こちらはサークル「がんかたうるふ」のうずみとみっしの二人組が、ラッキードッグ1とばさらのこばなしを黙々と投下する場所です。
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自分が毛利さん大好きって事を再確認しました……大好き。
追記~全部アップしました。自分はやっぱり毛利さん(以下略
追記~全部アップしました。自分はやっぱり毛利さん(以下略
*****
街中に移動しても、表門は使わないことにしている。
表から出るのは晴れやかな気持ちで大手を振って外に出ることが出来る日。そう一度決めたからには多少遠回りになっても裏門から出るのが当たり前のこと。その考えのもとに狭苦しい勝手口から外に出たのだが、この勝手口とにかく間口が狭い上に高さが低い。
それに気がつかず頭をぶつけ、見送りに来てくれた政宗の大爆笑で送り出されたのがつい先程のこと。
まだずきずきと痛む額に手をやると、前髪に保護されていたというのに小さな瘤になりかけていた。自分が欧州に連れてこられた時も目が冷めたら大きな瘤が出来ていたのを思い出し、三成は地図を見ながら軽く息を吐いた。
伊達家には自分に瘤を作らせる何かが存在している、そう思うしかない。
しっかりと整備された道に時折存在する水たまり、そこに張っている氷を巧みに距離を計算しながら全て割っていく。政宗が持たせてくれた傘を壊す勢いで空から降り注ぐ雨のせいか道を歩いている人はほとんどおらず、見知らぬ誰かに大人げないと笑われる心配もない。
それに雨の降る中で氷が存在するというのが、不思議でならなかった。
普通ならばこれだけ雨が降れば氷はすぐに溶けてしまうはずなのに。地図と傘の柄を持っている方の手ではなく、小さな瓶を持っている方を瓶ごと傘の外へ出すと、その理由はすぐに判明した。
わずかに触れただけで、手が痺れてしまうような冷水だったのだ。
すぐに傘の中に手を戻し、指先だけを動かし何とか暖かさを取り戻そうと指を動かしながらのんきに歩いていると、雨の音に別なものが混ざり始めたことに気がついた。
決して衰えることのない武将としての鋭い感覚が、鈍く響く音と共に肌に危機感を叩きつけてくる。
家康相手ではこんな刺さるようなものは感じない。自分に純粋な好意を向けてくる幸村に危機感を覚えるわけがないし、松永の時は……未だに何故あんなにあの男を危険だと感じなかったのか時折疑問に思う程。
背に当たる雨音に混ざるその音の正体、そして何か己に近づいてきているのか。それを歩みを止めずに、耳を澄まして推察する。ざあざあと傘を叩く雨音は確かにうるさい、だが実質的な大きな質量を伴った音ではないのだ。空気を震わせ骨にまで染みこむような低音は、何かの大きな者がこの近隣に近づいている証。
地の利を考えた上で、伊達家はここに本邸を建てている。
海にほど近く、だが海から直接本邸を攻撃できないような山間に本拠地を建て、その下にある平地に街を作り上げる。もしここまで敵が攻めてくることがあっても、最悪街を犠牲にしてその間に逃げることも可能。
政宗の気性を考えるとそのようなことをするわけがないだろうが、当主の住む場所としてこれほど考えられた場所はないだろう。伊達家の本拠地であるこの場所に、許可無く他の軍の兵たちが入ってこられるわけがない。
では雨音に紛れて近づいてくるのは一体何か。
伊達家の船とかであるならばいいのだが、なぜだか三成は胸騒ぎというか、寒気に近い何かが湧き上がってくるのを押さえることが出来なかった。この根源的な恐怖に近い、だが完全に嫌悪しているわけではない奇妙な感触は以前何度も味わっているはずなのだが……
空気をわずかに震わせ、氷を割りながら進み続ける足下からも響く振動。
奇妙な感じはするし、じりじりと胸を焼く不安が消える気配もないのだが。敵であれば政宗たちが対応するであろうし、刀を持っていなくてもただの兵卒にやられる程落ちぶれてはいない。
自分だけ気をもんでもしょうがないだろう、そう結論づけ緩めていた歩調を戻そうとすると、唐突に後ろから声をかけられた。これだけ集中していたのに後ろに人が来たことに気がつかなかった、その事実をおかしいと思う前に素直に相手の質問に答えてしまったのは、相手の声の何故だか懐かしさのようなものを感じてしまったから。
「おい、そこの。悪いが伊達の屋敷の場所を教えてもらえねえか?」
「………何故私が知っていると思う?」
「竹に雀が染め抜かれた傘なんて、伊達家の人間じゃなきゃ持たねえよな?」
「……………それもそうだな。ところでお前、伊達に何の用だ…………」
相手の声には敵意の様なものは一切含まれていなかった。
それが三成を安心させ、安易に後ろを振り向かせたのだが。
「ちょ……長曾我部!?」
「石田!?」
そこにいたのは必要以上に大きな番傘をさした、海のように大きな存在感を持つ男だった。この寒さなので上半身のほとんどを剥き出しにしたいつもの服では来なかったが、かわりに以前見た事がある異国の服を着てきている。おかしな形状をした某氏をかぶり、その上から傘を差しているので必要以上に傘を上に持ち上げていることになるが、この男の膂力なら長時間そうしていても疲れることはないのだろう。
それにしてもなぜこの男はここに。
敵国のど真ん中で、偶然以前の戦友(っぽい存在)に会う。そんな奇跡が裸足で逃げ出すような珍事に三成は頭が動かなくなり、元親の方は三成が何故瓶を持って普通に道を歩いていたかの答えを見つけられず。
しばらく驚愕の表情のまま互いに固まっているしかたなったのだが。凍り付いたようになっていた二人を動かしたのは、長曾我部の後ろから聞こえてきた冷静きわまりない声だった。
「何をしておる、目的の石田に会えたのだろう? 何か言うことはないのか、この阿呆め」
「お前………ここで何やってんだ!?」
「おつかいだ!」
「いや、そこ威張るとこじゃねえよな……」
「伊達家の存亡がある意味かかってるのだぞ!」
「伊達家の存亡はその瓶の中にあんのか? うちよりひでえな、伊達は」
「伊達を馬鹿にするな! 今日はまだましな方だ!」
「お前が一番馬鹿にしてねえか……おい?」
「これが礼節を理解していないのは以前からのことであろう。久方ぶりに会った旧知へ挨拶も出来ぬのだからな」
ひょっこりと長曾我部の後ろから顔を出したのは、さらりと流れる髪を兜に隠さず傘すら持っていない毛利の姿だった。元親の差す傘に入って、ここまで来たのだろう。以前よりずっと伸びた髪には、わずかの水滴もかかってはいない。よくよく見れば元親が毛利に雨粒がかからぬよう、角度を調整して傘を差しているのは明白で。
つくづくこの二人はおかしな関係だ。
何度も殺し合っているくせに一度休戦を決めると、その期間だけは親密な恋人同士のように濃厚な時を過ごす。幸村と三成は何度も殺し合いという名の痴話げんかに巻き込まれ、そして話し合いという名の濃密な睦み合いを見せつけられ。
すっかり性根が歪んでしまった。
この二人に関わらなければ幸村も普通に嫁を娶って信玄に孫を抱かせてやれただろうに。そんなちょっとずれたことを考えながら、三成は改めて傘を持ち直した。
この二人に構っている暇はない、今は糠をもらいに行かなければ。
「私は道を急ぐ、伊達の屋敷は……そこら辺の奴らに聞け」
「俺はお前に会いに来たんだ」
邪険にするのかと言いたげに元親がずいと距離を詰める。
それから逃げるように一歩後ろに下がると、追うために相手がまた近づき。とりあえず糠を早くもらいに行きたい、そしてとにかく元親と距離をとりたい三成は必死に逃げようとしていたが。
更にこの状況を悪くする男が、元親の後ろから走ってくるのが見えた。
「三成~! 儂も一緒に糠をもらいに行かせてくれ!」
傘も差さず、全身で氷雨を浴びながら走ってくる馬鹿を三成は一人しか知らない。
その馬鹿に戦で負けてたことで、に糠をもらいに行く羽目になっていたりしている三成だったが、一つだけわかることがある。
家康と合流すると、更に面倒なことになる。
「……………厄介なのが来たが、どうするのだ?」
「厄介なの? どこのどいつだ」
「貴様の『親友』だ。会いたかったのではないのか?」
元親の背に体を寄せたまま、毛利は一瞬だけ後ろに目をやり。
興味なさげに顔を戻すと、表情をすぐに笑顔の形へと変えた。その笑いを浮かべる時の毛利は三成にとって常に良いことばかりを告げてくれたわけではなかったが。
優しいとはいえないその顔で、彼は三成にとって役に立つことを教えてくれたのだ。
「石田、先に行け」
「行ってもいいのか?」
「貴様と徳川とこやつを今鉢合わせさせても、我に得がないのでな。それよりも互いを『親友』と呼び合っておるというのに、あれから一度も会おうとせぬこやつらを会わせた方が楽しいであろう?」
「会って……ないだと?」
「おい、毛利!」
「貴様は黙っていろ……石田、後で詳しく教えてやる。今は先に行くがいい……もっとも我らも追わせてもらうが」
毛利の声に押されるように彼らに背を向け、そして早足で先を進み始める。樽を持つ手に力を込め、考えるのは家康のこと。
家康はここでも元親のことを何度も口にしていた。
彼の船でどこに行こう、彼に二人で会いに行こう。
元親のことを嫌いではないが苦手としていた三成にしてみたら、それはどんな嫌がらせだと話を聞く度毎回思っていたのだが。家康もずっと元親と会っていなかった、それは一体何を意味しているのか。
彼らの関係は関ヶ原の戦が終わった後も修復されていないのか。
わからないことばかりだが、自分は二人の問題に立ち入ってはいけない。それだけはしっかりと理解していた。自分と家康の間に他の人間が入れぬように、友人同士の問題は互いが意見をぶつけ合って解決しなければならないのだ。
自分と家康の間にはもう有り得ない関係修復も、彼らなら出来るはず。
それが自分の見ていない所で行われ、そして自分のおつかいを邪魔しないように二人が友好を深めてくれればいいのだが。そしてこの頃とみに扱いが面倒になってきた家康を、元親が止めてくれればいいのだが。
「…………家康………」
そう呟くと、先日の家康の暴れぶりが自然と脳裏に浮かび、背筋が一気に粟立った。
手足を縛って口に何か噛ませて外に放り出したら気分が良いだろうなと政宗が数日前言っていたが、必死にこちらを追いかけてくる家康の声は確かにうるさいし逃げて正解だと思うが。
何の影もない綺麗な笑顔が自分に向けられないのは、少しだけ。
ほんのわずかだが寂しかった。
結局三成のおつかいは無事に成功した。
先に行けといった毛利は確かにちゃんと家康を食い止める役割を果たしてくれたし、三成は一人で頼まれた用をこなすことが出来たのだが。
「三成のはじめてのおつかいか、楽しみだな!」
「……なあ毛利、ちゃんとできんのか?」
「あれも、もう大人だ。たかが味噌を買う程度……出来なければあざ笑ってやればよいだけよ」
「三成が失敗をするわけがない! 何かあったら儂が手助けを……っ!」
「それでは意味がないだろう。長曾我部、この男の頭には藁しか詰まっておらぬのか?」
「………………………………」
家康と合流して後をついてくるなんて聞いていない。
面倒そうな男が三人、自分について色々言いながらついてくるなんてことは予想だにしていなかったのだ。姿を隠すことすらせず、ぎゃあぎゃあと様々な事を言い合いながら後をついてくる男たちをあえて無視し、三成は仕事を終わらせることだけに専念し。
「これです……ありがとうございます、石田殿!」
という必要以上に眼がキラキラした小十郎から例の言葉を貰うことができた。
まあ、濡れても暑苦しい権現一匹と瀬戸内からの面倒そうな客を連れてきたことに関しては軽く小言を食らったのだが、それが三成のせいではないことは小十郎もわかっていたのだろう。
風邪を引かれては困るのでさっさと暖まってきて下さい。そんな名目で家康を風呂に丁寧に叩き込み、瀬戸内からの客人には温かい甘茶を振る舞い。
ようやく一同は人心地つくことが出来たのだった。
「ここの甘茶は美味よ。餅はないのか? 奥州には『ずんだ餅』というものがあると聞いておる」
「ずんだ餅は一度に一つだ! 滅多に喰わせてもらえん」
「吝嗇にも程があるな。だから北の田舎者と呼ばれるのだ」
と言いながら、わずかも濡れていない毛利が甘茶を飲み干すと、少し離れた距離で見守っていた小十郎の顔が一気に引きつった。
「おかわりはないのか?」
「た、ただいまお持ちいたしますので……」
「毛利、あまり片倉にきついことを言うな」
「凶王三成らしくないことを言う。切り刻まぬのか?」
「………………………………」
「あの凶王が変わったものよ。まあ、我にとっては扱いやすい駒になってくれそうでありがたいがな」
「私は貴様の駒にはならん」
三成の言葉に少しだけ表情を和らげた小十郎が、無言で部屋を出て行く。
それを確認し、先程から一言も言葉を発さず濡れた頭を拭き続けている元親に毛利は声をかけた。
「なんだその鬱屈とした顔は」
「………てめーがそうしたんだろうが」
「徳川とわざと会わせたことか? ちょうどいい機会であっただろうに……なぜそんなに困ることがある?」
「会いづれえ……わけでもないんだけどよ……」
言葉を濁す元親から距離を置いた状態で、三成はまだ空になっていない湯飲みから茶を口に含み、音を立てぬよう気をつけながら飲み込んだ。元親が作る静寂を壊してはいけないような、だが彼の苦悩を聞いてはいけないような。
彼の賑やかさが苦手だったはずなのに、彼の作る静寂は三成の胸をゆっくりとざわめかせ始めていた。自分の部屋だというのに肩に力を入れて縮こまっていると、静寂ごと元親の惑いを壊すために毛利がわざと大きな音を立てて足を投げ出した。
「少しは気を遣え。子供を困らせてどうする」
「……ガキがどこにいるって?」
「目の前におるであろう、己の処遇すら自分で決められぬ大きな子供が」
自分のことを言っている、そのことで怒ろうとしたが。
「ま、確かに俺たちよりはガキだな」
「貴様らの方がジジイと言う事か、それは」
その言葉を言い終わった瞬間飛んできたのは毛利の拳と、元親の指だった。毛利に思いっきり頭を叩かれ、元親には顔をつねられ。
痛む頭と頬を押さえながら三成は更に部屋の隅へ移動しようとしたが、それすらも二人に押しとどめられ。
「私は貴様が苦手なのだ……長曾我部」
と、二人に挟まれ小さくなりながら呟いていると、元親から予想外の言葉。
「さんざんそう言ってくれたがよ、一つ思い出せや」
「なんだ?」
「俺はお前に何かしたか?」
「萩重と豊臣の家紋に泥をつけたではないか!」
「それ以外になんかしたか?」
その言葉に引っかかるものを感じ、三成は過去の記憶を必死に呼び戻す。
記憶力には自信がある、きっと自分が元親に感じている嫌悪に近い恐怖にも何か原因があるはず……
「破廉恥きわまりなかった」
「それは認めてやるよ」
「とにかくやることなすこといやらしかった、服も貧乏人かと勘違いする程だった」
「俺の服は俺の趣味だ。あと助平は男の甲斐性だから覚えておけ」
「貴様のは甲斐性を越えている……さすがに屋外はやめておけ」
「盛っちまったらしょうがねえだろうが」
二人のやりとりを面白そうに聞き、ついでに元親に出された甘茶まで飲んでいた毛利だったが。二人の会話にこれ以上進展はないと判断したのだろう、茶で濡れた唇を動かしそれはもう艶やかに笑ってみせると。
「ならば石田、こやつを嫌う理由はあるまい」
これ以上ない程きっぱりと、そう言ってのけた。
ようやく小十郎の、ではないが糠を取り戻し。
更に三成が連れて帰ってきた家康とせとうちの両将の扱いについて頭を悩ませていた政宗の部屋に、小十郎が珍しく小走りで入ってきた。そろそろ家康も風呂から上がるはず、あの変態権現が何か問題でも起こしたのかと最初は思ったのだが。
真っ青な顔をした小十郎が告げた言葉に、政宗自身も大慌てすることになってしまった。
「い、石田殿が……長曾我部殿に懐いております」
普段のあの様子から鑑みて、それだけはないと思っていたのに。
これから巻き起こるさらなる騒動をざっと予想するだけで、心労が極致に達してしまったのだろう。今にも倒れ込みそうな小十郎に言葉をかけてやりながら、政宗は屋根を壊しそうな勢いで降り続ける雨音を聞きながら。
雪を溶かしてくれた代わりに、とんでもない難問を持って来やがった。
ぎりりと歯噛みをしながら、そんなことを考えた。
_______________________________________
最初は細かく書いていこうと思っていたはずなのに、一話のボリュームがすごいことになってきております。私は一体どうすれば……後編はどれだけのボリュームになるんでしょうか……
あと三成さんの言いくるめられ具合はそろそろどうにかした方がいい。
ちなみに6章は水樹奈々の「夢幻」と「Silent Bible」のイメージで書いてます。
自分はどんだけオクラの人に夢を抱いて……ちなみにオクラさんルートの場合「権現、楽土の夢を打ち砕かれる」というタイトルになる予定でした。
BGM「DRAGONIA」 by水樹奈々
表から出るのは晴れやかな気持ちで大手を振って外に出ることが出来る日。そう一度決めたからには多少遠回りになっても裏門から出るのが当たり前のこと。その考えのもとに狭苦しい勝手口から外に出たのだが、この勝手口とにかく間口が狭い上に高さが低い。
それに気がつかず頭をぶつけ、見送りに来てくれた政宗の大爆笑で送り出されたのがつい先程のこと。
まだずきずきと痛む額に手をやると、前髪に保護されていたというのに小さな瘤になりかけていた。自分が欧州に連れてこられた時も目が冷めたら大きな瘤が出来ていたのを思い出し、三成は地図を見ながら軽く息を吐いた。
伊達家には自分に瘤を作らせる何かが存在している、そう思うしかない。
しっかりと整備された道に時折存在する水たまり、そこに張っている氷を巧みに距離を計算しながら全て割っていく。政宗が持たせてくれた傘を壊す勢いで空から降り注ぐ雨のせいか道を歩いている人はほとんどおらず、見知らぬ誰かに大人げないと笑われる心配もない。
それに雨の降る中で氷が存在するというのが、不思議でならなかった。
普通ならばこれだけ雨が降れば氷はすぐに溶けてしまうはずなのに。地図と傘の柄を持っている方の手ではなく、小さな瓶を持っている方を瓶ごと傘の外へ出すと、その理由はすぐに判明した。
わずかに触れただけで、手が痺れてしまうような冷水だったのだ。
すぐに傘の中に手を戻し、指先だけを動かし何とか暖かさを取り戻そうと指を動かしながらのんきに歩いていると、雨の音に別なものが混ざり始めたことに気がついた。
決して衰えることのない武将としての鋭い感覚が、鈍く響く音と共に肌に危機感を叩きつけてくる。
家康相手ではこんな刺さるようなものは感じない。自分に純粋な好意を向けてくる幸村に危機感を覚えるわけがないし、松永の時は……未だに何故あんなにあの男を危険だと感じなかったのか時折疑問に思う程。
背に当たる雨音に混ざるその音の正体、そして何か己に近づいてきているのか。それを歩みを止めずに、耳を澄まして推察する。ざあざあと傘を叩く雨音は確かにうるさい、だが実質的な大きな質量を伴った音ではないのだ。空気を震わせ骨にまで染みこむような低音は、何かの大きな者がこの近隣に近づいている証。
地の利を考えた上で、伊達家はここに本邸を建てている。
海にほど近く、だが海から直接本邸を攻撃できないような山間に本拠地を建て、その下にある平地に街を作り上げる。もしここまで敵が攻めてくることがあっても、最悪街を犠牲にしてその間に逃げることも可能。
政宗の気性を考えるとそのようなことをするわけがないだろうが、当主の住む場所としてこれほど考えられた場所はないだろう。伊達家の本拠地であるこの場所に、許可無く他の軍の兵たちが入ってこられるわけがない。
では雨音に紛れて近づいてくるのは一体何か。
伊達家の船とかであるならばいいのだが、なぜだか三成は胸騒ぎというか、寒気に近い何かが湧き上がってくるのを押さえることが出来なかった。この根源的な恐怖に近い、だが完全に嫌悪しているわけではない奇妙な感触は以前何度も味わっているはずなのだが……
空気をわずかに震わせ、氷を割りながら進み続ける足下からも響く振動。
奇妙な感じはするし、じりじりと胸を焼く不安が消える気配もないのだが。敵であれば政宗たちが対応するであろうし、刀を持っていなくてもただの兵卒にやられる程落ちぶれてはいない。
自分だけ気をもんでもしょうがないだろう、そう結論づけ緩めていた歩調を戻そうとすると、唐突に後ろから声をかけられた。これだけ集中していたのに後ろに人が来たことに気がつかなかった、その事実をおかしいと思う前に素直に相手の質問に答えてしまったのは、相手の声の何故だか懐かしさのようなものを感じてしまったから。
「おい、そこの。悪いが伊達の屋敷の場所を教えてもらえねえか?」
「………何故私が知っていると思う?」
「竹に雀が染め抜かれた傘なんて、伊達家の人間じゃなきゃ持たねえよな?」
「……………それもそうだな。ところでお前、伊達に何の用だ…………」
相手の声には敵意の様なものは一切含まれていなかった。
それが三成を安心させ、安易に後ろを振り向かせたのだが。
「ちょ……長曾我部!?」
「石田!?」
そこにいたのは必要以上に大きな番傘をさした、海のように大きな存在感を持つ男だった。この寒さなので上半身のほとんどを剥き出しにしたいつもの服では来なかったが、かわりに以前見た事がある異国の服を着てきている。おかしな形状をした某氏をかぶり、その上から傘を差しているので必要以上に傘を上に持ち上げていることになるが、この男の膂力なら長時間そうしていても疲れることはないのだろう。
それにしてもなぜこの男はここに。
敵国のど真ん中で、偶然以前の戦友(っぽい存在)に会う。そんな奇跡が裸足で逃げ出すような珍事に三成は頭が動かなくなり、元親の方は三成が何故瓶を持って普通に道を歩いていたかの答えを見つけられず。
しばらく驚愕の表情のまま互いに固まっているしかたなったのだが。凍り付いたようになっていた二人を動かしたのは、長曾我部の後ろから聞こえてきた冷静きわまりない声だった。
「何をしておる、目的の石田に会えたのだろう? 何か言うことはないのか、この阿呆め」
「お前………ここで何やってんだ!?」
「おつかいだ!」
「いや、そこ威張るとこじゃねえよな……」
「伊達家の存亡がある意味かかってるのだぞ!」
「伊達家の存亡はその瓶の中にあんのか? うちよりひでえな、伊達は」
「伊達を馬鹿にするな! 今日はまだましな方だ!」
「お前が一番馬鹿にしてねえか……おい?」
「これが礼節を理解していないのは以前からのことであろう。久方ぶりに会った旧知へ挨拶も出来ぬのだからな」
ひょっこりと長曾我部の後ろから顔を出したのは、さらりと流れる髪を兜に隠さず傘すら持っていない毛利の姿だった。元親の差す傘に入って、ここまで来たのだろう。以前よりずっと伸びた髪には、わずかの水滴もかかってはいない。よくよく見れば元親が毛利に雨粒がかからぬよう、角度を調整して傘を差しているのは明白で。
つくづくこの二人はおかしな関係だ。
何度も殺し合っているくせに一度休戦を決めると、その期間だけは親密な恋人同士のように濃厚な時を過ごす。幸村と三成は何度も殺し合いという名の痴話げんかに巻き込まれ、そして話し合いという名の濃密な睦み合いを見せつけられ。
すっかり性根が歪んでしまった。
この二人に関わらなければ幸村も普通に嫁を娶って信玄に孫を抱かせてやれただろうに。そんなちょっとずれたことを考えながら、三成は改めて傘を持ち直した。
この二人に構っている暇はない、今は糠をもらいに行かなければ。
「私は道を急ぐ、伊達の屋敷は……そこら辺の奴らに聞け」
「俺はお前に会いに来たんだ」
邪険にするのかと言いたげに元親がずいと距離を詰める。
それから逃げるように一歩後ろに下がると、追うために相手がまた近づき。とりあえず糠を早くもらいに行きたい、そしてとにかく元親と距離をとりたい三成は必死に逃げようとしていたが。
更にこの状況を悪くする男が、元親の後ろから走ってくるのが見えた。
「三成~! 儂も一緒に糠をもらいに行かせてくれ!」
傘も差さず、全身で氷雨を浴びながら走ってくる馬鹿を三成は一人しか知らない。
その馬鹿に戦で負けてたことで、に糠をもらいに行く羽目になっていたりしている三成だったが、一つだけわかることがある。
家康と合流すると、更に面倒なことになる。
「……………厄介なのが来たが、どうするのだ?」
「厄介なの? どこのどいつだ」
「貴様の『親友』だ。会いたかったのではないのか?」
元親の背に体を寄せたまま、毛利は一瞬だけ後ろに目をやり。
興味なさげに顔を戻すと、表情をすぐに笑顔の形へと変えた。その笑いを浮かべる時の毛利は三成にとって常に良いことばかりを告げてくれたわけではなかったが。
優しいとはいえないその顔で、彼は三成にとって役に立つことを教えてくれたのだ。
「石田、先に行け」
「行ってもいいのか?」
「貴様と徳川とこやつを今鉢合わせさせても、我に得がないのでな。それよりも互いを『親友』と呼び合っておるというのに、あれから一度も会おうとせぬこやつらを会わせた方が楽しいであろう?」
「会って……ないだと?」
「おい、毛利!」
「貴様は黙っていろ……石田、後で詳しく教えてやる。今は先に行くがいい……もっとも我らも追わせてもらうが」
毛利の声に押されるように彼らに背を向け、そして早足で先を進み始める。樽を持つ手に力を込め、考えるのは家康のこと。
家康はここでも元親のことを何度も口にしていた。
彼の船でどこに行こう、彼に二人で会いに行こう。
元親のことを嫌いではないが苦手としていた三成にしてみたら、それはどんな嫌がらせだと話を聞く度毎回思っていたのだが。家康もずっと元親と会っていなかった、それは一体何を意味しているのか。
彼らの関係は関ヶ原の戦が終わった後も修復されていないのか。
わからないことばかりだが、自分は二人の問題に立ち入ってはいけない。それだけはしっかりと理解していた。自分と家康の間に他の人間が入れぬように、友人同士の問題は互いが意見をぶつけ合って解決しなければならないのだ。
自分と家康の間にはもう有り得ない関係修復も、彼らなら出来るはず。
それが自分の見ていない所で行われ、そして自分のおつかいを邪魔しないように二人が友好を深めてくれればいいのだが。そしてこの頃とみに扱いが面倒になってきた家康を、元親が止めてくれればいいのだが。
「…………家康………」
そう呟くと、先日の家康の暴れぶりが自然と脳裏に浮かび、背筋が一気に粟立った。
手足を縛って口に何か噛ませて外に放り出したら気分が良いだろうなと政宗が数日前言っていたが、必死にこちらを追いかけてくる家康の声は確かにうるさいし逃げて正解だと思うが。
何の影もない綺麗な笑顔が自分に向けられないのは、少しだけ。
ほんのわずかだが寂しかった。
結局三成のおつかいは無事に成功した。
先に行けといった毛利は確かにちゃんと家康を食い止める役割を果たしてくれたし、三成は一人で頼まれた用をこなすことが出来たのだが。
「三成のはじめてのおつかいか、楽しみだな!」
「……なあ毛利、ちゃんとできんのか?」
「あれも、もう大人だ。たかが味噌を買う程度……出来なければあざ笑ってやればよいだけよ」
「三成が失敗をするわけがない! 何かあったら儂が手助けを……っ!」
「それでは意味がないだろう。長曾我部、この男の頭には藁しか詰まっておらぬのか?」
「………………………………」
家康と合流して後をついてくるなんて聞いていない。
面倒そうな男が三人、自分について色々言いながらついてくるなんてことは予想だにしていなかったのだ。姿を隠すことすらせず、ぎゃあぎゃあと様々な事を言い合いながら後をついてくる男たちをあえて無視し、三成は仕事を終わらせることだけに専念し。
「これです……ありがとうございます、石田殿!」
という必要以上に眼がキラキラした小十郎から例の言葉を貰うことができた。
まあ、濡れても暑苦しい権現一匹と瀬戸内からの面倒そうな客を連れてきたことに関しては軽く小言を食らったのだが、それが三成のせいではないことは小十郎もわかっていたのだろう。
風邪を引かれては困るのでさっさと暖まってきて下さい。そんな名目で家康を風呂に丁寧に叩き込み、瀬戸内からの客人には温かい甘茶を振る舞い。
ようやく一同は人心地つくことが出来たのだった。
「ここの甘茶は美味よ。餅はないのか? 奥州には『ずんだ餅』というものがあると聞いておる」
「ずんだ餅は一度に一つだ! 滅多に喰わせてもらえん」
「吝嗇にも程があるな。だから北の田舎者と呼ばれるのだ」
と言いながら、わずかも濡れていない毛利が甘茶を飲み干すと、少し離れた距離で見守っていた小十郎の顔が一気に引きつった。
「おかわりはないのか?」
「た、ただいまお持ちいたしますので……」
「毛利、あまり片倉にきついことを言うな」
「凶王三成らしくないことを言う。切り刻まぬのか?」
「………………………………」
「あの凶王が変わったものよ。まあ、我にとっては扱いやすい駒になってくれそうでありがたいがな」
「私は貴様の駒にはならん」
三成の言葉に少しだけ表情を和らげた小十郎が、無言で部屋を出て行く。
それを確認し、先程から一言も言葉を発さず濡れた頭を拭き続けている元親に毛利は声をかけた。
「なんだその鬱屈とした顔は」
「………てめーがそうしたんだろうが」
「徳川とわざと会わせたことか? ちょうどいい機会であっただろうに……なぜそんなに困ることがある?」
「会いづれえ……わけでもないんだけどよ……」
言葉を濁す元親から距離を置いた状態で、三成はまだ空になっていない湯飲みから茶を口に含み、音を立てぬよう気をつけながら飲み込んだ。元親が作る静寂を壊してはいけないような、だが彼の苦悩を聞いてはいけないような。
彼の賑やかさが苦手だったはずなのに、彼の作る静寂は三成の胸をゆっくりとざわめかせ始めていた。自分の部屋だというのに肩に力を入れて縮こまっていると、静寂ごと元親の惑いを壊すために毛利がわざと大きな音を立てて足を投げ出した。
「少しは気を遣え。子供を困らせてどうする」
「……ガキがどこにいるって?」
「目の前におるであろう、己の処遇すら自分で決められぬ大きな子供が」
自分のことを言っている、そのことで怒ろうとしたが。
「ま、確かに俺たちよりはガキだな」
「貴様らの方がジジイと言う事か、それは」
その言葉を言い終わった瞬間飛んできたのは毛利の拳と、元親の指だった。毛利に思いっきり頭を叩かれ、元親には顔をつねられ。
痛む頭と頬を押さえながら三成は更に部屋の隅へ移動しようとしたが、それすらも二人に押しとどめられ。
「私は貴様が苦手なのだ……長曾我部」
と、二人に挟まれ小さくなりながら呟いていると、元親から予想外の言葉。
「さんざんそう言ってくれたがよ、一つ思い出せや」
「なんだ?」
「俺はお前に何かしたか?」
「萩重と豊臣の家紋に泥をつけたではないか!」
「それ以外になんかしたか?」
その言葉に引っかかるものを感じ、三成は過去の記憶を必死に呼び戻す。
記憶力には自信がある、きっと自分が元親に感じている嫌悪に近い恐怖にも何か原因があるはず……
「破廉恥きわまりなかった」
「それは認めてやるよ」
「とにかくやることなすこといやらしかった、服も貧乏人かと勘違いする程だった」
「俺の服は俺の趣味だ。あと助平は男の甲斐性だから覚えておけ」
「貴様のは甲斐性を越えている……さすがに屋外はやめておけ」
「盛っちまったらしょうがねえだろうが」
二人のやりとりを面白そうに聞き、ついでに元親に出された甘茶まで飲んでいた毛利だったが。二人の会話にこれ以上進展はないと判断したのだろう、茶で濡れた唇を動かしそれはもう艶やかに笑ってみせると。
「ならば石田、こやつを嫌う理由はあるまい」
これ以上ない程きっぱりと、そう言ってのけた。
ようやく小十郎の、ではないが糠を取り戻し。
更に三成が連れて帰ってきた家康とせとうちの両将の扱いについて頭を悩ませていた政宗の部屋に、小十郎が珍しく小走りで入ってきた。そろそろ家康も風呂から上がるはず、あの変態権現が何か問題でも起こしたのかと最初は思ったのだが。
真っ青な顔をした小十郎が告げた言葉に、政宗自身も大慌てすることになってしまった。
「い、石田殿が……長曾我部殿に懐いております」
普段のあの様子から鑑みて、それだけはないと思っていたのに。
これから巻き起こるさらなる騒動をざっと予想するだけで、心労が極致に達してしまったのだろう。今にも倒れ込みそうな小十郎に言葉をかけてやりながら、政宗は屋根を壊しそうな勢いで降り続ける雨音を聞きながら。
雪を溶かしてくれた代わりに、とんでもない難問を持って来やがった。
ぎりりと歯噛みをしながら、そんなことを考えた。
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最初は細かく書いていこうと思っていたはずなのに、一話のボリュームがすごいことになってきております。私は一体どうすれば……後編はどれだけのボリュームになるんでしょうか……
あと三成さんの言いくるめられ具合はそろそろどうにかした方がいい。
ちなみに6章は水樹奈々の「夢幻」と「Silent Bible」のイメージで書いてます。
自分はどんだけオクラの人に夢を抱いて……ちなみにオクラさんルートの場合「権現、楽土の夢を打ち砕かれる」というタイトルになる予定でした。
BGM「DRAGONIA」 by水樹奈々
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色々説明
拍手現在豊臣家転生パロ中学生編入ってます
(現在2本 家三 チカナリです)
注意事項
・フリーリンクじゃないです、基本的にはリンクはお断りしています
・ひっそりこっそりが信条なので、黙々と
・捏造、not公式のこばなしが多いので、スルー推奨
ラキドでは幹部全員を溺愛しておりますが、ベルナルドとイヴァンは特に偏愛。ばさらは家三とか奥州の愉快な仲間達と毛長がメインです。うずみさんが現在官三とか官佐にずっぽりとはまり中。
基本は、愛想のかけらもない「ネット怖い~」の書き手が二人で色々書いている場所です。
書いている人
みっし
・生真面目で堅物でムキムキな男性と一見そうじゃなくても根は真面目極まり ないキャラをこよなく愛している、がんかたうるふの片割れ。編み物とお菓子作りが趣味という、第三者曰く可愛らしい一面を持つ反面、パニクると踊ったり、オロオロしだして周囲は見ていて楽しいらしい。荒ぶる舞は、職場の名物だったりする……らしい。
イヴァンちゃんと片倉さんとシズちゃんとスカイハイさんと陛下を思いっきり愛している。好きなアニメは銀魂と最近はFate/zero。型月ファンというよりは元から虚淵ファンでうずみさんからオススメされまくった末にようやっと手を付けて完読した。ライダー組おいしいです。エクシリアではダントツで陛下が好き。陛下が使用可能になる完全版があるなら複数買いしても構わないとのたまう日々。バサラの好きキャラは片倉さん一強だったはずなのに最近はアニキも熱い。かっちり着込むキャラがすきだったはずなのにいきなり露出度が高いキャラを好きになったのは何故か悩む日々。二次元の向かう愛と同じぐらい甥っ子への愛を叫んでいる気がしてならない。
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うずみ
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