こちらはサークル「がんかたうるふ」のうずみとみっしの二人組が、ラッキードッグ1とばさらのこばなしを黙々と投下する場所です。
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書き上がりました。
*****
今日の夢見は覚悟しておけ、というのは三成の経験から出た言葉だったのだろう。
今自分は眠りの中にいる、それがわかっていてもお市の目が与えた悪夢は恐ろしいものであった。心を切り刻まれ、その全てを吟味しながら覗かれているような苦痛と羞恥。ぬめぬめとした何かが身も心も汚していく感触に、叫び声すら上げることもできずに目を覚ますと。
そこにはいつもと変わらぬ表情の動かぬ顔で自分を見つめる三成の姿。
「………みつ……なり………?」
「起きたか、さっさと手を離せ」
「手? あ、これは……すまん」
夢の中での恐怖から逃げるためなのか、家康の手はしっかりと三成の手を握りしめていた。枕のちょうど真上の陣取った三成は、よほど手が痛かったのだろう。力強く握りしめられていたため血の気を完全に失った白い手をさすり、わずかに表情を強ばらせ家康に抗議してきた。
周囲を見渡せる程度に部屋の中は明るくなってきており、ずっとお市の面倒を見ていたために眠っていない三成の疲れ果てた顔がよくわかる。
「ようやくあれが眠ったので私も眠ろうと思ったというのに、何故貴様が私の布団の中で眠っている?」
「本当は三成と一緒に寝たかったのだがな、三成がいつまで経っても戻ってこないので先に寝てしまった」
「布団の持ち主に許可を得てからにしろ、そういうことは」
言葉の通り今から眠るために夜着に着替え終わっている三成は、まだ色の戻っていない手を一度強く振ると、そのまま布団の中に潜り込んでくる。自分の布団なのだから自分に寝る権利がある。そう言いたげに家康の体を押しのけて自分の眠る場所を作ると、密着せざるを得ない状況にちょっとどころじゃなく動揺している家康を尻目に、そのまま無言で目を閉じた。
「なあ三成……」
「…………………………」
「狭くないか? 寒くないか? もう少しこちらに来てもいいのだぞ?」
「………うるさい! 少し静かにしてろ!」
「だが、寒いだろう?」
「貴様が出て行けばいいだけの話だ……まあ。布団が温まっているのは悪くないがな」
「だったら儂が毎日暖めてやろう」
それは断ると言いはしたが、三成はそれから無言で家康に体を擦り寄せてきた。甘えたいとかそう言うのではなく、単にそうしないと寒いからなのはわかっている。だが嫌いな相手や憎いんでいる相手を前にそんなことをする三成ではないことを家康はちゃんとわかっていた。
嫌われていない、憎まれていない。
その事実が家康の心を少しだけ慰めてくれる。新しい国作り、新しい体制作り。口で言うだけでなく実際に実行しなければならない立場である家康は、常に戦とは違う意味での難問と戦い続けている。こうやって三成と会う一時だけが、心の安らぎであり己の心の在り方を確認することができる時間なのだ。
絆によって強固な国を作り、戦乱で大地が荒れぬようにする。
周りの者たちの思惑に踊らされることでその誓いを忘れぬ為に、そして今後も迷わぬ為に。三成を誰よりも必要とし、できればずっと手元に置いておきたいのだ。
三成を抱き留め、彼の暖かさを味わっている今のように。
体を横にして三成の場所を作り、腕の中に招き入れると首筋に柔らかい髪の毛の感触。そして心地よさそうな寝息と共に、今にも消え切りそうな声が聞こえてくる。
「貴様は本当に暖かいな…………伊達には私は眠れるだけ眠っておくと伝えておいてくれ」
「わかった、ゆっくり眠るといい」
「おかしな事をするな……貴様はどうして……」
三成の髪に顔を埋め、耳から顎の線にかけて何度も口づけを繰り返していると、ぱたりと三成の声が止んだ。よほど眠かったのだろう、安心したような寝息をこぼしながらされるがままになっている姿を見ていると、家康までまた眠くなってきてしまった。
三成の耳に指を絡め、頬に唇を寄せ。
「おやすみ……三成」
そう囁いてから家康も目を閉じることにした。
もう恐ろしい夢は見ないことはわかっている。腕の中に自分にとっての光を抱いており、その光を手放すことはないと理解しているのだから。
結局小十郎が起こしに来るまで二人で熟睡し、何故か凄まじく機嫌が悪い彼に家康だけ叩き起こされることになったのだが。三成は起こさずに家康だけというところに小十郎の優しさと、自分に対する厳しさを実感した家康だった。
かなり寝不足だったのだろう、三成が起きてきたのは空が茜色に染まり始めた頃のことだった。まだ眠いのか欠伸を何度もかみ殺し、時折顔をしかめて首を振っている様子から考えると、夢見も良くなかったのだろう。
彼を抱きしめて眠ったことで、自分の悪夢が三成に移ってしまったのでは。
心配になって三成にそう聞いてみると、遅すぎる朝食兼昼食を食べ始めていた三成に鼻で笑われてしまった。
「夢が移るだと? 貴様の考えはよくわからん」
「だがあれだけ側で眠っていれば、ありえるかもしれんぞ?」
「気持ちの悪いことを言うな……」
「どんな夢を見たのだ?」
「私の部下が次々に殺される夢だ」
焼き魚の身を器用にほぐして口に運びながらの三成の答えに、表情が硬くなるのを隠すことができなかった。
「夢の話だ、そして貴様が殺したわけでもない」
「そう……か」
「豊臣に仕えていたことを隠し普通に暮らしていこうとしていた者たちまで、探し出され殺されていった……夢とは言え、気分のいいものではなかったな」
それがつい最近まで行われていたことだと知ったら、三成は自分を再度憎むだろうか、呪うだろうか。
三成が自分に心を開きはじめているからこそ、彼の真実を告げたくない。
お市が自分のことを嘘つきというのは正しい。真実を口にせず、ずっと三成を騙し続けているのだから。
だがそれも近いうちに終わるだろう、その時三成はどうするのか。
わからないからこそ恐ろしく、わからないからこそ告げたくない。彼を幸せにしたいと願っているはずなのに、自分が行うことはことごとく彼を傷つける。
もう会わない方が、側にいない方が。
そう思うのに、心も体も三成を求めて止まないのだ。
「どうした家康?」
相当ひどい顔をしていたのだろう。
三成の食事を見守っていたはずだというのに、逆に三成に見守られていたらしい。夜着からいつもの袴姿に着替えた三成は箸を置き、隣にいる家康の顔に向けて手を差し出してくる。
額にあてられた暖かい手に、少しだけおびえを恐怖が取り除かれる。
「熱はないな………三河に帰って少し休んだらどうだ?」
「三河に儂の帰る場所はないのだ、それが」
「追い出されたか……そうか……」
「そうではない。儂は武蔵に城を作っておる最中でな、今はそこから奥州に来ているのだ」
「武蔵? あんなひどいところにか……」
「奥州も近いし、何より元からある城を儂が気に入った。海も近いし……良い街になると儂は思っている」
「私に会うためにやったわけではないな、当然?」
「そこまで儂も馬鹿ではない」
三成に会うのに便利な場所だというのも決めた要因の一つではあるのだが。
関ヶ原という大きな戦を経験して家康が思ったことは、居城という物の重要性だった。三河に居城があったために、西軍との戦いで家康は初戦で苦労することになった。なにしろ周囲はほとんど敵国という状況なのだ、補給もうまくいかずにもう駄目だと何度思った事か。
雑賀集を味方につけられなければ、あの段階で徳川は滅んでいただろう。
だからこそ家康は東へ居城を移すことに決めた。西国の地方領主たちの中には、家康に恨みを持っている者も多い。戦など起こらぬ方がいいが、もし起こってしまった時にすぐに対応できるようにするためには、同盟国の多い東に移転するのが一番だと結論づけたのだ。
そしていつか、大阪城からの移動を進めている桜の下で三成とすごすことができたら。
待ち受けている三成への告白と謝罪の時、それがすぎれば甘く優しい未来が待っている。そう思わなければ、この苦しみを受け止められるわけがない。
こちらを気遣う目線で見ながら食事を続ける三成に笑いかけてやり、茶でも貰おうかと立ち上がろうとした瞬間。
それは訪れたのだった。
「徳川殿……こちらにいらっしゃいましたか」
「片倉、どうしたのだ?」
「客人がみえております」
「客? 儂にか?」
「いえ、石田殿にではありますが……徳川殿にもご同席いただきたいと思いまして」
「私に客だと?」
箸を止め、客に会う支度を始めようとした三成を小十郎は手でやんわりと止めた。
「いえ、それほど急ぐ必要はございません。この屋敷の中で会わせる気はありませんので。外に出る支度をして、ゆっくりといらしてください」
「どういうことだ? 誰が来たというのだ」
「……………松永久秀、あの男でございます」
三成が軽く目を見開き、そして強く唇を噛みしめる。
かなり焦りながら家康を捜していたのだろう、そして三成には最後に告げようと思っていたらしい小十郎の顔は先程家康を起こしに来た時とは別な意味で不機嫌であった。親の敵にでも出会ったような憎しみに染まりきった顔で虚空を見つめている姿は、彼が竜の右目と呼ばれていることを家康に再度知らしめてくれる。
主の許しさえあれば敵の喉笛に即座に食らいつく、誇り高き獣がそこにはいた。
「今更何の用なのだ、あの男は」
「石田殿に献上したい物があると……また菓子の類でしょうが」
「菓子……か……」
「石田殿、そこで喜ばないように!」
「……わ、わかっている!」
今まで松永に送られた菓子のことでも考えていたのか、小十郎に鋭く指摘されたことで三成の表情が一気に引き締まった。そしてそのまま立ち上がり、部屋へ戻るために歩み去ろうとしていたのだが、小十郎の声がそれを引きとどめた。
「石田殿……あの男は政宗様がお相手しておりますが………会わないというわけにはいかないでしょうか? できれば徳川殿を代理に立てて……」
「どういうことだ? 渡しに来た客ならば、たとえ松永だろうと会わぬ訳にはいかないだろう。松永だけ会わぬと言う事になれば、後々色々と問題が起こる。第五天が眠っている間に帰らせればいいだろう」
「それでも私は言わせていただきます……あの男と石田殿を会わせたくないと」
「それは儂も同じだ、三成」
小十郎の言葉にかぶせるように意見を言うと、三成は少しだけ考え込み。
そして何かを決意したかのように、きっぱりとこう言いきった。
「伊達家に迷惑はかけられん、会うぞ」
「そうでございますか。それでしたら微力ながらこの小十郎もお側にいさせていただきます」
「儂もいる、あの男にはさっさと帰ってもらうことにしよう」
そうだなと口にし、三成は口元に力を入れた。
彼はあの時笑顔を見せてくれようとしたのだ。後になってそのこと気がつくが、必要以上に力の入った顔から家康は不安という感情しか見つけることができなかった。
外では白い雪がちらほらと降り始めていた。
細かい雪片を時折掌で受け止めている三成を微笑ましく思いながら、松永が待っている場所へと向かった。家康と三成が最後の戦いを繰り広げた場所だと聞いた時は何の冗談だと思ったが、あそこしかなかったのだろう。
松永と争いになった場合に使える場所は。
前回と松永の態度が違う、明らかに何かを行うつもりだ。道の途中で手短にそう説明してきた小十郎の姿を見て、家康も改めて気を引き締めた。前回の来訪の時には渋々ながらではあったが屋敷に上げ、滞在を許したというのに今回は屋敷の中に招く気すらない。そう政宗の判断した、それが意味しているものは三成にもわかったのだろう。硬い表情のまま無言で歩いている三成の肩を軽く叩くと、小さく頷き少しで毛表情を和らげた。
得体の知れない不安感は、外気の冷たさと共に身に染みこんでいく。
首元に布を巻き、時折頭を振って積もる雪を落としている三成を気にして何度も後ろを向く。何かあった時には自分が身を挺して彼を護ろうと考えてはいるが、この国でも最高級の剣士である彼が素直に庇われてくれるわけがない。
徐々に近づいて来る袴に青の陣羽織姿という、洒落物の彼が普段なら決してしないであろう姿の政宗。そして彼と対峙している松永の雪を飲み込むような黒い姿。
全てを見透かし馬鹿にするように笑う松永の顔に苛立ちを感じつつ、意図的に松永と三成の間に立った。
あの男に三成の顔を見せてやりたくなどない。
「これは権現殿……久方ぶりだ」
「儂はもう会いたくなかったがな。今日は何用だ?」
「卿に用はない」
短くそう言いきった松永は、家康の後ろでどう松永に対峙すべきか迷っているらしい三成へ恭しく頭を下げてみせる。彼の手には一抱え程ありそうな大きな包みが抱えられており、藤色の風呂敷に包まれたそれからは剣呑な雰囲気が漂い続けていた。箱の類を包んでいるのではなく丸い物を包んでいるようであったが、幾重にも巻かれた布のせいでそれが何かを推察することすらできない。
「石田殿………随分お美しくなられた。花に例えれば、ようやく開き始めた白百合といった風情か」
「気色の悪いことを言うな」
「卿を開く事ができるのは権現殿のみ……待った甲斐があったというものだ」
「松永、用があるのなら早く済ませてくれ。今は別な客人が来ていてな、三成は忙しい」
「大五天魔王……か」
笑いと共に口にしたその言葉に、その場にいた松永以外の人間が凍り付いた。
何故この男がお市が来たことを知っているのか。そしてそれを知りながら三成を訪ねてきたというのなら、松永は何を目的としてこの時期を選んできたのか。
三成の横に立つ小十郎は何かに気がついたのか、乱暴な口調で松永を詰問し始める。
「あの姫さんをここによこしたのはテメェか……松永」
「私が仕向けたわけではない、彼女の意思だ。ここに来るまでの間、私の所にいたことは間違いないが、石田殿の所へ行けと言ったわけではない。彼女は自分の意思でここへ来たのだよ」
「第五天の力で伊達家中を混乱させ、その隙に石田殿をかっさらうつもりだったか?」
「さすが竜の右目……と褒め称えるべきかな。だが半分だけ正解だ」
「半分だと? これ以上何を企んでいやがる!」
恫喝に誓い小十郎の叫びを笑顔で受け流し、松永の目は三成だけを見つめ続けている。
その目に宿る物は愛情ではなく欲望。三成に絡みつく獲物を狙う蛇の牙のような視線に抗するために、家康はきっと松永を睨み付けた。この世の全てをあざ笑っているような男ではあるが、三成を『宝』として手に入れたいという思いの強さは疑いようがない程。松永という男はそのためならば、普通の人間なら思いつかないような最悪の手すら簡単に使うのだ。
表に出さないようにしている家康の恐怖を感じているのかいないのか。松永はわざとらしいほどの笑顔で三成に笑いかけると、顎を覆う美髭を撫でながらゆっくりと口を開き始めた。
「さて……本題に入るとしようか。私の話が終わった後で石田殿が私と共に来る気がないというのなら、私は今後もう石田殿には関わらない」
「もう伊達には来ないと言うことか?」
「第五天も連れて戻るとしよう……私の話を聞くだけで伊達家に迷惑をかけずにすむ。卿にとってはいい取引だと思わぬかね?」
「確かにそうだな」
「石田、こんなヤツの話聞くんじゃねえ!」
「石田殿!」
政宗と小十郎の顔をそれぞれ見つめ、頷いてみせてから。
赤い空から降りしきる雪をその体で受け止め。
石田三成は静かな言葉の内に決意の炎を宿しながら、家康を押しのけて一歩前に出た。そして伸ばした手で家康を庇うかのように押しとどめ、凛とした眼差しを松永へと向ける。
「貴様が何を言おうと、私は揺らがん」
「確かに私が何を言おうと、卿は揺らがぬであろうな……さて、誰が困ることになるのやら」
「何が言いたい」
「このような片田舎にいてはわからぬかもしれぬが……関ヶ原の戦の後、権現殿が行ったことをご存じかね?」
田舎で悪かったなと吐き捨てるように政宗が呟いていたが、それを笑う余裕はもう家康には存在していなかった。松永が今言おうとしていること、それは家康が三成へ謝罪と共に言わなければならないことではないのか。
あの男は今、この時に何故をそれを言いに来たのか。
松永の持っている包み、それの正体。
家康の予想通りの物がそこに入っているとすれば、中に入っている物を絶対に三成に見せてはならない。
「三成、駄目だ!」
「どうした家康?」
「戻るぞ、あれは……っ!」
目の前にある三成の手を取り、状況を察したらしい政宗に目配せを行い。三成を引きずってでも屋敷に戻ろうするが、当の三成自身が動こうとはしなかった。松永の話を聞けば伊達家を護ることができる、そう思っているのだろう。
自らが大切だと思う存在のために尽くすことこそ己の意義だと信じている、三成は昔からそういう男だった。そんな三成の在り方を理解しているのであろう松永は、家康を止めようとはしなかった。
むしろ焦りと惑いを楽しんでいるのだろう。
「おや、石田殿と私の話を邪魔するのかね? 卿にとって不都合な話をしようとしているのだ、石田殿に聞かせたくない気持ちはわかるが」
「不都合な話……だと?」
「そこにいる男……徳川家康が最初に行ったのは国替え……聡明な石田殿なら意味はわかるであろう?」
「西軍の将から領土を奪い、その土地を東軍に分け与えた……そういうことなのだろう? それは誰が天下を取ろうとも行わなければならないことだ……今後のことを考えればな」
「確かに。だがその後に行ったことで各武将の反感を買った……とある命を下し、各国に自らの子飼いの部下を入り込ませ………徳川に逆らわぬように常に監視できる体制を作ったのだったな、徳川殿?」
「………………………………」
確かにそうだ、何も言い返すことができない。
決して内乱で崩れる国を作るためにそれは必要だったのだ。西軍と東軍の武将の国を会えて隣同士にし、互いに見張り合うように仕向け。豊臣狩りを行うという名目で各国に自らの部下を入れた。
西国の武将を代表して家康に会見を求めてきた毛利その件について散々責められた。
これでは絆による国作りではなく、人を情の鎖で絡め取って動けなくなくする緩やかな支配だと。豊臣狩りの兵は退かせたが、各将にそう思われていたことが家康を徹底的に打ちのめした。
もし三成がいなければ、彼と共に過ごす一時がなければ。
家康は絆という己の信条さえ捨ててしまっていたかもしれない。ぁれだけはいつどのような時も変わらず自分を受け入れ、時には罵ってくれる。天下人になったことで失ったと思っていた物は、全て三成が持っていてくれた。だからこそ三成を手放したくないし、ずっとこの優しい時間を共にすごしていたかったのに。
終わりはもう訪れようとしている。
「おや、何も言えぬと? 西国の武将たちには色々言われたようだが……敵だった物を締め付け、味方を厚遇する。卿の言う『絆』とはそういうものだったということか」
「違う!」
「卿が自らの罪を認めぬのは相変わらずか。では、これを出すとしようか……卿が犯した罪……今ここで凶王殿に見せつけるがいい」
松永の手が、腕の中にある包みを撫でる。
愛し子を撫でるような優しい手つき、だがその中身を予測できてしまっている家康にはその行為が地獄の悪鬼の所行にしか見えなかった。胃の腑からせり上がってくる熱く苦い物、手で口を押さえて胸が焼けるような感触に耐えていると、後ろを振り返って三成がこちらを心配そうに見つめていた。
「家康……どうした?」
「三成、頼む……あの男の言葉を聞かんでくれ……頼むから」
「答えろ家康。何を私に隠している? それを言わなければ私は貴様の要求に応えるつもりはない」
「………さて、これを見ていただこうか。その男は石田殿に偽りの愛を囁き、その心を惑わしてきたのだろう? 私が石田殿より頂くのは『恋慕』そしてその代わりに差し上げるのは……」
真実、だ。
その言葉と共に松永が放り投げたそれが狙い通りに三成の足下へと転がっていく。
一つ転がる度に引きはがされて白い大地に広がる布、そして中から見えてくる物に政宗が小さく声を上げた。
「…………oh………なんてこった……」
ぐらりと揺れた政宗の体を、素早く後ろに移動した小十郎が支える。
幾多の戦場を駆け抜け、死体の山を越えてきた政宗でさえも声を失ったそれが、音もなく三成の足先まで転がっていき。
こつりと、つま先へとぶつかった。
「……………ぁ……………さ………左近……………?」
最初に家康の耳に響いたのは呆然とした三成の声。
そして目に焼き付いたのは、三成にとって一番の忠臣だった男の首。
藤色の布の上で、どろりと濁った目を閉じることもなく。左近の首は恨みの全てを目に宿しているかのように虚空を見つめていた。常にわずかに挽いた距離で三成を見守っていた男は確か奥州に入り、あと数日でここへとたどり着くはずだったというのに。
何があった。
そして誰がこんなことを。
そして、三成にこれをどう説明すれば。
「………………………………」
柔らかく、まるで三成を包み込むように微笑む松永の目線の先。
音もなく足の先に触れたその塊をぎこちない動きで見下ろし、信じられない物を見たかのように何度か目を瞬かせると、そのまま。
三成はひきつった喉から、絶え間ない叫び声を漏らし始めた。
______________________________________
予定通りの着地ですが、後味悪い……
BGM「A Song of Storm and Fire」
今自分は眠りの中にいる、それがわかっていてもお市の目が与えた悪夢は恐ろしいものであった。心を切り刻まれ、その全てを吟味しながら覗かれているような苦痛と羞恥。ぬめぬめとした何かが身も心も汚していく感触に、叫び声すら上げることもできずに目を覚ますと。
そこにはいつもと変わらぬ表情の動かぬ顔で自分を見つめる三成の姿。
「………みつ……なり………?」
「起きたか、さっさと手を離せ」
「手? あ、これは……すまん」
夢の中での恐怖から逃げるためなのか、家康の手はしっかりと三成の手を握りしめていた。枕のちょうど真上の陣取った三成は、よほど手が痛かったのだろう。力強く握りしめられていたため血の気を完全に失った白い手をさすり、わずかに表情を強ばらせ家康に抗議してきた。
周囲を見渡せる程度に部屋の中は明るくなってきており、ずっとお市の面倒を見ていたために眠っていない三成の疲れ果てた顔がよくわかる。
「ようやくあれが眠ったので私も眠ろうと思ったというのに、何故貴様が私の布団の中で眠っている?」
「本当は三成と一緒に寝たかったのだがな、三成がいつまで経っても戻ってこないので先に寝てしまった」
「布団の持ち主に許可を得てからにしろ、そういうことは」
言葉の通り今から眠るために夜着に着替え終わっている三成は、まだ色の戻っていない手を一度強く振ると、そのまま布団の中に潜り込んでくる。自分の布団なのだから自分に寝る権利がある。そう言いたげに家康の体を押しのけて自分の眠る場所を作ると、密着せざるを得ない状況にちょっとどころじゃなく動揺している家康を尻目に、そのまま無言で目を閉じた。
「なあ三成……」
「…………………………」
「狭くないか? 寒くないか? もう少しこちらに来てもいいのだぞ?」
「………うるさい! 少し静かにしてろ!」
「だが、寒いだろう?」
「貴様が出て行けばいいだけの話だ……まあ。布団が温まっているのは悪くないがな」
「だったら儂が毎日暖めてやろう」
それは断ると言いはしたが、三成はそれから無言で家康に体を擦り寄せてきた。甘えたいとかそう言うのではなく、単にそうしないと寒いからなのはわかっている。だが嫌いな相手や憎いんでいる相手を前にそんなことをする三成ではないことを家康はちゃんとわかっていた。
嫌われていない、憎まれていない。
その事実が家康の心を少しだけ慰めてくれる。新しい国作り、新しい体制作り。口で言うだけでなく実際に実行しなければならない立場である家康は、常に戦とは違う意味での難問と戦い続けている。こうやって三成と会う一時だけが、心の安らぎであり己の心の在り方を確認することができる時間なのだ。
絆によって強固な国を作り、戦乱で大地が荒れぬようにする。
周りの者たちの思惑に踊らされることでその誓いを忘れぬ為に、そして今後も迷わぬ為に。三成を誰よりも必要とし、できればずっと手元に置いておきたいのだ。
三成を抱き留め、彼の暖かさを味わっている今のように。
体を横にして三成の場所を作り、腕の中に招き入れると首筋に柔らかい髪の毛の感触。そして心地よさそうな寝息と共に、今にも消え切りそうな声が聞こえてくる。
「貴様は本当に暖かいな…………伊達には私は眠れるだけ眠っておくと伝えておいてくれ」
「わかった、ゆっくり眠るといい」
「おかしな事をするな……貴様はどうして……」
三成の髪に顔を埋め、耳から顎の線にかけて何度も口づけを繰り返していると、ぱたりと三成の声が止んだ。よほど眠かったのだろう、安心したような寝息をこぼしながらされるがままになっている姿を見ていると、家康までまた眠くなってきてしまった。
三成の耳に指を絡め、頬に唇を寄せ。
「おやすみ……三成」
そう囁いてから家康も目を閉じることにした。
もう恐ろしい夢は見ないことはわかっている。腕の中に自分にとっての光を抱いており、その光を手放すことはないと理解しているのだから。
結局小十郎が起こしに来るまで二人で熟睡し、何故か凄まじく機嫌が悪い彼に家康だけ叩き起こされることになったのだが。三成は起こさずに家康だけというところに小十郎の優しさと、自分に対する厳しさを実感した家康だった。
かなり寝不足だったのだろう、三成が起きてきたのは空が茜色に染まり始めた頃のことだった。まだ眠いのか欠伸を何度もかみ殺し、時折顔をしかめて首を振っている様子から考えると、夢見も良くなかったのだろう。
彼を抱きしめて眠ったことで、自分の悪夢が三成に移ってしまったのでは。
心配になって三成にそう聞いてみると、遅すぎる朝食兼昼食を食べ始めていた三成に鼻で笑われてしまった。
「夢が移るだと? 貴様の考えはよくわからん」
「だがあれだけ側で眠っていれば、ありえるかもしれんぞ?」
「気持ちの悪いことを言うな……」
「どんな夢を見たのだ?」
「私の部下が次々に殺される夢だ」
焼き魚の身を器用にほぐして口に運びながらの三成の答えに、表情が硬くなるのを隠すことができなかった。
「夢の話だ、そして貴様が殺したわけでもない」
「そう……か」
「豊臣に仕えていたことを隠し普通に暮らしていこうとしていた者たちまで、探し出され殺されていった……夢とは言え、気分のいいものではなかったな」
それがつい最近まで行われていたことだと知ったら、三成は自分を再度憎むだろうか、呪うだろうか。
三成が自分に心を開きはじめているからこそ、彼の真実を告げたくない。
お市が自分のことを嘘つきというのは正しい。真実を口にせず、ずっと三成を騙し続けているのだから。
だがそれも近いうちに終わるだろう、その時三成はどうするのか。
わからないからこそ恐ろしく、わからないからこそ告げたくない。彼を幸せにしたいと願っているはずなのに、自分が行うことはことごとく彼を傷つける。
もう会わない方が、側にいない方が。
そう思うのに、心も体も三成を求めて止まないのだ。
「どうした家康?」
相当ひどい顔をしていたのだろう。
三成の食事を見守っていたはずだというのに、逆に三成に見守られていたらしい。夜着からいつもの袴姿に着替えた三成は箸を置き、隣にいる家康の顔に向けて手を差し出してくる。
額にあてられた暖かい手に、少しだけおびえを恐怖が取り除かれる。
「熱はないな………三河に帰って少し休んだらどうだ?」
「三河に儂の帰る場所はないのだ、それが」
「追い出されたか……そうか……」
「そうではない。儂は武蔵に城を作っておる最中でな、今はそこから奥州に来ているのだ」
「武蔵? あんなひどいところにか……」
「奥州も近いし、何より元からある城を儂が気に入った。海も近いし……良い街になると儂は思っている」
「私に会うためにやったわけではないな、当然?」
「そこまで儂も馬鹿ではない」
三成に会うのに便利な場所だというのも決めた要因の一つではあるのだが。
関ヶ原という大きな戦を経験して家康が思ったことは、居城という物の重要性だった。三河に居城があったために、西軍との戦いで家康は初戦で苦労することになった。なにしろ周囲はほとんど敵国という状況なのだ、補給もうまくいかずにもう駄目だと何度思った事か。
雑賀集を味方につけられなければ、あの段階で徳川は滅んでいただろう。
だからこそ家康は東へ居城を移すことに決めた。西国の地方領主たちの中には、家康に恨みを持っている者も多い。戦など起こらぬ方がいいが、もし起こってしまった時にすぐに対応できるようにするためには、同盟国の多い東に移転するのが一番だと結論づけたのだ。
そしていつか、大阪城からの移動を進めている桜の下で三成とすごすことができたら。
待ち受けている三成への告白と謝罪の時、それがすぎれば甘く優しい未来が待っている。そう思わなければ、この苦しみを受け止められるわけがない。
こちらを気遣う目線で見ながら食事を続ける三成に笑いかけてやり、茶でも貰おうかと立ち上がろうとした瞬間。
それは訪れたのだった。
「徳川殿……こちらにいらっしゃいましたか」
「片倉、どうしたのだ?」
「客人がみえております」
「客? 儂にか?」
「いえ、石田殿にではありますが……徳川殿にもご同席いただきたいと思いまして」
「私に客だと?」
箸を止め、客に会う支度を始めようとした三成を小十郎は手でやんわりと止めた。
「いえ、それほど急ぐ必要はございません。この屋敷の中で会わせる気はありませんので。外に出る支度をして、ゆっくりといらしてください」
「どういうことだ? 誰が来たというのだ」
「……………松永久秀、あの男でございます」
三成が軽く目を見開き、そして強く唇を噛みしめる。
かなり焦りながら家康を捜していたのだろう、そして三成には最後に告げようと思っていたらしい小十郎の顔は先程家康を起こしに来た時とは別な意味で不機嫌であった。親の敵にでも出会ったような憎しみに染まりきった顔で虚空を見つめている姿は、彼が竜の右目と呼ばれていることを家康に再度知らしめてくれる。
主の許しさえあれば敵の喉笛に即座に食らいつく、誇り高き獣がそこにはいた。
「今更何の用なのだ、あの男は」
「石田殿に献上したい物があると……また菓子の類でしょうが」
「菓子……か……」
「石田殿、そこで喜ばないように!」
「……わ、わかっている!」
今まで松永に送られた菓子のことでも考えていたのか、小十郎に鋭く指摘されたことで三成の表情が一気に引き締まった。そしてそのまま立ち上がり、部屋へ戻るために歩み去ろうとしていたのだが、小十郎の声がそれを引きとどめた。
「石田殿……あの男は政宗様がお相手しておりますが………会わないというわけにはいかないでしょうか? できれば徳川殿を代理に立てて……」
「どういうことだ? 渡しに来た客ならば、たとえ松永だろうと会わぬ訳にはいかないだろう。松永だけ会わぬと言う事になれば、後々色々と問題が起こる。第五天が眠っている間に帰らせればいいだろう」
「それでも私は言わせていただきます……あの男と石田殿を会わせたくないと」
「それは儂も同じだ、三成」
小十郎の言葉にかぶせるように意見を言うと、三成は少しだけ考え込み。
そして何かを決意したかのように、きっぱりとこう言いきった。
「伊達家に迷惑はかけられん、会うぞ」
「そうでございますか。それでしたら微力ながらこの小十郎もお側にいさせていただきます」
「儂もいる、あの男にはさっさと帰ってもらうことにしよう」
そうだなと口にし、三成は口元に力を入れた。
彼はあの時笑顔を見せてくれようとしたのだ。後になってそのこと気がつくが、必要以上に力の入った顔から家康は不安という感情しか見つけることができなかった。
外では白い雪がちらほらと降り始めていた。
細かい雪片を時折掌で受け止めている三成を微笑ましく思いながら、松永が待っている場所へと向かった。家康と三成が最後の戦いを繰り広げた場所だと聞いた時は何の冗談だと思ったが、あそこしかなかったのだろう。
松永と争いになった場合に使える場所は。
前回と松永の態度が違う、明らかに何かを行うつもりだ。道の途中で手短にそう説明してきた小十郎の姿を見て、家康も改めて気を引き締めた。前回の来訪の時には渋々ながらではあったが屋敷に上げ、滞在を許したというのに今回は屋敷の中に招く気すらない。そう政宗の判断した、それが意味しているものは三成にもわかったのだろう。硬い表情のまま無言で歩いている三成の肩を軽く叩くと、小さく頷き少しで毛表情を和らげた。
得体の知れない不安感は、外気の冷たさと共に身に染みこんでいく。
首元に布を巻き、時折頭を振って積もる雪を落としている三成を気にして何度も後ろを向く。何かあった時には自分が身を挺して彼を護ろうと考えてはいるが、この国でも最高級の剣士である彼が素直に庇われてくれるわけがない。
徐々に近づいて来る袴に青の陣羽織姿という、洒落物の彼が普段なら決してしないであろう姿の政宗。そして彼と対峙している松永の雪を飲み込むような黒い姿。
全てを見透かし馬鹿にするように笑う松永の顔に苛立ちを感じつつ、意図的に松永と三成の間に立った。
あの男に三成の顔を見せてやりたくなどない。
「これは権現殿……久方ぶりだ」
「儂はもう会いたくなかったがな。今日は何用だ?」
「卿に用はない」
短くそう言いきった松永は、家康の後ろでどう松永に対峙すべきか迷っているらしい三成へ恭しく頭を下げてみせる。彼の手には一抱え程ありそうな大きな包みが抱えられており、藤色の風呂敷に包まれたそれからは剣呑な雰囲気が漂い続けていた。箱の類を包んでいるのではなく丸い物を包んでいるようであったが、幾重にも巻かれた布のせいでそれが何かを推察することすらできない。
「石田殿………随分お美しくなられた。花に例えれば、ようやく開き始めた白百合といった風情か」
「気色の悪いことを言うな」
「卿を開く事ができるのは権現殿のみ……待った甲斐があったというものだ」
「松永、用があるのなら早く済ませてくれ。今は別な客人が来ていてな、三成は忙しい」
「大五天魔王……か」
笑いと共に口にしたその言葉に、その場にいた松永以外の人間が凍り付いた。
何故この男がお市が来たことを知っているのか。そしてそれを知りながら三成を訪ねてきたというのなら、松永は何を目的としてこの時期を選んできたのか。
三成の横に立つ小十郎は何かに気がついたのか、乱暴な口調で松永を詰問し始める。
「あの姫さんをここによこしたのはテメェか……松永」
「私が仕向けたわけではない、彼女の意思だ。ここに来るまでの間、私の所にいたことは間違いないが、石田殿の所へ行けと言ったわけではない。彼女は自分の意思でここへ来たのだよ」
「第五天の力で伊達家中を混乱させ、その隙に石田殿をかっさらうつもりだったか?」
「さすが竜の右目……と褒め称えるべきかな。だが半分だけ正解だ」
「半分だと? これ以上何を企んでいやがる!」
恫喝に誓い小十郎の叫びを笑顔で受け流し、松永の目は三成だけを見つめ続けている。
その目に宿る物は愛情ではなく欲望。三成に絡みつく獲物を狙う蛇の牙のような視線に抗するために、家康はきっと松永を睨み付けた。この世の全てをあざ笑っているような男ではあるが、三成を『宝』として手に入れたいという思いの強さは疑いようがない程。松永という男はそのためならば、普通の人間なら思いつかないような最悪の手すら簡単に使うのだ。
表に出さないようにしている家康の恐怖を感じているのかいないのか。松永はわざとらしいほどの笑顔で三成に笑いかけると、顎を覆う美髭を撫でながらゆっくりと口を開き始めた。
「さて……本題に入るとしようか。私の話が終わった後で石田殿が私と共に来る気がないというのなら、私は今後もう石田殿には関わらない」
「もう伊達には来ないと言うことか?」
「第五天も連れて戻るとしよう……私の話を聞くだけで伊達家に迷惑をかけずにすむ。卿にとってはいい取引だと思わぬかね?」
「確かにそうだな」
「石田、こんなヤツの話聞くんじゃねえ!」
「石田殿!」
政宗と小十郎の顔をそれぞれ見つめ、頷いてみせてから。
赤い空から降りしきる雪をその体で受け止め。
石田三成は静かな言葉の内に決意の炎を宿しながら、家康を押しのけて一歩前に出た。そして伸ばした手で家康を庇うかのように押しとどめ、凛とした眼差しを松永へと向ける。
「貴様が何を言おうと、私は揺らがん」
「確かに私が何を言おうと、卿は揺らがぬであろうな……さて、誰が困ることになるのやら」
「何が言いたい」
「このような片田舎にいてはわからぬかもしれぬが……関ヶ原の戦の後、権現殿が行ったことをご存じかね?」
田舎で悪かったなと吐き捨てるように政宗が呟いていたが、それを笑う余裕はもう家康には存在していなかった。松永が今言おうとしていること、それは家康が三成へ謝罪と共に言わなければならないことではないのか。
あの男は今、この時に何故をそれを言いに来たのか。
松永の持っている包み、それの正体。
家康の予想通りの物がそこに入っているとすれば、中に入っている物を絶対に三成に見せてはならない。
「三成、駄目だ!」
「どうした家康?」
「戻るぞ、あれは……っ!」
目の前にある三成の手を取り、状況を察したらしい政宗に目配せを行い。三成を引きずってでも屋敷に戻ろうするが、当の三成自身が動こうとはしなかった。松永の話を聞けば伊達家を護ることができる、そう思っているのだろう。
自らが大切だと思う存在のために尽くすことこそ己の意義だと信じている、三成は昔からそういう男だった。そんな三成の在り方を理解しているのであろう松永は、家康を止めようとはしなかった。
むしろ焦りと惑いを楽しんでいるのだろう。
「おや、石田殿と私の話を邪魔するのかね? 卿にとって不都合な話をしようとしているのだ、石田殿に聞かせたくない気持ちはわかるが」
「不都合な話……だと?」
「そこにいる男……徳川家康が最初に行ったのは国替え……聡明な石田殿なら意味はわかるであろう?」
「西軍の将から領土を奪い、その土地を東軍に分け与えた……そういうことなのだろう? それは誰が天下を取ろうとも行わなければならないことだ……今後のことを考えればな」
「確かに。だがその後に行ったことで各武将の反感を買った……とある命を下し、各国に自らの子飼いの部下を入り込ませ………徳川に逆らわぬように常に監視できる体制を作ったのだったな、徳川殿?」
「………………………………」
確かにそうだ、何も言い返すことができない。
決して内乱で崩れる国を作るためにそれは必要だったのだ。西軍と東軍の武将の国を会えて隣同士にし、互いに見張り合うように仕向け。豊臣狩りを行うという名目で各国に自らの部下を入れた。
西国の武将を代表して家康に会見を求めてきた毛利その件について散々責められた。
これでは絆による国作りではなく、人を情の鎖で絡め取って動けなくなくする緩やかな支配だと。豊臣狩りの兵は退かせたが、各将にそう思われていたことが家康を徹底的に打ちのめした。
もし三成がいなければ、彼と共に過ごす一時がなければ。
家康は絆という己の信条さえ捨ててしまっていたかもしれない。ぁれだけはいつどのような時も変わらず自分を受け入れ、時には罵ってくれる。天下人になったことで失ったと思っていた物は、全て三成が持っていてくれた。だからこそ三成を手放したくないし、ずっとこの優しい時間を共にすごしていたかったのに。
終わりはもう訪れようとしている。
「おや、何も言えぬと? 西国の武将たちには色々言われたようだが……敵だった物を締め付け、味方を厚遇する。卿の言う『絆』とはそういうものだったということか」
「違う!」
「卿が自らの罪を認めぬのは相変わらずか。では、これを出すとしようか……卿が犯した罪……今ここで凶王殿に見せつけるがいい」
松永の手が、腕の中にある包みを撫でる。
愛し子を撫でるような優しい手つき、だがその中身を予測できてしまっている家康にはその行為が地獄の悪鬼の所行にしか見えなかった。胃の腑からせり上がってくる熱く苦い物、手で口を押さえて胸が焼けるような感触に耐えていると、後ろを振り返って三成がこちらを心配そうに見つめていた。
「家康……どうした?」
「三成、頼む……あの男の言葉を聞かんでくれ……頼むから」
「答えろ家康。何を私に隠している? それを言わなければ私は貴様の要求に応えるつもりはない」
「………さて、これを見ていただこうか。その男は石田殿に偽りの愛を囁き、その心を惑わしてきたのだろう? 私が石田殿より頂くのは『恋慕』そしてその代わりに差し上げるのは……」
真実、だ。
その言葉と共に松永が放り投げたそれが狙い通りに三成の足下へと転がっていく。
一つ転がる度に引きはがされて白い大地に広がる布、そして中から見えてくる物に政宗が小さく声を上げた。
「…………oh………なんてこった……」
ぐらりと揺れた政宗の体を、素早く後ろに移動した小十郎が支える。
幾多の戦場を駆け抜け、死体の山を越えてきた政宗でさえも声を失ったそれが、音もなく三成の足先まで転がっていき。
こつりと、つま先へとぶつかった。
「……………ぁ……………さ………左近……………?」
最初に家康の耳に響いたのは呆然とした三成の声。
そして目に焼き付いたのは、三成にとって一番の忠臣だった男の首。
藤色の布の上で、どろりと濁った目を閉じることもなく。左近の首は恨みの全てを目に宿しているかのように虚空を見つめていた。常にわずかに挽いた距離で三成を見守っていた男は確か奥州に入り、あと数日でここへとたどり着くはずだったというのに。
何があった。
そして誰がこんなことを。
そして、三成にこれをどう説明すれば。
「………………………………」
柔らかく、まるで三成を包み込むように微笑む松永の目線の先。
音もなく足の先に触れたその塊をぎこちない動きで見下ろし、信じられない物を見たかのように何度か目を瞬かせると、そのまま。
三成はひきつった喉から、絶え間ない叫び声を漏らし始めた。
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予定通りの着地ですが、後味悪い……
BGM「A Song of Storm and Fire」
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色々説明
拍手現在豊臣家転生パロ中学生編入ってます
(現在2本 家三 チカナリです)
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基本は、愛想のかけらもない「ネット怖い~」の書き手が二人で色々書いている場所です。
書いている人
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・生真面目で堅物でムキムキな男性と一見そうじゃなくても根は真面目極まり ないキャラをこよなく愛している、がんかたうるふの片割れ。編み物とお菓子作りが趣味という、第三者曰く可愛らしい一面を持つ反面、パニクると踊ったり、オロオロしだして周囲は見ていて楽しいらしい。荒ぶる舞は、職場の名物だったりする……らしい。
イヴァンちゃんと片倉さんとシズちゃんとスカイハイさんと陛下を思いっきり愛している。好きなアニメは銀魂と最近はFate/zero。型月ファンというよりは元から虚淵ファンでうずみさんからオススメされまくった末にようやっと手を付けて完読した。ライダー組おいしいです。エクシリアではダントツで陛下が好き。陛下が使用可能になる完全版があるなら複数買いしても構わないとのたまう日々。バサラの好きキャラは片倉さん一強だったはずなのに最近はアニキも熱い。かっちり着込むキャラがすきだったはずなのにいきなり露出度が高いキャラを好きになったのは何故か悩む日々。二次元の向かう愛と同じぐらい甥っ子への愛を叫んでいる気がしてならない。
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