がんかたうるふ きみと、いっしょに~きみのはなし~(現パロ・腐向け) 忍者ブログ
こちらはサークル「がんかたうるふ」のうずみとみっしの二人組が、ラッキードッグ1とばさらのこばなしを黙々と投下する場所です。
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○パティシエアニキと周囲の人間の悲喜こもごものお話。若干アニキ総受け風。
○今回で終了になります。本当はかんべさん編とこれの間に元就編があったのですが、あまりの書きづらさに断念して最後の話を書いたというどうでも良い裏話。作中では削ったアニキと毛利の過去話になる予定でした。機会があれば、また書くかもしれません。
○某アンティークのパロディ要素ありますので苦手な方はご注意をお願いします
○CPがごっちゃで、毛長前提です。
○書いててケーキが食べたい衝動に襲われました。


書いた人:みっし




 *****



 古くからの知人の電話を切った男、毛利元就は溜息を吐きながら携帯電話のディスプレイを見つめていた。そうして先ほど交わした会話を脳内で反芻する。

『それを我に言ってどうなると?』
『どうこうしろとは言わないさ。ただ、あいつが戻ってきているってことを伝えておきたかったんだよ。…元恋人であるお前さんにはな。』
『……………』
『住所は後で送る。行くか行かないかは、お前さんが決めたらいい。小生はなにもいわんよ』

 そうして携帯電話はメールを受信する。差出人は黒田完兵衛。先ほどまで電話で喋っていた男だ。そしてメールに記されていたのは、とある洋菓子店の名前と住所が地図付きで記載されていた。

「元親…本当に、お前なのか…?」
 どこか苦さを秘めたその呟きは誰にも聞こえることなく、消えていった。



 それから数日後のとある日曜日。
 洋菓子店アンティークの入り口には『準備中』の札が掲げられ、店内では従業員一同と家康、三成を加えて新作試食会が行われていた。
「…ったく…オマエらが日曜日じゃないと参加できん!…って騒ぎ立てるからわざわざ準備中の時間を伸ばしたんだからな…感謝しろよ」
 はぁ、と深いため息をついたのはオーナーである政宗だ。ここ数ヶ月、パティシエの元親と彼が作るケーキ目当てに通ってくる二人組に彼はとにかく振り回されているのだ。
「うむ、独眼竜!まずは感謝を!とにかく感謝を!そしてケーキは?」
「オマエは感謝すりゃいいってもんじゃねーからな!?なんか軽いぞ!?」
 精悍な顔つきは、凜々しくもあり、年頃の少女であればころりと落ちてしまいそうな顔を持っているのに残念なことに今この瞬間の徳川家康の頭の中にはケーキと元親しかなかった。
「…ケーキはどこだ…新作はどこだああああああ!!」
「はいはい、いま旦那とチカちゃんが色々やってるからもうちょっとだけ待ってねー」
 興奮のあまり切れ長の目を更に光らせて周囲を伺うのは石田三成。家康と同じく元親と、彼が作るケーキを目当てに店に通ってきている高校生である。並外れたスイーツ好きである彼は、今回の新作試食会をことのほか楽しみにしておりそれ故空腹でいつも以上に叫びやすくなっている。そんな三成を止めるのはどうにも店長たる政宗は相性が悪いので、彼と相対するのはホール係である猿飛佐助が主に担当していた。毛を逆立てた猫並みにあれている三成を刺激しないよううまく声をかけている。
 これがどういう訳か政宗だと必ずけんかになるが、佐助が声をかけてもけんかにはならない。何故だ、と政宗が自問自答した所、信頼関係が構築できているのかどうかの違いじゃないの?と佐助に言われたので政宗は佐助を減給処分にしようと思ったとか思わないとか。
 そしてそんな四人から少々離れたところでテーブルの準備に当たっていたのは片倉であった。オーナーの気まぐれに振り回されることが多い彼は、営業時間変更についても手慣れた様子で準備していた。
「政宗様にお仕えることを決めた時点で振り回されるのは覚悟の上ですから」
 以前、諦めきったような顔で佐助に話していたことを政宗は知らない。幼少から政宗に仕える彼は、主の傍若無人ぶりを誰よりもよく理解していた。

 今日はアンティークの新作試食会。
 部外者であるものの関係者と言っても差し支えないほど関わりがある家康と三成を招き、営業時間を遅らせての開催となっていた。

 所変わってこちらは厨房。
「…うおおおおおおおお!!元親殿!!なんでござるかこのすっぱ甘いものは!!拙者感服いたしました!!…うまいでごーざーるー!!」
「喜んでくれるのはうれしいけどよ…落ち着け真田」
 一足先に夏の新作ケーキを口にした真田が感激のあまり涙ぐみながらケーキを食している。
 いつものことながら、こいつの喜び方は雄々しい。
 そう思いながら元親は真田を宥める。ホールの方で待ちかまえる連中から聞こえる声から想像するに、相当キレてきている。空腹で。あいつらは飢えた獣なのかというぐらい騒がしい。しかし放置しておくわけにもいかない。そして元親は真田の新作ケーキを携えて皆の元に赴くのだった。

 そして皆の感想はというと。
「……地味だな」
「…茶色いな」
「……華がないな」
「うおおおおお…!!拙者の菓子はそんなにも駄目だしされる出来でござるかあああああ!?」
「…お前等はとりあえず食ってから感想をいってやれよ」
 今回は真田が作るケーキの試作品と言うことで何品か出したのだが、 そのいずれもがなんというか茶色い、政宗曰く華のない印象のものが多かった。
 元親の作る華やかなケーキ類と比較すると色彩の面からもそれはやや地味なものに思えた。
「拙者はまだ焼き菓子しか作れぬ故にこれで勝負かと思ったのですが…うぬ…精進でござるううううううう…!!」
 見た目で駄目だしされたことをショックだと思いつつも反論出来ない真田は打ちひしがれつつ、早くも次回に向けての意気込みを語る。
 直情的だが、こういう前向きな所は真田の長所であった。今が駄目でもその次は、それでも駄目ならその次へ、辛抱強く決してあきらめないそのねばり強さはかつての経験から得られたものであることは皆が知っていた。そして好感をもっていた。
 そんな幸村を励ますかのように頭を数回叩くと元親は皆に向き直って言う。
「まぁ今のうちから試作を重ねていきゃ秋の新作として並べられるだろうと思って作ってもらったんだ。一回で完成なんてことは絶対ねぇから、真田は落ち着け。…あとお前らは見た目もだけどまずは食ってから感想を言ってくれ」
 それもそうかと言うことで皆それぞれ幸村の作った菓子に手を伸ばした。
「…おー…こりゃブランデーか?酒食ってるみたいなケーキだな」
「アルマニャックを使ったショコラケーキでござる…酒が飲めない方には申し訳ないのですが…甘さ控えめが好きな方や辛党な方、または男性の方は口に合うかと」
 なるほどと言いながら政宗は一口、また一口と平らげていく。どうやら政宗の口に合ったらしい。
「店売り分も中用も、デコレーション次第で出るかなこれなら…ただ要アルコール使用って明記しねぇとな。酒に弱い奴ならこれを食っただけで軽く酔うぞ。もしくはもう少し酒の量を減らすか」
「なるほど…では次回までには調整するでござる」
 腐ってもオーナー、もとい店長のアドバイスを幸村は素直に聞き入れる。そうこうしているうちに幸村に対して声がかけられる。
「真田殿、酒を使っていないものはないのか?」
「私たちは年齢が年齢なので洋酒が効きすぎているのならば食べない方が良いだろう…」
 それならば、と幸村は別なケーキを差し出す。
「オレンジ入りのケーキでござる。季節の果物であればどれを入れても良いかと思いますが…今回はオレンジで作ったでござる」
 オレンジの薄切りが飾られた素朴な見た目のケーキを、まずは一口と口にした家康と三成はパチリと目を見開いた。
「おおこれは良いな!甘さと酸味が実に良い!」
「…全体的に素朴な印象だがオレンジの風味が入ることによってさわやかな味になるのか…ふむ…お代わりを所望する」
 何気に気に入ったらしい二人の言葉に幸村は少々ほっとした様子を見せる。甘味食いに余念のない二人の言葉は、店に関係のない第三者の言葉としても信頼できるだけに尚更だろうか。
 基本的にこの二人、元親の作る菓子以外の評価は辛辣だ。
「旦那これはー?」
「タルト…かと思ったが違うみたいだな」
 残る一種に手を付けていた佐助と片倉が揃って幸村に訪ねる。
「それは確かにタルトでござるが、イタリア風のタルトでクロスタータと言うのでござる。ふつうのタルトと比べて生地がクッキーのようになっているのが特徴でござる。今回はレモンカスタードでござるが、本場ではジャムを詰めることが多いらしいでござる。もちろん中身を変えても良いと思うでござる」
 見た目はカスタードクリームが詰められただけのタルトだが、実際食べてみると生地部分が非常にザクザクとした触感で確かに癖になる風味だった。また酸味の強いクリームが爽やかな風味を作り出していて夏らしい一品だった。
「俺はこの触感好きだなー、ざくざくして楽しい」
「生地はそのままで中身のものを変え、一個一個を小さくして販売するのも良いかもしれん」
「ほほお…参考にさせていただくでござる!」
 佐助、片倉のアドバイスをメモする幸村だが、興奮のあまりメモには「ザクザク 一個 変える」ぐらいしか記載されていない。幸村にしか解読できないメモの完成である。
「真田。どれもこれもフランスやらイタリアの菓子をおまえなりにアレンジしたもんだな…アルマニャックは確かに風味が強いが、好きな人間にはたまらねぇ味だ。よく考えたな」
 元親の言葉に対して幸村は慌てふためきながら首を横に振る。一部だけのびていたしっぽ髪がそれに合わせて全力で揺れた。
「どれもこれも既存のものの模倣でござる!拙者だけが考えたものではござらん!」
 だけれども元親はゆっくりと指をよこに振る。
「最初は誰だってそんなもんだ。でもこれには真田が求める味が少しずつ見えてきた…まぁ作ってみて改善すべき点があるのはわかっただろ。今度はそこを押さえての試作だな」
「…うおおおおおおおおお!!承知しましたぞ師匠おおおおおおおおお!!拙者今まで以上に腕をふるうでござるうううううう!!」
 雄々しく感動する幸村をはいはいと手慣れた様子で元親は宥める。端から見ていると弟子が非常に暑苦しい師弟関係である。そうしてそれはあながち間違ってはいなかった。

「なぁなぁ、元親の新作は何なんだ?」
「まさか無いとは言わぬであろうな…!」
 なんやかんやで幸村の作った試作を平らげた家康と三成が元親の両側にへばりつきながら問いかける。元親はそれに慌てるでもなくそのままの状態で返事をする。もはや子供の頃と同じ勢いでくっつくこの二人に対してへばりつくのをやめろというのも面倒になってきたらしい。
「俺か?俺のはこの間ので出したから今回はほとんどねぇぞ」
 しかしそう言いながらも元親は二人を引きはがして厨房に行ったかと思うと冷やしていたケーキを手に戻ってきた。
「…ルバーブのチーズケーキだ」
 赤い不思議な果物が載ったそれを皆が怪訝な顔つきで見る。
「食えるのか…これ」
「赤いぞ…食紅か?」
「いや確かに食材だから落ち着けそこの高校生達」
 不審がる家康と三成を宥めるように政宗が言う。ルバーブ食材であることをさすがに知っていたらしい。
「ジャムなら聞いたことあるけどこういうのもありなんだね。コンポートかな」
「下のはチーズケーキだな」
 佐助と小十郎はというと冷静に見た目から分析する。
「これは!!すっぱ甘いケーキでござる!!実に美味なのでござる!」
 そして幸村はというと先ほどいの一番に試食したケーキの登場に心を躍らせていた。
「まぁ本当に試作だから、店で出すには見た目を含めてもうちょっと手を加える必要はあると思うんだがな…あと少しでルバーブの旬も過ぎちまうから作ってみたんだ」
 皆の言葉に耳を傾けつつ元親はホールで作ったケーキを皆にとりわけ、渡していく。
 最初は恐る恐るという様子で口にした家康と三成がもっとも過剰に反応した。
「…うん!?これはうまい!?確かにすっぱ甘いぞ!?」
「ベイクドチーズケーキにこのルバーブとやらが合いすぎて…私はどうしたら良いんだ…!…とりあえずおかわりを所望する」
「お前はさっきもお代わりしてただろうが…つか試食なんだから普通はそんなに量を食わないぜ…」
 餌を求める小鳥のようにパタパタバタバタし始めた家康と三成を見ながら政宗は言う。
「別なタイプのチーズケーキにしてもいいかもね」
「ただ別添えだとしたら店内ではともかく、持ち帰りに支障がでるからもう少し工夫が必要かもしれん」
「やっぱりうまいでござるううううううう…!!すっぱ甘くてなによりこのチーズとの組み合わせが最高でござるううううう…!!」
 本日は特別に二つ目のケーキに手をのばすことが許された幸村が感動の涙を流す。(ちなみに許可された理由は余っても困るから食ってしまえ、という元親の意向によるものである)
 そんな皆を元親はやれやれと言った面差しで見つめていた。

「まぁでもこれは店にはださねぇよ。あくまで試作だし、旬も過ぎちまうからな」
 あらかた食べ終え、片づけを始める段階で元親は、そう告げる。
「なんと!こんなに美味いのにか!?もったいないぞ!?」
「うむ…確かに美味かった」
 そうして元親は己に詰め寄る家康と三成の素直な言葉に対して、薄く笑うとこう言った。
「そりゃあこのレシピを作った奴に言ってやってくれ…これは、俺が考えたレシピじゃねぇから」
 その言葉に幸村がきょとんとしたかと思うとああ、と何かに納得したかのように呟いた。
「もしや、以前話していた最初に勤めたお店で教わったというレシピですか?」
 幸村の言葉に元親はわずかばかり目を見開いたが、すぐに何事も無かったかのように口を開く。
「…そうだ。高校卒業して、最初に勤めた店のオーナーが考えたレシピ。だから、これはそれを再現しただけなんだ」
 そう告げる元親は誰が見ても寂しそうに見えた。
 
 元親の高校卒業後の動向を知っている人間はアンティーク関係者でもほとんどいない。

 政宗は中高と同級生で、親友ではあるが、高校卒業と同時に元親とは連絡をとらなくなった。それはパティシエになるという夢のために家出同然で家を出た元親を思っての事でもある。そうしてアンティーク開店に当たって腕利きのパティシエがいるということで、知人の紹介を経て元親と再会したときには高校を卒業してゆうに十年以上が経過していた。
 その間、一体なにをしていたのか。
 高校卒業してとあるレストランで働いていたということまでは知っている。その後縁がありフランスに行っていたということだけは知っているが前後の経歴がまるでわからない。本人に聞けば良いのかもしれないが、それは少しはばかられた。
 だから、政宗が知っているのはこのかつての親友がフランスから帰国した後、採用される店全てにおいて男をたらしこむ魔性扱いされていたことぐらいである。元親本人が望む望まないに関係なく、それらは火種となり店を閉店の危機に追い込んだ末に色んな店を転々としていたことは本人から聞いた。
 店を開店するに当たってトラブルを避けたいのであれば元親のような明らかな火種となりうる人間を採用するのは避けるべきだったと思っている。しかし一度食べた彼のケーキの虜となった政宗は周囲の反対を押し切って元親を採用したのだった。
 だから、この店を開くに当たって元親の魔性にかからない人間を採用しようと、そう決めたのだ。
 小十郎は最初から手伝わせるつもりだった。実際合わせてみても何の問題も無かったから良かった。
 勢いで採用した佐助と幸村も元親の食指には引っかからなかったらしい。ほっと胸をなでおろしたものだ。
 
 なんで元親がこうも変わったのか政宗は知らない。
 ただ政宗の知っている元親と根っこが同じであるのならば、彼はずっと寂しさを抱えているはずなのだ。
 幼い頃に自分を肯定されずに育った子供は危うさを抱えたまま大人になる。
 元親はそれの典型的な例だった。
 自分の根底の部分が無いと元親はずっと感じていたはずだ。少なくとも、高校時代は。そして高校卒業後、何かがあって元親はいわゆる魔性の存在になったと思うのだが、それが何かまでは政宗もわからない。

 ただこの危うさをはらんだ親友が、心の底から安らげるような相手を見つけられたら良いと、それは願っていた。



 ガチャリと、ふいに店の扉が開き、皆一様にそちらを見る。入ってきたのはまだ若く見える男の姿だった。時刻はすでにいつもであれば開店する時間を迎えており、そのため間違って入ってきたのかと政宗は思った。
「すみませんがお客様、本日は開店時間を遅らせておりまして…」
 即座に片倉が駆け寄る。だが男は慌てる様子もなく、口を開く。
「ほう…?明らかに従業員ではない風体の者もいるようだがな」
 そう言いながら男は家康と三成に視線を向ける。
 確かに二人は関係者であると言えば関係者であり部外者であると言えば部外者でもある。
「?それはワシらの事か?」
「まぁ無関係と言えば無関係だろうな…元親とのつながり以外に私たちは常連という以外にこの店とは関係が無いのだから」
 家康と三成がそれぞれ言った言葉、特に三成の発した言葉を耳にした男はその端正な表情を歪める。なにかを忌むような、悲しむような、負の感情を思わせる顔だった。

 そうして、男が店内に入ってきてから言葉を発さなかった元親が、ようやく一言だけを呟いた。
「もと、なり……?」
 それはまるで信じられないものを見たような、驚愕に満ちた表情だった。
 呆然とした様子の元親を、周囲の人間は不思議そうに見守る。ここまで何かにおののく元親を見たことが無かったので皆驚いているというのもあった。
「…久しいな、元親」
 そうして男は、どこか悲哀に満ちた表情を見せた。

 次の瞬間、元親が雰囲気を様変わりさせ、ギロリと睨み付けたかと思うとつかつかと男に詰め寄りその首元を掴みあげる。
「おい!?元親!?なにやってんだよテメーは!?」
 いち早く動いた政宗が声をかけるも、元親はやめず、そして男も動かない。
「…今更何の用だよ…」
「……」
 何らかの感情を秘めつつ元親は男に問いかける。男は目をそらさない。だけれどなにも答えない。その様子を見て元親は苦々しげに表情を歪める。
「…いっつもそうだ。肝心なことは言わなかった…アンタは俺を捨てたんだろうが…!!用済みの俺に何の用なんだよ!!」
 それは最早叫びだった。
 まるで泣いているかのような、その声を、家康は、三成は、皆はただ呆然と聞いていた。



「…チカさんは休憩室に旦那と居てもらってるよ」
「…ご苦労だったな。猿飛」
 政宗の言葉に佐助は首を横に振る。
「俺は別に大した事してないよ…今は旦那に任せよう。…俺、あんなに激高したチカさん、初めて見た」
 それはみんな同じだろう。
 そう思い、政宗は頷いた。

 あれから男の胸ぐら掴みあげたままの元親を小十郎が押さえつけ引き剥がしたのだが、引き剥がされるやいなや元親は子供のように泣き出してしまったのだ。
「なんで」、「どうして」、「今になって」
 ぽつりぽつりと呟かれるのは単語のみで、今の元親から話を聞き出すのは困難と判断した政宗により落ち着くまで元親は幸村と佐助と共に奥に下がらせた。
 一方、小十郎に今日は臨時休業の看板を出しておくように指示を出し、家康と三成にはなにも言わずにここにいるよう伝える。
 元親と幸村がいない今、ホールには政宗、小十郎、家康、三成、そして未だに名を知らぬ男の姿があった。政宗は寄りかかっていた壁から離れると男の前に立つ。
「俺はこの店、アンティークのオーナー、伊達政宗。元親の雇い主でもある。アンタの名前は?」
「…毛利元就だ」
 政宗の問いかけに、男は淡々と答える。政宗が見ても、その表情からは何の感情も探ることは出来なかった。
「…言いたくないなら言わなくても良い。だが、俺はあいつとは古いつきあいでな。あいつの嗜好を知っている。その上で聞こう。アンタは、アイツの何なんだ?」
 政宗の知らない元親の過去と関わりがある男。
 日頃は割合に穏やかな元親が激昂した男。
 政宗の推測が正しければ、この男と元親の関係は…
 
 政宗の言葉に男は僅かに驚いたような顔を見せるがやがて自虐的に笑みを浮かべる。
 自虐、もとい自嘲。己を嘲るようなそんな笑みだった。
「…それを知っているならば話が早いか。…アレは昔の恋人だ」
 ああ、やっぱりか。
 目を見開いて驚く家康と三成をよそに、政宗自身はひどく冷静にその言葉を聞いていた。



「…どこから話せば良いのか。最初から話した方が良いか…。我と元親が出会ったのはあやつが高校を卒業して我の経営する店に見習いとして転がり込んできたのだ」
 落ち着きを取り戻したらしい毛利は、静かに言葉を紡ぎ始めた。
「家出少年だって事は知ってたのか?」
 政宗の問いに毛利はゆっくり頷く。
「知っていた。元々、元親の親戚がうちの店の系列店の店長で、その親戚に紹介されてあやつは我の店に来た…それが始まりだった」
 毛利は目を細めて、過去を惜しむかのような口調で言う。
「アレは外見に反して妙に真面目で…それだからかうちの店の人間にも可愛がられていた。本人は戸惑っていたが、最終的には好きにさせていたな。仕事ぶりは真面目だったが…何というか危うかった」
「…危うい?」
 聞き返す片倉の声に毛利は頷き、こう言った。
「…すべて完璧にこなさねばならぬ、という強迫観念をもっていたようだ。完璧でなければ辞めさせられると。…言っておくが我が言ったわけではないぞ。…だからあやつに言ったのだ。力を抜け、と。そこまで完璧である必要は、今ここではないのだと。業務が終わってもなお帰らぬあやつに言ったのだ」
「…んでチカさんはそれをきっかけにあんたに懐いたんだ」
 何か咎めるような口調で佐助は呟き、そして毛利は若干の戸惑いを見せながら言った。
「恐らく、そうだったのだろう。…告白されたのは数年後のことだったがな。それをきっかけに交際を始めた。そしてさらに数年後、別れた。…その後、件の元親のいとこからあやつがフランスに行ったという話までは聞いた。それ以上どこをどうしていたかは知らぬ。…ここで働いていることを知ったのは黒田の、元親の従兄弟から手紙が来たからだ」
 黒田。
 新たに出てきた聞き慣れぬ名前に家康と三成は目を白黒させる。だが、政宗だけはその名前に聞き覚えがあった。高校時代、他でもない元親自身の口から何度も聞いたことがある。
 元親が慕っている年上の従兄弟。
 彼が毛利と元親を結びつけた鍵だったのか。
「まぁ殴られるぐらいは覚悟していたのだがな…いっそ徹底的に罵倒された方がまだ気が楽だったのだが…やはりそう上手くもいかぬな」
「…なぁ、アンタその黒田さんから連絡がくるまで一度もあいつを探さなかったのか?」
 政宗の問いかけに毛利は自嘲するような笑みを浮かべる。
「…会うつもりはなかった。会う資格も無いと思っていた…黒田からの連絡がなければ、会いに行くつもりは無かった」
 それに、前置きして毛利は続けた。
「これは我が言っても良いのかわからぬが…言っておくべきだろう」
 沈痛な面差しの毛利を皆が見ていた。
「元親本人から聞いただけの話ではあるが、間違ってはおらぬだろう…アレは長年両親からまともな関心を受けずに育った子供だ。それでも、自分が良い子で居ればいいんだ、と思っていたらしい。いつかきっと、見てもらえるとな。…だが中学生の時に左目を怪我したそのとき、両親は仕事を理由に一度も見舞いに来なかったそうだ。そして、悟ったそうだ…望むことが無駄だとわかり、希望すら抱かなくなった。自分がどうなっても、両親は本当の意味で関心も愛情も寄せてくれない。ならば、自分がいままでやってきたことは何だったのだ?と…十代の子供が抱えるにはあまりに深い業よの」
 毛利が語るそれを、政宗は苦々しい思いで聞いていた。
 政宗はその最中の元親の事を知っている。何かに傷つき、周囲すらも傷つけようとしていた彼のことを覚えている。ただ、気付いていた他は、なにも出来なかった。その事実がただ、腹立たしかった。
 家康と三成は呆然とした様子で毛利の話を聞いていた。家康と三成が彼と関わったのはそれから数年後の元親が高校生の頃だ。気性が荒い部分もあったものの、基本的には他者への面倒見も良かった彼が、そんな過去を負っていることなど全く知らなかっただけにショックも大きいのだろう。
「…あれは愛に飢えている。乾いた土が水を吸うように、なによりも愛というものを渇望している。多くは望まない。ただ隣にいて、並んで一緒にいるだけでいい。…それが願いだと知っていながら、我はそれを叶えてやることも出来なかった…元親に捨てられても無理はない」
「ちょっと待て、しかし長曽我部は先ほど捨てられたと言ってはいなかったか?」
 元親は己が捨てられたと言った。
 毛利は自分が捨てられたと言った。
 片倉が疑問に思うのも無理はない。その二つの言動には明らかな食い違いがある。
「…別れた理由そもそもが、あれの誤解だ…弁解しようにもそのときには既にフランスに行っておったわ…」
 長々と語り終えた毛利がため息を付く。
 そうして全てを聞き終えた皆は『訳がわからないよ』と顔に貼り付け、見合わせた。



「あれが…元親殿のお師匠様ですか?」
 ようやく泣き止み、落ち着きを取り戻しかけた元親へ幸村が語りかけると元親はゆっくりと頷いた。
「…そうだな…そういう意味では確かにアイツは俺の師匠だ」
 さして広くない休憩室の片隅で、俯く元親が呟いた。そうしてとつとつと語り出すそれを幸村は、静かに聞いていた。
「…俺はずっと、自分に何もないって思ってた。働いてからも、それは変わらなかった。そして完璧にこなさないと駄目なんだって考えて、ここでも駄目なら俺にはもう行く場所もないって…でもそうじゃないって教わった。…他でもないアイツから」
 アイツとは先程の男のことだろうということは幸村にも察しが付いた。頷きながら、ただ耳を傾ける。
「…好きなんだって言うのは案外すぐに気がついた。でも、親ですら面倒で手放した俺を、誰も愛してくれる訳ないって…ずっとそう思ってたんだ。だけど、アイツは受け入れてくれた。嬉しくて嬉しくて仕方が無かった」
 そう言って顔を上げた元親は、目元に涙を浮かべていた。それは失われた過去への追想か否か、幸村には判断出来なかった。そうしてその目が急激に冷たさを増す。
「…だけど、アイツは俺を捨てた。それがわかって、俺は逃げ出した。…そこから勢いでフランスまで行っちまって菓子職人の修行して…後はお前も知ってる通りだよ」
 それは即ち、フランス行きをきっかけに本人が望む望まざるに関わらず、周囲の男を籠絡する『魔性』が誕生したというわけだ。最も幸村は元親の魔性が発動しない人間であるらしく、その効果がいまいちわからない。性的嗜好については十分に話をされたが魔性であろうと無かろうと、幸村にとっては何よりも尊敬できる師匠であるという事実は揺るがない。
「…忘れられるって思ったんだ」
 幸村がふと顔を向けると、元親は顔を上にし、目元を手で覆いながら呟いた。
「好きで好きで仕方が無くて、でも自分から事実と向き合う勇気も無くて逃げ出して…時間が経てば忘れられるって思ったのに…何で今更…会いにくるんだよ…!もう一人になりたくねぇんだよ…」
 それは、泣いているような声だと幸村は思った。そうして、きっとあの毛利という人のことが、まだ好きなのだと言うことにも気がついた。でもきっと、元親は言えないのだ。言わないでなく、言えない。もう一度傷つくことが怖くて、何も言えない。こんな自分が、受け入れられるはず無いと思って何も言えない。
 結局、自分自身を傷つける危うさを抱えたまま彼は生きてきた。
 危うさ、もとい幼さ。精神的な脆さとでも言うのだろうか。けれどそれは仕方が無いのかもしれない。きっと元親の根底の部分は、幼少期の頃で成長を止めてしまっている。
 そうまで思って幸村は気がついた。

 ああ、この人はずっと泣きたかったのだ。

 親に縋る子供のように、ずっとずっと泣きたかったのだ。それでも耐えて生きてきた。でも、かつての恋人と再会して、何かが切れた。
 一人は嫌だ。一人は怖い。そう訴えて泣く男を責める権利は幸村にはない。元親が辿ってきた過去も全て、彼自身にしかわからないものだから。
 だから、弟子として伝えよう。
 今思う言葉を伝えよう。そして幸村は口を開く。

「…元親殿がどのようなお方であろうとも、拙者にとっては大事な師匠で、慕うべきお方なのは変わりません…一人ではありません」
 幸村の言葉に、元親は恐る恐る顔を上げる。
「…俺は、ここにいてもいいのか」
 涙が滲むその表情は、いつもの兄貴分といった様子とは真逆の顔で、だけど幸村は首を縦に振った。
「まだまだ拙者は元親殿から習いたいことが山のようにあるのですぞ!勝手に辞められては困ります!」
 そう、自分は一緒にいたい。
 この師匠から、まだまだ習いたいことがあるのだから。
 そう告げた時だった。

「元親ああああああ!無事かあああああ!」
「泣いてないか!?押し倒されてないか!?無事か!?」
「だああああ!!お前らうっせええ!!少しは黙れ!!店壊す気か!!」
 実に騒がしい人間が、音を立てて休憩室に転がり込んでくる。それは間違いなく、三成、家康、政宗の三人だった。  そして元親を見ると、実に騒々しく騒ぎ始めた。
「…大事なことだから今のうちに言っておく…!元親!私はお前が好きだ!お前の作る菓子もだがお前自身も大好きだ!」
「先を越された!?ワシだって元親がずっと前から大好きだあああああ!路上で叫んでいいなら叫ぶぐらいには大好きだああああ!」
「うっせえバーカ!初恋拗らせた俺だっているんだから少しは黙れ!俺だってなぁ、今は親友としてだけどお前のこと好きだからな!覚えておけよ!」
 三成、家康、政宗の順に思い思いの言葉を口にしていく。だが、それに戸惑ってしまった元親は悪くないはずだ。
「…は?」
 そもそも何でこんなに三人が自分に向かって好きだと叫んでくるのかがわからない。全く事情が読み込めない。勢い余ってすっ転んだ三人を助けようと慌てふためく幸村の姿だけがやけに目に付いていた。



「…だから後にしておけば…って言ったのに…三人とも突っ走るから…」
「政宗様も、最近は落ち着かれたと思ったが、まだまだだな…」
 休憩室に転がり込んでなお、ギャーギャーと言い合う三人を横目に、後からやってきた佐助と小十郎が苦い顔で言い放つ。
「結局みんな、チカさんが好きなんだよね…俺も人のこと言えたもんじゃないけどさ…案外そういう秘密抱えてる人も多いんだろうし」
「まぁ…このご時世なら珍しくないだろうな」
 小十郎の言葉に佐助はゆっくりと頷いた。
「だからこそさ、好きって伝えるのは大事なんだろうね」
 紙に書かれたままではただの文字であるそれは、口にし、言葉にすることで意味を持つ。そしてそれは人に何かを与える力の源となる。
 思いを口に出すことの大切さを、佐助は幸村から学んでいた。彼の素直さは、人に何かを与える力になる。
 そうして佐助はくるりと後ろを振り向くと、にやりと笑みを浮かべて言った。
「…だから、あんたも、伝えないとわかんないよ?」
「………言われずとも」
 佐助の後ろには、両頬に家康と三成から平手打ちを食らった毛利の姿があった。
 この場にいる理由はただ一つ。
 彼に思いを伝えるため。
 己の至らなさで傷つけた彼に謝罪をするとともに、変わらぬ思いを伝えるため。
 そして足を踏み入れようとする毛利を、佐助と子十郎は見送る。
 部屋の中では未だにしょうも無い口論を続ける家康、三成、政宗と、宥めようとしているのかよくわからない幸村と、訳がわからないという顔をした元親がいた。



 彼がどう選択するのかは誰にもわからない。
 ならば、共にいよう
 一緒にいよう
 きみの隣に立っていよう
 そうして答えを見つけよう

 ずっといっしょに

 きみと、いっしょに
 













○とりあえずこれにて終了です。
なんかながーいプロローグの終わりみたいな感じになりましたが一区切りになります。

もし万が一、続きを書くことがあったら
毛利さんとの昼ドラも真っ青な泥沼復縁話か
ほのぼのとみせかけて実は怖い関ヶ原二人のアニキラブ話か
初恋拗らせた筆頭がバタバタする話か
それより久々に再会した従兄弟同士できゃっきゃするかんべさんとの話か
はたまた遡って店を開く前段階での話になるか、
ネタだけはありますが、漠然とし過ぎてて形になってません。

結局誰を選ぶのか?→誰も選ばぬ!
という総受けの風上にも置けぬ話ではありましたが読んでいただき、ありがとうございました。

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色々説明






拍手現在豊臣家転生パロ中学生編入ってます
(現在2本 家三 チカナリです)


注意事項
・フリーリンクじゃないです、基本的にはリンクはお断りしています
・ひっそりこっそりが信条なので、黙々と
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ラキドでは幹部全員を溺愛しておりますが、ベルナルドとイヴァンは特に偏愛。ばさらは家三とか奥州の愉快な仲間達と毛長がメインです。うずみさんが現在官三とか官佐にずっぽりとはまり中。
基本は、愛想のかけらもない「ネット怖い~」の書き手が二人で色々書いている場所です。


書いている人


みっし

・生真面目で堅物でムキムキな男性と一見そうじゃなくても根は真面目極まり ないキャラをこよなく愛している、がんかたうるふの片割れ。編み物とお菓子作りが趣味という、第三者曰く可愛らしい一面を持つ反面、パニクると踊ったり、オロオロしだして周囲は見ていて楽しいらしい。荒ぶる舞は、職場の名物だったりする……らしい。
イヴァンちゃんと片倉さんとシズちゃんとスカイハイさんと陛下を思いっきり愛している。好きなアニメは銀魂と最近はFate/zero。型月ファンというよりは元から虚淵ファンでうずみさんからオススメされまくった末にようやっと手を付けて完読した。ライダー組おいしいです。エクシリアではダントツで陛下が好き。陛下が使用可能になる完全版があるなら複数買いしても構わないとのたまう日々。バサラの好きキャラは片倉さん一強だったはずなのに最近はアニキも熱い。かっちり着込むキャラがすきだったはずなのにいきなり露出度が高いキャラを好きになったのは何故か悩む日々。二次元の向かう愛と同じぐらい甥っ子への愛を叫んでいる気がしてならない。



うずみ
・相方を愛しすぎている変な人。趣味は畑仕事に漬け物作り、好きな物は不幸属性の美人(男女問わず)。ばさらでは石田さんと黒田さんをこよなく愛していたり、赤い子めんこいにゃぁとたまに叫んでいる。

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