こちらはサークル「がんかたうるふ」のうずみとみっしの二人組が、ラッキードッグ1とばさらのこばなしを黙々と投下する場所です。
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転生ネタを含んだ現パロ。腐要素はありません。若干ノマカプ要素あり。苦手な方はご注意を。
いつも以上に捏造キャラ崩壊多々ありますので、ご了承ください。
書いた人:みっし
*****
「…暑っちいなぁ…」
誰に言うわけでも無く、元親は一人でぼやきながら手を動かしては地面の草を抜いていく。
蝉の声がする。
鳥の鳴き声が聞こえる。
木々がざわめく音が聞こえる。
海の匂いがする。
それでも、人の声は聞こえない。ここにいる人間は、元親ただ一人だ。
ふと顔を上げる。
目の前にある石の塊は何も語らない。いや、語れるはずが無い。例えこの石の下に、かつては生きた人間が眠っているとしてもなにも入ってくれるはずが無いのだ。
ここは墓所。山の上にある霊園。
夏まっ盛りとはいえどお盆よりややずれたこの時期に墓所を訪れるのは元親だけらしい。
改めて墓の隣にある墓誌を見やる。
そこには、十数年前に亡くなった祖父の名が刻まれていた。
「…あんたは、本当に幸せだったのか?」
答えが返ってくるわけもないのに、呟いた声は木々のざわめきで消えていった。
そして彼は思い返す。ここに来たきっかけと、そして何より、祖父のことを。
夏の日差しと、空気を感じながら、元親の思考は過去へと遡っていった。
元親の祖父が亡くなったとき、彼はまだ二歳にもなっていなかった。そして元親はそれほど人数がいない孫の中でも一番年下だった。
だから、祖父がどんな人だったのかということは全くもって覚えていない。葬式の時の写真を見ても幼い元親は、姉にだっこされていたり母の膝で座っていたり、と訳がわかっていないんだろうなというような様子で写っていた。
その後、祖母の家に行った時に遺影でもある祖父の写真を目にする機会があったが険しい顔つきのそれをとても怖がっていた。
祖母はそれを見て『おじいさんは、カメラになると妙に意識しちゃってにらみ付けてましたからそのせいでしょうねぇ』と呑気に言っていた。
自分の事を可愛がっていてくれたというが何せ覚えてないので実感が湧かない。それ故に元親にとっての祖父とは未だに健在である。父方の祖父の印象が強かった。
それが変わったのは彼が小学生の時のこと。
祖父の七回忌法要での事だった。
法事と言っても小学生の元親は難しいことなどわからずに学校休めてラッキーぐらいの認識しか無かった。ひどいとおもわれるかもしれないが小学生の認識なんてそんなものである。
お坊さんがばあちゃんの家に来て法事が終わって、その後の親戚の集まりが終わっても元親と家族は祖母の家にいた。そこで父親が古めかしいビデオテープを物置から持ってきたのだ。
懐かしいものが出てきたよ、とにこやかに言った父は祖母の家にあったビデオデッキにテープを入れて、再生しようとする。元親は父の隣に座りながら、ぼんやりとその様子をのぞき込んだ。
「ビデオ?」
そう口にする元親を父親は笑みながら見守っていた。
「おじいちゃんのお祝いの時に、父さんが機材を借りてきて撮ったんだよ。ビデオじゃ無いとおじいちゃんもおばあちゃんも見られないから」
だからビデオなのかと納得した。
そしてテレビの画面に映し出されたのはどこかの店の一室であるらしい。
亡くなる前年、祖父の七十歳のお祝い。その際に撮っただと隣で父は言う。
ビデオは写す。
その場にいる人々を、空気を、全部。
画面の中に幼い自分がいることを不思議に思いながら元親は見つめていた。
「ああ、ほらおじいちゃんだ」
そうして父が指さした先には確かに祖父とまだ少し若い祖母がいた。写真と同じ、険しい顔つきの祖父は祖母にたしなめられつつ席に着く。
『おじいさんも年なんですから年齢を考えてくださいねぇ』
相変わらずのんびりした口調で祖母が言うとそれに答える声があった。
『うるさい。祝いの席でぐらいそなたも黙らぬか』
低い声。
物心ついてから、初めて聞いた祖父の声。
それを意識した瞬間、頭の中がかき回されるような衝撃を受けたものの、画面から目線を外すことが出来ず、じっとそれを見つめていた。
少しだけ思い出す。
そのこえを、聞いたことがあった。
ここではない、ずっと昔に。
それはきっと、自分が今の元親では無かったときのこと。
元親がまとまらない思考に頭を抱えている最中でも映像は進み続ける。気難しそうな顔をした老人は、それでも孫を見ると顔を和らげている。
『じーじ!』
ふと写っていないはずの子供の声が聞こえてくる。
『とちゃ、じーじ?』
『そうだね。おじいちゃんだね~』
恐らくは撮影しているであろう父は楽しげな声でそう言う。恐らく今よりもっと幼い自分にレンズ越しの映像を見せているのだろう。
『…元親。何の無茶をしておるのだ。こっちへ来い』
『あい。じーじ!』
そうして小さな銀髪の子供が、自分がぽてぽてとおぼつかない足取りで映像の中の祖父に、近づいていく。
カメラが写す祖父の表情が、とても優しいものだったから、その声が、とても柔らかいものだから。
だから、わからなくなった。
その映像の衝撃で、何を見たのか全く覚えていない。
でも、同時に全部をやっと思い出した。
あんたは俺のじいさんで、それでいて、あんたは俺の仇敵だ。
かつて瀬戸内を挟んで争ったあんたと俺が今生では祖父と孫だなんて、どういう皮肉だろうか。
俺の覚えていないじいさん。
いや、俺が覚えていないじいさん。
俺が知らない毛利元就。
なぁ、あんたは孫として生まれた俺をどう思ってたんだ?
答えを返してくれる人間は、誰も居ない。
本来答えを返してくれるべき人間は、もうこの世にはいないのだから。
そして元親はこの日から、誰にも言えない秘密を抱えて生きていく事になる。
それから元親は、特に大きな問題なく成長していった。
生まれつき色素が薄くて髪は銀色、肌の色もやけに白い。左目は特に日光に弱いせいで眼帯を着用している以外はとりたてて特記されることのない普通の少年だろう。
父がいて、母がいて、姉がいる。ごく普通の毎日。朧気に見る過去からは、想像も付かないような穏やかな日々と言えるだろう。
元親は基本的に呑気で穏やかな性格の持ち主だった。二人姉弟で上の姉とは年が離れており、末っ子で長男という生まれがそうさせたのかもしれない。いずれにしろ、彼の周囲には友人が多かった。
最も、穏やかに振る舞う元親が思い悩んでいたことに気がついていた人間などいなかっただろう。日頃の彼が凪いだ海であるならば、ある一点においてのみ、彼はそれを豹変させた。
既に死した、母方の祖父の事について考える時だけは、元親の心は激しく荒れ狂っていた。
何故、どうしてかつての仇敵である毛利と自分が、祖父と孫として生まれたのだろう。そこに意味はあったのだろうか。
ずっと考えているそれに、答える人間はいない。
それでも元親は自分が知らない祖父という存在を知りたかった。
今生において自身の祖父だった、かつて毛利元就だった男は何を見て何を思い、何を決断したのかを。
その根底にある感情には元親自身気づいていなかった。
「不器用な男であった」
「…不器用?」
元親がそう尋ねると、正面に座る人はゆっくりと頷いた。
祖父の従兄弟で、兄弟のように育ったというこの人と直に会うのは久々の事だ。それこそ祖父の法要の時以来だろうか。元親が一人で祖母の家に遊びに来ていなかったらきっと会うこともなかっただろう。『ちかちゃん、お客様のお相手してくださいねぇ』との言葉通り、祖父と孫ほどに年の離れた相手と元親は茶を飲んでいたのである。
『じいさんってどんなひとだったんですか?』
そうして問いかけた答えが、先程の不器用である。
「苦労して育ったせいもあるのだろうが…弱きを助け強気をくじくを絵に描いたような男だった。理不尽なものが何よりも許せないから正面から噛みつくような、そんな男だ。主の祖父はな」
「へぇ…」
実感が湧かない。覚えていないからと言うよりも、自分の覚えているかつての毛利元就という存在とは似ても似つかないからだろうか。
「お主は幼かったから覚えておらぬのも無理は無いのう」
「はい。本当に、全然覚えてないんです」
祖父が亡くなった当時、元親は二歳にもなっていなかった。だからこそ、知りたい。祖父がどんな人間だったのかを。
男は頷く。
「…もっと器用に立ち回れば、出世だって出来ただろうに。あやつはそれは求めなんだな…家族を養えて、家族を守れればそれで良いと」
身内を誰よりも大事にする男だったと、そう言った。
「まぁその分、上からは睨まれることが多かったが、本人は知らぬ存ぜぬで涼しい顔をしておったわ」
きょうだいのように育ったというその人は楽しげに笑う。
「それでいて子供の頃はきかなくてなぁ…大人になっても無茶ばかりしておったわ。…そういえば、主は顔こそ似ておらぬが、なんとなく似ているのう」
「俺が、じいさんと?…どのへんが?」
「そうだのう…気の強そうなあたりはそっくりだと思うがな 」
そして、その人はひとしきり話した後、帰って行った。祖父より年下ではあるが結構な年であるはずなのに、それを一切感じさせない不思議な人だった。
祖父の法要が終わった。
祖母の手配の元、何事も滞りなく終わり、例によって元親と家族は祖母の家の片付けを手伝った。それが終わり一休みしていたとき、隣にいた姉がぽつりと呟いた。
「じいさんが亡くなってもうそんなになるのか…早いな」
「…全くもって覚えてねぇ」
「お前が覚えていたら、お前の記憶力が恐ろしい」
姉と元親は九歳年が離れている。そのため姉は亡くなった祖父の事もはっきりと記憶していたらしい。
「…まぁじいさんも、お前の小学校入学までは見届けたかったんだろうが、そればっかりは仕方が無いな」
「?…なんだそれ?」
聞いた覚えの無いそれについて問うと、姉は知らなかったのか?と驚きながらも教えてくれた。
「じいさんが常々口にしていたんだ『元親のランドセル姿を見るまでは死ねぬ』とな。」
それは、初耳だった。
「お前は孫の中で唯一の男孫だし、末っ子だったからな…じいさまはお前を殊の外可愛がっていたんだぞ」
どこかしみじみとした口調で姉が語ったのは次の事だった。
元親が生まれてから、何人かいる孫の中で初の男孫であったからか、祖父はことのほか可愛がっていたこと。
だけれども、すでに病を得た身故に長くは生きられないのだろうと、言っていたのだという。
それでも、この子のランドセルを背負った姿は見たいな、という事は度々口にしていたというのが姉の記憶に残る祖父だった。
もしもその言葉通りに、せめて自分が小学校に入る前まで生きていてくれればまた違ったのだろうか。元親自身が抱えるこの悩みも、少しは薄れることがあったのだろうか。
だけど祖父は元親の小学校入学を前に、即ちランドセル姿を見ることなく死んでしまった
姉からそれを聞き終えて、どうしようもない切なさが募った。
何故、自分は覚えていないのだろう
幼かったからだ
何故、祖父は自分を慈しんだのだろう
かつての仇敵を
気づいていなかったからだ
本当に?
そこまで考えたところで元親はぞっとするような寒気に襲われた。
本当に祖父は、あの男は気づいていなかったのだろうか…?かつての長曾我部元親と酷似した容姿を持つ元親を。
元親とて、残された映像の声を聞いて、それをきっかけに思い出したのだ。同様の体験をしたあの男が何も思い出さないままだったということは考えづらい。
ましてや勘の鋭いあの男に限って気がつかない事などありえないということにそこで思い至った。
しかし、気がついていたのだとしたら、それこそどうして元親を慈しんだのだろう。それだけがわからないことだった。
その日の夜。
自室に持ち込んだビデオデッキを前に元親は一本のビデオテープを携えていた。
幼い頃、最初の部分を父と一緒に見たきり再生した覚えの無いビデオテープ。祖父のお祝いの席で撮影したという、生きている祖父の数少ない痕跡。
元親自身が前世を思い出すきっかけになったそれを、恐る恐る再生させた。
祖父のお祝い
そこに写る祖父母と子供達、そして自分を含む孫
『じーじ!』
昔見たときと同じく、カメラ越しに写る祖父に対し無邪気に言葉を投げかけた幼い自分
そして、自分を抱きかかえる祖父
その表情は笑っていた
穏やかに、慈しむように、心の底から凪いだような静かな笑み
そして自分も笑っていた。
恥ずかしそうに、それでいて楽しそうに。
カメラはそのまま回り続け撮影し続ける。父はどうやら祖父と元親を中心に撮ることに決めたようで祖父の膝に座って遊ぶ元親が、それをあやす祖父の姿がはっきりと写っていた。
その他の叔父や叔母、従兄弟達の、祖母の楽しそうな声が聞こえる。でも、カメラは祖父と自分を映し続ける。懸命に、祖父が話しているであろう言葉を追った。
『これ元親、やめぬか』
『…あー?』
映像の中の元親は手当たり次第グラスを掴もうとして祖父に止められていた。は
『お前はまだ、酒は飲めぬだろう。馬鹿者が…これは大人の楽しみだ』
祖父は真剣に語っているが、幼児がそれを聞くわけが無い。不満げにむくれた元親は祖父に対してばんばんとテーブルを叩いて抗議している。
『うーあ。あー!』
『…美味そうだから飲ませろと、そう申すか』
『あー!』
絶対意味がわかっていないと思うのだが映像の中の自分は楽しげに頷く。すると祖父はしばし考えると意を決したように口を開いた。
『そうだな…お前が、大人になったら考えてやらんこともない。その時は秘蔵の酒でも出してやろう。
…お前もあやつと同じで大酒飲みになるのであろうな…』
祖父の声も表情も、とても優しかった。
『う?』
きょとんとした様子の元親の頭を撫でる。可愛くて仕方が無いというように。それはごく普通の祖父と孫の姿だった。
『だが、今度は、我と飲むのであれば分別をわきまえて飲んで貰うぞ。…とりあえず豆乳でも飲んでいろ』
『あは!』
訳がわからなくとも、祖父が楽しげなのが嬉しいのか、それとも祖父が差し出した豆乳が好きだったのかはわからないが、元親はきゃっきゃと声を挙げて笑う。
そうして映像は切り替わっていった。
楽しげな宴を映し出す映像とは裏腹に元親は呆然とした思いでテレビ画面を見つめていた。
祖父は言った。
あやつと同じ大酒飲み
今度は分別をわきまえて飲んで貰う
あやつとは、誰のことだろう。友人?親戚?
いや違う、本当はわかっている。祖父が、毛利が、指したあの男とはかつての自分である長曾我部元親だということを。
「マジかよ…」
思わずつぶやきが漏れる。
祖父は知っていた。
己の孫が、かつての仇敵の生まれ変わりだということを。それでいて、全てを受け入れた。そうした上で心の底から笑っていたのだ。
「…叶えられないことなんか、口にすんじゃねぇよ…」
それだけをやっとの思いで呟いた。
俺が成人するまでどころか、小学校に入るまでもたなかったじゃねぇか。どっちも叶ってないじゃねぇか。
死ねないんじゃ無かったのかよ、馬鹿毛利。
「…馬鹿野郎」
自然と、涙が溢れてきたので、慌てて腕でぬぐうがそれでも次から次へと涙が溢れてくる。泣きたくなんて無いのに、ただ知りたかっただけなのに、何故涙が出るのだろう。
孫として生まれたかつての仇敵が憎かったのか、そうでなかったのかは祖父にしかわからない
だけど、そうだとしても、確かに祖父は受け入れていた。だから一人の人間として、己の孫を案じていた。人から伝え聞く話を照らし会わせるとそんな推測も出来る。
だがそこに、かつて西海の鬼と対峙した謀神の面影は無い
そこで、祖父の従兄弟だという人の話を思い出す。家族を誰よりも大切にしていたという祖父の生き様を。
かつての敵味方であることは関係なく、今生で血縁として生まれた『家族』であれば祖父は認めたのであろう。成長を見守り、慈しんだのだろう。
そこに毛利元就という男の強さを垣間見た気がした。
昔も、そうであったのかもしれない。
ひょっとすると立場が違えば、わかり合うこともできたのかもしれない。だけれども、立場が異なれば、きっと出会うことは愚か、話す事すら出来なかっただろう。
あの頃はただ戦うことしか出来なかった。頭で考えるのが苦手だった自分と、対照的に頭のキレだけは常人離れしていた毛利。言葉を交わすよりも、武器を交えて戦う方が何よりも雄弁な言葉となった。そしてどちらかの領土で、ごくごくたまに酒を酌み交わす。ずっとそれが続けば、それはそれで幸せだったのかもしれない。最も、そう思っていたのは元親だけなんだろうけれども。
前世では互いにすれ違い、今生では生きる時代が違った。
「でも、それで良いんだよな…」
自分が毛利の孫として生まれたことも、奴がそれを受け入れたことも、きっと意味のあるものに違いは無いから。きっと直接関わってしまったら、ろくな事にならないから。誰かが意図的に生きる時間をずらしたのだろう。
もう会って話す事は出来ないから、尚更それでよいのだと思い込むことにした。
それが、いまから六年前の事。
そして話は最初に戻る。
元親は大学生二年生になっていた。そして大学の夏期休暇を迎えたことを機に、祖母の家に滞在することにした。大学に入ってからは何かと疎遠になっていたが祖母は元親の滞在を快く受け入れた。
次の日の早朝、元親は一人で山の上にあるこの集落の墓所を訪れようと山道を歩いていた。車で行けばすぐなのはわかってはいるが、残念ながら徒歩である。とはいえ元親の脚力ならばさして時間はかかるまいと思ったものの何せ暑い。ぬぐってもぬぐっても汗がしたたり落ちる。
「朝だっつーのに何だこの暑さ…」
それは今の季節が夏だからだ。わかりきっていても暑いものは暑い。元親はしかめっ面のまま歩き続ける。
「やっぱばーちゃんのスクーターを借りるべきだったかな…でもあれはな」
しかし。かわいらしく塗装された改造スクーターに乗る勇気はあまりない。むしろ何故祖母がそれに乗っているのかも気になった。まぁ祖母だから何でもありなのだろうと思うことにした。年の割に無邪気な祖母は何をやっても不思議では無い。
舗装されたとはいえ左右は木々に覆われた道を一人で、歩く。
蝉の音が聞こえる。うるさすぎるほどに。だけれどもこの音は決して嫌いでは無かった。
「…去年は来られなかったから、二年ぶりか」
感慨を込めて元親は呟く。
山を上ったその先に、祖父が眠る墓がある。
そうして元親は最後の力を振り絞って、墓所への道を駆け上がった。
山の中腹にあるその墓所にたどり着くと、元親はまず動きを止め、肩で息をする。
「やっぱ暑ぃ…」
落ち着いてから周りを見渡すと、そこからは青い海が見下ろせた。かつての自分が愛した海だ。
祖父は、好んでこの地に墓を求めたと聞いた。あの男にとって、海など良い思い出など無い場所だっただろうに。
そんな事を考えながら何度も訪れた祖父の墓を探した。
「…ものの見事に草だらけだぞ…ばーちゃん」
草で覆われた祖父の墓を見て元親は一言だけ呟く。
今年は一回もお掃除に行けてないんですよ、と困った顔で言った祖母の言葉通り、草は生え放題でかなりワイルドなことになっている。墓石はともかく、これらの草を全部除草しないことには墓参りなど出来そうも無い。
「しゃーねぇ…やるか!」
このためにアレやコレやの大荷物を用意したのだ。今更草取りに労を惜しむつもりも無い。持参した軍手を着用すると元親は気合いを入れて墓掃除に臨むことにしたのだった。
そして元親はたった一人で草取りから始まり墓石磨きまで全て一人で終わらせたのだった。
「…暑っちい…」
持参してきたスポドリで水分補給しつつようやく綺麗に掃除された墓を見る。作られた時と同じぐらいとは言わないが、草が生い茂っていた時の事を考えると全くの別物だろう。
俺、頑張った!
一人で満足した所で元親は背負ってきた登山用のリュックを探り一枚の写真をとりだした。
「…やーっぱ少しは面影…あるか?」
それは祖母の家にあった、一枚の記念写真だった。この墓を建てた時、即ち祖父の死の数年前にこの場所で撮ったという写真。
最年少の元親は、やはりというか何というか祖父に抱きかかえられていた。写真が嫌いだったという祖父のしかめっ面に、少しだけ、自分が知っている毛利の面影を見た気がした。
そしてもう一つ。あるものを取り出す。それは、酒瓶だった。日本酒の小さな酒瓶を手に取り、迷うこと無く墓石にかける。
「…秘蔵の酒はわかんねぇから、適当に買ったぞ」
大体、俺下戸だし。酒の美味さがわかんねぇ。
答えが返ってこない事を知りながら、一人呟く。その表情はとても穏やかなものだった。
『大人になったら、考えてやらんこともない』
自分の記憶には無い、されど何度も繰り返し映像で見て、記憶した言葉が頭の中で再生される。妙に楽しげな祖父の顔と共に。
元親は二十歳になった。まだ学生だが、年齢だけで言えば大人に並んだだろう。中身はまだまだこれからだが、それでもだ。
二十年。
そのうちの数年だけを、あの男と共に過ごした。
自分で記憶しているような思い出と言えるものは何も無い。思い出を作る前に祖父は死に 自分は記憶できるほど大きくなかった。自分の中で祖父との思い出は全て人から伝え聞くものだったから。
生きていたらと、そう思ったこともあった。過去の記憶との齟齬に悩んだこともあった。もっと早く生まれていればと思ったこともあった。
だけど、今はこれでいいのだろうと思うようになった。正しくは思えるようになった。
「…あんたの、お陰だよ」
元親は知らず知らずのうちに笑んでいた。
それは、祖母から聞いたこと。
死の前日に、見舞いのため母と共に病室を訪れた元親に、祖父は言ったのだという。
『お前のその無駄な明るさは、きっと誰かの救いになろう。…達者でやれよ』
その時は病状に特変など無かったというのに、次の日の朝方には様態が急変して無くなった。
祖父は、まるで死を予期していたかのように、最後まで笑っていたと祖母は言った。
アンタは全てを受け入れて死んでいった
なら、俺は全てを受け入れてこれからも生きていく
あんたは確かに前の毛利元就で、だけど同時に俺のじいさんでもあって、厄介だけど、でもそれでも俺の大事な家族だったんだ。
やっと、それがわかった。
眼下に見える青い海、緑の木々、風のさやぐ音、全てが懐かしい。
夏の色、夏の匂い、きっと自分はこの光景を忘れない。
きっとあの男もこの風景が好きだったに違いない。そうで無ければ、山の上に墓なんて建てるわけが無い。そう思うと自然と口から笑みが零れていた。だから元親は伝える。自分の正直な気持ちを。
「…ありがとう」
自分で思っているよりもずっと優しい声音で呟いたそれに、思わずまた笑ってしまう。もしあの男が見ていたら見苦しいと罵倒するかも知れない。それならそれで構わない。それもまた、陰険だったあの男らしい。
そう思いながら元親は帰り支度をする。抜いた草は墓地の脇のゴミ捨て場に捨てていく。お供え物もないし光り物も無いのでカラスに荒らされることも無いだろう。
「よーし…帰るか!」
元親は振り返らずに、歩く。
その時柔らかい風が頬を撫でていったような気がした。
その晩元親は夢を見た
祖母の家の居間で、祖父が、いやかつての毛利が酒を飲んで、元親と向かい合って座っている。
そしてこちらを見たかと思うと、ふっと満足げに、笑った。
何も言わぬまま そしてもとちかも何も言わぬまま時間だけが過ぎていった。
ただそれだけの、不思議な夢
「…じいさんの夢、みた」
翌朝、寝ぼけ眼のまま元親は、あれこれと手早く動き回る祖母にそれだけ言うと、祖母は作業の手を止め目を丸くして問うた。
「あらまぁ、おじいさんは何か言っていましたか?」
「?いや、何も。黙って酒飲んでたぜ」
居間でずっと酒飲んでただけだという事を伝えると祖母はまたフフッと楽しげに微笑んだ。
「じゃあおじいさん、何も心残りが無いんですねぇ」
「…何でそうなるんだ?」
夢に出てきておきながら何の未練も無いことなどなるのだろうか。
だが祖母は変わらずにニコニコしながらこう言った。
「たとえ亡くなった人が夢に出てきても、何も言ってこない場合は、未練も何も無いんですって。ただ会いたいから出てくるだけなんだって。…他でも無いおじいさんが、そういってましたよ」
きっとちかちゃんが心配だったんだねぇ、と言う祖母の声が元親の耳を通り抜けていった。
生まれ変わった人生が幸せだったのかなんて、あの男にしかわからない。
だけれども、何の未練もないのだという、祖母のあの言葉が本当であるならば
かつてのあの男が言っていたことが事実であるならば
その人生は満ち足りたものであったと思って良いのだろうか
「…じいさんの、馬鹿野郎」
縁側で一人、子供のように座り込む。
視界が滲むのは、きっと日光が目にまぶしいからだ。決して潤んでいるからじゃない。泣きたくなるのはきっと、気のせいだ。
らしくない。
そう思っても、止められない。
子供のように声を挙げて泣くことはしないけれど
それでも、声を押し殺して、少しだけ泣いた
家族思いで、不器用で、でも優しかった祖父
記憶の中の毛利とは似ても似つかない存在だけど、それでも大好きだった
覚えては居ないけれど、きっと自分は祖父としての彼が好きだった
そして、毛利も、孫としての自分を愛していた
改めて、それがわかった
人から伝えられる記憶では無く、自身の体験として、家族として間違いなく愛されていたことを知った
それが、嬉しかったんだ
それがわからなくて、ずっと不安だったんだ
前の自分とは似ていて、でも少しだけ違う今の自分がようやく肯定してもらえた気がした
気づけたのは他でも無い。果たされることの無かったあの約束を、果たしに来た祖父のお陰だ
それはひょっとすると、頼りない孫へのあの男からの最後の贈り物なのかも知れない
元親は思う。
前世は前世、今は今と割り切ることは難しいけれど、それでも生きていく。
過去の自分とは少し違って、でも基本的な部分は変わらなくて、面倒だけどもこれが今の、今生を生きる元親の生き方だ。
自分は一人では無い。家族がいる、友が居る。そして今なお、見守ってくれている人が居る。
それを人は幸いと呼ぶ
○BGMはずーっと鳥の詩、夏影、青空のエンドレスでした。
夏と言えばこれ。
PR
色々説明
拍手現在豊臣家転生パロ中学生編入ってます
(現在2本 家三 チカナリです)
注意事項
・フリーリンクじゃないです、基本的にはリンクはお断りしています
・ひっそりこっそりが信条なので、黙々と
・捏造、not公式のこばなしが多いので、スルー推奨
ラキドでは幹部全員を溺愛しておりますが、ベルナルドとイヴァンは特に偏愛。ばさらは家三とか奥州の愉快な仲間達と毛長がメインです。うずみさんが現在官三とか官佐にずっぽりとはまり中。
基本は、愛想のかけらもない「ネット怖い~」の書き手が二人で色々書いている場所です。
書いている人
みっし
・生真面目で堅物でムキムキな男性と一見そうじゃなくても根は真面目極まり ないキャラをこよなく愛している、がんかたうるふの片割れ。編み物とお菓子作りが趣味という、第三者曰く可愛らしい一面を持つ反面、パニクると踊ったり、オロオロしだして周囲は見ていて楽しいらしい。荒ぶる舞は、職場の名物だったりする……らしい。
イヴァンちゃんと片倉さんとシズちゃんとスカイハイさんと陛下を思いっきり愛している。好きなアニメは銀魂と最近はFate/zero。型月ファンというよりは元から虚淵ファンでうずみさんからオススメされまくった末にようやっと手を付けて完読した。ライダー組おいしいです。エクシリアではダントツで陛下が好き。陛下が使用可能になる完全版があるなら複数買いしても構わないとのたまう日々。バサラの好きキャラは片倉さん一強だったはずなのに最近はアニキも熱い。かっちり着込むキャラがすきだったはずなのにいきなり露出度が高いキャラを好きになったのは何故か悩む日々。二次元の向かう愛と同じぐらい甥っ子への愛を叫んでいる気がしてならない。
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うずみ
・相方を愛しすぎている変な人。趣味は畑仕事に漬け物作り、好きな物は不幸属性の美人(男女問わず)。ばさらでは石田さんと黒田さんをこよなく愛していたり、赤い子めんこいにゃぁとたまに叫んでいる。ついったのフォローは下 のアイコンから。
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