こちらはサークル「がんかたうるふ」のうずみとみっしの二人組が、ラッキードッグ1とばさらのこばなしを黙々と投下する場所です。
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○洋菓子店のパティシエであるアニキとその周囲の人々のお話。
基本的にアニキ右ですが、今回はいつも以上にCP色が薄いです。
元親の弟子、パティシエ見習いの幸村がメインの話になります。
次回からはもうちょっとCP色が出て来る予定。
それでもよろしければどうぞ
書いた人:みっしー
*****
「無職でござる……」
そう言いながら床に倒れ伏す、1人の青年がいた。
「旦那…そう言われると俺まで気が滅入るから止めてくれない…?」
その隣に座り、雑誌をめくっていたオレンジ髪の青年がうんざりした表情で呟いた。
「だがしかし佐助…事実、無職なのでござるよ…!!」
彼の名は真田幸村、22才。
元ボクサー、諸事情により現在無職。
彼は今切実に職を求めていた。
「…某でも務まる職は何かないかさすけえええええ…」
「とは言ってもねぇ…旦那自身のやる気もだけど適性も無いとどうにもならない話でしょ。」
喚く幸村を、よしよしと犬猫を扱うかのように宥めるこの青年の名は猿飛佐助。
幸村の幼なじみであり、彼と同じく現在無職であった。佐助の場合は勤め先のカフェが突然閉店したためである。そんな彼は先ほどからずっと求職情報誌と睨めっこしていた。
そして、一瞬静かになったかと思われた幸村だったが、激しく全身をばたばたさせて動き回る。
「…のおおおおお!!今まで修行だけやっていればよかっただけに…某…生きるために必要な技術がないでござる…」
「いやそれはぶっ飛びすぎでしょ。」
旦那は旦那の良い所あるから、安心しなよ、そう言いながら佐助は優しく背中を叩く。
励ますように、鼓舞するように、それがいつもの癖だった。
幸村はかつて、天才と呼ばれたボクサーだった。
だった、というのには理由がある。
最年少チャンピオンにまで上り詰めたボクサーであったが、網膜剥離が原因で突然の引退を余儀なくされたのだった。
それが半年ほど前の事。
長年の習慣である自主トレ以外にすることがない幸村は、有り余る時間の使い道に悩んでいた。
「ひーまーでーごーざるー…お金もないでござる…無職でござる……」
「っていうか旦那さぁ、あんだけ稼いだファイトマネーはどうしちゃったの!?」
けっこう稼いでたんじゃなかったっけ、と問う佐助に対して幸村はけろりと答える。
「それなら全て上杉殿の施設に寄付してしまったが?」
瞬間、佐助の動きが固まった。
「…え?…だんな…まじで?」
「うむ。まじでござる。」
「…まじであんな大金寄付したわけ…?さすが旦那だわ…あ、けなしてないからね。」
「?…うむ?」
この幸村、基本的に物や金銭には執着しない男である。
そんな彼が唯一といって良いほど執着するもの、それは甘味である。
「…まぁとりあえず、落ち着いて団子でも食べてきなよ。おやかた様が頂いてきたんだってさ。」
「団子!!」
佐助の言葉を聞いて幸村は反射的に寝転がっていた床から瞬時に立ち上がる。
「団子はどこでござるか!?」
「え、台所にあるみたいだけど…なに、俺様も一緒に行った方がいいの?」
「うむ!!」
そう言って笑う幸村は年齢以上に幼い。
とてもじゃないが、現役時代はサムライ・サナダと呼ばれた青年と同一人物とは到底思えない。
「美味しい物は一緒に食べた方が美味いぞ、と常々おやかた様が申しているではないか!!行くぞ佐助!!」
「…はいはい」
苦笑しながら立ち上がった佐助は幸村に続いて歩き始めた。
これも、2人にとってはいつものこと。
美味しい物はみんなと一緒に食べた方が美味い。
それは彼の師である武田信玄が常々口にしている言葉であり、幸村も好きな言葉であった。
美味い物に限らず、様々な事を共有出来たら良い。
幸村は勉強は苦手で、学校の成績はお世辞にも良いとは言えなかった。
だから難しい事を考えることも、難しい事を言うことは今でも苦手だ。
だけれども、だからこそ、言葉以外のもので思いを共有出来たらそれはとても良いことではないかと思うのだ。
最も親方様と自分のように言葉ではなく、拳と拳で語り合えたら万事解決するのではないかと佐助に話したら真っ青な顔で否定されたので人前で話さないようにしている。
それから数日後のこと。
「佐助佐助!!おるか!!」
「どうしたの旦那…っていうかまだ朝の5時だよ…」
早朝の自主トレから戻り、自室で休んでいた佐助を叩き起こすと、幸村は満面の笑みで言った。
「お主向きの仕事を見つけてきたぞ!!」
ほら!!と幸村が差し出したのは『ホールスタッフ募集中』と書かれた張り紙だった。
「…だんな…これどこからもってきたの…」
「うむ?ジョギングの道を変えてみたら新しく店がオープンするそうでな。そこに貼ってあった!!」
「…それ本当はとってきちゃだめなんだよ…」
がっくりと佐助は項垂れる。
破天荒な幸村に振り回されるのはもう慣れたとはいえ、寝起きで対応するのはキツイらしい。とはいえ、幸村が佐助を思いやって見つけてきてくれた仕事である。
どんなものか寝ぼけ眼で見やると『洋菓子店 アンティーク』と書かれているのが見て取れた。
「佐助は前はカフェで働いていたし、いつでも機敏に動けるから向いているだろう!?…それに洋菓子とは…ケーキではないか…!!」
幸村は食べる事が大好きだ。
甘い物が大好きで、団子も大好きだ。
だけれども、それと同じぐらいに洋菓子が、即ちケーキが大好きだった。
「…店員割引とか無いと思うよ…旦那」
呆れたように佐助が呟く。
「それはわかっておる。だけれども四六時中ケーキに囲まれる環境だぞ!!…某…それだけでなにか胸にくるものが…」
うっとりとした顔つきの幸村を見て、寝ぼけ眼の佐助はぼんやりと考えた。
金にも物にも執着しない男がただひとつだけ執着するもの、即ち、甘味。
そりゃあ幸村にとっては天国だろう。
現役時代は試合に勝つ度に信玄からもらえるケーキをなによりも楽しみにしていた男なのだから。
食べられないお金<<<<<食べられる甘味
きっと今でもその価値観は変わっていないだろう。幸村の思考回路は非常にシンプルなものだった。
そう昔から、とてもとてもシンプルで、誰よりもまっすぐだったことを佐助は思い出した。
折れそうになっても決してくじけない、それが幸村の強さ。
自分には無いそれがとても羨ましくて妬ましかった事が無かったわけではない。
だが、同時にそれに救われた。
何だかんだ言って、佐助はこの幼なじみが大切で、目の離せない存在だった。
それは『家族』として長年培われてきた親愛が為したものだったのかもしれない。
「…まぁ折角だから行ってみようか」
旦那が探してくれたしね、佐助がそう言うと幸村は「うむ!!」ととても嬉しそうに笑った。
昼過ぎ、幸村に促される形で2人は件の洋菓子店を訪れていた。
幸村が持ってきた張り紙にはどういうわけか電話番号が書かれておらず、事前に連絡が取れなかったためである。
「…旦那ー?本当にこっちなの?めっちゃ住宅街だよ?」
「間違いない!!犬のジョンとすれ違った方なのでこっちだ!!」
どうやらトレーニング中の幸村はすれ違う犬とすれ違うポイントで場所を覚えていたらしい。
だが、普通はあまり覚えない方法だろう。幸村が幸村たる由縁である。
「確か次の角を左に曲がれば…おお!!あったぞ佐助!!」
そうして幸村の言う通りに角を曲がると、確かにその店はあった。
「『洋菓子店アンティーク』…本当だ。」
住宅街の途中、普通の住宅には思えないその店は突然姿を現した。
「張り紙を見る限り、オープンはまだ先のようでござるな…」
「まぁ、だからこそ従業員募集してるんだろうけどね。…よし行こうか旦那。」
「うむ。」
そうして2人はその店に足を踏み入れた。
―リーン
入ると同時に扉に付けられたベルが鳴る。
「すいませーん、従業員募集の貼り紙見たんですけど。まだ募集してますか?」
そう言って佐助は店内に入っていくので慌てて幸村も後を追う。
「…誰もいない…訳ないよね。厨房とかかなぁ。」
恐らく、開店した暁には持ち帰り用のケーキを売るであろう箇所は何も置かれていない。
イートインコーナーであろう箇所は当然の如く無人である。
「…ここは本当にケーキ屋さんか?」
某の知ってるケーキ屋さんと何か違う、そう言いながら幸村は周囲を見渡す。
まず店の天井にはシャンデリア。どう見ても一般的なケーキ屋の装飾品ではない。
それに加えて各所に明らかに骨董品とわかる置物が置いてある。
「随分珍しい店だよねぇ…っていうか本当に誰もいないのかな?…すいませーん」
そう言いながら佐助はどんどん進み、やがて店の厨房にたどり着く。幸村も急ぎ足で彼を追う。
そしてたどり着いたの厨房にいたのは2人の青年の姿。
長身で銀髪、眼帯を付けコックコートに身を包んだ青年と、彼とにらみ合うように黒髪で眼帯を付けたスーツ姿の青年がいた。
「…いいか元親、後ろ振り向くなよ…!!」
「わーったから早くしてくれよ」
「ちょ!!何すかこの店!?何この面接!?」
「拙者はただの見学でござるー!!」
なぜだか就職希望者であると伝えた途端、パティシエと思しき青年は後ろを向き、幸村と佐助から背を向けた。かと思えば黒髪の青年は佐助と幸村の背後から彼らを押さえつけるように掴んでいた。
黒髪の青年は所謂美形と称される容貌なのだが、必死の形相故にスマートさが失われている。そして、焦っているのか幸村の訴えを聞いていない。
「いいから今は大人しくしてくれ…いいぞ!!」
そう言っていると元親と呼ばれ、今まで背を向けていた青年が振り返る。
年の頃は幸村よりもいささか年上だろうか、銀髪に青い目、まるで外人のようだなぁ、と思った。
幼なじみが持っていた人形がこんな顔だったかもしれない。
そう考えていると一つしかないその目がじーっと幸村と佐助を見つめていた。
そして一言呟いた。
「…んー…違うから大丈夫。」
「よし!!お前ら採用ー!!」
高らかに右手を掲げ、黒髪の青年が宣言する。
戸惑うのは採用宣言をされた佐助である。
「こんな面接聞いたことないよ!?え?今ので合格なの?」
「…ちょっと事情があってな、店員はある条件を満たした奴じゃないと働けないんだよ…」
それもこれもこいつのせいで、と恨みがこもったような瞳で銀髪の青年を睨み付ける黒髪の青年だがだが睨まれた方は実に飄々としている。
「…だーかーらーそれが嫌なら別なパティシエ雇え、って最初に言っただろーが。」
「どんな人間に喰わせてもお前のケーキが美味い、って評価がほとんどなんだから他の店には渡したくねーだろが!!」
仲が良いのか悪いのか、掛け合いを続ける2人から目をそらした幸村は、ふと調理台の上にケーキが乗っているのに気がついた。
「…ケーキ…!!」
瞬間、瞳を輝かせる幸村に気がついたのかパティシエと思しき青年が言った。
「…なぁ、あんたら。甘いもん好きなら試食するか?」
「はい!!」
右手を挙手して立候補した幸村に対して青年は苦笑しながら、皿に乗ったケーキを手渡す。
「ほい。」
そう言って男から渡されたのはイチゴが中心に据えられた、非常に美しいケーキだった。
「…いただきます。」
そう言うや否や幸村はケーキの二分の一に当たる大きさの塊をあんぐりと開けた口に運ぶ。
そうしてしばし無言でいるかと思うと、次の瞬間叫んだ。
「……うまい…うますぎるでござるうううううううう!!…拙者が今まで食べてきたものがケーキであるならば…これは…もう…おケーキ様々でござるううううううう!!」
感動し、涙を流しかねない幸村に対して周囲の人間は呆気に取られる。
「おい雄々しいな…こいつの感激の仕方…」
「あー…旦那はいつものことだから…」
「…たかがケーキであれだけ興奮できるなんざcrazyな奴だぜ…」
もぐもぐと咀嚼しつつ幸村は話を続ける。
「たかがケーキ、されどケーキでござる!!…食べ物が持つ力は偉大…拙者、これほど衝撃的な味のケーキは味わったことがない…!!何ゆえこのように煮たイチゴの味が強いのか…!!」
そう幸村が言った言葉にパティシエの青年が反応を見せる。
「そりゃ事前に冷凍してるんだよ。…他に何か気がついたことはあるか?」
「スポンジがシロップを吸っていて非常に美味なのだが…某が食べたことあるスポンジはもっと柔らかかったと思うでござる…」
「そっちは粉変えてるんだよ。こっちの方が生地荒くなるから、このケーキには向いてるんだ。」
「なんと…そこまで計算されておるとは…」
ううむと黙り込む幸村を前に黒髪の青年が言う。
「…本当に元親が作るケーキは美味いんだけどな…」
その一方で銀髪の青年がふてくされたように言った。
「うっせ。嫌なら雇うなよ、政宗。」
どうやらパティシエの方は元親、黒髪の青年のほうは政宗という名であり二人は旧知の仲であるらしい。そのせいか雇い主と従業員という間柄にしては非常に遠慮が無い。
それは初対面の佐助はもちろん、ケーキに心を奪われている幸村でも見て取れた。
残りのケーキを丹念に味わいつくした幸村は、空になった皿を調理台に置くと「ごちそうさまでした」と言い、パティシエ―元親のほうに向き直った。
「元親殿…貴殿の作られたおケーキ様の味わいに、拙者は深く感動いたしました…!!」
背後から炎が出ているのではないかと思しき熱気を込めて、幸村は元親に向き直り、そして更に言葉を続ける。
「是非とも…弟子入りし…師匠と呼ばせて頂きたいいいいいいいい!!」
硬く拳を握り幸村は宣言する。
「…は?マジか?」
呆気に取られたのは宣言された元親だ。
「大マジでござるううううううう!!」
更に声を高らかにして元親と向き合う幸村の間に割って入った政宗が言う。
「ちょっと待てよ。ホールなら雇うけど厨房は増員するつもりねぇぞ!?というかオーナーは俺だぞ!?」
「あのー…そもそも旦那は付き添いで従業員志望じゃなかったんですけど…」
「お願いします!!元親どのおおおおおおおお!!」
声を荒げる政宗と幸村に一応注釈する佐助も加わり一瞬で場は混沌の様相を醸し出す。
その状況に終止符を打ったのは、じぃっと3人を見ていた元親の一言だった。
「なぁ政宗。俺こいつ育ててみたい。」
だが政宗は元親の言葉をまるで予想外とでも言うように慌てふためいた様子を見せる。
「な…なにいってんだよ!!お前、今まで弟子取ったことないっていってただろうが!!」
「…正確には取らせてもらえる前に辞めてたんだよ。センスは良いし、根性ありそうだし、体力ありそうだし…パティシエとしての資質は十分だろう。…なぁ駄目か?」
体格で言えば元親は政宗を遥かに上回る。だというのに、『駄目か』と言っただけで雰囲気ががらりと変わる。
女々しいわけではない。だが、今この瞬間は誰もが彼に呑まれていた。
「………好きにしろ…」
しばしの間、黙っていた政宗だったが、ため息を吐き、しぶしぶと言った様子で了承した。
「…よっしゃああ!!」
政宗がそういった途端に元親はガッツポーズを取り満面の笑みを見せる。
それは先程の雰囲気とは一変した、ごく普通の様子だった。
「えーと、これからもよろしくな。俺は元親。長曾我部元親ってんだ。」
「某は真田幸村!!こちらは幼馴染の猿飛佐助でござる!!よろしくお願いしますでござる!!」
「どもー、紹介にありました猿飛でーす。前職はカフェの店員なんでお役には立てると思いまーす。」
「俺は伊達政宗。この店のownerだ。ホールにも入る予定だからよろしく頼むぜ?」
こうして、佐助と幸村は『洋菓子店 アンティーク』で働くことになったのだった。
元からカフェのスタッフをしていた佐助は飲み込みが早いこともあり、すぐに仕事に馴染んでいった。
しかし幸村はそうはいかない。何せ元ボクサー。調理とは一切無縁の暮らしである。
最初は道具の名称、使い方、物の置き方、扱い方、全てがゼロからのスタートだった。それでも元親は根気強く教え、幸村も必死になって食いつき、覚えようとしていた。
それというのも理由があった。
「ほら、幸村。今日の。」
「おおおお…これは…プリンでござるか!?」
「残念。クリームブリュレだ。」
「…この表面がさくっとしているのになかはとろっとしたこの口当たり…元親殿…!!もう一個所望したいでござるうううううう!!」
「駄ー目ーだ。一日一個って約束だっただろ。」
「のおおおおおおおおおお!!無念でござる……!!」
一日にひとつだけ、元親が作った菓子をもらえるということが幸村にとってはなによりも楽しみだったのだ。
この4人に政宗の父親の部下であるという片倉小十郎も従業員に加わり、オーナー含めて5人の従業員でアンティークはオープンした。
幸いにも評判は上々、特に深夜営業しているケーキ屋というのが受けたらしく夜間でも客足が途絶える事は無い。
そして、そんなある日の事だった。
元親の元に客として彼らがやって来たのは。
「元親殿はまだ戻らぬでござるかー!?拙者だけでは限界でござるー!!」
「旦那テンパらないで!!落ち着いて!!…ねぇ片倉さん。チカさんもだけど伊達の旦那もどこいっちゃったの!?ホールは今人いないから何とかなってるけどさ!!」
とある日曜日の昼下がり、突然片倉に呼ばれて元親がいなくなってしまったかと思うと、しばらくしてから政宗がやってきて、こちらもすぐにいなくなってしまった。
ホールの佐助はともかく、厨房を幸村1人だけでまわすのはかなり厳しい。
「もう少しで戻られるはずだから落ち着け。」
そういう片倉もホールの片づけをしながら慌しく動いている。
ホールがひと段落した事を機に一時的に『準備中』の札を掲げることで難を逃れている。
そのうちになんやかんやとにぎやかな声がホールにいても聞こえるようになってきた。
「…ったく人を犯罪者みてぇにいいやがって…」
「お前の前例考えたら不安にもなるだろうが!!」
「…貴様…元親の何なのだ!!」
「三成落ち着け!!とりあえず独眼竜殿とでも呼んでおこう!!」
どうやら元親、政宗と先程連れ立っていった少年達の声らしい。
そしてようやくホールにやってきた彼らは何やら騒がしく言い合っている。
知り合いなのか、と小十郎が元親に問いかけると「幼馴染だ」と短い言葉で返事が返ってきた。
「徳川家康だ!!」
「…石田三成。」
小十郎と佐助が、元親の幼馴染であるらしい彼らから簡単な自己紹介を受けたところで厨房から悲鳴と思しき吠える声が聞こえてきた。
「元親殿ぉぉぉぉぉ!!お助けおおおおおおお!!」
ただ1人厨房で格闘していた幸村はとうとうどうにもならなくなって吠えたらしい。
そして声がしたかと思いきや、厨房から駆け出した幸村は、元親と対面した。
「幸村、悪かったな。オーダー大丈夫だったか?」
「は!!デコレーションだけですが拙者、渾身の力を持って行わせて頂きました!!…ですが持ち帰りの方で数がでております故、急ぎ作られたほうがよろしいかと思い、材料を出したところでござる!!」
「よくやった。よし続きやるぞ。」
「はっ!!」
そう言いながら二人で厨房内に入っていく。
その様子を見て、しばし呆気に取られていた家康がふと口を開いた。
「今の…もしや…リングのジャ○ーズか?」
「じゃ○ーずとはなんだ、家康。」
幸村が何者であるのか気がついたらしい家康と対照的にジャ○ーズから説明しなくてはならない三成の発言に小十郎が反応する。
「…あいつやっぱり、サムライ・サナダだったのか…」
「あれ?片倉さん、知ってるの?」
そうしてこの場においては最も幸村と近しい立場にある佐助が言葉を返す。
「格闘技全般を見るのは好きだからな。…大分印象が違うから、確証はもてなかったが。」
履歴書にも書いてなかったしな、と思い出したように小十郎が呟く。
「やっぱり本物か?ワシ初めて見たぞ!!」
「なんだよリングのジャ○ーズって…」
「だからそもそもじゃ○ーずとは何なのだ??」
はしゃぐ家康、呆れる政宗、訳が分からないといった様子の三成に対して、佐助がやれやれといった様子で答えを述べる。
「そーそー、旦那こそがそのリングのジャ○ーズまたはサムライ・サナダこと、元ライト級世界チャンピオン、真田幸村だよ。」
「なんだそりゃ?」
今はじめて聞いた、と言わんばかりの政宗が呆気に取られた表情を見せ、それに対して佐助は苦笑する。
「伊達の旦那は格闘技とか興味無さそうだもんね…えーとね、要は真田の旦那は元プロボクシング選手で元世界王者なの。」
「…なるほどボクシングの世界王者とは…しかし何故じゃ○ーずとやらと呼ばれているのだ?」
三成からの顔に疑問符が付けながらの問いに今度は優しく笑って言った。
「旦那はね、現役時代はどう闘っても自分の顔を傷つけさせないで勝つ事がほとんどでさ、おまけに童顔で可愛い系の顔だったもんだから、付いた二つ名がリングのジャ○ーズ。」
「政宗様はご存じないかもしれませんが、サムライ・サナダとも呼ばれ海外にも通用する人気選手だったんですよ」
そう話す小十郎の顔はどこか楽しげだ。格闘技観戦が好きということでかつての人気選手を間近で見られることはやはり楽しいらしい。
少なくとも今だけは普段の強面が和らいで見えた。
「ワシもテレビ見たぞ試合!!すんごい強くてなぁ…まさに侍…というか三成もワシと一緒に見ていたはずなんだが…」
「私が芸能人やスポーツ選手の顔を覚えているはず無いだろう!!!」
憧れの選手に出会えた興奮からキラキラした様子を見せる家康とは裏腹にそんなもんは知らんとばかりにふんぞり返る三成。
しかしただ1人、そこから疑問を抱く人間がいた。
「…そんな凄い奴がなんで、cakeshopの店員…?」
格闘技に興味が無い、この店のオーナー。伊達政宗である。
その問いに、小十郎の表情は固まり、家康は動きが止まり、三成だけはそれを見て訳が分からないというように眉根を寄せていた。
先程同様、実に三者三様である。
そしてわずかばかり気まずそうな表情を見せた佐助だが、「まぁ公表されてるし、いっか。」と政宗の求める答えを口にした。
「…怪我が原因で、ボクシングが出来なくなっちゃってね。だから旦那はボクシングを辞めた。いや辞めざるを得なかったんだ。」
「ニュースで見たが…確か網膜剥離だったか?」
小十郎の言葉に佐助は頷く。
「そー…ボクシング取るか、視力をとるかって…ボクシング馬鹿だった旦那にとっては究極の選択だよねぇ」
結果的に幸村は電撃引退した。
怪我が怪我だけに復帰は出来ないと思われており、事実その通りだった。
サムライ・サナダは人々の前から姿を消した。
それが半年以上前のこと。
「…まさかこんな近所に住んでいて、政宗様の店の店員になるだなんて想像もしていませんでしたが。」
最も小十郎は同姓同名と風貌からもしやと思ってはいたらしいが、確証が持てなかったのでわざわざ確認まではしなかったらしい。
「…三成の趣味のお陰で元親のみならず、サムライ・サナダにも出会えるとは…ワシは今猛烈に感動している!!」
「泣くな鬱陶しい!!私は甘味を追いかけてたら元親を見つけただけで、じゃ○ーずとやらはどうでも良い!!」
泣く家康、吠える三成。
相変わらず仲がよいのか悪いのかわからない二人である。
そして佐助は話を続けた。
「…まぁ旦那はあの性格だからさぁ、周囲に当たり散らしたりはしなかったけど、ショックは大きかったんだ。ボクサーには戻れないって分かってるのにトレーニングは辞められなくて…」
先の見えないトンネルを歩いているみたいだったんじゃないかな、そう付け加えた。
プロボクサーとして一層の期待が為されていた、まさにその瞬間に幸村の夢は絶たれてしまった。
治療を行うことで日常生活は送れても、プロボクサーに戻れることは無い。
なんて残酷な選択を強いられたのだろう。
それでも幸村は前を向き続けた。
先が見えないトンネルでも、いつか必ず、何かを見つけられると信じ、もがいてもがいて、そしてあの日、あの張り紙を見つけた。
「旦那はさ、現役時代から甘いもの好きだったんだけど、最近は本当に楽しそうに笑うんだ。元親殿の作る菓子はすごいぞ、って。」
元親は元親で腕は未熟でも、やる気と根気は人一倍の幸村を辛抱強く指導している。
幸村は幸村でその期待にこたえようと努力する。時に空回りもするが、その暑苦しさも含めて幸村らしさだった。
まぁ実際二人は良い師弟関係だろう。
幸村と育ての親の信玄とはまた違うそれは佐助にとって、非常に好ましく写った。
「…だからこの店で働いて、お菓子を作る事が、旦那にとって新しい糧になることを俺は願うよ。」
そう話し終えた佐助の表情はとても穏やかで、まるで幸村に対しての親であるかのような振る舞いだった。
「なんかお前、まるで真田の親みたいな言い方だな。」
そう政宗が言うと佐助は苦笑する。
「俺は旦那の幼なじみで…家族みたいなもんだよ。」
幸村と佐助は幼なじみであるが、そもそもの出会いは養護施設での出会いだった。
施設前に捨てられていた佐助と、交通事故で家族と死別した幸村が出会ったのは二人が3才の時のこと。それから縁あって2人とも園長の親友である武田信玄に引き取られ、今に至る。
幸村がボクサーとして活躍する一方、不必要な束縛を嫌う佐助は高校卒業後はフリーターとして様々な店を転々としていた。
それでも二人の縁は決して途切れることなく、親友として、時には家族のように繋がっていた。
「…まぁそんなこんなでこれからも旦那を頼むよ。破天荒ではあるけど、本当に良い人だから。」
そう言って、また佐助は笑った。
「元親殿は、どうしてパティシエになろうと思ったのでござるか?」
ホールで佐助たちが話していたその頃、ひと段落した厨房では調理の手を止め、片づけをしていた幸村が、次の準備に取り掛かっていた元親に問うていた。
「…どうして、か。」
そう言うと元親は少しだけ悲しそうに笑った。
カラっとしたいつもの笑みとは対極にあるような、どこか浮世離れしたような笑みに幸村は一瞬目を奪われる。
「菓子作りは、何も出来ない俺が、人と関われる手段だったから…かな。」
「…そうなのでござるか?」
「そう。俺、昔から勉強できなかったから、家族の中ですんげー落ちこぼれ扱いでさ。誰にも相手にされなくて。たまたま学校の調理実習でクッキー作ってみたら、ダチがすんげー喜んでくれて…今思うと、それがきっかけだったかもな。」
そう言う元親の顔は幸村から見てもやっぱりどこか悲しそうだった。
しかし、一瞬でいつもの明るい表情を見せる。
「…っと悪ぃ。湿っぽい話しちまって悪かったな!!」
「いえ、拙者こそ変な質問をしてすみませぬ。」
そうして2人は再び調理を開始する。
元親が時折見せる悲しい顔は、ひょっとすると家族との不和が原因なのだろうか、と幸村は思った。
幸村自身は本当に幼い頃に本当の家族と死別し、施設で育った。そこで佐助とも、かすがとも、小太郎とも出会った。信玄に引き取られてからは信玄が親代わりだ。
本当の家族の暖かさは覚えていないが、施設のみんなは暖かく、大人も子供も仲がよかった。信玄の元に佐助と共に引き取られてからも、信玄とは拳で語り合い、暖かいというよりも暑苦しいと佐助から評された。
両親がいない寂しさを感じたことが無いわけではないが、それ以上に周囲が暖かかった。
自分は恵まれているのだと幸村は常々思う。
高校まで出させてもらって、夢だったボクサーにまでなれて、今は夢を追いかけてパティシエ見習いとなった。
死んだ両親は、兄は、今の自分を見てどう思うだろうか。
喜んでくれるだろうか、仕方が無いと苦笑いするだろうか。
最も今はもういない家族は想像することしかできない。
だけれども、最初からいないのと、いるにも関わらず相手にされないのでは大いに違う。
元親は幸村にとって尊敬すべき師匠であり、大好きなケーキを生み出す大切な存在でもある。
大切な人だからこそ、幸村は、師匠でもある彼が、何よりも幸せであることを。
元親が悲しい顔をすることが少なくなる事を、願った。
○次回から過去編予定。
ひゃっほーい。
PR
色々説明
拍手現在豊臣家転生パロ中学生編入ってます
(現在2本 家三 チカナリです)
注意事項
・フリーリンクじゃないです、基本的にはリンクはお断りしています
・ひっそりこっそりが信条なので、黙々と
・捏造、not公式のこばなしが多いので、スルー推奨
ラキドでは幹部全員を溺愛しておりますが、ベルナルドとイヴァンは特に偏愛。ばさらは家三とか奥州の愉快な仲間達と毛長がメインです。うずみさんが現在官三とか官佐にずっぽりとはまり中。
基本は、愛想のかけらもない「ネット怖い~」の書き手が二人で色々書いている場所です。
書いている人
みっし
・生真面目で堅物でムキムキな男性と一見そうじゃなくても根は真面目極まり ないキャラをこよなく愛している、がんかたうるふの片割れ。編み物とお菓子作りが趣味という、第三者曰く可愛らしい一面を持つ反面、パニクると踊ったり、オロオロしだして周囲は見ていて楽しいらしい。荒ぶる舞は、職場の名物だったりする……らしい。
イヴァンちゃんと片倉さんとシズちゃんとスカイハイさんと陛下を思いっきり愛している。好きなアニメは銀魂と最近はFate/zero。型月ファンというよりは元から虚淵ファンでうずみさんからオススメされまくった末にようやっと手を付けて完読した。ライダー組おいしいです。エクシリアではダントツで陛下が好き。陛下が使用可能になる完全版があるなら複数買いしても構わないとのたまう日々。バサラの好きキャラは片倉さん一強だったはずなのに最近はアニキも熱い。かっちり着込むキャラがすきだったはずなのにいきなり露出度が高いキャラを好きになったのは何故か悩む日々。二次元の向かう愛と同じぐらい甥っ子への愛を叫んでいる気がしてならない。
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うずみ
・相方を愛しすぎている変な人。趣味は畑仕事に漬け物作り、好きな物は不幸属性の美人(男女問わず)。ばさらでは石田さんと黒田さんをこよなく愛していたり、赤い子めんこいにゃぁとたまに叫んでいる。ついったのフォローは下 のアイコンから。
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