こちらはサークル「がんかたうるふ」のうずみとみっしの二人組が、ラッキードッグ1とばさらのこばなしを黙々と投下する場所です。
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なんとかここまで来た感じが。
*****
結局松永久秀は、10日程伊達家に滞在した。
松永を見張るためにぎりぎりのぎりぎりまで残っていた家康も、3日目の早朝に忠勝に無理矢理押さえ込まれて自分の城に戻る羽目になり。
「いいか三成、決してあの男の側には近寄るんじゃ……言ってる矢先から三成の肩を抱くな!」
「権現殿、次に逢う時を楽しみにしているよ」
「三成に触るな! その腰は儂の物だ!」
「いやはや……すっかり己に正直になられたようだ」
「私の腰は私の物だ、誰が貴様などに!」
「このような細い腰では一度抱いては壊してしまう……時間をかけてゆっくりと教え込まねば。そうは思わぬか?」
「喰っても太らんのだ、仕方ないだろう」
「三成、その男が言ってるのはそういう問題じゃ……忠勝、まだだ、まだ儂は行くわけには………っ!!!!」
荒縄で縛り上げ、更に蓑虫のようになった主君を背にくくりつけたまま、忠勝はぶわりと熱風を周囲に振りまきながら空へと舞い上がっていった。
「………………………………」
「達者でな」
「………………………………」
「それくらいはわかっている! 貴様も家康も、昔から言うことが変わらんな……」
庭木を大きく揺らす風の中、まだじたばたと暴れる家康が落ちぬように気を遣いながら高度を上げる忠勝は、最期に一度だけ三成に目線をやると。
「………………………………!」
少しだけ目線を和らげ、そしてそのまま空の彼方へと消えていった。
「凶王殿……一つお聞きしてもよろしいかな?」
「なんだ?」
「あれの言葉がおわかりか?」
「本田のことか? 昔からよく聞かれたが……家康ほどではないが大体はな。昔から飯を食えだの家康と仲良くしてやってくれだの……うるさいのだ、あいつは」
子供のように頬を膨らませながら昔を思い起こす三成に、松永は驚愕を隠しきれなかった。人の本質を見抜くというか、周囲の人が見た相手の評判ではなく自分とそりが合うか合わないかで判断している彼にとって、これくらいは当たり前のことなのだろう。
だが、あの妙な音の組み合わせを人の言葉としてある程度とはいえ判別できるとは。
相当楽しく武田の家で遊んでいるのだろう、未だに戻ってこないお市も三成のことは高く評価していた。同じ心に喪失という名の闇を抱えた同士の親近感故だと思っていたのだが、もしかしたらこの凶王はとてつもない宝なのでは。
後ろから伊達の双竜に睨まれているのがわかっているにもかかわらず、改めて三成の肩を抱き、そして体を更に寄せる。と、紺袴姿の腰に無造作にくくりつけてある古いこしらえの刀が目にとまった。
「凶王殿……それを見せていただいてもよろしいかな」
「これか? これは貴様の望むような良い刀ではない」
「伊達家の物にしては随分と古い物だと」
「これは私の物だ……気になるなら確認すればいい」
だがすぐに返せと言いながらずいとこちらに突きつけてきた刀を受け取る。傷を負った日の夜はかなりの熱を出し、一晩家康に看病されていたのだ。まだ体調は万全ではないだろうにこの寒空の下、律儀に家康を見送りに来ている。
それが彼のどんな思いから生まれたものか、三成自身は自覚し始めているようだが。
それを認めてしまえば彼は罪悪感という名の地獄に落ちてしまう。今後家康が彼をどう救っていくのか、そして家康自身も己の罪をどう償うのか。じっくり観察させてもらおうとは思っているが、今は目の前にある刀を見ることが先である。
長年の戦を経てきたのだろう、塚に巻かれている飾り紐は色あせてすり切れ。鞘は戦場で合いそうな物をどこかの死骸からでも奪ったのだろう、微妙に中の刃がかたかたと音を立てている有様。
しかし見た目はそんな状態だというのに、目釘が緩んでいるようなこともなく、引き抜いてみると刃にはわずかの曇りも存在していない。人を一度も切ったことがないような輝きを持つ刃には、何の銘も彫られてはいなかった。
特徴のある刃紋を持つわけでもない、何の変哲もない普通の刀。
伊達家の庭に吹き付ける風が体を冷やすのか、こちらを睨み付けて刀を返せと手を差し出してくる三成の肩に己の羽織を脱いでかけてやる。
「もう少し見ていても構わぬだろうか……勿論卿に風邪を引かすつもりもない。それにしてもあの戦場の中で持ち帰った刀にしては随分と丁寧に扱っているようだ」
「私の刀だ……これで秀吉様の敵を幾人も切り伏せた。それを捨てるわけがないだろう」
「これで…………何人斬ったと?」
「関ヶ原では千人は斬ったな」
その言葉に、後ろの二人も驚愕の表情を浮かべる。
通常ならば、人を斬れば刃には血脂が染みこむものだ。どれだけ美しい刀であろうと、一度人を斬れば汚れてしまうのが常。後ろにいる小十郎のような達人であればどれだけ人を斬っても刀を骨にあてて欠けさせたり、必要以上に血脂で汚すことはないだろうが。それでも人を斬れば刃はわずかなりとも汚れるというのに、この刃の美しさはどうだろう。
以前一度上杉の軍神の刀を見せてもらったことがあったが、その刃はこの無骨で古めかしい刀と同じ光を放っていた。
血に濡れながらも、孤高の宝石のような清冽な光を。
「…………面白い」
「もういいだろう、さっさと返せ」
伸びてきた手は、松永からあっさりと刀を奪い返す。
見た目にはこだわらないが、刃の手入れには気を遣っているのだろう。松永が余計な指紋などをつけていないかをざっと確認し、一瞬のうちに鞘へと戻した。一度も汚れたことがない乙女のような輝きを惜しみつつ、松永は新たな決意を心に刻み始めていた。
「………石田殿………中に入ろうではないか。体が冷えてしまっている」
「貴様に言われずともわかっている。私の手に触るな、気持ち悪い」
「暖めて差し上げているだけだが?」
素晴らしき刃には、それに似合う使い手が必要。
刃の美しさをとどめたまま、刀にその役割を全うさせることは難しい。だがそれを行える最高の担い手を手に入れることが出来たとしたら?
冷え切った指先で何とか刀を再度腰に下げようとしているのを、必要以上に体を寄せて手伝おうとするが、それをするりと躱される。
「手伝いは不要かね」
「家康が貴様の側に寄るなと言った」
「主君の仇の言うことを聞くのかね?」
「貴様が気に入らんのは私も同じだ」
再度近づけようとした手を払い、今にもよろけそうに怪我した足を庇いながらひょこひょこ歩く姿と、あの神々しいまでの無垢な刃で数多の命を奪った姿がどうも脳内で一つにまとまらないのだが。
「さてどのような手を使おうか……」
幸い、邪魔な家康はあと数日は戻ってこられないだろう。
その間に連れて行くことは出来なくとも、自分に懐かせることは可能だろう。どのように手なずけるべきか、それを考えるのも楽しいはず。
その前にやらなければならないことがあるが。
周囲の人間がどん引きするような邪悪な笑顔を浮かべ、低い笑い声を漏らしながら。松永久秀は徐々に遠ざかっていく『獲物』をずっと目線で捕らえ続けていた。
そしてそれから十日程過ぎた日のこと。
「…………で、、松永からこれが届いたわけか……」
「毒や妖しげな薬を仕込んだ様子もございませんでしたので……」
「駄目だ! あの男のことだ、何を企んでいるかわからぬではないか! 三成、箸をつけるな、戻せ!」
「私の食事にまで手を出すのか、貴様は!」
「その後ろに隠したのはなんだ?」
「駄目だ、これは私の……っ!」
無理矢理三成から湯気の立つ椀を取り上げ、後ろ手で隠そうとした物を取り上げる。
竹の皮の包みの中身はわからないが、三成の側にいると高頻度で嗅ぐことが出来る香りだったので間違えるわけがない。
「三成……あの男に食べ物で懐柔されたのか?」
「美味かったぞ」
「そういう問題ではない……もうあの男からもらった物に口をつけないでくれ」
「ですが徳川殿」
「なんだ片倉」
「早めに食べきってしまわぬと、この季節とはいえ腐ってしまいます。あれだけ大量の肉を腐らせるのは得策ではないかと。それも石田殿を懐かせるために贈られた物とはいえ……捨ててしまうのはもったいないでしょう」
「しかしなあ……」
手の中にある包みの中身はきっと、三成の大好物の干し柿の中に餡を詰めた物。
滅多に口に出来ないそれを、三成は大事に大事に少しずつ食べていたものだった。あまりに三成が美味しそうに食べているので、横からかじろうとして殴られたのもいい思い出なのだが。
松永はこの短時間にどうやってこれを手に入れ、そして奥州まで届けさせたのか。
更に驚くのは、ちゃんと血抜きをした状態の熊肉と塩漬けにされた臓物が大量に届けられたことだった。添えられた文には、見るからに栄養が足りなそうなのでこれを食べさせてしっかり石田殿を太らせておくように、と達筆で書かれており。政宗がそれで怒り狂ったりもしたのだが。
やはり年頃の若者、肉鍋の誘惑には勝てなかったようだ。
伊達家の大広間には、たくさんの鍋とそれを囲む使用人たち。寛容で気さくな若き当主は、腐らせるよりは皆で食べた方がいいと判断したらしい。その相伴に預かることになったが、あの松永からの贈り物だと思うとどうしても口をつけられない家康は、空の椀を盛ったままちまちまと箸を動かす三成をちらりと横目で見る。
高めの天井へと立ち上る幾多の煙、そしてうろんげにこちらを見つめてくる湯気越しの三成。
「なんだ? 貴様もさっさと喰え」
「三成はその……いいのか?」
「何がだ。それと喰わぬのなら、さっさとそれを返せ」
「あまり一度に食べないでくれ」
「わかっている。まずは秀吉様と半兵衛様に供えてからだ」
秀吉様と半兵衛様。
その言葉に一瞬包みを持った手が止まる。そんな家康の動揺を感じ取ったのか、手を伸ばして強引に包みを奪い取ると、三成は顔を強ばらせこちらを睨み付けてきた。
「貴様がそんな顔をするのなら、私はこれから何度でも秀吉様と半兵衛様の名を口にしてやる」
「そんなおかしな顔をしているか、儂は」
「血と泥にまみれている兵どもよりも悲惨な顔をしているぞ、今の貴様は。後悔はしていない、私に謝る気もない……そう言っていた貴様らしくもない」
「確かにそうだ、儂は石田三成という将には謝れぬ」
だが一つだけ考えが変わったことがある。
「石田三成という将には謝れぬが………三成、お前から大切な存在を奪ったことはいくらでも謝ろう」
これが家康に出来る最大限の妥協であった。
己の道を揺らがすわけにはいかない、だが三成から大事な人を奪った事からは逃げたくない。これが今の家康に出来る限りの、最大限の譲歩だった。
「…………貴様の言っていることは詭弁だ」
「わかっている。だが儂は今はそれしか言えぬ」
「そうか」
三成の返答は短かった、だが決して家康のことを軽んじていたわけではない。箸を止め、しっかりと家康の目を見つめ。
ほんの少しだけ、険しかった目元を和らがせた。笑顔と名付けるには少し足りなかったが、それでも家康が久しぶりに見た、三成の柔らかで暖かな表情。
目元が熱くなり、喜びでぎゅっと胸が締め付けられる。
「三成……っ!」
「さっさと喰え。喰ったら私の相手をしろ」
「足はまだ完全には癒えていないだろう? 儂は三成に無理をさせたくはない」
「これ以上の傷で戦場を駆け巡ったこともある。貴様といい伊達といい片倉といい……私を何だと思っている」
「三成が愛しいから、それでは駄目か?」
「駄目だ、私は貴様が嫌いだ」
途端に首を背け、椀の中身を口に運び始める三成だったが。
嫌いならば声が聞こえたといって来てくれるわけがない、情が残っていると告げてくれることはない。
それがわかっているから家康は笑う、以前よりもずっと自然な顔で。
「なあ三成……今日は別なことをせぬか?」
「別なこと?」
「時間はあるのだろう、だったら儂と遠駆けにでも……」
「駄目だ、夕刻から片倉の仕事を手伝う約束をしている」
そっぽを向いていてもちゃんとこちらの声に応えてくれる。
優しくて、まっすぐで決して揺るがない心。そんな三成だから引かれ、愛しているのだと改めて認識し、家康は先程よりもっと自然な。
三成とまだ共に戦場を駆けていた頃のような、何の憂いもない笑顔を浮かべることが出来た。
_______________________________________
これでようやく某所の投稿に追いついた!
松永を見張るためにぎりぎりのぎりぎりまで残っていた家康も、3日目の早朝に忠勝に無理矢理押さえ込まれて自分の城に戻る羽目になり。
「いいか三成、決してあの男の側には近寄るんじゃ……言ってる矢先から三成の肩を抱くな!」
「権現殿、次に逢う時を楽しみにしているよ」
「三成に触るな! その腰は儂の物だ!」
「いやはや……すっかり己に正直になられたようだ」
「私の腰は私の物だ、誰が貴様などに!」
「このような細い腰では一度抱いては壊してしまう……時間をかけてゆっくりと教え込まねば。そうは思わぬか?」
「喰っても太らんのだ、仕方ないだろう」
「三成、その男が言ってるのはそういう問題じゃ……忠勝、まだだ、まだ儂は行くわけには………っ!!!!」
荒縄で縛り上げ、更に蓑虫のようになった主君を背にくくりつけたまま、忠勝はぶわりと熱風を周囲に振りまきながら空へと舞い上がっていった。
「………………………………」
「達者でな」
「………………………………」
「それくらいはわかっている! 貴様も家康も、昔から言うことが変わらんな……」
庭木を大きく揺らす風の中、まだじたばたと暴れる家康が落ちぬように気を遣いながら高度を上げる忠勝は、最期に一度だけ三成に目線をやると。
「………………………………!」
少しだけ目線を和らげ、そしてそのまま空の彼方へと消えていった。
「凶王殿……一つお聞きしてもよろしいかな?」
「なんだ?」
「あれの言葉がおわかりか?」
「本田のことか? 昔からよく聞かれたが……家康ほどではないが大体はな。昔から飯を食えだの家康と仲良くしてやってくれだの……うるさいのだ、あいつは」
子供のように頬を膨らませながら昔を思い起こす三成に、松永は驚愕を隠しきれなかった。人の本質を見抜くというか、周囲の人が見た相手の評判ではなく自分とそりが合うか合わないかで判断している彼にとって、これくらいは当たり前のことなのだろう。
だが、あの妙な音の組み合わせを人の言葉としてある程度とはいえ判別できるとは。
相当楽しく武田の家で遊んでいるのだろう、未だに戻ってこないお市も三成のことは高く評価していた。同じ心に喪失という名の闇を抱えた同士の親近感故だと思っていたのだが、もしかしたらこの凶王はとてつもない宝なのでは。
後ろから伊達の双竜に睨まれているのがわかっているにもかかわらず、改めて三成の肩を抱き、そして体を更に寄せる。と、紺袴姿の腰に無造作にくくりつけてある古いこしらえの刀が目にとまった。
「凶王殿……それを見せていただいてもよろしいかな」
「これか? これは貴様の望むような良い刀ではない」
「伊達家の物にしては随分と古い物だと」
「これは私の物だ……気になるなら確認すればいい」
だがすぐに返せと言いながらずいとこちらに突きつけてきた刀を受け取る。傷を負った日の夜はかなりの熱を出し、一晩家康に看病されていたのだ。まだ体調は万全ではないだろうにこの寒空の下、律儀に家康を見送りに来ている。
それが彼のどんな思いから生まれたものか、三成自身は自覚し始めているようだが。
それを認めてしまえば彼は罪悪感という名の地獄に落ちてしまう。今後家康が彼をどう救っていくのか、そして家康自身も己の罪をどう償うのか。じっくり観察させてもらおうとは思っているが、今は目の前にある刀を見ることが先である。
長年の戦を経てきたのだろう、塚に巻かれている飾り紐は色あせてすり切れ。鞘は戦場で合いそうな物をどこかの死骸からでも奪ったのだろう、微妙に中の刃がかたかたと音を立てている有様。
しかし見た目はそんな状態だというのに、目釘が緩んでいるようなこともなく、引き抜いてみると刃にはわずかの曇りも存在していない。人を一度も切ったことがないような輝きを持つ刃には、何の銘も彫られてはいなかった。
特徴のある刃紋を持つわけでもない、何の変哲もない普通の刀。
伊達家の庭に吹き付ける風が体を冷やすのか、こちらを睨み付けて刀を返せと手を差し出してくる三成の肩に己の羽織を脱いでかけてやる。
「もう少し見ていても構わぬだろうか……勿論卿に風邪を引かすつもりもない。それにしてもあの戦場の中で持ち帰った刀にしては随分と丁寧に扱っているようだ」
「私の刀だ……これで秀吉様の敵を幾人も切り伏せた。それを捨てるわけがないだろう」
「これで…………何人斬ったと?」
「関ヶ原では千人は斬ったな」
その言葉に、後ろの二人も驚愕の表情を浮かべる。
通常ならば、人を斬れば刃には血脂が染みこむものだ。どれだけ美しい刀であろうと、一度人を斬れば汚れてしまうのが常。後ろにいる小十郎のような達人であればどれだけ人を斬っても刀を骨にあてて欠けさせたり、必要以上に血脂で汚すことはないだろうが。それでも人を斬れば刃はわずかなりとも汚れるというのに、この刃の美しさはどうだろう。
以前一度上杉の軍神の刀を見せてもらったことがあったが、その刃はこの無骨で古めかしい刀と同じ光を放っていた。
血に濡れながらも、孤高の宝石のような清冽な光を。
「…………面白い」
「もういいだろう、さっさと返せ」
伸びてきた手は、松永からあっさりと刀を奪い返す。
見た目にはこだわらないが、刃の手入れには気を遣っているのだろう。松永が余計な指紋などをつけていないかをざっと確認し、一瞬のうちに鞘へと戻した。一度も汚れたことがない乙女のような輝きを惜しみつつ、松永は新たな決意を心に刻み始めていた。
「………石田殿………中に入ろうではないか。体が冷えてしまっている」
「貴様に言われずともわかっている。私の手に触るな、気持ち悪い」
「暖めて差し上げているだけだが?」
素晴らしき刃には、それに似合う使い手が必要。
刃の美しさをとどめたまま、刀にその役割を全うさせることは難しい。だがそれを行える最高の担い手を手に入れることが出来たとしたら?
冷え切った指先で何とか刀を再度腰に下げようとしているのを、必要以上に体を寄せて手伝おうとするが、それをするりと躱される。
「手伝いは不要かね」
「家康が貴様の側に寄るなと言った」
「主君の仇の言うことを聞くのかね?」
「貴様が気に入らんのは私も同じだ」
再度近づけようとした手を払い、今にもよろけそうに怪我した足を庇いながらひょこひょこ歩く姿と、あの神々しいまでの無垢な刃で数多の命を奪った姿がどうも脳内で一つにまとまらないのだが。
「さてどのような手を使おうか……」
幸い、邪魔な家康はあと数日は戻ってこられないだろう。
その間に連れて行くことは出来なくとも、自分に懐かせることは可能だろう。どのように手なずけるべきか、それを考えるのも楽しいはず。
その前にやらなければならないことがあるが。
周囲の人間がどん引きするような邪悪な笑顔を浮かべ、低い笑い声を漏らしながら。松永久秀は徐々に遠ざかっていく『獲物』をずっと目線で捕らえ続けていた。
そしてそれから十日程過ぎた日のこと。
「…………で、、松永からこれが届いたわけか……」
「毒や妖しげな薬を仕込んだ様子もございませんでしたので……」
「駄目だ! あの男のことだ、何を企んでいるかわからぬではないか! 三成、箸をつけるな、戻せ!」
「私の食事にまで手を出すのか、貴様は!」
「その後ろに隠したのはなんだ?」
「駄目だ、これは私の……っ!」
無理矢理三成から湯気の立つ椀を取り上げ、後ろ手で隠そうとした物を取り上げる。
竹の皮の包みの中身はわからないが、三成の側にいると高頻度で嗅ぐことが出来る香りだったので間違えるわけがない。
「三成……あの男に食べ物で懐柔されたのか?」
「美味かったぞ」
「そういう問題ではない……もうあの男からもらった物に口をつけないでくれ」
「ですが徳川殿」
「なんだ片倉」
「早めに食べきってしまわぬと、この季節とはいえ腐ってしまいます。あれだけ大量の肉を腐らせるのは得策ではないかと。それも石田殿を懐かせるために贈られた物とはいえ……捨ててしまうのはもったいないでしょう」
「しかしなあ……」
手の中にある包みの中身はきっと、三成の大好物の干し柿の中に餡を詰めた物。
滅多に口に出来ないそれを、三成は大事に大事に少しずつ食べていたものだった。あまりに三成が美味しそうに食べているので、横からかじろうとして殴られたのもいい思い出なのだが。
松永はこの短時間にどうやってこれを手に入れ、そして奥州まで届けさせたのか。
更に驚くのは、ちゃんと血抜きをした状態の熊肉と塩漬けにされた臓物が大量に届けられたことだった。添えられた文には、見るからに栄養が足りなそうなのでこれを食べさせてしっかり石田殿を太らせておくように、と達筆で書かれており。政宗がそれで怒り狂ったりもしたのだが。
やはり年頃の若者、肉鍋の誘惑には勝てなかったようだ。
伊達家の大広間には、たくさんの鍋とそれを囲む使用人たち。寛容で気さくな若き当主は、腐らせるよりは皆で食べた方がいいと判断したらしい。その相伴に預かることになったが、あの松永からの贈り物だと思うとどうしても口をつけられない家康は、空の椀を盛ったままちまちまと箸を動かす三成をちらりと横目で見る。
高めの天井へと立ち上る幾多の煙、そしてうろんげにこちらを見つめてくる湯気越しの三成。
「なんだ? 貴様もさっさと喰え」
「三成はその……いいのか?」
「何がだ。それと喰わぬのなら、さっさとそれを返せ」
「あまり一度に食べないでくれ」
「わかっている。まずは秀吉様と半兵衛様に供えてからだ」
秀吉様と半兵衛様。
その言葉に一瞬包みを持った手が止まる。そんな家康の動揺を感じ取ったのか、手を伸ばして強引に包みを奪い取ると、三成は顔を強ばらせこちらを睨み付けてきた。
「貴様がそんな顔をするのなら、私はこれから何度でも秀吉様と半兵衛様の名を口にしてやる」
「そんなおかしな顔をしているか、儂は」
「血と泥にまみれている兵どもよりも悲惨な顔をしているぞ、今の貴様は。後悔はしていない、私に謝る気もない……そう言っていた貴様らしくもない」
「確かにそうだ、儂は石田三成という将には謝れぬ」
だが一つだけ考えが変わったことがある。
「石田三成という将には謝れぬが………三成、お前から大切な存在を奪ったことはいくらでも謝ろう」
これが家康に出来る最大限の妥協であった。
己の道を揺らがすわけにはいかない、だが三成から大事な人を奪った事からは逃げたくない。これが今の家康に出来る限りの、最大限の譲歩だった。
「…………貴様の言っていることは詭弁だ」
「わかっている。だが儂は今はそれしか言えぬ」
「そうか」
三成の返答は短かった、だが決して家康のことを軽んじていたわけではない。箸を止め、しっかりと家康の目を見つめ。
ほんの少しだけ、険しかった目元を和らがせた。笑顔と名付けるには少し足りなかったが、それでも家康が久しぶりに見た、三成の柔らかで暖かな表情。
目元が熱くなり、喜びでぎゅっと胸が締め付けられる。
「三成……っ!」
「さっさと喰え。喰ったら私の相手をしろ」
「足はまだ完全には癒えていないだろう? 儂は三成に無理をさせたくはない」
「これ以上の傷で戦場を駆け巡ったこともある。貴様といい伊達といい片倉といい……私を何だと思っている」
「三成が愛しいから、それでは駄目か?」
「駄目だ、私は貴様が嫌いだ」
途端に首を背け、椀の中身を口に運び始める三成だったが。
嫌いならば声が聞こえたといって来てくれるわけがない、情が残っていると告げてくれることはない。
それがわかっているから家康は笑う、以前よりもずっと自然な顔で。
「なあ三成……今日は別なことをせぬか?」
「別なこと?」
「時間はあるのだろう、だったら儂と遠駆けにでも……」
「駄目だ、夕刻から片倉の仕事を手伝う約束をしている」
そっぽを向いていてもちゃんとこちらの声に応えてくれる。
優しくて、まっすぐで決して揺るがない心。そんな三成だから引かれ、愛しているのだと改めて認識し、家康は先程よりもっと自然な。
三成とまだ共に戦場を駆けていた頃のような、何の憂いもない笑顔を浮かべることが出来た。
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これでようやく某所の投稿に追いついた!
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色々説明
拍手現在豊臣家転生パロ中学生編入ってます
(現在2本 家三 チカナリです)
注意事項
・フリーリンクじゃないです、基本的にはリンクはお断りしています
・ひっそりこっそりが信条なので、黙々と
・捏造、not公式のこばなしが多いので、スルー推奨
ラキドでは幹部全員を溺愛しておりますが、ベルナルドとイヴァンは特に偏愛。ばさらは家三とか奥州の愉快な仲間達と毛長がメインです。うずみさんが現在官三とか官佐にずっぽりとはまり中。
基本は、愛想のかけらもない「ネット怖い~」の書き手が二人で色々書いている場所です。
書いている人
みっし
・生真面目で堅物でムキムキな男性と一見そうじゃなくても根は真面目極まり ないキャラをこよなく愛している、がんかたうるふの片割れ。編み物とお菓子作りが趣味という、第三者曰く可愛らしい一面を持つ反面、パニクると踊ったり、オロオロしだして周囲は見ていて楽しいらしい。荒ぶる舞は、職場の名物だったりする……らしい。
イヴァンちゃんと片倉さんとシズちゃんとスカイハイさんと陛下を思いっきり愛している。好きなアニメは銀魂と最近はFate/zero。型月ファンというよりは元から虚淵ファンでうずみさんからオススメされまくった末にようやっと手を付けて完読した。ライダー組おいしいです。エクシリアではダントツで陛下が好き。陛下が使用可能になる完全版があるなら複数買いしても構わないとのたまう日々。バサラの好きキャラは片倉さん一強だったはずなのに最近はアニキも熱い。かっちり着込むキャラがすきだったはずなのにいきなり露出度が高いキャラを好きになったのは何故か悩む日々。二次元の向かう愛と同じぐらい甥っ子への愛を叫んでいる気がしてならない。
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うずみ
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