がんかたうるふ 輪舞 ~偽~  序章 壱 忍者ブログ
こちらはサークル「がんかたうるふ」のうずみとみっしの二人組が、ラッキードッグ1とばさらのこばなしを黙々と投下する場所です。
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ということで、ようやくばさら家三の長いの開始です。
書き終わりました、序章は2部構成になりますです。
結構長くなりそうなので、ゆっくりとおつきあいをお願いいたします。



 *****
「 輪舞 ~偽~ 」  序章  壱











 春の息吹に覆われ始めた山を見上げ、徳川家康は笑い混じりの息を吐いた。



 雪解けの後の花の季節を終え、枝に広がり始めている青々とした若葉。そして地面を覆う背の低い下草を踏みしめ、その場所へ向かうのはいつ以来だっただろうか。
 こんなに日の光は暖かくなく、雪すら降っていない時期だったのは覚えているが、それ以外はあやふやといってもいい。だが身を震わせる寒風の中、氷の化身のような透き通る肌と髪を持つ彼が自分を見て笑っていたことだけは何があろうと忘れられなかった。
 大阪城から自分に与えられた沢山の城に戻る前に、彼は遠回りをして必ずここに立ち寄る。それを知っているからこそ家康は彼に会うために何度もここを訪れていた。厳しい冬だというのに進軍を止めなかった豊臣軍の動きに合わせ、家康も軍を率いて様々な戦場を駆け抜け、その間は彼と顔を合わせることはできても口にすることができるのは戦の状況の確認のみ。
 豊臣の厳しい軍規は、将である家康達ですら破ることは許されない。
 顔を見ることはできても、友として話しかけることはできず。戦場特有の身を焼くような焦燥感と緊張感に支配された彼の顔は、凶事の王とまで呼び称されるほどの鋭さを失うことはなく。
 血水に塗れ、死肉を踏み越え。
 彼は何のためらいもなく死体の山を築く。
 そんな彼を美しいと思いながらも、戦場という名の狂った舞台から引きずり下ろしたいと何度思っただろうか。それが叶わずにただ時だけが過ぎ、ようやく戦が一段落した時家康が最初に思いついたのはここに来ることだった。
 ここでなら、全ての狂気と殺意を捨てた彼に会える。
 神仏とそれに仕える者に手厚い保護を。彼の主君が政治を行う上の手段としてそれを実践しているのとは違い、彼は純粋に神仏のある場所を好んでいた。神仏に強い帰依心を持っているわけではなく、俗事の騒がしさが入り込まない自分が安らげる静かな場所が欲しかっただけなのだが。
城からもほど遠く山の上に立つ寂れた神社、そこが彼の小さな隠れ家となった。
 彼が始めて見つけた時には神主すらいなくなっていたその建物を修復し、山の麓に神職者の一家を招き。手厚い保護のもとに再生させた時には、周囲の者たちに主君の真似をして喜んでいるだけと散々陰口をたたかれていたが。
 その神社が気に入ったから修復したくなっただけ、それが家康の知っている石田三成という男の在り方だった。
雨が降ると滑って上りにくくなる土がむき出しの急な斜面、獣道と言ってもいい程細くわかりづらい本宮への道。自分の力を見せつけるためではなく、ただ自分の気に入った物を自分の思うがままに楽しみたい。
 そんな箱庭作りを楽しむ子供のような彼の思いを尊重したかったので、彼に頼まれたことしか手伝ったことがなかったのだが。
「……………これは………三成がやったのか?」
 側にある木の幹に手を添え、よろめかぬよう注意しながら頂上へと足を進めていると、足の裏に触れたのは土とは違う固い感触であった。意義に覆われ、日の光がうっすらとしか届かない中足元を見やると、そこにあったのは階段……とまではいかないが、微妙に斜めになりながらも頂上への道を指し示していた。足元が滑らぬように半分に切った丸太をわずかに削った地面の上に置いたのだろう、こうすれば一見階段のように見えるし、なにより雨後に足を滑らせて転落することはなくなる。
 表面の分厚い皮を取っていない丸太は足の裏にごつごつとした感触を伝えてくるが、それを取ってしまうと逆に足を滑らせることになってしまう。自分中心に物事を考え、自分ができることは皆できるだろう。そう思い込みがちで周囲のことを考えて動くことができない三成がやったとは思えぬほどの見事な工事の手腕に、心に黒く醜い影が差し込み始める。
 この神社のことを詳しく知っているのは三成の家臣達と自分だけ。
 そして三成が手入れを手伝わせるのは家康ただ一人のはずなのだ。
 雲一つない快晴の中、心に入り込んでいく影の名は嫉妬。三成の心に自分以外の人間が入り込み始めたのでは、彼が自分以外の特別な友人を作ったのでは。
 そんな思いを捨て去るために強めに首を振ると、自分に言い聞かせるように家康はその言葉を口にする。
 戦場で一人の時、一国の君主という立場に押しつぶされそうになる時。
 必ず口にする、大切な人の名前を。
「……………三成………」
 いつから彼のことを特別な存在だと認識したのか。
 彼と出会い、彼と共に戦場を駆け。気がつく必要もないほどに彼を愛おしく思い、そして彼と共に生きていたいと願うようになった。
 自分と家臣を属国の将として縛り付けている相手だというのに。
 天下太平の世、戦のない平和な国。それが家康の大願であり、三成と共に生きるという小さな願いはいつの日か自分の心の内より消さなければいけないかもしれない。それがわかっていても消すことができず、そして常に彼を欲してしまう。

 それを恋と言わなければ、何を恋というのだろうか。

 男であろうがいつか彼の血で自らの拳を傷つける日が来るとしても。
 どれだけ苦しもうとも己の生きる道を決め、家康は血を流しながらその道を歩いて行く事を決めている。その前に三成が立ちふさがったとしても、彼の命すら押し潰して。この国の平和という大願を、個人的な愛情という名の小さな願いで消すわけにはいかないのだ。
 どれだけ嘆いても、苦しんでも。
 歩みを止めるつもりはないし、徳川家康という個人の小さな望みが叶う日が来るとは思っていない。私利私欲を捨てなければ、戦のない平和な世界など作れないということを、家康は幼き頃からの苦難の日々を経て理解し尽くしていた。
 戦は戦を呼び、失われる命は日々増えていく。
 こうやって暖かくも儚い春の光を家康が楽しんでいる最中にも、どこかで戦による死者が生まれているのだ。戦を生み出す悲しい連鎖を断ち切るために、家康が今できるのは戦うことだけ。戦いの中で戦いのない世を願う、それは愚者のやり方なのかもしれないが。
 家康にはそうすることしかできなかった。
「………………………………」
 今度は愛しい物の名前を空気に解き放つことはせず、心の奥底へとしまいこむ。
 かわりに先程とは全く違う重苦しい息を頬を撫でる風に溶け込ませると、家康は固い樹皮に覆われた木の幹に手をやり、先程よりも速度を速めて上を目指し始めた。

 今はただ、彼に会いたい。

 この不格好な階段のような物の事も気になるし、久々に会う彼が息災なのかも心配だ。
 小さな山とはいえ、これだけ急な斜面を登っているのだ。深い怪我をしていることはないのだろうが、戦場では何が起こるかわからないのだ。彼が心身共に傷ついていなければいいのだが、そう思いながら斜面を駆けるように登っていくと。


「……………家康?」


 最初に見えたのは、日の光に溶けてしまいそうな程薄い色合いの彼の髪だった。
 髪の色と同色の着物と藍色の袴を身に纏い、冬の間に上から落ちてきた枯れ枝等を集めているのか手に粗末な竹箒を持ち。
 秀麗だが親しみやすさをほとんど感じさせない整った顔立ちに、彼の主君ほどではないがすらりと高く伸びた肢体。ほんのわずか間驚いたかのように目を見開いた彼は、やってきた人間が家康であることに気がつくと。
「また……手伝いに来たのか……貴様はどれだけ暇なのだ?」
 淡い笑みを浮かべ、まだ斜面に足をかけたままの家康に向けて、普段は刀を握っている手を差し伸べてくれた。













 石田三成は、揺らぐということを知らない男だった。
豊臣家への忠の為に生き、それ以外の物には価値を見出さない。そんな彼が神社の手入れを始めたと最初に聞いた時は、なんの冗談かと思ったのだが。
 暇があればここに通い、不器用ながらも手入れを行っている彼を手助けしている内に、家康は少しだけ考えを変えることになった。
 豊臣への忠誠の邪魔にならなければ、彼も大切な物を持つことができるのだ。
 家康のことを同じく豊臣のために戦う将として認め、少しずつだが心の内を見せてくれるようになった三成は、自分の事も大切な物だと思ってくれているのだろうか。時折そんな事を考えるが、どんなに心を乱した時でも顔をわずかにしか動かさない三成からそれを読み取るのはなかなかに困難であった。
「ここに来るのも久しぶりだ」
「貴様が最後に来たのは雪が降る前だったな。東の方ほど雪は降らぬが、それでも手入れは大変だった」
「そういえば随分と登りやすくなっていたが、あれも三成がやったのか?」
 家康が来たのは、ちょうど彼が休憩しようと思っていた頃合いだったらしい。最後に見た時と同じ建物とは思えないほど綺麗になった小さな社殿、そのご神体を納めた重厚な扉の前に作られた石段に二人並んで腰を下ろし、最初に聞いたのは斜面に置かれていた丸太のことだった。
 会話の合間に足を動かすと、敷かれている玉砂利が心地よい音を立てる。
 それは以前三成と一緒に運んで半分ほど敷き終わっていたものだが、辺りを見回すと目の届く地面の全てが玉砂利に覆われている。これだけ隙間なく敷き詰めれば、雑草もほとんど生えてこなくなるだろう。
 それを一人でこつこつと行った三成の今期を内心褒め称えつつ、家康は周囲を更にじっくりと観察する。白い玉砂利が地面の全てを覆い隠していただけでも驚きだったのだが、それ以外にもここは大きな変化を見せていた。社殿は一度解体して風雨にさらされて痛んだ木材を入れ替えたのだろう。表面を削り、腐った木々は取り替え。三成が気に入った心を和ませる小さな社殿の造りはそのままに、まるでそこだけ過去に戻ったかのように新しくなっていたのだ。
 どれだけ根気があっても、こんな専門的な修繕を三成ができるわけがない。
 日の光を浴びて煌めく三成の澄んだ色合いの髪を見ながら答えを待っていると、彼の口から出たのは意外な人物の名前だった。
「………官兵衛が手を回したのだ」
「官兵衛? 黒田官兵衛のことか」
「ああ、私一人でやっていては社殿が雪の重みで潰れると言って……私の知らぬ間に工兵達を動かして終わらせてしまっていた………」
「あまり話をしたことはないのだが、気の利く男なのだな」
「私は何度も自分でやると言ったのだ! それなのにあの男が……」
 竹箒を握ったままの手に力がこもっているのがわかり、家康は震える三成の指の節にそっと自分の指を添えた。途端にはっとした表情になり、家康の手が乗せられた自分の手を見つめた三成は、不本意そうに唇を一度強く噛むとそのまま家康の手を軽く払いのけた。
 家康の数多の瘡蓋と傷跡に覆われた手を、まるで仇のように睨み付けることも当然忘れない。
「触るな」
「だがこのままでは三成が箒を折ってしまいそうだったのでな」
「折るわけがなかろう………貴様はいつもそうだ、少しばかり年が上だからといって私の兄のように振る舞いたがる」
「儂の友人には年上にもアニキと呼ばれている男がおるが」
「そういうことを言っているのではない! 貴様も官兵衛も同じだな、余計な世話ばかり焼きたがる。人の手の心配をする前に、自分の手の手当をしろ!」
「官兵衛は……いつもそうなのか?」
 黒田官兵衛という男とは、ほとんど話をしたことがなかった。
 竹中半兵衛と並ぶ知謀の持ち主だが、持ち前の運の悪さが災いしてなかなか戦功をあげられないという噂を聞いたことがある程度だ。三成が親しくつきあっているという噂すら聞いたことがないし、そもそも三成が家康以外に親しい友人を作れば、豊臣軍の中で大きな噂にならないわけがない。
 それだけ三成は周囲の注目を常に集めており、そして遠巻きに見られる存在なのだ。
 常に共にいることができない家康にとってこれは大きな悩みの種だった。嫌われる人間にはとことん嫌われるが、波長の合う人間には熱狂的な愛情を捧げられる。そんな三成の一番の『友人』であるためにできる限りの努力をしてきたし、彼に弱き者と見下げられぬために武力を常に高め続けている。
 だが、三成の心は自分だけのものにはならない。
 それはわかっているのだが、彼が自分以外の人間に心を寄せるようになるという事態はどうにも我慢できなかった。だから普通の会話を装いながら家康は必死に確かめようとする、黒田官兵衛という存在が三成の心の中にどれだけ食い込み始めているのかを。
 自然な笑顔を三成へ向け、払いのけられた手を少しずつまた彼の手に近づける。
「官兵衛のことなど、どうでもいい」
「だがここまでしてもらったのだろう? それにしても、何故ここのことを官兵衛に知られたのだ?」
「奴が半兵衛様に頼まれて私に書状を届けに来た時にな……私の不注意だ」
「だが良かったではないか。三成が自分で手入れをしたい気持ちはわかるが……」

「私は貴様に手伝って欲しかった」

「……………三成」
「だが貴様が来なかった上に、官兵衛にここを見つかってしまった。だからこれは私の失態だ」
 さらりと、なんでもないことのように三成は大切なことを口にする。
 勿体ぶって何も口にせず、心の奥底にどろどろと濁った感情をためることを三成はしなかった。真っ直ぐに、相手が誰であろうと率直に今の自分の気持ちを口にする。
 それこそ、家康のことを特別な友人だという思いも素直に。
 できれば友人ではなく、恋人として特別だと彼に思って欲しいが。豊臣家への忠義を第一とする彼には、かなり難しい話だろう。三成が家康のことを友として彼なりに大切に扱っていてくれること自体、奇跡のようなものなのだから。
 だから今はこうやって、彼との時間を楽しむ。
 家康が天下を取るために三成と争い合うことになるのが先か、それとも三成が家康の思いに気がつくのが先か。せめてその時が来るまで、二人きりの暖かな時間を。
「だが三成は嬉しかったのだろう?」
「嬉しい? 私が?」
「綺麗にしてやりたいと、三成はいつもそう言っていたではないか。たとえ儂と行ったのではなくとも、こんなに綺麗になったのだ。それを喜ばんでどうする」
「貴様だから手伝わせてやっていたのだ、貴様以外に手を出されても……」
 珍しく言葉を濁し、どう答えるべきか考え込み始める三成の肩に己のそれを寄せる。
 ぴたりと触れあった体にきょとんとした顔でこちらを見やる三成に微笑みかけてやり、家康は伸ばした腕でそっと彼の肩を抱いた。家康の行動の意味がわからぬのか、一瞬顔を歪めた三成だったが。
 家康から離れるのに使う労力の大きさを考え、全てを諦めたらしい。
 おとなしく肩を抱かれたまま、すねた子供のように唇を尖らせたまま言葉を続け始めた。
「私は貴様とやりたいと思ったのだ。官兵衛などに手伝われても、嬉しくはない。確かに……私と貴様だけでは、こんなに綺麗に修繕はできなかっただろうがな」
「人の手を借りてもいいではないか。それで願いが叶うのならば、儂は誰の手でも借りるだろうな」
「やはり私と貴様は相容れぬのだな……わかってはいたが」
「そうだな、だがそれがいいのだ……こちらに来てみろ、三成」
「忙しい男だな、貴様は」
 肩を抱いたまま、彼を先程自分が上がってきた場所まで連れて行く。
 口で文句は言っているが、三成の顔からは嫌がっている感情を読み取ることはできなかった。本気で嫌がるのなら、それこそ腰に付けた護身用の脇差しを抜いてでも抵抗してくるはずだ。
 それをせずに多少体に力は入っているが素直に自分に体を任せてくれる三成の背に手を当てると、もう片方の手で三成に見せたい物を指し示して見せた。
「見てみろ三成! ここからだと湖がよく見える!」
「………………確かに………そうだな……」
 三成の手を借りて引き上げてもらった時、その場所から見えた湖の美しさは格別だった。
 優しくも暖かい日の光を浴び、これから芽吹こうとしている枝の合間から見える輝く水面。そしてその周辺に広がりつつある淡い色合いの緑。
 春の光とそれを受けて己の存在を誇示するかのように輝く湖。
 木々が鬱蒼と生い茂る夏では見ることができないし、木々が枯れている冬ではこんな強い輝きが湖を照らすことがない。今の季節にしか見ることができない美しい光景を、三成と共に見ることができる。
 これ以上の幸福がどこにあるというのだろう。
「ここは良い土地だ。水に困らず、冬の寒さも厳しくはない。この国全てがこうであったら、戦など起こらぬのかもしれぬな」
「富を全ての物に等しく分配することなどできるわけがない。秀吉様のような方が力によって統治する、それこそがこの国の正しい在り方だ」
「そのために幾多の血を流しても……か」
「だが誰かがそれを行わなければ、無駄な争いが続くだけだ」
「無駄な争いによって無駄に命が失われるよりはいいのだろうな。儂もそれを信じて秀吉に力を貸すことにしたのだ」
 大切な人と体を寄せ、美しい光景を共に見る。
 家康がこうしている間にも、この国では争いが行われ続けているのだ。貧しい者は搾取され、強き者も更なる力を持つ者に叩き潰される。神域にいながら思うことではないのかもしれないが、神仏というものが慈悲の元に存在していればこんな世の中を許すわけがない。
 ならば神はこの世を見捨ててしまっているのか、それとも最初から気にかけてすらいないのか。
 どちらであったとしても、家康が願うことは一つだ。
「なあ三成」
「なんだ?」
「三成がここに来るようになって随分たつが、何か願をかけたりはしたのか?」
「私はこの建物が気に入っている、それだけだ」
「建物は官兵衛が直したのだとしても、草を刈り伸び放題だった木々を刈り込んで、砂利まで敷いてここを綺麗にしたのは三成だろう。ならば一つくらい何かを願ってもいいのではないか?」
「……貴様は何も願わんのか?」
「儂か? 儂の願いはもう決まっている……だが内緒だ、誰にも言わんことにしている」


 どうか三成が幸せになりますように。

 彼がこの混迷した戦の世を生き延び、静かな生活を送れる日が来るように。

 戦のない世を作るという自分の願いを変える気はないが、彼だけは。

 信じてもいない神仏に願ってしまうほどに愛しているのだ。


 自分の言葉の続きを待ち、じっと顔を見つけてくる三成の前髪をぎゅっと握りしめる。
「な、なにをする!」
「三成の前髪は本当に掴みやすいな、本当に面白い」
「好きでこんな髪をしているわけではない! 貴様も剣山のような髪をして……頭に花を挿してやろうか!?」
 握りやすい纏まり方をしている彼の前髪を掴むのは、もうこの会話は終わりという合図。
 互いに話せないこともあるし、話したくないこともある。だから冗談めかして話を変えるのがいつもの常であったが。
 今日の三成は、それに流されることはなかった。
「貴様が何を願おうと、興味はない。だが何かを願うというのは面白い」
「珍しいな、三成がそんなことをいうとは」
「自分の力では叶えられないことを願えばいいのだろう? ならば私は……」


 貴様の無事を願ってやろう。


 当たり前のようにさらりと口にされたその言葉に、三成の前髪を好いていた指がぴたりと止まった。
「わ、儂の無事!?」
「貴様と常に同じ戦場にいるのならばどうとでもしてやるが、そういうわけにもいくまい。少し会わん間にまた手の傷を増やしたな………貴様は私が何を言おうと自分の体を守る気はないのだろう? 願うことで貴様の傷が減るというのなら、いくらでも願ってやる」
「………………………………」
「どうした家康? 私の願いが不満か?」
「………まいった………」
「まいった……とはどういうことだ?」
「そんなことを言われたら、儂は負けるしかないだろう……」
 真っ直ぐに、純粋に。
 自分を心配して無事を願ってくれる人を、自分は心の底から愛おしいと思っている。そして、彼を愛している自分が心の底から誇らしい。
「三成、儂は嬉しいぞ!」
「と、突然なにをする! 離れろ!」
「儂のことをそんなに気遣ってくれていたのだな!」
「無茶な戦い方をするのは貴様だけだからな………苦しい! この馬鹿力め!」
 無尽蔵にわき上がってくる愛しさのあまり、三成を引き寄せ力一杯抱きしめる。
 さすがに苦しいのか三成も全力で逃げようとしているようだが、腕力は家康の方が上だ。もがく三成を腕の中に閉じ込め、これ以上ないほど嬉しそうに家康は声を出して笑う。
 大切な人がいる。
 その人が自分をどんな形であっても思ってくれている。
 腕の中にある愛おしくも頼もしい存在を抱きしめる手に更に力を込め、家康はもう一つだけ願った。




 またいつか、ここで春の湖を三成と見たい……と。






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はじまったよ~!
(自分だけが)楽しく書くよ~!
ということで序章壱終わり、次は三成さんメインの序章弐です。



BGM「春は黄金の夢の中」 by kalafina
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色々説明






拍手現在豊臣家転生パロ中学生編入ってます
(現在2本 家三 チカナリです)


注意事項
・フリーリンクじゃないです、基本的にはリンクはお断りしています
・ひっそりこっそりが信条なので、黙々と
・捏造、not公式のこばなしが多いので、スルー推奨


ラキドでは幹部全員を溺愛しておりますが、ベルナルドとイヴァンは特に偏愛。ばさらは家三とか奥州の愉快な仲間達と毛長がメインです。うずみさんが現在官三とか官佐にずっぽりとはまり中。
基本は、愛想のかけらもない「ネット怖い~」の書き手が二人で色々書いている場所です。


書いている人


みっし

・生真面目で堅物でムキムキな男性と一見そうじゃなくても根は真面目極まり ないキャラをこよなく愛している、がんかたうるふの片割れ。編み物とお菓子作りが趣味という、第三者曰く可愛らしい一面を持つ反面、パニクると踊ったり、オロオロしだして周囲は見ていて楽しいらしい。荒ぶる舞は、職場の名物だったりする……らしい。
イヴァンちゃんと片倉さんとシズちゃんとスカイハイさんと陛下を思いっきり愛している。好きなアニメは銀魂と最近はFate/zero。型月ファンというよりは元から虚淵ファンでうずみさんからオススメされまくった末にようやっと手を付けて完読した。ライダー組おいしいです。エクシリアではダントツで陛下が好き。陛下が使用可能になる完全版があるなら複数買いしても構わないとのたまう日々。バサラの好きキャラは片倉さん一強だったはずなのに最近はアニキも熱い。かっちり着込むキャラがすきだったはずなのにいきなり露出度が高いキャラを好きになったのは何故か悩む日々。二次元の向かう愛と同じぐらい甥っ子への愛を叫んでいる気がしてならない。



うずみ
・相方を愛しすぎている変な人。趣味は畑仕事に漬け物作り、好きな物は不幸属性の美人(男女問わず)。ばさらでは石田さんと黒田さんをこよなく愛していたり、赤い子めんこいにゃぁとたまに叫んでいる。

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ばさら垢できました
こんな二人で、ここを更新しております。

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