こちらはサークル「がんかたうるふ」のうずみとみっしの二人組が、ラッキードッグ1とばさらのこばなしを黙々と投下する場所です。
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頑張ったのですよ~
でも話は遅々として進まずw
でも話は遅々として進まずw
*****
伊達家の主従と越後行きについての話をした次の日の昼、家康はひょっこりと屋敷に顔を出した。相当急いできたのだろう、この冬の寒さの中で外套一つ纏わず。寒さのために頬を真っ赤に染めた彼が三成に会って最初にしたことは、暖を取るために三成を抱きしめることだった。
「私で暖を取るな!」
「本当に奥州は寒いな。さすがの儂も風邪を引きそうだ」
「熱を出して寝込め、その方が静かでいい」
玄関先で人目もはばからずに抱きしめられるのは、さすがに恥ずかしい。
なので家康の腕の中から無理矢理脱出し、彼の首根っこをひっつかんで自分の部屋へを連れて行く。部屋の隅ではお市がすうすうと眠っているのだが、日が高い時間帯は目覚めないとわかってきたので、特に三成は気にしていなかった。
「………………………………」
苦情を言いたいのだが、何に関してどう苦情を言えばいいのかわからない。そんな風情の家康がこちらをじいっと見つめているが、それも気にしないことにする。それでも流石っている家康のことを少しだけ可哀想に思ったので、厨房からお湯の入った鉄瓶を借りてきて茶だけは煎れてやった。
お市を起こさぬように少しだけ距離をお子、向かい合って
「三成の煎れる茶は美味いな……温まる」
「おかわりはいるか?」
「いや、まだ入っているので大丈夫だ。ところで三成、その……お市殿の事だが」
「心配するな、あと数刻は眠っているはずだ。言いたいことがあるのならさっさと言え」
「天海殿が、お市殿を引き取ってもいいと言ってくれた」
「天海……誰だ?」
「金吾に使えている僧正だ、覚えていないか?」
最初に思い浮かべたのは、蛇に触れた時のような理由のない嫌悪感だった。
僧なのに髪を長く伸ばし、金吾の側で妖しげなことばかり言っていたあの男がお市を引き取りたいとは一体どういうことなのだろう。
それについて家康が聞くと、彼は何の影もない笑顔でこう答えてくれた。
「面白いから、と言っていたな。それと、金吾の成長に繋がるかもしれないから、だそうだ」
「面白いが先なのか……」
小早川の家の将来を少しだけ案じはしたが、金吾は三成を裏切った男だ。あんな奴はお市に振り回されて、大変な思いをすればいい。
そう思いたいのだが、真っ直ぐすぎる家康の目を見ていると憎しみという名のどす黒い感情が薄れてきてしまう。家康は昔から自分のことを月のように綺麗だとよく言っていたが、それならば家康が太陽なのだろう。
強く輝き、人の心の影を打ち消してしまう。
そして自分はその光を一番側で浴び続けていた。憎しみと悲しみで曇っていた心は、彼という光を受け続けたことで、少しだけ変わったのだろうか。
次に金吾と会うことがあれば、以前より少しだけ優しくできそうな気がする。
まああくまで気がするだけなので、再会してもいつもと同じように苛々して蹴り飛ばしてしまうかも知れないのだが。
「三成もお市殿の世話で、あまり休んでいないのだろう? 三成が避ければすぐにでも連れて行くが」
家康から見ても、今の三成は疲れているように見えるのだろう。
すぐにでもお市を連れて行き、三成の負担を軽くしたいという家康の気持ちはありがたいが。彼女の処遇については、政宗たちと話をしてもう決めてあった。家康が手はずを整えてくれた事には感謝するが、ここは礼を言ってから断るべきだろう。
とここで、あることに気がついた。
後回しにしてきた言わなければならないこと。
今が、それを言う絶好の機会なのでは。
「………家康、あれについては伊達と話をしてある。天海とやらには断りを入れてくれ」
「いいのか?」
越後に行ってお市を預けてくる。
そして刑部にも会ってくる。
家康にその事を告げた時、彼はどんな反応を示すだろうか。
もし秀吉が家康の立場なら、自分に敵対する物の残党は狩り尽くしただろう。一族の末席の存在まで全て殺し、そして己の逆らう物はこうなると周囲に知らしめる。絆を信条として掲げる家康はそのようなことは行わないだろうから、命が尽きつつある刑部も見逃してもらえるはずだが。
友の命を家康の掌に乗せ、生殺与奪の権利を与えるようなものだ、それは。
だが自分の物になるといった家康を今は信じるしかない。
「………越後に行こうと思う」
「謙信殿に会いに行くのか? この季節にわざわざ行かなくとも……」
「上杉に第五天を預ける。そして私も越後に用がある……」
刑部に会いに行く。
家康に聞き返されぬよう、はっきりとした声でゆっくりとそう口にした。
この言葉の意味をわからぬ程家康は鈍い男ではない。そして、刑部が生きているという言葉の持つ意味がわからぬ訳がない。
三成はずっと、家康を騙し裏切り続けていたのだ。
いくら温厚で我慢強い家康でもこれは許せないだろう。彼に大事なことを伝えず、ずっと彼を欺き続けてきたのだ。
何をされても文句は言えない。
唇を引き結び、どれだけ彼の言葉を待っただろうか。それは三成が感じているより遥かに短い時間だったのだろう。
人好きのする笑顔を全く崩すことなく。
「刑部は元気なのか?」
穏やかな声でそう聞いてきたのだった。
「………何も……言わないのか?」
「儂に何を言って欲しいのだ?」
「私は今までずっと貴様にそれを言わなかった。貴様が刑部を殺すのでは……そう疑っていたからだ」
「疑われても当然だ。儂は秀吉殿を討っているのだからな」
「だが……貴様は…………」
決して三成から逃げなかった。
三成の思いを全て受け止め、そしてそれでも愛しいと言い続けてくれた。
そんな相手を自分は騙し続けていた、その重さが一気にのしかかってくる。
「三成あのな……」
「許せとは言わん。だが……私は………」
「そう先走るな。三成が儂に刑部のことを言えなかったのは当たり前のことだ。刑部を守りたかったのだろう?」
「…………………」
こくりと頷くと、家康が少しだけ近づいてきた。
綺麗に膝を揃えて正座していたというのに脚を大きく開き。できた空間に三成の体を引き寄せ。わずかの隙間もない程強く体を抱き寄せると、まだ完全に温まりきっていない家康の体が三成の体の熱を休息に奪い去っていった。
急に引き寄せられたことで中途半端に投げ出された脚だけが、奇妙に冷たい。
「やはり三成は暖かいな」
「私は貴様を裏切っていたのだ………責めなくていいのか?」
「秀吉を討った時点で儂の方が先に裏切り者だ、三成を責められるはずがない……それに、三成は友を守ろうとしただけだ。絆を守るためについた嘘を責めれば、儂のやってきたことは全て嘘になってしまう。だがもし三成が儂に悪いと思っているのなら……」
「思っているのなら、何だ?」
家康の膝に半ば乗せられている状態のまま、顔がぶつかりそうな勢いで家康に詰め寄ると、目の前には何故か嬉しそうな顔。
「今日儂と一緒に風呂に入ってくれるとかな」
「呼ばなくても入ってくるだろう」
「同じ布団で眠るとか」
「朝になったら潜り込んで寝ているのは誰だ?」
「お茶を入れてくれるとか」
「貴様が今飲んでいるのは誰が煎れた茶だ」
「………で、ではな……よ……夜伽を……その……な……」
「夜伽?」
「い、いや! 無理なことを言った、忘れてくれ!」
家康はあきれるほどに馬鹿で愚直で。
そして自らの欲望から目をそらさない。
家康への思いを奥底に押し込めてきた三成のように、己の気持ちから逃げたりはしないのだ。
「…………越後から戻ってきてからなら……構わん」
「三成? 今自分が言ったことをわかっているのか!?」
「私にも心の準備をする時間をよこせと言うことだ。伊達と片倉にやり方を聞いて、色々と準備を……」
「それはやめてくれ、頼むから」
彼が素直に自分を求めるというのなら、自分も彼を受け入れることにしよう。
家康のように素直に、真っ直ぐに進むことはできないけれど。ほんの少しずつでも前に向けて進むことができたら。
きっと自分が望み未来が見えてくるはず。
ぎゅうっと家康に抱きしめられながら、彼の肩に頬を押し当て。どこまでが自分の肌なのかわからなくなるほど混ざり合った体温、そして背に触れる家康の手を心地よく感じていると。
「…………うそつきなのね………ひかりいろさんは………」
二人の間を引き裂くかのような冷たく重い声が、部屋の隅から聞こえてきた。
「起きたのか、今日は早かったな」
「やみいろさん……いちのことをよんだでしょ? だからおきたのよ」
「呼んだ?」
「うそつきなんてきらい……たすけて……って」
ゆらりと体を起こしたお市の目の触れる前に、慌てて家康から体を離した。
畳の上に置きっぱなしだった冷め切った茶にわざとらしく口をつけ、なんとかこの場をごまかそうとしていると、お市がゆっくりとこちらに近づいてきた。
「久方ぶりだな、お市殿」
「……ひかりいろさん……きょうも……まぶしいのね………」
「そうか? 儂には三成とお市殿の方が眩しく見えるが」
「でも……まえほどはまぶしくないの……うそをつくと……まぶしくなくなるのね……」
「嘘?」
「………やみいろさんは………うそつきじゃないのよ……………ちょうちょさんがだいすきだから………まもろうとしただけなの……」
まるで抱きつくかのように両の腕で三成の腕をしっかりと抱え込み、お市は三成に童女のような笑みを向けてくる。全てを失ってしまった女は三成だけを信頼し、三成以外に心を開くことはない。
三成も自分と同じだ、そうとでも言いたげに接してくる彼女が昔から苦手と言えば苦手だった。だがこれほど三成だけを求めていただろうか、彼女は。
西軍時代の彼女も三成に懐いているといえば懐いていたが、あの頃は刑部や幸村にも甘えていたし、時には島津と上杉の酒宴に混ざったりもしていたのだ。彼女の存在を巡って争いが起こることもあったが、基本的に彼女は武将たちには大切に扱われていた。
それが今はどうだ。
無為に争いを引き起こし、幸村にすら直接的ではないにしろ牙を剥いている。三成が側にいる時は落ち着いているが、いなければ彼女は理性も情も持たない動く悪夢になってしまう。
今だの三成の心中では、このままどこかの山奥の寺にでも二人で移り住み、人と接触せずに生きる事が一番の良策だという思いが強い。
家康の中では昔のお市の印象が強かったのだろう、さすがに少し顔を引きつらせている家康に向けて三成はざっとだが今の状況について説明してやることにした。
「あまり目を見るな、経験上肩の辺りを見るのが一番楽だ。それと世辞の類は通用しない、嘘偽りなく話さねば………」
「今のでよくわかった。これは……確かに上杉殿にお任せするのが良さそうだな」
軽く息を吐き、家康は三成に言われたとおりお市の顔から微妙に目線をそらした。
あからさまに顔から目をそらすと、本人から顔を合わせてくるのだ。かといって首の辺りを見ると、必然的に豊かな胸が目に入ってしまう。
三成も家康も一応健全な青少年である、年上の美女の豊かな胸にはさすがに弱い。
今も腕に押しつけられる見事としか言いようのない柔らかくも暖かい感触が気になって仕方がないというのに、お市は可愛らしく首をかしげながら更に三成を追い込んでいくのだ。
「やみいろさん……どうしてひかりいろさんとあそんでいるの?」
「遊んでいるわけではない。貴様の住む場所について話をしていたのだ」
「でも……やみいろさんはあそびたいのよね……ひかりいろさんと」
「……………あ、遊びたいわけでは……」
「だいすきなのよね……でも……だいすきだからだいきらいなの………やみいろさんのかなしいもくるしいも………まっくろできらきらしてるのよ……とても……………きれい」
うっとりと、歌うように。
お市は託宣を受けた巫女のように言葉を紡ぎ続ける。
「だからひかりいろさんはやみいろさんがすきなのね………じぶんがまぶしいと……まわりはまっくろにみえてしまうの………でもだめなのよ………やみいろさんはこれからもずうっといちとあそんでくれるんだから……ひかりいろさんにはあげない……」
「お市殿、それだけは駄目だ。三成は……儂と共に歩むのだから」
「…………これからも………ひかりいろさんはうそつきさんなの……?」
「儂の中に偽りはない」
この家康の言葉に、お市の顔が笑み崩れた。
甘く退廃的な、毒薬を思わせる美しくも怖気が立つようなそれと共に。
うそつきさんはみんな……しんじゃうのよ。
にいっと笑ったお市は、俗世の毒を持たぬ代わりに周囲を狂わす目でじいっと、家康を見据えた。
常人なら一見だけで狂ってしまう瞳と、今や天下人となった男の目がぶつかり合い。
「家康…………今日の夢見は覚悟しておけ」
心臓を押さえて肩を震わせ。
床に手をつき荒い息を吐きながら途切れ途切れの苦鳴を漏らし始めた家康に、三成は首の角度を調整しながら声をかけてやった。
おの状態のお市の目を見てしまえば、多少は慣れている三成でも命が危ない。そんな二人の様子には気に留めず、お市は機嫌が直ったのか、聞き慣れぬ手まり歌を口ずさみ始めていた。
みんなでみんなでかくれんぼしましょ
かくれんぼしたあとおにごっこしましょ
「………もうすぐくるのよ………やみいろさんにおとどけもの………ひかりいろさんには……………なのよ…………たのしいの………? ………さまもたのしいの……?」
歌の合間に口から漏れる言葉に恐怖をかき立てられつつも、三成の目は未だに顔を起こそうとしない家康へと向けられていた。
震える体と心はお市に何を見せられたのか。
それは三成にはわからないが、他人に苦しんでいる様を見せたがらない家康のことだ。きっと、落ち着くまでは三成にも顔を見せてはくれないだろう。
甘やかなお市の歌声と家康の苦鳴が重なる中、お市にしっかりと腕を捕まれているために家康の元へと行けない自分にもどかしさを感じながら。
誰にも気づかれぬよう、無言で唇を噛んだ。
_______________________________________
早く頭痛シーズンが終わらないかなあ……辛い。
ちなみにお市の手まり歌には、元ネタがあります。私今でも全部歌えるよ。
BGM「misery」by fripSide
「私で暖を取るな!」
「本当に奥州は寒いな。さすがの儂も風邪を引きそうだ」
「熱を出して寝込め、その方が静かでいい」
玄関先で人目もはばからずに抱きしめられるのは、さすがに恥ずかしい。
なので家康の腕の中から無理矢理脱出し、彼の首根っこをひっつかんで自分の部屋へを連れて行く。部屋の隅ではお市がすうすうと眠っているのだが、日が高い時間帯は目覚めないとわかってきたので、特に三成は気にしていなかった。
「………………………………」
苦情を言いたいのだが、何に関してどう苦情を言えばいいのかわからない。そんな風情の家康がこちらをじいっと見つめているが、それも気にしないことにする。それでも流石っている家康のことを少しだけ可哀想に思ったので、厨房からお湯の入った鉄瓶を借りてきて茶だけは煎れてやった。
お市を起こさぬように少しだけ距離をお子、向かい合って
「三成の煎れる茶は美味いな……温まる」
「おかわりはいるか?」
「いや、まだ入っているので大丈夫だ。ところで三成、その……お市殿の事だが」
「心配するな、あと数刻は眠っているはずだ。言いたいことがあるのならさっさと言え」
「天海殿が、お市殿を引き取ってもいいと言ってくれた」
「天海……誰だ?」
「金吾に使えている僧正だ、覚えていないか?」
最初に思い浮かべたのは、蛇に触れた時のような理由のない嫌悪感だった。
僧なのに髪を長く伸ばし、金吾の側で妖しげなことばかり言っていたあの男がお市を引き取りたいとは一体どういうことなのだろう。
それについて家康が聞くと、彼は何の影もない笑顔でこう答えてくれた。
「面白いから、と言っていたな。それと、金吾の成長に繋がるかもしれないから、だそうだ」
「面白いが先なのか……」
小早川の家の将来を少しだけ案じはしたが、金吾は三成を裏切った男だ。あんな奴はお市に振り回されて、大変な思いをすればいい。
そう思いたいのだが、真っ直ぐすぎる家康の目を見ていると憎しみという名のどす黒い感情が薄れてきてしまう。家康は昔から自分のことを月のように綺麗だとよく言っていたが、それならば家康が太陽なのだろう。
強く輝き、人の心の影を打ち消してしまう。
そして自分はその光を一番側で浴び続けていた。憎しみと悲しみで曇っていた心は、彼という光を受け続けたことで、少しだけ変わったのだろうか。
次に金吾と会うことがあれば、以前より少しだけ優しくできそうな気がする。
まああくまで気がするだけなので、再会してもいつもと同じように苛々して蹴り飛ばしてしまうかも知れないのだが。
「三成もお市殿の世話で、あまり休んでいないのだろう? 三成が避ければすぐにでも連れて行くが」
家康から見ても、今の三成は疲れているように見えるのだろう。
すぐにでもお市を連れて行き、三成の負担を軽くしたいという家康の気持ちはありがたいが。彼女の処遇については、政宗たちと話をしてもう決めてあった。家康が手はずを整えてくれた事には感謝するが、ここは礼を言ってから断るべきだろう。
とここで、あることに気がついた。
後回しにしてきた言わなければならないこと。
今が、それを言う絶好の機会なのでは。
「………家康、あれについては伊達と話をしてある。天海とやらには断りを入れてくれ」
「いいのか?」
越後に行ってお市を預けてくる。
そして刑部にも会ってくる。
家康にその事を告げた時、彼はどんな反応を示すだろうか。
もし秀吉が家康の立場なら、自分に敵対する物の残党は狩り尽くしただろう。一族の末席の存在まで全て殺し、そして己の逆らう物はこうなると周囲に知らしめる。絆を信条として掲げる家康はそのようなことは行わないだろうから、命が尽きつつある刑部も見逃してもらえるはずだが。
友の命を家康の掌に乗せ、生殺与奪の権利を与えるようなものだ、それは。
だが自分の物になるといった家康を今は信じるしかない。
「………越後に行こうと思う」
「謙信殿に会いに行くのか? この季節にわざわざ行かなくとも……」
「上杉に第五天を預ける。そして私も越後に用がある……」
刑部に会いに行く。
家康に聞き返されぬよう、はっきりとした声でゆっくりとそう口にした。
この言葉の意味をわからぬ程家康は鈍い男ではない。そして、刑部が生きているという言葉の持つ意味がわからぬ訳がない。
三成はずっと、家康を騙し裏切り続けていたのだ。
いくら温厚で我慢強い家康でもこれは許せないだろう。彼に大事なことを伝えず、ずっと彼を欺き続けてきたのだ。
何をされても文句は言えない。
唇を引き結び、どれだけ彼の言葉を待っただろうか。それは三成が感じているより遥かに短い時間だったのだろう。
人好きのする笑顔を全く崩すことなく。
「刑部は元気なのか?」
穏やかな声でそう聞いてきたのだった。
「………何も……言わないのか?」
「儂に何を言って欲しいのだ?」
「私は今までずっと貴様にそれを言わなかった。貴様が刑部を殺すのでは……そう疑っていたからだ」
「疑われても当然だ。儂は秀吉殿を討っているのだからな」
「だが……貴様は…………」
決して三成から逃げなかった。
三成の思いを全て受け止め、そしてそれでも愛しいと言い続けてくれた。
そんな相手を自分は騙し続けていた、その重さが一気にのしかかってくる。
「三成あのな……」
「許せとは言わん。だが……私は………」
「そう先走るな。三成が儂に刑部のことを言えなかったのは当たり前のことだ。刑部を守りたかったのだろう?」
「…………………」
こくりと頷くと、家康が少しだけ近づいてきた。
綺麗に膝を揃えて正座していたというのに脚を大きく開き。できた空間に三成の体を引き寄せ。わずかの隙間もない程強く体を抱き寄せると、まだ完全に温まりきっていない家康の体が三成の体の熱を休息に奪い去っていった。
急に引き寄せられたことで中途半端に投げ出された脚だけが、奇妙に冷たい。
「やはり三成は暖かいな」
「私は貴様を裏切っていたのだ………責めなくていいのか?」
「秀吉を討った時点で儂の方が先に裏切り者だ、三成を責められるはずがない……それに、三成は友を守ろうとしただけだ。絆を守るためについた嘘を責めれば、儂のやってきたことは全て嘘になってしまう。だがもし三成が儂に悪いと思っているのなら……」
「思っているのなら、何だ?」
家康の膝に半ば乗せられている状態のまま、顔がぶつかりそうな勢いで家康に詰め寄ると、目の前には何故か嬉しそうな顔。
「今日儂と一緒に風呂に入ってくれるとかな」
「呼ばなくても入ってくるだろう」
「同じ布団で眠るとか」
「朝になったら潜り込んで寝ているのは誰だ?」
「お茶を入れてくれるとか」
「貴様が今飲んでいるのは誰が煎れた茶だ」
「………で、ではな……よ……夜伽を……その……な……」
「夜伽?」
「い、いや! 無理なことを言った、忘れてくれ!」
家康はあきれるほどに馬鹿で愚直で。
そして自らの欲望から目をそらさない。
家康への思いを奥底に押し込めてきた三成のように、己の気持ちから逃げたりはしないのだ。
「…………越後から戻ってきてからなら……構わん」
「三成? 今自分が言ったことをわかっているのか!?」
「私にも心の準備をする時間をよこせと言うことだ。伊達と片倉にやり方を聞いて、色々と準備を……」
「それはやめてくれ、頼むから」
彼が素直に自分を求めるというのなら、自分も彼を受け入れることにしよう。
家康のように素直に、真っ直ぐに進むことはできないけれど。ほんの少しずつでも前に向けて進むことができたら。
きっと自分が望み未来が見えてくるはず。
ぎゅうっと家康に抱きしめられながら、彼の肩に頬を押し当て。どこまでが自分の肌なのかわからなくなるほど混ざり合った体温、そして背に触れる家康の手を心地よく感じていると。
「…………うそつきなのね………ひかりいろさんは………」
二人の間を引き裂くかのような冷たく重い声が、部屋の隅から聞こえてきた。
「起きたのか、今日は早かったな」
「やみいろさん……いちのことをよんだでしょ? だからおきたのよ」
「呼んだ?」
「うそつきなんてきらい……たすけて……って」
ゆらりと体を起こしたお市の目の触れる前に、慌てて家康から体を離した。
畳の上に置きっぱなしだった冷め切った茶にわざとらしく口をつけ、なんとかこの場をごまかそうとしていると、お市がゆっくりとこちらに近づいてきた。
「久方ぶりだな、お市殿」
「……ひかりいろさん……きょうも……まぶしいのね………」
「そうか? 儂には三成とお市殿の方が眩しく見えるが」
「でも……まえほどはまぶしくないの……うそをつくと……まぶしくなくなるのね……」
「嘘?」
「………やみいろさんは………うそつきじゃないのよ……………ちょうちょさんがだいすきだから………まもろうとしただけなの……」
まるで抱きつくかのように両の腕で三成の腕をしっかりと抱え込み、お市は三成に童女のような笑みを向けてくる。全てを失ってしまった女は三成だけを信頼し、三成以外に心を開くことはない。
三成も自分と同じだ、そうとでも言いたげに接してくる彼女が昔から苦手と言えば苦手だった。だがこれほど三成だけを求めていただろうか、彼女は。
西軍時代の彼女も三成に懐いているといえば懐いていたが、あの頃は刑部や幸村にも甘えていたし、時には島津と上杉の酒宴に混ざったりもしていたのだ。彼女の存在を巡って争いが起こることもあったが、基本的に彼女は武将たちには大切に扱われていた。
それが今はどうだ。
無為に争いを引き起こし、幸村にすら直接的ではないにしろ牙を剥いている。三成が側にいる時は落ち着いているが、いなければ彼女は理性も情も持たない動く悪夢になってしまう。
今だの三成の心中では、このままどこかの山奥の寺にでも二人で移り住み、人と接触せずに生きる事が一番の良策だという思いが強い。
家康の中では昔のお市の印象が強かったのだろう、さすがに少し顔を引きつらせている家康に向けて三成はざっとだが今の状況について説明してやることにした。
「あまり目を見るな、経験上肩の辺りを見るのが一番楽だ。それと世辞の類は通用しない、嘘偽りなく話さねば………」
「今のでよくわかった。これは……確かに上杉殿にお任せするのが良さそうだな」
軽く息を吐き、家康は三成に言われたとおりお市の顔から微妙に目線をそらした。
あからさまに顔から目をそらすと、本人から顔を合わせてくるのだ。かといって首の辺りを見ると、必然的に豊かな胸が目に入ってしまう。
三成も家康も一応健全な青少年である、年上の美女の豊かな胸にはさすがに弱い。
今も腕に押しつけられる見事としか言いようのない柔らかくも暖かい感触が気になって仕方がないというのに、お市は可愛らしく首をかしげながら更に三成を追い込んでいくのだ。
「やみいろさん……どうしてひかりいろさんとあそんでいるの?」
「遊んでいるわけではない。貴様の住む場所について話をしていたのだ」
「でも……やみいろさんはあそびたいのよね……ひかりいろさんと」
「……………あ、遊びたいわけでは……」
「だいすきなのよね……でも……だいすきだからだいきらいなの………やみいろさんのかなしいもくるしいも………まっくろできらきらしてるのよ……とても……………きれい」
うっとりと、歌うように。
お市は託宣を受けた巫女のように言葉を紡ぎ続ける。
「だからひかりいろさんはやみいろさんがすきなのね………じぶんがまぶしいと……まわりはまっくろにみえてしまうの………でもだめなのよ………やみいろさんはこれからもずうっといちとあそんでくれるんだから……ひかりいろさんにはあげない……」
「お市殿、それだけは駄目だ。三成は……儂と共に歩むのだから」
「…………これからも………ひかりいろさんはうそつきさんなの……?」
「儂の中に偽りはない」
この家康の言葉に、お市の顔が笑み崩れた。
甘く退廃的な、毒薬を思わせる美しくも怖気が立つようなそれと共に。
うそつきさんはみんな……しんじゃうのよ。
にいっと笑ったお市は、俗世の毒を持たぬ代わりに周囲を狂わす目でじいっと、家康を見据えた。
常人なら一見だけで狂ってしまう瞳と、今や天下人となった男の目がぶつかり合い。
「家康…………今日の夢見は覚悟しておけ」
心臓を押さえて肩を震わせ。
床に手をつき荒い息を吐きながら途切れ途切れの苦鳴を漏らし始めた家康に、三成は首の角度を調整しながら声をかけてやった。
おの状態のお市の目を見てしまえば、多少は慣れている三成でも命が危ない。そんな二人の様子には気に留めず、お市は機嫌が直ったのか、聞き慣れぬ手まり歌を口ずさみ始めていた。
みんなでみんなでかくれんぼしましょ
かくれんぼしたあとおにごっこしましょ
「………もうすぐくるのよ………やみいろさんにおとどけもの………ひかりいろさんには……………なのよ…………たのしいの………? ………さまもたのしいの……?」
歌の合間に口から漏れる言葉に恐怖をかき立てられつつも、三成の目は未だに顔を起こそうとしない家康へと向けられていた。
震える体と心はお市に何を見せられたのか。
それは三成にはわからないが、他人に苦しんでいる様を見せたがらない家康のことだ。きっと、落ち着くまでは三成にも顔を見せてはくれないだろう。
甘やかなお市の歌声と家康の苦鳴が重なる中、お市にしっかりと腕を捕まれているために家康の元へと行けない自分にもどかしさを感じながら。
誰にも気づかれぬよう、無言で唇を噛んだ。
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早く頭痛シーズンが終わらないかなあ……辛い。
ちなみにお市の手まり歌には、元ネタがあります。私今でも全部歌えるよ。
BGM「misery」by fripSide
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色々説明
拍手現在豊臣家転生パロ中学生編入ってます
(現在2本 家三 チカナリです)
注意事項
・フリーリンクじゃないです、基本的にはリンクはお断りしています
・ひっそりこっそりが信条なので、黙々と
・捏造、not公式のこばなしが多いので、スルー推奨
ラキドでは幹部全員を溺愛しておりますが、ベルナルドとイヴァンは特に偏愛。ばさらは家三とか奥州の愉快な仲間達と毛長がメインです。うずみさんが現在官三とか官佐にずっぽりとはまり中。
基本は、愛想のかけらもない「ネット怖い~」の書き手が二人で色々書いている場所です。
書いている人
みっし
・生真面目で堅物でムキムキな男性と一見そうじゃなくても根は真面目極まり ないキャラをこよなく愛している、がんかたうるふの片割れ。編み物とお菓子作りが趣味という、第三者曰く可愛らしい一面を持つ反面、パニクると踊ったり、オロオロしだして周囲は見ていて楽しいらしい。荒ぶる舞は、職場の名物だったりする……らしい。
イヴァンちゃんと片倉さんとシズちゃんとスカイハイさんと陛下を思いっきり愛している。好きなアニメは銀魂と最近はFate/zero。型月ファンというよりは元から虚淵ファンでうずみさんからオススメされまくった末にようやっと手を付けて完読した。ライダー組おいしいです。エクシリアではダントツで陛下が好き。陛下が使用可能になる完全版があるなら複数買いしても構わないとのたまう日々。バサラの好きキャラは片倉さん一強だったはずなのに最近はアニキも熱い。かっちり着込むキャラがすきだったはずなのにいきなり露出度が高いキャラを好きになったのは何故か悩む日々。二次元の向かう愛と同じぐらい甥っ子への愛を叫んでいる気がしてならない。
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うずみ
・相方を愛しすぎている変な人。趣味は畑仕事に漬け物作り、好きな物は不幸属性の美人(男女問わず)。ばさらでは石田さんと黒田さんをこよなく愛していたり、赤い子めんこいにゃぁとたまに叫んでいる。ついったのフォローは下 のアイコンから。
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