こちらはサークル「がんかたうるふ」のうずみとみっしの二人組が、ラッキードッグ1とばさらのこばなしを黙々と投下する場所です。
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来週で終わりの予定。
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8/17
「半兵衞様、ただいま帰りました!」
去年は疲れ切った表情で玄関に現れた三成だったというのに、今年は上機嫌な上に顔に笑顔が溢れていた。
なにか豊臣の家で楽しいことがあったのだろうか。
手に持っている大きな籠に高級そうなフルーツやらお菓子やらが山盛りになっている。靴を脱いで家に上がろうとしている三成は、半兵衞に籠を渡すと矢継ぎ早に話しかけてきた。
「木刀を作るのにおじさんが手伝ってくれたのです。家具屋さんで表面を削ってくれました!」
「家具屋さんって……職人さんに鉋かけてもらったの!?」
「はい! 面白いおじいちゃんでした……楽しかったです!」
「随分と気にいられたようだったな、三成は」
「お帰り秀吉、今年もお疲れ様」
三成に続いて玄関に入ってきた秀吉は、三成が言っていた数日前まで丸太だった物を持っている。綺麗に表面を削られ厚めの木の板状に加工されたそれを靴箱の上に置くと、秀吉はもう片方の手に持っていた花束を半兵衞にごく自然に渡したのだった。
「秀吉、これ……」
「寂しい思いをさせてすまなかった。詫びの品にもならぬが……」
「ううん、嬉しいよ」
大輪の百合が咲き乱れる合間に、薄紫の花。
半兵衞にこの色がよく似合うと言ってくれる秀吉のことだ、わざわざ花屋に細かく注文して作らせたのだろう。こういう気障なことをごく自然に行い、相手に負担に感じさせない。
秀吉がこういう男だからこそ、性別の差を超えて彼に心を寄せたのだ。
片手に愛し子の喜びの象徴である籠、そしてもう片方の手に愛情の詰まった花束。二つの物をリビングまで運ぶと、秀吉に甘えながら三成がお盆の間にあったことを話してくれる。
「お坊さんが来て、お参りしたのです。去年はねねちゃんの隣だったのですが、今年は秀吉様の隣でした!」
「秀吉の隣って……」
「お祖母様は怖かったですけど……でも秀吉様の茶会のお手伝いができました! お手前も秀吉様に教えていただいたので、少しだけできたのです!」
「…………えっと……秀吉…………」
ずっとお盆の間を大好きな秀吉と過ごせたのだ、機嫌が良くなるのも当然。
秀吉の体に抱きついて甘えている三成は全くわかっていないのだろうが、秀吉の隣に座るというのはそれだけの意味があるのだ。
盆の法要の席順には当然意味がある。
盆の茶会に秀吉と共に茶を点てることにも当然意味が。
当主である秀吉の隣に座ることを許された、それは三成が秀吉の後継者として周囲に認められた証。性は違えど豊臣の家の直径の血を引いているのだ、今まで秀吉の隣に座れなかったことがおかしいわけだがあの家には秀吉の母がいる。
親戚はともかく、あの女を秀吉はどうやって説得したのか。
疑問を目に込めて彼を見つめると、
「先日の恩師の葬儀の際に……な」
ごく当たり前のことを言うかのように、秀吉はさらりと答えたのだった。
自分たちが北海道で楽しく過ごしている間に、秀吉は葬儀という場を利用して三成を守るために奔走していたわけだ。そういうことを不言実行で行う秀吉の男としてのかっこよさにたちうちできないことはわかっているのだが。
それでも言ってやりたくなる時もあるのだ。
「かっこよすぎだってば……」
「秀吉様はいつでもかっこいいです」
「そういう意味じゃないんだけどね……ま、いいか。二人とも晩ご飯食べてきてないんでしょ? どこか食べに行こうよ」
「そうだな……では久しぶりに慶次の店にでも行くか」
「はい!」
大きくなり始めているが、まだ軽い三成の体を秀吉が抱き上げる。
そんな彼の体に寄り添い、そっと腕を絡めようとすると。
「半兵衞様……家康はまだ帰ってこないのですか……?」
たくさんの喜びの間に隠れていた、家康を恋しがる感情がひょっこり顔を出したのだろう。
外食に行く時は家康もいつもは一緒、だからこそ思い出したのかもしれない。
「一度電話してみたけど……結構大変みたいだよ。家庭教師と勉強中だって言ってたから、来週までは無理かな」
「そうなんですか…………」
「でも三成君は明後日から林間学校でしょ? それが終わったら帰ってくるから」
「慶次に自転車を頼んでいたであろう? 様子を見に行くとするか」
「…………はい……」
途端に花がしぼんでしまったかのように首を下に向けて落ち込み始めた三成をみて半兵衞は思った。
嬉しいことがあっても、悲しみは打ち消せないのだと。
8/18
三成たちの林間学校は基本自転車で移動する。
総移動距離が100kmを越えるので普段の自転車では駄目だと言い出したのは秀吉。
そしてその言葉に乗じて用意した子供用自転車に散々色々な改造をしてくれたのが、秀吉の友人である前田慶次だった。
前日におやつの買い物がてら自転車のお披露目を使用と言い出したのは毛利、そしてそれに乗ったのは幸村。三成は嫌がったのだが、数の暴力には勝てなかった。
そして、道の真ん中で自転車を見ながらため息をつくことになっている。
「それで……このようなことになったのですか……」
「派手な自転車よ」
「私だって好きでこのような自転車にしたのではない!」
思いっきり口を尖らせて三成は力説するが、それは毛利の失笑を誘うだけだった。
毛利のはごく普通のダークグリーンの自転車、真田のはタイヤを交換すれば悪路でも使える剛健そうなフレームを持つ赤い自転車。
そして三成のはといえば。
ぎらぎらとしたメタリックパープルに塗装された、普通の道を走るために作られていない独特の形状のフレーム。そして装着されたタイヤも通常のものより細く、縁石に乗り上げただけでパンクしてしまいそうな程に脆そうなのだ。おまけにペットボトルを入れる場所までハンドルに取り付けてあり、フレームのあちこちに夜光反射材が貼り付けてある。
秀吉のことは敬愛しているし、慶次も遊んでくれるから好きだが。
さすがにこれは過保護の極みなのではないのだろうか。
こんな自転車に乗っていったら散々馬鹿にされる。基本的には優しい友人たちは一応手加減してくれるが、クラスの人間がこれを見たらなんと言うだろうか。それを考えるだけで憂鬱になる三成を勇気づけるように声をかけたのは、自転車を押しながら歩く幸村だった。
「ですが石田殿の自転車は素晴らしいですな」
「……なにが素晴らしいだ。こんな派手な自転車に乗ったら、馬鹿にされるだろう」
「確かに馬鹿にされるだろうな」
二人の少し後ろを歩き、自転車を眺めながら辛辣な口調でそう言う毛利ではあったが。口で言う割には、三成の自転車に熱い眼差しを注いでいる。
「だが6段変速のクロスバイクなど誰も持っていないであろうな。フレームは中古のようだがタイヤは新品……我もそのような自転車が欲しいと言ったことがあるがそう簡単に買えるものではない」
「高いものなのか」
「高いか安いかのではない、子供用の良い自転車はあまり輸入されないらしいのだ。我は予約をしたのでな、来年になれば貴様よりも素晴らしい自転車を手に入れているはずだ」
「そうなのか……」
秀吉と慶次は、自分のために色々考えてこの自転車を用意してくれた。
自分が長距離を走っても疲れないように、そして事故に遭わないように。確かに派手で周囲の目を引くが、それも二人の愛情の証だと思えばいいだけのこと。
二人の気持ちがこもっている自転車のハンドル、それを握る手に力を込めていると横を歩く幸村が物欲しそうにこちらを見つめていた。
「某も石田殿のような自転車が欲しいですな……」
「貴様はすぐに自転車を壊すだろう。細いフレームの自転車に乗れるわけがなかろう」
「某が乗っても壊れない自転車を探せばいいのですな」
何かを決意したかのように一人で頷いている幸村を見て笑い声をもらす三成と毛利だったが。
この数年後、この時の思いを捨てずにバイトでお金を貯めた幸村がとんでもなく高額な自転車を購入し。
それがきっかけで生涯のライバルともなる男に会うことなど、当然わかるわけがなかった。
8/19
「それでは半兵衞様、いってまいります!」
ちゃんと自分で支度をし、旅行用の大きなバッグを持った三成は背に小さなリュックも背負っていた。この中に水などを入れて、休憩時に飲むのだそうだが。
バッグよりもリュックの方が重そうに見えるのは半兵衞の気のせいだろうか。
「えっとね三成君……それ背負っていくの?」
「水分はいくらあっても困らないと秀吉様が言っていました。汗を流すのにも、飲むのにもたくさんあった方がいいと」
「それはわかるんだけど……」
玄関先で靴を履きながら、三成は背中の重みにかなり苦心している。
この状態で50km以上の距離を自転車に乗りつづけることができるのだろうか。保護者として非常に心配になる半兵衞であったが、三成は涼しい顔。
基本体力はあるので倒れることはないだろうが、頑固極まりない上に人の助けを借りたがらないので具合が悪くなっても誰にも言わずに頑張りそうなのだ。
「重くなったら水は捨てるんだよ? それから塩飴を舐めながら行くこと」
「はい」
「真田君と毛利君と喧嘩しないで、鶴姫ちゃんをかばってあげること」
「わかっています!」
「それからこれが一番大事なことだけど……他のクラスの子と喧嘩しない!」
「…………それは……多分大丈夫かと……」
「君、切れると見境なくなるからね」
櫻組だけの行事ならいいが、今回は学年全体の行事なのだ。
昔あった一件で三成たちは他のクラスの子供たちと仲が悪い。大人の理屈がわからない子供たちに、敵に回してはいけない存在がいると教えてもわからないのは道理。あと10年もすれば、自分たちが誰に喧嘩を売っていたかをあの子供たちもわかるはずなのだが。
相手方の子たちの将来に傷がつかないようにしないと。
それを考えて何度も三成には言い聞かせているが、三成の我慢にも限界があるわけで。前のように全員を殴り倒すようなことにならなければいいと願いながら、半兵衞は靴紐をきっちりと縛り直した三成の肩をぽんと叩いてやる。
「気をつけていっておいで」
「はい! それから前田と秀吉様に自転車をありがとうと伝えておいてください!」
「わかったよ」
自転車を見た瞬間はこんな派手なのは嫌だと大きな声で抗議していたというのに、どんな心境の変化があったのやら。
リュックの重さによろめきながらバッグをしっかりと持ち。
にっこり笑って去って行った三成を見送ってから、半兵衞も出勤する準備を始めることにした。
三成からの電話が来たのは、その日の夜のことだった。
長い旅路を経て目的地に到着したので声に疲れはにじんでいたが、あの水の量にも負けずに体調を崩すことなく無事に到着したらしい。
「水をたくさん持って行って助かりました! 毛利と真田もたくさん持ってきていたので、姫にも分けてやることができたのです!」
「女の子はたくさん持てないからね……」
「塩飴も美味しかったです!」
受話器から聞こえてくる声が弾んでいるのを確認し、半兵衞は小さく安堵の息をつく。
道の途中で誰かと喧嘩したり、熱中症で倒れなかった。それだけでもありがたいのだが、ちゃんと三成は大人たちの持たせた物を有効活用できたらしい。
人の真心を受け止め、役立てることができる。
大人に近づきつつある三成に喜びながら、思うのはまだ帰ってこないもう一人の家族のこと。新学期の支度もあるので早く返して欲しいと何度も連絡しているのだが、基本的に親権はあちらにある。無理矢理連れて帰れば、こちらが訴えられる可能性もあるのだ。
せめて三成が帰ってくる前に、家康が戻ってきてくれれば。
ここは使える手を全て使うべきだろう。
「よかったね三成君。ほら、電話を待ってる人がいるんだよね……そろそろ切らないと」
「あ、はい! それでは半兵衞様、おやすみなさい!」
携帯電話禁止なので、宿泊先の公衆電話には列ができているはず。自分の後ろを確認して慌てたのか、口早に挨拶をして三成は電話を切った。
三成は三成で頑張っている、ならば大人は彼に答える仕事をしなければならないだろう。受話器を耳に当てたまま、半兵衞は暗記している電話番号を軽やかに押す。
その先にいる相手が三成と家康を幸せにしてくれることを信じて。
「…………あ、もしもし大谷君? お久しぶり、いつも三成君がお世話になってるね。え? ああ、あのアイス気に入った? 乳脂肪分が異常に高くて純粋な水分が少ないから、あんな口当たりになるんだって。体もあまり冷えないし、あれなら食べられるでしょ…………ストーブ付けて食べたの!? そんなことしなくても大丈夫だってば……それでね、今日はちょっとお願いがあって電話したんだけど…………うんそう、三成君のためになること……」
______________________________________
あと1週で終わるだろうか……
「半兵衞様、ただいま帰りました!」
去年は疲れ切った表情で玄関に現れた三成だったというのに、今年は上機嫌な上に顔に笑顔が溢れていた。
なにか豊臣の家で楽しいことがあったのだろうか。
手に持っている大きな籠に高級そうなフルーツやらお菓子やらが山盛りになっている。靴を脱いで家に上がろうとしている三成は、半兵衞に籠を渡すと矢継ぎ早に話しかけてきた。
「木刀を作るのにおじさんが手伝ってくれたのです。家具屋さんで表面を削ってくれました!」
「家具屋さんって……職人さんに鉋かけてもらったの!?」
「はい! 面白いおじいちゃんでした……楽しかったです!」
「随分と気にいられたようだったな、三成は」
「お帰り秀吉、今年もお疲れ様」
三成に続いて玄関に入ってきた秀吉は、三成が言っていた数日前まで丸太だった物を持っている。綺麗に表面を削られ厚めの木の板状に加工されたそれを靴箱の上に置くと、秀吉はもう片方の手に持っていた花束を半兵衞にごく自然に渡したのだった。
「秀吉、これ……」
「寂しい思いをさせてすまなかった。詫びの品にもならぬが……」
「ううん、嬉しいよ」
大輪の百合が咲き乱れる合間に、薄紫の花。
半兵衞にこの色がよく似合うと言ってくれる秀吉のことだ、わざわざ花屋に細かく注文して作らせたのだろう。こういう気障なことをごく自然に行い、相手に負担に感じさせない。
秀吉がこういう男だからこそ、性別の差を超えて彼に心を寄せたのだ。
片手に愛し子の喜びの象徴である籠、そしてもう片方の手に愛情の詰まった花束。二つの物をリビングまで運ぶと、秀吉に甘えながら三成がお盆の間にあったことを話してくれる。
「お坊さんが来て、お参りしたのです。去年はねねちゃんの隣だったのですが、今年は秀吉様の隣でした!」
「秀吉の隣って……」
「お祖母様は怖かったですけど……でも秀吉様の茶会のお手伝いができました! お手前も秀吉様に教えていただいたので、少しだけできたのです!」
「…………えっと……秀吉…………」
ずっとお盆の間を大好きな秀吉と過ごせたのだ、機嫌が良くなるのも当然。
秀吉の体に抱きついて甘えている三成は全くわかっていないのだろうが、秀吉の隣に座るというのはそれだけの意味があるのだ。
盆の法要の席順には当然意味がある。
盆の茶会に秀吉と共に茶を点てることにも当然意味が。
当主である秀吉の隣に座ることを許された、それは三成が秀吉の後継者として周囲に認められた証。性は違えど豊臣の家の直径の血を引いているのだ、今まで秀吉の隣に座れなかったことがおかしいわけだがあの家には秀吉の母がいる。
親戚はともかく、あの女を秀吉はどうやって説得したのか。
疑問を目に込めて彼を見つめると、
「先日の恩師の葬儀の際に……な」
ごく当たり前のことを言うかのように、秀吉はさらりと答えたのだった。
自分たちが北海道で楽しく過ごしている間に、秀吉は葬儀という場を利用して三成を守るために奔走していたわけだ。そういうことを不言実行で行う秀吉の男としてのかっこよさにたちうちできないことはわかっているのだが。
それでも言ってやりたくなる時もあるのだ。
「かっこよすぎだってば……」
「秀吉様はいつでもかっこいいです」
「そういう意味じゃないんだけどね……ま、いいか。二人とも晩ご飯食べてきてないんでしょ? どこか食べに行こうよ」
「そうだな……では久しぶりに慶次の店にでも行くか」
「はい!」
大きくなり始めているが、まだ軽い三成の体を秀吉が抱き上げる。
そんな彼の体に寄り添い、そっと腕を絡めようとすると。
「半兵衞様……家康はまだ帰ってこないのですか……?」
たくさんの喜びの間に隠れていた、家康を恋しがる感情がひょっこり顔を出したのだろう。
外食に行く時は家康もいつもは一緒、だからこそ思い出したのかもしれない。
「一度電話してみたけど……結構大変みたいだよ。家庭教師と勉強中だって言ってたから、来週までは無理かな」
「そうなんですか…………」
「でも三成君は明後日から林間学校でしょ? それが終わったら帰ってくるから」
「慶次に自転車を頼んでいたであろう? 様子を見に行くとするか」
「…………はい……」
途端に花がしぼんでしまったかのように首を下に向けて落ち込み始めた三成をみて半兵衞は思った。
嬉しいことがあっても、悲しみは打ち消せないのだと。
8/18
三成たちの林間学校は基本自転車で移動する。
総移動距離が100kmを越えるので普段の自転車では駄目だと言い出したのは秀吉。
そしてその言葉に乗じて用意した子供用自転車に散々色々な改造をしてくれたのが、秀吉の友人である前田慶次だった。
前日におやつの買い物がてら自転車のお披露目を使用と言い出したのは毛利、そしてそれに乗ったのは幸村。三成は嫌がったのだが、数の暴力には勝てなかった。
そして、道の真ん中で自転車を見ながらため息をつくことになっている。
「それで……このようなことになったのですか……」
「派手な自転車よ」
「私だって好きでこのような自転車にしたのではない!」
思いっきり口を尖らせて三成は力説するが、それは毛利の失笑を誘うだけだった。
毛利のはごく普通のダークグリーンの自転車、真田のはタイヤを交換すれば悪路でも使える剛健そうなフレームを持つ赤い自転車。
そして三成のはといえば。
ぎらぎらとしたメタリックパープルに塗装された、普通の道を走るために作られていない独特の形状のフレーム。そして装着されたタイヤも通常のものより細く、縁石に乗り上げただけでパンクしてしまいそうな程に脆そうなのだ。おまけにペットボトルを入れる場所までハンドルに取り付けてあり、フレームのあちこちに夜光反射材が貼り付けてある。
秀吉のことは敬愛しているし、慶次も遊んでくれるから好きだが。
さすがにこれは過保護の極みなのではないのだろうか。
こんな自転車に乗っていったら散々馬鹿にされる。基本的には優しい友人たちは一応手加減してくれるが、クラスの人間がこれを見たらなんと言うだろうか。それを考えるだけで憂鬱になる三成を勇気づけるように声をかけたのは、自転車を押しながら歩く幸村だった。
「ですが石田殿の自転車は素晴らしいですな」
「……なにが素晴らしいだ。こんな派手な自転車に乗ったら、馬鹿にされるだろう」
「確かに馬鹿にされるだろうな」
二人の少し後ろを歩き、自転車を眺めながら辛辣な口調でそう言う毛利ではあったが。口で言う割には、三成の自転車に熱い眼差しを注いでいる。
「だが6段変速のクロスバイクなど誰も持っていないであろうな。フレームは中古のようだがタイヤは新品……我もそのような自転車が欲しいと言ったことがあるがそう簡単に買えるものではない」
「高いものなのか」
「高いか安いかのではない、子供用の良い自転車はあまり輸入されないらしいのだ。我は予約をしたのでな、来年になれば貴様よりも素晴らしい自転車を手に入れているはずだ」
「そうなのか……」
秀吉と慶次は、自分のために色々考えてこの自転車を用意してくれた。
自分が長距離を走っても疲れないように、そして事故に遭わないように。確かに派手で周囲の目を引くが、それも二人の愛情の証だと思えばいいだけのこと。
二人の気持ちがこもっている自転車のハンドル、それを握る手に力を込めていると横を歩く幸村が物欲しそうにこちらを見つめていた。
「某も石田殿のような自転車が欲しいですな……」
「貴様はすぐに自転車を壊すだろう。細いフレームの自転車に乗れるわけがなかろう」
「某が乗っても壊れない自転車を探せばいいのですな」
何かを決意したかのように一人で頷いている幸村を見て笑い声をもらす三成と毛利だったが。
この数年後、この時の思いを捨てずにバイトでお金を貯めた幸村がとんでもなく高額な自転車を購入し。
それがきっかけで生涯のライバルともなる男に会うことなど、当然わかるわけがなかった。
8/19
「それでは半兵衞様、いってまいります!」
ちゃんと自分で支度をし、旅行用の大きなバッグを持った三成は背に小さなリュックも背負っていた。この中に水などを入れて、休憩時に飲むのだそうだが。
バッグよりもリュックの方が重そうに見えるのは半兵衞の気のせいだろうか。
「えっとね三成君……それ背負っていくの?」
「水分はいくらあっても困らないと秀吉様が言っていました。汗を流すのにも、飲むのにもたくさんあった方がいいと」
「それはわかるんだけど……」
玄関先で靴を履きながら、三成は背中の重みにかなり苦心している。
この状態で50km以上の距離を自転車に乗りつづけることができるのだろうか。保護者として非常に心配になる半兵衞であったが、三成は涼しい顔。
基本体力はあるので倒れることはないだろうが、頑固極まりない上に人の助けを借りたがらないので具合が悪くなっても誰にも言わずに頑張りそうなのだ。
「重くなったら水は捨てるんだよ? それから塩飴を舐めながら行くこと」
「はい」
「真田君と毛利君と喧嘩しないで、鶴姫ちゃんをかばってあげること」
「わかっています!」
「それからこれが一番大事なことだけど……他のクラスの子と喧嘩しない!」
「…………それは……多分大丈夫かと……」
「君、切れると見境なくなるからね」
櫻組だけの行事ならいいが、今回は学年全体の行事なのだ。
昔あった一件で三成たちは他のクラスの子供たちと仲が悪い。大人の理屈がわからない子供たちに、敵に回してはいけない存在がいると教えてもわからないのは道理。あと10年もすれば、自分たちが誰に喧嘩を売っていたかをあの子供たちもわかるはずなのだが。
相手方の子たちの将来に傷がつかないようにしないと。
それを考えて何度も三成には言い聞かせているが、三成の我慢にも限界があるわけで。前のように全員を殴り倒すようなことにならなければいいと願いながら、半兵衞は靴紐をきっちりと縛り直した三成の肩をぽんと叩いてやる。
「気をつけていっておいで」
「はい! それから前田と秀吉様に自転車をありがとうと伝えておいてください!」
「わかったよ」
自転車を見た瞬間はこんな派手なのは嫌だと大きな声で抗議していたというのに、どんな心境の変化があったのやら。
リュックの重さによろめきながらバッグをしっかりと持ち。
にっこり笑って去って行った三成を見送ってから、半兵衞も出勤する準備を始めることにした。
三成からの電話が来たのは、その日の夜のことだった。
長い旅路を経て目的地に到着したので声に疲れはにじんでいたが、あの水の量にも負けずに体調を崩すことなく無事に到着したらしい。
「水をたくさん持って行って助かりました! 毛利と真田もたくさん持ってきていたので、姫にも分けてやることができたのです!」
「女の子はたくさん持てないからね……」
「塩飴も美味しかったです!」
受話器から聞こえてくる声が弾んでいるのを確認し、半兵衞は小さく安堵の息をつく。
道の途中で誰かと喧嘩したり、熱中症で倒れなかった。それだけでもありがたいのだが、ちゃんと三成は大人たちの持たせた物を有効活用できたらしい。
人の真心を受け止め、役立てることができる。
大人に近づきつつある三成に喜びながら、思うのはまだ帰ってこないもう一人の家族のこと。新学期の支度もあるので早く返して欲しいと何度も連絡しているのだが、基本的に親権はあちらにある。無理矢理連れて帰れば、こちらが訴えられる可能性もあるのだ。
せめて三成が帰ってくる前に、家康が戻ってきてくれれば。
ここは使える手を全て使うべきだろう。
「よかったね三成君。ほら、電話を待ってる人がいるんだよね……そろそろ切らないと」
「あ、はい! それでは半兵衞様、おやすみなさい!」
携帯電話禁止なので、宿泊先の公衆電話には列ができているはず。自分の後ろを確認して慌てたのか、口早に挨拶をして三成は電話を切った。
三成は三成で頑張っている、ならば大人は彼に答える仕事をしなければならないだろう。受話器を耳に当てたまま、半兵衞は暗記している電話番号を軽やかに押す。
その先にいる相手が三成と家康を幸せにしてくれることを信じて。
「…………あ、もしもし大谷君? お久しぶり、いつも三成君がお世話になってるね。え? ああ、あのアイス気に入った? 乳脂肪分が異常に高くて純粋な水分が少ないから、あんな口当たりになるんだって。体もあまり冷えないし、あれなら食べられるでしょ…………ストーブ付けて食べたの!? そんなことしなくても大丈夫だってば……それでね、今日はちょっとお願いがあって電話したんだけど…………うんそう、三成君のためになること……」
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あと1週で終わるだろうか……
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色々説明
拍手現在豊臣家転生パロ中学生編入ってます
(現在2本 家三 チカナリです)
注意事項
・フリーリンクじゃないです、基本的にはリンクはお断りしています
・ひっそりこっそりが信条なので、黙々と
・捏造、not公式のこばなしが多いので、スルー推奨
ラキドでは幹部全員を溺愛しておりますが、ベルナルドとイヴァンは特に偏愛。ばさらは家三とか奥州の愉快な仲間達と毛長がメインです。うずみさんが現在官三とか官佐にずっぽりとはまり中。
基本は、愛想のかけらもない「ネット怖い~」の書き手が二人で色々書いている場所です。
書いている人
みっし
・生真面目で堅物でムキムキな男性と一見そうじゃなくても根は真面目極まり ないキャラをこよなく愛している、がんかたうるふの片割れ。編み物とお菓子作りが趣味という、第三者曰く可愛らしい一面を持つ反面、パニクると踊ったり、オロオロしだして周囲は見ていて楽しいらしい。荒ぶる舞は、職場の名物だったりする……らしい。
イヴァンちゃんと片倉さんとシズちゃんとスカイハイさんと陛下を思いっきり愛している。好きなアニメは銀魂と最近はFate/zero。型月ファンというよりは元から虚淵ファンでうずみさんからオススメされまくった末にようやっと手を付けて完読した。ライダー組おいしいです。エクシリアではダントツで陛下が好き。陛下が使用可能になる完全版があるなら複数買いしても構わないとのたまう日々。バサラの好きキャラは片倉さん一強だったはずなのに最近はアニキも熱い。かっちり着込むキャラがすきだったはずなのにいきなり露出度が高いキャラを好きになったのは何故か悩む日々。二次元の向かう愛と同じぐらい甥っ子への愛を叫んでいる気がしてならない。
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