こちらはサークル「がんかたうるふ」のうずみとみっしの二人組が、ラッキードッグ1とばさらのこばなしを黙々と投下する場所です。
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作家の毛利さんと通い家政婦で大学生の長曾我部君のゆるゆるな日常。多分ナリチカ、毛長。
毎回表記に悩みます。誕生日話の裏話にして完結編になります。作家さんが一人純情ロマンチカ…嘘ではない、多分ない。
その1→ その2 →作家さんの事情 で誕生日話は終わります。
このあとは夏休みに向けて話が動く、予定です。
○作中では7月に設定しているので現実との気温の差に絶望しそうになります。マイナス20度ってどういうことでしょう、寒すぎる。おまけに暴風雪とか。でもアニキはそんな場所でも半裸なんだろうなぁと考えたら余計に寒くなりました。どうしてくれよう。(アニキは多分悪くない。)毛利さんは反対に寒冷地仕様で防寒対策しっかりしてくれたら萌えます。もふもふもこもこオクラ様。妄想終わり。
書いた人:みっしー
毎回表記に悩みます。誕生日話の裏話にして完結編になります。作家さんが一人純情ロマンチカ…嘘ではない、多分ない。
その1→ その2 →作家さんの事情 で誕生日話は終わります。
このあとは夏休みに向けて話が動く、予定です。
○作中では7月に設定しているので現実との気温の差に絶望しそうになります。マイナス20度ってどういうことでしょう、寒すぎる。おまけに暴風雪とか。でもアニキはそんな場所でも半裸なんだろうなぁと考えたら余計に寒くなりました。どうしてくれよう。(アニキは多分悪くない。)毛利さんは反対に寒冷地仕様で防寒対策しっかりしてくれたら萌えます。もふもふもこもこオクラ様。妄想終わり。
書いた人:みっしー
*****
作家さんと大学生~作家さんの事情~
大谷から言われた言葉が、頭から離れない。
-主の不幸と幸福は紙一重よのう
「…わからん」
ここ数日、毛利はそればかりを考えていた。
先日、大谷と黒田が自宅を訪れた日の夜に大谷から言われたその言葉が頭の中で渦を巻いている。そして脳裏に浮かぶのは長曾我部元親の姿だった。
確かに長曾我部は良い奴、なのだと思う。
いくら竹中からの紹介で雇用されているとは言っても自分のような、自他共に認めるろくでなしの世話をするのは常人であれば気苦労しかないだろう。元就は、自分が社会に適応出来ない人間であることを深く自覚している。
作家という職業を選んだのは文章を書くのが好きだったという理由もあるが、必要以上に人と関わらなくて良いから、と言うのも本人にとってはかなりのポイントだった。
そもそも人とコミュニケーションが全く取れないとかそういう訳では無い。欲しい物があれば買い物にも行くし、大多数の人間がいる場に行こうとすると怖じ気づく訳でもない。だけれども自分が望んだとき以外に人と極力関わりたくはなかった。
最もそれは、今はもういない家族との関係など色々あった末に出した末の結論ではあったが。
結局の所、度を越えて自己中心的なのだ。
毛利元就という人間は。
通常の作家であればその偏屈さと自己中心的な側面からさっさと首を切られていてもおかしくはないはずだった。
だが毛利は違った。
デビュー作から毛利を買ってくれていたとある出版社の当時の社長、即ち大谷の父が許せる範囲の事は全て許可してくれていたからである。お陰で彼の人だけは毛利が頭を上げられない数少ない存在である。最も当人は全く気にしていないようだったが。大谷が大学卒業後、他社に修行に行き、数年後に跡取りとして社に戻ってからはなおのことだった。彼は学生時代から毛利の偏屈さをよく知っていたが故に許容した。というか放置した。編集者にしたら極めて扱い辛いということで大谷が役員になるまでは毛利の担当をしていたものだ。役員になるのが決まった直後に大谷の後輩である黒田にその役割が振られ、今に至る。幸いにも作家として出した本の評判はいずれも上々で、首をきられることもなく、今に至る。
恵まれているのだと自分では思う。
仕事は順調、日々の生活は長年世話になっている家政婦が面倒を見てくれていた。
なにも不満は無かった日々。
それが崩れたのはいつの日だっただろう。
まず今年になったすぐに、高齢を理由に家政婦が辞職を申し出た。
一人暮らしをしてからずっと世話になっていた訳だから軽く10年以上、下手すればそれ以上、彼女の世話になっていた訳だ。娘夫婦と今後は暮らすという彼女を引き留める理由もなく、3月頭までは勤めてくれるという条件で辞職を了承した。
困ったのはその後だった。後任の家政婦が見つからないのだ。
身元が信用出来て変に勘ぐらない人間が良い、そう大谷に伝えた所、大谷から竹中に連絡が行き、そして紹介されてきたのが長曾我部元親という青年だった。
高校を卒業し、この春から近くの大学に通うことになっている青年は、家庭の事情から家事に長けており、そして竹中から見ても人間としては問題が無いだろう、という話だった。
「詳しい話は会ってから決めてあげてね。あと凄く良い子だから。」
竹中言うところの良い子、とやらが全くもって想像出来なかったが、今更他者に頼むのも億劫だった元就はそれを了承した。
そして3月に入ってしばらくたったある日の事。
締め切り明けで出かけ、疲労と空腹から玄関先でぶっ倒れて寝ていた元就を叩き起こす人間がいた。声はひどく慌てふためいており、非常に忙しなかったと記憶している。もうとにかく眠たくて仕方なかった元就は寝ぼけ半分で何かを言って、しぶしぶ目を開いた。
そこにいたのは、長身で、銀髪で、ど派手な、正直どこのヤンキーかと思うようなみかけに似合わない困り顔をした男だった。
それが、長曾我部元親との出会いだった。
困り顔は玄関先でぶっ倒れた元就を発見したからだということを当時の元就は知る由も無く「…随分と情けない面構えだな…」と口走り長曾我部を唖然とさせた事、
派手な外見に一瞬度肝を抜かれたが話してみると案外普通で拍子抜けしたのも今では思い出だ。
作家の仕事には必要以上に立ち入らないこと、こちらからの要求には基本的に応じる事。
いくつかの条件を出した上で元親は了承し、元就は彼を雇用することに決めた。
これが3月のこと。
それから数ヶ月経った今、元就は新たな困難に直面していた。
長曾我部こと元親は元就が思った以上にマメな人間であった。
大学の講義もあり多忙であろうにそれでも2,3日に一度は必ず訪れ仕事をしては帰って行く。ほぼ毎日来ていた以前の家政婦とは比較にはならないが、それでも仕事は真面目にこなすし仕事態度も悪くはない。
そして、何より、元親の作るおやつが元就にとっては何よりも楽しみになっていた。
元親曰く、年の離れた妹がいたためか、それとも単にお菓子を作ることが好きなのか、とにもかくにも自身は甘い物をあまり食べないというのに元親はお菓子作りに非常に長けていた。
それは、おやつと言えば黒砂糖やごかぼで過ごしてきた元就にとっては大きなカルチャーショックだった。
そして元親は、元就の言動や行動に呆れているのを隠そうともしなかったが、バイトを辞めるとも言わなかった。時折おもしろ半分に煽ったときは実に素直な反応でからかいがいがあった。正直に言うと落ち着いてから見てみると顔はかなり好みの部類に入っていただけにからかっていたことを追記しておく。
しかし長曾我部はしょうがねぇなぁ、と良いながらも最後にはあれこれと元就の世話を焼く。
こんな人間は初めてだった。
そもそも自分の領域にこれほど近づかれても不快にならないのは元親が初めてであったことに気がつくのに時間はかからなかった。
-何故だ?
最も、それを強く認識したのは大谷の発言がきっかけだった訳だが。
そして極めつけは、竹中からかかってきた電話だ。
急遽出張することになった大谷と会う機会があり、伝言を預かったが故に連絡してきたらしい。
『久しぶりだねぇ。大谷くんから聞いたよ?』
「…大谷めが…余計な事を」
『ははは、まぁいいじゃない。どうせ君からは連絡なんてくれないの、わかりきってるしね。』
「用件を言え、竹中。何も無しに電話した貴様ではあるまい。」
『…相変わらず単刀直入だよねぇ、君は。まぁいいや、ええとね大谷くんからの伝言を伝えるね。
『先日ハッキリと言えなんだが、主は気にするだろうから伝えておく。
それは、恋ぞ。己の恋心に翻弄される貴様は見ていて実に楽しいものよ。
今までの自分の無知を呪い、抉られるがよい。ヒャヒャヒャ。』
…って君大谷くんに何か言ったの?文面見るだけで凄い楽しそうだし実際に楽しそうだったけど。まぁ…よくはわからないけど、君が心から愛するそういう存在を見つけられたらいいとは僕も思うけどね。じゃあ僕も用事があるから失礼するね!!』
嵐のように、一方的に言いたい事だけを言って竹中は電話を切る。
昔の、特に大学時代に好き放題遊んでいた時代を知るだけに竹中の物言いは常に遠慮が無い。
呆然とするのは残された元就だけだった。
「…ありえぬ…」
何を馬鹿な、と反論出来なかった。
頭の中で考えていても一向に考えがまとまらない、ぐるぐるした思いに振り回される。
仕事のスランプとは明らかに違う、この感情が、恋だと。
否定出来ない自分に一番驚きながら、毛利は一晩に渡り悶々とした思いを抱える事になる。
結局、仕事はあれから手が付けられず、かといって十分に睡眠も取れなかった元就は顔色の悪さと隈に自分でも驚きながらリビングで過ごしていた。
テレビの向こうでは書籍の週刊ランキングとやらが写っており、先日発売した自身の新刊もランクインしたようだ。
最も、何の感慨も沸かなかったが。
元親が来たのはそんな時だった。
なにやら大きな発砲スチロールの箱を抱えてきた彼に思わず怪訝な顔をしてしまう。
家族から送られたというそれを前に元就は、元親から耳を疑う言葉を聞く。
「…誕生日…だと…」
瞬間、それに今まで気が付かなかった自分自身に驚くほどにショックを受けている自分に元就は気がついた。
-なんで我はここまで衝撃を受けている?これでは、まるで。
大谷の言う通りではないか、そう思ったところで合点がいった。
我は、長曾我部の事が、好きなのか。
そう考えた途端、体全体から力が抜け、ぐらりと倒れそうになるのを必死で支えるも力及ばず元就はうな垂れる。
常と違う元就を長曾我部は案じてくれているようだったが、正直あまり頭に入っていなかった。
「…そなたに悪気がないのはわかっているのだが…そうかこれが抉られるという奴か…大谷よ…理解したぞ…」
長曾我部は全くもって悪くない。
悪くないのだが、今はただその素直さが眩しすぎるほどに眩しい。というか遅い恋心を自覚した三十路越えには色々とダメージが大きすぎた。
しかしそんな元就の内心など預かり知らぬ長曾我部は元就の体調を案じ、体調が悪いなら俺、帰ろうかと話を持ちかけてきた。
それだけは何とか、断固として阻止しなければならない。妙に必死な元就に長曾我部は若干の違和感を感じたようだったが、深く問い詰める事は無く、納得したようだった。
気をそらすためにもいつもの態度をなんとか再現しようと試みる。
日頃はなんとなくやっているだけに意図的に再現することは自分でもどうかと思うが、案外違和感なく振舞えたようだ。
そしてこんな状況であろうとも長曾我部にお菓子作りの約束を取り付けている自分はいかがなものだろう。
でも仕方が無い、好物であるし。
そんなことを考えながら元就は傍から見ると顔が見えないほどに踏ん反り返っていた。
「…困った…」
仕事以外でこのような事を口にするのはどれぐらい久しぶりだろう。
どうやら自分は自分で思った以上に切羽詰っているらしいということを改めて自覚する。
昼食を終え、仕事をする、という名目で仕事部屋に篭ったものの、遅々として仕事は進まず、むしろ先日よりも停滞している。
「…しかもあやつは見たところノーマルだぞ…」
顔は好みだった、それは認めよう。だからからかって遊ぶのは非常に楽しかった。
しかし自身の方が好意を認めてしまうとややこしくなる。
それに加えてあの手のタイプは人の感情には妙に聡い癖に恋愛感情にはただひたすら疎いという究極に厄介なタイプだ。
だからといって、諦めるという選択肢は元就の中に存在していないのだが。
他人にここまで執着するのは三十年半ば生きてきた元就にとって初めてのことだった。
だから、わからない。
どうしたら良いのか、どう振舞えば良いのか検討が付かない。
だけども諦めたくない、それが正直な気持ちだった。
良い年した大人のやることにしたらみっともないことこの上ないが、それでもあがきたいのだから仕方が無い。
傍から見るとみっともなくても、笑われるようなことでも、当人にとっては全力で、必死な、とても大切なこと。
「これが、恋か。」
改めて口にすると、それはストンと胸に落ちた。
ー痛い、30過ぎたおっさんが口走ると痛いことこの上ない。
など頭の中の自分が口走った気もするが、敢えて聞かなかったことにした。
終わらせたくない、諦めたくない。なら、振り向かせてしまえばいい。
だけれども今の関係を壊したくは無い。
共に食卓を囲む、あの居心地のよさに変わる物は無い。
しかも相手はその手の感情に疎いと思われる元親だ。
限りなく、相手のペースに合わせてゆっくりのんびり進めるしかないだろう。
「百戦錬磨と言われた我がこの有様とは…恋とは恐ろしいものよ…」
竹中から賜った、不名誉な昔の称号とは裏腹な今の自分を大谷が見れば腹を抱えて大爆笑するに違いない、そう思いながら毛利はため息をついた。
買い物に行くという元親が出ている間に元就にはやるべきことがあった。
元親への誕生日プレゼントを入手するためである。
しかし遠出する時間は無い。
そもそも自宅の近くにスーパーや商店街はあっても気の利いた小物などを扱っている店は、一切ない。
「とすると…あれを使うか。」
言いながら元就は仕事部屋の一角を探し始める。
資料として購入してきた小物や衣類やらがあったはずだ、と探すが元親から腐海の森と称された仕事部屋だけに中々その部分までたどり着けない。
しかし、確かにあるはずだ、と探していた元就は思い当たる場所を見つけ掘り出した。
プラスチックのケースに収められたそれらはほとんど全てが未使用品であり、プレゼントとして渡しても差し支えないだろう…多分。
いや、差し支えあったとしてもこの状況では勘弁してもらうしかない、というか勘弁しろ、と誰に対してというわけでもないのに弁解しながら元就は箱をケース内を探し続ける。
そうしてケースの中からようやく元就は目的のものを探し出した。
以前書いた小説の参考資料として購入したギャルソンエプロンとカフェエプロンだ。
いざそれを着けている設定にしたものの、目にしなければ細部がわからないと思い、急遽購入したものだ。
担当よりインターネットの画像検索すればよかったのでは、と言われたが、買ってしまった後で言われても遅い。
結局、誰かが着用するという事は無く、そのシリーズが書き終わると同時に箱にしまわれ、そのままになっていた。
男性向けのフリーサイズであるので大柄な元親が着用しても大丈夫だろう…多分。
見つけた事をこれ幸いと取り出し、ケース自体は蓋をして部屋の端に追いやっておく。
そのうち必要なときに発掘すれば大丈夫だろう、と元就は考える。
最も普通は部屋から発掘しようなんて行動はしない、と誰かがその場にいたら突っ込んだかもしれない。
しかしそれらは全て無駄な行為である。
毛利元就は、家事全般、特に整理整頓においては壊滅的な能力しかもっていない人間なのだかた。
その割に器用な元就はエプロンを手際よく、包装紙に包んでいく。
プロには及ばないまでもそこそこ見栄えするのではないだろうか。
「…これで良かろう。」
口ではそう言いながらも内心は冷や汗ものだ。しかし今の元就が贈れる物はこの程度しかない。
なんにせよ、なんとかプレゼントを手に入れた元就は、ようやく手を付けられそうになった仕事にとりかかるべくパソコンと向き合った。
近所のスーパーに行くだけだと行っていた通りにさほど経たない内に元親は帰って来た。
しかし短時間であっても仕事はきりよく進められたので良いか、と元親が購入してきた煎餅をかじりながら元就は考えていた。
甘い黒糖の煎餅はさくさくしておりとても食べやすい。そして後を引く甘さである。美味い。
そんなことを思いながら次に手を止めようとしたら長曾我部に諌められた。
まぁ夕飯に丼とケーキが控えているのであれば正論であろう。最も規格外の燃費の悪さを誇る元就にとってはあまり関係ないのだが、その気遣いは受け取っておくとしよう。
元親がお菓子作りをする場面を見るのも久しいな、と思い視線を動かすと、そこには本当にこれだけでケーキが出来るのだろうか、という食材が並べられていた。
なんというか、元就が思っていた以上にお菓子の材料が少ないのであろう。
「これで本当にケーキが出来るのか?」
思わず問うた元就だったが、その不安はすぐに一蹴されることになる。
「おう!!びっくりするぐらいのうまいのが出来るぜ!!」
裏表の無い、無駄に爽やかな笑顔が元就の何かを直撃した。
―いかん、今のこいつを直視したらいろんなものが暴発する。
必死に気をそらしながらも元就は必死に相槌を打った。
表情が顔に出ないのが救いだが、挙動は明らかに不自然だろう。
しかし、何とかごまかし、元親のお菓子作りを見学するに至った。
元親自身は気づいているかいないか知らないが、彼は料理をしている時、とてもやさしい顔をしていることを毛利は知っている。
それはとても幸せそうな顔だった。
料理が好きなのもあるのだろうが、心から楽しんでいるのだろう。
そういえば、最初の頃に聞いたことがある。
家族のために家事をして、面倒だったことはないのか、と。
そう聞くと彼は少々困ったような顔をして言った。
『うーん…悪ぃけど全くねぇなぁ…。家の手伝いで家事をやり始めたのは本当だけどやってみたら楽しかったし…作ったものを美味いって言ってもらえるのは嬉しかったし。…まぁ俺は昔から色々家族に迷惑かけてるし、こんな形で返せるならそれでいいかって思ったんだよ。』
それは、何が原因なのかまでは聞けなかった。
困ったような顔を見ると、それ以上問い詰めることは何故だか出来なかった。
だけれども元就は、長曾我部元親という青年は非常に家族思いで、仲間思いで、自ら困難を抱えてしまうようなお人よしであることを知っていた。
そうでなければ、元就のような厄介な人間の世話など見られないだろう。
―本当に、底なしのお人よしだ。
だから、好きになったのかもしれない、と改めて思った。
クリームが余ったらくれるという嬉しい約束を取り付けた元就はそのまま仕事部屋に来ていた。
先程の仕事の続きに手を付けるためだ。
書き下ろし単行本として秋に発行予定のこれは諸々の事情により今月中には全ての原稿を仕上げなければ間に合わない。
そのほかにも通常の雑誌連載や文庫版への書き下ろしなど大小含めて仕事は様々だ。
それとあとは、大谷の知り合いに頼まれて書いている作品がもう少しある。
毛利は作家としては数多くのジャンルを書いている。
ミステリー、SF、ホラー、恋愛などなど、ここまでジャンルを選ばない作家も珍しいと一部では言われている。
それらのペンネームは共通のものを使っていたが、ごく一部のものは複数の別ペンネームを使っていた。
それは、俗に言うハーレクイン小説だったりボーイズラブ小説だったりと偏ったジャンルで使われている名前だった。
最初は世話になった大谷の父の親友から頼み込まれ渋々書いたら固定ファンが付いてしまい、止めるに止められなくなったのが始まりだった。
最も毛利は文章を書くことが好きなので書くことは特に苦ではない。例えそれがどんなジャンルであってもである。
今では表の名前に並ぶぐらい一部のジャンルでは知られた名である。
「ふむ…次はあやつでも登場させてみるか…」
まさかボーイズラブ小説に自分をモデルにしたキャラクターがいるとは元親も思うまい。
そう考えながら毛利は次回作の構想にふけることにした。
食事と声をかけられ即座にパソコンをセーフモードにし、リビングに向かう。
元親が来たときの夕食も楽しみだがそれ以上に今日はケーキが楽しみで、隠し切れない嬉しさを抱きつつ食卓に付いた。
食事を終え口にした念願のケーキは想像以上に美味なもので、元就を感激させるには十分だった。
だがそこで、元就は本日二度目の爆弾発言を食らうことになる。
「俺、今日で20歳になるんだけど…」
「20歳!?…貴様19歳になるのでは無いのか?」
今年大学入学と聞いていただけに実は20歳と聞いた元就の衝撃は半端なかった。
―19歳だと手を出したらとっ捕まると思って自重しようとしたのに、我の決意が台無しではないか…!!
そんなことを考えていたなど知る由も無い。
そんな元就に対して元親は苦笑しつつ答える。
「あー…まぁ学年で言ったらそうなんだけど…言っておくけど浪人でもないからな」
そう言いながら左目の眼帯に触れる。
「これが原因で、小学校の入学が遅れちまったよ。結局1年遅れて入学したんだ。」
だから、同級生より一才年上なんだ。
そう告げる元親は穏やかな表情だが、そこに至るまでどれだけの葛藤があったのだろう。
もとより元親のように日本人離れした容姿では周囲からのやっかみもあっただろうに、そこへもってきて左目の失明。
ひねくれずに育てたのは周囲の人間の協力と、元親自身の努力の結果だろうか。
外見は不良じみているし、実際喧嘩は強かったようだが元親という人間は非常に素直に育っている。
人間としての根っこは曲がっていない。
紆余曲折の末にひねくれまくった元就とは大違いだ。
「そなたは…見た目以上に苦労しているのだな…」
「どういう意味だ。」
そういって元親はまた笑った。
今度はカラっとして嫌味のないいつもの笑いだった。
そう笑えるようになるだけにどれだけの時間がかかったのだろう。
それが元親の強さなのかもしれない。そう、思った。
「何事も経験ぞ、やれ」
元親が20歳になるという事実を知った元就の行動は実に素早かった。
秘蔵の日本酒を用意すると有無を言わさず飲ませたのだ。
日本酒は飲んだことないと言う元親だが、元就が本気であることを知るとしぶしぶといった様子でグラスに口を付ける。
少しずつ飲み進めていく元親はげんなりしつつも拒否することはないようだ。
だが、顔が赤らんできたように見えた刹那、元親がぽろっと呟く。
「…あつい…」
「…貴様まさか、これだけで酔ったのか?」
日本酒を飲んだことは無い、という発言は実はアルコールを飲んだことが無いという意味だったのではないかとようやく思い至る。
「…っていうかあつい。ぬぐ。」
そう言うや否や着ていたTシャツに手をかけ、あっという間に一枚脱いでしまった。
ちなみに元親はTシャツ一枚だけを着ていたようであっという間に上半身マッパである。
元就が止める間もなくだ。
「…まーだーあーつーいー…」
そう言うや否や今度はジーンズに手をかける。
「やめんかこの馬鹿者があああああ!!」
なんだこの酔い方、脱ぎ上戸なぞ聞いたことが無いぞ…、と元就がひそかに慌てていることなど知らない元親はむくれた様子で言う。
「…だってあつい。ふくいらない。」
「…この21世紀に裸族になるな。」
「あつい。ぬぐー!!」
「脱ぐなアホうが!!目のやり場に困るではないか!!」
「ぬーぐー!!」
最早駄々っ子と同様の元親だが、上半身裸のままというのは非常に元就の心臓にもよろしくないのでいい加減止めて欲しいところである。
このままでは埒があかないと判断した元就は寝室に行き、和ダンスの中から浴衣を一着取り出した。
「脱ぐなら脱ぐで良いからこれを着ろ。…今のものよりは涼しいはずだ。」
「…そーかー?…わかった、これきても熱かったらぬぐー」
「だから、脱ぐなと言っておろう。この裸族めが…。」
のそのそとジーンズを脱ぎ終えたのを見計らって浴衣を元親に投げつける。
酔っ払っているためか思うように手がきかない元親はちょいちょいと毛利の服のすそを引っ張るといった。
「…きられない」
「…だからどうした…」
「きせて」
「…はぁ……」
まるで図体のでかい子供のようだ。
ぼんやりとした眼差しで自分を見つめる元親は普段と同じはずなのにふるまいがあまりに違い過ぎて同じに見えない。
常であれば元就が世話を焼かれるのが当たり前なので少々違和感を感じる。
「…これでいいぞ」
そう伝えると、ほわほわした子供のような笑みで言った。
「ありがと…もうりはやさしいからすきだぞ」
―本日三度目の爆弾投下である。
しかしその直後、投下した本人は「ねむい」と一言言うとリビングのソファにころんと横になってしまう。
そうかと思うとその直後に寝息をスースー立てて眠ってしまった。
酒を飲ませてから僅か30分の間に起こった出来事とは到底元就には思えないほどの濃い時間だった。
とりあえず片付けなど全て自分では出来るはずもないので起きた後の元親に任せようと思い食器は見なかったことにする。
ふと思い出して、渡せなかったプレゼントを眠る元親の近くに置いておく。これで渡し忘れることは無いだろう。
眠る元親の表情は穏やかで、意外に子供っぽいものだった。
目覚めた彼は覚えているだろうか、忘れているかも知れないし、それはわからない。
ただ、酔っ払った元親の破壊力は絶大だったので人前での飲酒は避けた方が良いことを伝えようかと思った。
「…たわけが…」
無邪気に好きだと言った元親を思い出す。
きっと彼の好きは自分の思う好きとは異なるものだろう。
しかし、そうは分かってはいても、自分の頬が熱を持っていることには気が付かないふりをした。
恋とはなんと、ままならぬものか。
ようやく自覚した恋心を自覚した元就は今後を憂いつつも一つの決意を固め、それに向かって動き出す事になる。
もちろん元親も、周囲の人間も。それに巻き込まれていく事になるのだが、この時はまだ誰も知らない。
翌朝、起きてきた元親と元就がしょうもないことで口論することになるのだが、これも全て元就にとっては計算の内、のはずである。多分。
吉と出るか、凶と出るか。全ては彼の采配次第なのだから。
○作家さんの脳内ぐるぐる編終了。次は夏休み直前編です。
COOLな毛利さんが書けません。どこに落ちてるんでしょうか。
大谷から言われた言葉が、頭から離れない。
-主の不幸と幸福は紙一重よのう
「…わからん」
ここ数日、毛利はそればかりを考えていた。
先日、大谷と黒田が自宅を訪れた日の夜に大谷から言われたその言葉が頭の中で渦を巻いている。そして脳裏に浮かぶのは長曾我部元親の姿だった。
確かに長曾我部は良い奴、なのだと思う。
いくら竹中からの紹介で雇用されているとは言っても自分のような、自他共に認めるろくでなしの世話をするのは常人であれば気苦労しかないだろう。元就は、自分が社会に適応出来ない人間であることを深く自覚している。
作家という職業を選んだのは文章を書くのが好きだったという理由もあるが、必要以上に人と関わらなくて良いから、と言うのも本人にとってはかなりのポイントだった。
そもそも人とコミュニケーションが全く取れないとかそういう訳では無い。欲しい物があれば買い物にも行くし、大多数の人間がいる場に行こうとすると怖じ気づく訳でもない。だけれども自分が望んだとき以外に人と極力関わりたくはなかった。
最もそれは、今はもういない家族との関係など色々あった末に出した末の結論ではあったが。
結局の所、度を越えて自己中心的なのだ。
毛利元就という人間は。
通常の作家であればその偏屈さと自己中心的な側面からさっさと首を切られていてもおかしくはないはずだった。
だが毛利は違った。
デビュー作から毛利を買ってくれていたとある出版社の当時の社長、即ち大谷の父が許せる範囲の事は全て許可してくれていたからである。お陰で彼の人だけは毛利が頭を上げられない数少ない存在である。最も当人は全く気にしていないようだったが。大谷が大学卒業後、他社に修行に行き、数年後に跡取りとして社に戻ってからはなおのことだった。彼は学生時代から毛利の偏屈さをよく知っていたが故に許容した。というか放置した。編集者にしたら極めて扱い辛いということで大谷が役員になるまでは毛利の担当をしていたものだ。役員になるのが決まった直後に大谷の後輩である黒田にその役割が振られ、今に至る。幸いにも作家として出した本の評判はいずれも上々で、首をきられることもなく、今に至る。
恵まれているのだと自分では思う。
仕事は順調、日々の生活は長年世話になっている家政婦が面倒を見てくれていた。
なにも不満は無かった日々。
それが崩れたのはいつの日だっただろう。
まず今年になったすぐに、高齢を理由に家政婦が辞職を申し出た。
一人暮らしをしてからずっと世話になっていた訳だから軽く10年以上、下手すればそれ以上、彼女の世話になっていた訳だ。娘夫婦と今後は暮らすという彼女を引き留める理由もなく、3月頭までは勤めてくれるという条件で辞職を了承した。
困ったのはその後だった。後任の家政婦が見つからないのだ。
身元が信用出来て変に勘ぐらない人間が良い、そう大谷に伝えた所、大谷から竹中に連絡が行き、そして紹介されてきたのが長曾我部元親という青年だった。
高校を卒業し、この春から近くの大学に通うことになっている青年は、家庭の事情から家事に長けており、そして竹中から見ても人間としては問題が無いだろう、という話だった。
「詳しい話は会ってから決めてあげてね。あと凄く良い子だから。」
竹中言うところの良い子、とやらが全くもって想像出来なかったが、今更他者に頼むのも億劫だった元就はそれを了承した。
そして3月に入ってしばらくたったある日の事。
締め切り明けで出かけ、疲労と空腹から玄関先でぶっ倒れて寝ていた元就を叩き起こす人間がいた。声はひどく慌てふためいており、非常に忙しなかったと記憶している。もうとにかく眠たくて仕方なかった元就は寝ぼけ半分で何かを言って、しぶしぶ目を開いた。
そこにいたのは、長身で、銀髪で、ど派手な、正直どこのヤンキーかと思うようなみかけに似合わない困り顔をした男だった。
それが、長曾我部元親との出会いだった。
困り顔は玄関先でぶっ倒れた元就を発見したからだということを当時の元就は知る由も無く「…随分と情けない面構えだな…」と口走り長曾我部を唖然とさせた事、
派手な外見に一瞬度肝を抜かれたが話してみると案外普通で拍子抜けしたのも今では思い出だ。
作家の仕事には必要以上に立ち入らないこと、こちらからの要求には基本的に応じる事。
いくつかの条件を出した上で元親は了承し、元就は彼を雇用することに決めた。
これが3月のこと。
それから数ヶ月経った今、元就は新たな困難に直面していた。
長曾我部こと元親は元就が思った以上にマメな人間であった。
大学の講義もあり多忙であろうにそれでも2,3日に一度は必ず訪れ仕事をしては帰って行く。ほぼ毎日来ていた以前の家政婦とは比較にはならないが、それでも仕事は真面目にこなすし仕事態度も悪くはない。
そして、何より、元親の作るおやつが元就にとっては何よりも楽しみになっていた。
元親曰く、年の離れた妹がいたためか、それとも単にお菓子を作ることが好きなのか、とにもかくにも自身は甘い物をあまり食べないというのに元親はお菓子作りに非常に長けていた。
それは、おやつと言えば黒砂糖やごかぼで過ごしてきた元就にとっては大きなカルチャーショックだった。
そして元親は、元就の言動や行動に呆れているのを隠そうともしなかったが、バイトを辞めるとも言わなかった。時折おもしろ半分に煽ったときは実に素直な反応でからかいがいがあった。正直に言うと落ち着いてから見てみると顔はかなり好みの部類に入っていただけにからかっていたことを追記しておく。
しかし長曾我部はしょうがねぇなぁ、と良いながらも最後にはあれこれと元就の世話を焼く。
こんな人間は初めてだった。
そもそも自分の領域にこれほど近づかれても不快にならないのは元親が初めてであったことに気がつくのに時間はかからなかった。
-何故だ?
最も、それを強く認識したのは大谷の発言がきっかけだった訳だが。
そして極めつけは、竹中からかかってきた電話だ。
急遽出張することになった大谷と会う機会があり、伝言を預かったが故に連絡してきたらしい。
『久しぶりだねぇ。大谷くんから聞いたよ?』
「…大谷めが…余計な事を」
『ははは、まぁいいじゃない。どうせ君からは連絡なんてくれないの、わかりきってるしね。』
「用件を言え、竹中。何も無しに電話した貴様ではあるまい。」
『…相変わらず単刀直入だよねぇ、君は。まぁいいや、ええとね大谷くんからの伝言を伝えるね。
『先日ハッキリと言えなんだが、主は気にするだろうから伝えておく。
それは、恋ぞ。己の恋心に翻弄される貴様は見ていて実に楽しいものよ。
今までの自分の無知を呪い、抉られるがよい。ヒャヒャヒャ。』
…って君大谷くんに何か言ったの?文面見るだけで凄い楽しそうだし実際に楽しそうだったけど。まぁ…よくはわからないけど、君が心から愛するそういう存在を見つけられたらいいとは僕も思うけどね。じゃあ僕も用事があるから失礼するね!!』
嵐のように、一方的に言いたい事だけを言って竹中は電話を切る。
昔の、特に大学時代に好き放題遊んでいた時代を知るだけに竹中の物言いは常に遠慮が無い。
呆然とするのは残された元就だけだった。
「…ありえぬ…」
何を馬鹿な、と反論出来なかった。
頭の中で考えていても一向に考えがまとまらない、ぐるぐるした思いに振り回される。
仕事のスランプとは明らかに違う、この感情が、恋だと。
否定出来ない自分に一番驚きながら、毛利は一晩に渡り悶々とした思いを抱える事になる。
結局、仕事はあれから手が付けられず、かといって十分に睡眠も取れなかった元就は顔色の悪さと隈に自分でも驚きながらリビングで過ごしていた。
テレビの向こうでは書籍の週刊ランキングとやらが写っており、先日発売した自身の新刊もランクインしたようだ。
最も、何の感慨も沸かなかったが。
元親が来たのはそんな時だった。
なにやら大きな発砲スチロールの箱を抱えてきた彼に思わず怪訝な顔をしてしまう。
家族から送られたというそれを前に元就は、元親から耳を疑う言葉を聞く。
「…誕生日…だと…」
瞬間、それに今まで気が付かなかった自分自身に驚くほどにショックを受けている自分に元就は気がついた。
-なんで我はここまで衝撃を受けている?これでは、まるで。
大谷の言う通りではないか、そう思ったところで合点がいった。
我は、長曾我部の事が、好きなのか。
そう考えた途端、体全体から力が抜け、ぐらりと倒れそうになるのを必死で支えるも力及ばず元就はうな垂れる。
常と違う元就を長曾我部は案じてくれているようだったが、正直あまり頭に入っていなかった。
「…そなたに悪気がないのはわかっているのだが…そうかこれが抉られるという奴か…大谷よ…理解したぞ…」
長曾我部は全くもって悪くない。
悪くないのだが、今はただその素直さが眩しすぎるほどに眩しい。というか遅い恋心を自覚した三十路越えには色々とダメージが大きすぎた。
しかしそんな元就の内心など預かり知らぬ長曾我部は元就の体調を案じ、体調が悪いなら俺、帰ろうかと話を持ちかけてきた。
それだけは何とか、断固として阻止しなければならない。妙に必死な元就に長曾我部は若干の違和感を感じたようだったが、深く問い詰める事は無く、納得したようだった。
気をそらすためにもいつもの態度をなんとか再現しようと試みる。
日頃はなんとなくやっているだけに意図的に再現することは自分でもどうかと思うが、案外違和感なく振舞えたようだ。
そしてこんな状況であろうとも長曾我部にお菓子作りの約束を取り付けている自分はいかがなものだろう。
でも仕方が無い、好物であるし。
そんなことを考えながら元就は傍から見ると顔が見えないほどに踏ん反り返っていた。
「…困った…」
仕事以外でこのような事を口にするのはどれぐらい久しぶりだろう。
どうやら自分は自分で思った以上に切羽詰っているらしいということを改めて自覚する。
昼食を終え、仕事をする、という名目で仕事部屋に篭ったものの、遅々として仕事は進まず、むしろ先日よりも停滞している。
「…しかもあやつは見たところノーマルだぞ…」
顔は好みだった、それは認めよう。だからからかって遊ぶのは非常に楽しかった。
しかし自身の方が好意を認めてしまうとややこしくなる。
それに加えてあの手のタイプは人の感情には妙に聡い癖に恋愛感情にはただひたすら疎いという究極に厄介なタイプだ。
だからといって、諦めるという選択肢は元就の中に存在していないのだが。
他人にここまで執着するのは三十年半ば生きてきた元就にとって初めてのことだった。
だから、わからない。
どうしたら良いのか、どう振舞えば良いのか検討が付かない。
だけども諦めたくない、それが正直な気持ちだった。
良い年した大人のやることにしたらみっともないことこの上ないが、それでもあがきたいのだから仕方が無い。
傍から見るとみっともなくても、笑われるようなことでも、当人にとっては全力で、必死な、とても大切なこと。
「これが、恋か。」
改めて口にすると、それはストンと胸に落ちた。
ー痛い、30過ぎたおっさんが口走ると痛いことこの上ない。
など頭の中の自分が口走った気もするが、敢えて聞かなかったことにした。
終わらせたくない、諦めたくない。なら、振り向かせてしまえばいい。
だけれども今の関係を壊したくは無い。
共に食卓を囲む、あの居心地のよさに変わる物は無い。
しかも相手はその手の感情に疎いと思われる元親だ。
限りなく、相手のペースに合わせてゆっくりのんびり進めるしかないだろう。
「百戦錬磨と言われた我がこの有様とは…恋とは恐ろしいものよ…」
竹中から賜った、不名誉な昔の称号とは裏腹な今の自分を大谷が見れば腹を抱えて大爆笑するに違いない、そう思いながら毛利はため息をついた。
買い物に行くという元親が出ている間に元就にはやるべきことがあった。
元親への誕生日プレゼントを入手するためである。
しかし遠出する時間は無い。
そもそも自宅の近くにスーパーや商店街はあっても気の利いた小物などを扱っている店は、一切ない。
「とすると…あれを使うか。」
言いながら元就は仕事部屋の一角を探し始める。
資料として購入してきた小物や衣類やらがあったはずだ、と探すが元親から腐海の森と称された仕事部屋だけに中々その部分までたどり着けない。
しかし、確かにあるはずだ、と探していた元就は思い当たる場所を見つけ掘り出した。
プラスチックのケースに収められたそれらはほとんど全てが未使用品であり、プレゼントとして渡しても差し支えないだろう…多分。
いや、差し支えあったとしてもこの状況では勘弁してもらうしかない、というか勘弁しろ、と誰に対してというわけでもないのに弁解しながら元就は箱をケース内を探し続ける。
そうしてケースの中からようやく元就は目的のものを探し出した。
以前書いた小説の参考資料として購入したギャルソンエプロンとカフェエプロンだ。
いざそれを着けている設定にしたものの、目にしなければ細部がわからないと思い、急遽購入したものだ。
担当よりインターネットの画像検索すればよかったのでは、と言われたが、買ってしまった後で言われても遅い。
結局、誰かが着用するという事は無く、そのシリーズが書き終わると同時に箱にしまわれ、そのままになっていた。
男性向けのフリーサイズであるので大柄な元親が着用しても大丈夫だろう…多分。
見つけた事をこれ幸いと取り出し、ケース自体は蓋をして部屋の端に追いやっておく。
そのうち必要なときに発掘すれば大丈夫だろう、と元就は考える。
最も普通は部屋から発掘しようなんて行動はしない、と誰かがその場にいたら突っ込んだかもしれない。
しかしそれらは全て無駄な行為である。
毛利元就は、家事全般、特に整理整頓においては壊滅的な能力しかもっていない人間なのだかた。
その割に器用な元就はエプロンを手際よく、包装紙に包んでいく。
プロには及ばないまでもそこそこ見栄えするのではないだろうか。
「…これで良かろう。」
口ではそう言いながらも内心は冷や汗ものだ。しかし今の元就が贈れる物はこの程度しかない。
なんにせよ、なんとかプレゼントを手に入れた元就は、ようやく手を付けられそうになった仕事にとりかかるべくパソコンと向き合った。
近所のスーパーに行くだけだと行っていた通りにさほど経たない内に元親は帰って来た。
しかし短時間であっても仕事はきりよく進められたので良いか、と元親が購入してきた煎餅をかじりながら元就は考えていた。
甘い黒糖の煎餅はさくさくしておりとても食べやすい。そして後を引く甘さである。美味い。
そんなことを思いながら次に手を止めようとしたら長曾我部に諌められた。
まぁ夕飯に丼とケーキが控えているのであれば正論であろう。最も規格外の燃費の悪さを誇る元就にとってはあまり関係ないのだが、その気遣いは受け取っておくとしよう。
元親がお菓子作りをする場面を見るのも久しいな、と思い視線を動かすと、そこには本当にこれだけでケーキが出来るのだろうか、という食材が並べられていた。
なんというか、元就が思っていた以上にお菓子の材料が少ないのであろう。
「これで本当にケーキが出来るのか?」
思わず問うた元就だったが、その不安はすぐに一蹴されることになる。
「おう!!びっくりするぐらいのうまいのが出来るぜ!!」
裏表の無い、無駄に爽やかな笑顔が元就の何かを直撃した。
―いかん、今のこいつを直視したらいろんなものが暴発する。
必死に気をそらしながらも元就は必死に相槌を打った。
表情が顔に出ないのが救いだが、挙動は明らかに不自然だろう。
しかし、何とかごまかし、元親のお菓子作りを見学するに至った。
元親自身は気づいているかいないか知らないが、彼は料理をしている時、とてもやさしい顔をしていることを毛利は知っている。
それはとても幸せそうな顔だった。
料理が好きなのもあるのだろうが、心から楽しんでいるのだろう。
そういえば、最初の頃に聞いたことがある。
家族のために家事をして、面倒だったことはないのか、と。
そう聞くと彼は少々困ったような顔をして言った。
『うーん…悪ぃけど全くねぇなぁ…。家の手伝いで家事をやり始めたのは本当だけどやってみたら楽しかったし…作ったものを美味いって言ってもらえるのは嬉しかったし。…まぁ俺は昔から色々家族に迷惑かけてるし、こんな形で返せるならそれでいいかって思ったんだよ。』
それは、何が原因なのかまでは聞けなかった。
困ったような顔を見ると、それ以上問い詰めることは何故だか出来なかった。
だけれども元就は、長曾我部元親という青年は非常に家族思いで、仲間思いで、自ら困難を抱えてしまうようなお人よしであることを知っていた。
そうでなければ、元就のような厄介な人間の世話など見られないだろう。
―本当に、底なしのお人よしだ。
だから、好きになったのかもしれない、と改めて思った。
クリームが余ったらくれるという嬉しい約束を取り付けた元就はそのまま仕事部屋に来ていた。
先程の仕事の続きに手を付けるためだ。
書き下ろし単行本として秋に発行予定のこれは諸々の事情により今月中には全ての原稿を仕上げなければ間に合わない。
そのほかにも通常の雑誌連載や文庫版への書き下ろしなど大小含めて仕事は様々だ。
それとあとは、大谷の知り合いに頼まれて書いている作品がもう少しある。
毛利は作家としては数多くのジャンルを書いている。
ミステリー、SF、ホラー、恋愛などなど、ここまでジャンルを選ばない作家も珍しいと一部では言われている。
それらのペンネームは共通のものを使っていたが、ごく一部のものは複数の別ペンネームを使っていた。
それは、俗に言うハーレクイン小説だったりボーイズラブ小説だったりと偏ったジャンルで使われている名前だった。
最初は世話になった大谷の父の親友から頼み込まれ渋々書いたら固定ファンが付いてしまい、止めるに止められなくなったのが始まりだった。
最も毛利は文章を書くことが好きなので書くことは特に苦ではない。例えそれがどんなジャンルであってもである。
今では表の名前に並ぶぐらい一部のジャンルでは知られた名である。
「ふむ…次はあやつでも登場させてみるか…」
まさかボーイズラブ小説に自分をモデルにしたキャラクターがいるとは元親も思うまい。
そう考えながら毛利は次回作の構想にふけることにした。
食事と声をかけられ即座にパソコンをセーフモードにし、リビングに向かう。
元親が来たときの夕食も楽しみだがそれ以上に今日はケーキが楽しみで、隠し切れない嬉しさを抱きつつ食卓に付いた。
食事を終え口にした念願のケーキは想像以上に美味なもので、元就を感激させるには十分だった。
だがそこで、元就は本日二度目の爆弾発言を食らうことになる。
「俺、今日で20歳になるんだけど…」
「20歳!?…貴様19歳になるのでは無いのか?」
今年大学入学と聞いていただけに実は20歳と聞いた元就の衝撃は半端なかった。
―19歳だと手を出したらとっ捕まると思って自重しようとしたのに、我の決意が台無しではないか…!!
そんなことを考えていたなど知る由も無い。
そんな元就に対して元親は苦笑しつつ答える。
「あー…まぁ学年で言ったらそうなんだけど…言っておくけど浪人でもないからな」
そう言いながら左目の眼帯に触れる。
「これが原因で、小学校の入学が遅れちまったよ。結局1年遅れて入学したんだ。」
だから、同級生より一才年上なんだ。
そう告げる元親は穏やかな表情だが、そこに至るまでどれだけの葛藤があったのだろう。
もとより元親のように日本人離れした容姿では周囲からのやっかみもあっただろうに、そこへもってきて左目の失明。
ひねくれずに育てたのは周囲の人間の協力と、元親自身の努力の結果だろうか。
外見は不良じみているし、実際喧嘩は強かったようだが元親という人間は非常に素直に育っている。
人間としての根っこは曲がっていない。
紆余曲折の末にひねくれまくった元就とは大違いだ。
「そなたは…見た目以上に苦労しているのだな…」
「どういう意味だ。」
そういって元親はまた笑った。
今度はカラっとして嫌味のないいつもの笑いだった。
そう笑えるようになるだけにどれだけの時間がかかったのだろう。
それが元親の強さなのかもしれない。そう、思った。
「何事も経験ぞ、やれ」
元親が20歳になるという事実を知った元就の行動は実に素早かった。
秘蔵の日本酒を用意すると有無を言わさず飲ませたのだ。
日本酒は飲んだことないと言う元親だが、元就が本気であることを知るとしぶしぶといった様子でグラスに口を付ける。
少しずつ飲み進めていく元親はげんなりしつつも拒否することはないようだ。
だが、顔が赤らんできたように見えた刹那、元親がぽろっと呟く。
「…あつい…」
「…貴様まさか、これだけで酔ったのか?」
日本酒を飲んだことは無い、という発言は実はアルコールを飲んだことが無いという意味だったのではないかとようやく思い至る。
「…っていうかあつい。ぬぐ。」
そう言うや否や着ていたTシャツに手をかけ、あっという間に一枚脱いでしまった。
ちなみに元親はTシャツ一枚だけを着ていたようであっという間に上半身マッパである。
元就が止める間もなくだ。
「…まーだーあーつーいー…」
そう言うや否や今度はジーンズに手をかける。
「やめんかこの馬鹿者があああああ!!」
なんだこの酔い方、脱ぎ上戸なぞ聞いたことが無いぞ…、と元就がひそかに慌てていることなど知らない元親はむくれた様子で言う。
「…だってあつい。ふくいらない。」
「…この21世紀に裸族になるな。」
「あつい。ぬぐー!!」
「脱ぐなアホうが!!目のやり場に困るではないか!!」
「ぬーぐー!!」
最早駄々っ子と同様の元親だが、上半身裸のままというのは非常に元就の心臓にもよろしくないのでいい加減止めて欲しいところである。
このままでは埒があかないと判断した元就は寝室に行き、和ダンスの中から浴衣を一着取り出した。
「脱ぐなら脱ぐで良いからこれを着ろ。…今のものよりは涼しいはずだ。」
「…そーかー?…わかった、これきても熱かったらぬぐー」
「だから、脱ぐなと言っておろう。この裸族めが…。」
のそのそとジーンズを脱ぎ終えたのを見計らって浴衣を元親に投げつける。
酔っ払っているためか思うように手がきかない元親はちょいちょいと毛利の服のすそを引っ張るといった。
「…きられない」
「…だからどうした…」
「きせて」
「…はぁ……」
まるで図体のでかい子供のようだ。
ぼんやりとした眼差しで自分を見つめる元親は普段と同じはずなのにふるまいがあまりに違い過ぎて同じに見えない。
常であれば元就が世話を焼かれるのが当たり前なので少々違和感を感じる。
「…これでいいぞ」
そう伝えると、ほわほわした子供のような笑みで言った。
「ありがと…もうりはやさしいからすきだぞ」
―本日三度目の爆弾投下である。
しかしその直後、投下した本人は「ねむい」と一言言うとリビングのソファにころんと横になってしまう。
そうかと思うとその直後に寝息をスースー立てて眠ってしまった。
酒を飲ませてから僅か30分の間に起こった出来事とは到底元就には思えないほどの濃い時間だった。
とりあえず片付けなど全て自分では出来るはずもないので起きた後の元親に任せようと思い食器は見なかったことにする。
ふと思い出して、渡せなかったプレゼントを眠る元親の近くに置いておく。これで渡し忘れることは無いだろう。
眠る元親の表情は穏やかで、意外に子供っぽいものだった。
目覚めた彼は覚えているだろうか、忘れているかも知れないし、それはわからない。
ただ、酔っ払った元親の破壊力は絶大だったので人前での飲酒は避けた方が良いことを伝えようかと思った。
「…たわけが…」
無邪気に好きだと言った元親を思い出す。
きっと彼の好きは自分の思う好きとは異なるものだろう。
しかし、そうは分かってはいても、自分の頬が熱を持っていることには気が付かないふりをした。
恋とはなんと、ままならぬものか。
ようやく自覚した恋心を自覚した元就は今後を憂いつつも一つの決意を固め、それに向かって動き出す事になる。
もちろん元親も、周囲の人間も。それに巻き込まれていく事になるのだが、この時はまだ誰も知らない。
翌朝、起きてきた元親と元就がしょうもないことで口論することになるのだが、これも全て元就にとっては計算の内、のはずである。多分。
吉と出るか、凶と出るか。全ては彼の采配次第なのだから。
○作家さんの脳内ぐるぐる編終了。次は夏休み直前編です。
COOLな毛利さんが書けません。どこに落ちてるんでしょうか。
PR
色々説明
拍手現在豊臣家転生パロ中学生編入ってます
(現在2本 家三 チカナリです)
注意事項
・フリーリンクじゃないです、基本的にはリンクはお断りしています
・ひっそりこっそりが信条なので、黙々と
・捏造、not公式のこばなしが多いので、スルー推奨
ラキドでは幹部全員を溺愛しておりますが、ベルナルドとイヴァンは特に偏愛。ばさらは家三とか奥州の愉快な仲間達と毛長がメインです。うずみさんが現在官三とか官佐にずっぽりとはまり中。
基本は、愛想のかけらもない「ネット怖い~」の書き手が二人で色々書いている場所です。
書いている人
みっし
・生真面目で堅物でムキムキな男性と一見そうじゃなくても根は真面目極まり ないキャラをこよなく愛している、がんかたうるふの片割れ。編み物とお菓子作りが趣味という、第三者曰く可愛らしい一面を持つ反面、パニクると踊ったり、オロオロしだして周囲は見ていて楽しいらしい。荒ぶる舞は、職場の名物だったりする……らしい。
イヴァンちゃんと片倉さんとシズちゃんとスカイハイさんと陛下を思いっきり愛している。好きなアニメは銀魂と最近はFate/zero。型月ファンというよりは元から虚淵ファンでうずみさんからオススメされまくった末にようやっと手を付けて完読した。ライダー組おいしいです。エクシリアではダントツで陛下が好き。陛下が使用可能になる完全版があるなら複数買いしても構わないとのたまう日々。バサラの好きキャラは片倉さん一強だったはずなのに最近はアニキも熱い。かっちり着込むキャラがすきだったはずなのにいきなり露出度が高いキャラを好きになったのは何故か悩む日々。二次元の向かう愛と同じぐらい甥っ子への愛を叫んでいる気がしてならない。
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うずみ
・相方を愛しすぎている変な人。趣味は畑仕事に漬け物作り、好きな物は不幸属性の美人(男女問わず)。ばさらでは石田さんと黒田さんをこよなく愛していたり、赤い子めんこいにゃぁとたまに叫んでいる。ついったのフォローは下 のアイコンから。
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