こちらはサークル「がんかたうるふ」のうずみとみっしの二人組が、ラッキードッグ1とばさらのこばなしを黙々と投下する場所です。
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ということで、北海道描写がほとんどない北海道編。
*****
8/1
「北斗星楽しかったね~ 次はスーパーとかちだからね! ここしばらくは車で帯広まで行ってたから、車両切り替えてからは乗ってなかったんだよね……北海道は古い車両もまだ残ってるから写真たくさん撮れるし……今年は頑張らないと!」
札幌駅のホームで気合いを入れている半兵衛を見ながら、家康は三成の服をそっと引っ張った。
「なあ三成、半兵衛はその……鉄ヲタという人種なのか」
「半兵衛様はバイク以外の交通手段をこよなく愛しているお方だ」
「半兵衛が車を見てあそこまで喜んでいるのを、儂は見たことがないのだが」
「…………そういうことにしておけ」
半兵衛から目をそらし、小さくため息をつく三成を見て家康は思った。
これは触れてはいけない話題なのだ、と。
電車を乗り継いで到着した帯広の駅は、駅前のビル街に見下ろされる程の小ささだった。
「ちょっと遅いけどお昼にしようか。三成君、なに食べたい?」
「カレーがいいです!」
「そっか、僕は別な物食べたいし……じゃあふじもりさんでいいよね」
「はい!」
すっかりこの街になれてしまっている二人はさっさと目的を決め、家康の意見を聞かずにさっさと移動を始める。荷物は先に送ってあるとはいえ、寝台車に1日揺られ、その後すぐに特急に数時間乗ったのだ。
鉄ヲタ……ではなく鉄道が大好きな半兵衛はともかく、三成は疲れていないのだろうか。頭に不釣り合いなほど鍔の大きな帽子を被り、元気いっぱいな様子で半兵衛の後をついて行く三成には疲労の影は今のところ見えない。だが疲れて動けなくなった時は年長者である自分が三成を助けなければならない。
家康は三成の立派な兄でありたいと思っている。
世界で一番可愛らしい弟を助けるのは自分の仕事、ならば三成の様子に常に気を配る必要があるだろう。
さりげなく三成の隣に並ぶと、気遣うように声をかけてみる。
「三成荷物は重くないか?」
「大丈夫だ」
「喉が渇いたりはしていないだろうな」
「ふじもりさんで飲める。あそこのメロンソーダは美味しいぞ」
「そ…………そうか」
「家康君、三成君なら大丈夫だよ。今年は楽な日程だし、これくらいの移動で疲れるような子じゃないから」
「これで楽なのか?」
「うん、今年はここだけ見ればいいけど、去年は一番上まで移動したんだよね…………あれはあれで楽しかったけど、宗谷に乗れたし」
後ろを着いてくる二人を時折振り向いて確認しながら、薄手のサマースーツ姿の半兵衛は笑う。
「その前の年は焼尻まで行かされたし…………ウニ丼が美味しかったから許したけど」
「まぐろも美味しかったです!」
「あれ焼尻じゃなくて帰りだから。三成君も一緒にウニ丼食べたけど覚えてる?」
「まぐろしか覚えてません」
美味しかったマグロを思い出したのか、珍しく無邪気に笑いだした三成。
町中で手を繋ごうとするといつも三成は怒るのだが、こんな可愛い笑顔を見せられて大人しくしている家康ではない。有無を言わさぬ勢いで三成の手を掴むと、兄らしい威厳のある顔をなんとか作ってこう宣言した。
「三成が迷子になっては困るのでな、儂が手を繋いでいてやろう」
「迷子になるのは家康の方だろう? 私はここからちゃんと泊まるところに一人で戻れるぞ……まあいい、家康がいなくなっては困るからな、私が手を繋いでいてやろう」
「いや、儂がお兄ちゃんとしてな……」
「お兄ちゃんだろうがなんだろうが、私の方がここでは先輩だ」
確かにそれはそうだった。
始めてきた土地、初めて出会う人たち。兄の威厳を保つのも大事だが、それ以上に大事なのは新しい場所を知ること。
いつも見る空より色が薄く、そしてそれがどこまでも広がっていく。
そんな中、家康がぽつりと呟いた一言は、穏やかな時間を一気に打ち消したのだった。
「秀吉も一緒でなかったのが残念だな……」
「い、家康、それは!」
「………………僕たちよりも知り合いの葬式を取った男だからね…………三成君、家康君、電話がかかってきても無視、だからね!」
「わ、わかりました!」
「な、なるべく努力する……」
今年こそいけると思ったのに、直前で葬式が入りいけなくなった秀吉の嘆きは凄まじいものだったが。
それ以上に怒っている半兵衛をどうなだめていくか。
自分で話題を蒸し返したくせに、三成の手をぎゅっと握りながらそれを考え始めた家康であった。
8/2
三成達が北海道での宿泊場所としている場所は、ザビー牧場という名前だった。
大手ファミレスの直営農場であり、半兵衛の仕事相手の持ち物らしいのだが。始めて北海道に来た家康にとって、そこは驚きの固まりのような場所であった。
まず、敷地が広すぎる。
入り口から職員達が寝泊まりに使う家まで車で数分かかる上に、様々な施設が中にあるので知っている場所から離れたらすぐに迷子になってしまう。早速持ち前の好奇心で散歩をしてみたところ、どこを歩いているのかわからなくなり周辺で作業をしていた職員に保護された家康は。
「あのね家康君……君より小さい三成君が迷子になってないんだから、君ももう少し落ちついてくれないと……」
と、半兵衛からありがたい説教を受けることになった。
職員の宿舎と聞いた時はどんな古い建物に泊まることになるのか不安でしょうがなかった家康だったが、真新しいペンションを思わせる建物をみて瞬時にその考えを変えた。柔らかい色合いの柱を見せるようなデザインの室内、そして家康と三成には気を利かせた職員達が屋根裏部屋を用意してくれていた。
これは三成が毎年来たがるわけだ。
家の方針でファミレスに行ったことがない家康だったが、直営の牧場の職員の受託がこれだけ立派ということは経営も順調なのだろう。安価で体に害のあるものを食べさせる場所、ファミレスについてそう教えられていた家康ので違和感はあるのだが。
素直にこの場所での滞在を受け入れることにしたのだった。
「迷子になるとは情けないな、家康」
「三成は迷わなかったのか?」
「…………私は大丈夫だった……はずだ」
「三成君もついた早々迷子になって、いつきちゃんに助けてもらってなかったっけ?」
「……………………そうでした」
真っ白でふかふかのソファーは、職員の団欒室兼リビングに置かれている物。
10人近くが座れそうなソファーに座り、朝絞ったばかりの牛乳を飲みながら迷子になった家康の為の反省会は続く。
「迷子になるのはまあしょうがないけど、あまりあちこち覗くと痛い目にあうからね」
「痛い目だと?」
「ここ動物多いから。あとからいつきちゃんが色々教えてくれると思うけど……一つだけ言っておくね。牛舎と羊舎には絶対に入らないこと」
「入ってはいけない理由があるのか?」
他にも家畜はいるだろうに、何故そこだけ。
半兵衛に続きを聞こうとした瞬間、隣で蜂蜜入りの牛乳を喜んで飲んでいた三成の様子が変わったことに気がついた。
「牛は駄目だ…………あれは恐ろしいのだ……」
「そ、そんなに恐ろしい物なのか?」
「子牛が特にだめだ」
きっぱりといいきる三成を見て、家康は思う。
動物好きで物怖じしない三成をここまで冷えさせる牛とはどんな生き物なのか。そしてこうも思った。
三成が怯えて泣き叫ぶ所をちょっとだけだが見てみたい。
三成が可愛いし、好きで好きでたまらないのだが。
普段はあまり激しく喜怒哀楽を表に出さない三成の違う姿を見てみたくなってしまうのが、中学生になっても子供っぽさが抜けない家康の悪いところ。それを長所だと評価してくれる人間もいるが、三成にしてみればそれが一番の短所のはず。
「よし三成、一緒に散歩に行くか!」
「家康君、何を考えているかバレバレだって……」
「散歩だと? 近くならば私が色々教えてやる!」
半兵衛にはあっさりと見抜かれたらしいが、三成は家康の企んでいる事に気がつかなかったらしい。
三成の素直さに感謝しながら、大げさにため息をつく半兵衛に笑いかけ。
家康は三成の手を引き、本日二度目の散歩に出発することにしたのだった。
8/3
半兵衛が毎年この時期に北海道に来ることにはそれなりの訳があったらしい。
「メニューを決めるのだそうだ」
「弁護士がファミレスのメニューを決めるのか?」
「他の店と同じようなメニューを間違えて出してしまうと訴えられたり怒られたりするらしい。そういう時にいいわけをする方法を教えているのだそうだ」
「商標登録や調理法の特許の関係か」
「…………そんなことを半兵衛様が言っていた気がする」
起こされたのは朝の5時で、いきなり三成に手渡されたのは雑草を刈り取るための鎌。そんな物を持って枕元に立っていた三成に、早朝から死を覚悟した家康だったが。
草刈りをするから手伝って欲しい、それだけだった。
そんな理由でお揃いの大きな麦わら帽子を被り、首にタオルを巻いて。視界一面に広がる金色の麦の波が揺れる音を聞きながら、畑の脇に生えている雑草を刈り取る作業に従事することになった。
三成が説明するには、畑の脇に雑草が生えていると風に飛ばされた種が畑の中にもはえてくるらしい。それを防止するために周囲の草を刈るのが仕事らしいのだが、何故客人である自分たちがこんな事をしなければいけないのか。
それを聞くと、三成は不思議そうな顔をしながらこう答えを返してきた。
「泊めてもらっているのだ、手伝うのは当たり前だろう?」
「だがな、一応客としてきているのだぞ?」
「みんな朝の4時から起きて今頃畜舎の掃除と餌やりだ。私は牛舎に行きたくない、だからこちらを手伝うのだ」
「わかるようなわからないような理屈だな……牛が怖いのは…………昨日儂もよく理解した」
「そうだろう? それに手伝いをするとお小遣いがもらえるのだぞ!」
「なるほどな、それが目当てか……」
守銭奴というわけではないのだが、三成はお手伝いをしてお金をもらうという行為が大好きらしい。地面に膝を置き、子供の膝程の高さに伸びている雑草の頭を手で押さえ込み下からざっくりと鎌で切る。
切った雑草もそのまま地面に放置するのではなく、一カ所に積み重ねておくのも仕事の一環。
早朝とはいえ真夏の太陽は上から厳しく照りつけてくるし、汗は間断なく噴き出してくる。手慣れているらしい三成はかなりのハイペースで雑草の山を作り上げているが、家康はその半分程の大きさの山しか作ることができていない。
毎年ここで仕事をしていれば手慣れてくるのも当たり前。
草刈りを始めて行う自分が三成に勝てないのはわかっている。そこで落ち込むことはないしコツを掴めば自分も早くなることはわかっているのだが。
気になっているのは別なことだった。
「儂は…………何もできないのだな」
「そうか? 皿を洗うのも上手くなったではないか」
「最初は何も知らなかったからな……水で油物を洗うと油が皿で固まってしまうことも、掃除の仕方すら知らなかった」
「覚えたのだからいいではないか。これからは牛舎も大丈夫だ……私は行かないが」
「三成が行かないのなら、儂も行かないに決まっているだろう。それに慣れたとはいえ牛は恐ろしいな……」
昨日牛舎の近くを通り、無理矢理三成を連れて行ったら襲われたのは家康の方だった。
元気いっぱいの子牛立ちの体当たりを受けて吹き飛ばされ、体のあちこちに噛みつかれ。牛に悪気はないのだろうが、それこそ死ぬ目にあったのだ。 、
半兵衛はこれも経験だと言って笑っていたが、本当にその通りだ。
同じ年の人間が知らなければいけないようなことも、家康は何も知らずに生きてきたのだ。財産があればこの世の中で生きていけるのか、権力があれば人に尊敬されるのか。今まで漠然と抱いていた疑問が、三成と暮らし始めたことで真実だと知ることができた。
それはどんな財産よりも大事な物。
「私の言ったとおりだっただろう、牛は怖いのだ。羊はあれ以上に恐ろしいぞ!」
ざくざくと雑草に鎌を入れながら三成はこちらに向けて微笑みかけてくる。
その邪気のない素直な笑顔に、家康は常にたくさんの物を与えてもらっている。いつか三成にそれを返すことができればいいのだが、それはいつの日になるのだろうか。
だがいつかきっと、世界で一番愛しい君に。
「なあ三成、そろそろ少し休んでもいいだろうか」
「そうだな、そろそろ朝ご飯だ。今日の朝ご飯はきっと美味しいぞ」
「昨日は確かに美味かった」
「違う、それ以上だ!」
きっぱりと言いきった三成の言葉の通り、朝から過酷な労働で体を酷使した家康にはその日の朝食が人生で一番の朝食となったのだった。
8/4
来る途中にやけに豪華で大きな建物があると思っていたが、まさかあれが三成の言っていたケーキ屋だったとは。
サッカーができそうな程巨大な駐車場には観光バスが何台も停まっており、駐車場の端では農家が朝取り野菜を売っていたりする。これのどこがケーキ屋なのさと最初は思ったが、中に入れば並んでいるのは菓子ばかり。
甘い香りの中人混みに揉まれ、それでも三成は目的の場所へと突き進む。
一つ一つビニールの包装に包まれた小分けの菓子や箱入りの贈答用の菓子、そしてガラス製のショーウインドーに並ぶカラフルなケーキ。大人に押されながら家康の手を握り、三成はきょろきょろと辺りを見回している。
人も多ければ売っている物も多いので、なかなか目当ての物が見つけられないのだろう。
「もっと早く来れば良かったな……」
「だが早く来ても変わらなかったのではないのか?」
「開店してすぐだと人が少ないといつきちゃんが言っていた」
小学生なので背の小さい三成と、中学生になってもあまり背が伸びない家康は人ごみに押されて呼吸するのがやっとといった状態になっていた。人の流れはレジに向かっているが、三成が行きたいのは反対側らしい。
「もう少し……もう少しあっちなのだ」
「ケーキを買いに来たのではないのか?」
「それは後ででもいい」
きっぱりとそう言いきった三成には、確固とした目的があるのだろう。
足も何度か踏まれ、髪もぐちゃぐちゃになり。10メートル少々の距離を歩いたとは思えぬ程疲れ切った後、二人はようやく人混みを抜けることができた。目の前の人が格段に少なくなった空間は、イートインスペースになっているのかテーブルが置かれており、人々が思い思いにくつろいでいる中。
三成は一目散に目的の場所へと移動した。
「ここはコーヒーをただで飲めるのだ!」
「三成…………コーヒーは確か」
「そうだ、半兵衛様の前で飲むと怒られる。だからここで飲めばばれない」
わざわざ毎日自転車でここまで通って、やっていることが試飲用のコーヒーを飲むことなのか。
そう突っ込みを入れたくなったが、半兵衛は三成に食べさせる物をかなり吟味しているのは事実。コーラどころかコーヒーや紅茶まで飲ませないという徹底ぶりは見事だと思うのだが。その半兵衛の作る料理が一番の毒なのでは、と彼に何度言おうとしたことか。
あっけにとられている家康を尻目に、紙コップに入ったコーヒーにミルクやら砂糖やらをだばだばと入れて満足げにしている三成。子供らしい無邪気な仕草、そして心底嬉しそうな笑顔。
大人に内緒で悪いことをするのは、子供にとって一番面白い遊びなのかもしれない。
「よし三成、今日は儂がケーキをおごってやろう!」
「それはいい。ここで待っていたらケーキの切れ端をお姉さんが分けてくれる」
「…………相変わらず三成は年上の女にもてるのだな……」
三成の言葉通りにバウムクーヘンの切れ端が届けられるのはこの後すぐで。
店員の年令層が幅広い女性達にちやほやされる三成を見て、それは毎日ここに来たくなるよな……と思う家康であった。
8/5
「ということで。ようやく仕事終了、明日からはどこかに行けるけど……」
「半兵衛様、まぐろを食べに行きたいです!」
「やっぱりまぐろなんだ……」
昼間の間は仕事であちこち動き回っていた半兵衛だったが、今日で何とか全てを片付けることができたらしい。本人曰く絶対にぎりぎりで仕事が終わるように所長が影で調整しているに違いないとのことだが。
そんなことするなら所長が自分で仕事すればいいだろうに。
子供はそう思うのだが、大人の世界はそう簡単ではないらしい。そこを半兵衛に言ってしまうと愚痴大会が始まったりしまうので、ふたりはあえてそれを追求したりはしなかった。
ただでさえ秀吉が急に来られなくなったことで事あるごとに愚痴り出すというのに。残り少ない北海道での時間を、仕事と秀吉絡みの愚痴で埋め尽くされてはたまらない。
「ところでまぐろとはなんなのだ?」
隙を見ては愚痴を言い出そうとする半兵衛を気にしながら、家康は疑問を口にする。家康は去年の旅行に行っていないのだ、半兵衛と三成の間で当然のように交わされる会話についていけるわけがない。
第二の家のように思えてきた北海道での住処のリビングでくつろぎながら、家康は三成と仲良く並んで座っていた。ここ数日、毎日外に出て畑作業を手伝い、それが終わったら自転車やバスを使ってあちこちに遊びに行く毎日を過ごしている。昨日は三成の言うケーキ屋に行った後はバスに乗って遠くに遊びに行ったし、その後は日帰り温泉にも行ってみた。駅の近くのデパートでカレーを食べていたら隣の席の老人が教えてくれたのだが、100円ショップでタオルを買えば子供料金で安く入れるのだ。
濁った独特の色合いの温泉に町中でも入れることに驚きながら、たっぷりと風呂を楽しんで。まだまだこの近辺で遊べるところがいっぱいあることを風呂に来ていた地元の人たちに教えてもらい。
明日もたくさん遊ぼうと持っていた矢先にこれなので、少し残念ではある。
しかし自分がすごしているこの場所は北海道のほんの一部で、まだ見ていない場所が山のように存在ことを考えると、別な場所を見たいという気持ちも湧いてくるのだ。
北海道は罪な場所だ。
しっかり冷やした上に氷と大量に投入した麦茶を飲む三成の目には、新しい場所を見ることが出来る事への期待感が満ちている。
「まぐろはすごいのだぞ! おいしい上に安いのだ!」
「お腹が空いたから寄った食堂で食べたマグロ丼がすごく美味しかったんだよね。おまけに安かったから………ウニ丼とかいくら丼も食べさせたんだけど………」
「ウニ丼を越えるまぐろ丼か! それは楽しみだな!」
「今年は家康も一緒に食べられるのだな!」
「安上がりだからいいんだけど、僕としてはもっと美味しい物も食べて欲しいかな。去年は僕の仕事につきあわせて、ずっとあちこち回ってたから……今年は家康君がいたから助かったよ」
「儂がいて……助かった?」
「家康君が面倒を見てくれたから、僕は安心して仕事ができた。ありがとう、家康君」
「半兵衛様、私は家康に面倒を見られてなんていません! 私が色々教えてやったのです!」
三成は半兵衛に必死に訴えているが、家康はそれに反論することすら考えられなかった。
自分がいたから助かった。
誰かにそう言ってもらったことは今までなかったといってもいい。
人のために何かができた、そして感謝された。何かしてもらったら感謝してそれを言葉に伝えなさいと幼い頃は何度も教えられたが、言われた側の思いを知ることはなかったと言ってもいい。
それが、こんなに嬉しいものだったとは。
じわじわと胸の内に広がっていく満足感と喜びに浸る暇もなく、いきなり三成が腕を引っ張ってくる。
「家康! 私は貴様に面倒など見てもらってないのだからな!」
「別に儂が言い出したわけではないのに、何故儂に聞いてくる」
「私と貴様しか知らないからだ!」
「……三成は儂と一緒で楽しくなかったのか?」
「楽しかった! ビールも作ったし、カレーも食べた!」
「儂も楽しかった……どちらも楽しかったのならそれでいいのではないのか?」
「確かに……そうだな」
先程までの怒りはどこへやら。
家康の言葉で納得したのか、三成は腕を組みながらこくこくと頷いている。
そんな二人を笑顔で眺めていた半兵衛の顔色が変わったのは、彼が膝の上に置いていた形態が小さな音を立ててなり出し始めた時だった。
聞き覚えのあるこの曲が耳に届いた瞬間に、三成は側に置いてあったコップを素早く手に取りそのまま立ち上がる。
「私はそろそろ寝ます! 半兵衛様おやすみなさい! 家康、行くぞ!」
「そうだな……………おやすみ半兵衛、儂は三成と寝る!」
あの着信音は秀吉専用。
これからまた遠距離喧嘩が始まるのを察し、即座にリビングを退出した二人であった。
_________________________________________
今週は北海道帯広市周辺でした。
お冷やと共にメロンソーダを出してくるお店は実在しますし、馬鹿みたいにでかいケーキ屋も実在するよ。
「北斗星楽しかったね~ 次はスーパーとかちだからね! ここしばらくは車で帯広まで行ってたから、車両切り替えてからは乗ってなかったんだよね……北海道は古い車両もまだ残ってるから写真たくさん撮れるし……今年は頑張らないと!」
札幌駅のホームで気合いを入れている半兵衛を見ながら、家康は三成の服をそっと引っ張った。
「なあ三成、半兵衛はその……鉄ヲタという人種なのか」
「半兵衛様はバイク以外の交通手段をこよなく愛しているお方だ」
「半兵衛が車を見てあそこまで喜んでいるのを、儂は見たことがないのだが」
「…………そういうことにしておけ」
半兵衛から目をそらし、小さくため息をつく三成を見て家康は思った。
これは触れてはいけない話題なのだ、と。
電車を乗り継いで到着した帯広の駅は、駅前のビル街に見下ろされる程の小ささだった。
「ちょっと遅いけどお昼にしようか。三成君、なに食べたい?」
「カレーがいいです!」
「そっか、僕は別な物食べたいし……じゃあふじもりさんでいいよね」
「はい!」
すっかりこの街になれてしまっている二人はさっさと目的を決め、家康の意見を聞かずにさっさと移動を始める。荷物は先に送ってあるとはいえ、寝台車に1日揺られ、その後すぐに特急に数時間乗ったのだ。
鉄ヲタ……ではなく鉄道が大好きな半兵衛はともかく、三成は疲れていないのだろうか。頭に不釣り合いなほど鍔の大きな帽子を被り、元気いっぱいな様子で半兵衛の後をついて行く三成には疲労の影は今のところ見えない。だが疲れて動けなくなった時は年長者である自分が三成を助けなければならない。
家康は三成の立派な兄でありたいと思っている。
世界で一番可愛らしい弟を助けるのは自分の仕事、ならば三成の様子に常に気を配る必要があるだろう。
さりげなく三成の隣に並ぶと、気遣うように声をかけてみる。
「三成荷物は重くないか?」
「大丈夫だ」
「喉が渇いたりはしていないだろうな」
「ふじもりさんで飲める。あそこのメロンソーダは美味しいぞ」
「そ…………そうか」
「家康君、三成君なら大丈夫だよ。今年は楽な日程だし、これくらいの移動で疲れるような子じゃないから」
「これで楽なのか?」
「うん、今年はここだけ見ればいいけど、去年は一番上まで移動したんだよね…………あれはあれで楽しかったけど、宗谷に乗れたし」
後ろを着いてくる二人を時折振り向いて確認しながら、薄手のサマースーツ姿の半兵衛は笑う。
「その前の年は焼尻まで行かされたし…………ウニ丼が美味しかったから許したけど」
「まぐろも美味しかったです!」
「あれ焼尻じゃなくて帰りだから。三成君も一緒にウニ丼食べたけど覚えてる?」
「まぐろしか覚えてません」
美味しかったマグロを思い出したのか、珍しく無邪気に笑いだした三成。
町中で手を繋ごうとするといつも三成は怒るのだが、こんな可愛い笑顔を見せられて大人しくしている家康ではない。有無を言わさぬ勢いで三成の手を掴むと、兄らしい威厳のある顔をなんとか作ってこう宣言した。
「三成が迷子になっては困るのでな、儂が手を繋いでいてやろう」
「迷子になるのは家康の方だろう? 私はここからちゃんと泊まるところに一人で戻れるぞ……まあいい、家康がいなくなっては困るからな、私が手を繋いでいてやろう」
「いや、儂がお兄ちゃんとしてな……」
「お兄ちゃんだろうがなんだろうが、私の方がここでは先輩だ」
確かにそれはそうだった。
始めてきた土地、初めて出会う人たち。兄の威厳を保つのも大事だが、それ以上に大事なのは新しい場所を知ること。
いつも見る空より色が薄く、そしてそれがどこまでも広がっていく。
そんな中、家康がぽつりと呟いた一言は、穏やかな時間を一気に打ち消したのだった。
「秀吉も一緒でなかったのが残念だな……」
「い、家康、それは!」
「………………僕たちよりも知り合いの葬式を取った男だからね…………三成君、家康君、電話がかかってきても無視、だからね!」
「わ、わかりました!」
「な、なるべく努力する……」
今年こそいけると思ったのに、直前で葬式が入りいけなくなった秀吉の嘆きは凄まじいものだったが。
それ以上に怒っている半兵衛をどうなだめていくか。
自分で話題を蒸し返したくせに、三成の手をぎゅっと握りながらそれを考え始めた家康であった。
8/2
三成達が北海道での宿泊場所としている場所は、ザビー牧場という名前だった。
大手ファミレスの直営農場であり、半兵衛の仕事相手の持ち物らしいのだが。始めて北海道に来た家康にとって、そこは驚きの固まりのような場所であった。
まず、敷地が広すぎる。
入り口から職員達が寝泊まりに使う家まで車で数分かかる上に、様々な施設が中にあるので知っている場所から離れたらすぐに迷子になってしまう。早速持ち前の好奇心で散歩をしてみたところ、どこを歩いているのかわからなくなり周辺で作業をしていた職員に保護された家康は。
「あのね家康君……君より小さい三成君が迷子になってないんだから、君ももう少し落ちついてくれないと……」
と、半兵衛からありがたい説教を受けることになった。
職員の宿舎と聞いた時はどんな古い建物に泊まることになるのか不安でしょうがなかった家康だったが、真新しいペンションを思わせる建物をみて瞬時にその考えを変えた。柔らかい色合いの柱を見せるようなデザインの室内、そして家康と三成には気を利かせた職員達が屋根裏部屋を用意してくれていた。
これは三成が毎年来たがるわけだ。
家の方針でファミレスに行ったことがない家康だったが、直営の牧場の職員の受託がこれだけ立派ということは経営も順調なのだろう。安価で体に害のあるものを食べさせる場所、ファミレスについてそう教えられていた家康ので違和感はあるのだが。
素直にこの場所での滞在を受け入れることにしたのだった。
「迷子になるとは情けないな、家康」
「三成は迷わなかったのか?」
「…………私は大丈夫だった……はずだ」
「三成君もついた早々迷子になって、いつきちゃんに助けてもらってなかったっけ?」
「……………………そうでした」
真っ白でふかふかのソファーは、職員の団欒室兼リビングに置かれている物。
10人近くが座れそうなソファーに座り、朝絞ったばかりの牛乳を飲みながら迷子になった家康の為の反省会は続く。
「迷子になるのはまあしょうがないけど、あまりあちこち覗くと痛い目にあうからね」
「痛い目だと?」
「ここ動物多いから。あとからいつきちゃんが色々教えてくれると思うけど……一つだけ言っておくね。牛舎と羊舎には絶対に入らないこと」
「入ってはいけない理由があるのか?」
他にも家畜はいるだろうに、何故そこだけ。
半兵衛に続きを聞こうとした瞬間、隣で蜂蜜入りの牛乳を喜んで飲んでいた三成の様子が変わったことに気がついた。
「牛は駄目だ…………あれは恐ろしいのだ……」
「そ、そんなに恐ろしい物なのか?」
「子牛が特にだめだ」
きっぱりといいきる三成を見て、家康は思う。
動物好きで物怖じしない三成をここまで冷えさせる牛とはどんな生き物なのか。そしてこうも思った。
三成が怯えて泣き叫ぶ所をちょっとだけだが見てみたい。
三成が可愛いし、好きで好きでたまらないのだが。
普段はあまり激しく喜怒哀楽を表に出さない三成の違う姿を見てみたくなってしまうのが、中学生になっても子供っぽさが抜けない家康の悪いところ。それを長所だと評価してくれる人間もいるが、三成にしてみればそれが一番の短所のはず。
「よし三成、一緒に散歩に行くか!」
「家康君、何を考えているかバレバレだって……」
「散歩だと? 近くならば私が色々教えてやる!」
半兵衛にはあっさりと見抜かれたらしいが、三成は家康の企んでいる事に気がつかなかったらしい。
三成の素直さに感謝しながら、大げさにため息をつく半兵衛に笑いかけ。
家康は三成の手を引き、本日二度目の散歩に出発することにしたのだった。
8/3
半兵衛が毎年この時期に北海道に来ることにはそれなりの訳があったらしい。
「メニューを決めるのだそうだ」
「弁護士がファミレスのメニューを決めるのか?」
「他の店と同じようなメニューを間違えて出してしまうと訴えられたり怒られたりするらしい。そういう時にいいわけをする方法を教えているのだそうだ」
「商標登録や調理法の特許の関係か」
「…………そんなことを半兵衛様が言っていた気がする」
起こされたのは朝の5時で、いきなり三成に手渡されたのは雑草を刈り取るための鎌。そんな物を持って枕元に立っていた三成に、早朝から死を覚悟した家康だったが。
草刈りをするから手伝って欲しい、それだけだった。
そんな理由でお揃いの大きな麦わら帽子を被り、首にタオルを巻いて。視界一面に広がる金色の麦の波が揺れる音を聞きながら、畑の脇に生えている雑草を刈り取る作業に従事することになった。
三成が説明するには、畑の脇に雑草が生えていると風に飛ばされた種が畑の中にもはえてくるらしい。それを防止するために周囲の草を刈るのが仕事らしいのだが、何故客人である自分たちがこんな事をしなければいけないのか。
それを聞くと、三成は不思議そうな顔をしながらこう答えを返してきた。
「泊めてもらっているのだ、手伝うのは当たり前だろう?」
「だがな、一応客としてきているのだぞ?」
「みんな朝の4時から起きて今頃畜舎の掃除と餌やりだ。私は牛舎に行きたくない、だからこちらを手伝うのだ」
「わかるようなわからないような理屈だな……牛が怖いのは…………昨日儂もよく理解した」
「そうだろう? それに手伝いをするとお小遣いがもらえるのだぞ!」
「なるほどな、それが目当てか……」
守銭奴というわけではないのだが、三成はお手伝いをしてお金をもらうという行為が大好きらしい。地面に膝を置き、子供の膝程の高さに伸びている雑草の頭を手で押さえ込み下からざっくりと鎌で切る。
切った雑草もそのまま地面に放置するのではなく、一カ所に積み重ねておくのも仕事の一環。
早朝とはいえ真夏の太陽は上から厳しく照りつけてくるし、汗は間断なく噴き出してくる。手慣れているらしい三成はかなりのハイペースで雑草の山を作り上げているが、家康はその半分程の大きさの山しか作ることができていない。
毎年ここで仕事をしていれば手慣れてくるのも当たり前。
草刈りを始めて行う自分が三成に勝てないのはわかっている。そこで落ち込むことはないしコツを掴めば自分も早くなることはわかっているのだが。
気になっているのは別なことだった。
「儂は…………何もできないのだな」
「そうか? 皿を洗うのも上手くなったではないか」
「最初は何も知らなかったからな……水で油物を洗うと油が皿で固まってしまうことも、掃除の仕方すら知らなかった」
「覚えたのだからいいではないか。これからは牛舎も大丈夫だ……私は行かないが」
「三成が行かないのなら、儂も行かないに決まっているだろう。それに慣れたとはいえ牛は恐ろしいな……」
昨日牛舎の近くを通り、無理矢理三成を連れて行ったら襲われたのは家康の方だった。
元気いっぱいの子牛立ちの体当たりを受けて吹き飛ばされ、体のあちこちに噛みつかれ。牛に悪気はないのだろうが、それこそ死ぬ目にあったのだ。 、
半兵衛はこれも経験だと言って笑っていたが、本当にその通りだ。
同じ年の人間が知らなければいけないようなことも、家康は何も知らずに生きてきたのだ。財産があればこの世の中で生きていけるのか、権力があれば人に尊敬されるのか。今まで漠然と抱いていた疑問が、三成と暮らし始めたことで真実だと知ることができた。
それはどんな財産よりも大事な物。
「私の言ったとおりだっただろう、牛は怖いのだ。羊はあれ以上に恐ろしいぞ!」
ざくざくと雑草に鎌を入れながら三成はこちらに向けて微笑みかけてくる。
その邪気のない素直な笑顔に、家康は常にたくさんの物を与えてもらっている。いつか三成にそれを返すことができればいいのだが、それはいつの日になるのだろうか。
だがいつかきっと、世界で一番愛しい君に。
「なあ三成、そろそろ少し休んでもいいだろうか」
「そうだな、そろそろ朝ご飯だ。今日の朝ご飯はきっと美味しいぞ」
「昨日は確かに美味かった」
「違う、それ以上だ!」
きっぱりと言いきった三成の言葉の通り、朝から過酷な労働で体を酷使した家康にはその日の朝食が人生で一番の朝食となったのだった。
8/4
来る途中にやけに豪華で大きな建物があると思っていたが、まさかあれが三成の言っていたケーキ屋だったとは。
サッカーができそうな程巨大な駐車場には観光バスが何台も停まっており、駐車場の端では農家が朝取り野菜を売っていたりする。これのどこがケーキ屋なのさと最初は思ったが、中に入れば並んでいるのは菓子ばかり。
甘い香りの中人混みに揉まれ、それでも三成は目的の場所へと突き進む。
一つ一つビニールの包装に包まれた小分けの菓子や箱入りの贈答用の菓子、そしてガラス製のショーウインドーに並ぶカラフルなケーキ。大人に押されながら家康の手を握り、三成はきょろきょろと辺りを見回している。
人も多ければ売っている物も多いので、なかなか目当ての物が見つけられないのだろう。
「もっと早く来れば良かったな……」
「だが早く来ても変わらなかったのではないのか?」
「開店してすぐだと人が少ないといつきちゃんが言っていた」
小学生なので背の小さい三成と、中学生になってもあまり背が伸びない家康は人ごみに押されて呼吸するのがやっとといった状態になっていた。人の流れはレジに向かっているが、三成が行きたいのは反対側らしい。
「もう少し……もう少しあっちなのだ」
「ケーキを買いに来たのではないのか?」
「それは後ででもいい」
きっぱりとそう言いきった三成には、確固とした目的があるのだろう。
足も何度か踏まれ、髪もぐちゃぐちゃになり。10メートル少々の距離を歩いたとは思えぬ程疲れ切った後、二人はようやく人混みを抜けることができた。目の前の人が格段に少なくなった空間は、イートインスペースになっているのかテーブルが置かれており、人々が思い思いにくつろいでいる中。
三成は一目散に目的の場所へと移動した。
「ここはコーヒーをただで飲めるのだ!」
「三成…………コーヒーは確か」
「そうだ、半兵衛様の前で飲むと怒られる。だからここで飲めばばれない」
わざわざ毎日自転車でここまで通って、やっていることが試飲用のコーヒーを飲むことなのか。
そう突っ込みを入れたくなったが、半兵衛は三成に食べさせる物をかなり吟味しているのは事実。コーラどころかコーヒーや紅茶まで飲ませないという徹底ぶりは見事だと思うのだが。その半兵衛の作る料理が一番の毒なのでは、と彼に何度言おうとしたことか。
あっけにとられている家康を尻目に、紙コップに入ったコーヒーにミルクやら砂糖やらをだばだばと入れて満足げにしている三成。子供らしい無邪気な仕草、そして心底嬉しそうな笑顔。
大人に内緒で悪いことをするのは、子供にとって一番面白い遊びなのかもしれない。
「よし三成、今日は儂がケーキをおごってやろう!」
「それはいい。ここで待っていたらケーキの切れ端をお姉さんが分けてくれる」
「…………相変わらず三成は年上の女にもてるのだな……」
三成の言葉通りにバウムクーヘンの切れ端が届けられるのはこの後すぐで。
店員の年令層が幅広い女性達にちやほやされる三成を見て、それは毎日ここに来たくなるよな……と思う家康であった。
8/5
「ということで。ようやく仕事終了、明日からはどこかに行けるけど……」
「半兵衛様、まぐろを食べに行きたいです!」
「やっぱりまぐろなんだ……」
昼間の間は仕事であちこち動き回っていた半兵衛だったが、今日で何とか全てを片付けることができたらしい。本人曰く絶対にぎりぎりで仕事が終わるように所長が影で調整しているに違いないとのことだが。
そんなことするなら所長が自分で仕事すればいいだろうに。
子供はそう思うのだが、大人の世界はそう簡単ではないらしい。そこを半兵衛に言ってしまうと愚痴大会が始まったりしまうので、ふたりはあえてそれを追求したりはしなかった。
ただでさえ秀吉が急に来られなくなったことで事あるごとに愚痴り出すというのに。残り少ない北海道での時間を、仕事と秀吉絡みの愚痴で埋め尽くされてはたまらない。
「ところでまぐろとはなんなのだ?」
隙を見ては愚痴を言い出そうとする半兵衛を気にしながら、家康は疑問を口にする。家康は去年の旅行に行っていないのだ、半兵衛と三成の間で当然のように交わされる会話についていけるわけがない。
第二の家のように思えてきた北海道での住処のリビングでくつろぎながら、家康は三成と仲良く並んで座っていた。ここ数日、毎日外に出て畑作業を手伝い、それが終わったら自転車やバスを使ってあちこちに遊びに行く毎日を過ごしている。昨日は三成の言うケーキ屋に行った後はバスに乗って遠くに遊びに行ったし、その後は日帰り温泉にも行ってみた。駅の近くのデパートでカレーを食べていたら隣の席の老人が教えてくれたのだが、100円ショップでタオルを買えば子供料金で安く入れるのだ。
濁った独特の色合いの温泉に町中でも入れることに驚きながら、たっぷりと風呂を楽しんで。まだまだこの近辺で遊べるところがいっぱいあることを風呂に来ていた地元の人たちに教えてもらい。
明日もたくさん遊ぼうと持っていた矢先にこれなので、少し残念ではある。
しかし自分がすごしているこの場所は北海道のほんの一部で、まだ見ていない場所が山のように存在ことを考えると、別な場所を見たいという気持ちも湧いてくるのだ。
北海道は罪な場所だ。
しっかり冷やした上に氷と大量に投入した麦茶を飲む三成の目には、新しい場所を見ることが出来る事への期待感が満ちている。
「まぐろはすごいのだぞ! おいしい上に安いのだ!」
「お腹が空いたから寄った食堂で食べたマグロ丼がすごく美味しかったんだよね。おまけに安かったから………ウニ丼とかいくら丼も食べさせたんだけど………」
「ウニ丼を越えるまぐろ丼か! それは楽しみだな!」
「今年は家康も一緒に食べられるのだな!」
「安上がりだからいいんだけど、僕としてはもっと美味しい物も食べて欲しいかな。去年は僕の仕事につきあわせて、ずっとあちこち回ってたから……今年は家康君がいたから助かったよ」
「儂がいて……助かった?」
「家康君が面倒を見てくれたから、僕は安心して仕事ができた。ありがとう、家康君」
「半兵衛様、私は家康に面倒を見られてなんていません! 私が色々教えてやったのです!」
三成は半兵衛に必死に訴えているが、家康はそれに反論することすら考えられなかった。
自分がいたから助かった。
誰かにそう言ってもらったことは今までなかったといってもいい。
人のために何かができた、そして感謝された。何かしてもらったら感謝してそれを言葉に伝えなさいと幼い頃は何度も教えられたが、言われた側の思いを知ることはなかったと言ってもいい。
それが、こんなに嬉しいものだったとは。
じわじわと胸の内に広がっていく満足感と喜びに浸る暇もなく、いきなり三成が腕を引っ張ってくる。
「家康! 私は貴様に面倒など見てもらってないのだからな!」
「別に儂が言い出したわけではないのに、何故儂に聞いてくる」
「私と貴様しか知らないからだ!」
「……三成は儂と一緒で楽しくなかったのか?」
「楽しかった! ビールも作ったし、カレーも食べた!」
「儂も楽しかった……どちらも楽しかったのならそれでいいのではないのか?」
「確かに……そうだな」
先程までの怒りはどこへやら。
家康の言葉で納得したのか、三成は腕を組みながらこくこくと頷いている。
そんな二人を笑顔で眺めていた半兵衛の顔色が変わったのは、彼が膝の上に置いていた形態が小さな音を立ててなり出し始めた時だった。
聞き覚えのあるこの曲が耳に届いた瞬間に、三成は側に置いてあったコップを素早く手に取りそのまま立ち上がる。
「私はそろそろ寝ます! 半兵衛様おやすみなさい! 家康、行くぞ!」
「そうだな……………おやすみ半兵衛、儂は三成と寝る!」
あの着信音は秀吉専用。
これからまた遠距離喧嘩が始まるのを察し、即座にリビングを退出した二人であった。
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今週は北海道帯広市周辺でした。
お冷やと共にメロンソーダを出してくるお店は実在しますし、馬鹿みたいにでかいケーキ屋も実在するよ。
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色々説明
拍手現在豊臣家転生パロ中学生編入ってます
(現在2本 家三 チカナリです)
注意事項
・フリーリンクじゃないです、基本的にはリンクはお断りしています
・ひっそりこっそりが信条なので、黙々と
・捏造、not公式のこばなしが多いので、スルー推奨
ラキドでは幹部全員を溺愛しておりますが、ベルナルドとイヴァンは特に偏愛。ばさらは家三とか奥州の愉快な仲間達と毛長がメインです。うずみさんが現在官三とか官佐にずっぽりとはまり中。
基本は、愛想のかけらもない「ネット怖い~」の書き手が二人で色々書いている場所です。
書いている人
みっし
・生真面目で堅物でムキムキな男性と一見そうじゃなくても根は真面目極まり ないキャラをこよなく愛している、がんかたうるふの片割れ。編み物とお菓子作りが趣味という、第三者曰く可愛らしい一面を持つ反面、パニクると踊ったり、オロオロしだして周囲は見ていて楽しいらしい。荒ぶる舞は、職場の名物だったりする……らしい。
イヴァンちゃんと片倉さんとシズちゃんとスカイハイさんと陛下を思いっきり愛している。好きなアニメは銀魂と最近はFate/zero。型月ファンというよりは元から虚淵ファンでうずみさんからオススメされまくった末にようやっと手を付けて完読した。ライダー組おいしいです。エクシリアではダントツで陛下が好き。陛下が使用可能になる完全版があるなら複数買いしても構わないとのたまう日々。バサラの好きキャラは片倉さん一強だったはずなのに最近はアニキも熱い。かっちり着込むキャラがすきだったはずなのにいきなり露出度が高いキャラを好きになったのは何故か悩む日々。二次元の向かう愛と同じぐらい甥っ子への愛を叫んでいる気がしてならない。
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うずみ
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