こちらはサークル「がんかたうるふ」のうずみとみっしの二人組が、ラッキードッグ1とばさらのこばなしを黙々と投下する場所です。
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拍手連載高学年編1~5のまとめ分です。
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1
最初に運べた卵は一度に一つ。
だが少し他だけ大きくなった手は、片方の手のひらに二つの卵をのせる事が出来るようになった。
半兵衛は大人なので卵は二つ、家康は大食いなので卵が二つ。
自分はあまり食べられないので卵は一つ。
サラダ油を入れて熱したフライパンに半分に切ったハムを敷き詰め、そこに冷蔵庫から持ってきた卵を落とすと、じゅうっという音と共に卵が一気に広がり始めた。手早く卵を割り入れ、ガスの火を中火に落としてから蓋をすればあとはできあがるのを待つだけ。
秀吉のように片手で卵を割ることは出来ないのだが、もう少し手が大きくなればそれも出来るようになるはず。
ハムエッグが焼き上がるのを待つ間に、先にオーブンに入れてあるパンの焼け具合も覗いて確認する。以前は覗くのも踏み台を持ってきて、それからその台に上って……と大変だったのだが秀吉がオーブンを低い場所に設置してくれたので三成でも簡単に中を見ることができるようになっていた。
その分秀吉が大変そうだが、オーブン覗き係を拝命した三成が手伝っているので、今のところ問題はなかった。パンも表面の色が徐々に変わりつつあったので、冷蔵庫から秀吉が作って置いていってくれた夏みかんのママレードとクリームチーズの入った瓶を取り出す。
秀吉の器用さと料理上手ぶりは三成にとっては尊敬すべきところなのだが、普通の家は「お母さん」が料理をしてくれるらしい。だがこの家には「お母さん」はいないし、お母さんっぽい半兵衛はいたが彼の料理で育つのは危険すぎる。友人の真田の家も「お母さん」が死んでしまったので、家の人間が交互に食事を作ってくれているらしい。
そんな真田は、先日の健康診断でついに三成の身長を追い抜かした。
それが悔しくて以前よりは食べるようになったのだが。この家に引き取られてすぐの頃は気がつかなかったが、秀吉は自分の体と成長を思いっきり案じていたのだろう。あの頃から変わらない、冷凍庫に山のように積み重なっている保存用のおかずの山と冷蔵庫にかけられているホワイトボードに書き込まれている大量の指示。
それは半兵衛の料理の腕を信じていないということの裏返しでもあるのだが、人間誰にでも欠点はあるのだ………半兵衛を責めてはいけないことを誰もが理解していた。
「できた……」
ぱたぱたと台所を走り回っている内に朝が始まる。
秀吉のいる朝は少し遅く起きても朝食が用意されているが、彼が来ていない朝は三成が頑張らなければこの家では食事が食べられないのだ。大きくしっかりとした見事な字を書く秀吉の遺した指示をありがたく見せてもらい、時にはちょっとだけ味付けを変えて実験してみる。
そのおかげで小学生とは思えない程には料理は美味くなったが、何か自分の人生が間違っているような気がしてならない三成だった。料理をする時は危ないから必ずつけるようにと秀吉が買ってくれた大人用のぶかぶかのエプロンを器用に体に巻き付ける様にして身につけ、三角巾代わりにバンダナを頭に巻く。
こんな「お母さん」っぽい小学生は、きっとあまりいない。
まあそんなことを考えても切なくなるだけなので、あまり考えないようにしているのだが。両親はいないが自分を誰よりも、過保護と言われる程に愛おしんでくれる家族はいるし、なにより不幸だと思える材料が何もない。
いや、一つだけあった。
「半兵衛様、ご飯です!」
と台所から声を張り上げれば半兵衛は寝ぼけ眼でも起きてくれるのだが、2階で惰眠をむさぼっているもう一人の住人はどれだけ呼んでも起きてこないのだ。
「おはよう三成君」
「おはようございます! パンがもう少しで焼けるので、お皿に移しておいて下さい。私はあいつを起こしてきますので」
「………僕が行こうか?」
「いえ、半兵衛様は一緒に寝てしまうので駄目です」
「う、うん確かにそうなんだけどね……」
パジャマ姿で目をそらす半兵衛の横を通り過ぎ、エプロンという戦闘服を纏ったまま階段へと向かう。
今日は年に一度の大事な日なのだ。
家康ごときに手こずっていては、勝てるものも勝てなくなってしまう。
気持ちよく家を出てこそ、手中して勝負に臨める。剣の師匠の言っていた言葉だが、どんな勝負にでもそれは当てはまるはず。
「では、行ってまいります!」
「気をつけてね」
のんきにひらひらと手を振る半兵衛に目礼で答え、三成は朝の戦いの場へ意気揚々と赴き。
「起きろ! 休日だからといって寝続けるのは私がゆるさん! 貴様が起きないと皿が洗えんのだ!!」
「おお三成、儂を起こしに来てくれたのか! 今日も小さくて元気で愛らしいな」
「何をする!」
「ちょうど抱き枕が欲しいと思っていた所だ………やっぱり暖かくてふにふにしておる」
「やめろ、はなせぇぇぇぇぇっ!!!!!」
「暴れると変な気分になるな………これはこれでいい……」
「変な気分とはなんだ!? 重い、熱い、気持ち悪い!」
「このふにふにぶりがたまらん! 三成、おはようのちゅ~をしてもよいか!」
「いらん、顔を近づけるな……ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
思いっきり敗北した上に、朝から精神的にずたぼろにされたまま登校する羽目になった三成だった。
2
「そ、それでこれ?」
「はい! 今年は大勝利です!」
「いつも思うけど、三成君の学校ってエクストリームだよね………なんというか」
あんぐりと口を開けたまま、三成が今のテーブルに広げた戦利品をじっと見る。
年に一度の戦いだと言っていたので、最初は休日登校なので最初は行事かなにかなのかと思っていたのだが、プリントには保護者不参加の設立記念日の式典だと書いてあるし。他の子の保護者に連絡を取ってみても、含み笑いをしたまま誰も教えてくれないときている。
なにか大人に内緒の面白いことでもあるのだろうとその時は思い、そのまま忘れていたのだが。
ソファーに座り足をぶらぶらさせている三成と、絨毯の敷かれた床にぺたりと腰を下ろし三成の戦利品を触ろうとしてその都度三成に怒られている家康。そのどちらの顔も、自慢げな笑顔に彩られていた。
知らぬは大人ばかりなり、なのだろう。
「今年は10勝2敗です! 校長にも勝ちました!」
「あの校長……何を選んでもついてくるのだな。儂の時はポ○モンだったが」
「校長が一番弱かったです、来年も校長からたくさんふんだくります」
「三成君、ふんだくるって言葉は汚い言葉だから使わないように」
「はいっ」
「家康君の時もあったんだ……この行事……」
「桜組では毎年行っているぞ?」
設立記念日の式典で、毎年子供たちには紅白餅が配られる。
普通なら休日に登校して持ちをもらって、それを持ち帰って終わり。だが、この学校の特進クラスという名の無法地帯桜組は勝手が違った。
もらった餅を賭けて、教師も子供も関係ない問答無用のバトルが繰り広げられるのだ。
普通は親から苦情が来そうなものなのだが、親たちもそれをある意味楽しんでいるのだろう。大人も子供も同じラインにたって、必死に勝負を繰り広げる。子供だから著言って手加減してもらえない世界があり、自分の実力が結果として跳ね返ってくるのが社会だと教えるには最適のレクレーションなのだろう。
あの器が大きすぎる校長がいて、それを理解する保護者たちだと校長が信頼してくれているから行うことができる教科書から離れた楽しい勉強。
誰の意向が働いたのか知らないが、普通クラスから三成たちと一緒に桜組に移動することになった担任の教師も、その勝負に巻き込まれたのだろうか。あの不器用だがまっすぐで子供たちをこよなく愛する男には苦行だったろうにと思い、その件を三成に聞いてみると。
「佐竹先生も強かったです」
「そうなの!?」
「佐竹先生の白デッキは堅かったです……大変でした」
腕を組んでうんうんと頷く三成の可愛らしさに思わず抱きしめてしまい、会話が一時中断してしまったが。
そういえば秀吉が泣きじゃくる三成と一緒に部屋にこもることが何度かあったのを、半兵衛は思い出していた。去年この話をしなかったということは、退廃したので誰にも言えなかったのだろう、きっと。
そんなゲームなどが不得手な三成のために、秀吉が特訓につきあっていたということか。あの秀吉という男は真面目で遊びなど知らぬような男に見えるが、古今東西あらゆる遊びに精通していた。
だからこそ半兵衛は最初に秀吉に口説かれた時、彼の『遊び』の一環としか思わなかったのだが。
できれば見ていない所でちゃんとお父さんしている秀吉と、それに甘える三成の姿を見たかった。自分も抱きしめたいと訴える家康を無視して三成を抱きしめ頬ずりしていると、やっぱり目につくのはテーブルの上で山を作っている紅白の餅。
三成より大量に奪い取った子はどうしているのだろう、そんな疑問を口にすると三成が何とか半兵衛から逃れようともがきながらだが答えてくれた。
「毛利は全部食べると言ってました」
「餅好きだったっけ……あの子。おなか壊さないといいね」
「私は半分を今日のおやつにして、明日刑部や先生の所に持って行きます。それと真田の所も」
「幸村君も?」
「はい、餅を全部取られて泣きながら帰って行ったので」
「スパルタンな学校だね……やっぱり。じゃあ明日の休みは三成君はお出かけするんだ」
「儂も休んで三成について行くかな……」
「家康君は学校をサボらないように」
三成びいきで溺愛してくれるのはありがたいのだが、中学生になったというのに家康は落ち着きがないというか。友人も大勢いるし、成績も常に上位をキープしているのでこちらとしては文句の付け所がないのだが。
時折何かを考え込んで、ふと表情を曇らせることがある。
それが何によって生み出される影なのか、思い当たる原因が結構あるので大人たちはなかなか原因を特定できなかった。中学生というのは、通り過ぎてきたからこそ言えるがなかなかにデリケートかつ何かをもてあます年代である。
普通に自分の身内とか家庭環境とかについて悩んでくれればいいのだが、いくら可愛いからと言って小学生に手を出すのだけは勘弁して欲しい。
家康の三成へと向ける目線の真剣さに、少しだけこの二人の間に距離を置くべきなのだろうか。それとも大人に翻弄された二人の子供が心を寄せ合うのをそのまま見守り続けるべきか。
子供が大きくなると悩みが増えるものだと考えながら、腕の中にある餅のように柔らかくて暖かい存在を更に強く、離れていかないように抱きしめた。
3
「これでも駄目だ!」
「ぬしの好みのうるささには頭が下がるわ」
「そういう問題ではない! 何度も言うがこれでは女のようではないか!」
毎度の事だが、刑部の家に行くと茶会に参加しろという名目で着物を着せられるのが常。着物を着るのは嫌いではないし、秀吉のような文武両道の人間になりたいという目標を持っている三成にとって、ささやかではあるが茶会を開いてもらえるのもとても嬉しい事なのだが。
刑部の用意する着物は、何故か女性の斬るような色合いの着物ばかりだった。
今日は薄葡萄色に黒の襦袢と、色合いだけ見れば何とか男でも斬られるような物であったが、お端折りまで作ってもらった段階で刑部が持ち出してきた帯を見て三成の顔色は一気に青ざめた。
絢爛豪華な金刺繍を施した濃紅の帯と、紫黒色の帯留め。
まだ身につけていないにもかかわらず、それを着た自分が家康が言う妖精か精霊の類のような浮世離れした見た目になる事を一瞬にして理解した三成は、精一杯の抵抗を試みているわけだが。
「今日の茶菓子は何がよい? 水菓子か? 干菓子か? それとも京より取り寄せた金平糖にしようかのう……」
「…………刑部はずるい」
「大人はずるいものよ。三成はすぐに立派な美丈夫になるであろうからな……このように遊べるのも今のうちだけだ」
「やっぱり私で遊んでいるのだな」
口を尖らせながら抗議すると、楽しげに帯やら帯留めやら帯締めを手に取っていた刑部の目がこちらへと向けられた。畳の目がこすれる音と共に、体を三成の方へと向けた大谷は、三成だけに見せる優しい眼差しで静かに語り始めた。
「人の世というものは……うまくいかぬことが当たり前よ。三成……そなたは将来何になりたい?」
「私は秀吉様のように……」
「それが本当の望みであれば、我はどのような手を使ってでも協力してやるがの」
「……………………」
「何を望む? 石田三成という男は……何になりたいのだ?」
大人になったら秀吉の後を継ぐ。
それは三成が引き取られるための条件の一つであった。跡継ぎのいない豊臣の家のために、いずれは正式な秀吉の養子として豊臣を名乗り、日本全国に散らばる豊臣一門をまとめる存在になるのが三成の役目。
茶道は好きだし、秀吉はもっと大好きだ。
だが、この頃そのまま誰かに用意された道を進んでしまっていいのか悩み始めているのも事実。友人の真田はお館様のようになりたいが、どうすればお館様の様になれるのかわからないと言っているし、毛利はといえば家を継ぐのが道具である自分の役目だともう人生を悟りきってしまっていた。
何となくだがなりたいものはあるのだ、だがそれに向かってもいいのかがわからない。
だからそれを小さく、大谷にだけ聞こえるように口にしてみる。
「…………になりたい」
「ほう?」
「…………みたいに…………になって………そして秀吉様のようにもなる」
「そうか、それは重畳重畳」
手を上げるように言われ、手を上げると腰に落ち着いた色合いの帯が回される。肩にかけられた帯の重さと、優しく自分の全てを受け止めてくれる大谷の暖かさに背を押されるように、三成の口は言ってはいけない言葉を紡いでしまっていた。
「豊臣の家には……入りたくない。お祖母様は私の事を嫌っている」
「あれも哀れな女よ……奪い返したと思った秀吉を、またもや奪われたのだからな。だがな三成、あの女はあと10年と持つまい……その時、ぬしは豊臣の全てを手に入れる権利を得るのだぞ?」
「そんなものはいらない」
「だが秀吉が望むのは……跡継ぎとしてのぬしであろうが」
「…………………それはわかっている」
まるで蝶のような形に作られていく帯を横に置かれた鏡で眺めながら、思わず三成は口ごもってしまう。
秀吉は後を継ぎたくないと言ったら、自分を嫌いになるのではないだろうか?
そんな疑念に囚われ始めたのは、家康がきてから。
家康が嫌いというわけではない、むしろ兄のように自分を溺愛してくれる家康のことはかなり好きではあったのだが。ことあるごとに自分は徳川の家を継がなければいけないと口にし、それなのに今まで定住できなかった彼の姿を見ていると。自分も将来家に縛られ、誰の信頼も得られずにどこかに落ち着く事さえ出来なくなるのでは。
そう思ってしまうのだ。
「心配するでない……我がいる。豊臣を追い出されたとしても、我の家に来れば良かろう。左近もさぞ喜ぶであろうな」
「本当に追い出されたら頼む」
真剣にそう言うと、大谷の口からだけではなく襖の向こうからも複数の笑い声が聞こえた。きっとお茶会の準備をしていた、大谷家の使用人たちだろう。
侍従長の左近は三成を実の子のように可愛がってくれるし、他の使用人たちも三成を主人の一番の客としてもてなしてくれる。
ここは三成にとって楽園であり、心を癒す場所。
だが帰るべき場所ではない。
自分はどこに帰り、そして自分の場所を作っていけばいいのだろう。
「どうした、三成?」
「………大丈夫だ、何でもな………刑部! なんだその簪は!」
「可愛かろう?」
「だから私は女ではないと何度も……っ!」
キラキラと輝く珠は、紫水晶だろうか。
刑部の手の中で輝く明らかに特注品としか思えない金の簪一揃いに今度こそ逃げだそうとすると、体が大きく傾いだ。
膝立ちになっている刑部が、しっかりと三成の着物の裾を踏んでいた。
「刑部ぅぅぅぅっ!」
「おとなしくしておれ。左近は此度のために最新のでじかめとやらを買ったのだぞ?」
「………………」
揺らめいた体はしっかりと刑部の腕の中に掴まってしまっており。
また逃がしてもらえないまま撮影会に突入し、そして自分の恥が増えていくんだろうなと。
絶望とあきらめのため息をついた三成の頭に、大谷はからから笑いながら揚羽蝶をかたどった簪を添えてみた。
4
半兵衛の職場のバレンタインは、毎年盛況きわまりなかった。
お祭り騒ぎをこよなく愛する所長の方針で、チョコレートは持ち込み自由。おまけに事務所内恋愛も禁じ手はいなかったので、未だに売ていない男たちには毎年大量のチョコが届けられ、そして。
ホワイトデーに苦労する事になる。
「所長、コーヒーです」
「おや、今日はチョコレートつきかね?」
「下の階のお姉さんがくれました、おすそわけです」
「ほう……将を落とすにはまずは子供から……といったところか。それにしてもゴディバとはな」
「ごでぃば、嫌いですか?」
「名前が知れていれば美味というわけでもあるまい。私としては……そうだな10年後くらいの卿であれば美味しくいただかせてもらうが……」
「?」
「いや、こちらの話だ。さすがに生え揃ってもいない子供に手をつける程落ちぶれてはいない……今のところは、だが」
半兵衛の仕事場に顔を出すまでに間に、三成は山のようにチョコレートをもらった。
毎年の恒例行事になってきており、もらったチョコレートは三成のおやつとして重宝するのでありがたいと言えばありがたかったのだが。何故かこの時期の半兵衛は異常に機嫌が悪かった。
特に昨年、秀吉がこっそり持ってきてくれた大量のチョコの山を見つけた時の事は思い出したくもない。
その後で三成が持ち込んだある物のせいで、後にバレンタイン事変と称される程の大喧嘩が二人の間で勃発してしまい、三成と家康は仲直りさせるために奔走させられたのは嫌な思い出。
今年のバレンタインは平穏無事に終わればいいが……と思いながら頭を下げて松永の部屋を退室しようとすると、何かを思い出したかのように松永が三成を急に呼び止めた。
「少し、時間はあるかね?」
「…………はい、ちょっとだけなら」
「そうか。では私流のバレンタインにつきあってもらえないかな? 今年は少々凝りすぎてしまってね」
「…………ッ! は、はい、おつきあいします!」
そういえば、昨年のバレンタインは嫌な事もあったが、とても良い事もあった。
松永の手招きと、これから起こる楽しい事を想像し。今日は頭をぐしゃぐしゃにされても、顔を引っ張られても我慢しようと心に決め。
うきうきとした足取りで松永の元へと近づいていった。
「そっか……今年も、貰ったんだ……」
「美味しかったです! 所長のケーキは世界一です!」
「今年もまたすごいものだな、ここまで来ると芸術品だ、どれ…………こ、これはっ! まったりとして、それでいてしつこくない……! チョコの風味と……これは、何のジャムだ?」
「杏のジャムだと言っていた。美味いだろう?」
「毎年思うのだがあの男……ケーキ屋を開けばいいのではないか?」
「家康! あとは秀吉様と半兵衛様の分だ、そんなに食べるな!」
「いいよ、二人で全部食べちゃって」
「去年もそう言って食べなかったではないですか! 美味しいから食べて下さい!」
松永久秀、趣味はお菓子作り。
彼が職場でバレンタインを禁止しないのは、ひとえにこの趣味があるからである。半兵衛は時折彼から分けて貰えるプロも裸足で逃げる創作菓子の数々がとても好きであったし、実際奪い合う勢いで食後のケーキを食べている子供たちの姿を見ると、自分も食べたくて仕方がないのだが。
どうしても食べられない事情があった。
「半兵衛……体調でも悪いのか?」
「そうじゃないんだけどね……君たち、僕がこれから言う事をしっかり聞いてくれるね?」
「なんですか?」
「今日これから秀吉が来る」
その言葉を聞いた瞬間、三成と家康のフォークを動かしていた方の手が瞬時に固まった。どちらとも泣く顔を見合わせ、
「ま、まずいな……秀吉にこんな姿を見られたら」
「ケーキを隠さないと! 家康手伝え!」
「いいかい、秀吉が来たら笑顔で持ってきてくれたチョコを全部食べる事。今年はきっと去年より大きなケーキを持ってくる気がするから………お腹を壊さないようにね」
「はい!」
「わかった!」
家康と三成も去年の惨状を見ているので、状況を理解すると動きは素早かった。
金色に輝く飴細工のかけられたチョコケーキをさっと箱に戻すと、三成はフォークと皿の片付けに、家康はケーキの箱を二階へと持って行く。それを待っていたかのように鳴った玄関のチャイムに全員身をすくませるが、二人には目線でそのまま作業を続行するように伝え、半兵衛は慌てて玄関へと走っていった。
予想通り玄関で待っていた秀吉をチョコよりも甘く濃厚なキスで出迎え、出来るだけ時間を稼ぐ。
触れる唇の合間から漏らす言葉も、いつもより甘く、そしてゆっくりと。
「今日は……どうしたの? 随分早かったね……遅くなるって言ってたのに」
「バレンタインだからな、ケーキを作ってきた」
「それは嬉しいな、今年はケーキは貰えなかったから。あの子たちもきっと喜ぶよ……勿論僕が一番嬉しいけど、ね」
つくづく自分のよく動く舌がありがたい。
彼の口とじっくりと味わい、そしてちらりと持っている箱を見る。予想通り去年より大きな箱の中には、去年より数倍凝った芸術品のようなケーキが収められているのだろう。
秀吉の持ってきた大量の義理チョコに嫉妬して喧嘩し、その後秀吉が三成が持ってきた松永のケーキを見て盛大に嫉妬し。
自分の誤解はすぐ解けたのだが、自分を越える才能を松永が持っていた。秀吉にはそれが我慢できなかったのだろう。この1年間菓子作りの修行を子供たちに気づかれぬように行ってきた結果は、さてどうなのだろう。
それでも人には生まれつき神から与えられた才能の配分というのがあるわけで。
どれだけ努力しても、松永をこえるのは難しいだろうと思いながら、半兵衛は秀吉の腕の中で甘いチョコの香りを味わい続けていた。
空腹と愛情は、料理の最高のスパイスなのだから。
5
三成は家康の手が大好きだった。
自分より大きくて、そしてどんなときでも自分の手だけを握っていてくれる。秀吉と半兵衛は三成たちの事をこよなく愛してくれているが、互いを一番大切な存在と考えている二人の手は三成の専用ではなかった。
その点家康の手はいつでも三成のために空けられていたし、望めば必ず側に来てくれた。まるで三成君の王子様か騎士の用だねと半兵衛は言うが、そんな家康にだって自分には見せたくない姿はあることをちゃんと理解していた。
例えば今、交差点の向こうにある喫茶店の中にいるかれを偶然見つけてしまった時。ガラス越しに見る家康の顔はこれ以上ない程硬く、そしてそこには三成が好きだと思う家康のお日様のような笑顔はなくなってしまっている。
「どうした石田?」
「………家康殿でござるな」
「行くぞ。それと今見た物は忘れろ」
「忘れられるものではあるまい、貴様の『兄』は政治家にでもなるつもりなのか?」
「どういうことでござるか?」
「向かいに座っているのは参議院の……副議長だったか? さすが徳川の御曹司、今から活動資金を無心する輩が列をなす……か」
「な、なんの話でござるか、石田殿?」
冷静に状況を判断する三成の腐れ縁の友人毛利の横では、訳がわからず言葉の意味を問う幸村が首をひねり続けている。
そんな彼らにもう一度だけ声をかけ、三成は家康の姿を見ないようにしながらランドセルを背負い直した。あれは見てはいけない家康の姿、そして三成とは違う世界にいる知らない人の姿。
前に一度町中で人と話している家康に声をかけた時、虚ろな目をした彼は自分の声を完全に無視したのだ。
だからあの顔をしている時の家康には声をかけない、そして近づかない。
きっと家康にも理由があって、いつか三成にも話してくれるはず。彼の事情は何となく聞いているが、正直三成には彼のどこが不幸なのかよくわからなかった。
いつもちゃんと食べることが出来て、良い家に住んでいられたのに。
そう言うと半兵衛はいつも困った顔をして、人はそれだけじゃ幸せになれないと教えてくれる。秀吉と半兵衛に会うまでの自分の人生と、一緒に住むようになるまでの家康、はたしてどっちが不幸だったのだろう?
時折そんなことを考えるが、考えてばかりいてもこの世の中は何も動かないのだ。
半兵衛の職場でのアルバイトもあるし、道場にも通わなければいけない。中学受験はないが、それでも昇級試験のような物はあるから勉強はしなければならないし、休みの日には秀吉の茶会の手伝いをしたり稽古をつけてもらう必要がある。
やりたいことはたくさんあって、それを行わせてもらえることは幸せで。
今日もこれから幸村の家で勉強会という名目の秘密会議なのだが。執念深いというか好奇心旺盛すぎる毛利がこの事を何度も蒸し返してこなければいいのだが。
無理矢理毛利の手を掴み、まだ状況を理解していない幸村に声をかけ先を急ごうとした三成の目にそれが映ったのは偶然なのかそれとも神が用意した必然なのかはわからないが。
三成が最初にそれに抱いた印象は、
でかくてこわい
その一言につきた。
その日の夜家康は、玄関先でとんでもない難問に遭遇した。
「………なあ三成、儂もこういう物は嫌いではないが……さすがにこれは……」
「駄目だ! うちで飼う!」
「だがな、こんな不細工な犬、半兵衛が許さぬぞ?」
「いい奴なのだ! 言う事もよく聞くし、何よりたぷたぷしている!」
「三成の基準がわからん……」
玄関からはみ出す程の巨体の真っ黒な犬を抱き、三成は目に涙をためながら首を振り続けている。肌を覆う程度の短い毛、全身の皮膚はたるんでおり、三成が言うように耳の後ろなどでは余った肉が動きに合わせてたぷたぷと動き続けている。
その顔はといえば……パグを更に凶悪にした感じと表現すればいいのか。
ぎゅうっと首を抱きしめているついでに、頬でたぷたぷとした部分を堪能している三成を全く嫌がる様子もなく逆に危険から守るかのように周囲に気を配っている所を見ると、番犬か猟犬としての訓練を受けているのだろう。大型犬は気持ちが優しいと言うが、三成に首を絞められる勢いで抱きつかれているというのに全く怒らないのは、三成の気持ちを理解しているからか。
駅の近くの大きな交差点で犬を拾ったといった時、一瞬どきりとした。
そのすぐ側で会いたくもない相手と支度もない話をしていたのだから。三成の事が愛しいからこそそんな現場を見られたくはなかったし、この世の中の腐った部分とは一生無縁でいて欲しい。
皺に埋もれた凶暴そうに見える顔だが、目だけは自らの子供を守るかのように三成を見つめている犬。三成がこれだけ望むのだ、飼ってやりたいのは山々だが、あの潔癖症気味で几帳面な半兵衛が犬を飼うことを許すわけがない。
犬と三成の向こうに広がる空はもう真っ黒で。
そろそろ半兵衛が帰ってくるので夕食の支度もしなければならないのだが、秀吉がいない時の台所の守り神である三成はこの有様。かといって妥協して犬を家に入れてしまえば、怒り狂った半兵衛に怒られるのは間違いないだろう。
可愛いい三成の希望を汲むか、それとも半兵衛の機嫌を取るか。
半ば居候のような状態の家康は一瞬それを両天秤にかけてみたが、答えはとっくに決まってしまっていた。犬と三成を驚かせないように履き古したお気に入りのスニーカーに足を入れ、何をされるのかわからず更に犬を強く抱きしめようとする三成の頭にそっと手をやった。
そしてそのまま、柔らかくさらさらとした感触を堪能する。
「しょうがない……儂も一緒に半兵衛に土下座してやろう」
「ほ、本当か!?」
「三成に泣かれるのは嫌だ……かといってこの家にこやつを入れれば儂が怒られる。ならば一緒に外で待っているのが一番いいだろう?」
「すまない家康! この恩は必ず返す!」
「三成は本当にどこでそんな言葉を習ってくるんだ? さて、まずは散歩ついでに温かい飲み物でも買いに行くか」
ぱあっと顔を輝かせた三成が即座に家康に抱きついて、腕を絡ませてきた。
手のひらに感じる小さな手のぬくもり、何があっても自分を受け入れてくれるその手に感謝しながら、家康はそっと、握りつぶさないように。
三成の手を優しく握り込んだ。
それから約1時間後、帰ってきた半兵衛は黒い巨体を見るなり。
「可愛い! どこからもらってきたの!?」
と大喜びしてしまい、子供たちの小さな騒動は全く意味がないものになってしまった。
_______________________________________
ということで、現在ずんどこな展開なりつつある拍手ネタですが……中学生編に続いて
もいいのでしょうか……一人で楽しんだ方が良いのかなあと後悔気味。
最初に運べた卵は一度に一つ。
だが少し他だけ大きくなった手は、片方の手のひらに二つの卵をのせる事が出来るようになった。
半兵衛は大人なので卵は二つ、家康は大食いなので卵が二つ。
自分はあまり食べられないので卵は一つ。
サラダ油を入れて熱したフライパンに半分に切ったハムを敷き詰め、そこに冷蔵庫から持ってきた卵を落とすと、じゅうっという音と共に卵が一気に広がり始めた。手早く卵を割り入れ、ガスの火を中火に落としてから蓋をすればあとはできあがるのを待つだけ。
秀吉のように片手で卵を割ることは出来ないのだが、もう少し手が大きくなればそれも出来るようになるはず。
ハムエッグが焼き上がるのを待つ間に、先にオーブンに入れてあるパンの焼け具合も覗いて確認する。以前は覗くのも踏み台を持ってきて、それからその台に上って……と大変だったのだが秀吉がオーブンを低い場所に設置してくれたので三成でも簡単に中を見ることができるようになっていた。
その分秀吉が大変そうだが、オーブン覗き係を拝命した三成が手伝っているので、今のところ問題はなかった。パンも表面の色が徐々に変わりつつあったので、冷蔵庫から秀吉が作って置いていってくれた夏みかんのママレードとクリームチーズの入った瓶を取り出す。
秀吉の器用さと料理上手ぶりは三成にとっては尊敬すべきところなのだが、普通の家は「お母さん」が料理をしてくれるらしい。だがこの家には「お母さん」はいないし、お母さんっぽい半兵衛はいたが彼の料理で育つのは危険すぎる。友人の真田の家も「お母さん」が死んでしまったので、家の人間が交互に食事を作ってくれているらしい。
そんな真田は、先日の健康診断でついに三成の身長を追い抜かした。
それが悔しくて以前よりは食べるようになったのだが。この家に引き取られてすぐの頃は気がつかなかったが、秀吉は自分の体と成長を思いっきり案じていたのだろう。あの頃から変わらない、冷凍庫に山のように積み重なっている保存用のおかずの山と冷蔵庫にかけられているホワイトボードに書き込まれている大量の指示。
それは半兵衛の料理の腕を信じていないということの裏返しでもあるのだが、人間誰にでも欠点はあるのだ………半兵衛を責めてはいけないことを誰もが理解していた。
「できた……」
ぱたぱたと台所を走り回っている内に朝が始まる。
秀吉のいる朝は少し遅く起きても朝食が用意されているが、彼が来ていない朝は三成が頑張らなければこの家では食事が食べられないのだ。大きくしっかりとした見事な字を書く秀吉の遺した指示をありがたく見せてもらい、時にはちょっとだけ味付けを変えて実験してみる。
そのおかげで小学生とは思えない程には料理は美味くなったが、何か自分の人生が間違っているような気がしてならない三成だった。料理をする時は危ないから必ずつけるようにと秀吉が買ってくれた大人用のぶかぶかのエプロンを器用に体に巻き付ける様にして身につけ、三角巾代わりにバンダナを頭に巻く。
こんな「お母さん」っぽい小学生は、きっとあまりいない。
まあそんなことを考えても切なくなるだけなので、あまり考えないようにしているのだが。両親はいないが自分を誰よりも、過保護と言われる程に愛おしんでくれる家族はいるし、なにより不幸だと思える材料が何もない。
いや、一つだけあった。
「半兵衛様、ご飯です!」
と台所から声を張り上げれば半兵衛は寝ぼけ眼でも起きてくれるのだが、2階で惰眠をむさぼっているもう一人の住人はどれだけ呼んでも起きてこないのだ。
「おはよう三成君」
「おはようございます! パンがもう少しで焼けるので、お皿に移しておいて下さい。私はあいつを起こしてきますので」
「………僕が行こうか?」
「いえ、半兵衛様は一緒に寝てしまうので駄目です」
「う、うん確かにそうなんだけどね……」
パジャマ姿で目をそらす半兵衛の横を通り過ぎ、エプロンという戦闘服を纏ったまま階段へと向かう。
今日は年に一度の大事な日なのだ。
家康ごときに手こずっていては、勝てるものも勝てなくなってしまう。
気持ちよく家を出てこそ、手中して勝負に臨める。剣の師匠の言っていた言葉だが、どんな勝負にでもそれは当てはまるはず。
「では、行ってまいります!」
「気をつけてね」
のんきにひらひらと手を振る半兵衛に目礼で答え、三成は朝の戦いの場へ意気揚々と赴き。
「起きろ! 休日だからといって寝続けるのは私がゆるさん! 貴様が起きないと皿が洗えんのだ!!」
「おお三成、儂を起こしに来てくれたのか! 今日も小さくて元気で愛らしいな」
「何をする!」
「ちょうど抱き枕が欲しいと思っていた所だ………やっぱり暖かくてふにふにしておる」
「やめろ、はなせぇぇぇぇぇっ!!!!!」
「暴れると変な気分になるな………これはこれでいい……」
「変な気分とはなんだ!? 重い、熱い、気持ち悪い!」
「このふにふにぶりがたまらん! 三成、おはようのちゅ~をしてもよいか!」
「いらん、顔を近づけるな……ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
思いっきり敗北した上に、朝から精神的にずたぼろにされたまま登校する羽目になった三成だった。
2
「そ、それでこれ?」
「はい! 今年は大勝利です!」
「いつも思うけど、三成君の学校ってエクストリームだよね………なんというか」
あんぐりと口を開けたまま、三成が今のテーブルに広げた戦利品をじっと見る。
年に一度の戦いだと言っていたので、最初は休日登校なので最初は行事かなにかなのかと思っていたのだが、プリントには保護者不参加の設立記念日の式典だと書いてあるし。他の子の保護者に連絡を取ってみても、含み笑いをしたまま誰も教えてくれないときている。
なにか大人に内緒の面白いことでもあるのだろうとその時は思い、そのまま忘れていたのだが。
ソファーに座り足をぶらぶらさせている三成と、絨毯の敷かれた床にぺたりと腰を下ろし三成の戦利品を触ろうとしてその都度三成に怒られている家康。そのどちらの顔も、自慢げな笑顔に彩られていた。
知らぬは大人ばかりなり、なのだろう。
「今年は10勝2敗です! 校長にも勝ちました!」
「あの校長……何を選んでもついてくるのだな。儂の時はポ○モンだったが」
「校長が一番弱かったです、来年も校長からたくさんふんだくります」
「三成君、ふんだくるって言葉は汚い言葉だから使わないように」
「はいっ」
「家康君の時もあったんだ……この行事……」
「桜組では毎年行っているぞ?」
設立記念日の式典で、毎年子供たちには紅白餅が配られる。
普通なら休日に登校して持ちをもらって、それを持ち帰って終わり。だが、この学校の特進クラスという名の無法地帯桜組は勝手が違った。
もらった餅を賭けて、教師も子供も関係ない問答無用のバトルが繰り広げられるのだ。
普通は親から苦情が来そうなものなのだが、親たちもそれをある意味楽しんでいるのだろう。大人も子供も同じラインにたって、必死に勝負を繰り広げる。子供だから著言って手加減してもらえない世界があり、自分の実力が結果として跳ね返ってくるのが社会だと教えるには最適のレクレーションなのだろう。
あの器が大きすぎる校長がいて、それを理解する保護者たちだと校長が信頼してくれているから行うことができる教科書から離れた楽しい勉強。
誰の意向が働いたのか知らないが、普通クラスから三成たちと一緒に桜組に移動することになった担任の教師も、その勝負に巻き込まれたのだろうか。あの不器用だがまっすぐで子供たちをこよなく愛する男には苦行だったろうにと思い、その件を三成に聞いてみると。
「佐竹先生も強かったです」
「そうなの!?」
「佐竹先生の白デッキは堅かったです……大変でした」
腕を組んでうんうんと頷く三成の可愛らしさに思わず抱きしめてしまい、会話が一時中断してしまったが。
そういえば秀吉が泣きじゃくる三成と一緒に部屋にこもることが何度かあったのを、半兵衛は思い出していた。去年この話をしなかったということは、退廃したので誰にも言えなかったのだろう、きっと。
そんなゲームなどが不得手な三成のために、秀吉が特訓につきあっていたということか。あの秀吉という男は真面目で遊びなど知らぬような男に見えるが、古今東西あらゆる遊びに精通していた。
だからこそ半兵衛は最初に秀吉に口説かれた時、彼の『遊び』の一環としか思わなかったのだが。
できれば見ていない所でちゃんとお父さんしている秀吉と、それに甘える三成の姿を見たかった。自分も抱きしめたいと訴える家康を無視して三成を抱きしめ頬ずりしていると、やっぱり目につくのはテーブルの上で山を作っている紅白の餅。
三成より大量に奪い取った子はどうしているのだろう、そんな疑問を口にすると三成が何とか半兵衛から逃れようともがきながらだが答えてくれた。
「毛利は全部食べると言ってました」
「餅好きだったっけ……あの子。おなか壊さないといいね」
「私は半分を今日のおやつにして、明日刑部や先生の所に持って行きます。それと真田の所も」
「幸村君も?」
「はい、餅を全部取られて泣きながら帰って行ったので」
「スパルタンな学校だね……やっぱり。じゃあ明日の休みは三成君はお出かけするんだ」
「儂も休んで三成について行くかな……」
「家康君は学校をサボらないように」
三成びいきで溺愛してくれるのはありがたいのだが、中学生になったというのに家康は落ち着きがないというか。友人も大勢いるし、成績も常に上位をキープしているのでこちらとしては文句の付け所がないのだが。
時折何かを考え込んで、ふと表情を曇らせることがある。
それが何によって生み出される影なのか、思い当たる原因が結構あるので大人たちはなかなか原因を特定できなかった。中学生というのは、通り過ぎてきたからこそ言えるがなかなかにデリケートかつ何かをもてあます年代である。
普通に自分の身内とか家庭環境とかについて悩んでくれればいいのだが、いくら可愛いからと言って小学生に手を出すのだけは勘弁して欲しい。
家康の三成へと向ける目線の真剣さに、少しだけこの二人の間に距離を置くべきなのだろうか。それとも大人に翻弄された二人の子供が心を寄せ合うのをそのまま見守り続けるべきか。
子供が大きくなると悩みが増えるものだと考えながら、腕の中にある餅のように柔らかくて暖かい存在を更に強く、離れていかないように抱きしめた。
3
「これでも駄目だ!」
「ぬしの好みのうるささには頭が下がるわ」
「そういう問題ではない! 何度も言うがこれでは女のようではないか!」
毎度の事だが、刑部の家に行くと茶会に参加しろという名目で着物を着せられるのが常。着物を着るのは嫌いではないし、秀吉のような文武両道の人間になりたいという目標を持っている三成にとって、ささやかではあるが茶会を開いてもらえるのもとても嬉しい事なのだが。
刑部の用意する着物は、何故か女性の斬るような色合いの着物ばかりだった。
今日は薄葡萄色に黒の襦袢と、色合いだけ見れば何とか男でも斬られるような物であったが、お端折りまで作ってもらった段階で刑部が持ち出してきた帯を見て三成の顔色は一気に青ざめた。
絢爛豪華な金刺繍を施した濃紅の帯と、紫黒色の帯留め。
まだ身につけていないにもかかわらず、それを着た自分が家康が言う妖精か精霊の類のような浮世離れした見た目になる事を一瞬にして理解した三成は、精一杯の抵抗を試みているわけだが。
「今日の茶菓子は何がよい? 水菓子か? 干菓子か? それとも京より取り寄せた金平糖にしようかのう……」
「…………刑部はずるい」
「大人はずるいものよ。三成はすぐに立派な美丈夫になるであろうからな……このように遊べるのも今のうちだけだ」
「やっぱり私で遊んでいるのだな」
口を尖らせながら抗議すると、楽しげに帯やら帯留めやら帯締めを手に取っていた刑部の目がこちらへと向けられた。畳の目がこすれる音と共に、体を三成の方へと向けた大谷は、三成だけに見せる優しい眼差しで静かに語り始めた。
「人の世というものは……うまくいかぬことが当たり前よ。三成……そなたは将来何になりたい?」
「私は秀吉様のように……」
「それが本当の望みであれば、我はどのような手を使ってでも協力してやるがの」
「……………………」
「何を望む? 石田三成という男は……何になりたいのだ?」
大人になったら秀吉の後を継ぐ。
それは三成が引き取られるための条件の一つであった。跡継ぎのいない豊臣の家のために、いずれは正式な秀吉の養子として豊臣を名乗り、日本全国に散らばる豊臣一門をまとめる存在になるのが三成の役目。
茶道は好きだし、秀吉はもっと大好きだ。
だが、この頃そのまま誰かに用意された道を進んでしまっていいのか悩み始めているのも事実。友人の真田はお館様のようになりたいが、どうすればお館様の様になれるのかわからないと言っているし、毛利はといえば家を継ぐのが道具である自分の役目だともう人生を悟りきってしまっていた。
何となくだがなりたいものはあるのだ、だがそれに向かってもいいのかがわからない。
だからそれを小さく、大谷にだけ聞こえるように口にしてみる。
「…………になりたい」
「ほう?」
「…………みたいに…………になって………そして秀吉様のようにもなる」
「そうか、それは重畳重畳」
手を上げるように言われ、手を上げると腰に落ち着いた色合いの帯が回される。肩にかけられた帯の重さと、優しく自分の全てを受け止めてくれる大谷の暖かさに背を押されるように、三成の口は言ってはいけない言葉を紡いでしまっていた。
「豊臣の家には……入りたくない。お祖母様は私の事を嫌っている」
「あれも哀れな女よ……奪い返したと思った秀吉を、またもや奪われたのだからな。だがな三成、あの女はあと10年と持つまい……その時、ぬしは豊臣の全てを手に入れる権利を得るのだぞ?」
「そんなものはいらない」
「だが秀吉が望むのは……跡継ぎとしてのぬしであろうが」
「…………………それはわかっている」
まるで蝶のような形に作られていく帯を横に置かれた鏡で眺めながら、思わず三成は口ごもってしまう。
秀吉は後を継ぎたくないと言ったら、自分を嫌いになるのではないだろうか?
そんな疑念に囚われ始めたのは、家康がきてから。
家康が嫌いというわけではない、むしろ兄のように自分を溺愛してくれる家康のことはかなり好きではあったのだが。ことあるごとに自分は徳川の家を継がなければいけないと口にし、それなのに今まで定住できなかった彼の姿を見ていると。自分も将来家に縛られ、誰の信頼も得られずにどこかに落ち着く事さえ出来なくなるのでは。
そう思ってしまうのだ。
「心配するでない……我がいる。豊臣を追い出されたとしても、我の家に来れば良かろう。左近もさぞ喜ぶであろうな」
「本当に追い出されたら頼む」
真剣にそう言うと、大谷の口からだけではなく襖の向こうからも複数の笑い声が聞こえた。きっとお茶会の準備をしていた、大谷家の使用人たちだろう。
侍従長の左近は三成を実の子のように可愛がってくれるし、他の使用人たちも三成を主人の一番の客としてもてなしてくれる。
ここは三成にとって楽園であり、心を癒す場所。
だが帰るべき場所ではない。
自分はどこに帰り、そして自分の場所を作っていけばいいのだろう。
「どうした、三成?」
「………大丈夫だ、何でもな………刑部! なんだその簪は!」
「可愛かろう?」
「だから私は女ではないと何度も……っ!」
キラキラと輝く珠は、紫水晶だろうか。
刑部の手の中で輝く明らかに特注品としか思えない金の簪一揃いに今度こそ逃げだそうとすると、体が大きく傾いだ。
膝立ちになっている刑部が、しっかりと三成の着物の裾を踏んでいた。
「刑部ぅぅぅぅっ!」
「おとなしくしておれ。左近は此度のために最新のでじかめとやらを買ったのだぞ?」
「………………」
揺らめいた体はしっかりと刑部の腕の中に掴まってしまっており。
また逃がしてもらえないまま撮影会に突入し、そして自分の恥が増えていくんだろうなと。
絶望とあきらめのため息をついた三成の頭に、大谷はからから笑いながら揚羽蝶をかたどった簪を添えてみた。
4
半兵衛の職場のバレンタインは、毎年盛況きわまりなかった。
お祭り騒ぎをこよなく愛する所長の方針で、チョコレートは持ち込み自由。おまけに事務所内恋愛も禁じ手はいなかったので、未だに売ていない男たちには毎年大量のチョコが届けられ、そして。
ホワイトデーに苦労する事になる。
「所長、コーヒーです」
「おや、今日はチョコレートつきかね?」
「下の階のお姉さんがくれました、おすそわけです」
「ほう……将を落とすにはまずは子供から……といったところか。それにしてもゴディバとはな」
「ごでぃば、嫌いですか?」
「名前が知れていれば美味というわけでもあるまい。私としては……そうだな10年後くらいの卿であれば美味しくいただかせてもらうが……」
「?」
「いや、こちらの話だ。さすがに生え揃ってもいない子供に手をつける程落ちぶれてはいない……今のところは、だが」
半兵衛の仕事場に顔を出すまでに間に、三成は山のようにチョコレートをもらった。
毎年の恒例行事になってきており、もらったチョコレートは三成のおやつとして重宝するのでありがたいと言えばありがたかったのだが。何故かこの時期の半兵衛は異常に機嫌が悪かった。
特に昨年、秀吉がこっそり持ってきてくれた大量のチョコの山を見つけた時の事は思い出したくもない。
その後で三成が持ち込んだある物のせいで、後にバレンタイン事変と称される程の大喧嘩が二人の間で勃発してしまい、三成と家康は仲直りさせるために奔走させられたのは嫌な思い出。
今年のバレンタインは平穏無事に終わればいいが……と思いながら頭を下げて松永の部屋を退室しようとすると、何かを思い出したかのように松永が三成を急に呼び止めた。
「少し、時間はあるかね?」
「…………はい、ちょっとだけなら」
「そうか。では私流のバレンタインにつきあってもらえないかな? 今年は少々凝りすぎてしまってね」
「…………ッ! は、はい、おつきあいします!」
そういえば、昨年のバレンタインは嫌な事もあったが、とても良い事もあった。
松永の手招きと、これから起こる楽しい事を想像し。今日は頭をぐしゃぐしゃにされても、顔を引っ張られても我慢しようと心に決め。
うきうきとした足取りで松永の元へと近づいていった。
「そっか……今年も、貰ったんだ……」
「美味しかったです! 所長のケーキは世界一です!」
「今年もまたすごいものだな、ここまで来ると芸術品だ、どれ…………こ、これはっ! まったりとして、それでいてしつこくない……! チョコの風味と……これは、何のジャムだ?」
「杏のジャムだと言っていた。美味いだろう?」
「毎年思うのだがあの男……ケーキ屋を開けばいいのではないか?」
「家康! あとは秀吉様と半兵衛様の分だ、そんなに食べるな!」
「いいよ、二人で全部食べちゃって」
「去年もそう言って食べなかったではないですか! 美味しいから食べて下さい!」
松永久秀、趣味はお菓子作り。
彼が職場でバレンタインを禁止しないのは、ひとえにこの趣味があるからである。半兵衛は時折彼から分けて貰えるプロも裸足で逃げる創作菓子の数々がとても好きであったし、実際奪い合う勢いで食後のケーキを食べている子供たちの姿を見ると、自分も食べたくて仕方がないのだが。
どうしても食べられない事情があった。
「半兵衛……体調でも悪いのか?」
「そうじゃないんだけどね……君たち、僕がこれから言う事をしっかり聞いてくれるね?」
「なんですか?」
「今日これから秀吉が来る」
その言葉を聞いた瞬間、三成と家康のフォークを動かしていた方の手が瞬時に固まった。どちらとも泣く顔を見合わせ、
「ま、まずいな……秀吉にこんな姿を見られたら」
「ケーキを隠さないと! 家康手伝え!」
「いいかい、秀吉が来たら笑顔で持ってきてくれたチョコを全部食べる事。今年はきっと去年より大きなケーキを持ってくる気がするから………お腹を壊さないようにね」
「はい!」
「わかった!」
家康と三成も去年の惨状を見ているので、状況を理解すると動きは素早かった。
金色に輝く飴細工のかけられたチョコケーキをさっと箱に戻すと、三成はフォークと皿の片付けに、家康はケーキの箱を二階へと持って行く。それを待っていたかのように鳴った玄関のチャイムに全員身をすくませるが、二人には目線でそのまま作業を続行するように伝え、半兵衛は慌てて玄関へと走っていった。
予想通り玄関で待っていた秀吉をチョコよりも甘く濃厚なキスで出迎え、出来るだけ時間を稼ぐ。
触れる唇の合間から漏らす言葉も、いつもより甘く、そしてゆっくりと。
「今日は……どうしたの? 随分早かったね……遅くなるって言ってたのに」
「バレンタインだからな、ケーキを作ってきた」
「それは嬉しいな、今年はケーキは貰えなかったから。あの子たちもきっと喜ぶよ……勿論僕が一番嬉しいけど、ね」
つくづく自分のよく動く舌がありがたい。
彼の口とじっくりと味わい、そしてちらりと持っている箱を見る。予想通り去年より大きな箱の中には、去年より数倍凝った芸術品のようなケーキが収められているのだろう。
秀吉の持ってきた大量の義理チョコに嫉妬して喧嘩し、その後秀吉が三成が持ってきた松永のケーキを見て盛大に嫉妬し。
自分の誤解はすぐ解けたのだが、自分を越える才能を松永が持っていた。秀吉にはそれが我慢できなかったのだろう。この1年間菓子作りの修行を子供たちに気づかれぬように行ってきた結果は、さてどうなのだろう。
それでも人には生まれつき神から与えられた才能の配分というのがあるわけで。
どれだけ努力しても、松永をこえるのは難しいだろうと思いながら、半兵衛は秀吉の腕の中で甘いチョコの香りを味わい続けていた。
空腹と愛情は、料理の最高のスパイスなのだから。
5
三成は家康の手が大好きだった。
自分より大きくて、そしてどんなときでも自分の手だけを握っていてくれる。秀吉と半兵衛は三成たちの事をこよなく愛してくれているが、互いを一番大切な存在と考えている二人の手は三成の専用ではなかった。
その点家康の手はいつでも三成のために空けられていたし、望めば必ず側に来てくれた。まるで三成君の王子様か騎士の用だねと半兵衛は言うが、そんな家康にだって自分には見せたくない姿はあることをちゃんと理解していた。
例えば今、交差点の向こうにある喫茶店の中にいるかれを偶然見つけてしまった時。ガラス越しに見る家康の顔はこれ以上ない程硬く、そしてそこには三成が好きだと思う家康のお日様のような笑顔はなくなってしまっている。
「どうした石田?」
「………家康殿でござるな」
「行くぞ。それと今見た物は忘れろ」
「忘れられるものではあるまい、貴様の『兄』は政治家にでもなるつもりなのか?」
「どういうことでござるか?」
「向かいに座っているのは参議院の……副議長だったか? さすが徳川の御曹司、今から活動資金を無心する輩が列をなす……か」
「な、なんの話でござるか、石田殿?」
冷静に状況を判断する三成の腐れ縁の友人毛利の横では、訳がわからず言葉の意味を問う幸村が首をひねり続けている。
そんな彼らにもう一度だけ声をかけ、三成は家康の姿を見ないようにしながらランドセルを背負い直した。あれは見てはいけない家康の姿、そして三成とは違う世界にいる知らない人の姿。
前に一度町中で人と話している家康に声をかけた時、虚ろな目をした彼は自分の声を完全に無視したのだ。
だからあの顔をしている時の家康には声をかけない、そして近づかない。
きっと家康にも理由があって、いつか三成にも話してくれるはず。彼の事情は何となく聞いているが、正直三成には彼のどこが不幸なのかよくわからなかった。
いつもちゃんと食べることが出来て、良い家に住んでいられたのに。
そう言うと半兵衛はいつも困った顔をして、人はそれだけじゃ幸せになれないと教えてくれる。秀吉と半兵衛に会うまでの自分の人生と、一緒に住むようになるまでの家康、はたしてどっちが不幸だったのだろう?
時折そんなことを考えるが、考えてばかりいてもこの世の中は何も動かないのだ。
半兵衛の職場でのアルバイトもあるし、道場にも通わなければいけない。中学受験はないが、それでも昇級試験のような物はあるから勉強はしなければならないし、休みの日には秀吉の茶会の手伝いをしたり稽古をつけてもらう必要がある。
やりたいことはたくさんあって、それを行わせてもらえることは幸せで。
今日もこれから幸村の家で勉強会という名目の秘密会議なのだが。執念深いというか好奇心旺盛すぎる毛利がこの事を何度も蒸し返してこなければいいのだが。
無理矢理毛利の手を掴み、まだ状況を理解していない幸村に声をかけ先を急ごうとした三成の目にそれが映ったのは偶然なのかそれとも神が用意した必然なのかはわからないが。
三成が最初にそれに抱いた印象は、
でかくてこわい
その一言につきた。
その日の夜家康は、玄関先でとんでもない難問に遭遇した。
「………なあ三成、儂もこういう物は嫌いではないが……さすがにこれは……」
「駄目だ! うちで飼う!」
「だがな、こんな不細工な犬、半兵衛が許さぬぞ?」
「いい奴なのだ! 言う事もよく聞くし、何よりたぷたぷしている!」
「三成の基準がわからん……」
玄関からはみ出す程の巨体の真っ黒な犬を抱き、三成は目に涙をためながら首を振り続けている。肌を覆う程度の短い毛、全身の皮膚はたるんでおり、三成が言うように耳の後ろなどでは余った肉が動きに合わせてたぷたぷと動き続けている。
その顔はといえば……パグを更に凶悪にした感じと表現すればいいのか。
ぎゅうっと首を抱きしめているついでに、頬でたぷたぷとした部分を堪能している三成を全く嫌がる様子もなく逆に危険から守るかのように周囲に気を配っている所を見ると、番犬か猟犬としての訓練を受けているのだろう。大型犬は気持ちが優しいと言うが、三成に首を絞められる勢いで抱きつかれているというのに全く怒らないのは、三成の気持ちを理解しているからか。
駅の近くの大きな交差点で犬を拾ったといった時、一瞬どきりとした。
そのすぐ側で会いたくもない相手と支度もない話をしていたのだから。三成の事が愛しいからこそそんな現場を見られたくはなかったし、この世の中の腐った部分とは一生無縁でいて欲しい。
皺に埋もれた凶暴そうに見える顔だが、目だけは自らの子供を守るかのように三成を見つめている犬。三成がこれだけ望むのだ、飼ってやりたいのは山々だが、あの潔癖症気味で几帳面な半兵衛が犬を飼うことを許すわけがない。
犬と三成の向こうに広がる空はもう真っ黒で。
そろそろ半兵衛が帰ってくるので夕食の支度もしなければならないのだが、秀吉がいない時の台所の守り神である三成はこの有様。かといって妥協して犬を家に入れてしまえば、怒り狂った半兵衛に怒られるのは間違いないだろう。
可愛いい三成の希望を汲むか、それとも半兵衛の機嫌を取るか。
半ば居候のような状態の家康は一瞬それを両天秤にかけてみたが、答えはとっくに決まってしまっていた。犬と三成を驚かせないように履き古したお気に入りのスニーカーに足を入れ、何をされるのかわからず更に犬を強く抱きしめようとする三成の頭にそっと手をやった。
そしてそのまま、柔らかくさらさらとした感触を堪能する。
「しょうがない……儂も一緒に半兵衛に土下座してやろう」
「ほ、本当か!?」
「三成に泣かれるのは嫌だ……かといってこの家にこやつを入れれば儂が怒られる。ならば一緒に外で待っているのが一番いいだろう?」
「すまない家康! この恩は必ず返す!」
「三成は本当にどこでそんな言葉を習ってくるんだ? さて、まずは散歩ついでに温かい飲み物でも買いに行くか」
ぱあっと顔を輝かせた三成が即座に家康に抱きついて、腕を絡ませてきた。
手のひらに感じる小さな手のぬくもり、何があっても自分を受け入れてくれるその手に感謝しながら、家康はそっと、握りつぶさないように。
三成の手を優しく握り込んだ。
それから約1時間後、帰ってきた半兵衛は黒い巨体を見るなり。
「可愛い! どこからもらってきたの!?」
と大喜びしてしまい、子供たちの小さな騒動は全く意味がないものになってしまった。
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ということで、現在ずんどこな展開なりつつある拍手ネタですが……中学生編に続いて
もいいのでしょうか……一人で楽しんだ方が良いのかなあと後悔気味。
PR
色々説明
拍手現在豊臣家転生パロ中学生編入ってます
(現在2本 家三 チカナリです)
注意事項
・フリーリンクじゃないです、基本的にはリンクはお断りしています
・ひっそりこっそりが信条なので、黙々と
・捏造、not公式のこばなしが多いので、スルー推奨
ラキドでは幹部全員を溺愛しておりますが、ベルナルドとイヴァンは特に偏愛。ばさらは家三とか奥州の愉快な仲間達と毛長がメインです。うずみさんが現在官三とか官佐にずっぽりとはまり中。
基本は、愛想のかけらもない「ネット怖い~」の書き手が二人で色々書いている場所です。
書いている人
みっし
・生真面目で堅物でムキムキな男性と一見そうじゃなくても根は真面目極まり ないキャラをこよなく愛している、がんかたうるふの片割れ。編み物とお菓子作りが趣味という、第三者曰く可愛らしい一面を持つ反面、パニクると踊ったり、オロオロしだして周囲は見ていて楽しいらしい。荒ぶる舞は、職場の名物だったりする……らしい。
イヴァンちゃんと片倉さんとシズちゃんとスカイハイさんと陛下を思いっきり愛している。好きなアニメは銀魂と最近はFate/zero。型月ファンというよりは元から虚淵ファンでうずみさんからオススメされまくった末にようやっと手を付けて完読した。ライダー組おいしいです。エクシリアではダントツで陛下が好き。陛下が使用可能になる完全版があるなら複数買いしても構わないとのたまう日々。バサラの好きキャラは片倉さん一強だったはずなのに最近はアニキも熱い。かっちり着込むキャラがすきだったはずなのにいきなり露出度が高いキャラを好きになったのは何故か悩む日々。二次元の向かう愛と同じぐらい甥っ子への愛を叫んでいる気がしてならない。
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