こちらはサークル「がんかたうるふ」のうずみとみっしの二人組が、ラッキードッグ1とばさらのこばなしを黙々と投下する場所です。
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高校生毛利+ロボット元親+ロボット鶴姫による愉快な瀬戸内一家の話。
『あなたに愛を、贈ります』の続きのようなもの。CP色は薄いのですが、書いてる人は毛長だといいなと思っている話。今回アニキの出番が少ないです。珍しく毛利さんが振り回されている感じ。
書いた人:みっしー
『あなたに愛を、贈ります』の続きのようなもの。CP色は薄いのですが、書いてる人は毛長だといいなと思っている話。今回アニキの出番が少ないです。珍しく毛利さんが振り回されている感じ。
書いた人:みっしー
*****
その日は朝から変だった。
元就がいつもと同じ時間に目を覚ますと、それと時を同じくして隣の部屋からドタバタと激しい物音が聞こえてきた。またあの二人が何かやったのだろうかと憂鬱に思いながら、布団から起き上がった元就は、不機嫌さを隠しもせず寝起きの姿そのままで隣の部屋の前に赴く。自室の隣にあった空き部屋は鶴姫と元親の二人に好きに使わせていたが、破壊しても良いとまでは言っていない。今なお重い何かを引き摺るような音に恐れ半分、怒り半分の感情を抱きながら、そのまま元就はドアを開け放った。
「朝っぱらからうるさいぞ、貴様ら!」
ドアの音と元就が発した声で気がついたのか、なにやら訳のわからない大きな箱を引き摺っていたパジャマ姿の鶴姫がくるっと後ろを向く。そうして元就の方を見て頭を下げた。
「ピーピーもうりさんおはようございます」
未来における幼児型ロボットの最新機種であり、よく言えば礼儀正しい、悪く言えば機械的なその挨拶は既に見慣れたものになっていた。
「…うむ。…鶴姫、これは一体どういうことだ」
毛利の問いの意図が分からないのか鶴姫は「ピーピー…これとは?」と言いながら首を傾げた。どうやら質問の意図するところが全くわからないようだ。
製造年数からさして日がない彼女は、未来における最新機種といえども人間との関わりという意味ではスキルが無いに等しい。故に、人間の感情の機微には酷く疎い。いつ、どこで、なにが、どうした、ということを明確にした質問で無ければ彼女は答えられない。改めてそれに気がついた毛利は質問を変えることにした。
「…どうしてお前は朝から部屋でとても大きな音を立てていたのか説明しろ。」
そこまで言われてようやく毛利の言いたい事が理解出来たのか鶴姫は大きな目をぱちりと瞬かせると掌を一度だけ叩いていった。
「ピーピーおにいちゃんがたいへんだからです!」
今現在の元就の側には、自分を守るために遠い親戚の手によって未来から送られてきた二体のロボットがいる。(アンドロイドとも言うらしいが、元就には興味がないのでわからない。)
一体は元就の目の前で「ピーピーこまりました」と機械的な言葉ながらも本当に困っているように見える、この幼女型もとい幼児型ロボットの鶴姫である。彼女はあくまでもう一体のサポート用として送られた存在であり、彼女自身の能力も未知数な面が多々見られている。
そしてもう一体はお手伝いから何から、何でも行う本来の護衛役ロボット。その名を元親という。先の鶴姫とは制作者(元就の遠い親戚の子孫)が同じと言うことでロボットでありながら兄妹という複雑な関係にある彼は、鶴姫とは対照的に稼働年数が非常に長く、そこから得た学習能力は非常に高かった。恐らく、大体の人間は彼と会ってもロボットだとは気がつかないだろう。その彼は、さして広くない部屋の真ん中で夜間のスリープモードに入る際に愛用している布団に横になったままだった。
一番最初に彼らに会った日に、ロボットに睡眠が必要なのかと質問したところ、「情報の処理と再構成には短時間でもスリープモードに入る事が必要不可欠」と。日頃とはかけ離れた硬い口調で返答されたので恐らくは大事なことなのだろうとは思っていたのだが…。
「元親が大変とはどういうことだ?」
未だに横になったままの元親を目の端で捉えつつ、元就は不機嫌そのままの様子で鶴姫に問う。
そして同時に気がつく。朝は大体元就よりも先に起きて朝の支度をロボットらしからぬ手際の良さで行っていた彼が、今日はまだ寝ている。思い返すとこの家で共に暮らすようになってから初めての事だったのかも知れない。
鶴姫は少々ぎこちない動きで首を動かすと、元就をとても困った目で見て言う。
「ピーピーおにいちゃん、うごかないです。」
それはまごう事なき一大事だった。
元就は近づいて見たが傍目には元親はいつもと変わらぬ様に見えた。変わらぬ顔、変わらぬ姿、変な字が書いてあるTシャツ。(今日のは悪左府だ。どこで買ったんだ。)ただ、ずっとその目だけは閉じられていた。鶴姫以上に人間らしく見える元親の目は、左目だけが赤い。センサーの役目も兼ねているというそれは普段言ったことはないが、綺麗だと思っていた。
だが、今はそれは関係ないことである。まず手始めに最近のお気に入りである元親の頬を思いきり引っ張ってみる。皮膚素材のできが何なのかはわからないが異常なまでのさわり心地のよさのために、ひそかにこれをするのが元就の日課であった。日頃であればすぐに抵抗するはずのそれをしても起きない。縦にも横にも引っ張ってみるが、起きない。素材は心地よいが、反応がなさ過ぎてつまらない。そうしているうちに、単純に未だに起きない元親に腹を立てた元就は思いっきり元親の腹めがけて蹴っ飛ばした。
「…おい起きぬか。このポンコツめが…!」
元就なりの本気だったのだが、うんともすんともいわないばかりかぴくりとも動かない。その光景を見ながら先ほど引っ張り出していた箱を開きながら鶴姫が言う。
「ピーピー…たぶんむりです。」
元就が足蹴にしてもなお、横になったままの元親は目を開けない。即ち、起動しないのだ。
こんな彼は見たことが無い。一体、どうしたというのだろう。
「おんせいしょうにん。Hime0001。MCK0001のきんきゅうメンテナンスのため、きどうします。」
元就と、動かない元親の傍らで、鶴姫は先ほど押入から引っ張りだしたらしい、なにやら見た事のない機械を操作し始めた。すると何も無かった空間から突然モニターが複数、浮き出たかと思うと鶴姫の眼前にキーボードが出現する。
その一方で鶴姫はで元親の隣に移動すると横向きになった元親の首元に触ると、彼に刻まれた製造番号を探り当てる。銀色のプレートが埋め込まれたそこは、人間に限りなく近い彼が、人間ではないのだと判断出来る証明でもあった。そして鶴姫がその部分に触れたかと思うと、プレートの周辺の部品が淡く輝きだし、プレートの裏、即ち機械としての内部が僅かにその姿を覗かせる。鶴姫は手慣れた様子で機械からのコードをカチリと音が鳴るまではめると次は機械の操作に戻る。その間も元親はぴくりともうごかなかった。
そうして鶴姫は自身の接続するやいなや、モニターは慌ただしく映像を、情報を映し出す。『MCK0001』と表示されたそれは、ロボットとしての元親の情報を画面は的確に表示し続ける。
「…ピーピー…どうりょくろにいじょうはありません。きおくりょういきもどうよう…くどうけいもいじょうなし。…いったいどういうことなんでしょうか」
人間であればあり得ない速度でキーボードを操作する
元就には分からない画面の表示だが『ALLGREEN』と表示されていることは理解出来る。それは即ち異常はないことを意味していた。
「まだわからんのか?」
「ピーピー…まってください…あれ?」
恐ろしいまでの早さでキーボードを叩いていた鶴姫の手がふと止まる。
「なにかわかったか?」
「…ピーピー…いえ、げんいんではないのですが、このすうちがきょくたんにあがっています。」
鶴姫が指さしたのは「DREAMING」という項目だった。
「ドリーミング…?なんだこれは。」
ロボットにドリーミングとは不釣り合いなことこの上ない。毛利は思わず首を傾げる。鶴姫が言葉を発想とした瞬間の事だった。
『それは我が説明する。』
酷く自分と似た声が聞こえてくるのを毛利は感じた。
ふとモニターの一つをよく見ると、元就自身ととてもよく似た存在が映し出されていた。違いは、やけに着古した白衣を着用し、眼鏡をかけていることぐらいだろうか。
「ぴーぴー!はかせ!」
「…博士だと!?」
鶴姫の言葉と、毛利の驚きに気を良くしたのか、元就と同じ顔をした男はにぃっと口元を猫の様に歪めて笑った。
『そうだ。我こそが人間型ロボット、通称アンドロイドの生みの親にしてタイムマシン開発に深く携わり、そこにいる鶴姫と元親を生み出した張本人よ。』
はじめましてであるな?ご先祖様。
にやりと浮かべられた笑みを見た元就は、いくら遠縁だかなんだかわからないが決して好きにはなれない存在が世の中にはいるとは本当なのだな、と思った。
なんというか第一印象が最悪であり、どう考えても仲良くできる気がしないのだ。
そんな元就の機嫌の機微を感じたのかはわからないが鶴姫はモニターの向こうの元就に助けを求める。
「ピーピー!はかせ!おにいちゃんがたいへんです!」
ロボットらしからぬ困り顔で、かつ大慌てで現状を伝えようとする鶴姫を『ああ』と一言だけ返答する。
『元親がスリープモードから目覚めないのだろう。』
酷く落ち着いたその態度が、やけに元就の中で引っかかった。ひょっとすると、こいつは何かを知っているのではないかという疑念が浮かび上がる。
「貴様…なぜ、事情を知っている?」
元就の発言を受けて、モニター越しの元就はそれはとても楽しそうに、笑った。それは決して元就が浮かべる笑みではなかった。不快な思いを隠しもせず、元就は眉根を寄せる。それをみて、モニター越しの元就はまた楽しげに口元を歪める。かけていためがねのフレームを右手で押し上げながら言う。
『聞いた話し通りだな。毛利元就。』
大げさな、まるでテレビや映画にでるような悪役のようなその物腰にさらに元就のイライラが沸き立ちそうになる。一触即発かと思われたまさにそのとき、ふええええええという泣き声が聞こえ始め、二人はともに声の方に目をやる。
「ピーピー…はかせ…おにいちゃんがああああ…」
それは未だに動かない元親の体にすがりついてぽろぽろ泣いている鶴姫の姿だった。ロボットだというのにぴーぴー泣くその姿は人間そのものだ、と元就は思う。そして同時に我に返る。今はこのモニター越しの男と言い争っている場合ではないのだ。元親が眠り続ける要因を探し、それを排除すること。それこそが主題だ。そこまで考えると元就は鶴姫の元に向かい、涙を流す鶴姫の頭をなでてやる。すると泣きやむどころかより「ピーピー…うええええええええん…!」と勢いが増してしまった。おそらくだが、それだけ元親が目をさまさないことが不安なのだろう。ロボットに兄妹関係は成立するのかと常々疑問に思っていた元就だったが、元親と鶴姫の仲の良さを見ていると、ありえることかもしれないと思うようになってきた。彼らは、人間のきょうだい以上にお互いを思っている。だから、きっと元就が感じている以上に不安なのだ。いくらサポートロボとはいえ、まだまだ子供。頼りにしている兄が目を覚まさないのはそれはそれはとてもこわいことだろう。そこまで考えて、未だ泣きやまない鶴姫の頭をぽんぽんと軽く撫でた。
「横道に逸れすぎたが…これが目を覚まさないのはどういうことだ?」
画面越しの毛利元就に問いかけると、彼はとても意外そうな顔をしたが、すぐに元の素っ気ない表情に戻り、そして言った。
『簡単なことだ。昨日追加データとして送ったものの容量が大きすぎて処理に時間がかかっているのであろう。DREAMINGの数値が高いのはそのせいだ。今の元親は人間で言う夢を見ている状態だからな。』
「追加、データ?」
怪訝な顔をする元就にモニター越しの男は『ああ』とつぶやき、そして言った。
『主にそちらの年代でブームだったゲーム、アニメ、漫画について』
その瞬間元就は、こいつはやっぱり嫌いだ、と改めて思った。
「…貴様、はっ倒されたいのか…!!」
そんなもののために、未だに元親は目覚めないのかと思うと心底腹が立つのを元就は感じていた。腸が煮えくり返るというのはこう言うことをいうのだろうか。瞬間的に高騰した元就の反応を見透かしていたかのように画面越しの元就が薄く笑う。
『ただそちらで過ごすだけでは面白くはあるまい。一応一通りの知識は与えているが、ただそれだけだ。少しは楽しさを与えてもよかろう。』
「貴様は自分の作ったロボットにオタク知識を植え付けて楽しいか…!?」
『楽しいからやっておるが、何か。』
即答する元就を見て、痛感した。ああ、こいつは駄目だ、と。駄目な人間なんだと。
『膨大な情報量だとはいえ元親の処理速度ならば丸一日もかからんだろう。そのうち目覚める。気にするな。基本的な人格データや今までの経験まで破壊されるものではない。』
そうして、それまでとは違う、どこか優しい笑みを浮かべると言った。
『…元親も、鶴姫も、有能だ。きっと力になれるであろう。』
ではな、それだけを残して通信は切られた。
残されたのは、ようやく泣きやんだ鶴姫と、未だに眠り続ける元親。
「何だったのだ…あれは…」
呆然とする元就だけが残されたのだった。
「ピーピー はかせは、わたしとおにいちゃんとくらしてました」
眠っているのが長引いているだけだという事情を伝え、ようやく落ち着いた鶴姫は、元就にぽつりぽつりと話し始めた。それでも不安なのか眠る元親から離れようとしない。そんな彼女の隣に座りながら元就は未だに目覚めない元親を見つめていた。その一方で鶴姫とこうして話すのは初めてのことかもしれないと、ぼんやり思いながら元就は彼女の言葉に耳を傾ける。
自分が目覚めたとき、一番最初に会ったのがはかせとおにいちゃんの二人だったこと。たくさんいた妹はみんなよそにいってしまったこと。おにいちゃんは、「しごと」でいないときはあったけど帰ってきては自分の面倒をよくみてくれたこと。はかせは、よくわからないけど、悪い人じゃないとおもうこと。おにいちゃんがいなくなって困っていたら博士からおしごとと言われてこの時代に送り出されたこと。
「ピーピー わたしはおにいちゃんのおてつだいがおしごとです。だから、おにいちゃんがいないとなにをしたらいいのかわからないのです。」
しょぼんとしながら鶴姫は呟く。一人で解決できなかった先ほどのことを気にしているらしい。ロボットというのはえてして責任感の強いもののようだ。存在が、人間に仕えるもの、だからなのか元就にはわからない。
何か声をかけようかとしたそのとき『ぐーっ』と大きな腹の音が鳴る。元就ではない。元親でもない。すなわちそれは、たった一人に絞られる。
「ピーピー…おなかがすきました」
がくっとうなだれる鶴姫を見て気がつく。そういえば今日はまだ何も食べていない。というよりももうすぐ学校へ行かねばならない時間である。元親は、膨大なデータの処理の代償として、未だに目覚める気配がない。
「ああもう…仕方があるまい。鶴姫、お前もとりあえず着替えをして朝の支度を終えろ。」
「ピーピー りょうかいです」
返事をした鶴姫はそのままテテテと部屋の隅に置いてある自分の鞄に近づく。見ため以上に中にものが入るその鞄を元就は四次元バッグ(偽)と心の中で呼んでいた。自分も支度をしなければ、とは思いつつ、未だに眠り続ける元親をもう一度見やる。
「…貴様が戻らねば、どうにも勘が鈍る。早急に、目覚めよ。」
その声が、届いているとは思えなかった。ただなんとなく、そう思ったから口に出した言葉だった。
それから朝食として黙々と二人で食パンをかじる。ロボットに食事が必要なのか?と最初は目を白黒させたものだが二人にとっては人間と同じ食事が燃料になるらしい。そのほかにも詳しい事情は説明されたが、よくは覚えていない。いちごジャムを塗ったパンを、あむっと口にした鶴姫はお腹が膨れたことで少しは落ち着いたらしい。人間でもロボットでも、空腹は駄目なのだな、と元就は改めて思った。そうして自分の分を食べ終えるとすぐに席を立つ。
「では我は学校へ行く。くれぐれも気をつけて過ごすが良い。」
「ピーピー ばびっとりょうかいしました。」
敬礼する鶴姫に、なぜだと思いながらも、元就は家を後にする。未だ目覚めぬ元親に、後ろ髪を惹かれながら。
「計算してないぞ…」
すべての授業を終えた放課後、あっと言う間に発達した雨雲を見ながら元就は呟く。教室の窓から外を見ればすでに雨は降り始めているようで、しかもかなり雨足が強い。このまま外に出れば濡れるのは必至。それも今日に限っていつもならば所持している折りたたみ傘が入っていない。先日使って、干したのをそのままに忘れていたことを今更ながら思い出す。傘を買う金など無い訳では無いが、そんなことに金を使うのは惜しい。
今日は本当に厄日か。
朝のやりとりまでをも思いだし、心の中で溜息を吐きながら一階の正面玄関に向かう。先ほど携帯で確認したところ、雨は今日の夜半まで続くとのことだった。即ち、雨が収まるまで待つという選択肢は選べない。家には鶴姫と、目覚めているのかはわからないが元親がいる。さらにはぴーぴー泣いていた鶴姫の顔が脳裏に浮かび、なんとなく逸る気持ちを抑える。
元就は思う。どうにもあの二人が来てから自分はペースを乱されっぱなしだと。そう感じるのは祖母以外の人間とそこまで深く関わることがない日々を送っていたせいだろうか。そうだ、どうでもいいと思っていた。だからそんな自分が、ロボットとはいえ相手を思いやるようなことを考えている、これこそが不思議なのだ。
どうして、そんな事をするのだろう。どうしてあの二人に関しては、そう思ってしまうのだろう。どうして、自分は…。そこまで考えた時だった。
正面玄関にたどり着いた元就はふと、結構な生徒が集い、なにやら正門の方が、という話している事に気がつく。だが、話している内容にさして興味はなかったので自分の靴箱に行き、靴を履くとそのまますぐに走って帰ろうとしていた。
「本当にかっこいいんだって!!」
「うちの学校にそんな生徒いないよね!?誰か待ってるみたいだったけど。」
「女の子もすっごい可愛かった~。」
ふと、女子生徒の会話が耳に入る。それだけならば聞き流したであろう。
「だってさぁ、銀髪に青い目で左だけ赤いってどこの外人さん?って感じじゃない。なんであの人正門前にいるんだろうね。」
それだけは、聞き逃せない一言だった。
正面玄関から、さして長い距離ではない正門までを元就は走る。見るとやけに背の高い人影と、それとは対照的にとても小さな人影が、仲良く並んでいた。そうしてばしゃばしゃと駆ける元親の足音に気がついたのか、くるりとその人は後ろを向いた。
「お疲れさまです。ご主人様。」
逆立ったような銀の髪、青い右目と赤い左目、どこか人好きのする顔立ち。そうして柔らかく、子供のように笑うそれを元就は知っている。
「…誰がご主人様だ。たわけが。」
あきれ半分でそれを口にしながらもどこか、うれしいのは、嬉しいと思ってしまうのは多分気のせいだ。そうして元親から差し出された傘を受け取ると、足下の小柄な影がぴょこぴょこ動き出す。
「ピーピーおむかえです!」
どこかしょんぼりしていた朝の様子とは打って変わって満面の笑みを浮かべる鶴姫がカッパを着てぴょんぴょん飛び跳ねていた。
「悪かったな。心配かけさせたみたいで。」
家への帰り道、先を歩く鶴姫を見やりながら元就と並んで歩いていた元親がそう言った。横目で見てもその表情は、とてもロボットとは思えないほどに穏やかなものだった。
「心配などしていない。貴様が寝たままだと我の調子が狂うから早く起きろと言ったまでよ。」
「元就らしい、言葉だな。」
そういって元親は小さく笑みを浮かべる。長時間眠っているような状態だったが、特に変わりはないらしい。
一方の鶴姫は後ろの二人に気づいてはいるのだろうが、雨の日特有の音やにおいが面白いらしく、あれやこれやとみてまわっている。実に子供らしい姿だった。
「もとなり…いや、博士と喋ったって鶴から聞いた。」
ちょうど学校と家まで半分ぐらいの距離に差し掛かったところで元親が口を開く。前を歩く鶴姫はアヒルの黄色いカッパを身につけており実に可愛らしい。
「ああ…なんというか話していて腸が煮えくり返るような気分になる男だったぞ。…いかん、思い返すとまた腹が立ってきた。」
「あの人は、昔からそうだ。俺が、作られたときからずっと、変わらない。」
苦笑するようなその表情は、あまり見た事が無い表情だった。諦念というか、もう諦めているようなそんな表情。そうして元親は一回だけ空の雨雲を見上げたかと思うと、また淡々と言葉を紡ぐ。
「変わった人、だとは思う。でもそれでも、ロボットにも生きる権利はある、って言ってロボット法とか作り出したのもあの人だからな。俺たちロボットは正直あの人には頭が上がらない。生みの親だし…神様みたいなもんなんだよ。」
神様。その言葉を耳にした元就は瞬間的にげんなりとした様子を見せる。
「…あの明らかに奇人変人にしか見えない男が神様とはな…。」
でも、と思い返す。確かに自分の揚げ足取りはしたが、鶴姫や元親にはそのような態度を見せなかった。むしろ、その身を案じているような素振りすら見せていた。あの変人は変人なりにこの二体のロボットを愛しているのかもしれない。あの男の行動に理解は出来ないが、元親と鶴姫を案じる気持ちだけは少しだけわかる気がした。自分が祖母を思うように、あの男にとってはこのふたりが、家族なのかも知れないと、そう思った。
「そういえば元親。貴様データの処理とやらはいつ終わったのだ?」
日頃の処理では追いつかないほどの情報量が送られたからいつになくスリープモードが長引いていただけに気に掛かる。少なくとも、元就が学校へ行く時間はまだ終わっていなかった。
「ちょうど12時だ。目が覚めたら鶴が腹の上に乗って寝ていた。そこから昼食をとって、家の中を一通り片付けて…そこで雨雲の発達に気がついた。鶴から、元就が傘を持って行っていないと聞いて、学校に行った。…学校までの道のりは、地図データから検索したから、特に迷わなかったな。」
そう話す元親は話しぶりも流暢でに特に変わった様子は見られない。あの男の言ったとおり、基本のデータに異常はないのだろう。何故、そんなデータを送ったのかは知るつもりはない、もとい知りたくもないのだが。
「…まさか、迎えにくるとは思わなかったぞ。」
ひょっとすると明日は元親や鶴姫との関係を取りざたされるかも知れない。傍目には銀髪の美形と愛らしい幼女なのだから仕方ないことではあるのだが。まぁ元就からしたら全てを相手にしないだけだが。
「いつもなら、元就は傘をもっていくのを知っていた。だけど、今日はおいていっただろ。雨は夜まで降るって聞いた。だから、届けに行ったんだ。」
迷惑だったか?
そう元親は問いかける。どこか困ったような、不安そうな顔を見せる。人間よりも人間らしいその表情を、前にもどこかで見たような気がした。初めて会ったときよりも、ずっと前に。だけどそれはすぐにわからなくなった。
「迷惑ではない…驚きはしたがな。」
「なら良かった!」
そう言ってまた明るく笑う。
先ほどの表情が嘘のようなその笑顔が目に眩しい。どっちが彼の本当の顔なのだろう。ロボットなのだから、そう思うことは馬鹿げている。
だけど、まだ元親は見た事のない表情がある。どうやって怒るのだろうか。そして、泣くのだろうか。鶴姫と違い未だに泣いたことのないロボットを微かに見上げながらそんな事を思った時だった。
「きゃあっ」
「鶴?」
前を歩いていた鶴姫が足を取られて元就と元親の眼前で、ステンと転んでしまう。
「怪我は…と聞く必要も無かったな。」
何せロボットなのだ。ロボットなのに何故転ぶのだという疑問はさておき、頑丈さは人一倍。怪我をすることもないのだろう。元就はそう思ったが鶴姫はそうは思わなかったらしい。
「ピーピー…おにいちゃん、みぎてをかしてください。」
「?ああ。」
鶴姫の発言の意図が掴め無いながらも元親はその手を差し出す。
「ピーピー ありがとうです。もうりさんはひだりてをかしてください。」
「…何をやる気だお前は…。」
怪訝に思いながらも元就は左手を差し出す。そうしてよいしょっといいながら鶴姫は左右から差し出された元親の手と元就の手をガッシリと握って、そうして満面の笑みで言った。
「ピーピー これでもうころびません!」
背の高い男二人(うち一体はロボット)の間で手をつないでご満悦状態の鶴姫はゆっくり歩き始める。体格の差もあり、元就と元親は鶴姫に合わせてかがむようにしながら歩き始める。
「…転びはしないが…楽しいのか?」
「ピーピー たのしいです!」
手を繋ぐだけでそんなに笑顔を浮かべるぐらい楽しかったのだろうか。怪訝な顔を浮かべる元就に、今度は元親が声をかける。
「俺も、楽しい。」
先ほどの笑みとは違う、いたずらっ子のようなその笑みはいつもより、彼を幼く見せていた。
「はぁ?…貴様まで何を言い出すかと思えば…。」
全く訳が分からない、という元就に鶴姫も元親も、笑って言った・
「元就は」
「ピーピー もうりさんは」
「覚えていったらいい。」
「おぼえたらいいです。」
「…訳が分からん。」
何を、覚えたら良いのか敢えて問わなかった。聞くつもりも無かった。だけれども、簡単に振り払えたであろうその手を振り払わなかったのは、どうしてだったのだろう。どうして、何故。その思いはしばし元就の胸を巡ることになる。
「鶴!アニメを見るぞアニメ!日曜の朝はアニメ見放題!」
「ピーピー!すごいですおにいちゃん!」
「…貴様らは日曜の朝ぐらい静かにせぬか!何故早朝のアニメ再放送から見なければならん!?」
未来の元就によって送られた変なデータが原因で、元親がアニメや漫画、ゲームに興味を持ち始めたせいで、そんな思いはかき消えてしまうことになるのだが、まぁ、それは先の話である。
「博士、いや元就。愛ってなんだ?」
『我が知るわけなかろう。たわけ。…しかし全くのヒントがないのも不便だな…。よし当時の面白いデータを送ってやるからそれで勉強するがよい。』
「元就、感謝する」
そんなやりとりの末に送られたのが、二次元情報満載のあのデータだとは、元就は知るよしも無かった。
○先祖と子孫が同じ名前ってややこしいね。
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色々説明
拍手現在豊臣家転生パロ中学生編入ってます
(現在2本 家三 チカナリです)
注意事項
・フリーリンクじゃないです、基本的にはリンクはお断りしています
・ひっそりこっそりが信条なので、黙々と
・捏造、not公式のこばなしが多いので、スルー推奨
ラキドでは幹部全員を溺愛しておりますが、ベルナルドとイヴァンは特に偏愛。ばさらは家三とか奥州の愉快な仲間達と毛長がメインです。うずみさんが現在官三とか官佐にずっぽりとはまり中。
基本は、愛想のかけらもない「ネット怖い~」の書き手が二人で色々書いている場所です。
書いている人
みっし
・生真面目で堅物でムキムキな男性と一見そうじゃなくても根は真面目極まり ないキャラをこよなく愛している、がんかたうるふの片割れ。編み物とお菓子作りが趣味という、第三者曰く可愛らしい一面を持つ反面、パニクると踊ったり、オロオロしだして周囲は見ていて楽しいらしい。荒ぶる舞は、職場の名物だったりする……らしい。
イヴァンちゃんと片倉さんとシズちゃんとスカイハイさんと陛下を思いっきり愛している。好きなアニメは銀魂と最近はFate/zero。型月ファンというよりは元から虚淵ファンでうずみさんからオススメされまくった末にようやっと手を付けて完読した。ライダー組おいしいです。エクシリアではダントツで陛下が好き。陛下が使用可能になる完全版があるなら複数買いしても構わないとのたまう日々。バサラの好きキャラは片倉さん一強だったはずなのに最近はアニキも熱い。かっちり着込むキャラがすきだったはずなのにいきなり露出度が高いキャラを好きになったのは何故か悩む日々。二次元の向かう愛と同じぐらい甥っ子への愛を叫んでいる気がしてならない。
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