こちらはサークル「がんかたうるふ」のうずみとみっしの二人組が、ラッキードッグ1とばさらのこばなしを黙々と投下する場所です。
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洋菓子店のパティシエ兄貴とその周囲の人々のお話。今回は過去編。
洋菓子店のオーナー政宗とパティシエ兄貴の中学時代から今に至るまでの数奇な関係について。
カッコイイ筆頭はおりませぬ、カッコイイ筆頭はおりませぬ。(大事なことなので2回言う。)
そもそも×というか+の雰囲気だが書いてる人にとっては精一杯ダテチカです。
書いた人:みっしー
*****
洋菓子店アンティークのオーナーである伊達政宗とアンティークのパティシエである長曽我部元親は高校時代の友人である。
仲が良いのか悪いのかよくわからぬ掛け合いをよくしている事が多い。それは従業員一同、皆が知っている事である。だが、実は中学時代からの知り合いである事。もっと言えば高校卒業直後からはある事情により二人の交流が途絶えていた事。さらにはアンティーク開店をきっかけに二人が再会したことまでをも知っている人間は、非常に少ない。
これは、そんな、むかしのはなし。
きみと、いっしょに~親友の話~
伊達政宗は裕福な家に生まれ、何不自由なく育った少年だった。
父方の祖父が銀行家で、父親は企業の社長、母親は名家の令嬢。そんな環境にて政宗は育った。
10才の時に、病気で右目を失い、母親がやや過保護になったことを除けば。
それから数年、政宗は私立中学の一年生になっていた。
整った容姿、さらには運動も勉強も出来る政宗の周囲には常に人がいた。人当たりよく振る舞っていたため教師からも信頼は非常に厚かった、はずだと政宗は思う。
だが、そうではなく、むしろ政宗を意図的に政宗を避けていた生徒も少なからずいた。
長曽我部元親も、そんな生徒の一人だった。
入学してすぐの委員会決めで、楽そうな仕事を探していた政宗だったが、何の因果か図書委員に推薦されてしまったのだった。非常に面倒くさいが、それをおくびにもださずに笑顔で引き受け、政宗はそれを引き受けた。世話係の小十郎によると、政宗様の猫の被り方も堂に入ってきましたな、とのことだ。
―うっさい。あいつ後で悪戯してやろう。鞄にカエルを入れるのはこの前やって怒られたから次何にしようかな。
まさか校内屈指の優等生が、実は悪戯大好きで自己中心的で我が儘なぼっちゃんだとは誰も思うまい。
それだけの猫を被っている自覚が、そしてそれを誰にも気付かせないだけの自信が政宗にはあった。
委員会の顔合わせのため、図書室にやってきた政宗はあまりの人の少なさに暇をもてあまし、近くに座っていた少年に話し掛けた。
「なんか用…?用事ないならほっといて。」
そう言うとぷいっと横を向いてしまった少年を前に政宗は一瞬、呆気に取られる。
腹が立つことは立ったが相手から感じられる、近寄るな、という意思を感じ、思わず口をつぐむ。仕方ないとばかりに政宗は黙って椅子に座り、正面に位置する時計を眺めた。
委員会まであと10分ほどあるが、他の委員は来ていないようだ。
ちらりと目線を隣にやると少年は小難しい本にじっくりと目を通しているところだった。
この少年を、政宗は知っている。
長曽我部元親。
おなじく1年生の男子生徒。
口数は少なく、小柄で細身、華奢な印象を人に与える。
銀髪に青い瞳といった日本人離れした容姿の為か、周囲からは一層の距離が置かれていた。
体が弱く、しょっちゅう保健室に出入りしている。
政宗とは対照的な、普通に暮らしていれば縁の無い少年。
だというに、政宗は入学式に見たこの少年を目で追うことが多かった。否、目が離せなかった。だから少なからず彼の情報を聞いていた。
その長曾我部は政宗の視線にも気付かず、じーっと本を読み続けていた。
やがて人が集まり委員会が始まったが、委員長の話はあまり頭に入って来ず、政宗は長曽我部を目で追い続けていた。
当番決めで、奇しくも同じ曜日の当番になった二人だったが、あまり業務以外の事を話す機会は少なかった。
正確には、長曾我部に対して話かける隙が無かった。長曾我部は業務をさぼることさえ無かったが、もっぱらカウンター内で持参した本を読んで過ごす事が多かった。政宗は政宗で図書室内にある本を片付けたり、あるいは漫画の神様の全集を読んで涙したりしていた。元々図書室を積極的に利用する生徒など少ない。2人だけで会話のないまま図書室で過ごすという時間も多かった。
2人互いに本だけを読んで過ごす時間は、それでも苦ではなかった。
その関係が少しだけ変わったのは、6月の中間テストの後からだった。
いつものように当番の日、図書室を訪れた政宗は、長曽我部がカウンターに突っ伏している所に出くわした。ゆるく上下するその姿からうたた寝でもしているのか、という事が伺える。いつでも背を延ばし、まっすぐな姿勢をしている彼とは違い、やや疲れた様子が垣間見えた。
「おい、大丈夫か…?」
思わず声をかけると、のっそりとした動きで長曽我部が起き上がる。よっぽど眠いのか、とろんとした目をしていた。
「…伊達…?そっか、俺、寝てたのか…。」
いつもであればまず聞かれない、少しだけ柔らかい声で名を紡がれ、瞬間的に胸がざわつくが必死に自分を抑える。
長曽我部はそんな政宗に気づかずに、うーんと言いながら腕を伸ばしてほぐしていた。寝ぼけているせいか、普段の険がなく、どこかぼんやりとした様子だ。そうして元親は手元においてあった綺麗に折り畳んだ紙を手に取り、じっと見る。
「…なんだそれ…?」
いつもであれば、まず尋ねる隙すら無いが、寝ぼけている何となく今なら許されるかもしれない。そう思って政宗が問うと、長曽我部は案外あっさりと答えた。
「テスト…かえってきたやつ。でも、いらないんだ。」
「ああこの間のな…」
そこで政宗は先日行われた中間テストについてを思い出した。
当然の如く政宗は学年一位だった。
ちなみに政宗はほとんど何もしないで好成績を叩き出したため、世話役からは政宗様はもっと苦労をなさるべきです、と説教された。
苦労しなくても出来てしまうのだから仕方有るまい、と思ったのは秘密だ。
政宗は、基本的に何でもこなしてしまう天才肌である。ぶっちゃけると教科書を読むだけでテストは満点を取れる、そういう感じの。
長曽我部はそんなに見るも無惨な成績だったのだろうか。だが、次の言葉を訊いて政宗は一瞬固まった。
「…どの教科でも90点台しか取れなかったから…」
「は…?」
中学生のテストで90点台とはかなり優秀な部類に入ると思われたのだが、長曽我部は困ったような顔をして笑う。
「…俺は馬鹿だから。いっつも言われるんだ。出来損ない、って。」
そう言って折りたたまれたテスト用紙を開くと92点と記されていた。
「…おいおい…中学生にもなってテストで100点以外は認めねぇ、ってか。…相当crazyだな…てめぇの親。」
少なくとも偏差値的に低くはないこの中学において92点という点数は決して悪くはないと政宗は思うが元親とその親は違うらしい。
思わず素が出てしまった政宗の呟きに長曾我部は一瞬驚いた様子を見せる。
「…仕方ないんだよ。」
そう言って彼は、困ったように眉根を寄せて笑った。
そこから少しずつ長曾我部と話すことが増えていった。
当番の日、人気の無い図書室のカウンターで並んで喋る放課後、2人だけで過ごす時間。動物が好きだとか、すんごい人見知りだとか、細かい作業が好きだといった他愛もない事がほとんどだったがそれが政宗には嬉しかった。
なつかない犬や猫に慕われているような、そんな気分だった。
それが続いたら良いと政宗が思っていた矢先の事。
長曽我部が夏休みに入ってすぐ、事故に遇い入院した、との話が隣のクラスの政宗の元にも聞こえてきたのだった。奇しくも夏休みは海外に行っていた政宗がそれを聞いたのは、帰国してすぐ、新学期が始まる直前のことだった。
そうして長い夏休みが終わり、夏休み明けの学校で政宗は彼に会った。
長曾我部が登校してきた日。それは新学期が始まって一週間後のことだった。
放課後、職員室に行こうとしていた政宗は階段の影からふらっと出てきた人影にぶつかりそうになり、慌てて謝罪する。
だが、そこで相手が見知った人物であったことに気がつき声をかけたのだが、
「…お前、本当に長曽我部か?」
「…だったらどうした。」
かつて困ったように笑った少年は、そこにはいなかった。
顔の左半分は包帯で覆われ、白い顔には生気が無いにも関わらず、1つしか見えなくなった青い目だけがギラついていた。
―鬼だ。
密かに噂されるようになった長曽我部の新たな渾名を政宗は頭の中で思い浮かべる。
よく見ると未だ怪我が治りきっていないのか、体の各所に包帯が巻かれているのが痛々しい。一体、何があったというのだろうか。
「…用がないなら、話かけんな」
短くそう言い捨てると、長曾我部はその場を立ち去ってしまう。
残されたのは、呆然と廊下に立ち尽くす政宗だけだった。
かつて同じような意味合いの言葉を言われたことがあった。だけどあの時とは状況が違う。
追いかけて、問い詰めれば何か変わったのだろうか。
だけれども、他者に対して本心をさらけ出せない政宗には、それがとても、怖かった。
出来なかったのだ、なにも。
それから長曽我部は、変わった。
外見を理由に絡んでくる人間は容赦なくのした。
細身だった体は成長期を迎え、僅かの間で体格も変わっていった。
やがて鬼と称される少年に絡む人間はだれもいなくなっていった
そして夏休み明けから図書室にも寄り付くことは無くなり、政宗と元親の接点は途絶えてしまった。
2、3年はクラスが離れていたこともあり、もっと関わる機会がなくなっていった。
政宗は相変わらず校内屈指の優等生として知られており、生徒会長までをも勤めていた。
心底めんどくさいが、猫かぶりでもある政宗は嫌がるそぶりを全く見せずに業務をこなしていた。周囲の友人、教師にすら一切悟らせずに。
それを知っていたのは世話役の小十郎ぐらいだっただろうか。
一方の長曽我部は、学年が上がるにつれて校外で暴力沙汰を起こしただの、近隣の学校の不良集団を一人で潰しただの良からぬ噂ばかりが聞こえてきていた。
最も、学内では問題を起こさず、成績も良かったから教師も手を焼いていたらしい。
そしてその圧倒的な喧嘩の強さから彼に憧れる人間も少なくなかったようだ。
校内でたまに見かける彼は、背をまっすぐにし、大体は1人で歩いていた。
左目は医療用眼帯で覆い、1つしか見えなくなった右目は、いつも遠くを見ていた。
それからしばらくして、内部受験用の試験に合格した政宗は高校に通いだした。
驚くべきことに長曽我部も同じく内部進学をした。更に、何の因果か、二人とも同じクラスであった。
基本的に内部進学者の多い私立学校である。
優等生であった政宗と問題児であった長曾我部のことは大体の人間が知っていた。
政宗は長曾我部と同じクラスになって分かったことがある。
長曾我部が授業に出る態度は存外に、真面目である。
それは彼の斜め後ろになった政宗だけが知っていることであろうか。
居眠りはしないし、ノートも記入している。ただ度々授業開始前にいなくなり、そのまま帰って来ない事もあった。教師は事情を知っているのかそれとも問題児が怖いのか、特に問い詰めるようなことはしていなかった。
しかし、思った以上に真面目な長曾我部の態度に政宗は愕然とした。むしろ一度読んだだけで大体覚えられる、という理由で授業中は大体気づかれていないように寝ている自分とは雲泥の差ではないだろうか。
休み時間や放課後は気がつけばいなくなっている。
中学時代よりは喧嘩した云々の話を聞かなくなったので何をしているのかは一切知らない。ここまで調べたところで政宗はふと気がついた。
そもそも自分は数年前に委員会が同じだっただけの男を何故に延々と追いかけ続けているのだろう。それも何年も、気付くと彼の情報を集めている自分がいる。
―やばい。俺storkerまんまじゃねぇか…!!
自宅でその事実に気がつきショックでのたうち回る政宗に対して、見かねた世話役の小十郎は言った。そんなに気になるのでしたら、思いきって一度腹を割って話してみては?と。
それは怖い。
本心を伝えると、母のように豹変してしまうのではないのか。
それがずっと怖かった。だから政宗は表向き円滑な人間関係を築けても、実際は表面上の関係しか作れない。
政宗だって昔はこうではなかった。
やりたいことをやりたいようにやり、何でも思ったまま口にする、わがままな面はあれどごく普通の子供だったのだ。
それが出来なくなったのは、自分が右目を失ってから母親の目が、怖くなったからだ。
自分が本当にやりたいことを口にすると、母親は、おかしくなる。
『そとはあぶないでしょう』『ずっとここにいればあなたはなにも傷つかなくていいのよ?』『わたしのだいじなまさむね』
そう言って母は政宗を、愛情という名の枷でがんじがらめにした。
だから政宗は、母の前で、やがては家族の前で、学校で、本心を伝えることを止めた。
やがて母親の異常に気がついた父親が母親を入院させるまでの数年間、生きた心地がしなかった。
そして、父親の部下である片倉一家が住み込みで自分の面倒を見てくれるようになったのだ。それが中学入学前のこと。今では一家の息子である小十郎は自分とは10才も年が離れているが、何でも気兼ねなく話せて信頼に値する、数少ない存在だ。
父親は時間を見て、様子を見に行っているようだが、政宗は、もう何年も母親とは会っていない。
母親が入院し、家に帰ってこられなくなった今でも、政宗は母親が怖かった。
それが起因となり、今でも人に本心を明かせない。猫被りと呼ばれても良い。それしか出来ないのだ。
表面上は数多の人間に囲まれていても、政宗は結局は1人なのだ。
本当に気兼ねなく話せるのは父親と数人の関係者のみ。
―そんな自分が、顔見知りというだけの関係である長曾我部と腹を割って話せる訳が無い。
そして何よりも、かつて、容易に踏み込まれることを拒否した長曾我部の姿がよぎる。
こうして世話役の助言も空しく、政宗は解消できないもやもやを抱えて過ごしていた。
そんな政宗のもやもやは、たまたま用事があって訪れた家庭科準備室で、転機を迎える。
それは、連休明けの5月のことだった。
「まつ先生、島津先生から書類を預かってきました。」
政宗のクラスの副担任は家庭科の先生で前田まつ先生と言い、良妻賢母を絵に描いたような人だ。
「まぁ、伊達君。わざわざありがとうございます!!」
そう言ってにこやかな笑顔でお辞儀しながら書類を受け取る。
本当に、裏表無い爽やかな微笑みだった。
「何か良い匂いがしてきますね…?」
廊下を歩いている時から気になっていたが、なんとも甘い香りが漂っている。
この学校には料理部があるからそれの活動日であったのだろうか。
疑問符を浮かべた政宗の表情に気がついたのか、まつ先生はなんとも楽しそうに笑って言う。
「ふふ…行ってみましょうか?」
「え?いいんですか?今日は料理部の活動なんじゃ…」
そう政宗が言いかけた所で、先生はそれを否定する。
「いいえ。今日は料理部ではない生徒さんに調理室をお貸ししています。」
…それって尚更、行かないほうがいいんじゃ…そう思い始めた政宗だが「さぁさぁ参りましょうか」と穏やかながらも力強いまつ先生に引っ張られる形で準備室から調理室に足を踏み入れた。
「…長曾我部……?」
そこにいたのは、校内屈指の問題児でありクラスメートでもある長曾我部元親だった。
「…って伊達!?…まつ先生!!なんでこいつまで連れてきたんすか!?」
政宗は呆然と長曾我部を見やる。
何故に長曾我部が可愛いひよこ柄の入ったエプロンを身につけて、調理室備え付けのオーブンから焼きたてクッキーを取り出したと思しき現場に出くわしているのだろう。
―どうしてこういう状況になったのか、訳がわからない。
それが正直な政宗の感想だった。
「美味しいものはみんなで食べたほうが美味しいですよ?」
「…でもセンセー…クッキーは冷めたほうが美味いと思うんすけど…。」
「もう一品、完成させているでしょう?」
「…う…わかりました…。」
事情を知らない政宗からするとまったく要領を得ない会話だが、まつ先生と長曾我部では通じるらしく、やれやれといった様子で長曾我部は調理室備え付けの冷蔵庫に赴く。
「…時間無くて市販の生地を使ったから、味は保証しませんよ?」
そう言いながら、長曾我部は何やら大きな皿を取り出してくる。
そうして目の前に出されたそれは、色鮮やかなイチゴのタルトだった。
赤いイチゴの下にはカスタードクリームが敷き詰められ、一番上にはミントの葉があしらわれている。
それは誰がどう見たって美味しそうなタルトだった。
「…ワーオl」
思わず口をついてでたその言葉に、まつ先生が微笑む。
「本当に、今回もとっても綺麗に出来ましたね。」
「…時間があれば生地から作ってみたかったんすけど、時間無くて、やっぱり無理でした。」
長曾我部が居心地悪そうに頬を人差し指で掻く。
「…これ、アンタが作ったのか…?」
恐る恐る政宗が尋ねる。
まつ先生の言葉と長曾我部の様子を見る限り、このタルトは長曾我部が作ったようなのだだが、この男と菓子作りのイメージが結びつかない政宗には確証が持てない。
「…悪ぃかよ…」
「あらあら…」
政宗の発言を聞いてそっぽを向いてしまった長曾我部と対照的に朗らかに笑うまつ先生。どうやらこのケーキは長曾我部が作ったもので間違いないらしい。
「…いや悪い…なんつーか…アンタと菓子作りが結びつかなくて。」
思わず本音が零れる政宗をギロリと長曾我部が睨みつける。
―ヤバイ、地雷踏んだか…?
だからと言ってここで怯んでは行けない。内心怯んではいても怯みを見せてはいけない。
一見なんでもない風を装っていても政宗は内心気が気でなかった。
そんな二人の間に立つまつ先生は、いつのまに準備したのやらタルトを取り分けていた。
そしてそれを相対する二人に差し出す。
「はいどうぞ。長曾我部くんのお菓子はとってもおいしいんですよ。」
にっこりと政宗に渡されたそれは、まさに天の助けのようだった。
「…いただきます。」
近くにあった椅子に座りながらタルトを口にする。
「…うまい。」
サクッとしたタルト生地にアーモンドの生地、カスタードクリーム、生クリームにさらにはイチゴの風味が合わさりなんとも美味な味であった。
甘いものは好きでも嫌いでもない政宗だが、これは正直美味いと思い、素直に口にした。
「ね?…良かったですね?長曾我部くん?」
にこっと笑うまつ先生とは対照的に長曾我部はそっぽを向いて自身が作ったケーキを食べている。
が、よくよく見ると顔が赤らんでいることから、単に照れているようだ。
それからまつ先生の勧めであれやこれやと出され、調理室はにぎやかな茶会の場となっていった。
その後、まつ先生経由でタルトのあまりとクッキーをもらった政宗はいつもよりやや遅れて帰路についていた。
長曾我部は帰宅部だが、料理部の部活が無い日はあのように調理室を借りていることが多いらしい。
何故わざわざ調理室を借りているのかはわからないが、長曾我部の意外な一面を知ることが出来て、少しだけ嬉しかった。
そう、思った。
教室での長曾我部は相変わらず、誰とも話さず、ぼんやりと窓側の席から校庭を見ている事が多かった。そしてたまにいなくなる。
政宗は政宗でクラス委員やらなにやらの雑用や、友人らと過ごす時間が多く、教室ではあまり関わる事は無かった。
それから政宗は、料理部の活動が無い日を狙って調理室に行く機会が増えた。
そして大体長曾我部はそこにいた。最早、政宗に対してはお菓子を作ることを知られたためかあまり動じる様子はなく、黙々と菓子を作っていた。
そんな長曾我部に対して、前回のお菓子の感想だとか、些細なことを話しかけるようになっていった。
最初は聞いているのか聞いていないのか分からなかった長曾我部だが、次第に返事を返してくれる事が増えた。
やがて長曾我部から元親に、伊達から政宗と呼び名が変わったのはしばらく経ってからの事だった。
恐らく二人が交流していることを知っているのは、まつ先生ぐらいだろう。
どうしてあの日、自分を調理室に連れて行ったのかまつ先生に話したところ、にっこりと笑って言われてしまったことがある。
「だって伊達君は長曾我部君とお話したかったのでしょう?」と。
教卓から見ると色々見えるんですよ、と付け加えられた言葉に政宗が驚愕したのは言うまでもない。
「…なー、元親ー。ずっと聞きたかったんだけどひとついいかー?」
「あー…んだよ。今フライパン加熱してんだからちょっと待てよ…」
夏休み前の放課後。
いきなり『分厚いホットケーキが作りたい』という理由でホットケーキ作りに勤しんでいる元親に、政宗は問うた。
「アンタさ…なんでわざわざ調理室でcookingしてんだ?家ではしねーの?」
その言葉に、元親の動きが止まる。
そうして、まずは安全のために火を止めると、手に持っていたボウルとお玉を調理台に置く。
目線を泳がしたり、散々迷うそぶりを見せて、そして言った。
「…俺の親は、俺がこういう事するの、よく思ってねぇんだよ…」
「…One's parents?」
元親の両親。中学時代に一度だけ聞いた、あの両親だろうか。
「そう。…なんてーのか…完璧主義の固まりみたいな人達でな…具体的に言うとテストは100点以外認めない、1番以外は認めない…みたいな感じの。」
「…そりゃあ極端過ぎるだろう。」
「…まぁなぁ…。でもガキの頃からそれが当たり前で、出来ない自分が悪いんだ、ってずっと思ってた。」
そういわれて政宗は中学時代の元親は思い出す。
何処か陰のある少年だったのは、そんな事情も関係していたのか。
「政宗は知ってるだろ?俺がテスト用紙いらねぇ、って言ってたの。…だからだよ。満点じゃなかったらあの人達にとってはただの紙くずなんだ。」
「…そりゃいくらなんでもひでぇだろ。」
少なくともわが子に対してもっと評価してもらっても良いのではないだろうか。
そう思う政宗に元親は首を横に振る。
「価値観が違うんだよ。俺がなんと言っても聞きやしねぇ。…だから中学の時の怪我をきっかけに俺は反発した。あんたらの望む優等生の息子はもういねぇんだ、って。…別に家の中で暴れまくったわけじゃねぇからな?…まぁそれやってから前よりはそれでもマシになった。でも基本的に自分の意に望まないことはやらせたくないんだ。俺が昔の良い子に戻ることを望んでる。…そんな親でも、今の俺の親なんだよ。」
一通り言い終えると元親は疲れたといわんばかりにため息を吐いた。
「…こんな事、人に話すの初めてだぜ。」
「…だから、アンタは、親が嫌がるから極力お菓子作りは家でしたくない。だけれども作りたい。だから調理室を借りて調理してる、OK?」
確認するように政宗が呟くと、元親はそれに頷いた。
「…別に俺が何言われようと気にしなきゃいいんだけどな…でも、あんな人達でも親だから、言われたくねーんだよ。」
親から嫌味を言われて気にしない子供はいない。
元親とて例外ではないだろう。
「…昔からそんな事ばっかり気にしてたから、友達もほとんどいなかったしなー…俺。…今も人と向き合うと緊張するし…。」
うーん、と腕を組んで考え込む元親は、調理中の邪魔にならないように前髪をヘアゴムで縛っていることとひよこ柄のエプロンを身につけていることもあり、鬼と呼ばれる男だとは感じさせない。
「え?お前不良友達いねぇの?」
中学時代から喧嘩に関しては近隣で右に出るものはいなかった元親だ。
実は1人や二人不良友達がいるのではないかと思っていた政宗だったが、それは呆れたような表情の元親によって否定されることとなる。
「…なんの話だ何の…確かに中学の頃からアニキアニキって言って追いかけてくる奴ら多いけど、友達じゃねぇよ。あれ…なんつーんだ…親衛隊っつてた。」
「…もっと訳がわからねぇ…」
しかし、こうして話すようになって分かったのは、元親は教室での様子が嘘のように、笑うし怒るし意外に表情が豊かであるという事だった。
本人に尋ねると「…緊張するんだよ…」と強張った顔で返された。
どうやら昔、話していた人見知りは今なお改善されることがないままのようだ。それでも政宗と二人だけだったり、まつ先生がいたりするときは基本的に人見知りはないようで、ころころと表情を変えていた。
そんな元親を見るのが、政宗は好きだった。
そして政宗も、元親に対しては、少しずつ本心を話せるようになっていった。
小十郎はそんな政宗を察してか良かったですね、と言ってくれた。
本当に、楽しかった。
それからしばらく経って、元親が近所の幼馴染に誘われ、幼馴染の家でもお菓子を作るようになった、と教えてくれた。
「…ガキの相手なんてしたことねーしよ…最初はどうしようかと思ったけど、案外どうにかなるもんだな。」
そう言ってはにかんだように笑った。
聞けばケーキを作ってやって懐かれたらしい、実に元親らしい懐かれ方である。
「…人に、喜んでもらえるってうれしいもんだよな…」
そう、元親が言った。
「…まーな。」
元親は、自己評価がものすごく低い人間だ。
勉強だって運動だって人並み以上の才能はあるのに、両親から認められなかった、その思い出が彼を今尚縛りつけている。
―何も出来ないんだ、俺は。
その呟きが、今でも胸に残る。
認められ、評価されて成長していれば、彼はまた違う成長を遂げたかもしれない。
だけれども今目の前にいる元親は外見はさておき、いつまで経っても自分に自信が持てない性格であった。例え喧嘩においては百戦錬磨でも、鬼と呼ばれていても、元親の心根はあまり変わっていない。
寂しそうに、図書室で笑った、あの頃と。
だから、後押しになればいいと思ってその時、政宗は言った。
「俺も、アンタの作るcakeは好きだぜ?…なんつーの…?食ったら嬉しくなる、そんな感じ。いっそケーキ職人にでもなっちまえば?保証するぜ。」
「…そ、そっか。」
そう伝えるとてれがあるのかそっぽを向く。
なんというかがたいの良さと普段の態度とに本当にギャップのある男である。
だが政宗は、そんな元親が好きだった。
そうして気づいた。なんで元親から目が離せなかったのか。
親から認められなかった元親と、母親の呪縛から逃れたかった自分。
元親は両親に愛してほしくて、縋りたくて、でもその術すらわからぬまま、両親の愛を諦めて成長した。
政宗は、母親の重すぎる呪縛から逃れられず、己の心すら己で抑えられなくなり、母を恐れるままに成長した。
諦めても、恐れても、変わりたかったのだ。
過度な愛情を恐れた自分と、愛情を欲した元親では根本的に違うだろう。
だけれども親に翻弄されて成長したという意味では政宗と元親は非常によく、似ていた。
それから高校卒業まで、二人は親友と呼ばれるほどつるんでいた。
高校2年のクラス替えで政宗は文系進学コースに入り、元親は理系進学コースとなった。
この頃には政宗は既に素の顔を覗かせるようになっており、かつての友人達を大いに驚かせることになる。
元親は元親で、ようやく教室内で話す人間も少しずつ増えてきたようだった。
しかしそれでも調理室でぐだぐだと過ごす時間は貴重な時間だった。
そうして、迎えた卒業式。
高校卒業をしたその日のうちに、長曾我部元親は消えた。
僅かな手回り品と一緒に、いなくなってしまったのだ。
いなくなった理由は夢を叶える為だという事を、政宗だけは知っていた。
政宗が元親に対して抱いていたのは友愛だったのか恋愛的な感情だったのかはわからない。
言うならば、ただ、好きだった。
外見に反して素直で人見知りという一面を持つ彼が。
お菓子作りが好きでそれを喜んでもらえることが一番好きだった彼が。
鬼と呼ばれる程の喧嘩の強さを誇りながら、のした相手から慕われる彼が。
穏やかに笑う彼が、好きだった。
-かつて、彼に聞いたことがある。
「初めて会ったとき、なんであんなに無愛想だったんだ?」と。
すると彼は困ったような顔で言った。
「…なんつーか…すんげーキラキラしてる奴がいきなり目の前に来て、どうしたらいいかわかんなくなったんだよ…人見知りだし。」
そうして続けていった。
「調理室借りてるのがバレた時は焦ったぜ…そんだけキラキラしてる奴が、俺の趣味知って絶対馬鹿にするだろ、って思った。…だけどお前は笑わなかった。それに俺の作った菓子をほめてくれただろ?だから、嬉しかった。そんで、こいつは良い奴だって、思ったんだ。」
そう、笑って言った彼を、政宗は忘れない。
他者から見ると尊大で自己中心的な、それでも昔よりはずっと良いと思う、今の自分になれるきっかけをくれた彼を、忘れない。
それから数年後のこと。
政宗は、一生後悔する羽目になる。
―まさか、再会したその時に、かつての親友が男性との痴情の縺れが主な理由で職場を点々とする名パティシエになっていたとは思うまい。
正直に言って、パティシエの夢を後押しした政宗自身を責めたのは言うまでもないことだった。
「素直ではにかみ屋だった俺のAngelはどこにいった……!!こんな遊び人になるなんて…今じゃただのDevilだろおおおおおお!!」
「天使とか言ってるし!!痛っ!!お前厨二はいい加減卒業しろよ!!ってかそんなに性格変わってねぇよ!!テメェが誤解してただけだろうがああああ!!」
「違ーう!!中学時代はマジでAngelだった…!!」
「…なにこいつ気持ち悪い。」
「佐助…政宗殿が壊れたでござる。」
「旦那。大人にはね、過去を振り返りたくて仕方がない瞬間もたくさんあるんだよ…。」
「…政宗様、お父上からの呼び出しが嫌だからってだだこねないでさっさと行って下さい。長曾我部、真田、急遽別注オーダーが入った。至急追加。猿飛はホールの最終確認。…頼むから全員仕事してくれ…。」
その事実は、今の所、アンティーク従業員しか知らない秘密である。
それと共に、右目こと片倉の胃に穴が空きそうなのも、当人しか知らない事実であった。
○とりあえず今回はここまで。
再会編はそのうち。次はいままで全く登場してない人の視点になるかもしれない。
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色々説明
拍手現在豊臣家転生パロ中学生編入ってます
(現在2本 家三 チカナリです)
注意事項
・フリーリンクじゃないです、基本的にはリンクはお断りしています
・ひっそりこっそりが信条なので、黙々と
・捏造、not公式のこばなしが多いので、スルー推奨
ラキドでは幹部全員を溺愛しておりますが、ベルナルドとイヴァンは特に偏愛。ばさらは家三とか奥州の愉快な仲間達と毛長がメインです。うずみさんが現在官三とか官佐にずっぽりとはまり中。
基本は、愛想のかけらもない「ネット怖い~」の書き手が二人で色々書いている場所です。
書いている人
みっし
・生真面目で堅物でムキムキな男性と一見そうじゃなくても根は真面目極まり ないキャラをこよなく愛している、がんかたうるふの片割れ。編み物とお菓子作りが趣味という、第三者曰く可愛らしい一面を持つ反面、パニクると踊ったり、オロオロしだして周囲は見ていて楽しいらしい。荒ぶる舞は、職場の名物だったりする……らしい。
イヴァンちゃんと片倉さんとシズちゃんとスカイハイさんと陛下を思いっきり愛している。好きなアニメは銀魂と最近はFate/zero。型月ファンというよりは元から虚淵ファンでうずみさんからオススメされまくった末にようやっと手を付けて完読した。ライダー組おいしいです。エクシリアではダントツで陛下が好き。陛下が使用可能になる完全版があるなら複数買いしても構わないとのたまう日々。バサラの好きキャラは片倉さん一強だったはずなのに最近はアニキも熱い。かっちり着込むキャラがすきだったはずなのにいきなり露出度が高いキャラを好きになったのは何故か悩む日々。二次元の向かう愛と同じぐらい甥っ子への愛を叫んでいる気がしてならない。
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うずみ
・相方を愛しすぎている変な人。趣味は畑仕事に漬け物作り、好きな物は不幸属性の美人(男女問わず)。ばさらでは石田さんと黒田さんをこよなく愛していたり、赤い子めんこいにゃぁとたまに叫んでいる。ついったのフォローは下 のアイコンから。
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ばさら垢できました
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