こちらはサークル「がんかたうるふ」のうずみとみっしの二人組が、ラッキードッグ1とばさらのこばなしを黙々と投下する場所です。
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書き終わったので、次はでぃあぶろ書きます。
めやんめめやんめ~!
と、はしゃがないと、気分が落ちる……そんくらいきつかったです。
めやんめめやんめ~!
と、はしゃがないと、気分が落ちる……そんくらいきつかったです。
*****
「輪舞~偽~」 序章 弐
儂は三成ほどの正直者を他に知らない。
真っ直ぐで強い、その生き方が美しい。
徳川家康という男は、三成のことをいつもそう褒めそやす。
馬鹿が突くほど正直で、豊臣家のためなら簡単に命を投げ出すほどの狂信者。周囲の人間のほとんどは三成にそういう評価を与え、時には敵対してきたというのに。家康だけはどんな時で三成に笑いかけ、味方でいてくれた。
秀吉を口汚く罵っていた男を後先考えずに殴り倒した時も。
軍議の際に他の人間と大喧嘩をしても。
彼は三成を否定することがなかった。
上手く言葉にできない思いを本人以上に理解し、そして三成のために動いてくれる。そんな彼に強く感謝するようになったのは、彼に出会ってすぐのこと。
彼を深く愛するようになったのは、それからもう少し後。
戦場で人の命を奪い、それによって得た糧を主君に捧げる生き方だけを教えられてきた三成にとって、それは知ってはいけない思いだったのだろう。豊臣家への揺るぎない忠誠と、その豊臣家に膝を屈しながらも覇道に飲み込まれまいとする家康への愛情は、決して融和させられないもの。
豊臣を選べば、いつか家康と道を違えることになる。
その時家康に訪れるのは、破滅。そして豊臣軍の軍師である竹中半兵衛は、間違いなくそれを三成に行わせようとするだろう。三成の忠誠心を試すために、そして豊臣軍に逆らった者の末路を恐怖で彩るために。
そして三成はその命に従うのだ、血の涙を流しながらでも。
幼い三成を見出し臣下として育て上げてくれた秀吉を裏切る気はない、しかし家康への思いを心の内より消し去ることはできない三成にとって『その時』の到来は恐怖でしかなかった。
真っ直ぐなお前が美しい。
誰よりも綺麗だ。
そう言って自分を最高の友として扱ってくれる家康の命をを自らの手で奪う。そんなことをするくらいなら、自分が彼に討たれてしまえばいい。そう思いはするが、そうすれば半兵衛は別な者を家康を討つために差し向けるだろ。
彼を滅ぼす時まで。
最後に家康に会ったのは、この国の全てを豊臣が手に入れるための最後の戦の前だった。二人で春の湖を見つめ、いつものように軽口混じりに語り合い。肩に置かれた彼の手が以前よりも傷跡を増やし、その傷跡を切り裂くかのように新たな生々しい傷口が刻まれているのを見て。
心を痛めることしかできなかった。
三成にとって、家康は安らぎと暖かさの象徴と言ってもよい存在なのだが、三成は家康になにもしてやることができない。彼の側にいると時間が優しく流れる、彼が側にいなくとも彼を思うだけで数多の敵と切り結ぶことを恐れる必要がなくなる。
彼がこの世にいてくれさえすれば、どんな事にでも耐えられるのだ。
たとえ人生の師とも崇める存在が、急速に命の炎を細らせている状況であっても。
「………半兵衛様、お加減は」
「今日は大分いいよ」
「そうですか」
短い挨拶の合間にも、くぐもった呼吸が半兵衛の喉から聞こえてくる。
最後の戦の後、大量の血を吐き倒れた竹中半兵衛は大阪城から離れて静養することを希望した。命の全てを吐き尽くすかのように流れ出た血潮と、目を覚ました本人が口にした人が少ない所で静養したいと言う言葉で、その場にいた人間全員が理解した。
彼は病によって死に近づき始めている、と。
盟友として彼に最高の待遇を与えていた秀吉の悲しみは凄まじいものであったし、誰もが半兵衛が一日でも長く生きてくれることを願ったが。
蝋のように白く生命力を感じさせない肌に、赤みを失った唇。誰の前であろうと仮面を外素事はなかった彼が素顔を晒すようになったというのは、彼がもう豊臣軍の軍師として動いていないということなのだろうか。
床についたまま、起き上がることすらできない半兵衛であったが本人が言うとおり今日は幾分体調がいいのだろう。数日前に訪問した時は口元を赤く染め、口を動かすにも相当難儀していたのだ。
これが命が燃え尽きる前の最後の輝きでなければいいが。
そう思いながら背筋を正し、布団以外は何もない部屋を軽く見回す。豊臣家の別邸であるこの建物は、今までほとんど使われることがなかった。ここを使うべき本当の主を一度も迎え入れたことがないこの館で、彼の盟友がその生涯を終えようとしている。
それは何という皮肉だろうか。
ちょうど三成の目線の先、純白の襖の奥にはもう一つ部屋があるはず。この館で一番日当たりのいい部屋が続き間になっている。その事実は秀吉が全てを手に入れた時に、この館に二人で安らぎに来ることを想定していたことを三成に伝えてくるのだ。
もうその時は来ない、その事実と共に。
「ところで三成君、秀吉は元気だった?」
「半兵衛様がおられず、随分と気落ちしていらっしゃる様子です。この頃は考え込む姿をよく見かけます……」
「そうか、予想より少し早いね」
「予想……ですか?」
横になったまま、半兵衛が重苦しい息を吐く。
枕元に近い位置でぴしりと背を伸ばし、じっと半兵衛を見つめている三成に唇をわずかに動かして笑いかけると、半兵衛は唐突におかしな事を聞いてきた。
「ねえ三成君、君は……秀吉を殺せる?」
「ひ、秀吉様を!? そんなことできるわけがありません!」
「それが秀吉のためになる……僕がそう保証してもかい?」
「半兵衛様がどう仰られても、秀吉様に刃を向けることなどできるわけがありません」
「そう」
短い、だが刃の切っ先を思わせる声。
その鋭さに、自分が半兵衛を失望させることタエを口にしたことを理解した三成であったが。敬愛する主君に殺意を向けられるわけがないというのに、半兵衛は何を言いたいというのだろう。
三成を言葉で貫き、諦めたような笑いを浮かべ。
「しょうがないよね……君は僕がそう育てたんだから………でも……僕は君が良かったんだけどね……」
「何の……話をしておられるのですか?」
「簡単な話だよ」
そう軽く前置きした半兵衛は、首を動かすことすら億劫なのか目だけを動かして三成を見つめ。
君に秀吉を殺してもらいたい。
まるで幼い子供に何かを言い含める時のように、ゆっくりと。
だが拒否を許さない強さを秘めた声で、驚愕のあまり唇を震わせる三成を打ち据えていった。
「僕のこの病……うつるらしいんだよね。病というのは近くにいればいるほど、うつる確率も上がる……三成君ならそれはわかると思うけど。僕がいつも側にいたのは秀吉……この頃あまり元気がないみたいだけど……」
「………………………………」
「僕だけじゃなく、自分の体も病に冒されたことを知って、秀吉は今何を思っているのだろうね。僕との約束を果たすために、他国への出兵でも始めるのかな……」
「…………は………はんべえさ………」
「僕は狂っているわけでもないし、死を目の前にして自暴自棄になっているわけでもない。まずは最初にそれを理解して欲しいんだ、三成君には」
半兵衛が何を言っているのか、そして何を伝えようとしているのか。
凍り付いたかのように動かなくなった舌は言葉を紡ぐことを邪魔するし、上手く話せたとしても何を半兵衛に言えばいいのかがわからない。今の三成にできることは、決して自分は狂っていないという半兵衛の言葉を信じて、素直に彼の言葉を聞くことだけ。
混乱から抜け出せぬまま小さく頷くと、半兵衛の笑みが少しだけ深くなった。
「…………ありがとう。じゃあ少し長くなるかもしれないけど、僕の話を聞いてもらうよ。君には酷なことを頼むことになるし、君にそれを拒否する権利を僕は与える気は無い。家康君も……散々悩んだようだけど、僕の願いを聞いてくれたしね」
「家……康……が……ですか………」
「そう、家康君」
あの優しい男が悩んで苦しんだ末に半兵衛の頼みを受け入れた。
その事実が三成の半兵衛に対する疑惑を少しだけ薄れさせた。秀吉が病になどなるわけがない、半兵衛は嘘を言っているのだ。心の内にあったその思いは、家康という名前の力で徐々に消えていくことになる。
彼が信じたのなら、自分も信じなくては。
家康の名前を耳にするだけで体の強ばりがとれていく自分の現金さに呆れつつ、三成は再度背筋を正し、そして半兵衛の言葉に先程より集中して耳を傾け始めた。
豊臣秀吉は、この国の支配だけを求めた男ではなかった。
力による支配だけではなく、それを他国の侵略へと向けようとする。
国を良き方向へと導くために治めることを目的としているのならば、全ての者が彼を認めたかもしれないのだが。彼が選んだのはこの国を守るための他国への侵略であった。
内乱を続けているだけの国では、いずれ他国の侵略対象になる。
常に戦い続けることでこの国の価値は上がり、そして人々の心は結集し更なる富を生み出していく。秀吉のこの国を守るための遠大な野望、そのために尽力し続けてきた半兵衛の存在。その二つが調和したからこそ、豊臣軍は常勝不敗の軍団としてこの国を手に入れることができたのだ。
だが、竹中半兵衛は近いうちにその命を落とす。
その時何が起こるのか、それを半兵衛は腹心の部下とも言える三成にゆっくりとした口調で語り始めていた。閉め切った部屋の中、子供に言い含めるように優しく、だが決して反論を許さない。そんな半兵衛の言葉に、三成は徐々に表情を強張らせつつあった。
季節はそろそろ夏、青ざめて震え始めそうな顔の半兵衛とは違い、三成の額からは汗が一滴。
「秀吉は僕が死んだ後、きっと他国への出兵を強行するだろうね。自分の病にも気がついているようだし、なにより今の秀吉を止められるのは僕だけ。その僕が止めないんだから……進むだけだよね、自分の願いのままに」
「ですが秀吉様は……」
「うん、多分出兵中に死ぬんじゃないかな」
ごく当たり前のことを言うように、盟友の死を口にした半兵衛は床についたまま小さく咳き込む。三成に自分の咳を浴びせかけたくないのか、顔を横にし顔を見せずに。
その様子を見て慌てて更に近寄ろうとした三成を、小さく鋭い声で止めることも忘れない。
「近づかないでくれるかな」
「半兵衛様…………ですが…………」
「今の君にできることは僕の世話じゃない、僕の望みを叶えることだよ」
「その望みが秀吉様を討つということであれば、お引き受けはできません」
「うん、それはわかってる。だからそれは家康君に頼んだよ。秀吉の命ももう長くない、だから君が秀吉を討ち倒してこの国を手に入れてくれないか……ってね」
「家康が……秀吉様を………」
彼の望みは知っていた、そして彼がその望みのために豊臣軍に屈したこともわかっているのだ。
家康にとってはまたとない機会になるだろう。半兵衛直々の手引きで、秀吉を討ちこの国を手に入れることができるのだ。
だが豊臣軍に全てを捧げた三成にとって、それは決して許してはいけないこと。
主君を討つことを許し、討った相手がこの国を治めることを許容する。そんなこと、できるわけがない。
「ただし、その前にやってもらうことがあるんだけどね……家康君と、それから君に」
「私に何をしろというのですか? 家康を殺せとでも?」
「そうだよ、それが僕が君に望むこと。君が家康君に殺されるという終わりもありだけど……僕は君に生き延びて欲しい。
もう一度言おうか?
秀吉が家康君に討たれた後、豊臣の残党をまとめて家康君と殺し合うこと。
それが僕が君に下す最後の命令だよ」
膝の上で強く握られていた拳が、力を失った。
体に力が入らない、全てが崩れていく。
秀吉を殺されるだけでなく、殺した家康を自分が殺さなくてはいけない。
たとえ半兵衛の命であろうと、そんなことできるわけがない。どんな時でも自分を優しく包み込んでくれ、常に手を差し伸べてくれるあの男の命を。
奪えというのか、この手で。
家康が三成へ向ける友情も、三成の家康への淡い思いも知っているはずなのだ、半兵衛は。それでもこのような酷な願いをしてくるということは。
「家康君は秀吉を討つ……だけどそれだけでは足りない。秀吉が遠回りな形だけど望んだのはこの国が繁栄し続ける事。秀吉が死んだことでまた戦ばかりになっても困るんだ」
「………………………」
「それに秀吉の親戚達がおかしな動きをする可能性がある。あんな何もできない奴らに秀吉の全てを奪われるわけにもいかないしね………だから僕は望むんだ。君と家康君がこの国を二分して争い合うことを」
「……………でき……ません……」
「家康君が秀吉を討てば、君は豊臣の兵をまとめて彼を討つ大義名分ができる。それに乗じてあちこちで動き出すだろうね……豊臣の天下に納得していない連中が」
「それだけは………それだけは……どうか……」
「その全てを取り込み、この国最後の大戦をしてほしい。全ての将達が納得できる、最高の戦の舞台を君たちで作り上げるんだ。今秀吉が他国へと出兵しても必ず失敗する、そして秀吉にはもう時間がない。僕が死んだ後、秀吉の名前がこの国の歴史に最悪の形で刻まれること………僕はそれだけは避けたいんだ」
無駄に他国へ出兵した愚かな男。
そう呼ばれるくらいなら、身近な者に討たれ生涯を終えさせてやりたい。半兵衛のその考え方を、三成には全く理解することができない。
ただできることがあるとすれば。
「……半兵衛様………それだけは………私には………」
「君でなければ駄目なんだよ。大谷君では豊臣の旗印としての役割を引き受けることはできないし、官兵衛君は……根本的な問題がある。君の名の元でしか、豊臣の兵はまとまることができない。そして豊臣の兵は、君を逃がすことはないだろうね」
「できません……私に……家康を討つことなど……」
額に流れていた汗の代わりに涙を流し、半兵衛を包む布団の端をぎゅっと握りしめ。
何度も何度も自分にはできぬと口にすることだけであった。
いつかはこの日が来るのでは、以前からそれを恐れていたのは事実だ。豊臣への忠誠と、家康への愛情、どちらかを選ぶ時が来るとしたら自分は何を選び取るのだろう。眠る前にそんなことを考え始め、気がつくと空が明るくなり始めていたことも一度や二度ではない。
だが、こんな事になるなんて想像だにしていなかった。
自分が豊臣の旗を背負い、家康と対峙することになる。総大将同士が戦を終わらせようと思わなければ、戦の終焉はない。そして半兵衛が求めているのは、どちらかの命が散ることでの決着。
新しく生まれる世の中に、遺恨を残さぬためにどちらかが散る。
半兵衛の策は見事だと思うが、その道具として自分と家康が扱われることに納得してはいけない。こんなことを考えてはいけないが、半兵衛だって神仏ではない。
彼が死した後、彼の策から逃げ延びる方法はあるはずなのだ。
口から嗚咽に近い息を漏らし、唇を噛みしめることでそれが声に変ずることを必死に押さえていると、そんなわずかな希望すら打ち砕く半兵衛の声が耳朶に響いてきた。
「家康君は全てを受け入れたよ……秀吉を討つことも、そして三成君と殺し合うことになることも。君がどれだけ逃げようとも、家康君は秀吉を討つ。そして君との戦いも、彼は受け入れるだろうね。その時、君はどうするのかな?」
「………………家康が……私を殺す……と………?」
「戦のない世を作るためならば、心を鬼にしてでもやってみせる……家康君はそう言っていたけど?」
その言葉を聞いて、もう何もかもが堪えられなくなった。
家康は自分を殺してでも、平穏な世を作り上げるつもりなのだ。
最も親しい友だと信じていた、彼にだけはどんなことでも話すことができた。
誰よりも、愛おしかった。
だがそれは、三成だけが持っていた思いなのだ。
己の望みのためならば、三成を殺すことも受け入れる。家康にとって、三成はその程度の存在だった。
わかってはいたのだ、だがその事実を突きつけられることがこんなに悲しいとは。
「………今は泣くといい。僕は君にそれだけ辛いお願いをしているんだからね。だけど軍師として僕は少しだけ楽しみに感じてしまう………君と家康君が僕が作り上げた舞台で舞ってくれる姿をね。そんな僕を許してくれるかい?」
「………半兵衛様は………私にとって……尊……敬できるお方です……これからも……」
「ありがとう。三成君、僕は先に逝くけど……最後の時まで秀吉を頼むね」
その秀吉を殺せと言った口で、半兵衛は彼を気遣う言葉を口にする。
だがもうそんなことを考える余裕は三成の中に存在しなかった。三成が逃げたくとも、家康は全てを受け入れてしまった。彼と自分はいずれ殺し合うことになり、そしてどちらかが死ぬのだ。
ああ、という悲鳴に近い嘆きが自分の口から響く。
半兵衛の布団を握っていた手は幾度も畳に叩きつけられ、皮が破れ血が噴き出す。顔を三成の方へと向け、慈母のような眼差しでそれを見つめる半兵衛のなだめるような声を聞きながら、三成は嘆き続けた。
「…………いえやす…………いえやす………」
そう、愛しい者の名を呼びながら。
石田三成は絶望し、苦しみ。
そうして半兵衛の策を受け入れた。
三成の中に芽生えた小さな願い、それ故に。
三成が座っていた場所の周辺は、変色し始めた血で激しく汚れていた。
自分が三成にどれだけの悲しみを与えたのか。それを目の当たりにさせられながら、半兵衛は今日二人目の客人を受け入れていた。
血に汚れた場所を避け、だがその血を愛おしげに見つめている相手に消えてしまいそうな声で話しかける。
「………三成君には、全て話し終えたよ。後のことは君に託すとしようか」
「承知いたしました」
「まずは家康君を呼んで、受け入れてもらわなきゃね……僕の策を」
「先程の話では、徳川はもう半兵衛殿の策を受け入れた……と」
「そうでも言わなきゃ、三成君は納得しないよ。家康君には三成君が僕の命令に素直に従ったって言っておくから」
「…………三成すら欺くとは…………半兵衛殿の恐ろしさには、我もかなわぬな」
「僕の全ては秀吉のためにある。彼の命を一日でも長く延ばすことよりも、僕は彼が覇王として後世まで称えられることを望むよ。それと、あの愚鈍な豊臣の血族たちに豊臣軍を渡したくもないしね」
自分の吐く息が徐々に弱まりつつある。
あと数日で自分は死ぬだろうという確信と、それまでに秀吉のために整えた策の準備を終えられる喜びに身を浸しながら、半兵衛は目の前の男を見る。
全身を覆う包帯、そしてこの世の全てを憎み呪う瞳。
三成だけではこの策は成就されない、彼の横で全てを操る存在が必要なのだ。本来なら黒田官兵衛にでも任せるべきなのだが、あの男だけは半兵衛でも操ることが難しかった。
己の望むがままに、あの常識外れの優れた頭脳を使う。
そんな彼がこんな途方もない策の手伝いをするわけがない。それに目の前にいる男、大谷吉継の暗い思いはこの戦を起こす力となってくれるだろう。
多くの人々が死ぬこと、そして不幸がこの世を覆うことを望む。
戦の終焉まで彼を利用するが、その後の事に関してはいくつか手を打ってある。それに大谷もこの様子では後数年の命……といったところだろう。
死にゆく人間が、死に近づきつつある人間を動かしてこの世を変えようとする。
なんと滑稽なことだろうと思いながら、半兵衛は今回の策について聞いてくる大谷に答えながらそっと目を閉じる。
瞼に映るのは、家康と三成の姿。
用意された舞台でまるで踊るように争い、そして心の奥底で涙を流し続ける。
彼らを追い詰めている、そしてどちらかの命を奪うことになる。
その事実に心が痛むが、情を切り捨て冷酷な判断を下せなければ軍師とはいえない。
「………大谷君………」
「なんでございましょうか」
「僕は……ひどい男かな……」
「我は半兵衛殿ほど優れたお方にはあったことがございませぬ……勿論、太閤殿は更に優れたお方でございますが」
「………君は……本当に口が上手い男だね………まあ君のそういうところに期待したから全てを任せたんだけど」
大切に育ててきた青年を道具として扱い、彼の命を犠牲にすることになっても自分の望みを叶えさせようとする。きっと三成のことだ、家康の命を救うために、自分が犠牲になることを選ぶだろう。
民のために自分の心すら殺すことができる家康には、それを行うことはできない。
二人が舞うように争い合うその時。三成は何を思い、そして散っていくのだろうか。愛する者を守ることができた、その思いに満たされて心安らかに逝くことができればいいのだが。
そして黄泉路で彼に再会することができるなら、言葉を尽くして謝ろう。
秀吉のために苦行を強いてすまなかった、と。
「…………ちょっと……疲れたかな………」
「少し休まれては」
「うんそうするよ……家康君には君から文を送っておいてくれるかな。僕が呼んでるからすぐに来てくれってね」
「承知いたしました」
大谷の低い声を聞きながら、半兵衛は再度目を閉じる。
家康が来るまでに、少しでも体力を回復しておかなければならない。あとどれだけこの命がもつのかはわからないが、それまでに家康と話をしなければならない。
家康をどんな言葉で納得させるか、それを考えながら。
竹中半兵衛は、死と隣り合わせになりつつある眠りに落ちていった。
竹中半兵衛がその生涯を終えたのは、それから三日後。
徳川家康が表情を強張らせたまま館を後にした、そのすぐ後のことであった。
_______________________________________
この話を書こうとしたきっかけ。
「ゲーム中の家康さんの行動の意味を自分内部でなんとか納得する理由を作りたかった」
石田さんが大好きだってことは理解できてるから、後はあの意味不明な行動の理由を……
ということで、これで序章は終わり!
これからは石田さんと家康さんが用意された舞台でくるくると回りながら何とか悲劇を回避しようと頑張るお話になります。
ということで、タイトルが輪舞だったのです……
BGM「Magia」 by kalafina
儂は三成ほどの正直者を他に知らない。
真っ直ぐで強い、その生き方が美しい。
徳川家康という男は、三成のことをいつもそう褒めそやす。
馬鹿が突くほど正直で、豊臣家のためなら簡単に命を投げ出すほどの狂信者。周囲の人間のほとんどは三成にそういう評価を与え、時には敵対してきたというのに。家康だけはどんな時で三成に笑いかけ、味方でいてくれた。
秀吉を口汚く罵っていた男を後先考えずに殴り倒した時も。
軍議の際に他の人間と大喧嘩をしても。
彼は三成を否定することがなかった。
上手く言葉にできない思いを本人以上に理解し、そして三成のために動いてくれる。そんな彼に強く感謝するようになったのは、彼に出会ってすぐのこと。
彼を深く愛するようになったのは、それからもう少し後。
戦場で人の命を奪い、それによって得た糧を主君に捧げる生き方だけを教えられてきた三成にとって、それは知ってはいけない思いだったのだろう。豊臣家への揺るぎない忠誠と、その豊臣家に膝を屈しながらも覇道に飲み込まれまいとする家康への愛情は、決して融和させられないもの。
豊臣を選べば、いつか家康と道を違えることになる。
その時家康に訪れるのは、破滅。そして豊臣軍の軍師である竹中半兵衛は、間違いなくそれを三成に行わせようとするだろう。三成の忠誠心を試すために、そして豊臣軍に逆らった者の末路を恐怖で彩るために。
そして三成はその命に従うのだ、血の涙を流しながらでも。
幼い三成を見出し臣下として育て上げてくれた秀吉を裏切る気はない、しかし家康への思いを心の内より消し去ることはできない三成にとって『その時』の到来は恐怖でしかなかった。
真っ直ぐなお前が美しい。
誰よりも綺麗だ。
そう言って自分を最高の友として扱ってくれる家康の命をを自らの手で奪う。そんなことをするくらいなら、自分が彼に討たれてしまえばいい。そう思いはするが、そうすれば半兵衛は別な者を家康を討つために差し向けるだろ。
彼を滅ぼす時まで。
最後に家康に会ったのは、この国の全てを豊臣が手に入れるための最後の戦の前だった。二人で春の湖を見つめ、いつものように軽口混じりに語り合い。肩に置かれた彼の手が以前よりも傷跡を増やし、その傷跡を切り裂くかのように新たな生々しい傷口が刻まれているのを見て。
心を痛めることしかできなかった。
三成にとって、家康は安らぎと暖かさの象徴と言ってもよい存在なのだが、三成は家康になにもしてやることができない。彼の側にいると時間が優しく流れる、彼が側にいなくとも彼を思うだけで数多の敵と切り結ぶことを恐れる必要がなくなる。
彼がこの世にいてくれさえすれば、どんな事にでも耐えられるのだ。
たとえ人生の師とも崇める存在が、急速に命の炎を細らせている状況であっても。
「………半兵衛様、お加減は」
「今日は大分いいよ」
「そうですか」
短い挨拶の合間にも、くぐもった呼吸が半兵衛の喉から聞こえてくる。
最後の戦の後、大量の血を吐き倒れた竹中半兵衛は大阪城から離れて静養することを希望した。命の全てを吐き尽くすかのように流れ出た血潮と、目を覚ました本人が口にした人が少ない所で静養したいと言う言葉で、その場にいた人間全員が理解した。
彼は病によって死に近づき始めている、と。
盟友として彼に最高の待遇を与えていた秀吉の悲しみは凄まじいものであったし、誰もが半兵衛が一日でも長く生きてくれることを願ったが。
蝋のように白く生命力を感じさせない肌に、赤みを失った唇。誰の前であろうと仮面を外素事はなかった彼が素顔を晒すようになったというのは、彼がもう豊臣軍の軍師として動いていないということなのだろうか。
床についたまま、起き上がることすらできない半兵衛であったが本人が言うとおり今日は幾分体調がいいのだろう。数日前に訪問した時は口元を赤く染め、口を動かすにも相当難儀していたのだ。
これが命が燃え尽きる前の最後の輝きでなければいいが。
そう思いながら背筋を正し、布団以外は何もない部屋を軽く見回す。豊臣家の別邸であるこの建物は、今までほとんど使われることがなかった。ここを使うべき本当の主を一度も迎え入れたことがないこの館で、彼の盟友がその生涯を終えようとしている。
それは何という皮肉だろうか。
ちょうど三成の目線の先、純白の襖の奥にはもう一つ部屋があるはず。この館で一番日当たりのいい部屋が続き間になっている。その事実は秀吉が全てを手に入れた時に、この館に二人で安らぎに来ることを想定していたことを三成に伝えてくるのだ。
もうその時は来ない、その事実と共に。
「ところで三成君、秀吉は元気だった?」
「半兵衛様がおられず、随分と気落ちしていらっしゃる様子です。この頃は考え込む姿をよく見かけます……」
「そうか、予想より少し早いね」
「予想……ですか?」
横になったまま、半兵衛が重苦しい息を吐く。
枕元に近い位置でぴしりと背を伸ばし、じっと半兵衛を見つめている三成に唇をわずかに動かして笑いかけると、半兵衛は唐突におかしな事を聞いてきた。
「ねえ三成君、君は……秀吉を殺せる?」
「ひ、秀吉様を!? そんなことできるわけがありません!」
「それが秀吉のためになる……僕がそう保証してもかい?」
「半兵衛様がどう仰られても、秀吉様に刃を向けることなどできるわけがありません」
「そう」
短い、だが刃の切っ先を思わせる声。
その鋭さに、自分が半兵衛を失望させることタエを口にしたことを理解した三成であったが。敬愛する主君に殺意を向けられるわけがないというのに、半兵衛は何を言いたいというのだろう。
三成を言葉で貫き、諦めたような笑いを浮かべ。
「しょうがないよね……君は僕がそう育てたんだから………でも……僕は君が良かったんだけどね……」
「何の……話をしておられるのですか?」
「簡単な話だよ」
そう軽く前置きした半兵衛は、首を動かすことすら億劫なのか目だけを動かして三成を見つめ。
君に秀吉を殺してもらいたい。
まるで幼い子供に何かを言い含める時のように、ゆっくりと。
だが拒否を許さない強さを秘めた声で、驚愕のあまり唇を震わせる三成を打ち据えていった。
「僕のこの病……うつるらしいんだよね。病というのは近くにいればいるほど、うつる確率も上がる……三成君ならそれはわかると思うけど。僕がいつも側にいたのは秀吉……この頃あまり元気がないみたいだけど……」
「………………………………」
「僕だけじゃなく、自分の体も病に冒されたことを知って、秀吉は今何を思っているのだろうね。僕との約束を果たすために、他国への出兵でも始めるのかな……」
「…………は………はんべえさ………」
「僕は狂っているわけでもないし、死を目の前にして自暴自棄になっているわけでもない。まずは最初にそれを理解して欲しいんだ、三成君には」
半兵衛が何を言っているのか、そして何を伝えようとしているのか。
凍り付いたかのように動かなくなった舌は言葉を紡ぐことを邪魔するし、上手く話せたとしても何を半兵衛に言えばいいのかがわからない。今の三成にできることは、決して自分は狂っていないという半兵衛の言葉を信じて、素直に彼の言葉を聞くことだけ。
混乱から抜け出せぬまま小さく頷くと、半兵衛の笑みが少しだけ深くなった。
「…………ありがとう。じゃあ少し長くなるかもしれないけど、僕の話を聞いてもらうよ。君には酷なことを頼むことになるし、君にそれを拒否する権利を僕は与える気は無い。家康君も……散々悩んだようだけど、僕の願いを聞いてくれたしね」
「家……康……が……ですか………」
「そう、家康君」
あの優しい男が悩んで苦しんだ末に半兵衛の頼みを受け入れた。
その事実が三成の半兵衛に対する疑惑を少しだけ薄れさせた。秀吉が病になどなるわけがない、半兵衛は嘘を言っているのだ。心の内にあったその思いは、家康という名前の力で徐々に消えていくことになる。
彼が信じたのなら、自分も信じなくては。
家康の名前を耳にするだけで体の強ばりがとれていく自分の現金さに呆れつつ、三成は再度背筋を正し、そして半兵衛の言葉に先程より集中して耳を傾け始めた。
豊臣秀吉は、この国の支配だけを求めた男ではなかった。
力による支配だけではなく、それを他国の侵略へと向けようとする。
国を良き方向へと導くために治めることを目的としているのならば、全ての者が彼を認めたかもしれないのだが。彼が選んだのはこの国を守るための他国への侵略であった。
内乱を続けているだけの国では、いずれ他国の侵略対象になる。
常に戦い続けることでこの国の価値は上がり、そして人々の心は結集し更なる富を生み出していく。秀吉のこの国を守るための遠大な野望、そのために尽力し続けてきた半兵衛の存在。その二つが調和したからこそ、豊臣軍は常勝不敗の軍団としてこの国を手に入れることができたのだ。
だが、竹中半兵衛は近いうちにその命を落とす。
その時何が起こるのか、それを半兵衛は腹心の部下とも言える三成にゆっくりとした口調で語り始めていた。閉め切った部屋の中、子供に言い含めるように優しく、だが決して反論を許さない。そんな半兵衛の言葉に、三成は徐々に表情を強張らせつつあった。
季節はそろそろ夏、青ざめて震え始めそうな顔の半兵衛とは違い、三成の額からは汗が一滴。
「秀吉は僕が死んだ後、きっと他国への出兵を強行するだろうね。自分の病にも気がついているようだし、なにより今の秀吉を止められるのは僕だけ。その僕が止めないんだから……進むだけだよね、自分の願いのままに」
「ですが秀吉様は……」
「うん、多分出兵中に死ぬんじゃないかな」
ごく当たり前のことを言うように、盟友の死を口にした半兵衛は床についたまま小さく咳き込む。三成に自分の咳を浴びせかけたくないのか、顔を横にし顔を見せずに。
その様子を見て慌てて更に近寄ろうとした三成を、小さく鋭い声で止めることも忘れない。
「近づかないでくれるかな」
「半兵衛様…………ですが…………」
「今の君にできることは僕の世話じゃない、僕の望みを叶えることだよ」
「その望みが秀吉様を討つということであれば、お引き受けはできません」
「うん、それはわかってる。だからそれは家康君に頼んだよ。秀吉の命ももう長くない、だから君が秀吉を討ち倒してこの国を手に入れてくれないか……ってね」
「家康が……秀吉様を………」
彼の望みは知っていた、そして彼がその望みのために豊臣軍に屈したこともわかっているのだ。
家康にとってはまたとない機会になるだろう。半兵衛直々の手引きで、秀吉を討ちこの国を手に入れることができるのだ。
だが豊臣軍に全てを捧げた三成にとって、それは決して許してはいけないこと。
主君を討つことを許し、討った相手がこの国を治めることを許容する。そんなこと、できるわけがない。
「ただし、その前にやってもらうことがあるんだけどね……家康君と、それから君に」
「私に何をしろというのですか? 家康を殺せとでも?」
「そうだよ、それが僕が君に望むこと。君が家康君に殺されるという終わりもありだけど……僕は君に生き延びて欲しい。
もう一度言おうか?
秀吉が家康君に討たれた後、豊臣の残党をまとめて家康君と殺し合うこと。
それが僕が君に下す最後の命令だよ」
膝の上で強く握られていた拳が、力を失った。
体に力が入らない、全てが崩れていく。
秀吉を殺されるだけでなく、殺した家康を自分が殺さなくてはいけない。
たとえ半兵衛の命であろうと、そんなことできるわけがない。どんな時でも自分を優しく包み込んでくれ、常に手を差し伸べてくれるあの男の命を。
奪えというのか、この手で。
家康が三成へ向ける友情も、三成の家康への淡い思いも知っているはずなのだ、半兵衛は。それでもこのような酷な願いをしてくるということは。
「家康君は秀吉を討つ……だけどそれだけでは足りない。秀吉が遠回りな形だけど望んだのはこの国が繁栄し続ける事。秀吉が死んだことでまた戦ばかりになっても困るんだ」
「………………………」
「それに秀吉の親戚達がおかしな動きをする可能性がある。あんな何もできない奴らに秀吉の全てを奪われるわけにもいかないしね………だから僕は望むんだ。君と家康君がこの国を二分して争い合うことを」
「……………でき……ません……」
「家康君が秀吉を討てば、君は豊臣の兵をまとめて彼を討つ大義名分ができる。それに乗じてあちこちで動き出すだろうね……豊臣の天下に納得していない連中が」
「それだけは………それだけは……どうか……」
「その全てを取り込み、この国最後の大戦をしてほしい。全ての将達が納得できる、最高の戦の舞台を君たちで作り上げるんだ。今秀吉が他国へと出兵しても必ず失敗する、そして秀吉にはもう時間がない。僕が死んだ後、秀吉の名前がこの国の歴史に最悪の形で刻まれること………僕はそれだけは避けたいんだ」
無駄に他国へ出兵した愚かな男。
そう呼ばれるくらいなら、身近な者に討たれ生涯を終えさせてやりたい。半兵衛のその考え方を、三成には全く理解することができない。
ただできることがあるとすれば。
「……半兵衛様………それだけは………私には………」
「君でなければ駄目なんだよ。大谷君では豊臣の旗印としての役割を引き受けることはできないし、官兵衛君は……根本的な問題がある。君の名の元でしか、豊臣の兵はまとまることができない。そして豊臣の兵は、君を逃がすことはないだろうね」
「できません……私に……家康を討つことなど……」
額に流れていた汗の代わりに涙を流し、半兵衛を包む布団の端をぎゅっと握りしめ。
何度も何度も自分にはできぬと口にすることだけであった。
いつかはこの日が来るのでは、以前からそれを恐れていたのは事実だ。豊臣への忠誠と、家康への愛情、どちらかを選ぶ時が来るとしたら自分は何を選び取るのだろう。眠る前にそんなことを考え始め、気がつくと空が明るくなり始めていたことも一度や二度ではない。
だが、こんな事になるなんて想像だにしていなかった。
自分が豊臣の旗を背負い、家康と対峙することになる。総大将同士が戦を終わらせようと思わなければ、戦の終焉はない。そして半兵衛が求めているのは、どちらかの命が散ることでの決着。
新しく生まれる世の中に、遺恨を残さぬためにどちらかが散る。
半兵衛の策は見事だと思うが、その道具として自分と家康が扱われることに納得してはいけない。こんなことを考えてはいけないが、半兵衛だって神仏ではない。
彼が死した後、彼の策から逃げ延びる方法はあるはずなのだ。
口から嗚咽に近い息を漏らし、唇を噛みしめることでそれが声に変ずることを必死に押さえていると、そんなわずかな希望すら打ち砕く半兵衛の声が耳朶に響いてきた。
「家康君は全てを受け入れたよ……秀吉を討つことも、そして三成君と殺し合うことになることも。君がどれだけ逃げようとも、家康君は秀吉を討つ。そして君との戦いも、彼は受け入れるだろうね。その時、君はどうするのかな?」
「………………家康が……私を殺す……と………?」
「戦のない世を作るためならば、心を鬼にしてでもやってみせる……家康君はそう言っていたけど?」
その言葉を聞いて、もう何もかもが堪えられなくなった。
家康は自分を殺してでも、平穏な世を作り上げるつもりなのだ。
最も親しい友だと信じていた、彼にだけはどんなことでも話すことができた。
誰よりも、愛おしかった。
だがそれは、三成だけが持っていた思いなのだ。
己の望みのためならば、三成を殺すことも受け入れる。家康にとって、三成はその程度の存在だった。
わかってはいたのだ、だがその事実を突きつけられることがこんなに悲しいとは。
「………今は泣くといい。僕は君にそれだけ辛いお願いをしているんだからね。だけど軍師として僕は少しだけ楽しみに感じてしまう………君と家康君が僕が作り上げた舞台で舞ってくれる姿をね。そんな僕を許してくれるかい?」
「………半兵衛様は………私にとって……尊……敬できるお方です……これからも……」
「ありがとう。三成君、僕は先に逝くけど……最後の時まで秀吉を頼むね」
その秀吉を殺せと言った口で、半兵衛は彼を気遣う言葉を口にする。
だがもうそんなことを考える余裕は三成の中に存在しなかった。三成が逃げたくとも、家康は全てを受け入れてしまった。彼と自分はいずれ殺し合うことになり、そしてどちらかが死ぬのだ。
ああ、という悲鳴に近い嘆きが自分の口から響く。
半兵衛の布団を握っていた手は幾度も畳に叩きつけられ、皮が破れ血が噴き出す。顔を三成の方へと向け、慈母のような眼差しでそれを見つめる半兵衛のなだめるような声を聞きながら、三成は嘆き続けた。
「…………いえやす…………いえやす………」
そう、愛しい者の名を呼びながら。
石田三成は絶望し、苦しみ。
そうして半兵衛の策を受け入れた。
三成の中に芽生えた小さな願い、それ故に。
三成が座っていた場所の周辺は、変色し始めた血で激しく汚れていた。
自分が三成にどれだけの悲しみを与えたのか。それを目の当たりにさせられながら、半兵衛は今日二人目の客人を受け入れていた。
血に汚れた場所を避け、だがその血を愛おしげに見つめている相手に消えてしまいそうな声で話しかける。
「………三成君には、全て話し終えたよ。後のことは君に託すとしようか」
「承知いたしました」
「まずは家康君を呼んで、受け入れてもらわなきゃね……僕の策を」
「先程の話では、徳川はもう半兵衛殿の策を受け入れた……と」
「そうでも言わなきゃ、三成君は納得しないよ。家康君には三成君が僕の命令に素直に従ったって言っておくから」
「…………三成すら欺くとは…………半兵衛殿の恐ろしさには、我もかなわぬな」
「僕の全ては秀吉のためにある。彼の命を一日でも長く延ばすことよりも、僕は彼が覇王として後世まで称えられることを望むよ。それと、あの愚鈍な豊臣の血族たちに豊臣軍を渡したくもないしね」
自分の吐く息が徐々に弱まりつつある。
あと数日で自分は死ぬだろうという確信と、それまでに秀吉のために整えた策の準備を終えられる喜びに身を浸しながら、半兵衛は目の前の男を見る。
全身を覆う包帯、そしてこの世の全てを憎み呪う瞳。
三成だけではこの策は成就されない、彼の横で全てを操る存在が必要なのだ。本来なら黒田官兵衛にでも任せるべきなのだが、あの男だけは半兵衛でも操ることが難しかった。
己の望むがままに、あの常識外れの優れた頭脳を使う。
そんな彼がこんな途方もない策の手伝いをするわけがない。それに目の前にいる男、大谷吉継の暗い思いはこの戦を起こす力となってくれるだろう。
多くの人々が死ぬこと、そして不幸がこの世を覆うことを望む。
戦の終焉まで彼を利用するが、その後の事に関してはいくつか手を打ってある。それに大谷もこの様子では後数年の命……といったところだろう。
死にゆく人間が、死に近づきつつある人間を動かしてこの世を変えようとする。
なんと滑稽なことだろうと思いながら、半兵衛は今回の策について聞いてくる大谷に答えながらそっと目を閉じる。
瞼に映るのは、家康と三成の姿。
用意された舞台でまるで踊るように争い、そして心の奥底で涙を流し続ける。
彼らを追い詰めている、そしてどちらかの命を奪うことになる。
その事実に心が痛むが、情を切り捨て冷酷な判断を下せなければ軍師とはいえない。
「………大谷君………」
「なんでございましょうか」
「僕は……ひどい男かな……」
「我は半兵衛殿ほど優れたお方にはあったことがございませぬ……勿論、太閤殿は更に優れたお方でございますが」
「………君は……本当に口が上手い男だね………まあ君のそういうところに期待したから全てを任せたんだけど」
大切に育ててきた青年を道具として扱い、彼の命を犠牲にすることになっても自分の望みを叶えさせようとする。きっと三成のことだ、家康の命を救うために、自分が犠牲になることを選ぶだろう。
民のために自分の心すら殺すことができる家康には、それを行うことはできない。
二人が舞うように争い合うその時。三成は何を思い、そして散っていくのだろうか。愛する者を守ることができた、その思いに満たされて心安らかに逝くことができればいいのだが。
そして黄泉路で彼に再会することができるなら、言葉を尽くして謝ろう。
秀吉のために苦行を強いてすまなかった、と。
「…………ちょっと……疲れたかな………」
「少し休まれては」
「うんそうするよ……家康君には君から文を送っておいてくれるかな。僕が呼んでるからすぐに来てくれってね」
「承知いたしました」
大谷の低い声を聞きながら、半兵衛は再度目を閉じる。
家康が来るまでに、少しでも体力を回復しておかなければならない。あとどれだけこの命がもつのかはわからないが、それまでに家康と話をしなければならない。
家康をどんな言葉で納得させるか、それを考えながら。
竹中半兵衛は、死と隣り合わせになりつつある眠りに落ちていった。
竹中半兵衛がその生涯を終えたのは、それから三日後。
徳川家康が表情を強張らせたまま館を後にした、そのすぐ後のことであった。
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この話を書こうとしたきっかけ。
「ゲーム中の家康さんの行動の意味を自分内部でなんとか納得する理由を作りたかった」
石田さんが大好きだってことは理解できてるから、後はあの意味不明な行動の理由を……
ということで、これで序章は終わり!
これからは石田さんと家康さんが用意された舞台でくるくると回りながら何とか悲劇を回避しようと頑張るお話になります。
ということで、タイトルが輪舞だったのです……
BGM「Magia」 by kalafina
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色々説明
拍手現在豊臣家転生パロ中学生編入ってます
(現在2本 家三 チカナリです)
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・フリーリンクじゃないです、基本的にはリンクはお断りしています
・ひっそりこっそりが信条なので、黙々と
・捏造、not公式のこばなしが多いので、スルー推奨
ラキドでは幹部全員を溺愛しておりますが、ベルナルドとイヴァンは特に偏愛。ばさらは家三とか奥州の愉快な仲間達と毛長がメインです。うずみさんが現在官三とか官佐にずっぽりとはまり中。
基本は、愛想のかけらもない「ネット怖い~」の書き手が二人で色々書いている場所です。
書いている人
みっし
・生真面目で堅物でムキムキな男性と一見そうじゃなくても根は真面目極まり ないキャラをこよなく愛している、がんかたうるふの片割れ。編み物とお菓子作りが趣味という、第三者曰く可愛らしい一面を持つ反面、パニクると踊ったり、オロオロしだして周囲は見ていて楽しいらしい。荒ぶる舞は、職場の名物だったりする……らしい。
イヴァンちゃんと片倉さんとシズちゃんとスカイハイさんと陛下を思いっきり愛している。好きなアニメは銀魂と最近はFate/zero。型月ファンというよりは元から虚淵ファンでうずみさんからオススメされまくった末にようやっと手を付けて完読した。ライダー組おいしいです。エクシリアではダントツで陛下が好き。陛下が使用可能になる完全版があるなら複数買いしても構わないとのたまう日々。バサラの好きキャラは片倉さん一強だったはずなのに最近はアニキも熱い。かっちり着込むキャラがすきだったはずなのにいきなり露出度が高いキャラを好きになったのは何故か悩む日々。二次元の向かう愛と同じぐらい甥っ子への愛を叫んでいる気がしてならない。
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