がんかたうるふ 月孤譚 4章 その4 忍者ブログ
こちらはサークル「がんかたうるふ」のうずみとみっしの二人組が、ラッキードッグ1とばさらのこばなしを黙々と投下する場所です。
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ようやくここまで来た……大筋は4章で前半戦終了。
5章は箸休めです。



 *****
 伊達家の客室に入ると、先に布団が敷かれていた。
 今日は何もせずにさっさと横になれという、御当主のありがたい配慮だろう。三成を自分の前に乗せ、秋風から守るために半ば抱きかかえるようにして戻った時、独眼竜の目はこちらを射殺しそうな鋭さを帯びていた。部下を大事にする彼のことだ、全てを失った三成にかなり情が移っているのだろう。
 それこそが松永の狙いの一つ。
 伊達家は家康個人と有利な取引をする人質として扱っているつもりなのだろうが、あの独眼竜のことだ。情が移ってしまった相手を、切り捨てることなどできるわけがない。つまり三成を手に入れれば徳川と伊達、両家を手玉に取ることもやり方によっては可能なのだ。
 西軍としてこの天下を操る権利を得た者が、敗軍の総大将の処遇で一喜一憂する。
 好機とはいえ、どんなくだらない状況になっているのかと思い見に来てみれば。そこに在ったのは戦場にあった頃と何も変わらぬ、一点の曇りのない刃のような存在であった。己に嘘をつけず、どんな濁った感情からも、どす黒い憎悪からも目を背けない。ぼろぼろに傷つきながらも、まだあがきつづけるその姿は見る者全てのの同情と加虐心を同時に湧き上がらせる。
 愛おしみたい、だが嘆き苦しむ様を見続けたい。
 嘆きや苦しみが彼の心に罅を入れ、無垢ともいえる心をなお一層輝かせる。その澄んだ美しさは、松永が偏愛する美術品や刀の美しさによく似ていた。幾多の人の手を経たことで生まれる傷が、更に価値を与えるのだ。
 できればこのまま掠って帰り、手元に置いて愛でたい所だが。
「凶王殿の部屋は………一番奥か」
 薄闇が満ち始めている部屋に入り、布団の上にそのまま腰を下ろす。
 さすがに長旅だったので体が多少痛みはするが、このような機会は滅多にあるものではない。あの哀れな凶王を正式に掠いに来るのは次の来訪時にするとしても、仕込みだけは入念に行っておかなければ。
 凶王と権現、今二人の心は混乱し、互いへの思いすら揺らいでいるだろう。
 後一押しすれば、今回の目的は達成できる。伊達の屋敷に着いた途端に松永の手の内から奪われ、念入りに傷の手当てをされた後部屋に押し込まれた三成は、今頃熱にうなされているだろうか。
 この部屋に案内されるまでの間に確認したが、三成の部屋にここから行くには家康の部屋と双竜の部屋の前を通らねばならない。手を回したのは竜の右目に違いないが、松永にとっては楽しみが増えただけだ。
 まっすぐ天へと駆け上っていこうとする双竜を捕らえ、二人まとめて嬲るのも悪くない。
 その光景を想像し、思わず口から低い笑い声を漏らすと、背後から可憐さを縒り集めたような涼やかな声。
「…………おじさま……わらっているの?」
「おや、遅いお戻りだね」
「あかいろさん………まだ市とあそんでくれないの………」
「ならば、また後で行くといい。心配することはない、あの真田の若武者はきっと『遊んで』くれるだろう」
「そうね……あかいろさん……やさしいもの……」
 後ろを振り返るまでもない。
 部屋を覆う薄い闇、そして一際濃く浮かび上がっている松永自身の背から伸びる影から、今回の同行者が出てきただけだ。背を覆う長い髪がしゅるりと擦れる音が聞こえたと思うと、背に子供のようにすり寄せられたのは甘く柔らかい女の肉体であった。
 後ろから伸びてくる腕が、松永の首にそっと絡みつく。
「甲斐は楽しかったかね?」
「かくれんぼみたい……あかいろさん……市のことわからないから……」
「もう少しだ、今の卿に逆らえる者などいないのだからね。きっと凶王も卿に会うのを楽しみにしているだろう」
「………でも………やみいろさんのそばにいけないの…………」
 後ろで首を振っているのだろう、髪が背を叩く感触を楽しみながら、己が手に入れた最強の切り札の手にそっと触れる。
 関ヶ原の戦の終盤、大谷からの手紙を携えて彼女が逃げ延びてきた時には驚いたが。三成相手以外には好きに使え、という手紙の内容は松永を喜ばせてくれた。秀吉に奪われた領土を彼女の力を使い裏から操る立場を手に入れ取り戻し、そして今度は凶王を使って天下をかき乱してやるつもりが、予想外の事態に策の大幅な変更を余儀なくされていた。
 肩に顎を乗せてきた市の頭を手を回して撫でてやりながら、
「凶王殿には通じぬとはな……卿の力が」
「…………だって……やみいろさんのそばには………おっきいさんとあさやけさんがいるもの………市……やみいろさんとあそべない……」
「大谷殿がわざわざ書いてくるのだ、何かあるとは思っていたが……」
 ほとんどの人間は松永の影に潜んだ市を認識することなく、心を狂わされていく。本来なら三成もそうする予定だったのだが、彼に出来たのはその強い警戒心を解き、こちらに対する好意を無理矢理刷り込むことのみ。
 それですら本人は違和感を感じているようだったのだ、次は通用しないだろう。
 それどころか市が側に近寄ることすらできないのだ、あの凶王はどれだけ強い力に守られているのだろうか。
 すんと鼻を鳴らしてぐすりはじめる市の顎に指を触れさせ、あやすようにくすぐると途端に子供のような嬌声が市の唇から漏れ出した。

 哀れで悲しく、そして幸せな女。

 身を焦がす愛しい者への思いだけを身に残し、愛する者との記憶を失ってしまった。それは永遠に変わらぬ独りよがりの愛を楽しむことが出来ると言うこと。記憶というものがなければ、愛情は変わることはない。
 弱まることも強まることも、消えることも生まれることも。
「権現殿も……卿と同じだな」
「………ひかりいろさん? 市とおなじなの?」
「ああ、そっくりだ」
 独りよがりの愛に酔い、大切な者を失った。
 その事実と向き合わず、ただ己の愛を周囲に押しつける。ここに来る前はただ手駒として使うつもりだった凶王という存在だったが、本当に家康の前で己の物とするのも悪くない。
 天下を取った男が自らの所有物だと決めている物を奪う、これほどの喜びがあるだろうか。
「さて、そろそろ行くとしようか」
「やみいろさんのところ?」
「ああ、卿も甲斐に戻るといい。あの若虎は卿を楽しませてくれるだろう……」
「そうね…………」
 するりと手と体が離れ、市の体が再度影へと戻っていく。

「そういえば………やみいろさんのことをみていたひとたち…………このこたち……おいしかったんだって…………」

 そんな言葉を残して。
 後に残ったのはかすかな女の匂いと、近づいてくる荒々しい足音。
 心の有り様を現しているかのように乱れ、怒りに満ちているそれに、松永は笑い声をこらえながら彼の来訪に供える。
 まさに今、最後の罠を仕掛けに行こうとした相手が自ら来てくれたのだ。
 丁寧に歓待しなければならないだろう、そう自分流のやり方で。
 開け放たれた襖は、ちょうど宵闇に包まれていた室内にまだ赤く染まっていない光を招き入れた。光と共に部屋に押し入ってくる普段は陽光の化身尿に見える目の持ち主が、こちらを睨め付けながら口を開く。
「松永、話がある」
「おや、権現殿。私はこれから凶王殿の見舞いに……」
「お前を三成には会わせん」
 険しい顔に刻み込まれているのは松永への憎悪のみ。
 そこに三成に対する気遣いや愛情のひとかけらでも感じられれば、少しは手加減をしてやったというのに。
「では一献おつきあい願おうか……凶王殿の唇を堪能させてもらおうと思っていたのでね、どうも口寂しい」
 笑いながら立ち上がり、鮮烈な光を失いつつある彼を見つめると。
 輝きの代わりに闇が満ちつつある瞳が、こちらを食いちぎる勢いで見つめ返してきた。







 わずかに三成の首が上がったのを目にとめ、寝ているように声をかけるのはもう何度目になるだろうか。
「おい、さっさと寝ろよ」
「日が高いのに眠れるか……私はあまり睡眠を必要としない。それに……なんだろうな……」
「家康のことが気になるのか?」
「そんなことあるわけないだろうっ! 伊達、貴様は私のことを愚弄する気か!?」
 松永の馬に乗せられて帰った時は本当に驚いたが、三成は松永の影響をほとんど受けていないようだった。心底不本意そうに手当をしてもらったので邪険に出来ないが、触られるのは気持ちが悪い。松永に何かを言われたのだろう、何かに悩みながらもそう言い切ってくれた時には、小十郎共々安堵のため息を漏らしたものだが。
 家康が松永の術中に堕ちていた。
 彼の中にも暗い感情は当然あるのだろう、だが誰にもそれを見せたことはないはずだ。常に笑顔で人と人の間を結び、自らのことは後回しにするお人好しな男。それが周囲が見る家康の姿だったはず。だが松永の馬の後ろを歩きながら無言で戻ってきた家康は、強い殺意のこもった視線を松永へとぶつけていた。
 天下人が個人として殺意を抱く。
 兵を動かす将としての決断は、己に従う者たちを敵より多く生かすために行うものだ。その判断に個人的な感情を含めることがあったとしても、個人の感情だけで国を動かすことは許されない。ましてや人として憎しみで人を殺したいなどという思いに、君主が一度支配されてしまえば。
 あとは暴君と呼ばれる道が待っているだけだ。
「まずったな……」
「何かまずいことでもあるのか?」
「アンタが松永のヤツに押し倒されて、お手つきにされた方がまだましだったって話だ」
「私を稚児扱いするな」
「…………アンタ………女も抱いたことないような顔で、そういうこと平気で口にするよな……」
「稚児扱いは慣れている。私と秀吉様の事を邪推した奴らが多かったからな。それに秀吉様や半兵衛様のお世話をしていれば、慣れて当然だ」
 そういえば最初に政宗と小十郎が触れあっている最中に乱入してきた時も、衆道は気にしないと言っていた。いくら秀吉や半兵衛の庇護があったとしても、この容姿と加虐心をそそる雰囲気を持っている彼が、普通に生きられたわけがない。欲望に晒され、または周囲のただれた環境の中でも彼はまっすぐに、己を曲げずに生きてきたのだろう。
 無理矢理布団の中に押し込んだので、今は鼻先までを布団で隠し。こちらを怒りのこもっていない視線で睨み付けてはいるが。
 嫌いな物は嫌い、好きな物は好き。
 家康がらみでなければはっきりと物事を口にする彼が、文句は言うが布団の中から出ようとしないのは。それは、少しはこちらを信頼してくれたということなのだろう。
「結構苦労してんだな」
「あんなもの、苦労の内に入らん。血が出るまで殴ってやれば、誰もそんなことを言わなくなる………日は……まだ沈まないな……」
「いきなりどうした。腹でも減ったか?」
「そうじゃない……いや……」
 猪口を片手につまみがわりの漬け物をかじりながら見守っていると、三成の表情が急に曇りだした。何か気になっていることがあるのは先程からのことだが、周囲の状況を見極めたいのか、時折目を閉じて耳を澄まし。
 何かを、探しているかのような。
「………伊達、外に出るぞ」
「寝てろと俺は言ったはずがな」
「何か……気になる…………無理はしない、それなら構わないだろう」
「………………アンタも………変わったな……」
「何がだ?」
「昔のアンタなら、俺の了解なんか取らなかっただろ? 足がちぎれようと、立ち上がって動いてたはずだ。オレとしては今のアンタの方がいいと思うが、アンタはどうだ?」

 今の自分を好きか?

 そう聞いた政宗に、わずかの逡巡の後三成は考えながら言葉を紡ぎ始めた。布団の中でゆっくりと口が動き始め、頬に赤みが差し始める。
「…………わからん。だが、貴様と片倉には感謝している……貴様らは私を裏切らないだろう? ならば、私も貴様らを裏切るわけにはいかない」
「そりゃありがたい、小十郎にも聞かせてやってくれよ」
「二度とは言わん……だが貴様らには伝えなければいけないことがある。まだ言えんが……いつかは話す」
「待ってるぜ……よし、立てそうか」
「なんとかな」
 伝えたいことがある、三成はそう言ったが。
 政宗と小十郎も三成にまだ伝えていないことがある。
 徐々に凄惨さを増している徳川の豊臣狩り。
 三成の耳に入らぬよう屋敷の人間には堅く口止めをしているが、それを知った時三成はどうするのだろうか。分厚く布が巻かれた足を庇いながら立ち上がる三成の体を立ち上がって支えながら、政宗は思った。

 できれば、彼と家康の間に優しい決着が待っているように、と。









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SPARK5の無料配布本を読んでくださった方はわかると思いますが、お市さんです。
美人さん、薄倖属性とくるともう大好物という……とにかく大好き。
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色々説明






拍手現在豊臣家転生パロ中学生編入ってます
(現在2本 家三 チカナリです)


注意事項
・フリーリンクじゃないです、基本的にはリンクはお断りしています
・ひっそりこっそりが信条なので、黙々と
・捏造、not公式のこばなしが多いので、スルー推奨


ラキドでは幹部全員を溺愛しておりますが、ベルナルドとイヴァンは特に偏愛。ばさらは家三とか奥州の愉快な仲間達と毛長がメインです。うずみさんが現在官三とか官佐にずっぽりとはまり中。
基本は、愛想のかけらもない「ネット怖い~」の書き手が二人で色々書いている場所です。


書いている人


みっし

・生真面目で堅物でムキムキな男性と一見そうじゃなくても根は真面目極まり ないキャラをこよなく愛している、がんかたうるふの片割れ。編み物とお菓子作りが趣味という、第三者曰く可愛らしい一面を持つ反面、パニクると踊ったり、オロオロしだして周囲は見ていて楽しいらしい。荒ぶる舞は、職場の名物だったりする……らしい。
イヴァンちゃんと片倉さんとシズちゃんとスカイハイさんと陛下を思いっきり愛している。好きなアニメは銀魂と最近はFate/zero。型月ファンというよりは元から虚淵ファンでうずみさんからオススメされまくった末にようやっと手を付けて完読した。ライダー組おいしいです。エクシリアではダントツで陛下が好き。陛下が使用可能になる完全版があるなら複数買いしても構わないとのたまう日々。バサラの好きキャラは片倉さん一強だったはずなのに最近はアニキも熱い。かっちり着込むキャラがすきだったはずなのにいきなり露出度が高いキャラを好きになったのは何故か悩む日々。二次元の向かう愛と同じぐらい甥っ子への愛を叫んでいる気がしてならない。



うずみ
・相方を愛しすぎている変な人。趣味は畑仕事に漬け物作り、好きな物は不幸属性の美人(男女問わず)。ばさらでは石田さんと黒田さんをこよなく愛していたり、赤い子めんこいにゃぁとたまに叫んでいる。

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