がんかたうるふ 神様なんて、いやしない(毛長・現パロ) 忍者ブログ
こちらはサークル「がんかたうるふ」のうずみとみっしの二人組が、ラッキードッグ1とばさらのこばなしを黙々と投下する場所です。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


ピクでの毛長企画参加作品。
毛利誕生日企画ですが祝っているのかはとても微妙。
前後編の前編。後編は3月14日付近に投稿予定。
それでもよろしければどうぞ。


目指せレイニー止め

書いた人:みっしー




 *****





神様なんて、いやしない。









 運命、という言葉が嫌いだ。
努力も何もかもを超越してしまうとても不条理なもの。

理由はわからない。

だけれども、毛利元就にとって幼い頃からその言葉は何よりも忌むべきものだった。

 









 ある日の放課後。
生徒会活動という名の雑用を手伝わされていた高校2年生の毛利元就が帰宅しようとしていたのは既に19時を回ろうかという時間だった。
卒業式が終わり、あと数日で終業式という今となっては生徒会の仕事は増える一方だ。
ほどほどで切り上げようとしていたがそれでも結構な時間になってしまった。

3月とはいえ未だに日が落ちると寒さが厳しい。
寒がりに分類されるであろう元就は身震いさせながら1人で自宅への帰路に付こうとしていた。そして、たまたま元就は自宅近くのコンビニに立ち寄ろうかとしていた、その時だった。
コンビニの入り口に佇む、その男を見つけたのは。


 
 その男を見たとき元就は、男だけが周囲から浮き彫りになっているそのように思えた。

美術館の絵画やあるいは他の展示物のように、本来であればその場にあるべき物ではないものが混ざっているかのような違和感を感じる。元就と同じ高校の制服を纏った彼は、長身とその体躯から人目を引く存在であろう。
しかし一番の要因は銀髪と、閉じた左目に走った大きな傷だろうか。
 そして何よりもその存在が酷く儚いものに見えた事が印象的だった。
男はふと目線を横にずらし、元就と目が合った。
その瞬間、男は信じられないようなものを見る目で元就を見た。
(…何者だ?)

元就と同じ学校の生徒のようだが今まで会ったことはない。
彼のように目立つ生徒がいればすぐに生徒会、特に庶務が目を付けているはずなのに珍しい、とふと思った。

その時、銀髪の男は酷く慌てふためいたような様子で元就に駆け寄ると、そして意を決したように言った。

「……ごめん……!!」

目の前で見知らぬ人間に土下座された時、人はどう行動をとるべきだろうか。

①他人のふりを貫き通す②心の底から罵る③踏みつける
元就が選択したのは③だった。

「…貴様、人にいきなり土下座するなど、我になにかやましいことでもしておるのか…」
「やましいことなんてねぇけど、俺はお前に謝らなきゃいけないだけで…って踏むなぁぁぁぁ!!」
 地面に伏していた男が顔を上げる。
よくよく見ると右目は青く、より人形めいた顔立ちを確かなものにしていた。
会ったことは、ないはずだ。会ったことがあればこのような男を忘れるはずが無い。
「…失せろ不審者。」
「…ちょっ!?待てよ!!いきなりそれかよ!!」
男はなにやら必死だが元就にとっては知ったことではない。
「そもそも我は貴様のことなど知らぬ。知らぬ人間から謝られる謂れなどないわ。」
「あんたには無くても俺にはあるんだよ!!」
そういって立ち去ろうとした元就を男はその肩を掴んで、必死に引き止める。
悔しいかな、体格では元就を軽く凌駕する男によって元就の行動は簡単に阻まれてしまった。
「俺は…元親。あんた、毛利元就だろ?」
「…そうだが、それがどうかしたのか?」
元親と言う名を聞いても何も浮かばない。この男は何がしたいのだろう。
その手を離せ、と言おうとした所で元親と名乗った男が再び口を開く。
「……そっか。わかんねぇんだ。そうか……」
なにやら呆然とした様子でそう言ったかと思うと、肩を掴んだ手が離される。
「…悪かったな。じゃあ」
「…待て、貴様!!」
言うが早いが元親と名乗った男は駆け出し、呼び止める元就の声にも気が付かないのか、そのまま見えなくなってしまった。

残されたのは、毛利ただ1人。
「何だったのだ…あれは。」
 知り合い、なのだろうか。
だとすればあんな派手な容姿の人物、覚えているはずなのだが…。
そんな釈然としない思いを抱えたまま、毛利は当初の目的を果たすためにコンビニに足を踏み入れた。






 帰宅後、同じ生徒会役員である半兵衛からのメールに気が付いた元就は、その文面を見て思わず顔を顰める。
『新聞部の企画で生徒会役員の今昔っていう特集で昔の写真を使いたいんだって。突然で悪いんだけど明日厳守だからよろしく。』
「…くだらんな」
しかし、だからといって持っていかなくては、大谷や竹中からいじられて面倒な事になるのは目に見えている。仕方ないとばかりに元就は自室のアルバムを確認することにした。
幼少期のものは両親が整理してくれているはずだが、そういえば見返したことがなかったな、と元就は思い出す。
そうしてアルバムを見ているうちに不思議なことに気が付いた。
「…少ない、な。」
赤ん坊の頃は山のようにあり、小学校入学後のものもそこそこの量がある。
だが幼稚園時代の写真はほとんど無かった。
よくよく見れば小学校の1年生のときの写真も少ないようだ。
「…紛失でもしたのか?だが…この部分だけ無いとはおかしな話よ…」
少しの違和感を覚えながら、元親は当たり障りのない写真を選んで持っていくことにした。
後で両親にでも聞いてみよう、そう思っているうちに忘れてしまうのだが。





「能島さんちの鶴ちゃんが入院したんですって。」
「入院…」
 翌朝、朝食を摂っていた所、出勤前の母から話しかけられた元就は思わぬ名前を耳にする。

能島鶴姫。近所のピアノ教室の先生である女性。
昔はよく遊んでもらっていたらしいのだが、あまり覚えていない。
ただ非常に元気で、元気を絵に描いたような彼女が何故入院したのだろうか、と思った所、母から聞かされた答えは案外簡単なものだった。
「なんでもスクーターの運転に失敗して転んで骨折したんですって。念のためしばらく入院するみたいよ。」
「…なるほど。」
「そう。総合病院の整形外科に入院してるみたいだから明日にでもお見舞いに行って来るわ。だから明日はいつもより遅くなると思うから、よろしくね。」
「構わん。」
元就の返事を聞いたのか聞いていないのかわからないが、母親はあわただしく出勤してしまった。サラリーマンである父も既に出勤しており、いつものことではあるが、自宅には元就だけが残されていた
 そうしてふとカレンダーを見やると、今日が3月14日であることが記されていた。
「…そういえば今日か。」
世間一般にはホワイトデー、そして元就個人にとっては誕生日でもあった。
 彼は今年で17歳になる。
最も、元就自身は誕生日が嫌いだった。お祝い全般が特に、嫌いだった。
それを知る両親は、派手に祝うことをせず、精々プレゼントを渡してくれるぐらいだった。
誕生日が嫌い、と言い日付を伝えるとホワイトデーと同じ日だから嫌いなのか、と相手が勝手に解釈してくれているので特に訂正もしていない。

 昔から、誕生日は憂鬱な思いで過ごしていた。
そういえばいつからだっただろう?誕生日が嫌いだと思い始めたのは?
「…くだらん。」
何年も考えた答えの出ない答えを求めるよりは、別なことをした方が有意義だ。
そう考えた元就は手早く片づけをして、早めに登校することに決めたのだった。





 登校途中の元就は、見慣れた公園で見慣れない人影を見つける。
昨日の土下座男―元親とやらがぼんやりとした様子で公園の入り口に立ち尽くしていた。
「…サボリか?貴様…」
「うおっ!?」
思わず元就が声をかけると、元親は過剰なまでに驚いた様子を見せる。
そして元就の顔を見ると、非常に気まずそうに視線を逸らした。
「…びっくりしたあああああ…誰も話しかけてなんかこねーと思ってたし…。」
「それだけ目立つ格好をしていたら嫌でも目立つわ。」
元親の格好は元就と同じブレザーの制服だが、身につけている人間が違うだけでこうも雰囲気が異なるものか、と正直感嘆した。
 暗かった昨日はよく見えなかったが、ネクタイは外しているし、だらしなく着崩している。しかし上背があるせいか、その顔立ちのせいかとても見栄えする容姿だった。
「…気に入らん。」
「いきなりそれ!?俺何も言ってねーけど!?」
自身の細身の体格を気に入っていない元就にとっては、元親の体格は羨ましい反面、恨めしいものでしかない。
「我の前に立った貴様が悪いわ。」
知らなかったとはいえ元就の自尊心を傷つけた元親が悪い、元就の思考回路は実にシンプルなものだった。だがその思考の飛躍振りを知らぬ他者からすれば、何でそんなことを言うのかがわからない、と思われても仕方が無い。
 そして。今この状況も例外ではなかった。
「しらねーよそんなの!!」
強気な口調とは裏腹な心底困り果てた表情の元親を見て元就は思わず笑みが零れる。

―なんというか、とても、面白い。

 ここまで全うな反応を返されるとどんどんつついていじり倒したくなってしまう。
元就は、自分が思っていた以上にSっ気があることを改めて認識した。そして、同時に不思議に思う。昨日出会ったばかりの、それも自分に対して不審な行動をした人間だというのに、何故か元親に対しての嫌悪も不審も無かった。それが一番不思議だった。

「…あんたあれだろ…性格悪いだろ!!」
半分涙目になりつつ元親がギッと元就を睨み付けるが、その態度が尚更元就の嘲笑を誘う。
ガタイは良いのに何故ここまで弄りたくなるのか、実に面白い。
「だったらどうした。別に他者に迷惑は掛けておらぬが?」
そう伝えると元親はうぐぐと唸った末に押し黙る。

 どうしてだろう、この男を、元親を翻弄するのが楽しくてたまらない。
これが愉悦というものだろうか。
今の自分は心底楽しい表情を浮かべているに違いない。
心底歪んでいるという自覚はあるが、自分でどうこうできるものではない。
むしろここ数年では珍しいぐらい、楽しんでいるという自覚のほうが強かった。

「がーっ!!っていうか俺でからかってる場合かよ!!学校は!行かなくて良いのかよ!!」
さすがにからかわれていると認識したのか、元親がしびれを切らして怒り始めた。
「ふむ、そうだな。」
かなり早めに家を出たので時間に余裕があるとはいえ、さすがにそろそろ行かなくてはならないだろう。
「貴様は行かんのか?見たところ同じ高校のようだが。」
「え!?…あーまー…うん…」
逆に元親に問いかけたところ実に歯切れの悪い返事が返ってきた。
「やはり…サボリか、貴様…」
「ぎゃー!!ギブギブ!!首根っこ掴むなああああああ!!」
 瞬間、逃げようとした元親の首根っこを掴んで取り押さえる。
身長差はあれど、力では元就も負けてはいない。そうしてようやく逃れられないと自覚した元親はぐったりとうな垂れた。
「…一応、生徒会役員として見過ごせぬな…普段は別だが。」
「普段はってなんだよ!?普段見逃してるなら今日は見逃せよ!!」
「無駄口叩くな、行くぞ」
さすがに首根っこを引っ張って歩くのは骨が折れたので、ブレザーの袖口を思いっきり引っ張って移動することにする。
「ちょ…俺がいったって…」
「うるさい、黙れ」
あれこれ理由を言い募ろうとする元親をばっさりと一等両断する。
そうしているうちに元親は一言も言わなくなった。どうやら諦めたらしい。

 微かに触れた手が、とても冷たかった。





「着いたぞ」
「…本当にずっと引っ張ってきやがった」
 公園から歩いて20分ほどかけて、元就と元親は学校の前にたどり着いた。
 元親と出会ったことで時間は取られてしまったが、それでもまだ授業開始時間には余裕がある。
「ここまで来たからにはさぼることもできまい」
そう言いながら生徒玄関まで袖口を引っ張って連れて行く。
「…なぁ。なんであんたそんなに俺を学校に連れて来たがったんだ?」
恐る恐るという様子で元親が問いかける。だから元就はこう言った。
「嫌がらせに決まっておろう。」
「…性格歪んでるけど、やってることは本当に歪まねぇのな!!」
はぁ、とため息をつくと元親は堪忍したかのように校舎内に足を踏み入れた。
「逃げるなよ。」
「逃げねぇよ!!その辺ぶらついてくるだけだ!!」
そう言って元親とは玄関先で別れた。

 生徒玄関前に掛けられた時計をみると時間は7時50分になろうとしていた。朝練のある部活に所属していなければまだ登校していない生徒も多いだろう。予習は昨日のうちに済ませているし、教室で読書でもしよう、そう考えながら元就は自身の教室へ向かうことにした。
そうして廊下を歩きながら、そういえば元親の学年とクラスを聞くのを忘れていたことに気がついた。

-まぁ次に会った時にでも改めて聞けば良いだろう。
そう考えていた。





 それからやや経ってからの昼休み。

 元就は同じクラスであり生徒会役員でもある大谷に引きずられる形で生徒会室を訪れていた。室内だというのに目深にかぶったパーカーのフードが印象的な彼は大谷吉継という。
生まれつき日光が苦手という彼は真夏でも室内でもほとんど素肌を晒すことがなかった。
そんな大谷と共に自身のかばんを持ったまま元就は並び、歩き、そして言った。

「我は行くとは言っていないぞ、大谷。」
「主の答えは聞いておらん。竹中の要望よ。」

 竹中とは副会長の竹中半兵衛のことである。
線の細い外見に似合わない強引な手腕で実は生徒会一の男前ではなかろうか、と一般生徒からは噂されているらしい。恐らくは昨日メールで来た昔の写真を持って来い、早く。という意味も込められているのだろう。そして最も確実性を高くするために大谷を使った、というわけだ。
―全く、身勝手な男よ。
そう思っているうちに教室のある3階から2階の生徒会室まで移動した。

 生徒会室は基本的に生徒会役員であれば常に出入りすることが出来る。
というわけで役員連中は昼食をここでとることが多かった。
なんていったって大谷が持ち込んだソファーあり、毛利が持ち込んだポットあり、竹中が密かに持ち込んだテレビとパソコンありである。
こんなに校内で優遇されている空間は他にないだろう。

 扉を開けるといつもよりはいささか少ない人数が二人を出迎えた。
「今日は些か少ないようじゃなぁ?竹中?」
漆塗りのお弁当箱を開けて自身の昼食を食べ始めていた竹中半兵衛に大谷が問うた。
「二人が来るの遅かったからじゃないかい?まぁ秀吉は先生に呼ばれてるから、って早めに食べて行っちゃったよ。三成君は今日はお休み。おうちの事情だってさ。」

 秀吉とはこの学校の生徒会長である豊臣秀吉のことである。
巨漢で厳つい外見で敬遠されがちだが、腹を割って話せば意外に通じる相手として有名である。
 もう一方の三成とは、一年生ながら生徒会役員を務める石田三成の事である。
豊臣の中学時代の後輩で、彼を慕う人間の1人だ。思い込んだら一直線な所があり、毛利個人としては使い辛い人間だった。それ故、同じ生徒会役員ではあるがあまり交流はない。

「…なるほどな、それで主と黒田しかおらんというわけか。あいわかった。」
 竹中の正面で黙々と茶を啜っているのは1人の大男。やけに長い前髪のせいでその素顔はようとして知れない。
名は黒田官兵衛。れっきとした生徒会の庶務である。
「…黒田…それは弁当か?」
「…小生には触れんでくれ…まさか弁当を家に忘れてくるとは…!!」
どうりで生徒会室に置いてあるお茶しか飲んでいないとは。
 この黒田、運の無さというか間の悪さにも定評のある男である。
今日もそれにもれず、弁当を家に忘れてきたのだろう。
「一応お金貸そうか?って聞いたんだけどね…また借りたお金落としそうだからいやだって断られちゃって…おなか減るからお茶飲んで過ごすってさ」
「…相変わらずだな、黒田」
 この男、本当に運がない。
実力も目の付け所も人をぬきんでているというのに心底運のない男だった。というか自分で運を突き放している気がしなくも無い。
「仕方ないので我のおやつのみかんをやろう。倍返しするが良い。」
「倍返し要求ならいらんよ!!」
そして傷口に塩を塗り込むのが大谷であり、毛利はそれを傍観しているのが常だった。





「それで、みんな持ってきてくれたかな?」
昼食を終えた元就と大谷、そして黒田に竹中が笑顔で問うた。
「おお、写真であったな。ほれここに。」
そういって持参した鞄から大谷は数枚の写真を取り出す。そういえば、と言いながら黒田も同様に取り出す。
元就も、自身のカバンから写真を取り出し、竹中に渡した。
「ありがとう。三成くん以外はこれで全部だよ。ご協力感謝します。…でも新聞部も大概おかしな企画を持ちかけるねぇ、生徒会役員のいまむかし、なんてさ。」
「今の新聞部は何をやりたいのかようわからんのう…確か、猿飛とやらが部長であったが。」「まぁ調べても面白いことなんて出てこないと思うけどねぇ」
そう話しながらみんなで写真を確認していた竹中は、ふと毛利から渡された写真を見て動きを止める。
「あれ?毛利君のはそれだけかい?」
「…よくはわからんが、昔のアルバムは抜けが多くてな、かろうじて見られるのはそれぐらいだった。」
 昨日の夜、アルバムを見たところ、幼いころの写真は極端に数が少なかった。
両親は多忙だったから、そのためだろうか。
特に幼稚園から小学校入学にかけての写真はごっそり抜けていた。
そのことに少々不自然さを感じながらも、いつもはそれ以上は深く考えなかった。


 だが、黒田が持ってきていた写真を見た瞬間、元就は頭の底の何かが動いたような気がした。
「黒田…この写真はいつのものだ…?」
「ああ?小生のか?確か…小学1年生の時に通わされてたピアノ教室の発表会だ。」
ピアノ教室発表会、と記された看板の横にはピアノ教師と思しき女性と子供達がたくさん写っていた。少年時代の黒田は似合わないブレザーに赤い蝶ネクタイを着けられ、思いっきり不機嫌そうな表情で写っている。
「…ぬしはこんな時ぐらい笑わぬのか。」
「嫌で嫌で仕方なかったんだからしょうがないだろう!?最終的には6年間習わされててうんざりだったんだよ、小生は!!」
大谷と黒田のやりとりをぼんやりと頭の隅で捉えつつ、元就の視線は写真の一点に目を奪われる。

それは写真の隅に写るセーラー服を着た茶髪の少女と礼服を着た銀髪の子供だった。
特に日本人離れした容姿のその銀髪の子供は、どこかでみたことがある、ような気がした。
「黒田、こやつは誰だかわかるか?」
そう問うた元就に対し、黒田は写真を確認するが、返ってきたのは「…知らんね。」という素っ気ない返答だった。
「結構人数が多かったからなぁ…発表会ぐらいでしか会ったことのない子供も結構いたんだ。」
銀髪の子供もその1人で、黒田も直接話した事は無かったが、容姿が容姿なので人目を引いていたらしい。
「…ま、次の年からそいつは出なくなっちまったがね。辞めたのか、引っ越したのか、小生は知らんが。…今見ても目立つなぁ…」

黒田の言葉に、元就は胸の鼓動が早まっていく自覚があった。



元親という名前。
10年前の写真。
不自然に抜けた自分のアルバム。
一年後には来なくなっていた銀髪の子供。



―頭が割れるように痛い。何だ何故だこの痛みは一体なんなんだ…!?

突然頭を抱え込んだ元就を案じる声が周囲を囲む。
「毛利くん!?どうしたんだい!?」
「…これは…医務室に連れて行った方が良いのではないか…もしくは黒田、呼んでこい」
「毎度毎度小生かよおおおお!?…って言ってる場合じゃないな…仕方がない」

だが周囲の声よりも、元就の脳裏に、ある光景が浮かび上がる。


『そんなこというもとなりなんか大っ嫌い!!』
『我こそそんな事をいう―なぞ大嫌いだ!!』

言い争う自分と、銀髪の子供。

泣きながら、自分に告げる年上の少女。

『…あのね、ナリくん。落ち着いて聞いてね、あのね…』

それから

『そんなのが運命なら…私は運命なんて言葉が大嫌いです…』

泣きそうになりながらも元就を抱き寄せてそう言った制服姿の少女。

『元就。-ちゃんの事、覚えてる?』
『?誰だ、それは?聞いたこともないが。』

自分を案ずる様子でのぞき込む両親の姿。それに答えた自分。

なにを、自分は忘れている?

なにを一体忘れようとした?

『ちょっと難しい話になるがね…卿は心に鍵をかけているのだよ。とても深い深い場所にね。』

病院のような場所で自分と両親に話しかける医師と看護師。

これは、いつの記憶だろう。

なにを話しているのだろう。

『…-が、世話になったね元就君。…もう会うことはないと思うけど、元気でね。』

悲しげに笑うこの人は、誰だっただろう。

『…ナリくんは…本当にそれでいいんですか…?』

泣きながら、自分に言った、年上の幼なじみ。。

-なにを?

『チカちゃんのこと、覚えていなくていいんですか…!?』

-そうだ。

満開の桜の木の下で、鶴姫は泣きながら言った。

『ナリくんが忘れちゃっても、私は絶対に忘れません。
…ずっとずっと覚えています…チカちゃんのこと、無かったことになんてしません…!!』


やっと、おもいだした。


ずっと忘れていた、大切なこと。

お前は、本当はずっと知っていたんだろう?

知っていて、黙っていたのだろう?

「…もとちか…」


その言葉を発したのを最後に、元就の意識は深い闇の中に落ちていった。





気が付いたとき、元就は保健室のベッドで横になっていた。そう気付いたとき、隣から声がかけられた。

「…よぉ、調子はどうだ」
「貴様か…」
そして逆側のベッドには元親が腰掛けて、まるで元就を見守るかのように座っていた。

「あんたさっきぶっ倒れて、養護の先生の指示で、でっかいにーさんに運ばれたんだよ。」
「…だろうな。」

 あの場にいた面々の中で己を運べそうな人間など黒田しかいない。さぞかし文句をいいながらも最終的には運んだに違いない。そういう男だ、あれは。
元親は続けて話す。
「養護の先生は、よその学校に打ち合わせあるから、っていっちまった。寝不足のせいじゃないか、って言われてたぜ、あんた。」
よくよく見ると元就の鞄やコートが一式まとめて置かれていた。
「休んでも良くならなかったら帰れ、ってさ。」
ふと腕時計をみやると時刻は13時15分を差していた。昼食が終わってすぐに頭痛に襲われたため、結構な時間休んでいたことになる。
「…貴様は行かぬのか…」
そう元就が呟くと、元親は気まずそうな顔を見せる。
「…俺は…えーと…その…」
なんとも困ったようなその表情は、昔のままだと、元就は思った。

「…今更、どうやって我の前に顔を出せた。…チカ。」
そう呼ぶと、元親の目が驚きで見開かれる。
しかし、その直後、困ったように眉根を寄せて、笑う。

「…そっか。思いだしちまったか。」


長曾我部元親という生徒は、この学校のどの学年にも存在していない。
なぜならば、彼は


「…死んで10年経って、何で今更出てこられたのか俺もわかんねーんだよ…。」
そう言って、また困ったように笑う。


 元就の知る、長曾我部元親は10年前の3月14日に亡くなっているからだ。


 当時小学生だった元就と同じ年齢だった彼は、決して今のような姿ではなかった。
線の細い、女の子と見まがうような少年だった。
チカちゃん、そう呼ばれていた。元就にとっては幼なじみで唯一無二の親友。
ピアノが好きで、絵を描くことが好きで、手先が器用だった少年。
交通事故で亡くなった、はずだった。なのに何故、その元親が成長した姿で己の目の前にいるのかが元就にはわからない。


ぽつりぽつりと元親がゆっくりと、慎重に言葉を紡ぐ。
「…事故に遭ってから、自分でも何がどうなったのかよくわかんねぇ。父さんと母さんに会いたいとか色々考えたはずだけど…一番に思ったのはお前に会いたい、って気持ちだった。」
そう話す元親の顔はとても穏やかだった。

 銀髪に、青い目。左目周辺の傷痕が痛々しかったが、それでもなお元親は綺麗だった。昔と何も変わらない。
そう思いながらベッドから起き上がった元就はじっと元親を見つめる。
元親は再度、言葉を続けた。
「それから随分時間が経ったんだろうな…気がついたら、この格好になって、お前に会った、あのコンビニにいた。」
「…どうして…」
元就の言葉に対し、さぁなと元親は答える。
「どうしてかは、俺もわからねぇ。…だけど、俺はお前に謝らなきゃいけなかった。それだけはわかったんだ。」
―だから、出会うなりに謝ったのか。
だけれども、元親の事を忘れてしまった元就には何もわからない行動に過ぎなかった。
「…お前が俺の事わかんなくて正直ショックだった…でも当然だよな。いきなり土下座するのもあれだったし、そもそも昔の俺はこんな図体じゃなかったわけだし。」

悲しげに笑う元親に違う、と伝えたかった。だけれどもうまく言葉が出てこない。

「お前の前から逃げ出して、気付いたらあの公園にいて…そこで色々思い出して、気付いたんだ。自分がもう死んでるって。…お前以外の誰からも、俺は気付かれないって。」
 存在を認識されない存在。
それが今の元親の正体だった。
「すぐ消えたくて仕方がなかった。でも消えないで一晩経って…お前は、あの時俺に声をかけてくれた。それに…元就は今は思い出してくれただろ?…俺はそれで十分なんだ。だから…」
―もう消えなくちゃならない。

 そう呟かれた元親の言葉に、元就は目を見開く。
「…いま、なんと…」

死んだはずの幼なじみが、幽霊になって自分に会いに来た。
自分に謝る、ただそれだけのために。
奇跡のような、まるで普段の元就であれば一蹴してしまいそうな話。

だけれども、これは現実だ。
少なくとも、今の元就にとっては。

ベッドから立ち上がり、恐る恐る元親の手に触れる。

触れた手は、やはりとても、冷たかった。
手から動かし、やがて元親の顔に触れる。そしてじっと、元親を見る。
青い瞳は、あの頃と変わらず、美しかった。
そうして目の前の元親は、優しく、とても悲しそうに笑った。
「わかるんだよ、自分の事だから。…お前が思い出してくれたら俺は消えるんだ。今いるべき所に帰らなきゃ行けないんだ。」
元親の今いるべきところが、どこなのか元就には検討も付かない。だけれども、ただの人間である元就がいける場所ではないことだけは確かだった。
「…ずっと悪いことしちまったなぁ…俺が無意識に謝りたい、会いたいって思うばっかりに…でもそれもこれで終わりだ。」
誰に対していうでもなく呟いた元親はそうして元就の手の上から己の手を重ね、笑って言った。
「…俺、でっかくなっただろ?…昔、言ったとおりだったな。俺は、大きくなったら、ナリよりでっかくなるんだ、って…」
「そう…だったな」

幼い頃、元親は元就よりも細身で小柄な少年であり、元就にとっては庇護すべき対象だった。それでも、元親にとってはそれが不満で『おれはぜったいナリよりでっかくなるからな!!』と常々口にしていた。

今となっては、昔の話だ。全て。
現実には叶うはずの無かった、夢の続きを見ているだけなのだ。

それだけだというのに、元就の目には涙が浮かぶ。
―元親が生きていれば、今でも己の隣にいたのだろうか。
仮定の話を考え続けるのは非生産的な事柄であり、普段の元就であればもっとも嫌う事柄である。だけれども、今この瞬間だけは、この行為を許して欲しかった。
誰に許しを請う訳でもなく、元就は願った。
少しでもこの時間が長く続くことを。




「…最後の日のこと覚えてるか?喧嘩したんだよ、俺とお前が。」
ベッドに座る元親の前にしゃがみ込むような形で佇んでいた元就に対して元親が声をかける。その表情はやはり、一度死んだ人間とは思えないほどに穏やかなものだった。
「……先ほど…思い出した。」

声が、うまく、出てこない。
頼むから、どうか。今だけは普通に喋らせてくれ。
そう思う心とは裏腹に、こみ上げる涙を抑えることに必死な体は言うことを聞かない。
そんな元就の心境を見透かしたかのように、元親は床に座り込み元就と視線を合わせるとその頬に手をやった。
元就の顔をのぞき込むその顔は、成長してもなお、幼い頃の面影を残していた。

「…『大嫌い』って言って、謝れなかったことを後悔した。一緒に誕生日を過ごせなくてごめん、ってそう言えばよかったのに。」

それが、元親の後悔の原因。
10年経っても尚、幽霊として元就の前に現れた理由の一つ。

「大嫌いは嘘だよ…俺はずっと、元就が好きだった。」
そうやって穏やかに笑う彼は、幼い頃と変わらなくて、とても、とても、綺麗だった。
元就の手に頬に触れる冷たい手が無ければ、彼を生きている存在だと思えただろう。
「……我とて…そなたの事は…嫌いでは無かったわ…」
―もう駄目だ。溢れる涙が止まらない。
きっと今の自分は酷い顔をしているだろう。わかっているのに涙は止まらない。
「…泣きたいときは腹の底から泣けば良いだろー。…お前のそういう所、昔と全然かわんねーな…」
冷たい手で元就の涙を拭うと元親はまた、困ったように笑う。
「…でも、良かった。」
そうして彼は、心の底から安堵するような表情を見せた。


そう言うが早いが元親の姿が少しずつ透け始める。元就の、目の前で。
もう時間が無いのだと、それだけはわかった元就は目の前の元親に対して必死に声をかける。
「…待て…まだ話したいことが…!!」
「悪ぃ…もう時間切れだ。」
折角会えたのに、またいなくなってしまう。
大事な、たった1人の存在なのに。
「…元親!!いくな!!我はまだ…何も返せていない!!」
「俺は…お前が元気で生きていてくれたら、忘れないでくれたら、それでいい。…でも…ずっと一緒にいたかったよ、お前と。」
そう言いながら笑う元親の姿はもう朧気にしか見えない。さっきまでは目の前にいたのに。
「…忘れるものか…決して…忘れなどせぬ…!!」
だけれども元就の痛切な叫びとは裏腹に元親の姿は徐々に消えていく。

―姿は変わっても、例えお前を覚えていなくても、俺はきっと会いに行く。

―だから、今度はお前が俺を見つけてくれ。

そして声が途切れたかと思うと、小さな呟きが聞こえた。

―誕生日おめでとう、元就。

―運命を恨むなよ。俺は幸せだったから。


それが、最後の言葉だった。

頬に残った冷たい感触を最後に、元親は消えた。


「元親…」
誰もいなくなった保健室で、元就の呟きが響く。

さっきまで目の前にいた元親は、もういない。

「元親……!!」

誰もいない保健室で、元就の慟哭の声だけが響いていた。泣きじゃくるその声を咎める者も、疑問に思う者も誰もいない。


幼なじみの幽霊は、最後まで優しく笑んだまま、消えてしまった。


何も知らなければ、何も感じないままならば気がつかなかった。

元就がずっと忘れていたもの。

それはあまりに優しく、そして悲しい記憶だった。














○とりあえずここまで。
続きは当日前後にアップします。

PR
[478] [477] [476] [475] [472] [471] [470] [469] [467] [464] [462]
色々説明






拍手現在豊臣家転生パロ中学生編入ってます
(現在2本 家三 チカナリです)


注意事項
・フリーリンクじゃないです、基本的にはリンクはお断りしています
・ひっそりこっそりが信条なので、黙々と
・捏造、not公式のこばなしが多いので、スルー推奨


ラキドでは幹部全員を溺愛しておりますが、ベルナルドとイヴァンは特に偏愛。ばさらは家三とか奥州の愉快な仲間達と毛長がメインです。うずみさんが現在官三とか官佐にずっぽりとはまり中。
基本は、愛想のかけらもない「ネット怖い~」の書き手が二人で色々書いている場所です。


書いている人


みっし

・生真面目で堅物でムキムキな男性と一見そうじゃなくても根は真面目極まり ないキャラをこよなく愛している、がんかたうるふの片割れ。編み物とお菓子作りが趣味という、第三者曰く可愛らしい一面を持つ反面、パニクると踊ったり、オロオロしだして周囲は見ていて楽しいらしい。荒ぶる舞は、職場の名物だったりする……らしい。
イヴァンちゃんと片倉さんとシズちゃんとスカイハイさんと陛下を思いっきり愛している。好きなアニメは銀魂と最近はFate/zero。型月ファンというよりは元から虚淵ファンでうずみさんからオススメされまくった末にようやっと手を付けて完読した。ライダー組おいしいです。エクシリアではダントツで陛下が好き。陛下が使用可能になる完全版があるなら複数買いしても構わないとのたまう日々。バサラの好きキャラは片倉さん一強だったはずなのに最近はアニキも熱い。かっちり着込むキャラがすきだったはずなのにいきなり露出度が高いキャラを好きになったのは何故か悩む日々。二次元の向かう愛と同じぐらい甥っ子への愛を叫んでいる気がしてならない。



うずみ
・相方を愛しすぎている変な人。趣味は畑仕事に漬け物作り、好きな物は不幸属性の美人(男女問わず)。ばさらでは石田さんと黒田さんをこよなく愛していたり、赤い子めんこいにゃぁとたまに叫んでいる。

ついったのフォローは下 のアイコンから。




ばさら垢できました
こんな二人で、ここを更新しております。

ツイッターは基本鍵をかけていますが、フォロー申請してくださったらフォローさせていただきます。
カウンター
忍者ブログ / [PR]
/ Template by Z.Zone