がんかたうるふ GAMEOVER(現パロ・ダテチカ) 忍者ブログ
こちらはサークル「がんかたうるふ」のうずみとみっしの二人組が、ラッキードッグ1とばさらのこばなしを黙々と投下する場所です。
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6月企画最後の一本。同名漫画のパロです。原作は本当に素敵な作品、社会人のお姉さんと男子中学生の恋愛ものです。大好きだ…!ゲームの内容は原作と少々違います。ご了承ください。最初は毛長で同作品パロしようかと思ったんだすが、愛が重い毛利さんネタが降ってわいたのでそちらは文字通りオクラ入り…。陽の目を見る機会があればいいな。

そして最後の一本が一番「結婚」というテーマに沿った一本になったような気がします。ダテチカはテンプレべた甘展開が良い意味で似合うと思います。自己満足なアニキ受け企画ではありましたが、最後まで書くことができて良かったです。参戦してくれたうずみさんと、読んで下さった皆さんに感謝を。

書いた人:みっし

 
 



 *****
 
 
 
 
 
 
 俺は本当に、お前の側にいていいのだろうか。
 
 とある日曜日の昼下がり。
循環バスの最後尾を陣取った元親はずっと考え続けていた。
 だが今この場において彼を知る人間はいない。それでもバスに乗り込んだ瞬間から元親の存在は乗客全員の注目の的だ。
 さもありなん、今の元親の服装は結婚式に出る新郎のようなモーニングを身につけていたのだから。
白いタキシード、胸元に飾り付けられた白い薔薇。獅子のように逆立てられた前髪と左目を覆う紫色の眼帯だけが、日頃と変わらぬ姿を見せていた。
 
 どうしたら、よかったんだろう。
 
 ずっとそればかり考えている元親には、周りの音が耳に入らない。窓から見える景色は、さして変わらぬ街の姿をずっと映し続けている。さき程から降り出した雨は止まない。まるで憂いの腫れない元親の感情を表しているかのようだ。
 
 循環バスは、既に二週目に入ろうとしていた。
 
 
 
 長曾我部元親と伊達政宗が出会ったのは高校への通学に使うバスの中だった。
 椅子に座って手帳を開いていた元親がたまたま持っていた手帳を落として、すべっていったそれを拾ったのが斜め前に座っていた伊達政宗だった。その時は名前も知らない存在ではあったが、有名私立高校のブレザー服が、とてもよく似合っていたと記憶している。
 
『気を付けろよ』
 そう言って笑みを浮かべながら自分にそれを渡してくれた青年は、同じ性別の元親から見ていても、まごう事なきイケメンだった。サラサラの黒髪も整った顔立ちも、どれをとっても自分には無いものであり、正直見惚れたものだ。
 
 それが始まりだった。
 基本は自転車で通学していた元親がバスを使うのは雨の日だけだった。だけれども、青年は毎日バス通学なのかバスに乗れば必ずと言って良いほど顔を合わせた。
 最も、顔を合わせたからと言って何を話すわけではない。話すほど親しい訳では無い。ただ元親はその姿を認めれば必ずと言って良いほど、目で追った。
 ある時は音楽を聴いてうたた寝していた。
 ある時は本を読んで涙ぐんでいた。
 ある時は単語帳と睨めっこしていた。
 ある時は携帯を手にいたずらっ子のように笑っていた。
 彼はいつでも一人だった。
 
 元親はずっと目で追うことしか出来なかった。仮に話すとして、一体何を話しかけたら良いのだろう。ボールペンを拾ってくれたことなど、きっと彼は既に忘れている。向こうは高い偏差値と良家の子女が通うことで知られた有名私立高校の生徒。こっちはごく普通の高校生に過ぎない。住む世界が違うのだ。
日頃の元親の気さくで大ざっぱな性分を知る人間が見れば彼の対応を疑問に思ったかも知れない。そして、元親らしくないと言われるのだろうか。意外かも知れないが元親とて親しくない人間への対応はそんなものだ。昔なじみの毛利とは舌戦を繰り広げたり、友人の慶次や幸村と馬鹿なことばかりしてつるんでいたり、はたまた昔の後輩にアニキと慕われるような一種の頼れる存在であっても、自分と名も知らぬ彼の間には境界線があるように思われてならないのだ。そして決して見えないその線を越えることは出来ない。
 いかに彼に気がつかれないように目で追うか、最早それはゲームだった。そして元親の存在に万が一でも彼が、気がついたらこのゲームは終わりだ。それは一方的に決めたルールだった
 元親がバスに乗ってから彼が降りるまでのおよそ三十分間のさりげない出来事。それは、季節が移り変わっていく中でも変わらない。
 
雨の日だけの密かな楽しみだった。
 
 転機が訪れたのは、季節が夏から秋へと変わり、秋が徐々に深まっていった頃だった。台風シーズンも終わり、制服が夏服から秋服へと変わったその頃。
 雨の日だというのに、あの青年と全くと言って良いほど出くわさなくなった。
 元から何か約束していたわけではない。一方的に元親が見つめていただけだ。引っ越したのかもしれない。単に、通学手段にバスを使わなくなったのかもしれない。見るからにおぼっちゃんという感じだったから、ひょっとしたら車で送り迎えされるようになったのかもしれない。そもそもあの学校の生徒が、バス通学していたという事が不思議なのだ。
だけれども、あの青年に会えなくなってがっかりしている自分に、元親は気がついた。週に一回あるかないかの雨の日。ただ見るだけの一方的な行為。一歩間違えればストーカーに間違われそうな行為であったことは否めない。そして、ゲームは実に中途半端なまま終わってしまった。
だけれども、そこでようやく気がついた。
元親は、彼のことが好きだったのだ。
いつからだろう。凛とした横顔を見たときだろうか。たわいも無いことで笑んでいたのを見たときだろうか。少年漫画を読んで涙していた彼を見たときだろうか。ひょっとしたら、最初に会ったあのときから、彼のことが好きだったのかもしれないと今更ながら気がついた。
しかし気がついたからどうだというのだろう。相手は名前も知らない青年。知っているのは通っている学校のみ。もっと言うと自分は男で、彼も男。両家のお坊ちゃんと素行不良の問題児以前に色んな問題が横たわっているではないか。
最初から無謀すぎるほどに無謀なものだったのだ。
気がついたのが、全部終わった後でよかったと自分に納得させようとした。初恋は実らないと言うではないか。遅い初恋の相手が男というのもどうなのだろうと自問自答しつつ、元親は、自分の恋心に見切りをつけて全てを終わらせようとした。最初から叶わないものだったのだと。
 
それから少し後の雨の日、元親は眠気を堪え目元を擦りながらバスを待っていた。最近よく眠れない。もっというと名も知らぬ彼への思いを自覚したあの日からどうにも体調が良くない。心ここにあらずという様子でぼーっとしていることが多かった。事情を知らぬ友人達は「貴様が思い悩んでいる姿を見るのが気持ち悪いからとにかく寝ろ」や「とりあえず美味しいもの食べたら良いでござる!」や「そう言うときはパーッと遊んじゃおうよ!」など、それぞれの方法で励まそうとしてくれているらしい。彼らの気持ちはありがたいが、きっとそれでもどうにもならないであろうことは元親が一番よく知っていた。
彼のことが、好きなのだ。
諦めたいのに諦めきれない。そんな自分の諦めの悪さに嫌気が指しつつ、元親はようやくやってきたバスの中へ足を踏み入れた。彼が乗らなくなってから雨の日に乗るバスの時間を少しだけ早めた。元々の時間も早かったが、更に早めたためか乗客はいつでもまばらだ。最も早く学校に行ったからといっても何をするわけではない。彼への執着を少しでも断ち切れるかと思っての行動だったが、結果何も断ち切れて居ない。むしろ思いは深まるばかりであった。そんな自分の女々しさに呆れつつ、元親は空いていたバスの最後尾左側に座る。そこでふと隣に目をやった元親は信じられないものを見た。
最後尾の右、元親とは反対側に座っていたのは、あの名前も知らない青年だった。
いつかと同じブレザーの制服に身を包み、腕を組んで転寝をしている青年。右目の眼帯が特徴的なそれは、元親が追い続けた彼に間違いなかった。
「…………」
知らず知らずの内に元親は息を呑み、初めて間近で見た彼を前にどうしようという思いで一杯だった。まだ時間はあるし起こすのも不自然だ。だが、このままでは自分の心臓が持ちそうに無い。俺って意外と小心者だったんだなぁと思いつつ、いきなりばぐばぐと鼓動を刻み始めた心臓を己の手で抑えながら、改めて隣の彼を見る。
サラサラの黒髪に全体的に整った顔立ち、凛々しいと評するべきか、美しいと評するべきか、とにかく彼はイケメンだった。俺って面食いだったのか、と自分の嗜好に改めて気がついた瞬間でもある。
もっと近づいて見ても起きないだろうか。そう思って体を右側にずらしたその時、幸か不幸かバスが信号待ちのために停止したのだ。
「うお…!!」
隣に座る彼に寄りかかってしまわぬように咄嗟に前の座席を掴むような形でなんとか体制を維持する。寄りかかりはしなかったものの突然の衝撃で元親が発した声を思った以上に大きかったらしい。
「…ああ……?」
元親が左を見たときには、隣の彼がぼんやりとした様子ながらも確かに目を開けていた。そうして、きょろきょろしながら何かを確認するように周りを見渡す。そして、元親と目があった。それはもう、ばっちりと。明らかに無言ではやり過ごせない距離だった。
「ど、どうも…」
明らかに挙動不審な元親を青年はじぃっと見つめる。非常に居心地が悪い。悪いというレベルじゃない。むしろ気恥ずかしくてこの場に穴を掘って埋まりたいぐらいの所存である。距離が近すぎるから悪いのか、そう思って移動しようとした元親の手を掴む存在があった。
「あの…?」
 それは紛れも無く、隣に座る彼の手だった。
 訝しがる元親を見て、目の前の青年がふっと笑う。それはまるで花が咲いたような、なんともいえない華やかなものだった。
「やっと見つけた」
 元親を見て、青年は笑う。その手は元親を決して離さないように力強く握り締めたまま。
「…え?」
 訳が分からないのは元親の方だ。
 青年を探していたのは、見つめていたのは自分のほうだというのに、何故自分が見つけられなければならないのだろうか。なんでだ?という疑問がそのままに、考えていることが全て筒抜けだと評判の元親の顔に出ていたらしい。青年は、くすっと今度は楽しげに笑みを浮かべる。
「ははっ…アンタやっぱ、見ていた通りの奴なんだな。…すっげぇわかりやすい」
「ええええ…!?」
 これはどういうことだろう。ずっと見ていたはずの青年は、何故か元親を見ていて、そして自分を探していた。わけがわからない。何度考えても本当に訳が分からない。だがひょっとすると、もしかして、という疑問が湧き上がる。
「あんた、俺を知っているのか…?」
 青年はほんの一瞬きょとんとした顔を見せるが、すぐに何かをたくらむような意地の悪い表情を見せる。
「俺を見ていたのは、アンタだろ?」
「………な、なんの、ことだか……」
 図星を突かれた気まずさから顔が見られず、ギギギという音でも発しかねない機械的な動きで元親は顔を背ける。明らかに、挙動不審である。だが青年はそんな元親を目に留めると、とても楽しげに口元に弧を描いた笑みを浮かべた。
「誤魔化せると思ってんのか?ずーっと人のこと見てたくせによ」
「…ぐ…」
 最早ぐうの音も出ない。事実は事実なのだから仕方が無い。確かに元親は彼を見ていた。ずっと見ていた。自分でもよく考えればストーカーなんじゃないかと思いかねない勢いで見ていた。だけど毎日じゃない。雨の日だけだ!!そう元親が自分の中で言い訳していたとき、隣に座る青年がぽつりと呟いた。
「まぁ…ずっと見てたのは俺も一緒なんだけど」
「…なんで、あんたが、俺を」
 そう返すのだけが精一杯だった。
 ふふっと隣の青年がまた笑んだ気がした。今まで知らなかったが彼は思った以上に表情豊かな人間らしい。そして、意地が悪い。僅か十分程度でしかない時間の間に元親は知らなくてもいい様々なことを知った気がする。
「春先、アンタの落とした手帳を、俺が拾った。…覚えてるか?」
 それは覚えている。なによりそれは元親が彼を見るきっかけになった出来事だったのだから。
「でも、俺はそれより前にアンタを見て知ってたんだ」
「え?」
 そんな事は全く知らない。驚く元親を前に青年は続ける。
「4月になってすぐの頃だ。いつもだったら家の人間に送ってもらうはずだったんだが、その日は車が突然故障したとかで俺は不慣れなバスに乗ってた。…正直言って気乗りしなかった。一応乗り方は知ってたけど、電車もバスもあんまり回数は乗ったことねぇし、学校自体あんまり好きじゃなかったから」
 バスにあまり乗ったこと無いってやっぱりこいつおぼっちゃんとかなんだろうなぁ、と思いつつ青年の言葉に耳を傾ける。
「…そんな時、ふと窓の外を見た。…自転車に乗ってる学生が、煎餅を口にくわえながら呑気に自転車こいでて、思わずたまげた」
「ああ…」
 それは間違いなく自分のことだ。間違いない。
あの日は確か寝坊して朝食を食べずに出て行こうとしたら、出勤前の姉に「朝食を食べねば頭が働かないぞ」と口に煎餅を突っ込まれ、更に朝食代わりの煎餅を持たされたのだ。そしてそのまま自転車をこいで学校へと目指したのだ。思ったよりも早く進んだので途中からは速度を落として呑気に学校に行ったが…まさかあれを見られていたとは。
「こいつなんで煎餅くわえてるんだろう、とか遅刻しないのか、とか色々思った。だけど一番印象的だったのは、そいつがすげー楽しそうに笑ってたからだ。なんつーか…見ているこっちまで楽しくなるような笑顔だった。…それをきっかけに俺はバス通学に切り替えた。それからそいつを見かけるたびに目で追った…バスに乗ってきたときは驚いたけどな」
「…そうだったのか」
 元親の呟きに青年は頷く。
「雨の日だけはアンタがバスに乗ってくるってわかって、ふと気がついたら誰かの視線を感じるようになった。それも雨の日だけ。…見てるのはアンタだってすぐにわかった」
「ははは…」
 自分のゲームは開始早々に終わっていたらしい。その事実を知っていればもう少しマシなことが出来たのに、返す返すも、数ヶ月前の自分が憎い。
「いつ話しかけてくれんのかなーって思ってたのに、結局話しかけてくれねーし…こっちから話しかけようと思った矢先に家でちょっと問題が発生してな。バス通学はあぶねぇから車での送迎に切り替えろって言われたんだ。…それが治まるまで結構かかっちまった。でも今度こそ話しかけようと思っても、雨の日なのにアンタいねぇし。わかってるのは学校名だけ。…駄目元で一本早いバスに乗って見りゃビンゴってやつだ」
 俺ってラッキーなんじゃねぇ?と言いながら青年はしししと愉快でたまらないというような笑みを浮かべる。育ちは良いらしいが、言動はどこか粗雑だ。まぁ親しみがあって良いのだが。
「…でも、会えてよかったぜ。これで改めて告白できるってもんだ」
 自信満々のその表情はどや顔というのだろうか。小突きたくなる表情ではあるが、彼には似合っている。イケメンは何をやってもイケメンと言うのは本当なんだなと思いながら彼の言葉への疑問を口にする。
「告白?誰が?」 
「俺が、アンタに」
「……えええええええええええ!?」
 迷うことなくはっきりと宣言されたそれに元親は戸惑いを隠せない。何故、ホワイ、どうしてこのイケメンは己に告白しようとしているのだろうか。元親には訳が分からなかった。
「…本当は、俺から話しかけたら早かったのかもな。…最初は、好奇心だった。それは認める。でも、バスでいろんな表情のアンタを見た。その見た目に似合わず年寄りに席を譲ったり、小学生と他愛も無い事ではしゃいだり…その内にどんどん好きになっていったんだ。 …内面を知らずにいうのも失礼かも知れない。でも、俺はアンタが好きなんだ」
 それは、自分も同じだった。
 気がつけば目で追っていた。色んな彼を見た。
そしていつの間にか、好きになっていた。同じだったのだ。彼も、自分も。見ていることしか出来なかった。それが奇妙な縁でこうして共に並び、そして語らっている。それは不思議で、同時にとても嬉しいことだった。
「俺も、好きだ。…でもその前に一つだけ…あんたの名前、教えてくれないか」
 その瞬間、青年が、腹を抱えて笑い出すのを見た。
「…そういや俺ら、互いの名前もしらねーのな…この俺が随分と無計画にやっちまったぜ」
 隠し切れない笑みを浮かべながら青年は笑う。それにつられて元親も思わず笑ってしまう。
 
彼が、どんな人間なのかは分からない。だけれどもそれならこれから知っていけばいい。障害だって山積みだ。何せ自分も彼も男同士なのだから。でも今、隣で笑う彼を見ていると、そんな不安も消し飛びそうで、なんだって出来そうな気がしていたのだ。
 
その時は。
 
 
 
 少々雨脚が弱まったとはいえは未だに止まない。
 元親は未だに定まらない思考の海を漂っていた。だから、気がつかなかった。バスがとある停留所で止まったことにも、そこから一人の青年が乗ったことも。その青年が自分の隣に座った事で、ようやく停滞していた元親の時間は動き出した。
 
「まさむね…」
「…探したぞ、馬鹿チカ」
 自分と同じく、白いタキシードに身を包んだ彼の体は少し雨に濡れている。自分がそうさせてしまったのだと思うと申し訳なくなり、自己嫌悪に陥る。
元親は元々精神的には強くない。昔なじみには「この豆腐メンタルめが」としょっちゅう罵られる。(あいつの精神は鋼鉄だ)
今日も、そうだった。
「…これでいいのか、怖くなったんだよ」
隣に座る青年は伊達政宗という。
バスの一件で付き合うようになった元親の高校時代からの恋人だった。
政宗は俗に言う良いところのおぼっちゃんという奴で、跡取りとして大事に大事に育てられてきたはずだった。それが突然、男の恋人を作ったものだから家はてんやわんやの大騒ぎだったらしい。最終的に政宗の弟が跡を継ぐ事になり、彼は実家を勘当された。政宗が大学二年生でちょうど二十歳になった頃だった。昔からの世話役一人と、贈与された資産が彼に残された全てだった。「こういう家なんだよ」と政宗はなんでもないことのように言ったが辛くないはずは無いだろう。家族から縁を切られてしまったのだから。自分が居なければよかったのではなかろうか、と嫌悪に陥る元親の救いだったのは政宗自身の言葉と、そして何より世話役である片倉の言葉だった。
『あなたに出会ってから、政宗様は確かに人間として成長された。…きっとあの家にいたままでは決してわからなかったことです。だから他の人間はそうは思わなかったとしても、政宗様と少なくとも俺は、あなたがいてくれてよかったと思います』
元から政宗は右目を失明した件から母親との確執を抱えて育った子供だったらしい。不在しがちな父親との仲は良好だったが、その他の家族内では孤立しがちな面が多かったと片倉は言った。そんな政宗の様子が目に見えて変わった時期があった。それは、元親と出会った頃なのだという。子供の頃のように笑い、表情が豊かになっていった。人との関わりを厭わなくなった。
その理由は全て、元親に会ったからなのだと言う。
『…主の道を正せなかった俺は、伊達家の使用人としては失格なのかもしれません。ですが、政宗様は貴方と出会って、何かを取り戻せた。人間として大事な何かに気づくことが出来たんです。俺は伊達家の使用人である前に政宗様の使用人です。だからあの方のその変化が、成長が、なによりも嬉しかった。俺達が何年かかってもできなかったことをあなたはやってくれた…。だから俺は、あなたと政宗様を祝福します』
日頃は饒舌ではない男が、なんとか慰めようとしてかけてくれる言葉が嬉しかった。そして政宗はというちふんぞり返ってこう言った。
『遅かれ早かれ母上は俺を跡取りから引き摺り下ろしたかったんだからちょうどいいさ。お前が気に病むことじゃねぇよ、元親』
そう言って頭を撫でた。子ども扱いするなと反論したかったが、直後に抱きすくめられて出来なかった。身長は元親のほうが高いというのに力強くまわされた腕を払うことが出来ない。
『お前が居てくれて、本当に良かった』
そう言って政宗は笑った。
 
元親のほうはと言うと、こちらも少々大変だった。
元親は十歳の時に両親と共に交通事故に遭い、大怪我を負いながらも生き残ったという過去がある。左目周辺の傷はその名残だ。彼に残された家族は年若い叔母と年の離れた姉だった。この二人は大層元親を可愛がっていたものだから、政宗との交際が発覚したときは家が壊れるのではないかと思うぐらいえらい騒ぎになった記憶がある。
「どこの馬の骨とも知れない輩にうちのチカちゃんは嫁にあげません!!」
そう言いながら弓を構えたのはかなりの武道に通じた道場主である叔母。ちなみに、止まっているものより動いているものが打ちやすいです、とのたまう猛者でもある。もっというと彼女は狙った獲物を外したことがない。
「鶴さん、俺は男だから嫁にはいかねーよ」と正す勇気は無かった。
 
「…元親と交際したいのであれば…命の二、三はもっていかれる覚悟があるのであろうな…!!」
どう見ても殺る気満々で、薙刀を構える姉。ちなみに彼女は薙刀部の元部長で全国大会への出場経験をも持つ女傑である。
「ねーちゃん、命は普通一つしかねーよ」と言える勇気も無かった。
 
どう見ても修羅場です。本当にありがとうございます。
 これが普通の女性ならば問題はなかったのかもしれない。だが相手は政宗だ。否定しようのないぐらいイケメンで、派手な雰囲気なのが悪かったのだろう。内面はともかく、外見だけは立派な遊び人だったのだから。
休日の、のどかな昼下がり。
長曾我部家で一対二の戦闘的な意味での修羅場が繰り広げられたのはそんなに遠い昔の事ではない。最終的には殴りあったら友情が深まる、ではないけれど三人の中はそれなりに改善されたようで最終的には硬く握手しあっていた。ぼろぼろになった叔母と姉と政宗を治療するのはもちろん元親の出番であった。
 そして何故か幼なじみにバレた時も凄かった。「俺付き合ってる奴いるんだわ、男で」と告げた段階で相手がフリーズし、政宗の名前を伝えた瞬間、冷静な奴には珍しくその場で絶叫した。
「貴様…騙されておるのではないか…!?無事か!?」
 思えば聡い毛利はこの時点で気づいていたのだろう。伊達という家と、その影響力の大きさについて。だから、その家の跡取りである政宗と交際している自分を案じたのだ。何のかんの言ってこの毒舌な幼馴染は自分を案じてくれている。無事がどういう意味かは分からないが、喰われた喰われていないで言ったらすでに喰われていたのでどうしようかと悩んでいたら、答えるまでのその間で全てを気づかれてしまったようで気がついた時には死者のような顔色になった毛利がいた。感情が顔に出るのも困りものである。
 それからしばらく、毛利による政宗への嫌がらせがあった。しばらくして収まるには収まったが今でも政宗は毛利が苦手らしい。
 まぁ元親の関係者に政宗との交際が知られるとそれはそれは騒がしい何かしらの騒動があったものだが、詳しくは割愛する。
 
 大学を卒業した政宗は世話役であった小十郎と共に会社を起業し、社長となり多忙を極めた。元親はというと昔からの志望だった調理系の専門学校を卒業して飲食店に勤めていた。元親が学校を卒業してから、格段に会える時間は減った。生活時間が違う事も大きい。手っ取り早く会えるのはどこかというと互いの家だが、元親の家には叔母と姉がいる。政宗の世話役である片倉は政宗の下の部屋を借りていたため政宗は一人暮らしだった。そのような理由で最早半同棲に近い状態で政宗の部屋に入り浸っていた。
 そんな日が数年間続いたある日のこと。たまたま二人の休みが重なって政宗の家でだらだらとしていた時のことだった。
「なぁ、結婚するか」
 政宗が突然言ったのだ。
「…は?誰が」
「俺が、お前と」
「…はいいいいいいい!?何考えてんだよ。同性婚なんて出来るわけねーだろうが!!」
 告白してきたときとおなじぐらい唐突なそれに元親は慌てふためく。
「形式的なもんだよ…教会借りて、仰々しくなくていいから聖書読み上げてもらうぐらい出来るだろうか!!」
「なんでお前そんなに必死なんだよ!?こええよ!!」
 元親がそう言った所で、政宗は少々躊躇ったような素振りを見せた末に口を開いた。
「お前、俺達が出会ってから何年経ったか覚えてるか?」
「出会ってから?…確か俺もお前も高校生だったから…もうすぐじゅうねん…」
 十六歳で出会いそして今年二人は二十六になる。それで間違いは無かったようで政宗は大きく頷いた。
「そう、十年だ。もう十年、まだ十年…色々思うことはあるけどこれを区切りにしたいんだよ」
「だから、結婚?」
「そうだよ…こんなのしか浮かばなくて悪かったな」
 少々照れたように視線をずらす政宗が年には不相応だけれども、どこか可愛くて思わず元親の口元が歪む。妙な所がロマンチストだ、この男は。そんなところも好きなのだけれど
「いいぜ、結婚するか」
 今更後悔なんてしない。彼と共に居た十年は、色々あったけれど、とても満ち足りたものだったのだから。
 
 
 式と言っても本当の式ではない。
 政宗と元親の、事情を知る内輪の人間だけの小さなお祝いだ。
 だけれどもそんな式が始まる直前に元親は姿を消した。政宗の会社の手伝いをしているいつき(女子中学生)が「もとちかならいそいでバスに乗っていったさ。なにをそんなに急いでいただかな?」と言わなければきっと誰にも分からなかったに違いない。誰が循環バスの中にずっと乗っていると思おうか。普通は思わない。だけれども、それをやってしまうのが元親である。
 
 元親はぽつりぽつりと政宗に語り始める。
「…タキシード着て、色んな人が挨拶に来てくれて、その中にお前の親父さんもいたんだ」
「…ああ」
 片倉の気遣いにより、招かれた政宗の父。多忙を極める彼が姿を見せることが出来たのは奇跡に近いのではないかと元親は思う。政宗は家族とは不仲だったが父は慕っていた。そして父もそんな息子を愛していた。…勘当されてからは、会ってはいないはずではあったが。
 不器用な子だけど、息子を頼む。
 そう言って差し出された手はがっしりとして暖かかった。父親の、手だった。
「俺には父さんがもういないからわかんねーけどよ…俺はこの人から息子も、孫に会える機会も奪っちまったのかって思ったら、なんか訳わかんなくなって気がついたらこのバスに乗ってた」
「………」
元親の独白は続く。
「そもそもなんで俺なんだろうって。俺がお前と出会わなきゃ良かったんじゃないかって。…お前は家族と離れることもなかったし、お坊ちゃんとしての立場も失わなくてもよかったんじゃないかって…考え出したらずーっと頭の中でぐるぐる止まんなくて、気がついたらお前がいた」
 元親は基本的に豆腐メンタルだ。そして一旦思考が負の連鎖に陥ると止まらなくなる。自己嫌悪というのだろうか。これは、事故の後からずっとそうだった。普段はそんな事を感じさせないぐらい能天気なのに、一旦はまってしまうと中々抜け出せない。非常に面倒くさい性質だと自分でも思う。
「で?」
「で、って…」
「言いたい事は、それだけか?」
 政宗の咎めるような視線に息苦しさを感じつつ、頷く。
 それを認めると政宗は、ハァっとため息をつきながら言った。
「…面倒だから一度しかいわねぇぞ。良く聞け。俺の父上は常々俺に言っていた。おまえが本当に心の底から好きな人と結ばれることを願っているよ、と。だがそこに男女の性別は明記されてなかったし、聞いてもいない。だから俺が心の底から好きだと思う相手と結ばれればそれでオールオッケーなんだよユーシー?だからお前がこれ以上気に病む必要はない。立場?立場ってのはなぁ責任と紙一重だからあればあるだけ面倒なんだよ!だから今の社長ぐらいの肩書きがちょうどいいんだよ!孫?そんなもん最終手段は養子を迎えるでもなんとかなるだろうが!!大体なぁ、血が繋がってたって俺と母上みたいに険悪な親子関係もあるんだから、家族かどうかの基準なんてどんだけ相手を大事に思うかで決まるんだよ!!コイツなら何でも許せる、一緒にやっていきたい、ってそう思える人間と、家族になっていきたいんだ。俺は、他でもない長曾我部元親と結婚して家族になりたいんだよ!!」
 そこで政宗は一息付いたかと思うと元親に向けて掌を差し出す。
「だから、俺と来てくれ」
 苦笑しながら元親は政宗を見る。どこか必死な政宗の表情を見るのは久しぶりだった。
「お前…本当に見ため以上にむちゃくちゃな性格だよな」
 出会った頃には気づかなかった。付き合いを重ねた今だからわかるもの。
だけれども、そんな彼が好きだ。好きになったのは、自分だ。
「…こちらこそ、改めてよろしく」
 自分は今、ちゃんと笑えているだろうか。そう思いながら元親は政宗の掌に自身の掌を重ねた。
 
 
 
もうすぐバスは結婚式場に着く。
政宗からバス代を借りた元親は隣に座る政宗に言った。
「…なぁ覚えてるか。俺達、ここからはじまったんだよな」
 始まりは、元親がバスの中で落とした手帳を政宗が拾ったこと。
 だけれどももう一つの始まりは、自転車に乗る元親を政宗が見つけたこと。
 そして、二人が始めてちゃんとした形で言葉を交わしたのは、同じようなバスの最後尾でのことだった。あれが、本当の意味での始まりだったのかもしれない。
「…覚えてるぜ。まさかこんなに面倒くさい奴だとは思わなかった。…まぁそんなとこも好きなんだけどな」
「言ってろ…こっちこそこんなにギャップある奴だとは思わなかったぜ。…好きだけど」
 そこまで言って互いに顔を見合わせるとどちらからということなく、笑い始めた。
「愛してるぜ、元親」
「…俺だって愛してる」
 そうして、つないだ手を二度と離さぬように、互いに堅く握り締めた。
 
 
ずっとずっと、病めるときも健やかなる時も、一緒にいられますように。
 
二人が式場に戻るのは少しだけ後のこと。
気づけばいつしか雨は止み、空には晴れ間が広がっていた。
 
 
 
始まりは、一つのゲームだった。ゲームは元親の負けで終わった。
 
GAMEOVER
 
だけれども、ここから始まった。
終わりから、始まった。
そしてこれからも、終わることなく続いていく。
 互いが互いを思いやって生きていく限り、それは決して終わることが無いだろう。
 
 それは、ひとつの奇跡のような物語の、通過点にすぎないのだから。












○企画おわったあああああああ。
何故か一番だだ甘になったのは何故だろう。
PR
[535] [534] [533] [532] [531] [530] [529] [528] [527] [526] [524]
色々説明






拍手現在豊臣家転生パロ中学生編入ってます
(現在2本 家三 チカナリです)


注意事項
・フリーリンクじゃないです、基本的にはリンクはお断りしています
・ひっそりこっそりが信条なので、黙々と
・捏造、not公式のこばなしが多いので、スルー推奨


ラキドでは幹部全員を溺愛しておりますが、ベルナルドとイヴァンは特に偏愛。ばさらは家三とか奥州の愉快な仲間達と毛長がメインです。うずみさんが現在官三とか官佐にずっぽりとはまり中。
基本は、愛想のかけらもない「ネット怖い~」の書き手が二人で色々書いている場所です。


書いている人


みっし

・生真面目で堅物でムキムキな男性と一見そうじゃなくても根は真面目極まり ないキャラをこよなく愛している、がんかたうるふの片割れ。編み物とお菓子作りが趣味という、第三者曰く可愛らしい一面を持つ反面、パニクると踊ったり、オロオロしだして周囲は見ていて楽しいらしい。荒ぶる舞は、職場の名物だったりする……らしい。
イヴァンちゃんと片倉さんとシズちゃんとスカイハイさんと陛下を思いっきり愛している。好きなアニメは銀魂と最近はFate/zero。型月ファンというよりは元から虚淵ファンでうずみさんからオススメされまくった末にようやっと手を付けて完読した。ライダー組おいしいです。エクシリアではダントツで陛下が好き。陛下が使用可能になる完全版があるなら複数買いしても構わないとのたまう日々。バサラの好きキャラは片倉さん一強だったはずなのに最近はアニキも熱い。かっちり着込むキャラがすきだったはずなのにいきなり露出度が高いキャラを好きになったのは何故か悩む日々。二次元の向かう愛と同じぐらい甥っ子への愛を叫んでいる気がしてならない。



うずみ
・相方を愛しすぎている変な人。趣味は畑仕事に漬け物作り、好きな物は不幸属性の美人(男女問わず)。ばさらでは石田さんと黒田さんをこよなく愛していたり、赤い子めんこいにゃぁとたまに叫んでいる。

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ばさら垢できました
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