困らない程度に踊ることはできるが。普通に宴会の余興として踊らされるとの、女装させられて踊らされるのでは意味が違う。
絶対に受け入れたくないし、そんな物を着せられるくらいなら逃げ出してやる。そう思いはするが、秀吉が命じたら自分はどんなことでもするだろう事を三成はちゃんと理解していた。
しかしその時三成が考えていたことはただ一つ。
女装なんて家康に見せられない。
ただそれだけ。
冷静に秀吉に訴えれば、きっと秀吉は半兵衞を諫めてくれただろうに。三成は家康にこの姿を見せたくない、その思い故に突発的にとんでもない行動をとってしまった。
「佐吉、竹千代、来い!」
幸村の影の周りで踊るちびたちのうち、自分になじみが深い二人を掴みあげ自分の膝の上にのせると。
突発的に竹千代の前で大きく手を叩いたのだった。
「三成君!?」
「家出しますので!」
竹千代の目の前で手を叩けば、竹千代と彼に触れている存在が瞬間的にどこかへ移動する。竹千代が望む場所があればそこへ行くのだが、まだ踊りの余韻が冷め切らない竹千代には居場所を設定する余裕はないだろう。
どこへ行くのかわからないが、女装させられるよりはまし。
手を叩いた瞬間に襲ってくる体と周囲が大きく揺れ出す感触にはもう慣れ始めていたが、大きく目を見開き泣きそうな顔をしている半兵衞を見るのははじめてだった。
この人は、こんな顔もするのか。
霞み歪み始めている視界の中、顔を歪めて自分の名を呼ぶ半兵衞とその方を抱く秀吉の顔を見て。
少しだけ後悔しながら、どこへ行くのかわからぬ旅へ出発したのだった。
程よい渋みと旨味が調和した茶を口へと運ぶと、瑞々しい香りが鼻孔をくすぐってくれる。
蜜ときな粉をかけた餅を楊枝で刺し、時間をかけて口の中で味わう時間の何と素晴らしいこと。独特の弾力と粘り、そして米の芳醇な味わい。日の光の注ぐ私室で餅を愉しむ、これほどの楽しい時間があるだろうか。
いや、あるわけがない。
背筋をぴしりと伸ばし、自然が奏でる音だけを耳に入れ。
窓の外に見えるのは、瀨戸内の海とそれを彩る鮮やかな木々。庭石の隙間から見える潮風を生み出す碧を見つめながら茶をもう一度口に含み、満足の吐息を漏らすと。
毛利元就は急に外で聞こえ始めた騒がしい音に耳を傾け始めたのだった。
「竹千代! どうして貴様は水の中に落ちることしかできないのだ!」
「きゅ! きゅきゅ!」
「本当にここは毛利の城なのだろうな!?」
「ぴぃ? ぴぴっ!」
「きゅ~!」
「ナリ……竹千代に触ると濡れる、側に来るな!」
窓の外にやけに色白な大きな何かが降ってきたかと思うと、まるで先日訪問した大阪城のような大騒ぎが起こり始めた。あの騒がしい城は正直好きではないが、あの城には自分の現在の被保護者の友人達がいる。
ならば丁重に迎え入れなければならないだろう。
「賑やかなものよ……今度はどんな想像の種を運んできた?」
外から聞こえ続ける賑やかな声を聞きながら、毛利は様子を見に行くために立ち上がるわけでもなく、小さく笑い声をもらす。すぐに誰かが様子を見に行くだろうし、このところ毛利家は豊臣家とかなり親密に交流を行っている。
豊臣秀吉の右腕と呼ばれている三成の顔を見たことがない臣下の方が少ないはずだし、毛利家と豊臣家に共通する現状について、知らない人間はまずいないはず。
だから自分がわざわざ出て行かなくとも、多分空から落ちてきて池に落ちたはずの客人達は自分の部屋へと確実に通される。
それがわかっているのに、わざわざ当主が出て行く必要はないのだ。
こういう瑣末な出来事は、臣下に任せればいい。
もう一個だけ餅を口に運び、そして茶をすする。
「それにしてもわざわざ我の所へ来るとはな……何の用だというのだ、石田三成?」
三成が来るまでの間、彼がこんな手段を使って来訪した理由を考えておく必要があるだろう。心穏やかな一時は、思考をまとめてくれるが。
たまには賑やかなのも悪くない。
それを教えてくれた者たちが来訪したのも、また何かの意味があるのだろう。ほとんど感情を顔に表さないくせに世話焼きで、妙な所で庇護欲をそそるあの年若い青年が今度はどんな面白い事件を持ち込んできてくれたのか。
戦が遠ざかり、己の領地の中でも揉め事はなく。
穏やかに時が過ぎゆくからこそ、新しい揉め事を求めてしまう。だが新たな戦を求めるよりは民のためになるだろう、そう思いながら毛利元就はつい最近己が城に居候しはじめたもう一人の同居人の名を呼び。
水の中にまだいるであろう客人達が来るのを待ち続けたのだった。
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ということで、この後はスパーク発行の「ぷちばさ! 弐」で書き下ろしとなります。
弐の最初は前ちらっと書いたんですが、こう繋がっておりましたとさ。はじめての家出を体験した石田さんの明日はどっちだ!
といったところで続きます、みっしさんの奥州編とも多少リンク予定。
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色々説明
拍手現在豊臣家転生パロ中学生編入ってます
(現在2本 家三 チカナリです)
注意事項
・フリーリンクじゃないです、基本的にはリンクはお断りしています
・ひっそりこっそりが信条なので、黙々と
・捏造、not公式のこばなしが多いので、スルー推奨
ラキドでは幹部全員を溺愛しておりますが、ベルナルドとイヴァンは特に偏愛。ばさらは家三とか奥州の愉快な仲間達と毛長がメインです。うずみさんが現在官三とか官佐にずっぽりとはまり中。
基本は、愛想のかけらもない「ネット怖い~」の書き手が二人で色々書いている場所です。
書いている人
みっし
・生真面目で堅物でムキムキな男性と一見そうじゃなくても根は真面目極まり ないキャラをこよなく愛している、がんかたうるふの片割れ。編み物とお菓子作りが趣味という、第三者曰く可愛らしい一面を持つ反面、パニクると踊ったり、オロオロしだして周囲は見ていて楽しいらしい。荒ぶる舞は、職場の名物だったりする……らしい。
イヴァンちゃんと片倉さんとシズちゃんとスカイハイさんと陛下を思いっきり愛している。好きなアニメは銀魂と最近はFate/zero。型月ファンというよりは元から虚淵ファンでうずみさんからオススメされまくった末にようやっと手を付けて完読した。ライダー組おいしいです。エクシリアではダントツで陛下が好き。陛下が使用可能になる完全版があるなら複数買いしても構わないとのたまう日々。バサラの好きキャラは片倉さん一強だったはずなのに最近はアニキも熱い。かっちり着込むキャラがすきだったはずなのにいきなり露出度が高いキャラを好きになったのは何故か悩む日々。二次元の向かう愛と同じぐらい甥っ子への愛を叫んでいる気がしてならない。
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うずみ
・相方を愛しすぎている変な人。趣味は畑仕事に漬け物作り、好きな物は不幸属性の美人(男女問わず)。ばさらでは石田さんと黒田さんをこよなく愛していたり、赤い子めんこいにゃぁとたまに叫んでいる。ついったのフォローは下 のアイコンから。
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ばさら垢できました
こんな二人で、ここを更新しております。
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