こちらはサークル「がんかたうるふ」のうずみとみっしの二人組が、ラッキードッグ1とばさらのこばなしを黙々と投下する場所です。
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瀬戸内現パロ。
作家の毛利さんと通い家政婦である大学生の長曾我部君の日常。
別名アニキが毛利を餌付けにする話。
書いてる人がナリチカ好きなので心なしかナリチカ寄り。
一応シリーズですが、基本的にどこから読んでも読めます。
今回は大学生の周辺の人々と過去がちらほら出ます。
シリアス要素はありません。
ついでに言うと年齢制限的な要素も一切ありません。多分。
あと奥州主従ファンの皆様ごめんなさい。
それでもよろしければどうぞ。
今の時点での簡単な時系列
いっしょにかいもの(5月)→日常(初夏)→ふつうの日(1月某日)
書いた人:みっし
作家の毛利さんと通い家政婦である大学生の長曾我部君の日常。
別名アニキが毛利を餌付けにする話。
書いてる人がナリチカ好きなので心なしかナリチカ寄り。
一応シリーズですが、基本的にどこから読んでも読めます。
今回は大学生の周辺の人々と過去がちらほら出ます。
シリアス要素はありません。
ついでに言うと年齢制限的な要素も一切ありません。多分。
あと奥州主従ファンの皆様ごめんなさい。
それでもよろしければどうぞ。
今の時点での簡単な時系列
いっしょにかいもの(5月)→日常(初夏)→ふつうの日(1月某日)
書いた人:みっし
*****
作家さんと大学生~大学生の日常・いただきものは、たからのやまです~(瀬戸内・現パロ)
~牛乳ゼリー黒蜜がけ~
「…緊急事態だ…!!」
いつもの面子でだらだらしていた昼食中、いつもより遅れてやってきた政宗の尋常ならざる勢いにその場にいた皆が動きを止める。
焦った様子で飛び込んできた彼の本名は伊達政宗というこの男は元親と同じ大学で学ぶ友人だ。実家は資産家で、所謂いいとこのお坊ちゃんという奴なのだが、案外付き合ってみたら面白い奴なので入学してから今に至るまでつるんでいる。
右目の医療用眼帯が印象的な所謂イケメンである。黙っていれば、であるが。
「緊急事態って…政宗どうしたの?」
コンビニで買ってきたサンドイッチにかぶりつこうとしていたのはオレンジ頭が印象的な猿飛佐助、派手な外見とは裏腹に人当たりは良く、男女問わず知り合いの多い情報通。
しかし元親にとっての彼の印象は色々あってオカンだ。
「政宗殿の緊急事態…は!!まさか弁当を忘れられたとか!?のおおおお!!某の弁当は渡せませぬぞおおおおお!!」
「…真田、シャラップ…!!俺をお前と一緒にするんじゃねえ!!」
「はぁっ!?」
重箱入りの巨大なお弁当を取られまいと必死なのは真田幸村。余談だが彼が身につけている服は常に赤だ。何故かは知らないが。佐助の幼なじみで政宗とは高校時代からの同級生。叫び癖のせいもあってか一緒にいると非常に暑苦しい。
そんな彼は自身の発言が原因でデコピンされていた。
「で?緊急事態って何なんだい?穏やかじゃないね。ねぇ元親」
本日オススメAランチに再び手を付けようとしているのは男にしては長い髪が目立つ前田慶次。唯一彼は元親の高校時代の同級生だ。
とは言っても家庭の事情で転校を繰り返していた慶次とクラスメートだった期間は数ヶ月しかないのだが。何故か不思議とメールでのやりとりだけは続けており、大学入学でこちらに引っ越したのを機に再会したのだ。
「まぁな…でも政宗の事だからな」
持参していたおにぎりに食らいつきながら元親は言葉を返す。
政宗は、黙っていればイケメンなのにもかかわらず結構どうでもいいことでよく驚いている事が多い。先日は皆で行った某ショッピングセンターのチャージの音声で心底驚き「ホワッツ!?」と狼狽えていた。政宗は何だかんだ言って世間知らずな所あるからね、とは高校の同級生だったという佐助の談だ。
だから今回もその類かと思い、話半分に聞いていた。
「で、結局緊急事態ってなに?」
そう佐助に問われた所、政宗は溜息をついて、悲痛な面持ちで答えた。
「…俺の部屋が…野菜に侵食される…!!」
政宗には長年、彼専属の使用人がいるらしい。
どんだけ金持ちなんだと思い、元親は目が点になりつつも話を続けさせる。
高校時代の3年間はその使用人が身の回りの世話から何から全てをしてくれていたが、父親の仕事の都合もあり、今年の3月末、即ち政宗の大学入学の直前に地元に戻っていったとのこと。長年世話してくれていた使用人がいなくなることに若干の寂しさを覚えつつも、お目付役とも言えるその男がいなくなることで羽目を外せると浮かれて過ごしていたらしい。
それから3ヶ月経った今、ほとんど連絡が無かった使用人から先ほど電話に連絡が来たというのだ。曰く『政宗様がいかような生活をなされているか心配ですので、栄養が取れるようにいくらか送らせて頂きました』
政宗は焦った。
使用人は趣味が家庭菜園というぐらい、野菜好きな男だったからだ。
そんな男が送る贈り物など、想像するまでもない。
野菜だ。
巨大なダンボールにどーんと野菜が詰められて送られてくるのだ。
以前一緒に暮らしていた頃は、実家に手配して送ってもらったものをその使用人が全て処理していたらしい。
政宗は料理をしない。
本人の理由としては「面倒くさい」からだ。
普段はもっぱら外食とコンビニご飯で過ごしている。
だが、高校時代を知る佐助と幸村は政宗の料理スキルに関してこうコメントしていた。
「なんていうか…見た目はともかく、味が豪快なんだよね…命の危機を感じるほどに…」
「政宗殿の料理は非常に見た目は美しいのでござる…そして…奇っ怪な味付けでござる!!」
基本的に好き嫌いなく何でも食べる幸村ですら戸惑う程の味付けらしい。
切って鍋に入れるまでは何とかなるらしいが、
味付けの段階で何らかの仕掛けが施されたのでは無いかと思うぐらい激変するらしい。
そのお陰で高校時代の調理実習で二人は地獄を見たようだ。
見た目はまともだが味付けは極悪。それが政宗の料理スキルだった。
本人はその極悪なスキルを理解していないが、基本的に面倒なので作りたくないというのが本人の言い分だった。
最も高校時代は幸村と佐助の二人が必死になってフォローに回っていたのだろう。
「政宗、あのさ…その、今日のお昼ご飯…なに?」
おもむろに政宗が取り出した商品を見て軽く顔を引きつらせた慶次が尋ねる。
すると政宗は得意げに答えた。
「ハッ…期間限定、激甘辛あんぱんだ!!ラー油の辛さとあんこの甘みがなんとも」
「うんごめん、そこまででもうわかった。ごめんね」
どこの商品開発部が作ったんだろう、という代物だ。
そういえば4月に会った時からおかしなものばかり食べていたような気がする。
甘い物には香辛料、辛いものには甘みを徹底的に足していたことを思い出した。
普通のものも食べる事は食べていたが、それ以外の妙な味付けをしていた姿が頭をよぎる。
政宗は、味音痴なんだ。
元親と慶次は改めてその事実を理解した。
「…というかその使用人も、政宗の味付けが凄いって知ってるんじゃねぇの…?」
話を聞く内におにぎり弁当での昼食を終えた元親がペットボトルのお茶を飲み終えて話す。料理はしたがらず、したとしても作るのは本人はさておき、他人にとっては殺人兵器もどきの料理。そんな人間に何で食材を送りつけるのか。不親切にも程があるではないか。
「…だよねぇ、あとせめて調理済みのおかずとか送ってもらった方が本人も食べやすいよね…」
元親の発言に同じく食事を終えた慶次も頷く。
しかし、そこで佐助は更に首を横に振った。
「駄目なんだよ…あの人、片倉小十郎さん。俺と旦那は片倉さんって言ってるけど。料理は出来ておいて損が無いから、ってそういう気遣いで素材だけ送っちゃうんだよ。…あと政宗の料理平気で食べられちゃう人だから気付いてないんだよ…」
「片倉殿の料理は美味しいのでござるが…何故平然と政宗殿の料理を食べられるのか、某は未だに不思議でござる…」
「…すげぇなその人」
「なにそれこわい」
想像を絶すると評判の政宗の料理を平らげる人間がいる事が信じられない元親は思わず呟く。というか、愛が重すぎるように感じる。
「ほんとにね…」
佐助と幸村曰く、その片倉さんなる使用人は思わず職業を疑ってしまうような厳つい外見の持ち主らしい。しかし基本的に真面目で礼儀正しい人なので高校時代は二人とも世話になったとのことだった。
「いい人だし政宗のお父さんの会社でも凄い有能らしい凄い人なんだけどさ…なんだけど、政宗には厳しくも甘いっていうのか…なんというか」
「非常に世話焼きなのでござる。」
うんうん、と頷く佐助と幸村に対し、何故か得意げに政宗は答える。
「そりゃあ小十郎は俺のだからな!!有能なんだぜ!!」
腕を組んで満面のどや顔。
イケメンだから似合う。しかしイケメンだからこそ色々台無しである。
「…でも教育係としてはツメが甘かったみたいだね…」
慶次の呟きに皆揃って心の底から同意したのだった。
「で、お前ら誰か野菜いらねーか」
ようやく本題とばかりに政宗が話し出す。
使用人、片倉さんによると既に荷物は送られ、今日にでも届くとのこと。政宗は一切料理をしたくないので手を付ける気は無いがそのまま傷ませるのも忍びないので譲れる人間に譲りたいとのことだった。というかもらったものは政宗自身が食べなくても良いのか尋ねたところ、今ここで喰っても喰わなくても帰ったら野菜満載料理のオンパレードだぜ…、とどこを見ているのかわからない視線のまま答えられた。なのでそれ以上は皆、何も言わず、そして聞かなかった。
「…某と佐助は日頃であれば頂きたいところなのですが、親方様が今日から町内会の旅行に行っていて料理が出来る人間がいないのでござる…うぬ」
幸村と佐助は同郷の出身であり幼なじみでもある。高校入学に伴い、共に上京してきた。それから今に至るまでずっと世話になっているのが武田信玄なる下宿屋の主であり二人は、特に幸村は彼を親方様と言い慕っている。元親も何回か会ったことがあるが、非常に豪快な人である。
その彼は今日の朝から友人との旅行でしばらく不在とのこと。日頃は信玄特製の弁当を携えてやってくる幸村もコンビニ等に頼る他ない。佐助も日頃は弁当の恩恵に預かっているが、今日はたまたま早朝のコンビニバイトを終えてすぐに大学に来たので朝食と昼食を購入してきたとのことだった。
ちなみに幸村と佐助だが、掃除洗濯はさておき、料理は最低限しかしない。作るには作るが非常に男らしいと評価される料理になる、とは幸村の談であり、作らないで良いなら作らない、というのが佐助の談だ。更に言うと幸村は剣道部の部活、佐助は佐助でバイトを掛け持ちしており中々忙しい日々を過ごしている。
そんな多忙な二人に対して、調理時間がかかる山のような野菜を押しつけるのは酷というものだろう。
「そうだね、俺と旦那は悪いけどパスだわ。慶次は?」
「うーん…まつねえちゃんならなんとかしてくれると思うけど、今トシに付いて京都に行っちゃってるんだよね。」
まつねえちゃんとトシというのは慶次の叔父と叔母であり親元を離れた彼が現在共に生活をしている人達でもある。非常に仲睦まじい夫婦であるが、仲が良すぎて直視し辛いとは慶次の談である。そんな彼の叔父は現在京都に三ヶ月の単身赴任に行っている。叔母はそんな夫の身を案じて結構な頻度で京都に様子を見に行っているらしい。
「俺も1人でって言ったら最低限のものしか作れないから、やめとくよ」
「慶次殿も無理ですか…元親殿は?いかがです?」
「俺は…もらえるならもらう」
おじいちゃん子であり、幼い頃から祖父の影響で時代劇や時代小説に馴染んできたという真田の口調は年齢に似合わず非常に堅苦しい。そんな話し方に最初は戸惑ったものの今では大分慣れてきた。
「マジか元親?すっげー量あるけど大丈夫か?後でやっぱり嫌だとか言っても俺は聞かないぞ」
「料理すればいいじゃねーか。今なんか野菜高いしお得だろ、それ」
ここの所、気候やなんらかの影響で野菜は全般的に高いのだ。
雇い主である毛利は野菜好きでも無いが特に嫌いでもない。修羅場以外の栄養を管理する人間としては是非とも野菜を摂取してもらいたいところなのだ。
「…すぐにそういうコメントが出て来るのって元親だけだよ…本当…」
すぐ隣にいた慶次が溜息を吐きながら呟く。
「というかこのガタイと見た目なのに特技が家事全般で趣味が裁縫とプラモとお菓子作りって相当詐欺だよね…」
慶次に同意するかのように佐助も返す。
身長180cm以上、銀髪、隻眼とガタイの良さも含めてかなり外見上かなり目立つ特徴を持つ元親の特技及び趣味は異常にインドアに偏っている。体を動かすことは嫌いではないが、幼少期は体が弱かったので室内で一人遊びをすることが多かった。多分その名残だと自分では思っている。
「…元親殿は本当に運動系の部活に在籍しなかったのでござりますか?」
「毎朝筋トレとマラソンはしてたけど後は喧嘩ぐらい…?部活は…応援団の手伝いぐらいだな。あ、牛乳は毎日飲んでたわ。」
その答えを聞いて、くっと幸村は唇をかみしめる。
「某……まだまだ元親殿の身長にも及びませぬ…日々精進!!精進でござるうううううう!!」
「真田、そもそも体のつくりが違うから諦めとけ。あとビークワイエット!!」
「のおおおおおおおおおお!!」
でこぴんをくらいのたうち回る真田とて男性としてはさして低い部類ではないのだが、元親と比較すると低い部類に入ってしまう。顔は所謂ジ○ニ顔に入りモテるのだろうが、彼の理想は下宿の主である親方様。自分の顔の美醜など全く意識せず、ただひたすらに目標を追いかける男。
それが真田幸村だった。
その真っ直ぐさは危うさと紙一重ながらも好感が持てるものだろう。欠点は、いつでもどこでもすぐに叫ぶので、非常にうるさい。
「旦那、落ち着いてって…おっとそろそろ昼休み終わっちゃうよ。そろそろ戻ろうか?」
気がつけば昼休みが終わる15分前。
各自がそれぞれの教室にたどり着く時間を考えればそろそろ食堂を出なくてはいけない。
「ああ、じゃあ元親。講義終わったらメールするわ」
「頼む」
「次なんだっけ、基礎科目かな~、嫌だな。あれ、眠いんだよ」
「某も三講は一番苦手でござる…」
「旦那は三講に限った話じゃないでしょ」
いつものごとく昼休みを終え、5人はそれぞれの学部棟に赴くべく動き始めた。
そもそもこの5人は所属学部も異なれば所属サークルも異なる。
そんな5人が何故知り合ったのか、それがまさに縁だった。
元々、元親と慶次は高校時代の同級生であり、慶次が引っ越してしまった後もメル友としての付き合いがあった。それが大学入学を機に再会。昼食を一緒に取ったりしているうちに、今度は食堂で佐助と幸村と一緒になった。人見知りのしない2人と双方打ち解けあい、そうした時に紹介されたのが彼らの高校時代からの友人とされる政宗だったのだ。
そこから何故か意気投合し、つるみあい今に至る。
もちろんそれぞれの学部での友人はいるし、付き合いもあるがこの5人で集まるのはやはり何か別格だった。
慶次は文学部。主に古典文学を専門に学びたいらしい。
古文に秘められた恋を紐解くんだ、と言っていたがどこまで本気なのか定かではない。本好きが高じて古書店のバイトをしている。
幸村はスポーツ学部。
競技指導と健康管理を学び、いつか親方様のような素晴らしき人間になりまする!!というのが彼の目標だ。一年生ながら剣道部のエースでもある。ただし何故か時に二刀流となる。本人曰く2本持つと落ち着くのでござる、とのこと。
その幸村の幼なじみである佐助は情報科学部。
パソコンが好きで、将来はエンジニア志望。情報通で、いつも複数のバイトを掛け持ちしている。クールな印象とは裏腹に結構世話焼きで学部が違うのに幸村の選択教科やらなにやら全部把握している凄い奴。当人は「だって旦那って小学校の頃から自分で教科書準備しない子だったから今でも不安でさ…」。と乾いた笑いを見せていた。多分いつでもどこでも幸村のオカン。多分というか間違いなくそう。
政宗は法学部。
昔外国に住んでいたとのことで、彼の会話の端々には微妙な英語が混ざる。サークルには所属していないが、放課後はよく図書館に入り浸って過ごしている。そのイケメンぶりからは想像出来ないほどに人見知りなせいもあってかサークルに入れないのでは、とは佐助の話だが真偽の程は定かではない。
そして元親は理工学部だ。
幼少からのロボット好きが高じて選んだ学部学科でもある元親は非常に満喫している。そんな元親は入学当初から家政婦のバイトが決まっていたので特定のサークルには所属していない。
学ぶジャンルが違う人間の集まりだというのに、仲良くつるめるというのは不思議だ。
だけれどもそれはありがたい事である。特に元親はその外見から遠巻きにされることも多いので普通に接してもらえるのはそれだけでありがたく感じるものだ。最も一回でも関わった人は、思った以上に害がない存在だと認識してはもらえるのだが、最初の一回というハードルは結構高い。
外国の血を引く母から色濃く受け継いだ外見は、昔ほどではないが未だに元親の悩みの種であった。ちなみに妹は全く似ておらず、どこからどう見ても日本人である。単純に言うと自分は母似、妹は父似なのだ。
そしてもうひとつの悩みの種は左目を覆う医療用眼帯だった。
幼少時の交通事故で傷を負った左目は歪な傷跡を残すと共に未だに閉じられており、何の光も映せない。傷を見せておくと相手も不安にさせるので、日頃は医療用の眼帯で覆っている。幼少の頃からなのでさほど生活に不便さは感じない。むしろ今更両目が見えると言われたほうが違和感を感じるだろう。この怪我が原因で半年ほど入院し、本来の同級生よりも一年遅れての小学校入学となった事は未だに覚えている。もとよりひ弱で人見知りだった元親は事故を機にすっかりひきこもりがちな子供になっていった。
しかし、たまたま担当だった小児科医が親身に面倒を見てくれたお陰で立ち直れたのだ。薩摩弁が特徴的なあの医師は、決して焦らず怒らず、それでいて親身に元親と両親を支えてくれた。そうして元親は体を動かすことを始め、友達と遊ぶ機会も増えた。
そして、成長期を迎えるにつれ小柄だった元親は急成長し、同年代の男子よりも頭一つぐらい大きくなっていたのであった。加えて母親譲りの銀髪と青い目、おまけに左目は眼帯。どこからどう見ても目立っていた。中学と高校からはその目立つ容姿にいちゃもんを付けられ喧嘩と、放課後は妹の世話に費やす日々。その最中も、何だかんだ言って先輩には恵まれ癖のある後輩に囲まれ何やかんやと楽しい時間を過ごすことが出来た。
元親は人の悪意に晒されることもあったが、それ以上に人の善意に囲まれて育った。だから彼は無意識に人の悪意に敏感で、同時に人の善意に聡い。そうして彼はいつしか頼れる兄貴分として慕われる存在になっていったのだった。
そして今も、なんやかんやいっても周囲の人に恵まれた環境である事は元親にとっては何よりも喜ばしく感謝すべき事だったのだ。
「何だ、これは」
「何って…野菜」
政宗宅からダンボールの野菜を預かり、政宗の運転する車でそのまま毛利宅に向かった元親はリビングでサンデーことル○バ観察に勤しんでいた毛利からそう声をかけられた。
「政宗の実家から送ってきたんだけど、あいつ自分が食べないからって丸々俺に押しつけたんだよ…っと」
箱を開けて中身を改めていく。
色とりどりの野菜がそれはもう美しく、そして大量に詰められていた。
「すんげー!!うまそー!!」
「ふん、伊達家の小倅か」
野菜に目を輝かせる元親とは裏腹に毛利はその顔を皮肉気に歪ませる。
「あれ?毛利何で政宗の事知ってるんだ?」
そもそも下の名前しか出していないのに何故名字も知っているのだろう。
「昔、取材で伊達家に行ったことがあってな。その時に会ったことがある。…なんとも小生意気な童だったが、その様子では今もさほど変わらぬようだな。まさか貴様と関わりがあるとは、世間は実に狭いものよ」
…毛利の言う昔っていつなんだ…。
10年前?20年前じゃ政宗生まれていないし、一体いつなのだろうか。年齢不詳の雇い主に若干の不安を感じつつも元親は答える。
「…まぁ、でも悪い奴じゃねーぞ。」
政宗は癖こそ強いが悪い人間ではない。完全なる善人でも無いのは確かだが。かくいう元親も自分が根っからの善人だなんて思ってもいないが悪人だとも思っていない。
「貴様は単純過ぎる。旧家の人間など一枚も二枚も裏があるのは当然よ。本家の跡取りなら尚更な。」
そういう毛利の目は冷ややかで、でもそしてどこか悲しげに見える。
基本的に毛利がこのように感情を表すのは珍しい、と考えていたら毛利はけろっと呟いた。
「…と以前書いた話のネタにしたことがあるのだが、実際はどうなんであろうな?」
「…珍しくそんな顔すると思ったら仕事のネタかよ…」
毛利元就、職業は小説家。
ネタ選びの手段、基本的にあまり選ばない。
最近のからかい対象、元親。
永遠のイビリ対象、担当。
そして年齢不詳。
「してこの野菜の山、どのように調理するのだ貴様は」
我は腹が減ったぞ、と顔に書いてある毛利はすでに今すぐ食べられるトマトに手を伸ばしてかぶりついている。
「うーん…山ほど有るから食べきれないのは干すかピクルスでも作るか。確か、ここんちでっかい保存瓶あったよな」
「食料庫にあろう」
台所の隣に作られた食料庫には日頃使っていない調理道具もしまわれている。
早速元親は確認すると、保存瓶と共に恐ろしいものを発見した。
「…毛利ー…なんでかしらねぇけど、すんごいでかい黒糖シロップがあるんだけど…」
「おお、そこにあったか」
保存瓶と共に元親が見つけ出したのは超巨大な黒糖シロップ(未開封)だった。
「そこにあったかってなに!?あんた料理しないのになんでこんなの買ってるの!?」
「黒砂糖は手軽なおやつではないか。黒糖シロップはそれの液体版。おやつだ。」
自信満々に言い切る毛利に思いっきり突っ込んでしまう。
「違う。あんたのソレおやつ違うから!!調理に使ってこそのシロップだから!!そのまま食うな!!」
黒砂糖を直接かじるのはアリだと元親も思っているがさすがにシロップをおやつにするのはナシだと思う。この男絶対にメープルシロップとかも直接飲んでいるに違いない。
そして悲しいかなこういうときの元親の予想は高確率で当たっている。
「うぬ…ではどのような菓子があるというのだ?」
「…あんたそれも知らないで買ったのかよ…手っ取り早いのはホットケーキにかけたり、白玉にかけたり……とにかく普通のシロップと同じように使えばいいんだよ」
「…?同じように『食べて』いるが?」
そう言って毛利が差し出したのはマグカップ。これに入れるつもりなのだろうか。
-やっぱりこいつ、シロップ=そのまま食べる物、だと思ってる。
間違っていないが、合ってもいない。
ー恐るべし毛利クオリティ…!!
一般常識は持ち合わせているように見せておきながらも調理関係のこの壊滅的な有様に元親は驚愕した。
「…わかった。メシの後に食わせてやるからちょっと待ってろ…」
「うむ」
菓子作成の約束を取り付け、非常にご満悦な毛利とは裏腹に心の底から疲れた元親だった。
幸い今日は三限で終わりだったのでまだ時間はあり、おやつがわりに甘いトマト三個を平らげた毛利は一仕事してくると去っていった。
今のうちにデザートと野菜の準備をしてしまおうと元親はエプロンを着けて手洗いし調理準備を始める。
元親は冷蔵庫を確認すると、未開封の牛乳が一本有るのを発見する。
「よし、これとゼラチンあれば大丈夫だな」
まず粉ゼラチンに適量の水をふりかける。
牛乳の内、コップ一杯程度を小鍋にかけて砂糖を適量入れて混ぜながら加熱する。
湯気が立ってきたら水を含ませておいたゼラチンを入れて煮溶かす。
ゼラチンが完全に溶けてきたらまた牛乳を加えて混ぜる。
混ざりきったら今度は漉しながら元の牛乳パックに戻し入れ、口を閉じて全体をよく振る。
あとはそのまま冷蔵庫で冷やせば牛乳ゼリーの完成だ。
「あとは…ピクルスとマリネかな」
ミニトマト、ナス、キュウリ、パプリカ、セロリ…実にマリネに適した野菜が山のように箱の中に積まれている。
「…これ全部個人の菜園だったら…こえぇな…」
だとしたら好意だとしても愛が重い。そして、どうみても一人暮らしの男が食べきれる量ではない。あれもこれもと思っている内にどんどん増えて言ったのだろうか。
「あんたもっと食べなきゃ駄目よ!!とかいうおばちゃんみたいなもんかな…」
会ったことはない片倉さんの印象が、どんどん親戚のおばちゃんに近づいている元親だった。
「ピクルスはまだ喰えんのか?」
「もっと漬かってからの方がうまいからな。今日はマリネとサラダでがまんしとけ」
「うむ…楽しみは取っておくべきか」
「ていうか、あんたはまっ先にトマト食べてんじゃねぇか…」
今日のメニューはわかめのスープに牛肉とセロリの炒め物、だし、なすのマリネと政宗からもらった野菜づくしの夕食となった。
「なーんか、いつものことだけど俺が作ると和洋折衷の極みみたいな献立になるな…」
作りたいものと、今ある食材を兼ね合うよう調整するとどうにも和洋折衷の献立になってしまう。栄養バランスは良いと思うのだが、折角だからジャンルも合わせた方が良いのかと元親は思う。
「我は構わぬ。喰えればソレでよい」
「…そーですか」
大量のおかずを前に嬉しげな毛利にはあまり関係の無い事項であったようだ。
「貴様そもそも一人で喰らうレトルトの味気なさを知っているか?」
もきゅもきゅとおかずを摂取しながら毛利は元親に話かける。
「…あんまり…ってか、ほとんど食わねぇな」
小学生の頃から両親は働いていたが両親の主義かあまりそういうものは食べさせてもらえなかった記憶がある。
成長してからは自分で作ることを覚えたのでまず食べたことがなかった。
「白米はレトルト、おかずはレトルトと冷凍食品、スープはインスタント。
こんな生活を一度でも続けると手作りと言うだけで有り難みが異様に増すぞ。」
「それって、俺の料理は手作りだからなんとか喰ってるっていう意味にも捉えられるんだけど…」
ーもしかして、俺の料理は毛利にとってはそんなに美味くない?
そもそも元親は料理の専門的な修行を積んだわけではない。
あくまで家族のための料理を作っていただけに過ぎない。
ひょっとしたら我慢させていたのだろうか。しかしこの男なら我慢する間もなく口から何かが飛び出すはずだ。
考え込む元親の様子に気がついたのか、ふむ、と毛利は一度箸を置く。
「手作りだから美味いと思うことに否定はしないが、それだけではないぞ。」
「え?」
「お前の料理は、切り方もでかいし、確かに雑な部分もあるが、暖かいものが感じる。
それはお前が長年家族を想って作ってきた、その積み重ねの表れではないか。
以前の家政婦の味とはもちろん異なるが、我はこの味は嫌いではない。」
言葉を続ける毛利の顔は何故か穏やかだった。
「えー…もしかして、褒めてくれてる、のか?」
その言葉がなんだか信じられず、元親の頭が付いていけない。
そんな元親に対し、毛利はにやぁ、と思いっきり嫌な笑みを見せる。
「なんだ、不満か。なら思いっきり罵られたかったか?この変態めが」
その顔は何とも言えず楽しげで、見る人が見れば顔に『ドS』と書いてあるのが見て取れただろう。
「違ううううう!!なんでそうなるんだよあんたは!!」
ちょっと良い話が台無しだ。
さすが毛利、人とはひと味もふた味も違う男。
「ふん。食事時にふぬけた面を見せるな。それよりも食後の菓子は本当にあるのだろうな」
「結局それかよ…ちゃんと準備してあるから安心しろ」
冷蔵庫の中で冷やされた牛乳ゼリーは綺麗に固まっているはずだ。
「ならば良い」
満足げなその毛利の一言と共に穏やかな夕食は再開されたのだった。
「牛乳パックで直接冷やすなぞ…固まっておるのか、それ」
「三時間ぐらい入れておいたから大丈夫だろ」
牛乳パックの口を開くと固まった牛乳ゼリーがその姿が見える。
「毛利、でっかいスプーン貸してくれ」
「うぬ」
毛利から受け取ったカレーなどの時に使われるスプーンでゼリーを器にすくっていく。
後は好みで黒糖シロップをかけていけば良いだけなのだが、個人的な考えから、元親は先にかけておく。
「…好きな量だけかけて良いものではないのか」
「あんたに任せたら牛乳ゼリーが見えなくなるまでかけそうで嫌だ」
「…チッ」
「本当にやる気だったのかよ!!」
なにはともあれこれでデザートは完成した。
そして、一口食べた瞬間、毛利はまた開眼した。
「…なんと…!!黒蜜とは本来こうやって食べるものなのか…!!」
「…うん、毎度の事だけどその顔やっぱ怖いわ…」
ガッ、と見開かれる瞳に軽く恐怖を感じる。
「今日は牛乳にしたけど豆乳にしても美味いんだ。あときなことかかけてもいけるぜ」
「美味いものに美味いものをかけると何故このように美味さが増すのか…うぬ」
どこからどう見てもご満悦な表情の毛利。
彼はどうやら甘味が絡むと頭の回線が緩むらしい。
「…でも、政宗ならこれになんかとんでもないもんかけるんだろうな…」
本日、味覚音痴であると判明した友人を思い出す。
甘いものに辛いものをかけるのが好きな彼に任せたら何をかけるのだろうか。
タバスコ?醤油?ソース?
いずれにしろとてもじゃないが美味そうには思えないのだが、政宗の味覚が心配だ。
「伊達の小倅はそんなに奇っ怪なものをかけて喰らうとは…馬鹿か」
簡単にあらましを毛利に説明すると、実に毛利らしい返答が反ってきた。
「いや、甘味という素晴らしいものを冒涜している時点で許せぬな。
うむ、伊達の小倅はこの世から滅せよ」
「あんた勝手に俺の友達消滅させないでくれます!?」
たかが甘いもの、されど甘いもの。
毛利にとっては多分すごくとても大事な大事なものなのだ。
「美味くないものを美味いものにする者は讃えるが美味いを美味くないものにはけなす気しかしないぞ。特に、甘味は」
「わかった、あんたの甘味にかける情熱はわかったから。このゼリー、俺の分も喰って良いから落ち着け」
言うや否や、すでに自分の分を平らげた毛利は瞬く間に元親の器を手に取った。
そうして、過去の毛利を知る人ならば誰もが驚くような穏やかな笑みを浮かべていたことを、元親は知るよしもなかった。
この日漬けられた大量のピクルスは、毛利家の常備菜となったのだが、規格外の胃袋の屋主によって割と早いペースで消化されていったこと、
そして、小瓶に漬けられたピクルスは政宗に送られた事は、また後の話である。
○5人の学部は想像です。もとい妄想です。
都市部の大学は学部によってキャンパスが複数あって結構離れてたりするのですがこのお話はあくまで二次創作なので全員同じキャンパスです。
そしてアニキの学部変更。
工学部→理工学部です。
ロボットロボットキャッホーイ、と勉強してるアニキかわいいよアニキ。
幸村は本当に教育学部とどっちか悩んだんですがやっぱスポーツだろうとスポーツ学部に独断と偏見の元、決めました。
慶次は古文でも読んで古代の恋でも紐解いてたら良いですよ。
ちなみに関係ないですが、自分は大学の希望学部を高2当時の担任に伝えたところ
「お前は絶対に国文科行って古文読んでそうな顔してたのに…!!」
と非常に残念な顔して言われた覚えがあります。
古文読んでそう、ってどんな顔だ。
あとチャージの音声云々は実体験です。
「ワオンって鳴った!?」
「そりゃ鳴るわww」
一緒にいたうずみさんと居合わせた店員さんに大笑いされた事は未だに忘れられません。
恥ずかしすぎて。
今回の作業用BGM アニメバサラのサントラ
~牛乳ゼリー黒蜜がけ~
「…緊急事態だ…!!」
いつもの面子でだらだらしていた昼食中、いつもより遅れてやってきた政宗の尋常ならざる勢いにその場にいた皆が動きを止める。
焦った様子で飛び込んできた彼の本名は伊達政宗というこの男は元親と同じ大学で学ぶ友人だ。実家は資産家で、所謂いいとこのお坊ちゃんという奴なのだが、案外付き合ってみたら面白い奴なので入学してから今に至るまでつるんでいる。
右目の医療用眼帯が印象的な所謂イケメンである。黙っていれば、であるが。
「緊急事態って…政宗どうしたの?」
コンビニで買ってきたサンドイッチにかぶりつこうとしていたのはオレンジ頭が印象的な猿飛佐助、派手な外見とは裏腹に人当たりは良く、男女問わず知り合いの多い情報通。
しかし元親にとっての彼の印象は色々あってオカンだ。
「政宗殿の緊急事態…は!!まさか弁当を忘れられたとか!?のおおおお!!某の弁当は渡せませぬぞおおおおお!!」
「…真田、シャラップ…!!俺をお前と一緒にするんじゃねえ!!」
「はぁっ!?」
重箱入りの巨大なお弁当を取られまいと必死なのは真田幸村。余談だが彼が身につけている服は常に赤だ。何故かは知らないが。佐助の幼なじみで政宗とは高校時代からの同級生。叫び癖のせいもあってか一緒にいると非常に暑苦しい。
そんな彼は自身の発言が原因でデコピンされていた。
「で?緊急事態って何なんだい?穏やかじゃないね。ねぇ元親」
本日オススメAランチに再び手を付けようとしているのは男にしては長い髪が目立つ前田慶次。唯一彼は元親の高校時代の同級生だ。
とは言っても家庭の事情で転校を繰り返していた慶次とクラスメートだった期間は数ヶ月しかないのだが。何故か不思議とメールでのやりとりだけは続けており、大学入学でこちらに引っ越したのを機に再会したのだ。
「まぁな…でも政宗の事だからな」
持参していたおにぎりに食らいつきながら元親は言葉を返す。
政宗は、黙っていればイケメンなのにもかかわらず結構どうでもいいことでよく驚いている事が多い。先日は皆で行った某ショッピングセンターのチャージの音声で心底驚き「ホワッツ!?」と狼狽えていた。政宗は何だかんだ言って世間知らずな所あるからね、とは高校の同級生だったという佐助の談だ。
だから今回もその類かと思い、話半分に聞いていた。
「で、結局緊急事態ってなに?」
そう佐助に問われた所、政宗は溜息をついて、悲痛な面持ちで答えた。
「…俺の部屋が…野菜に侵食される…!!」
政宗には長年、彼専属の使用人がいるらしい。
どんだけ金持ちなんだと思い、元親は目が点になりつつも話を続けさせる。
高校時代の3年間はその使用人が身の回りの世話から何から全てをしてくれていたが、父親の仕事の都合もあり、今年の3月末、即ち政宗の大学入学の直前に地元に戻っていったとのこと。長年世話してくれていた使用人がいなくなることに若干の寂しさを覚えつつも、お目付役とも言えるその男がいなくなることで羽目を外せると浮かれて過ごしていたらしい。
それから3ヶ月経った今、ほとんど連絡が無かった使用人から先ほど電話に連絡が来たというのだ。曰く『政宗様がいかような生活をなされているか心配ですので、栄養が取れるようにいくらか送らせて頂きました』
政宗は焦った。
使用人は趣味が家庭菜園というぐらい、野菜好きな男だったからだ。
そんな男が送る贈り物など、想像するまでもない。
野菜だ。
巨大なダンボールにどーんと野菜が詰められて送られてくるのだ。
以前一緒に暮らしていた頃は、実家に手配して送ってもらったものをその使用人が全て処理していたらしい。
政宗は料理をしない。
本人の理由としては「面倒くさい」からだ。
普段はもっぱら外食とコンビニご飯で過ごしている。
だが、高校時代を知る佐助と幸村は政宗の料理スキルに関してこうコメントしていた。
「なんていうか…見た目はともかく、味が豪快なんだよね…命の危機を感じるほどに…」
「政宗殿の料理は非常に見た目は美しいのでござる…そして…奇っ怪な味付けでござる!!」
基本的に好き嫌いなく何でも食べる幸村ですら戸惑う程の味付けらしい。
切って鍋に入れるまでは何とかなるらしいが、
味付けの段階で何らかの仕掛けが施されたのでは無いかと思うぐらい激変するらしい。
そのお陰で高校時代の調理実習で二人は地獄を見たようだ。
見た目はまともだが味付けは極悪。それが政宗の料理スキルだった。
本人はその極悪なスキルを理解していないが、基本的に面倒なので作りたくないというのが本人の言い分だった。
最も高校時代は幸村と佐助の二人が必死になってフォローに回っていたのだろう。
「政宗、あのさ…その、今日のお昼ご飯…なに?」
おもむろに政宗が取り出した商品を見て軽く顔を引きつらせた慶次が尋ねる。
すると政宗は得意げに答えた。
「ハッ…期間限定、激甘辛あんぱんだ!!ラー油の辛さとあんこの甘みがなんとも」
「うんごめん、そこまででもうわかった。ごめんね」
どこの商品開発部が作ったんだろう、という代物だ。
そういえば4月に会った時からおかしなものばかり食べていたような気がする。
甘い物には香辛料、辛いものには甘みを徹底的に足していたことを思い出した。
普通のものも食べる事は食べていたが、それ以外の妙な味付けをしていた姿が頭をよぎる。
政宗は、味音痴なんだ。
元親と慶次は改めてその事実を理解した。
「…というかその使用人も、政宗の味付けが凄いって知ってるんじゃねぇの…?」
話を聞く内におにぎり弁当での昼食を終えた元親がペットボトルのお茶を飲み終えて話す。料理はしたがらず、したとしても作るのは本人はさておき、他人にとっては殺人兵器もどきの料理。そんな人間に何で食材を送りつけるのか。不親切にも程があるではないか。
「…だよねぇ、あとせめて調理済みのおかずとか送ってもらった方が本人も食べやすいよね…」
元親の発言に同じく食事を終えた慶次も頷く。
しかし、そこで佐助は更に首を横に振った。
「駄目なんだよ…あの人、片倉小十郎さん。俺と旦那は片倉さんって言ってるけど。料理は出来ておいて損が無いから、ってそういう気遣いで素材だけ送っちゃうんだよ。…あと政宗の料理平気で食べられちゃう人だから気付いてないんだよ…」
「片倉殿の料理は美味しいのでござるが…何故平然と政宗殿の料理を食べられるのか、某は未だに不思議でござる…」
「…すげぇなその人」
「なにそれこわい」
想像を絶すると評判の政宗の料理を平らげる人間がいる事が信じられない元親は思わず呟く。というか、愛が重すぎるように感じる。
「ほんとにね…」
佐助と幸村曰く、その片倉さんなる使用人は思わず職業を疑ってしまうような厳つい外見の持ち主らしい。しかし基本的に真面目で礼儀正しい人なので高校時代は二人とも世話になったとのことだった。
「いい人だし政宗のお父さんの会社でも凄い有能らしい凄い人なんだけどさ…なんだけど、政宗には厳しくも甘いっていうのか…なんというか」
「非常に世話焼きなのでござる。」
うんうん、と頷く佐助と幸村に対し、何故か得意げに政宗は答える。
「そりゃあ小十郎は俺のだからな!!有能なんだぜ!!」
腕を組んで満面のどや顔。
イケメンだから似合う。しかしイケメンだからこそ色々台無しである。
「…でも教育係としてはツメが甘かったみたいだね…」
慶次の呟きに皆揃って心の底から同意したのだった。
「で、お前ら誰か野菜いらねーか」
ようやく本題とばかりに政宗が話し出す。
使用人、片倉さんによると既に荷物は送られ、今日にでも届くとのこと。政宗は一切料理をしたくないので手を付ける気は無いがそのまま傷ませるのも忍びないので譲れる人間に譲りたいとのことだった。というかもらったものは政宗自身が食べなくても良いのか尋ねたところ、今ここで喰っても喰わなくても帰ったら野菜満載料理のオンパレードだぜ…、とどこを見ているのかわからない視線のまま答えられた。なのでそれ以上は皆、何も言わず、そして聞かなかった。
「…某と佐助は日頃であれば頂きたいところなのですが、親方様が今日から町内会の旅行に行っていて料理が出来る人間がいないのでござる…うぬ」
幸村と佐助は同郷の出身であり幼なじみでもある。高校入学に伴い、共に上京してきた。それから今に至るまでずっと世話になっているのが武田信玄なる下宿屋の主であり二人は、特に幸村は彼を親方様と言い慕っている。元親も何回か会ったことがあるが、非常に豪快な人である。
その彼は今日の朝から友人との旅行でしばらく不在とのこと。日頃は信玄特製の弁当を携えてやってくる幸村もコンビニ等に頼る他ない。佐助も日頃は弁当の恩恵に預かっているが、今日はたまたま早朝のコンビニバイトを終えてすぐに大学に来たので朝食と昼食を購入してきたとのことだった。
ちなみに幸村と佐助だが、掃除洗濯はさておき、料理は最低限しかしない。作るには作るが非常に男らしいと評価される料理になる、とは幸村の談であり、作らないで良いなら作らない、というのが佐助の談だ。更に言うと幸村は剣道部の部活、佐助は佐助でバイトを掛け持ちしており中々忙しい日々を過ごしている。
そんな多忙な二人に対して、調理時間がかかる山のような野菜を押しつけるのは酷というものだろう。
「そうだね、俺と旦那は悪いけどパスだわ。慶次は?」
「うーん…まつねえちゃんならなんとかしてくれると思うけど、今トシに付いて京都に行っちゃってるんだよね。」
まつねえちゃんとトシというのは慶次の叔父と叔母であり親元を離れた彼が現在共に生活をしている人達でもある。非常に仲睦まじい夫婦であるが、仲が良すぎて直視し辛いとは慶次の談である。そんな彼の叔父は現在京都に三ヶ月の単身赴任に行っている。叔母はそんな夫の身を案じて結構な頻度で京都に様子を見に行っているらしい。
「俺も1人でって言ったら最低限のものしか作れないから、やめとくよ」
「慶次殿も無理ですか…元親殿は?いかがです?」
「俺は…もらえるならもらう」
おじいちゃん子であり、幼い頃から祖父の影響で時代劇や時代小説に馴染んできたという真田の口調は年齢に似合わず非常に堅苦しい。そんな話し方に最初は戸惑ったものの今では大分慣れてきた。
「マジか元親?すっげー量あるけど大丈夫か?後でやっぱり嫌だとか言っても俺は聞かないぞ」
「料理すればいいじゃねーか。今なんか野菜高いしお得だろ、それ」
ここの所、気候やなんらかの影響で野菜は全般的に高いのだ。
雇い主である毛利は野菜好きでも無いが特に嫌いでもない。修羅場以外の栄養を管理する人間としては是非とも野菜を摂取してもらいたいところなのだ。
「…すぐにそういうコメントが出て来るのって元親だけだよ…本当…」
すぐ隣にいた慶次が溜息を吐きながら呟く。
「というかこのガタイと見た目なのに特技が家事全般で趣味が裁縫とプラモとお菓子作りって相当詐欺だよね…」
慶次に同意するかのように佐助も返す。
身長180cm以上、銀髪、隻眼とガタイの良さも含めてかなり外見上かなり目立つ特徴を持つ元親の特技及び趣味は異常にインドアに偏っている。体を動かすことは嫌いではないが、幼少期は体が弱かったので室内で一人遊びをすることが多かった。多分その名残だと自分では思っている。
「…元親殿は本当に運動系の部活に在籍しなかったのでござりますか?」
「毎朝筋トレとマラソンはしてたけど後は喧嘩ぐらい…?部活は…応援団の手伝いぐらいだな。あ、牛乳は毎日飲んでたわ。」
その答えを聞いて、くっと幸村は唇をかみしめる。
「某……まだまだ元親殿の身長にも及びませぬ…日々精進!!精進でござるうううううう!!」
「真田、そもそも体のつくりが違うから諦めとけ。あとビークワイエット!!」
「のおおおおおおおおおお!!」
でこぴんをくらいのたうち回る真田とて男性としてはさして低い部類ではないのだが、元親と比較すると低い部類に入ってしまう。顔は所謂ジ○ニ顔に入りモテるのだろうが、彼の理想は下宿の主である親方様。自分の顔の美醜など全く意識せず、ただひたすらに目標を追いかける男。
それが真田幸村だった。
その真っ直ぐさは危うさと紙一重ながらも好感が持てるものだろう。欠点は、いつでもどこでもすぐに叫ぶので、非常にうるさい。
「旦那、落ち着いてって…おっとそろそろ昼休み終わっちゃうよ。そろそろ戻ろうか?」
気がつけば昼休みが終わる15分前。
各自がそれぞれの教室にたどり着く時間を考えればそろそろ食堂を出なくてはいけない。
「ああ、じゃあ元親。講義終わったらメールするわ」
「頼む」
「次なんだっけ、基礎科目かな~、嫌だな。あれ、眠いんだよ」
「某も三講は一番苦手でござる…」
「旦那は三講に限った話じゃないでしょ」
いつものごとく昼休みを終え、5人はそれぞれの学部棟に赴くべく動き始めた。
そもそもこの5人は所属学部も異なれば所属サークルも異なる。
そんな5人が何故知り合ったのか、それがまさに縁だった。
元々、元親と慶次は高校時代の同級生であり、慶次が引っ越してしまった後もメル友としての付き合いがあった。それが大学入学を機に再会。昼食を一緒に取ったりしているうちに、今度は食堂で佐助と幸村と一緒になった。人見知りのしない2人と双方打ち解けあい、そうした時に紹介されたのが彼らの高校時代からの友人とされる政宗だったのだ。
そこから何故か意気投合し、つるみあい今に至る。
もちろんそれぞれの学部での友人はいるし、付き合いもあるがこの5人で集まるのはやはり何か別格だった。
慶次は文学部。主に古典文学を専門に学びたいらしい。
古文に秘められた恋を紐解くんだ、と言っていたがどこまで本気なのか定かではない。本好きが高じて古書店のバイトをしている。
幸村はスポーツ学部。
競技指導と健康管理を学び、いつか親方様のような素晴らしき人間になりまする!!というのが彼の目標だ。一年生ながら剣道部のエースでもある。ただし何故か時に二刀流となる。本人曰く2本持つと落ち着くのでござる、とのこと。
その幸村の幼なじみである佐助は情報科学部。
パソコンが好きで、将来はエンジニア志望。情報通で、いつも複数のバイトを掛け持ちしている。クールな印象とは裏腹に結構世話焼きで学部が違うのに幸村の選択教科やらなにやら全部把握している凄い奴。当人は「だって旦那って小学校の頃から自分で教科書準備しない子だったから今でも不安でさ…」。と乾いた笑いを見せていた。多分いつでもどこでも幸村のオカン。多分というか間違いなくそう。
政宗は法学部。
昔外国に住んでいたとのことで、彼の会話の端々には微妙な英語が混ざる。サークルには所属していないが、放課後はよく図書館に入り浸って過ごしている。そのイケメンぶりからは想像出来ないほどに人見知りなせいもあってかサークルに入れないのでは、とは佐助の話だが真偽の程は定かではない。
そして元親は理工学部だ。
幼少からのロボット好きが高じて選んだ学部学科でもある元親は非常に満喫している。そんな元親は入学当初から家政婦のバイトが決まっていたので特定のサークルには所属していない。
学ぶジャンルが違う人間の集まりだというのに、仲良くつるめるというのは不思議だ。
だけれどもそれはありがたい事である。特に元親はその外見から遠巻きにされることも多いので普通に接してもらえるのはそれだけでありがたく感じるものだ。最も一回でも関わった人は、思った以上に害がない存在だと認識してはもらえるのだが、最初の一回というハードルは結構高い。
外国の血を引く母から色濃く受け継いだ外見は、昔ほどではないが未だに元親の悩みの種であった。ちなみに妹は全く似ておらず、どこからどう見ても日本人である。単純に言うと自分は母似、妹は父似なのだ。
そしてもうひとつの悩みの種は左目を覆う医療用眼帯だった。
幼少時の交通事故で傷を負った左目は歪な傷跡を残すと共に未だに閉じられており、何の光も映せない。傷を見せておくと相手も不安にさせるので、日頃は医療用の眼帯で覆っている。幼少の頃からなのでさほど生活に不便さは感じない。むしろ今更両目が見えると言われたほうが違和感を感じるだろう。この怪我が原因で半年ほど入院し、本来の同級生よりも一年遅れての小学校入学となった事は未だに覚えている。もとよりひ弱で人見知りだった元親は事故を機にすっかりひきこもりがちな子供になっていった。
しかし、たまたま担当だった小児科医が親身に面倒を見てくれたお陰で立ち直れたのだ。薩摩弁が特徴的なあの医師は、決して焦らず怒らず、それでいて親身に元親と両親を支えてくれた。そうして元親は体を動かすことを始め、友達と遊ぶ機会も増えた。
そして、成長期を迎えるにつれ小柄だった元親は急成長し、同年代の男子よりも頭一つぐらい大きくなっていたのであった。加えて母親譲りの銀髪と青い目、おまけに左目は眼帯。どこからどう見ても目立っていた。中学と高校からはその目立つ容姿にいちゃもんを付けられ喧嘩と、放課後は妹の世話に費やす日々。その最中も、何だかんだ言って先輩には恵まれ癖のある後輩に囲まれ何やかんやと楽しい時間を過ごすことが出来た。
元親は人の悪意に晒されることもあったが、それ以上に人の善意に囲まれて育った。だから彼は無意識に人の悪意に敏感で、同時に人の善意に聡い。そうして彼はいつしか頼れる兄貴分として慕われる存在になっていったのだった。
そして今も、なんやかんやいっても周囲の人に恵まれた環境である事は元親にとっては何よりも喜ばしく感謝すべき事だったのだ。
「何だ、これは」
「何って…野菜」
政宗宅からダンボールの野菜を預かり、政宗の運転する車でそのまま毛利宅に向かった元親はリビングでサンデーことル○バ観察に勤しんでいた毛利からそう声をかけられた。
「政宗の実家から送ってきたんだけど、あいつ自分が食べないからって丸々俺に押しつけたんだよ…っと」
箱を開けて中身を改めていく。
色とりどりの野菜がそれはもう美しく、そして大量に詰められていた。
「すんげー!!うまそー!!」
「ふん、伊達家の小倅か」
野菜に目を輝かせる元親とは裏腹に毛利はその顔を皮肉気に歪ませる。
「あれ?毛利何で政宗の事知ってるんだ?」
そもそも下の名前しか出していないのに何故名字も知っているのだろう。
「昔、取材で伊達家に行ったことがあってな。その時に会ったことがある。…なんとも小生意気な童だったが、その様子では今もさほど変わらぬようだな。まさか貴様と関わりがあるとは、世間は実に狭いものよ」
…毛利の言う昔っていつなんだ…。
10年前?20年前じゃ政宗生まれていないし、一体いつなのだろうか。年齢不詳の雇い主に若干の不安を感じつつも元親は答える。
「…まぁ、でも悪い奴じゃねーぞ。」
政宗は癖こそ強いが悪い人間ではない。完全なる善人でも無いのは確かだが。かくいう元親も自分が根っからの善人だなんて思ってもいないが悪人だとも思っていない。
「貴様は単純過ぎる。旧家の人間など一枚も二枚も裏があるのは当然よ。本家の跡取りなら尚更な。」
そういう毛利の目は冷ややかで、でもそしてどこか悲しげに見える。
基本的に毛利がこのように感情を表すのは珍しい、と考えていたら毛利はけろっと呟いた。
「…と以前書いた話のネタにしたことがあるのだが、実際はどうなんであろうな?」
「…珍しくそんな顔すると思ったら仕事のネタかよ…」
毛利元就、職業は小説家。
ネタ選びの手段、基本的にあまり選ばない。
最近のからかい対象、元親。
永遠のイビリ対象、担当。
そして年齢不詳。
「してこの野菜の山、どのように調理するのだ貴様は」
我は腹が減ったぞ、と顔に書いてある毛利はすでに今すぐ食べられるトマトに手を伸ばしてかぶりついている。
「うーん…山ほど有るから食べきれないのは干すかピクルスでも作るか。確か、ここんちでっかい保存瓶あったよな」
「食料庫にあろう」
台所の隣に作られた食料庫には日頃使っていない調理道具もしまわれている。
早速元親は確認すると、保存瓶と共に恐ろしいものを発見した。
「…毛利ー…なんでかしらねぇけど、すんごいでかい黒糖シロップがあるんだけど…」
「おお、そこにあったか」
保存瓶と共に元親が見つけ出したのは超巨大な黒糖シロップ(未開封)だった。
「そこにあったかってなに!?あんた料理しないのになんでこんなの買ってるの!?」
「黒砂糖は手軽なおやつではないか。黒糖シロップはそれの液体版。おやつだ。」
自信満々に言い切る毛利に思いっきり突っ込んでしまう。
「違う。あんたのソレおやつ違うから!!調理に使ってこそのシロップだから!!そのまま食うな!!」
黒砂糖を直接かじるのはアリだと元親も思っているがさすがにシロップをおやつにするのはナシだと思う。この男絶対にメープルシロップとかも直接飲んでいるに違いない。
そして悲しいかなこういうときの元親の予想は高確率で当たっている。
「うぬ…ではどのような菓子があるというのだ?」
「…あんたそれも知らないで買ったのかよ…手っ取り早いのはホットケーキにかけたり、白玉にかけたり……とにかく普通のシロップと同じように使えばいいんだよ」
「…?同じように『食べて』いるが?」
そう言って毛利が差し出したのはマグカップ。これに入れるつもりなのだろうか。
-やっぱりこいつ、シロップ=そのまま食べる物、だと思ってる。
間違っていないが、合ってもいない。
ー恐るべし毛利クオリティ…!!
一般常識は持ち合わせているように見せておきながらも調理関係のこの壊滅的な有様に元親は驚愕した。
「…わかった。メシの後に食わせてやるからちょっと待ってろ…」
「うむ」
菓子作成の約束を取り付け、非常にご満悦な毛利とは裏腹に心の底から疲れた元親だった。
幸い今日は三限で終わりだったのでまだ時間はあり、おやつがわりに甘いトマト三個を平らげた毛利は一仕事してくると去っていった。
今のうちにデザートと野菜の準備をしてしまおうと元親はエプロンを着けて手洗いし調理準備を始める。
元親は冷蔵庫を確認すると、未開封の牛乳が一本有るのを発見する。
「よし、これとゼラチンあれば大丈夫だな」
まず粉ゼラチンに適量の水をふりかける。
牛乳の内、コップ一杯程度を小鍋にかけて砂糖を適量入れて混ぜながら加熱する。
湯気が立ってきたら水を含ませておいたゼラチンを入れて煮溶かす。
ゼラチンが完全に溶けてきたらまた牛乳を加えて混ぜる。
混ざりきったら今度は漉しながら元の牛乳パックに戻し入れ、口を閉じて全体をよく振る。
あとはそのまま冷蔵庫で冷やせば牛乳ゼリーの完成だ。
「あとは…ピクルスとマリネかな」
ミニトマト、ナス、キュウリ、パプリカ、セロリ…実にマリネに適した野菜が山のように箱の中に積まれている。
「…これ全部個人の菜園だったら…こえぇな…」
だとしたら好意だとしても愛が重い。そして、どうみても一人暮らしの男が食べきれる量ではない。あれもこれもと思っている内にどんどん増えて言ったのだろうか。
「あんたもっと食べなきゃ駄目よ!!とかいうおばちゃんみたいなもんかな…」
会ったことはない片倉さんの印象が、どんどん親戚のおばちゃんに近づいている元親だった。
「ピクルスはまだ喰えんのか?」
「もっと漬かってからの方がうまいからな。今日はマリネとサラダでがまんしとけ」
「うむ…楽しみは取っておくべきか」
「ていうか、あんたはまっ先にトマト食べてんじゃねぇか…」
今日のメニューはわかめのスープに牛肉とセロリの炒め物、だし、なすのマリネと政宗からもらった野菜づくしの夕食となった。
「なーんか、いつものことだけど俺が作ると和洋折衷の極みみたいな献立になるな…」
作りたいものと、今ある食材を兼ね合うよう調整するとどうにも和洋折衷の献立になってしまう。栄養バランスは良いと思うのだが、折角だからジャンルも合わせた方が良いのかと元親は思う。
「我は構わぬ。喰えればソレでよい」
「…そーですか」
大量のおかずを前に嬉しげな毛利にはあまり関係の無い事項であったようだ。
「貴様そもそも一人で喰らうレトルトの味気なさを知っているか?」
もきゅもきゅとおかずを摂取しながら毛利は元親に話かける。
「…あんまり…ってか、ほとんど食わねぇな」
小学生の頃から両親は働いていたが両親の主義かあまりそういうものは食べさせてもらえなかった記憶がある。
成長してからは自分で作ることを覚えたのでまず食べたことがなかった。
「白米はレトルト、おかずはレトルトと冷凍食品、スープはインスタント。
こんな生活を一度でも続けると手作りと言うだけで有り難みが異様に増すぞ。」
「それって、俺の料理は手作りだからなんとか喰ってるっていう意味にも捉えられるんだけど…」
ーもしかして、俺の料理は毛利にとってはそんなに美味くない?
そもそも元親は料理の専門的な修行を積んだわけではない。
あくまで家族のための料理を作っていただけに過ぎない。
ひょっとしたら我慢させていたのだろうか。しかしこの男なら我慢する間もなく口から何かが飛び出すはずだ。
考え込む元親の様子に気がついたのか、ふむ、と毛利は一度箸を置く。
「手作りだから美味いと思うことに否定はしないが、それだけではないぞ。」
「え?」
「お前の料理は、切り方もでかいし、確かに雑な部分もあるが、暖かいものが感じる。
それはお前が長年家族を想って作ってきた、その積み重ねの表れではないか。
以前の家政婦の味とはもちろん異なるが、我はこの味は嫌いではない。」
言葉を続ける毛利の顔は何故か穏やかだった。
「えー…もしかして、褒めてくれてる、のか?」
その言葉がなんだか信じられず、元親の頭が付いていけない。
そんな元親に対し、毛利はにやぁ、と思いっきり嫌な笑みを見せる。
「なんだ、不満か。なら思いっきり罵られたかったか?この変態めが」
その顔は何とも言えず楽しげで、見る人が見れば顔に『ドS』と書いてあるのが見て取れただろう。
「違ううううう!!なんでそうなるんだよあんたは!!」
ちょっと良い話が台無しだ。
さすが毛利、人とはひと味もふた味も違う男。
「ふん。食事時にふぬけた面を見せるな。それよりも食後の菓子は本当にあるのだろうな」
「結局それかよ…ちゃんと準備してあるから安心しろ」
冷蔵庫の中で冷やされた牛乳ゼリーは綺麗に固まっているはずだ。
「ならば良い」
満足げなその毛利の一言と共に穏やかな夕食は再開されたのだった。
「牛乳パックで直接冷やすなぞ…固まっておるのか、それ」
「三時間ぐらい入れておいたから大丈夫だろ」
牛乳パックの口を開くと固まった牛乳ゼリーがその姿が見える。
「毛利、でっかいスプーン貸してくれ」
「うぬ」
毛利から受け取ったカレーなどの時に使われるスプーンでゼリーを器にすくっていく。
後は好みで黒糖シロップをかけていけば良いだけなのだが、個人的な考えから、元親は先にかけておく。
「…好きな量だけかけて良いものではないのか」
「あんたに任せたら牛乳ゼリーが見えなくなるまでかけそうで嫌だ」
「…チッ」
「本当にやる気だったのかよ!!」
なにはともあれこれでデザートは完成した。
そして、一口食べた瞬間、毛利はまた開眼した。
「…なんと…!!黒蜜とは本来こうやって食べるものなのか…!!」
「…うん、毎度の事だけどその顔やっぱ怖いわ…」
ガッ、と見開かれる瞳に軽く恐怖を感じる。
「今日は牛乳にしたけど豆乳にしても美味いんだ。あときなことかかけてもいけるぜ」
「美味いものに美味いものをかけると何故このように美味さが増すのか…うぬ」
どこからどう見てもご満悦な表情の毛利。
彼はどうやら甘味が絡むと頭の回線が緩むらしい。
「…でも、政宗ならこれになんかとんでもないもんかけるんだろうな…」
本日、味覚音痴であると判明した友人を思い出す。
甘いものに辛いものをかけるのが好きな彼に任せたら何をかけるのだろうか。
タバスコ?醤油?ソース?
いずれにしろとてもじゃないが美味そうには思えないのだが、政宗の味覚が心配だ。
「伊達の小倅はそんなに奇っ怪なものをかけて喰らうとは…馬鹿か」
簡単にあらましを毛利に説明すると、実に毛利らしい返答が反ってきた。
「いや、甘味という素晴らしいものを冒涜している時点で許せぬな。
うむ、伊達の小倅はこの世から滅せよ」
「あんた勝手に俺の友達消滅させないでくれます!?」
たかが甘いもの、されど甘いもの。
毛利にとっては多分すごくとても大事な大事なものなのだ。
「美味くないものを美味いものにする者は讃えるが美味いを美味くないものにはけなす気しかしないぞ。特に、甘味は」
「わかった、あんたの甘味にかける情熱はわかったから。このゼリー、俺の分も喰って良いから落ち着け」
言うや否や、すでに自分の分を平らげた毛利は瞬く間に元親の器を手に取った。
そうして、過去の毛利を知る人ならば誰もが驚くような穏やかな笑みを浮かべていたことを、元親は知るよしもなかった。
この日漬けられた大量のピクルスは、毛利家の常備菜となったのだが、規格外の胃袋の屋主によって割と早いペースで消化されていったこと、
そして、小瓶に漬けられたピクルスは政宗に送られた事は、また後の話である。
○5人の学部は想像です。もとい妄想です。
都市部の大学は学部によってキャンパスが複数あって結構離れてたりするのですがこのお話はあくまで二次創作なので全員同じキャンパスです。
そしてアニキの学部変更。
工学部→理工学部です。
ロボットロボットキャッホーイ、と勉強してるアニキかわいいよアニキ。
幸村は本当に教育学部とどっちか悩んだんですがやっぱスポーツだろうとスポーツ学部に独断と偏見の元、決めました。
慶次は古文でも読んで古代の恋でも紐解いてたら良いですよ。
ちなみに関係ないですが、自分は大学の希望学部を高2当時の担任に伝えたところ
「お前は絶対に国文科行って古文読んでそうな顔してたのに…!!」
と非常に残念な顔して言われた覚えがあります。
古文読んでそう、ってどんな顔だ。
あとチャージの音声云々は実体験です。
「ワオンって鳴った!?」
「そりゃ鳴るわww」
一緒にいたうずみさんと居合わせた店員さんに大笑いされた事は未だに忘れられません。
恥ずかしすぎて。
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色々説明
拍手現在豊臣家転生パロ中学生編入ってます
(現在2本 家三 チカナリです)
注意事項
・フリーリンクじゃないです、基本的にはリンクはお断りしています
・ひっそりこっそりが信条なので、黙々と
・捏造、not公式のこばなしが多いので、スルー推奨
ラキドでは幹部全員を溺愛しておりますが、ベルナルドとイヴァンは特に偏愛。ばさらは家三とか奥州の愉快な仲間達と毛長がメインです。うずみさんが現在官三とか官佐にずっぽりとはまり中。
基本は、愛想のかけらもない「ネット怖い~」の書き手が二人で色々書いている場所です。
書いている人
みっし
・生真面目で堅物でムキムキな男性と一見そうじゃなくても根は真面目極まり ないキャラをこよなく愛している、がんかたうるふの片割れ。編み物とお菓子作りが趣味という、第三者曰く可愛らしい一面を持つ反面、パニクると踊ったり、オロオロしだして周囲は見ていて楽しいらしい。荒ぶる舞は、職場の名物だったりする……らしい。
イヴァンちゃんと片倉さんとシズちゃんとスカイハイさんと陛下を思いっきり愛している。好きなアニメは銀魂と最近はFate/zero。型月ファンというよりは元から虚淵ファンでうずみさんからオススメされまくった末にようやっと手を付けて完読した。ライダー組おいしいです。エクシリアではダントツで陛下が好き。陛下が使用可能になる完全版があるなら複数買いしても構わないとのたまう日々。バサラの好きキャラは片倉さん一強だったはずなのに最近はアニキも熱い。かっちり着込むキャラがすきだったはずなのにいきなり露出度が高いキャラを好きになったのは何故か悩む日々。二次元の向かう愛と同じぐらい甥っ子への愛を叫んでいる気がしてならない。
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うずみ
・相方を愛しすぎている変な人。趣味は畑仕事に漬け物作り、好きな物は不幸属性の美人(男女問わず)。ばさらでは石田さんと黒田さんをこよなく愛していたり、赤い子めんこいにゃぁとたまに叫んでいる。ついったのフォローは下 のアイコンから。
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ばさら垢できました
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