がんかたうるふ ウタカタ(腐向け・毛長・松姫) 忍者ブログ
こちらはサークル「がんかたうるふ」のうずみとみっしの二人組が、ラッキードッグ1とばさらのこばなしを黙々と投下する場所です。
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瀬戸鬱書いてみたい瀬戸鬱、と原稿も落ち着いたのでごろごろ転がったので書いてみた産物。毛利は絶対にアニキを手離さなさそうだけど、もし自分自身の感情を持て余して、手放してしまったら、そして元親もそれに抗わなかったら?というお話。毛利が逃げずに、アニキも追っかけたらいつもの毛長になります。多分
。○二人の幼少期を捏造していますのでご注意を。子アニキが女の子のように扱われているのが嫌、という方はリターンをお願いします。そして出張るよ松永さん。正直愉悦神父並みに愉悦愉悦言ってても違和感の無い松永さんが好きです。正直言ってそんなに鬱じゃないかもしれない。詐欺でしょうか。
それ以前に前作とのテンション差が酷いよ。
○タイトルは同名曲から拝借です。



 *****



 約束をした。
 それは決して叶わないと知っている、儚いものだった。



『松寿丸さま』

 そう言っては自分の後を着いて歩いていた幼い子供。銀の髪と、青い瞳を持つ、四国の子供。戦が嫌いで、書物を好んで読んでいた。毛色の違う、優しい子供。
 自分が無いものを、無くしてしまったものを大事に抱え込んでいるその子供が嫌いじゃなかったと言ったら嘘になる。松寿丸は全て、手放さなければならなかったものばかりだから。だから、最初は手ひどい悪戯もしたし、酷いことも言った。でも、その度にぴーぴー泣いたけど、泣いても子供はどこまでも着いてきた。何故、そうまでされても着いてくるのかと問うた所、泣きじゃくりながら子供は言った。

『だって、松寿丸さまのほうが、泣きそうです…』

 わんわん大泣きする子供に言われても説得力は無いと、正直思ったが、驚いたのも事実だった。ずっと、隠していたそれを、何故このような子供に気付かれてしまったのだろう。それが悔しくて悔しくて、取っ組み合いの喧嘩になった。だけれどもお付きの者に見つかったときには憮然とする自分とわんわん泣く子供が喧嘩した姿そのままに、だけれどもしっかりと抱き合っていたものだから大人達は首を傾げたという。

 姫若子と揶揄していた子供を、親しみと愛情を込めて姫と呼ぶようになったのは、その頃からだっただろうか。いつの頃だったのかは、もう覚えてはいない。

『松寿丸さま』
『姫』

 互いの名をそう呼び合ったのも、手を取り合ったのも、全ては遠い、昔の話だ。



 自分の中に潜む、得体の知れない感情を恐れるようになったのは、安芸を守るためには己の心を殺さねばならないと思うようになったのはいつだっただろうか。
 怖かった。ただ怖かった。抑えようと思うほどに心と体は相反していく。自分が、得体の知れない生き物になっていくようで、恐ろしさすら感じた。そんな時でも、彼は己の側にいた。

「毛利?」
 気がつくと右目だけの青い瞳が自分を覗き込んでいた。
「なーんか小難しい顔してんぞ?大丈夫か、あんた。」
「…問題ない。」
 厳島で一人思索していたところ、舟で乗り付けてやってきたのは四国の長曾我部元親だった。
 姫と呼ばれた子供は、かつて軟弱と揶揄されたのが嘘のように立派な青年へと成長した。それは側で見ていた自分が呆れるぐらいに急激な変わりようだった。人見知りで、泣き虫で、自分の背の後ろに隠れていた子供は、もういない。初陣での見事な戦いぶりから鬼若子と呼ばれ、西海の鬼を自称するようになった彼に、昔の面影はあまりない。
 彼を姫と呼ばなくなったのはその頃からだっただろうか。鬼若子とも呼ばれるようになった少年に、姫の名は相応しくない、とそう言ったのかも知れない。その代わりに姫も自分を松寿丸様とは呼ばなくなった。双方共に世話役だった人間は既に現役を退いており、二人が幼少からの顔見知りであるという事を知る人間は少なくなっていた。
「そんな小難しい顔ばっかりしてると老けるぞー?」
「放っておけ。」
 この男は変わった。だけれども、その気安さだけは昔とあまり変わらなかったかも知れない。近しい者が皆離れていく中で、どうしてこの男だけが己の側から離れないのか、不思議で仕方がなかった。口にしたことは、一度もないけれど。
 
「なぁ、あんた最近本当に調子悪くねぇ?大丈夫か?」
 そう言い、近づきながら案じるように元親の手が元就の顔に触れようとする。本人にとっては子供のころと同じで、深い意図など無いに違いない。
 だけれどもそれは、少なくとも、今の元就にとっては感情の振れ幅を生むと言う意味では、最もして欲しく無い行為だった。
「…っ…!」
 元就は思わず、元親の手を振り払っていた。
 茫然とした様子の元親が元就を見やる。何故、拒否されたのかが分からないと言う感情がそのまま顔に書いてあった。
「もと…なり?」
「…気安く我に、触れるでないわ。」
 怪訝そうな、でもどこか案じる様なその声音に気がつきつつも、優しい言葉をかけてやる余裕など今の元就になかった。

 何も知らなかった、子供のころに戻りたいとさえ、思ってしまった。気付いていなかったあの頃ならば、その関わりを喜んで受け入れただろう。だけれども、今はもう無理だ。
 自分はもうあの頃の松寿丸ではない。そして元親も、あの頃の姫ではない。鬼若子と呼ばれるに至った青年を姫と呼ぶのはむしろ失礼だろう。そう思い、無言のままでいた元就をどう判断したのかは分からない。気付けば俯いていた元親が拳を握りしめたかと思うと、元就に向かって顔を上げた。
「そう、か…悪かったな。邪魔して。」
 激昂するのかと思いきや、どこか不安げな笑みを浮かべて元親は笑った。その表情は、子供のころに見た、泣きそうな顔と良く似ていた。
「でも、気をつけろよ。あんた本当に子供のころから体調悪ぃのに無茶したりするからよぉ。」
 こんな時だと言うのに、自分も泣きそうだと言うのに、それでも人を案ずる。

 そんなところが昔から、嫌いだった。
 自分と姫の違いを見せつけられたようで、壁を感じるばかりで、自分の矮小さを痛感するようで嫌だった。


 思えばその時に無意識のうちに決めていたのかもしれない。ここまで己の感情を乱すただ一つの要因である姫を、元親を、排除しなくてはならない、と。
 全ては安芸の平定の為、その為には公私の私を捨てなければならない。大義の為ならば、己の心を捨て去ることぐらい容易いはずだった。
 弱さはいらない。求めるのは、己の心の強さのみ。 だから、元就は全てを捨てる決意をした。



 元親は、それでも尚、元就の元を訪れた。
安芸の領海だというのも大した気にする様子は無く、元就がどんなに辛辣に責め立ててもいつも、朗らかに笑っていた。それが尚、気に入らなかった。
 どうして、そんな風に笑えるのか。どうして、笑っていられるのか。それを気にする自分自身も嫌で、自分の中に巣くう不可解な感情がわからなくて、だから早く捨てたかった。



 その数年後、元就は豊臣軍の大谷吉継と加担する形で、四国の壊滅に深く関わることになる。
 徳川軍の仕業に見せかけたそれは、元親が家康への憎悪を滾らせて、剣を向けることこそが狙いだった。長曾我部が徳川に加担するのは毛利にとっても豊臣にとっても望ましくない事だった。
 だから、壊した。
 それを契機に起こった数々の争いの果てに、勝者となったのは徳川だった。結局豊臣は、西軍は、負けたのだ。
 そうして、長曾我部元親が行方不明になったと聞いたのも、丁度その頃だった。その頃にはもう、何も感じなくなっていた。これでやっと、長年望んでいた自分になれる、とそう思っていた。
安芸は何も失っていない。安芸の平和は守られた。
だけれどもこれこそが、元就の願いだったはずなのに、どうしてだろう。
 それを嬉しいと思う事もなくなっていた。



 それから更に数年の後、元就は書状により今や日本を治める立場になった家康に呼び出され、彼の元を訪れていた。家康は今なお多くの城や屋敷を所有している。そのうちのひとつの屋敷に呼び出された。

「…来てくれたか、毛利殿。」
 招かれた屋敷の一室で、既にそこにいたのはいつになく神妙な顔をした徳川家康だった。隣には以前と変わらぬ巨体の本田忠勝が控えている。変わらない、ように見えた。少なくとも、表向きは。
 促されるままに家康の真向かいに座した元就は開口一番に言った。
「…書状でも伝えられぬほどの重大な事とはなんだ。手短に答えよ。」
 どうしても直接会って伝えたいことがある、と記されたそれにどうにも嫌なものを感じ、わざわざ安芸から出てきたのだ。家康はそんな元就を見て、言葉を濁したが、やがて意を決したようにその場から立ち上がった。
「…直接見てもらった方がいいか…。」
 どこか悲壮な感情を含んだ表情のまま、家康は一言「付いてきてほしい」とだけ言った。

 屋敷の中は、とても静かだった。人の声も、気配もあまりしない。前を歩く家康の背を追いながら歩いていると、ふと屋敷の庭が目に入る。

 それは、かつて幼少期を過ごしたあの屋敷の庭と、良く似ている気がした。

 家康がやってきたのは屋敷の中の、奥まった一室だった。
「入るぞ。」
 そう、一言断ってから襖を開けると、足を踏み入れる。毛利もそれに続いた。

 部屋の中は全て閉じ切られていて少々薄暗かった。だが家康は慣れた様子で歩くと室内のある箇所で突然しゃがみこんだ。
「客人がきたぞ。…わかるか…?」
 そこでようやく毛利は、遠目には動かない塊に見えた存在が床に座ったままの人間であることに思い至ったのだ。



 長い長い、髪。顔面の左半分を覆うような包帯が痛々しい。そしてどこか浮世離れした笑みを浮かべる女物の羽織を着た青年は、家康と、その後ろに立つ元就をじっと見たかと思うと首をゆっくりと横に振った。
「…ちがう。ちがう、ねぇ。」
 それは、誰かにというよりも自分に言い聞かせるような言葉だった。そうして手に抱いていた人形をゆっくりと抱きしめる。
「…こないね…?」
 
 その顔には見覚えがあった。
 銀色の髪、青い瞳。
 特徴的なその色合い。
 幼心にとても奇麗だと思った。 
 たった一人、唯一無二の存在。

「長曾我、部…?」
 行方がわからなくなり、死んだ筈だと思っていた青年と良く似た存在を見て思わず呟きが漏れる。
 これは、誰だ。まさか、まさか…。
「…いつになったら、きてくれるのかなぁ…しょうじゅまるさま。」
 誰に言うとでも無く呟かれたそれを、元就は茫然とした思いで聞いていた。しょうじゅまるさま、と彼は言った。松寿丸、それはかつての自分の名だ。そして、松寿丸様と呼んで後を付いてきていた子供は一人しかいない。
 泣き虫で、優しくて、だけれども強かった子供。己が姫と呼んでいた長曾我部元親だ。
 彼は、目の前の青年は、本当にあの元親なのだろうか。だがどう見ても今の彼は正気を保っている様には見えない。少なくとも、記憶にある彼は、幼少の頃を除き、人形遊びを好む人間ではなかった。

 頭の中で渦巻く言葉が零れそうになったその時、家康の声が聞こえた。
「…西海の鬼が、見る影もないだろう?」
 西海の鬼、と悲しげな声音で家康は確かにそう言った。
「なん…だと…?」
 やはり、これは、目の前の青年は長曾我部元親だというのか。一体何故、どうして。毛利の疑問をくみ取ったかのように家康はゆっくりと頷いた。
「ワシが見つけた時は…既にあのようになっていたんだ。」
 そうして元親に視線を合わせてしゃがみ込んでいた家康が、訥々と語り始めた。



 あの戦いの後から、元就と同じく家康も元親と会う事は無かった。
 ただ元就と違ったのは、家康が仲違いをしてしまった友をずっと探し続けていた事だった。だが懸命な捜索にも関わらず、あの最後の戦いからの元親の消息は一向にわからないままだった。
 それから数年の後、家康の元にある書状が届く。
 差出人の名前は、松永久秀。家康自身が抱える歪みを指摘した男。生きているのか、死んでいるかすら定かではなかったため、突然の書状に家康は驚愕した。そうして中の文には、こう書かれていた。

『おかしな鬼に会いたければ来るがいい』

 ただ、それだけが書かれていた。
 鬼と称される存在など、家康はかつての友であり、自分が探し続ける元親しか思い浮かばなかった。罠かもしれない、だけれども元親の手掛かりになるかもしれない。
 そう考えた家康は忠勝と共に指定された地に向かった。そこにあった屋敷の中で出会ったのが、彼だった。
 人形を抱き、女物の羽織を身に着けていても、かつての覇気は無くなっていても、それが元親だと、わかった。分かってしまった。
 家康は、必死に元親に呼びかけた。だが、友へ向けた言葉に対して、返事は返ってこなかった。
 虚ろな目は、既に現実を見ていなかった。

 そう話していた刹那、その時の事を思い出したのか家康の表情に苦渋が滲む。己の無力さを疎む、そんな感情が見え隠れしていているように元就には見えた。
「…何を言っても何を聞いても答えは返ってこない。ただ何度も何度も言うんだ。『しょうじゅまるさまはどこ』とな。」

 元親の側には確かに松永がいた。以前と変わらず、愉しそうに、人が足掻くさまが楽しくて楽しくて仕方が無いと言うように笑っていた。己の歪みを指摘した松永は家康にとって、確かに苦手な存在だった。だが、だからといって良いように弄ばれたようにしか見えない友を前にし、何も言わないまま引き下がることも出来なかった。だが激昂した家康に対して松永は言ったのだという。
「『望んだのは、鬼自身だ。私はそれを手助けしたに過ぎない』と…確かにそう言ったんだ。」
 鬼の絶望は君の絶望、そして彼の絶望。どっちにしろ私を楽しませてくれそうだ、そう笑って言う松永が何を言っているのか家康には理解出来なかった。
『元親が…これを。この状況を望んだだと?…そんな戯れ言を言うな!』
『おやおや…随分と乱暴だ。』
 家康の怒りなど意にも介さぬ様子で松永は笑う、わらう、嗤う。だがその笑い声が突然止んだかと思うと、じぃっと家康を見つめて言った。
『ならば、君は彼の何を知っていた?』
 その声は、確かな憐れみを含んでいた。

「ワシは…そう言われて、何も答えられなかった。元親は、いつも強くて、優しかった。…だけれど、自分の弱さをさらけ出す事はあまりなくて…でも、ひょっとすると、ずっと悩んでたんじゃないか、ってそう思ったんだ…。」
「………そう、か。」
 家康の言葉を、毛利はただ黙って聞いていた。
 元親が側にいたのは、もう随分と前のことのように感じる。徳川への憎悪を滾らせる彼はまさに鬼と称されても仕方のない雰囲気を讃えていた。
 だけれども、どうしてだろう。その一方で、笑う彼の顔しか浮かばない。
 泣いている顔を最後に見たのは、いつのことだっただろうか。いつも人を案じる彼の、彼自身の気持ちを尋ねたことはあっただろうか。
 自分は彼の、何を見ていたのだろうか。
 今になって元就は、かつて感情の振れ幅を感じたときとは異なる恐怖を感じる。自分は、取り返しのない事をしてしまったのではないか、と。

「…それから松永は、どこへ行くとも言わずに、ふと姿を消したんだ。」
 すぐ側で起こった火薬の爆発に気を取られている内に松永は消えた。ひょっとすると、それも全て、彼の計算だったのかもしれない。残されたのは、家康と、忠勝と、何の感情の発露すらも出来無くなった元親だけだった。
 元親が、行方不明になってから、あの日家康の眼前に現れるまでどうやって生きていたのか家康には分からない。ただ、わかるのは、それに松永が深く関わっていたこと。かつての人間性をほとんど失うぐらい辛い目に遭ったと言うこと。
 そして何より昔に戻りたがっていることだけだった。
「それからワシと忠勝は、元親をこの屋敷まで運んだ。…それから、少しずつ、言葉を返してくれるようにはなった。笑うようにもなった…だけど、それ以外はそのままなんだ。」
 今の元親に一番必要なのは心身の休息だろう。だけれども、ひょっとしたら昔の知り合いと会うことでなんらかの、良い影響を受けてくれたら、そう思って家康は毛利に書状を送ったのだ。
「独眼竜や右目殿にも送ろうかとは思ったのだが…刺激を与えすぎてもよくはないでしょうと忠勝にも言われたので、まだ伝えてはいない。」
 知らせたのは、元親が古い付き合いがあると話していた毛利殿だけだ。家康は、そう言った。
 自分の事を話されているのが分かっているのか分からないのか、人形を抱いた元親は楽しそうに笑っていた。元就は、しゃがみ込み、怪訝な顔をする元親に目線を合わせて問いかける。

「そなた。名は…なんという?」
 一瞬きょとんとした様子を見せるが、質問の意図がわかったのか、ふわりとまるで花が咲いたような笑顔を見せて元親が、笑う。
「ひめ、だよ。しょうじゅまるさまは、そういうよ。」
 しょうじゅまるさま、どこにいるのかなぁ。そう呟く無邪気な声音に言いたかった、伝えたかった。お前の言う松寿丸は、目の前にいる男なのだと。叫びたかった。だけど、言えなかった。言ったところで信じてはもらえないのは、認識してもらえないのはわかりきっていた。心が子供に還ってしまっている元親には、あの頃と同じ姿形の松寿丸でなければ、本人とは認識出来ないだろう。
「…そうか。ではその、松寿丸とやらは…姫にとって何なのだ?」
 毛利の問いかけに、元親、いや姫はまた笑う。怖いぐらいに綺麗だった。だけど、同時に怖さも感じた。松寿丸という名を認識した途端、姫は、先ほどまでのおぼつかないことばとは裏腹に、やけに流暢なことばで話し始めた。
「…しょうじゅまるさまは、ひめのだいすきなかた。とってもつよくて、とてもよわいかた。だけど、いつもひめをまもってくれた。だから、やくそくしたの。ずっとひめをまもってくれたから、こんどからはひめがしょうじゅまるさまをおまもりしますって、やくそくしたの」
 そう言ってまた、笑う。綺麗でだけどどこか虚ろな微笑み。でもその直後に、その笑顔が消え失せる。しゅんとしぼんだような様子に元就は慌てるが、姫は腕の人形を一層強く抱くとぽつりと呟いた。
「…でも、いなくなっちゃった。ひめが、ひめじゃなくなっちゃったから、いなくなっちゃった。ひめがいたら、しょうじゅまるさまはいやなの。しょうじゅまるさまがいやなのがいや。…でも、いっしょにいたかったの。」
   


 元就の脳裏に唐突に浮かんだのは、幼い頃の光景だった。あれは屋敷の庭だっただろうか。幼い自分と、その隣で鈴を鳴らすように笑う、姫。
 そうだ、大きくなったら何をしたいのかと自分が聞いた。そうして言った。『こんどはひめがおまもりします!』と。泣き虫の姫になにが出来るのか、確かからかい半分でそう言った。『…じゃあ泣きません。大きくなったら、ぜーったいに泣きません!だから、松寿丸様をお助けします!』そう言っている時点で怒って涙目になっていることを指摘したら怒って叩いてきた。それがあまりにおかしくて、だから自分も言ったのだ。『ならば、姫が困っているときは、我が必ず助けに行こう。』それを姫は、元親は、どんな表情で答えていただろうか。笑っていたかも知れない。困ったような顔をしていたかも知れない。ひょっとしたら怒っていたかもしれない。いずれにしろ、もう思い出すことは出来ないのだけれど。



 思えばそれは、叶うはずのない約束だった。属する国も、守るべきものも、そして見るべきものも異なる。
 だけど、それでも元親は守ろうとした。自分を守るのだと、子供の頃の他愛もない約束を、大人になってもなお、守り続けていた。泣かないのではない。約束だったから、彼はずっと泣かなかったのだ。涙を殺して、本心を殺して、元就との約束を守り続けていた彼を、自分は、どうした?
 姫と呼ばれていた彼が、自分の手の届く範囲にいたはずの彼が、自分の手から離れていくのが悔しくて、悲しかった。だけれども、それを止める権利はない。その根底にあるのは、酷く子供じみた嫉妬だった。そんな感情を抱く自分が恐ろしくて、嫌いで、だから全てに蓋をして閉じ込めて、自分自身から切り離した。
 それが、どんなに大切なものだったのか、気づきもせずに。

「…こまってたらたすけてくれるっていってた。いたくてこわくてくるしくて、よんだけど、きてくれなかった。」
 元親の独白は続く。酷い顔色である毛利を案じるように家康が声を掛けようとするが、それを手で制する。今は、聞かなければならない。元親と正面から向き合うことが、元就の罪の証だった。
「…でも、まってたら、きてくれる。だって、やくそくしたから。」
 だから、きてくれるのを、まってる。
 そう言ってまた、元親は笑う。柔らかなはずのその微笑みがとても悲しいもののように見えた。



「……っ……!」
 堪えきれずに、思わずその体を抱きしめていた。骨張って自分よりもガッシリした体格であったそれは、とても細くなっていた。
「………?」
 抱きしめられた元親は、訳が分からないだろうに、混乱することもなく、ただただそれを受け入れていた。最早抵抗する気力も、無いだけかも知れない。
「…すまな、かった。」
 それだけ呟くのが、やっとだった。今の元親にとっては何の謝罪かもわからないだろう。恐らくはこの光景を見ている家康とて、理解出来ないに違いない。
「…なんで…?」
 その一言だけ呟いたかと思うと「…へんなの」そう言って無邪気に笑い出す。
 綺麗でかなしい腕の中の鬼を思うと、自然と目から、涙が溢れた。


 
 今であれば、叶わないと知っていても、約束をしたあの頃に戻れたら、どんなによかっただろう。

 自分の腕の中で無邪気に、そして虚ろに笑う元親は、きっと永遠に元には戻らないだろう。幼い頃の楽しかった思い出の中で、大好きだった松寿丸を待ち続ける。そこに、今の元就が入る余地など無い。
 
 心を壊さなければ、きっと生きてはいられなかった。それだけの苦痛と絶望の中にいたのだから。元親を責められる訳がない。元凶たる松永を恨まない気持ちが無い訳では無い。だが、元親が壊れた原因の根底にあるのは毛利自身の臆病さからだった。

 あの時、己の感情を恐れずに逃げなければ、姫を元親を選んでいたら、こんなことにはならなかったはずだ。

 全てはもう、手遅れなのだけれど、そう思わずにはいられなかった。



 愛していた。
 あの頃は自覚すらしていない幼い思いだったけれども、今なお抱くこれは、間違いなく愛だった。
 
 もう戻れない。
 
 二人でいた箱庭には、永遠に戻れない。














○鬱なのかともかく、ぶっ壊れたアニキが一回は書いてみたかった。
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色々説明






拍手現在豊臣家転生パロ中学生編入ってます
(現在2本 家三 チカナリです)


注意事項
・フリーリンクじゃないです、基本的にはリンクはお断りしています
・ひっそりこっそりが信条なので、黙々と
・捏造、not公式のこばなしが多いので、スルー推奨


ラキドでは幹部全員を溺愛しておりますが、ベルナルドとイヴァンは特に偏愛。ばさらは家三とか奥州の愉快な仲間達と毛長がメインです。うずみさんが現在官三とか官佐にずっぽりとはまり中。
基本は、愛想のかけらもない「ネット怖い~」の書き手が二人で色々書いている場所です。


書いている人


みっし

・生真面目で堅物でムキムキな男性と一見そうじゃなくても根は真面目極まり ないキャラをこよなく愛している、がんかたうるふの片割れ。編み物とお菓子作りが趣味という、第三者曰く可愛らしい一面を持つ反面、パニクると踊ったり、オロオロしだして周囲は見ていて楽しいらしい。荒ぶる舞は、職場の名物だったりする……らしい。
イヴァンちゃんと片倉さんとシズちゃんとスカイハイさんと陛下を思いっきり愛している。好きなアニメは銀魂と最近はFate/zero。型月ファンというよりは元から虚淵ファンでうずみさんからオススメされまくった末にようやっと手を付けて完読した。ライダー組おいしいです。エクシリアではダントツで陛下が好き。陛下が使用可能になる完全版があるなら複数買いしても構わないとのたまう日々。バサラの好きキャラは片倉さん一強だったはずなのに最近はアニキも熱い。かっちり着込むキャラがすきだったはずなのにいきなり露出度が高いキャラを好きになったのは何故か悩む日々。二次元の向かう愛と同じぐらい甥っ子への愛を叫んでいる気がしてならない。



うずみ
・相方を愛しすぎている変な人。趣味は畑仕事に漬け物作り、好きな物は不幸属性の美人(男女問わず)。ばさらでは石田さんと黒田さんをこよなく愛していたり、赤い子めんこいにゃぁとたまに叫んでいる。

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ばさら垢できました
こんな二人で、ここを更新しております。

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