こちらはサークル「がんかたうるふ」のうずみとみっしの二人組が、ラッキードッグ1とばさらのこばなしを黙々と投下する場所です。
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
次から7章です。
*****
日が昇っている間は不可。
他に人がいる所でも不可。
舐めるだけ、本番は不可。
それが家康に突きつけられた伊達家からの要求だった。
本来ならば当主が賓客と話し合いをするために用いられる離れ。庭の真ん中にぽつりと立っているそこに家康は共もなく小十郎と向かい合っていた。
「家臣一同で審議して決めたことですので。守っていただけないのであれば、今後徳川殿にこの屋敷の敷居をまたがせる気はございません」
「三成の部屋も移動させるのだろう?」
「私の部屋の隣を空けました。石田殿には今宵よりそちらですごしていただきます」
そう言いきり、小十郎は一見愛想よく見える笑顔をこちらに向けてきた。
内心は腸が煮えくりかえっているのだろうが、そこを見せないのが彼が伊達家の懐刀と呼ばれる所以。血気盛んな当主ではなく小十郎が出てきたのは、政宗では天下人相手に腹芸ができないからであろう。
おだやかに、だが決して譲らずに自分たちの要求をつきつけてくる。
粘り強く徐々に言葉を武器にして詰め寄ってくる小十郎に、家康は半ばたじたじになりながら、それでも自分の意見を言い続けていた。
必死に言葉を連ねる家康の顔を、冬の柔らかい日差しが照らし出す。
「儂は三成の勝ち分二つという要求を呑んだ。三成もそれでいいと言っておるのならば、儂らの約定に伊達家が口を差し挟む事こそがおかしいのではないのか」
「伊達家と徳川殿個人の間で決められた約定では、石田殿に危害を加えようとする存在から石田殿を守るのが伊達家の役目だとなっておりますが。あなた方個人の口約束よりも、そちらを我々は優先させていただきます」
「つまり、儂の意志は全く無視と言うことなのだな」
「無視ではございません。我々にとって優先すべき約定が別にあるというだけでございます」
口調は丁寧だが、小十郎からは家康に迎合するわずかな気配も感じられない。
三成をあらゆる害から守るためには、家康すらも敵と見なす。やんわりと、害意を奥に潜めて発言してはいるが、まあそういうことである。
確かに舐めたいだの、吸いたいだの、破廉恥な発言したのはまずかったと後で思いはしたが。
我慢強さなら誰にも負けないと自負していた家康の忍耐力も、色々な意味で限界に達していたのだ。少しずつ三成は昔のように自分に接してくれるようにはなったが、彼の心の大部分を占めるのはやはり秀吉を殺した自分への憎悪。時折表情を緩めはするが笑いかけてくれることはなく、見ることのできる三成の笑い顔は自分以外の存在へ向けられたものばかり。
ふわりと、満ちた月の光のように。
自分の中の感情を時間をかけて顔に乗せる三成の極上の笑顔。それを、家康は秀吉を殺してから一度も見ていなかった。自分がそれを奪ったのだから当たり前だというのはわかっているのだ、だが自分以外の存在に満開までいかなくとも美麗な笑みを向けているのを見せられると。
どうしていいかわからなくなってしまう。
元親と出かけて帰ってきた後の三成の笑顔。爽やかな海風に悲しみを洗い流されたのか、それとも元親が三成を喜ばせようなことを言ったのかはわからないが。家康の心臓が跳ね上がる様な音を立て始めた程に、それは美しく魅力的だったのだ。
自分では三成にあんな顔をさせることはできない。
どんな手を使ってでも三成の笑顔と心を手に入れたいし、できればずっと側にいて欲しかった。だが家康が天下人になってしまった今、自分の都合と理屈だけで動くことはもうできないのだ。三成を自分の居城に連れて行くわけにはいかず、かといって自分以外の誰かに心を寄せていく三成を見るのも辛く。
性急だとわかってはいても、体を繋げていくことを家康は選んだのだ。
豊臣軍のに在籍していた頃、時折三成にふざけて抱きついたりした。あの時の三成の暖かさと肌の滑らかさを、家康の体はまだ覚えている。
もっと触れれば、三成とぬくもりを分かち合えれば。
きっと互いの心も変化していくはず。時が流れ、三成の心が癒えるまで待つというのも考えたのだが、それができない事情もあった。事態の収拾に影で動いてもらっている忠勝、そして表で天下人として決着をつけようとしている自分。
まだ何も知らない三成。
彼に全てを教えるのは自分が全てを終わらせた時。
それがどれだけ辛い道であろうと全てを背負う、だが三成を諦めたくもない。
「ならばその約定は破棄しよう。儂は今回だけは譲る気はない、伊達家の人間全てが納得するまで話し合ってもいいのだ」
「時間がかかりますが」
「約定を破棄して新しい約定を作り上げる……その間、伊達家は三成を守る『義務』を負わない」
家康の言葉に、小十郎の頬の傷がわずかに動いた。
約定と約定の間にうまれる空白期間、その間にどんな手段に訴え出るかわからない。そう暗に脅している家康に対し、小十郎は表面上は冷静なまま眼差しだけをわずかに鋭く尖らせた。
「伊達家と争ってもいいという徳川殿の意思表示、私は政宗様の名代としてそう受け取らせて頂きますが?」
「双竜と争いたいわけがなかろう。だが、儂は一度口にしたことは必ずやり遂げる」
「石田殿の体を自由にしたいという思いだけで……よくもまあそこまで」
「自由にしたいわけではない、儂は三成にもっと触れたいだけなのだ」
「触れたい……と?」
「儂は三成のことをあまり知らぬ。だからもっと触れたい、それだけなのだ」
「私どもよりずっとご存じだと思いますが」
「知っておったつもりだったんだがな……伊達家に来てからの三成のことを儂はあまり知らぬのだ」
知らないからこそ、自分以外の人間が三成と親しくなっていく。
三成も袂を分かってからの自分のことは知らないが、彼はそういうことを気にする人間ではなかった。外面でも話す内容でもなく一足飛びに人の本質を本能で理解し、自分の敵か味方かを判断するのだ。
どんな人間とでも絆を結べる、そう信じている家康とは正反対なのかもしれない。
だが余計な物に縛られずに自分の味方は自分で決めるという三成の在り方も、家康は受け入れるべき物だと思っている。様々な人がいて、様々な人の絆の形がある。
三成との絆も、最上の形がいつか見つかるはずだ。
そpのためにも、この小十郎との話し合いを自分に有利な方向で進めなければならない。さて次はどの手を使って彼を説得しようか、そう考えていると小十郎の方から意外とも言える提案がなされた。
「石田殿をより理解したいというのでしたら、こういう方法もありますが……」
早朝、日が昇るのと同時に三成が起きる。
朝から道場で素振り、儂はまだ眠い。
だが胴着姿で汗を流す三成は綺麗だった。
素振りが終わったら伊達を起こしに行く。
さすがに木刀で殴打すると伊達が死んでしまう気がしたが、伊達は存外丈夫だった。
朝食、三成は山菜の和え物が好きらしい。
あまりにも美味そうに食べるので少しもらったら殴られた。
昼食までの間、三成は片倉の手伝い。
伊達家の台所事情を見るなと追い出された。
昼食、食べたがらない三成が片倉に説教される。
あれだけ働いたというのに、なぜ腹が空かぬのだろう。
午後からは屋敷を抜け出した伊達に連れられれてどこかへ行ってしまった。
何故か儂が片倉に怒られて、蔵の大掃除を手伝わされた。
夕方、伊達と三成が山のような柿を持って帰ってきた。
明日は家中の者総出で干し柿を作るらしい。
夕食、魚を残そうとして三成が片倉に怒られていた。
海の魚は身が固いから嫌いだと言っていたが、川魚も骨が多いから嫌いだと以前言っていたので、単に魚が嫌いなのだろう。
肉も生臭いから食べたくないと以前言っていたので、三成は基本的に野菜と果物以外は嫌いなのだろう。ああ、菓子も好きだった。
夕食後、三成は伊達と風呂に。
儂は何故か片倉と一緒に入ることになった。
片倉の体謎見ても楽しくない、三成と風呂に入りたかった。伊達がうらやましいので風呂上がりに軽く小突いたら伊達家の人間が出てきて大騒ぎになった。
「…………で、これを私に見せる意味はあるのか?」
「儂がちゃんと一日三成を見守っていた証拠だ!」
「私は貴様に見守ってくれと頼んだ覚えはない!」
「儂だって三成を陰から見守りたいなど度思った事はない! 側にいた方がずっといいではないか!」
「貴様の場合はそうだな……しかし何故このようなことを」
「片倉から言われたのだ、三成のことを知りたいのなら一日くらいそっと見守ってみるのもいいのではないか、と。ついでに三成の行動を書き留めてみたら少しは楽しいかと思ったのだが」
全く面白さを感じなかった。
膝をきちりを揃えて自室でお茶をすする三成のすぐ横、拳一つ空けぬ距離で家康がごろごろと寝転がっている。その更に隣には家康が今日一日頑張ったという三成の一日の行動記録の紙の束。
最初は三成の膝に己の頭を乗せたがったのだが、その場合は家康の頭を湯飲み置きにすると宣言したら、あっさりとそれは断念した。
一応客人の家康の分も茶は用意されているのだが、ごろごろと寝転がっている彼は茶を飲む気がないらしい。湯気が立たなくなってもまだ飲む気がないのなら後で自分がおかわり分としてもらおう。そう思いながら、三成は引っ越して間もないのにまた屋敷内引っ越しをする羽目になってしまった自分の境遇を軽く嘆いていた。
せっかく監視の緩いいい部屋をもらったというのに、よりにもよって小十郎の隣とは。
彼が自分のことを心配してくれているのはわかるが、二人きりになると常にべたべたとくっついている伊達家の仲良し事情を隣の部屋で常に聞かされる状況はまさに地獄。小十郎もその辺はわかっているのか、できる限り政宗の部屋に行くとは言ってくれたが……
できる限り、という言い方の時点でもう信用がならない。
「貴様のせいで私は引っ越す羽目になったのだ、少しは反省しろ」
「だが儂の要求を受け入れたのは三成であろう?」
「最初の言い方とその後の行動がまずかったと言っているのだ」
「それでは儂の全てが悪い様ではないか」
「悪かったに決まっているだろう!」
思わず声を荒げてしまい、湯飲みをぎゅっと握りしめることで気持ちを静めようとする。
小十郎がどこで聞き耳を立てているのかわからないのだ、大声など出したらあっという間に家康がここにいることがばれてしまう。
小十郎の目を盗んで入ってきた家康を追い出しても良かったのだが、三成にはどうしても家康に聞きたいことがあったのだ。
瀬戸内の両将があの要塞のような舟に乗って慌ただしく帰って行き、三成と家康は久々に互いに向き合う時間を与えられた。三成の中ではまだ家康への恋慕と憎しみが強くせめぎ合っており、家康の顔を見るだけでも苦痛を感じることもある。
だが、家康はどうなのだろう。
元親と殴り合い少しすっきりしたようには見えるが、三成はあの時の家康の叫びを覚えている。
三成に笑いかけてもらったことがない。
嘆きのように、悲鳴のようにそう叫んだ家康。
主君の仇に笑いかけられるわけがない、家康は憎まなければならない相手。だが、心の中ではこう囁く声もあるのだ。
憎い相手に笑えなくとも、愛しい相手になら笑えるはず、と。
殺してやりたい程憎いが、それと同じ強さで愛おしさを感じる。二つの思いの中で揺れ動く三成の心は、家康にただ一つの答えを求めていた。
「………………家康」
「何だ?」
「私を……もし私が貴様を殺すことを諦めたとして、その時貴様は私をどう扱う?」
もし家康が三成との未来を考えているのなら、道を作ろうとしてくれているのなら。
三成は憎しみを心の奥底に押し込めて、家康の作る道を一緒に歩んでいこうという気になれるかもしれない。奪われた者は大きすぎるが、伊達家での生活の中で三成はこの世の中は奪われるばかりではないということをちゃんと理解していた。
奪われても、与えてくれる人たちがいる。
もし家康が何かを三成に指し示してくれるのなら、毛利や元親の言葉ではないが三成は忘れる努力をしなければならないだろう。
帰ってきた家康の言葉は、予想外のものだった。
「難しい、質問だな」
「難しいのか?」
「三成が儂を殺すのを諦めたからと言って、三成と一緒に暮らせるわけがない。儂は考えなければならないだろうな……世継ぎと、そしてこの国の未来について。まあ世継ぎについては心配はしておらぬがな」
「子供でも作ったか?」
まさか、と家康は笑う。
「儂の身内で妻がいるのに遊女に子を作らせた馬鹿者がおる……その子をもらおうと思ってな。傍流なれど徳川の血を引いた、儂が手ずから育てる子だ。儂の後を継いでこの国を繁栄させてくれるだろうな」
「相変わらずろくでもないことばかり考える……」
「ろくでもないと言うな。それが今の儂の精一杯だ……今の儂は三成にそれしかしてやれることがない」
「私のためだというのか!?」
「儂は妻を娶らぬ、今後三成以外の者に心を寄せることもない。今言えるのはそれだけだ。そんなことでしか、儂は三成に報いてやることができぬ」
「大馬鹿が」
小さく、湯飲みを握ったままそう口にする。
たとえ三成に殺される末路が待っていたとしても、その逆になったとしても。
自分の心は三成以外に渡すつもりはない。
家康はそう言っているのだ。
愚かな程真っ直ぐで、自分に嘘がつけず、そして人より先に己を傷つける。昔から家康はそういう男だった、そして常に三成のことを案じてくれていたのだ。
己の身の安全より先に。
「まあそういうことしか今の儂には言えぬが、いつかは……」
「いつかなどない。貴様と私の決着はちゃんとつけさせてもらう」
そうだな、と短く答えた家康は、そのまま目を閉じてしまう。
数呼吸後に深い寝息が聞こえてきたのは、朝早くから三成を追いかけ続けていたからだろう。
「決着……か」
自らの心すら御することができない、未来すらわからない。
そんな状態の三成だったが、今の家康の言葉で一つだけ己のすべきことがわかった気がした。決着の末にあるのがどちらか命の終焉だったとしても、それだけは成し遂げておかねばならない。
家康の今の言葉に報いるために。
まずは胸の中で争い続けるどろどろに濁った感情たちをどうにかしなければならないだろう。
家康から向けられた思いを改めて実感し、満たされる喜びを感じると同時に。
身を切られるような、裏切りの罪をも同時に感じた。
_______________________________________
次が石田さんにとっては一山。
そして話としては終盤戦。
BGM「オベリクス」 by May'n
他に人がいる所でも不可。
舐めるだけ、本番は不可。
それが家康に突きつけられた伊達家からの要求だった。
本来ならば当主が賓客と話し合いをするために用いられる離れ。庭の真ん中にぽつりと立っているそこに家康は共もなく小十郎と向かい合っていた。
「家臣一同で審議して決めたことですので。守っていただけないのであれば、今後徳川殿にこの屋敷の敷居をまたがせる気はございません」
「三成の部屋も移動させるのだろう?」
「私の部屋の隣を空けました。石田殿には今宵よりそちらですごしていただきます」
そう言いきり、小十郎は一見愛想よく見える笑顔をこちらに向けてきた。
内心は腸が煮えくりかえっているのだろうが、そこを見せないのが彼が伊達家の懐刀と呼ばれる所以。血気盛んな当主ではなく小十郎が出てきたのは、政宗では天下人相手に腹芸ができないからであろう。
おだやかに、だが決して譲らずに自分たちの要求をつきつけてくる。
粘り強く徐々に言葉を武器にして詰め寄ってくる小十郎に、家康は半ばたじたじになりながら、それでも自分の意見を言い続けていた。
必死に言葉を連ねる家康の顔を、冬の柔らかい日差しが照らし出す。
「儂は三成の勝ち分二つという要求を呑んだ。三成もそれでいいと言っておるのならば、儂らの約定に伊達家が口を差し挟む事こそがおかしいのではないのか」
「伊達家と徳川殿個人の間で決められた約定では、石田殿に危害を加えようとする存在から石田殿を守るのが伊達家の役目だとなっておりますが。あなた方個人の口約束よりも、そちらを我々は優先させていただきます」
「つまり、儂の意志は全く無視と言うことなのだな」
「無視ではございません。我々にとって優先すべき約定が別にあるというだけでございます」
口調は丁寧だが、小十郎からは家康に迎合するわずかな気配も感じられない。
三成をあらゆる害から守るためには、家康すらも敵と見なす。やんわりと、害意を奥に潜めて発言してはいるが、まあそういうことである。
確かに舐めたいだの、吸いたいだの、破廉恥な発言したのはまずかったと後で思いはしたが。
我慢強さなら誰にも負けないと自負していた家康の忍耐力も、色々な意味で限界に達していたのだ。少しずつ三成は昔のように自分に接してくれるようにはなったが、彼の心の大部分を占めるのはやはり秀吉を殺した自分への憎悪。時折表情を緩めはするが笑いかけてくれることはなく、見ることのできる三成の笑い顔は自分以外の存在へ向けられたものばかり。
ふわりと、満ちた月の光のように。
自分の中の感情を時間をかけて顔に乗せる三成の極上の笑顔。それを、家康は秀吉を殺してから一度も見ていなかった。自分がそれを奪ったのだから当たり前だというのはわかっているのだ、だが自分以外の存在に満開までいかなくとも美麗な笑みを向けているのを見せられると。
どうしていいかわからなくなってしまう。
元親と出かけて帰ってきた後の三成の笑顔。爽やかな海風に悲しみを洗い流されたのか、それとも元親が三成を喜ばせようなことを言ったのかはわからないが。家康の心臓が跳ね上がる様な音を立て始めた程に、それは美しく魅力的だったのだ。
自分では三成にあんな顔をさせることはできない。
どんな手を使ってでも三成の笑顔と心を手に入れたいし、できればずっと側にいて欲しかった。だが家康が天下人になってしまった今、自分の都合と理屈だけで動くことはもうできないのだ。三成を自分の居城に連れて行くわけにはいかず、かといって自分以外の誰かに心を寄せていく三成を見るのも辛く。
性急だとわかってはいても、体を繋げていくことを家康は選んだのだ。
豊臣軍のに在籍していた頃、時折三成にふざけて抱きついたりした。あの時の三成の暖かさと肌の滑らかさを、家康の体はまだ覚えている。
もっと触れれば、三成とぬくもりを分かち合えれば。
きっと互いの心も変化していくはず。時が流れ、三成の心が癒えるまで待つというのも考えたのだが、それができない事情もあった。事態の収拾に影で動いてもらっている忠勝、そして表で天下人として決着をつけようとしている自分。
まだ何も知らない三成。
彼に全てを教えるのは自分が全てを終わらせた時。
それがどれだけ辛い道であろうと全てを背負う、だが三成を諦めたくもない。
「ならばその約定は破棄しよう。儂は今回だけは譲る気はない、伊達家の人間全てが納得するまで話し合ってもいいのだ」
「時間がかかりますが」
「約定を破棄して新しい約定を作り上げる……その間、伊達家は三成を守る『義務』を負わない」
家康の言葉に、小十郎の頬の傷がわずかに動いた。
約定と約定の間にうまれる空白期間、その間にどんな手段に訴え出るかわからない。そう暗に脅している家康に対し、小十郎は表面上は冷静なまま眼差しだけをわずかに鋭く尖らせた。
「伊達家と争ってもいいという徳川殿の意思表示、私は政宗様の名代としてそう受け取らせて頂きますが?」
「双竜と争いたいわけがなかろう。だが、儂は一度口にしたことは必ずやり遂げる」
「石田殿の体を自由にしたいという思いだけで……よくもまあそこまで」
「自由にしたいわけではない、儂は三成にもっと触れたいだけなのだ」
「触れたい……と?」
「儂は三成のことをあまり知らぬ。だからもっと触れたい、それだけなのだ」
「私どもよりずっとご存じだと思いますが」
「知っておったつもりだったんだがな……伊達家に来てからの三成のことを儂はあまり知らぬのだ」
知らないからこそ、自分以外の人間が三成と親しくなっていく。
三成も袂を分かってからの自分のことは知らないが、彼はそういうことを気にする人間ではなかった。外面でも話す内容でもなく一足飛びに人の本質を本能で理解し、自分の敵か味方かを判断するのだ。
どんな人間とでも絆を結べる、そう信じている家康とは正反対なのかもしれない。
だが余計な物に縛られずに自分の味方は自分で決めるという三成の在り方も、家康は受け入れるべき物だと思っている。様々な人がいて、様々な人の絆の形がある。
三成との絆も、最上の形がいつか見つかるはずだ。
そpのためにも、この小十郎との話し合いを自分に有利な方向で進めなければならない。さて次はどの手を使って彼を説得しようか、そう考えていると小十郎の方から意外とも言える提案がなされた。
「石田殿をより理解したいというのでしたら、こういう方法もありますが……」
早朝、日が昇るのと同時に三成が起きる。
朝から道場で素振り、儂はまだ眠い。
だが胴着姿で汗を流す三成は綺麗だった。
素振りが終わったら伊達を起こしに行く。
さすがに木刀で殴打すると伊達が死んでしまう気がしたが、伊達は存外丈夫だった。
朝食、三成は山菜の和え物が好きらしい。
あまりにも美味そうに食べるので少しもらったら殴られた。
昼食までの間、三成は片倉の手伝い。
伊達家の台所事情を見るなと追い出された。
昼食、食べたがらない三成が片倉に説教される。
あれだけ働いたというのに、なぜ腹が空かぬのだろう。
午後からは屋敷を抜け出した伊達に連れられれてどこかへ行ってしまった。
何故か儂が片倉に怒られて、蔵の大掃除を手伝わされた。
夕方、伊達と三成が山のような柿を持って帰ってきた。
明日は家中の者総出で干し柿を作るらしい。
夕食、魚を残そうとして三成が片倉に怒られていた。
海の魚は身が固いから嫌いだと言っていたが、川魚も骨が多いから嫌いだと以前言っていたので、単に魚が嫌いなのだろう。
肉も生臭いから食べたくないと以前言っていたので、三成は基本的に野菜と果物以外は嫌いなのだろう。ああ、菓子も好きだった。
夕食後、三成は伊達と風呂に。
儂は何故か片倉と一緒に入ることになった。
片倉の体謎見ても楽しくない、三成と風呂に入りたかった。伊達がうらやましいので風呂上がりに軽く小突いたら伊達家の人間が出てきて大騒ぎになった。
「…………で、これを私に見せる意味はあるのか?」
「儂がちゃんと一日三成を見守っていた証拠だ!」
「私は貴様に見守ってくれと頼んだ覚えはない!」
「儂だって三成を陰から見守りたいなど度思った事はない! 側にいた方がずっといいではないか!」
「貴様の場合はそうだな……しかし何故このようなことを」
「片倉から言われたのだ、三成のことを知りたいのなら一日くらいそっと見守ってみるのもいいのではないか、と。ついでに三成の行動を書き留めてみたら少しは楽しいかと思ったのだが」
全く面白さを感じなかった。
膝をきちりを揃えて自室でお茶をすする三成のすぐ横、拳一つ空けぬ距離で家康がごろごろと寝転がっている。その更に隣には家康が今日一日頑張ったという三成の一日の行動記録の紙の束。
最初は三成の膝に己の頭を乗せたがったのだが、その場合は家康の頭を湯飲み置きにすると宣言したら、あっさりとそれは断念した。
一応客人の家康の分も茶は用意されているのだが、ごろごろと寝転がっている彼は茶を飲む気がないらしい。湯気が立たなくなってもまだ飲む気がないのなら後で自分がおかわり分としてもらおう。そう思いながら、三成は引っ越して間もないのにまた屋敷内引っ越しをする羽目になってしまった自分の境遇を軽く嘆いていた。
せっかく監視の緩いいい部屋をもらったというのに、よりにもよって小十郎の隣とは。
彼が自分のことを心配してくれているのはわかるが、二人きりになると常にべたべたとくっついている伊達家の仲良し事情を隣の部屋で常に聞かされる状況はまさに地獄。小十郎もその辺はわかっているのか、できる限り政宗の部屋に行くとは言ってくれたが……
できる限り、という言い方の時点でもう信用がならない。
「貴様のせいで私は引っ越す羽目になったのだ、少しは反省しろ」
「だが儂の要求を受け入れたのは三成であろう?」
「最初の言い方とその後の行動がまずかったと言っているのだ」
「それでは儂の全てが悪い様ではないか」
「悪かったに決まっているだろう!」
思わず声を荒げてしまい、湯飲みをぎゅっと握りしめることで気持ちを静めようとする。
小十郎がどこで聞き耳を立てているのかわからないのだ、大声など出したらあっという間に家康がここにいることがばれてしまう。
小十郎の目を盗んで入ってきた家康を追い出しても良かったのだが、三成にはどうしても家康に聞きたいことがあったのだ。
瀬戸内の両将があの要塞のような舟に乗って慌ただしく帰って行き、三成と家康は久々に互いに向き合う時間を与えられた。三成の中ではまだ家康への恋慕と憎しみが強くせめぎ合っており、家康の顔を見るだけでも苦痛を感じることもある。
だが、家康はどうなのだろう。
元親と殴り合い少しすっきりしたようには見えるが、三成はあの時の家康の叫びを覚えている。
三成に笑いかけてもらったことがない。
嘆きのように、悲鳴のようにそう叫んだ家康。
主君の仇に笑いかけられるわけがない、家康は憎まなければならない相手。だが、心の中ではこう囁く声もあるのだ。
憎い相手に笑えなくとも、愛しい相手になら笑えるはず、と。
殺してやりたい程憎いが、それと同じ強さで愛おしさを感じる。二つの思いの中で揺れ動く三成の心は、家康にただ一つの答えを求めていた。
「………………家康」
「何だ?」
「私を……もし私が貴様を殺すことを諦めたとして、その時貴様は私をどう扱う?」
もし家康が三成との未来を考えているのなら、道を作ろうとしてくれているのなら。
三成は憎しみを心の奥底に押し込めて、家康の作る道を一緒に歩んでいこうという気になれるかもしれない。奪われた者は大きすぎるが、伊達家での生活の中で三成はこの世の中は奪われるばかりではないということをちゃんと理解していた。
奪われても、与えてくれる人たちがいる。
もし家康が何かを三成に指し示してくれるのなら、毛利や元親の言葉ではないが三成は忘れる努力をしなければならないだろう。
帰ってきた家康の言葉は、予想外のものだった。
「難しい、質問だな」
「難しいのか?」
「三成が儂を殺すのを諦めたからと言って、三成と一緒に暮らせるわけがない。儂は考えなければならないだろうな……世継ぎと、そしてこの国の未来について。まあ世継ぎについては心配はしておらぬがな」
「子供でも作ったか?」
まさか、と家康は笑う。
「儂の身内で妻がいるのに遊女に子を作らせた馬鹿者がおる……その子をもらおうと思ってな。傍流なれど徳川の血を引いた、儂が手ずから育てる子だ。儂の後を継いでこの国を繁栄させてくれるだろうな」
「相変わらずろくでもないことばかり考える……」
「ろくでもないと言うな。それが今の儂の精一杯だ……今の儂は三成にそれしかしてやれることがない」
「私のためだというのか!?」
「儂は妻を娶らぬ、今後三成以外の者に心を寄せることもない。今言えるのはそれだけだ。そんなことでしか、儂は三成に報いてやることができぬ」
「大馬鹿が」
小さく、湯飲みを握ったままそう口にする。
たとえ三成に殺される末路が待っていたとしても、その逆になったとしても。
自分の心は三成以外に渡すつもりはない。
家康はそう言っているのだ。
愚かな程真っ直ぐで、自分に嘘がつけず、そして人より先に己を傷つける。昔から家康はそういう男だった、そして常に三成のことを案じてくれていたのだ。
己の身の安全より先に。
「まあそういうことしか今の儂には言えぬが、いつかは……」
「いつかなどない。貴様と私の決着はちゃんとつけさせてもらう」
そうだな、と短く答えた家康は、そのまま目を閉じてしまう。
数呼吸後に深い寝息が聞こえてきたのは、朝早くから三成を追いかけ続けていたからだろう。
「決着……か」
自らの心すら御することができない、未来すらわからない。
そんな状態の三成だったが、今の家康の言葉で一つだけ己のすべきことがわかった気がした。決着の末にあるのがどちらか命の終焉だったとしても、それだけは成し遂げておかねばならない。
家康の今の言葉に報いるために。
まずは胸の中で争い続けるどろどろに濁った感情たちをどうにかしなければならないだろう。
家康から向けられた思いを改めて実感し、満たされる喜びを感じると同時に。
身を切られるような、裏切りの罪をも同時に感じた。
_______________________________________
次が石田さんにとっては一山。
そして話としては終盤戦。
BGM「オベリクス」 by May'n
PR
色々説明
拍手現在豊臣家転生パロ中学生編入ってます
(現在2本 家三 チカナリです)
注意事項
・フリーリンクじゃないです、基本的にはリンクはお断りしています
・ひっそりこっそりが信条なので、黙々と
・捏造、not公式のこばなしが多いので、スルー推奨
ラキドでは幹部全員を溺愛しておりますが、ベルナルドとイヴァンは特に偏愛。ばさらは家三とか奥州の愉快な仲間達と毛長がメインです。うずみさんが現在官三とか官佐にずっぽりとはまり中。
基本は、愛想のかけらもない「ネット怖い~」の書き手が二人で色々書いている場所です。
書いている人
みっし
・生真面目で堅物でムキムキな男性と一見そうじゃなくても根は真面目極まり ないキャラをこよなく愛している、がんかたうるふの片割れ。編み物とお菓子作りが趣味という、第三者曰く可愛らしい一面を持つ反面、パニクると踊ったり、オロオロしだして周囲は見ていて楽しいらしい。荒ぶる舞は、職場の名物だったりする……らしい。
イヴァンちゃんと片倉さんとシズちゃんとスカイハイさんと陛下を思いっきり愛している。好きなアニメは銀魂と最近はFate/zero。型月ファンというよりは元から虚淵ファンでうずみさんからオススメされまくった末にようやっと手を付けて完読した。ライダー組おいしいです。エクシリアではダントツで陛下が好き。陛下が使用可能になる完全版があるなら複数買いしても構わないとのたまう日々。バサラの好きキャラは片倉さん一強だったはずなのに最近はアニキも熱い。かっちり着込むキャラがすきだったはずなのにいきなり露出度が高いキャラを好きになったのは何故か悩む日々。二次元の向かう愛と同じぐらい甥っ子への愛を叫んでいる気がしてならない。
@3missiy3をフォロー
うずみ
・相方を愛しすぎている変な人。趣味は畑仕事に漬け物作り、好きな物は不幸属性の美人(男女問わず)。ばさらでは石田さんと黒田さんをこよなく愛していたり、赤い子めんこいにゃぁとたまに叫んでいる。ついったのフォローは下 のアイコンから。
@uzumi1250をフォロー
ばさら垢できました
こんな二人で、ここを更新しております。
ツイッターは基本鍵をかけていますが、フォロー申請してくださったらフォローさせていただきます。
カテゴリー
カウンター