こちらはサークル「がんかたうるふ」のうずみとみっしの二人組が、ラッキードッグ1とばさらのこばなしを黙々と投下する場所です。
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
5章始めます。
*****
人を見るにはその人間の仕事を見よ、それが半兵衛の教えだったらしい。
「片倉……この収量、どうもおかしい」
「どれでございますか?」
「ここだ、近隣の集落と収量が違いすぎる。同じ土壌で同じ天候で、ここまで量に差がつくわけがない。昨年はほぼ同じ収量だったというのに、人の移動でもあったのか?」
「確かにこれは……よく気がつきましたな」
「見比べれば誰にでもわかることだ。それとこちらは? 年々収量が落ちてきている……川沿いだが治水ができていない可能性もあるな」
「そちらは政宗様が今日足を伸ばして様子を見てくるとのことでした、河川の工事は昨年終わっておりますが、何か不備があったかもしれませんので」
ぴしりと背を伸ばし、素早く書面に目を通し。
算盤をはじいては集落の人口に合う収量か、昨年と比べて大きく量が変わっていないかを確認する。その手際の良さのおかげで、小十郎の今年の仕事は大きく減ったわけだが。
仕事が早すぎて小十郎以外の人間がついていけないという大きな欠点もあった。
おまけに自分の仕事の速さが標準だと思っているので、他人の仕事の遅さが許容できない。自分より出来ない人間はよほどの愚者だと思っているのだろう、容赦のない罵り言葉に心が折られた部下が多数。
というわけで小十郎と三成の二人きりで仕事をしているわけだが。
「ここはあとで人をやって確認させましょう」
「さっさと動かせ。ため込んでいるだけならいいが、横流しをされると面倒だ」
「米の相場が読み切れなくなりますな……確かに」
「奥州は米所だと聞いていたが、確かにこれだけ採れれば暮らしも相当楽なのだろうな」
「そうであればいいのですが……近江はどうだったのでございますか?」
「ここよりは暖かかった、雪もここほどには降らなかったしな」
小十郎の言葉に佐和山城での暮らしを思い出したのか。
家康が絡まなければ表情が変わらない顔が、わずかに和んだ。誰だって故郷は恋しいものだ、ましてや自分が治めていた土地であれば懐かしさはかなりのものだろう。
指の間から紙の束が抜け、その目はそろそろ雪が降り出すとは思えないうららかな日差しへと向けられる。まるでその向こうに佐和山の城が見えているかのように、その目はしっかりと彼方を見つめていた。
「左近には城を抜け出すなとよく怒られていたが……農民どもの仕事を見た方がわかりやすいこともあった。時には刑部も顔を出して遠駆けがてら見回りをしたものだが」
「どこの御当主も同じ事をなさっているようで………大谷殿も馬に乗ったのですか」
「刑部は私の後ろだ」
あの大谷吉継を後ろに乗せて遠駆けをしている三成の姿が想像できず、小十郎は内心頭を抱えながら、だがこぼれる笑いを隠すことが出来なかった。
これが拾ってきた当時と同じ人間だろうか。
あの時同じ言葉を聞いても決して答えてくれなかっただろうし、もしかしたらこちらに斬りかかってきたかもしれなかったというのに。指から逃げた紙束を慌てて拾い直している三成の顔は穏やかとは言い難いが、そこには狂気も憎しみも存在してはいなかった。
その代わりに刻み込まれたのは、深い悲しみとわずかの安らぎだったが、それも家康が来訪すると瞬時に消え失せてしまう。家康と彼を会わせ続けることが彼らのためになるのか、それとも若い二人の未来を殺しているのか。その答えを小十郎はまだ出すことが出来なかった。
三成のためを思えば家康と引き離すのが一番いい、このまま伊達の客人として心静かに過ごしていけば三成の心の傷も徐々に癒えていくだろう。だが伊達家のことを考えれば、三成にはこのまま『人質』としてここに滞在していて欲しい。自分たちが拾ってきたのだから決める権利はこちらにあるとはいえ、彼にだって自分の処遇について何かを言う権利はあるはずだ。
その彼が家康と相対し続けることを望み、家康もそうしていきたいと願っている。
互いに傷つけあい、そしてこれからもぶつかり合いながら和解への道を探していくつもりなのだろうが。横で見ている方は、どちらかが精神的に壊れる可能性のある相対を止めたいと願っていた。
小十郎も政宗も。
そういえば自分と同じく三成の処遇について考えているはずの政宗だったが、先日の松永の来訪後よりその件についてあまり口にしなくなった。三成と何かを話して、政宗なりの結論を得たのだろう。
反抗期の弟を見守るやんちゃな兄のような眼差しで、日々三成を見守り続けている。
小十郎としてはすっかり政宗が大人になってしまって嬉しい反面かなり寂しかったりするのだが、成長する政宗に文句を言うわけにもいかなかった。
幼い頃から面倒を見てきた政宗も、散々手を焼かせてくれた三成も、いつかは小十郎の元を離れていく。
「………………おい、片倉」
「申し訳ございません、考え事をしておりました」
「考え事? 貴様も惚けることがあるのだな……夜毎励みすぎなのではないのか?」
「石田殿………どうしてあなたはそう耳年増の飯盛り女のような口を……」
内政の能力も高く、仕事も早く。
施政者としての高い能力を兼ね備えている三成だったが。
半兵衛の教育は絶対に間違っていた。
三成の生真面目で矛盾や疑問を許さない仕事ぶりは見事だと思うが、同じ能力を周囲に要求するのは間違っている。人にはそれぞれ得手不得手があるというのに、全てにおいて高い能力を求めるというのは違うだろうに。
「石田殿には人とのつきあい方を学んでいただかなければいけないようですな」
「私は十分人とつきあえている」
「人の夜の生活を詮索するのは、正しい人付き合いではございません」
きっぱりとそう言い切ると、三成の首がこちらが困惑するほどに大きく傾けられた。
「………そ、そうなのか?」
「当たり前です」
「半兵衛様はそれでいいと言っていたが」
「奥州ではそれは無礼に当たりますので、今後はお控えください」
「伊達は聞いたら答えてくれたが……」
「あの方は真の奥州人ではございませんっ!」
「真の欧州人がいるのか………」
何やってるんだ、あの人は。
自分の教育方針も、もしかしたら間違っていたのだろうか。純粋な眼差しで真の奥州人についての講釈を聞きたがっている三成から目をそらしつつ、なんとか話をそらそうとしていた小十郎だったが。
ふと表情を失い、上へと向けられ始めた三成の顔を見て、今日の仕事の終わりを知ることとなった。
「いらっしゃいましたか」
「ああ………家康め………」
憎々しげなのに、どこか嬉しげな声。
その頃には空気が揺れ、忠勝が迫ってくる気配が小十郎にもわかるようになっていたが、三成は誰よりも早くそれを感じ取る。
「性懲りもなく私にやられに来たか……早く降りて来い……」
その顔には歓喜と憎しみが刻み込まれており、先程までの安らぎはとっくに消え失せてしまっている。
それでも家康の来訪に誰よりも先に気がつき、彼を誰よりも早く出迎えようと立ち上がる三成の姿を見て、先日の政宗の言葉を思い出した。
あいつらは絆ってやつで繋がってんだよ。
嬉しそうに、だが一抹の不安を言葉の端に乗せて。
そう呟いた政宗も、この頃は何か小十郎に隠し事をしているようで。閨の中でも風呂の中でも、二人きりになると何かを言おうとして、そして結局何も言わない。
慌てて移動しようとする三成に、外に出るのなら何か羽織って行けと声をかけながら、若者の成長と進み具合についていけなくなっている自分が少し悲しくなり。
小十郎は大きなため息をつきながら立ち上がった。
「み~つ~な~りぃぃぃぃぃ!!!!」
「寄るな、触るな、抱きつくな!! ついでにおかしな所を触るな!」
あれ以来、家康は積極的に三成に触れてくるようになった。
それと同時に三成に触れる人間にも厳しく当たるようになり、冗談交じりで肩を叩いてきたりする政宗は何度も家康の本気の怒りを浴びている。それをさらっと躱して平気な顔をしているのが政宗なのだが、横で青い顔をしている小十郎を見ると少し心苦しくなる。
愛おしい、お前が欲しい。
何度も囁かれる熱のこもった言葉は、三成の心をわずかに揺らす。
家康が豊臣にいた頃には決して口にされなかった、そして互いに必要ないと思っていたもの。 二人の間に憎しみと絶望すら横たわっていなければ、三成は自然と家康への思いを自覚していたのではないだろう。自然と心を寄せ合い、秀吉への忠誠以外に家康への思いを自らの中に育て、何の疑問もなく幸福を教授していただろうに。
家康という男は、結局はおろかなのだ。
おおらかで器の大きな男のくせに、自分のことについては何もわかっていない。自分の苦しみや痛みがわからないから、他人のために痛みを引き受け、簡単に他者を守ろうとする。
ただ一人への忠で心を満たした三成と、何も心に入れずに全てを引き受けようとした家康。こんな馬鹿二人がこの国の趨勢を決める戦いを引き起こしたのだ、よくあの程度の規模で戦いがおさまったものだ。
今になって三成はそんなことを思うが、この戦いがなければ家康はずっとあのままだっただろう。自らの心と体が悲鳴を上げているのにも気づかず、自滅への道をひた走っていたはずだ。
そう考えると、この戦は彼にとってはいい結果を引き起こしたのかもしれない。
「三成! 寒かったので暖めてくれ!」
「言う前から抱きついてるのはどこのどいつだ!」
「儂だ!」
「ところで貴様……私との約定はちゃんと守ったのだろうな!」
「それは大丈夫だ、明日の朝には届くはず。だからそれまで儂と絆を深め合おう!」
「断る!」
足が癒え、その後の最初の戦いは三成が勝利した。
家康の動きを見ると、三成が何を求めているかをはかるためにわざと負けたようではあったのだが、勝ちは勝ちだ。その勝利の結果三成が求めたのは、佐和山城に隠してある、とある物を持ってきて欲しい、それだけだった。
そんな小さな願いを賭の対象にしなくても、と家康は笑ったが。
己の力で取り戻すことに意義がある、そう三成は思っている。小さな物から少しずつでいい、自分が欲しいと思う物を全て取り戻した時初めて。
家康と対等に向かい合える気がするのだ。
抱きついて離れない家康から逃れようともがき、近づいてくる家康の顔を押しのけるために頬に拳をめり込ませる。
「三成、さすがにそれは痛いぞ」
「貴様の顔が迫ってくる事が気持ち悪………随分と冷たい顔だな」
「忠勝に全力でとばしてもらっているからな、風が強くて毎回難儀する」
「それは確かに寒いな」
めり込ませた拳は、家康の頬の冷たさに急速に熱を奪われつつある。
握っていた拳を開き、目の前にある家康の頬にそっと触れる。腰に回った家康の手をほどこうとしていた手も頬へと向け、両手でそっと包み込んでやると、ようやく氷のようだった頬に暖かみが戻ってきた。
「三成」
「なんだ?」
「お前の考えていることはいつもよくわからんのだが……」
「私は貴様の方がもっとわからん」
「儂は嬉しい、ありがとう」
頬に触れている手に、家康のそれが重ねられる。
「だがこれでは儂も三成も冷え切ってしまう。まずは中に入らぬか?」
「そう……だな」
家康の手も、想像以上に冷たかった。
だが三成の手に触れた部分はゆっくりと、だが確実に熱を取り戻し。逆に三成の手を温めてくれていた。
わずかに上にある家康の目は昔のように優しかったが。
松永の来訪以来、そこにどう名付けていいかわからない激しく熱い熱のような物が宿りだした気がするのは、三成の気のせいだろうか。
それが家康にとっていい兆候であればいいのだが。
敵である家康に対しそんな感情を抱く今の自分も相当おかしい、それをわかっていながらも、じわじわと胸を浸食していく家康への思いを振り切ることが出来ない三成ではあったが。
「体を密着させるな!」
必要以上に体を寄せてくる家康に対し、蹴りを入れることは忘れなかった。
______________________________________
小さな一歩は大きな一歩。
互いにこのまま美味く進んでくれることを祈ります……あまり戦国時代には詳しくないのだけど、私の中の史実の石田さんは内政の人、補給と輸送の達人、そんなイメージ。
「片倉……この収量、どうもおかしい」
「どれでございますか?」
「ここだ、近隣の集落と収量が違いすぎる。同じ土壌で同じ天候で、ここまで量に差がつくわけがない。昨年はほぼ同じ収量だったというのに、人の移動でもあったのか?」
「確かにこれは……よく気がつきましたな」
「見比べれば誰にでもわかることだ。それとこちらは? 年々収量が落ちてきている……川沿いだが治水ができていない可能性もあるな」
「そちらは政宗様が今日足を伸ばして様子を見てくるとのことでした、河川の工事は昨年終わっておりますが、何か不備があったかもしれませんので」
ぴしりと背を伸ばし、素早く書面に目を通し。
算盤をはじいては集落の人口に合う収量か、昨年と比べて大きく量が変わっていないかを確認する。その手際の良さのおかげで、小十郎の今年の仕事は大きく減ったわけだが。
仕事が早すぎて小十郎以外の人間がついていけないという大きな欠点もあった。
おまけに自分の仕事の速さが標準だと思っているので、他人の仕事の遅さが許容できない。自分より出来ない人間はよほどの愚者だと思っているのだろう、容赦のない罵り言葉に心が折られた部下が多数。
というわけで小十郎と三成の二人きりで仕事をしているわけだが。
「ここはあとで人をやって確認させましょう」
「さっさと動かせ。ため込んでいるだけならいいが、横流しをされると面倒だ」
「米の相場が読み切れなくなりますな……確かに」
「奥州は米所だと聞いていたが、確かにこれだけ採れれば暮らしも相当楽なのだろうな」
「そうであればいいのですが……近江はどうだったのでございますか?」
「ここよりは暖かかった、雪もここほどには降らなかったしな」
小十郎の言葉に佐和山城での暮らしを思い出したのか。
家康が絡まなければ表情が変わらない顔が、わずかに和んだ。誰だって故郷は恋しいものだ、ましてや自分が治めていた土地であれば懐かしさはかなりのものだろう。
指の間から紙の束が抜け、その目はそろそろ雪が降り出すとは思えないうららかな日差しへと向けられる。まるでその向こうに佐和山の城が見えているかのように、その目はしっかりと彼方を見つめていた。
「左近には城を抜け出すなとよく怒られていたが……農民どもの仕事を見た方がわかりやすいこともあった。時には刑部も顔を出して遠駆けがてら見回りをしたものだが」
「どこの御当主も同じ事をなさっているようで………大谷殿も馬に乗ったのですか」
「刑部は私の後ろだ」
あの大谷吉継を後ろに乗せて遠駆けをしている三成の姿が想像できず、小十郎は内心頭を抱えながら、だがこぼれる笑いを隠すことが出来なかった。
これが拾ってきた当時と同じ人間だろうか。
あの時同じ言葉を聞いても決して答えてくれなかっただろうし、もしかしたらこちらに斬りかかってきたかもしれなかったというのに。指から逃げた紙束を慌てて拾い直している三成の顔は穏やかとは言い難いが、そこには狂気も憎しみも存在してはいなかった。
その代わりに刻み込まれたのは、深い悲しみとわずかの安らぎだったが、それも家康が来訪すると瞬時に消え失せてしまう。家康と彼を会わせ続けることが彼らのためになるのか、それとも若い二人の未来を殺しているのか。その答えを小十郎はまだ出すことが出来なかった。
三成のためを思えば家康と引き離すのが一番いい、このまま伊達の客人として心静かに過ごしていけば三成の心の傷も徐々に癒えていくだろう。だが伊達家のことを考えれば、三成にはこのまま『人質』としてここに滞在していて欲しい。自分たちが拾ってきたのだから決める権利はこちらにあるとはいえ、彼にだって自分の処遇について何かを言う権利はあるはずだ。
その彼が家康と相対し続けることを望み、家康もそうしていきたいと願っている。
互いに傷つけあい、そしてこれからもぶつかり合いながら和解への道を探していくつもりなのだろうが。横で見ている方は、どちらかが精神的に壊れる可能性のある相対を止めたいと願っていた。
小十郎も政宗も。
そういえば自分と同じく三成の処遇について考えているはずの政宗だったが、先日の松永の来訪後よりその件についてあまり口にしなくなった。三成と何かを話して、政宗なりの結論を得たのだろう。
反抗期の弟を見守るやんちゃな兄のような眼差しで、日々三成を見守り続けている。
小十郎としてはすっかり政宗が大人になってしまって嬉しい反面かなり寂しかったりするのだが、成長する政宗に文句を言うわけにもいかなかった。
幼い頃から面倒を見てきた政宗も、散々手を焼かせてくれた三成も、いつかは小十郎の元を離れていく。
「………………おい、片倉」
「申し訳ございません、考え事をしておりました」
「考え事? 貴様も惚けることがあるのだな……夜毎励みすぎなのではないのか?」
「石田殿………どうしてあなたはそう耳年増の飯盛り女のような口を……」
内政の能力も高く、仕事も早く。
施政者としての高い能力を兼ね備えている三成だったが。
半兵衛の教育は絶対に間違っていた。
三成の生真面目で矛盾や疑問を許さない仕事ぶりは見事だと思うが、同じ能力を周囲に要求するのは間違っている。人にはそれぞれ得手不得手があるというのに、全てにおいて高い能力を求めるというのは違うだろうに。
「石田殿には人とのつきあい方を学んでいただかなければいけないようですな」
「私は十分人とつきあえている」
「人の夜の生活を詮索するのは、正しい人付き合いではございません」
きっぱりとそう言い切ると、三成の首がこちらが困惑するほどに大きく傾けられた。
「………そ、そうなのか?」
「当たり前です」
「半兵衛様はそれでいいと言っていたが」
「奥州ではそれは無礼に当たりますので、今後はお控えください」
「伊達は聞いたら答えてくれたが……」
「あの方は真の奥州人ではございませんっ!」
「真の欧州人がいるのか………」
何やってるんだ、あの人は。
自分の教育方針も、もしかしたら間違っていたのだろうか。純粋な眼差しで真の奥州人についての講釈を聞きたがっている三成から目をそらしつつ、なんとか話をそらそうとしていた小十郎だったが。
ふと表情を失い、上へと向けられ始めた三成の顔を見て、今日の仕事の終わりを知ることとなった。
「いらっしゃいましたか」
「ああ………家康め………」
憎々しげなのに、どこか嬉しげな声。
その頃には空気が揺れ、忠勝が迫ってくる気配が小十郎にもわかるようになっていたが、三成は誰よりも早くそれを感じ取る。
「性懲りもなく私にやられに来たか……早く降りて来い……」
その顔には歓喜と憎しみが刻み込まれており、先程までの安らぎはとっくに消え失せてしまっている。
それでも家康の来訪に誰よりも先に気がつき、彼を誰よりも早く出迎えようと立ち上がる三成の姿を見て、先日の政宗の言葉を思い出した。
あいつらは絆ってやつで繋がってんだよ。
嬉しそうに、だが一抹の不安を言葉の端に乗せて。
そう呟いた政宗も、この頃は何か小十郎に隠し事をしているようで。閨の中でも風呂の中でも、二人きりになると何かを言おうとして、そして結局何も言わない。
慌てて移動しようとする三成に、外に出るのなら何か羽織って行けと声をかけながら、若者の成長と進み具合についていけなくなっている自分が少し悲しくなり。
小十郎は大きなため息をつきながら立ち上がった。
「み~つ~な~りぃぃぃぃぃ!!!!」
「寄るな、触るな、抱きつくな!! ついでにおかしな所を触るな!」
あれ以来、家康は積極的に三成に触れてくるようになった。
それと同時に三成に触れる人間にも厳しく当たるようになり、冗談交じりで肩を叩いてきたりする政宗は何度も家康の本気の怒りを浴びている。それをさらっと躱して平気な顔をしているのが政宗なのだが、横で青い顔をしている小十郎を見ると少し心苦しくなる。
愛おしい、お前が欲しい。
何度も囁かれる熱のこもった言葉は、三成の心をわずかに揺らす。
家康が豊臣にいた頃には決して口にされなかった、そして互いに必要ないと思っていたもの。 二人の間に憎しみと絶望すら横たわっていなければ、三成は自然と家康への思いを自覚していたのではないだろう。自然と心を寄せ合い、秀吉への忠誠以外に家康への思いを自らの中に育て、何の疑問もなく幸福を教授していただろうに。
家康という男は、結局はおろかなのだ。
おおらかで器の大きな男のくせに、自分のことについては何もわかっていない。自分の苦しみや痛みがわからないから、他人のために痛みを引き受け、簡単に他者を守ろうとする。
ただ一人への忠で心を満たした三成と、何も心に入れずに全てを引き受けようとした家康。こんな馬鹿二人がこの国の趨勢を決める戦いを引き起こしたのだ、よくあの程度の規模で戦いがおさまったものだ。
今になって三成はそんなことを思うが、この戦いがなければ家康はずっとあのままだっただろう。自らの心と体が悲鳴を上げているのにも気づかず、自滅への道をひた走っていたはずだ。
そう考えると、この戦は彼にとってはいい結果を引き起こしたのかもしれない。
「三成! 寒かったので暖めてくれ!」
「言う前から抱きついてるのはどこのどいつだ!」
「儂だ!」
「ところで貴様……私との約定はちゃんと守ったのだろうな!」
「それは大丈夫だ、明日の朝には届くはず。だからそれまで儂と絆を深め合おう!」
「断る!」
足が癒え、その後の最初の戦いは三成が勝利した。
家康の動きを見ると、三成が何を求めているかをはかるためにわざと負けたようではあったのだが、勝ちは勝ちだ。その勝利の結果三成が求めたのは、佐和山城に隠してある、とある物を持ってきて欲しい、それだけだった。
そんな小さな願いを賭の対象にしなくても、と家康は笑ったが。
己の力で取り戻すことに意義がある、そう三成は思っている。小さな物から少しずつでいい、自分が欲しいと思う物を全て取り戻した時初めて。
家康と対等に向かい合える気がするのだ。
抱きついて離れない家康から逃れようともがき、近づいてくる家康の顔を押しのけるために頬に拳をめり込ませる。
「三成、さすがにそれは痛いぞ」
「貴様の顔が迫ってくる事が気持ち悪………随分と冷たい顔だな」
「忠勝に全力でとばしてもらっているからな、風が強くて毎回難儀する」
「それは確かに寒いな」
めり込ませた拳は、家康の頬の冷たさに急速に熱を奪われつつある。
握っていた拳を開き、目の前にある家康の頬にそっと触れる。腰に回った家康の手をほどこうとしていた手も頬へと向け、両手でそっと包み込んでやると、ようやく氷のようだった頬に暖かみが戻ってきた。
「三成」
「なんだ?」
「お前の考えていることはいつもよくわからんのだが……」
「私は貴様の方がもっとわからん」
「儂は嬉しい、ありがとう」
頬に触れている手に、家康のそれが重ねられる。
「だがこれでは儂も三成も冷え切ってしまう。まずは中に入らぬか?」
「そう……だな」
家康の手も、想像以上に冷たかった。
だが三成の手に触れた部分はゆっくりと、だが確実に熱を取り戻し。逆に三成の手を温めてくれていた。
わずかに上にある家康の目は昔のように優しかったが。
松永の来訪以来、そこにどう名付けていいかわからない激しく熱い熱のような物が宿りだした気がするのは、三成の気のせいだろうか。
それが家康にとっていい兆候であればいいのだが。
敵である家康に対しそんな感情を抱く今の自分も相当おかしい、それをわかっていながらも、じわじわと胸を浸食していく家康への思いを振り切ることが出来ない三成ではあったが。
「体を密着させるな!」
必要以上に体を寄せてくる家康に対し、蹴りを入れることは忘れなかった。
______________________________________
小さな一歩は大きな一歩。
互いにこのまま美味く進んでくれることを祈ります……あまり戦国時代には詳しくないのだけど、私の中の史実の石田さんは内政の人、補給と輸送の達人、そんなイメージ。
PR
色々説明
拍手現在豊臣家転生パロ中学生編入ってます
(現在2本 家三 チカナリです)
注意事項
・フリーリンクじゃないです、基本的にはリンクはお断りしています
・ひっそりこっそりが信条なので、黙々と
・捏造、not公式のこばなしが多いので、スルー推奨
ラキドでは幹部全員を溺愛しておりますが、ベルナルドとイヴァンは特に偏愛。ばさらは家三とか奥州の愉快な仲間達と毛長がメインです。うずみさんが現在官三とか官佐にずっぽりとはまり中。
基本は、愛想のかけらもない「ネット怖い~」の書き手が二人で色々書いている場所です。
書いている人
みっし
・生真面目で堅物でムキムキな男性と一見そうじゃなくても根は真面目極まり ないキャラをこよなく愛している、がんかたうるふの片割れ。編み物とお菓子作りが趣味という、第三者曰く可愛らしい一面を持つ反面、パニクると踊ったり、オロオロしだして周囲は見ていて楽しいらしい。荒ぶる舞は、職場の名物だったりする……らしい。
イヴァンちゃんと片倉さんとシズちゃんとスカイハイさんと陛下を思いっきり愛している。好きなアニメは銀魂と最近はFate/zero。型月ファンというよりは元から虚淵ファンでうずみさんからオススメされまくった末にようやっと手を付けて完読した。ライダー組おいしいです。エクシリアではダントツで陛下が好き。陛下が使用可能になる完全版があるなら複数買いしても構わないとのたまう日々。バサラの好きキャラは片倉さん一強だったはずなのに最近はアニキも熱い。かっちり着込むキャラがすきだったはずなのにいきなり露出度が高いキャラを好きになったのは何故か悩む日々。二次元の向かう愛と同じぐらい甥っ子への愛を叫んでいる気がしてならない。
@3missiy3をフォロー
うずみ
・相方を愛しすぎている変な人。趣味は畑仕事に漬け物作り、好きな物は不幸属性の美人(男女問わず)。ばさらでは石田さんと黒田さんをこよなく愛していたり、赤い子めんこいにゃぁとたまに叫んでいる。ついったのフォローは下 のアイコンから。
@uzumi1250をフォロー
ばさら垢できました
こんな二人で、ここを更新しております。
ツイッターは基本鍵をかけていますが、フォロー申請してくださったらフォローさせていただきます。
カテゴリー
カウンター