こちらはサークル「がんかたうるふ」のうずみとみっしの二人組が、ラッキードッグ1とばさらのこばなしを黙々と投下する場所です。
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まさかのまさかで続いています。
時系列では前回のふつうのひ、より以前。
二人が出会って割とすぐの話です。
瀬戸内(多分ナリチカ)
毛利さんキャラ崩壊。
カッコイイアニキはいません。
そんなんですがよろしければどうぞ。
書いた人:みっし
時系列では前回のふつうのひ、より以前。
二人が出会って割とすぐの話です。
瀬戸内(多分ナリチカ)
毛利さんキャラ崩壊。
カッコイイアニキはいません。
そんなんですがよろしければどうぞ。
書いた人:みっし
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作家さんと大学生~いっしょにかいもの・家電編~(瀬戸内・現パロ)
~炊飯器ケーキの生クリームイチゴシロップソースがけ~
それはまだ、二人が出会って間もない春のころのこと。
毛利宅の炊飯器が壊れた。所謂寿命という奴だ。
そもそも最初に台所を見せてもらったときから今では見ないほどのシンプルなデザインのものだったと元親は記憶している。
毛利にいつ頃買った物か尋ねると「…十、年前…ぐらい?」と大層危うい返事が返ってきた。十年前というと元親なぞはまだランドセルを背負って学校にいっていたぐらいの年齢だ。そんな時分からよくぞ無事に使われてきたものだ。最も予約機能が付いただけのシンプルな炊飯器だからこそここまで使えたのかもしれない。以前いたという家政婦さんが綺麗に使ってくれていたお陰もあるだろう。
(今までこの大食らいを支えてくれてありがとうございました)
元親は物言わぬ一升炊きの炊飯器に対して手を合わせる。
一人暮らしで一升炊きの炊飯器を持っている人間は、あまり見たことがない。
要はそれだけ毛利が大食いというだけだ。
しかし炊飯器が無いという事は米が炊けないという訳であり、家主であり大食らいの毛利にとっては大変困る事態になっていた。正確に言えば、毛利は一切家事をしないので毛利宅の家事手伝いである元親にとっての困った事態であるが。
お陰で今日の朝は鍋炊きだ。久しぶりに炊いたので少し焦げてしまったが「それもまたよし」と笑う毛利は何なく平らげそうだ。まだ育ち盛りの範疇に入るであろう元親と比較しても毛利は非常によく食べる。その割に見た目は細い。全く筋肉が無いわけではないだろうが、体格が良い部類に入るであろう元親と比較するとその差は歴然だ。一度どこにその栄養が行っているのかと本気で尋ねたが、「凡人には不可能ぞ」と鼻で笑われ嘲笑された。まぁ一言で言ってしまえば毛利は非常に燃費が悪く、一度の食事で大量摂取しても追いつかないぐらい燃費が悪いのだと言うことを元親は知った。
だから食べる気力も無い締め切り明けは家政婦こと元親がいないためひたすらに寝てなんとか体をもたせているらしい。修羅場中の元就の命の綱は冷凍食品とレトルト食品と栄養ドリンクだ。外食は、と尋ねると「修羅場中の我に外に行く余裕があると思うのか」と切り替えされた。外出する時間すら惜しいのだろう。恐ろしい。電子レンジの加熱とお湯を沸かすしか出来ない男がよく今まで生きてこられたものだと本当に不思議に思う。そしてよく病気にならなかったなー、と。
一方の元親はこの年代にしては可もなく不可もなくといった量しか食べない。むしろ甘味を食べない分毛利よりも食べる量は遙かに少ないだろう。
チラリと前を見やるとそんな元親の考えなど知ってか知らずか大量の白米とおかずを平らげていた。ちなみに今日は塩鮭の焼き魚、ほうれん草の納豆あえ、葱入り卵焼き、キャベツと油揚げの味噌汁で構成されている。米を炊く時間でできあがるおかずなどたかがしれているが毛利はご機嫌だ。まぁ一人でいて米があったら白米になめたけ、白米に漬け物で過ごしているような人間なのだからおかずがあるだけで嬉しいものなのかもしれない。
ちなみに何故元親が早朝にも関わらず毛利宅にいるのかというと米が炊きあがらぬぞと電話でたたき起こされたからである。修羅場以外は非常に早起きな毛利に起こされたため元親自身は非常に寝不足だ。講義が終わった後ならともかく、早朝に米を炊きに来るのはキツイものがある。今日が休みでよかった、と元親は心底思った。これが平日なら一限目は確実に寝る自信がある。
毛利自身は鍋炊きの米を気に入っているようだったが、元親は自身の睡眠確保の為にも何としてでも新しい炊飯器を早急に買ってほしい気持ちで一杯だった。
「…早めに新しい炊飯器買った方が良いと思うぜ」
食後のほうじ茶を準備しつつ元親は毛利に話しかける。
「我は鍋炊きでも土鍋炊きでも一向に構わんぞ」
鍋底のおこげが気に入ったらしい毛利は、そう元親の話に答えた。
確かにこげは炊飯器では滅多に出来ないものだろうが、常に鍋炊きは元親が疲れる。
「…いや確かに食べる分にはどっちでもいいけどよ、
やっぱりなんだかんだ言って炊飯器あったら便利だぜ。簡単な菓子も作れるしな」
-菓子。
元親が発したその一言で元就の目の色が変わるのを見逃さなかった。
元就は大食らいだが、中でも甘味は別格な程に好んでいることを短い間しか付き合いのない元親でも知っていた。なんせ初対面の直後に手土産に持っていった大福6個を瞬く間に平らげたのだから。
「菓子…だと…我は食べていないぞ」
貴様いつ勝手に作った、と非常に恨みがましい視線が元親に伸びてくるのを溜息をついて返す。
「ここでじゃねーよ、実家で妹に作ってやったんだ」
『おにいちゃん、ポーンとケーキを作っちゃって下さい!!』
にこにこしながらお願いしてきた妹の姿が今でも脳裏に浮かぶ。
この場合、妹がいうケーキとはホットケーキミックスで作れてしまう非常に簡単なものだったが妹はそれを何よりも楽しみにしていた。ケーキに限らず妹からは様々なお菓子をねだられ二人でよく作ったものだ。まぁ最も甘い物がさして好きではない元親はあくまで作ることが好きなだけで作ったお菓子はもてあましていたのだが。
食べきれなかったお菓子を後輩に押しつけたところ、『次はいつあまりをくれるんだ!?』とキラキラした2対の瞳で見つめられたのも今では思い出である。
甘い物は女性が好む、といった印象は昔の話であって最近は男性でも甘い物を好む人間は非常に多い。
最もその中でも毛利は色々と規格外だと元親は思っている。
「本格的なのはやっぱりオーブンでやったほうがいいけどな。炊飯器だけで、っていうのは何せ作るのは楽なんだよ」
思わず実家での数々の思い出が頭をよぎり笑みが零れる。
妹は、両親は、元気だろうか。
もう一人でケーキぐらいは作れるようになったのだろうか、あの子は。
無理かもしれない。デコレーションは上手かったが、まず土台は一人じゃ焼けなかった気がする。
後輩達は喧嘩してはいないだろうか。
以前メールしたところ「菓子が恋しい」、「元親がいないと暴れる、大変だ」とそれぞれから返答があった。
…次に帰省したときは何か好物でも作ってやろう…。
数ヶ月顔を合わせていない故郷の人々に思いを馳せていた。
そんな元親の様子をじっと見ていた毛利は呟く。
「炊飯器があれば、貴様は菓子を作れるのだな」
「まぁ、簡単なのならな」
「ならば今日、買いにゆく」
「今日?…あんた仕事は」
本日は土曜日。
世間的には休日であり、学生である元親も当然休日である。
しかし作家である毛利にはそれは当てはまらないのではないか、と不安になる。
「ふっ…先月はGW進行で地獄をみたがそれが終わった今となっては我は自由ぞ。
例え後で担当が泣こうがわめこうが知ったことではないわ」
「いやそこは担当を泣かせるなよ、社会人!!」
数回だけ顔を会わせた事がある、長髪でガタイの良い大男を思い出す。
毛利が連載をしているだか、本を出版しているだかの会社の社員で毛利の担当編集だという黒田なる男。毛利からの無理難題としか思えない言動に「何故じゃあー!!何故小生だけがー!!」と叫んでいた姿が何よりも印象的だった。
ちなみにガタイが良すぎる余り、魔窟とも呼べる毛利の仕事部屋に入る事は許されていないらしい。
(曰く、我の牙城を崩すから、とのこと。一度資料本の山でも壊したのだろう。多分。)
新たな家政婦と紹介された元親に対し「…あんたもあんなのが雇い主だと苦労するな」と毛利の眼前で発言し右ストレートを食らっていた。
会えば何かと気遣ってくれるし悪い人間ではないのだろうが、徹底的なまでに間と運が悪すぎる。
そんな印象の人間だった。
「なんとでも言うがよい。そもそも急ぎの仕事は無い故に出かけるのも我の自由よ」
毛利はもう、今日中に新しい炊飯器を買いに行く予定を立ててしまっているらしい。
「無論、貴様もつきあえ」
そしてその予定には否応なく元親も組み込まれているに違いない。
「…わかったよ」
この雇い主の頑固さも横暴さも知っている。
例え元親に予定があったとしてもそれをキャンセルしろ、ぐらいはのたまうかもしれない。
一度決めたら梃子でも動かない男だということは短い付き合いでも嫌と言うほどに理解していた。
「…炊飯器でケーキとはどんな材料が必要なのだ」
「…あんたまさか…しょっぱなからケーキ作らせる気か…?」
元親の問いに毛利は、当然だ、と答える。
「我の金で買う物を我が思うように使って何が悪い」
確かに、使うのは元親であっても炊飯器のスポンサーは毛利で持ち主も毛利だ、それは間違いないのだが、新品炊飯器もまさか初仕事がケーキを焼くことだとは思わないだろう、きっと。
思い立ったが吉日とばかりにイスから立ち上がった毛利はすぐに居室に向かう。
きっと外出の準備を始めるに違いない。
「…電気屋の開店って…まだだよなぁ…」
元親は溜息を吐きつつも、まずは食器の片付けをするべく立ち上がった。
「まさかあいつがあんなに値切るとは…」
毛利が運転する自家用車に乗せられ着いた先は郊外にある大きな家電量販店だった。
そこに着くや否や炊飯器コーナーを目指し、元親にめぼしい機種をあげさせるとそこからの毛利は凄かった。店員を呼びつけ、呼びつけるや否やその場で値切りの交渉を始めたのだ。そこからはあれよあれよと話が進み、最終的には店員が涙目になって承諾した。
…哀れ見知らぬ店員よ、グッドラック。
相手があまりにも悪すぎた、と元親は見知らぬ店員へ心の回復を祈った。
正直元親は一対一の舌戦で毛利に勝てる気が全くしない。
店員のトラウマにならなきゃいいな、とお節介にも考えた。
さてそれから炊飯器を購入し、元親が持ったまでは良かったのだが気がつけば毛利の姿が見えなくなっていた。毛利が支払いをし、元親が炊飯器を受け取った僅かな間にどこかに行ったらしい。
「ちょっと待ってろ」
と一言聞こえたような気もするが、それから15分以上経過した今となっては待ち時間はちょっとではすまなくなっていると思う。とりあえず炊飯器を置きに行きたいのだが車の持ち主である毛利を捜さなくてはならない。
「あいつが電気屋で行きそうな所が全くもってわかんねぇ…」
全くもって毛利が行きそうな場所が思いつかない元親は途方に暮れていた。
携帯売り場、最新機種とか興味なく電話とメールが出来れば良いとか言ってたから却下。
照明器具売り場、明るいの好きだけどあくまで太陽光だけのはずだから却下。
デジカメ売り場、写真は撮るのも撮られるのも嫌いってすんげー顔してたから却下。
パソコン売り場、文章打ててネットが出来れば十分とか言ってたから微妙だけど却下。
美容品関係売り場、興味が無さそう、というかあったら怖いので却下。
テレビ売り場、安くなったから買い直したとか言ってたから可能性低いし却下。
「他は…あー考えるのめんどくせ。…とりあえず行ってみるか。」
どうせ店内にはいるのは間違いないのだ。
そう考えた元親は買ったばかりの炊飯器を抱えて再び店内を目指して歩き始めた。
毛利は意外な場所にいた。
家電売り場の掃除機コーナーに一人で佇んでいた。
意外な場所での発見に人違いかと思いかけるが、あの背格好は間違いなく毛利だ。
視線は展示されている掃除機に釘付けになっているようだ。
嫌な予感が胸をよぎる元親は毛利に声をかける。
「毛利…?毛利さーん?」
「…貴様か…」
くるりと後ろを振り向いた毛利は驚くこともなく答える。
「あんたちょっとって言って全然ちょっとじゃねーだろうが。思わず探しに来ちまったぜ。」
「ふむ…それは悪かったな」
毛利が素直に謝るのは珍しいようで案外そうでもない。
日頃の物言いが面倒だが自分に明らかに非があると言うときは意外にも素直に認めてくれる。
しかし、時には例外もあるのだが、今回はそうでもないらしい。
「まぁ見つかったからいいけどよ、あんたずっと何みてんだ?」
そう話ながら元親は身を乗り出し、毛利に並ぶように彼が見ていたものを見つける。
毛利の目の前にあったのはル○バなる、自動で動く掃除機だった。
心なしか目がきらきらしているように見える。というか生き生きとしている。
食べ物を前にしたとき以外こんな毛利は見たことがない。
これは衝動買いという意味で非常に危険だ、そう判断した元親は咄嗟に声をかける。
「…毛利、あれはあくまで床が見えている綺麗な部屋で使うのが効果的であって、
そもそも床が見えない部屋では使いようがないからな!?」
「…わかっておる…」
面白くなさそうに答えるが手は未だにル○バに向けられている。
「嘘だろあんた買おうとしてただろ!!めっちゃ手ぇ出てただろ!!」
全く世間知らずという訳では無いにも関わらず元就がルンバを見る目は子供がおもちゃを欲しがるようなそんな目だ。いや、よくいう例え話のトランペットを欲しがる子供とはこんな顔をしていたのかもしれない。
そのぐらい今の毛利の目は危険だった。
駄目だこの男、放っておくと衝動買いの鬼になるに違いない。そう判断してからの元親は実に素早かった。
「良いか毛利…言っちゃ悪いが、俺が行かなきゃあんたの家じゃルンバがただの置物になること間違いないからな!!そんなのルンバに申し訳ねぇだろ!?あと衝動買いは正直後で後悔すること多いからやめとけ!!」
後半部分は説得として間違っているような気がしないでもないが、元親はとにかく必死だった。
「…貴様そんなに衝動買いに嫌な思い出でもあるのか」
「…いや違う…」
何で自分がこんなに必死になっているのか、改めて考えるとなんだか疲れが押し寄せてきた。相手は良い年した大人なのに、何故自分がここまで必死にならなければならないのか。
「…まぁ良い。どうせここで買うつもりは無い。…帰るぞ」
言うが早いが毛利は踵を返して歩き出す。
「ちょ、待てよ!!早すぎだろうが!!」
慌てて足早に歩き始めた毛利を追いかけた元親には、さっきの毛利の発言など綺麗に頭から抜け落ちていた。
「…ケーキはまだか」
昼食を食べて、ついでに食材も買って帰宅した直後に毛利が言う。
昼食に大盛りラーメン二杯平らげているはずなのに、何故もう腹が減るのだろうか。
最早毛利の顔には「ケーキが食べたい」としか書いていない。
元親にはこんな顔に見覚えがあった。妹と後輩達がこんな顔を、よく、していた。
「いくら簡単でもそんなすぐ出来るもんじゃねぇから、少し待ってろよ。」
「…うぬ…仕方がない」
資料の整理をして仕事してくる、と足を仕事場に向けて去っていく。
その後ろ姿は心なしか楽しげなのはやはりケーキのせいなのだろうか。
…毛利の整理、とは本人なりの使いやすさで積み重ねることを言う。そして最終的にはそれは塔になり、腐海の層を増していく。
また今度掃除だな、と思いながらも元親は目下の課題であるケーキ作りに取りかかることにした。
レシピに何も難しいものはない。
通常のホットケーキとほとんど変わらない材料をボウルに順に入れて泡立て器で良く混ぜていく。
だまが無くなるぐらい綺麗に混ぜたら、今度はサラダ油を軽く塗った炊飯器の釜に生地を流し入れる。
それを炊飯器の炊飯モードで焼くだけだ。
最も炊飯器によっては複数回炊飯ボタンを押す必要があるので竹串を刺して様子を見る必要がある。
ただそれだけのことなので普通にケーキを作るよりは遙かに簡単だった、少なくとも元親にとっては。
およそ一時間程度で焼き上がるだろうと判断したのでその間に別な準備をしておく。
先ほど買ってきたイチゴを洗ってへたをとり、鍋に入れる。
そこにグラニュー糖とレモン汁、ひたひたの水を入れて火にかける。
沸騰してきたらあくをとってしばし煮立てる。
それでイチゴのシロップ煮は完成だ。
冷めたら密封容器にいれておくことで色々な用途に使えるものではあるが毛利の胃袋を考えると今日中にほとんど食い尽くされそうだ。
そうこうしているうちに、ケーキの焼き上がりが近づいてきたので今度は生クリームを泡立てる。
何故か毛利宅には調理道具は豊富にあるので電動泡立て器を使用することにする。
生クリーム自体を冷やしておき、また泡立てるボウルを氷水に漬けておくことで早く泡立てる事が出来る。
ボウルに生クリームと砂糖を入れてかき混ぜていくことで、徐々に固まっていく。
「そういや…鶴の奴…かき混ぜすぎて分離させてたな…」
生クリームは泡立てると徐々に固まっていくが、泡立てすぎると最終的には分離してしまう。
それを知っているにも関わらず、妹は再三同じ事を繰り返していた。
『おにいちゃん、出来ません~』と涙ながらに訴えてくる姿を思い出し苦笑する。
「…あいつ手先は器用なはずなんだけどな…なんでなんだか…」
妹とお菓子作りをするときはデコレーションが妹の担当でそれは中々上手だったが、いかんせん基本の部分が全く出来ないままだったことを思い出しながらも作業を続ける。
今回は最終的に軽くつのが立つ程度でかき混ぜるのを止める。
絞り出すには柔らかいが、今回はケーキに添えるだけなのでこれぐらいがいいだろう。
「おっし、焼けたな」
さほど厚みも無かったためか二回の炊飯で完全に加熱出来たようだ。
「よ、っと」
そのままにしておくとしぼんでしまうためとりあえず炊飯器から取り出しておく。
あとはあら熱をとってから取りだして盛りつけるだけだ。
「茶の準備でもしておくか」
こうして、元親は第一の課題をこなす事に成功したのだった。
「遅いぞ」
「焼き上がるのに時間がかかるのは当然だろ…そのぐらい待てよ。手作りなんだから」
仕事部屋をノックするとすぐに出てきた毛利は不満半分楽しみ半分と言った様子だ。
「…うぬ…すぐ出来る手作りケーキとは無いものか」
「…無茶いうな…」
こいつ頭の中の大半は食い物でかつ甘味で占められているんじゃないだろうか、改めて思った。
「…これが、そうか」
毛利が座る食卓に置かれた皿に盛りつけられたのは作りたてのケーキだ。
炊飯器で焼かれたケーキは八等分されそのうちの一切れが更に乗っている。
その上にはふわっとした生クリームが惜しげもなく乗せられている。
さらにその上からはいちごのシロップソースがかけられており赤、白、黄色と見事な三色が食欲をそそる。
「コーヒーでいいんだよな」
「うぬ…」
いただきます、と手を合わせた毛利は静かにケーキを口に運ぶ。
そして一口食べた瞬間『カッ』という効果音が聞こえんばかりに目を見開いた。
「…びびった…あんたこえぇ、マジでこえぇ…」
元親が驚きやすいというのは否定出来ないとしても、一見すると切れ長の瞳が瞳孔開かれんばかりに目を見開く様を間近で目の当たりにするのははっきり言って怖すぎた。
「…こんな…こんなものが炊飯器で作れるだと…!?すばらしいぞ炊飯器!!」
毛利のバックに花が見えそうなほど、今の彼は輝いていた。
次いで二口目を口に運ぶ。
「…生クリームとイチゴの相性はおそるべし…そしてこの煮たイチゴがまた美味…」
「ジャムほど潰れてないから食べ応えあるだろ?」
こくこくと頷く毛利はもはや目の前のケーキの虜だった。
「ケーキってよりはホットケーキかもしれないけどな。
炊飯器で焼くと厚みが増すから食べ応えあるんだよ」
「ふむ…だから炊飯器ケーキか、なるほど」
あっという間に一切れ食べ終えた毛利はお代わりを要求し、はいはいと元親は再び盛りつけ渡す。
すると毛利は怪訝な顔で元親の左手を見やった。
「…?貴様、手に何かついているぞ」
言われて見ると元親の左手には盛りつけの時に着いてしまったのであろう生クリームがあった。
「ああ、生クリーム。大方さっきの盛りつけの時に着けたんだろ。悪りぃ、今拭くわ」
「待て」
慌てて拭こうとした元親の左手を毛利が止め、その手で掴む。
「?なんだよ。」
きょとんとした様子で見る元親を尻目に毛利は難なく、その左手のクリームを己の舌で舐め取った。
「…な…!?」
一瞬のことで咄嗟に身動きが取れない。
そんな元親をよそに毛利はクリームを綺麗に舐め取るとようやくその手を離した。
「美味かったぞ、クリーム」
そう言って笑う毛利はそりゃもう綺麗に笑った。
「な、な、な…なにしやがんだよあんたは!!変態か!?」
顔の熱が上がっていくのを止められない。
なんだこれなんだ。
「変態とは失礼な。生クリームが目の前にあったので喰らっただけよ」
そう言ってまた笑う。
「そうは言っても…なんで…」
「それだけよ、他意は無い」
「うぐ…」
そう言い切られてしまっては元親としては何も言い返せない。
毛利は先ほどのことなど忘れてしまったかのようにお代わりのケーキに手を付けていく。
そして元親は、一瞬だけ舐められたあの感触を思い出してはその場でのたうち回りたくなるような羞恥心に襲われることになる。
そうして、見ているだけで様々な事情で身動きがとれない元親とは対照的に毛利はケーキのほとんどを食べ尽くしておやつタイムを終えた。
「って結局買ってるんじゃねぇかあああああ!!」
「うるさいぞ貴様。我のサンデーを愚弄する気か」
「サンデー!?サンデーってなにそれ名前!?」
しばらく後、訪れた毛利家のリビングには、あの日確かに買うのを止めたはずのル○バがいた。
「店での買い物の良いが、やはりネット通販は手軽で良いものよ」
「…なにこれ、何でわざわざアメリカから通販してるんだよ…」
梱包をほどいたままの状態で放置してあったらしい箱を確認するが送り主がどう見ても日本国内ではない。
尋ねると毛利は実に楽しげに答える。
「今は未曾有の円高よ、海外で買う方が送料込みでも安いぐらいだった」
心なしか毛利はわくわくした様子でル○バの動向を見守っていた。
それはトランペットを欲しがって実際にトランペットを入手した子供の目だった。
-そもそも数万円はするル○バをポンと買うってやっぱりあれなの大人の衝動買いってやつなのか。でもわざわざ安いからってアメリカから通販までしてこの人なんなの、訳わかんねえ。
こんな大人には出来る限りなりたくない、固く元親は心に誓った。
「大人って…」
幸か不幸か、先日元親が片付けていった状態からさほど変わっておらずリビングは床が見えている状態だ。
ル○バは室内をぐるぐる動き回って掃除をしている。
…まともに機能するのはいつまでだろう。
少なくとも元親が通う限りは床が見える状態を維持しよう。今そう決めた。
障害物で動きが止まるル○バなんで可哀想すぎる。
ひとしきり動くル○バを眺めていた毛利は非常にご満悦だ。
「ふむ…中々に面白い。これなら十分資料になってくれそうぞな」
「資料?」
「最初は見た目が面白いから興味を引かれたのだがな、よくよく見ると今度の新作の資料になってくれそうだったので買ったまでよ」
ル○バが資料になりそうな小説って一体どういうジャンル?SF?
「SFではないぞ」
とまるで目を白黒させている元親の脳内を先読みしたかのように毛利は呟く。
毛利は非常に勘がよい。毛利に言わせると元親がわかりやすすぎるのだと言われるがこれに関しては今更どうしようも出来ない。
「…毛利って、どういう小説書いてるんだ…?」
「企業秘密だ」
そう右手の人差し指を唇の前に当てて優美に笑いながら年齢不詳の雇い主は呟いた。
元親が雇い主が本当に何者なのか気になり始めた、春の日のことだった。
○途中のおかしレシピの部分は削ろうか迷ったんですがそのまま載せました。
このシリーズは別名毛利がアニキに餌付けされていく話でもいいんじゃないかと思う今日この頃。
毛利ファンの方々には全方位土下座した方が良いんじゃないかと思うようになってきました。
~炊飯器ケーキの生クリームイチゴシロップソースがけ~
それはまだ、二人が出会って間もない春のころのこと。
毛利宅の炊飯器が壊れた。所謂寿命という奴だ。
そもそも最初に台所を見せてもらったときから今では見ないほどのシンプルなデザインのものだったと元親は記憶している。
毛利にいつ頃買った物か尋ねると「…十、年前…ぐらい?」と大層危うい返事が返ってきた。十年前というと元親なぞはまだランドセルを背負って学校にいっていたぐらいの年齢だ。そんな時分からよくぞ無事に使われてきたものだ。最も予約機能が付いただけのシンプルな炊飯器だからこそここまで使えたのかもしれない。以前いたという家政婦さんが綺麗に使ってくれていたお陰もあるだろう。
(今までこの大食らいを支えてくれてありがとうございました)
元親は物言わぬ一升炊きの炊飯器に対して手を合わせる。
一人暮らしで一升炊きの炊飯器を持っている人間は、あまり見たことがない。
要はそれだけ毛利が大食いというだけだ。
しかし炊飯器が無いという事は米が炊けないという訳であり、家主であり大食らいの毛利にとっては大変困る事態になっていた。正確に言えば、毛利は一切家事をしないので毛利宅の家事手伝いである元親にとっての困った事態であるが。
お陰で今日の朝は鍋炊きだ。久しぶりに炊いたので少し焦げてしまったが「それもまたよし」と笑う毛利は何なく平らげそうだ。まだ育ち盛りの範疇に入るであろう元親と比較しても毛利は非常によく食べる。その割に見た目は細い。全く筋肉が無いわけではないだろうが、体格が良い部類に入るであろう元親と比較するとその差は歴然だ。一度どこにその栄養が行っているのかと本気で尋ねたが、「凡人には不可能ぞ」と鼻で笑われ嘲笑された。まぁ一言で言ってしまえば毛利は非常に燃費が悪く、一度の食事で大量摂取しても追いつかないぐらい燃費が悪いのだと言うことを元親は知った。
だから食べる気力も無い締め切り明けは家政婦こと元親がいないためひたすらに寝てなんとか体をもたせているらしい。修羅場中の元就の命の綱は冷凍食品とレトルト食品と栄養ドリンクだ。外食は、と尋ねると「修羅場中の我に外に行く余裕があると思うのか」と切り替えされた。外出する時間すら惜しいのだろう。恐ろしい。電子レンジの加熱とお湯を沸かすしか出来ない男がよく今まで生きてこられたものだと本当に不思議に思う。そしてよく病気にならなかったなー、と。
一方の元親はこの年代にしては可もなく不可もなくといった量しか食べない。むしろ甘味を食べない分毛利よりも食べる量は遙かに少ないだろう。
チラリと前を見やるとそんな元親の考えなど知ってか知らずか大量の白米とおかずを平らげていた。ちなみに今日は塩鮭の焼き魚、ほうれん草の納豆あえ、葱入り卵焼き、キャベツと油揚げの味噌汁で構成されている。米を炊く時間でできあがるおかずなどたかがしれているが毛利はご機嫌だ。まぁ一人でいて米があったら白米になめたけ、白米に漬け物で過ごしているような人間なのだからおかずがあるだけで嬉しいものなのかもしれない。
ちなみに何故元親が早朝にも関わらず毛利宅にいるのかというと米が炊きあがらぬぞと電話でたたき起こされたからである。修羅場以外は非常に早起きな毛利に起こされたため元親自身は非常に寝不足だ。講義が終わった後ならともかく、早朝に米を炊きに来るのはキツイものがある。今日が休みでよかった、と元親は心底思った。これが平日なら一限目は確実に寝る自信がある。
毛利自身は鍋炊きの米を気に入っているようだったが、元親は自身の睡眠確保の為にも何としてでも新しい炊飯器を早急に買ってほしい気持ちで一杯だった。
「…早めに新しい炊飯器買った方が良いと思うぜ」
食後のほうじ茶を準備しつつ元親は毛利に話しかける。
「我は鍋炊きでも土鍋炊きでも一向に構わんぞ」
鍋底のおこげが気に入ったらしい毛利は、そう元親の話に答えた。
確かにこげは炊飯器では滅多に出来ないものだろうが、常に鍋炊きは元親が疲れる。
「…いや確かに食べる分にはどっちでもいいけどよ、
やっぱりなんだかんだ言って炊飯器あったら便利だぜ。簡単な菓子も作れるしな」
-菓子。
元親が発したその一言で元就の目の色が変わるのを見逃さなかった。
元就は大食らいだが、中でも甘味は別格な程に好んでいることを短い間しか付き合いのない元親でも知っていた。なんせ初対面の直後に手土産に持っていった大福6個を瞬く間に平らげたのだから。
「菓子…だと…我は食べていないぞ」
貴様いつ勝手に作った、と非常に恨みがましい視線が元親に伸びてくるのを溜息をついて返す。
「ここでじゃねーよ、実家で妹に作ってやったんだ」
『おにいちゃん、ポーンとケーキを作っちゃって下さい!!』
にこにこしながらお願いしてきた妹の姿が今でも脳裏に浮かぶ。
この場合、妹がいうケーキとはホットケーキミックスで作れてしまう非常に簡単なものだったが妹はそれを何よりも楽しみにしていた。ケーキに限らず妹からは様々なお菓子をねだられ二人でよく作ったものだ。まぁ最も甘い物がさして好きではない元親はあくまで作ることが好きなだけで作ったお菓子はもてあましていたのだが。
食べきれなかったお菓子を後輩に押しつけたところ、『次はいつあまりをくれるんだ!?』とキラキラした2対の瞳で見つめられたのも今では思い出である。
甘い物は女性が好む、といった印象は昔の話であって最近は男性でも甘い物を好む人間は非常に多い。
最もその中でも毛利は色々と規格外だと元親は思っている。
「本格的なのはやっぱりオーブンでやったほうがいいけどな。炊飯器だけで、っていうのは何せ作るのは楽なんだよ」
思わず実家での数々の思い出が頭をよぎり笑みが零れる。
妹は、両親は、元気だろうか。
もう一人でケーキぐらいは作れるようになったのだろうか、あの子は。
無理かもしれない。デコレーションは上手かったが、まず土台は一人じゃ焼けなかった気がする。
後輩達は喧嘩してはいないだろうか。
以前メールしたところ「菓子が恋しい」、「元親がいないと暴れる、大変だ」とそれぞれから返答があった。
…次に帰省したときは何か好物でも作ってやろう…。
数ヶ月顔を合わせていない故郷の人々に思いを馳せていた。
そんな元親の様子をじっと見ていた毛利は呟く。
「炊飯器があれば、貴様は菓子を作れるのだな」
「まぁ、簡単なのならな」
「ならば今日、買いにゆく」
「今日?…あんた仕事は」
本日は土曜日。
世間的には休日であり、学生である元親も当然休日である。
しかし作家である毛利にはそれは当てはまらないのではないか、と不安になる。
「ふっ…先月はGW進行で地獄をみたがそれが終わった今となっては我は自由ぞ。
例え後で担当が泣こうがわめこうが知ったことではないわ」
「いやそこは担当を泣かせるなよ、社会人!!」
数回だけ顔を会わせた事がある、長髪でガタイの良い大男を思い出す。
毛利が連載をしているだか、本を出版しているだかの会社の社員で毛利の担当編集だという黒田なる男。毛利からの無理難題としか思えない言動に「何故じゃあー!!何故小生だけがー!!」と叫んでいた姿が何よりも印象的だった。
ちなみにガタイが良すぎる余り、魔窟とも呼べる毛利の仕事部屋に入る事は許されていないらしい。
(曰く、我の牙城を崩すから、とのこと。一度資料本の山でも壊したのだろう。多分。)
新たな家政婦と紹介された元親に対し「…あんたもあんなのが雇い主だと苦労するな」と毛利の眼前で発言し右ストレートを食らっていた。
会えば何かと気遣ってくれるし悪い人間ではないのだろうが、徹底的なまでに間と運が悪すぎる。
そんな印象の人間だった。
「なんとでも言うがよい。そもそも急ぎの仕事は無い故に出かけるのも我の自由よ」
毛利はもう、今日中に新しい炊飯器を買いに行く予定を立ててしまっているらしい。
「無論、貴様もつきあえ」
そしてその予定には否応なく元親も組み込まれているに違いない。
「…わかったよ」
この雇い主の頑固さも横暴さも知っている。
例え元親に予定があったとしてもそれをキャンセルしろ、ぐらいはのたまうかもしれない。
一度決めたら梃子でも動かない男だということは短い付き合いでも嫌と言うほどに理解していた。
「…炊飯器でケーキとはどんな材料が必要なのだ」
「…あんたまさか…しょっぱなからケーキ作らせる気か…?」
元親の問いに毛利は、当然だ、と答える。
「我の金で買う物を我が思うように使って何が悪い」
確かに、使うのは元親であっても炊飯器のスポンサーは毛利で持ち主も毛利だ、それは間違いないのだが、新品炊飯器もまさか初仕事がケーキを焼くことだとは思わないだろう、きっと。
思い立ったが吉日とばかりにイスから立ち上がった毛利はすぐに居室に向かう。
きっと外出の準備を始めるに違いない。
「…電気屋の開店って…まだだよなぁ…」
元親は溜息を吐きつつも、まずは食器の片付けをするべく立ち上がった。
「まさかあいつがあんなに値切るとは…」
毛利が運転する自家用車に乗せられ着いた先は郊外にある大きな家電量販店だった。
そこに着くや否や炊飯器コーナーを目指し、元親にめぼしい機種をあげさせるとそこからの毛利は凄かった。店員を呼びつけ、呼びつけるや否やその場で値切りの交渉を始めたのだ。そこからはあれよあれよと話が進み、最終的には店員が涙目になって承諾した。
…哀れ見知らぬ店員よ、グッドラック。
相手があまりにも悪すぎた、と元親は見知らぬ店員へ心の回復を祈った。
正直元親は一対一の舌戦で毛利に勝てる気が全くしない。
店員のトラウマにならなきゃいいな、とお節介にも考えた。
さてそれから炊飯器を購入し、元親が持ったまでは良かったのだが気がつけば毛利の姿が見えなくなっていた。毛利が支払いをし、元親が炊飯器を受け取った僅かな間にどこかに行ったらしい。
「ちょっと待ってろ」
と一言聞こえたような気もするが、それから15分以上経過した今となっては待ち時間はちょっとではすまなくなっていると思う。とりあえず炊飯器を置きに行きたいのだが車の持ち主である毛利を捜さなくてはならない。
「あいつが電気屋で行きそうな所が全くもってわかんねぇ…」
全くもって毛利が行きそうな場所が思いつかない元親は途方に暮れていた。
携帯売り場、最新機種とか興味なく電話とメールが出来れば良いとか言ってたから却下。
照明器具売り場、明るいの好きだけどあくまで太陽光だけのはずだから却下。
デジカメ売り場、写真は撮るのも撮られるのも嫌いってすんげー顔してたから却下。
パソコン売り場、文章打ててネットが出来れば十分とか言ってたから微妙だけど却下。
美容品関係売り場、興味が無さそう、というかあったら怖いので却下。
テレビ売り場、安くなったから買い直したとか言ってたから可能性低いし却下。
「他は…あー考えるのめんどくせ。…とりあえず行ってみるか。」
どうせ店内にはいるのは間違いないのだ。
そう考えた元親は買ったばかりの炊飯器を抱えて再び店内を目指して歩き始めた。
毛利は意外な場所にいた。
家電売り場の掃除機コーナーに一人で佇んでいた。
意外な場所での発見に人違いかと思いかけるが、あの背格好は間違いなく毛利だ。
視線は展示されている掃除機に釘付けになっているようだ。
嫌な予感が胸をよぎる元親は毛利に声をかける。
「毛利…?毛利さーん?」
「…貴様か…」
くるりと後ろを振り向いた毛利は驚くこともなく答える。
「あんたちょっとって言って全然ちょっとじゃねーだろうが。思わず探しに来ちまったぜ。」
「ふむ…それは悪かったな」
毛利が素直に謝るのは珍しいようで案外そうでもない。
日頃の物言いが面倒だが自分に明らかに非があると言うときは意外にも素直に認めてくれる。
しかし、時には例外もあるのだが、今回はそうでもないらしい。
「まぁ見つかったからいいけどよ、あんたずっと何みてんだ?」
そう話ながら元親は身を乗り出し、毛利に並ぶように彼が見ていたものを見つける。
毛利の目の前にあったのはル○バなる、自動で動く掃除機だった。
心なしか目がきらきらしているように見える。というか生き生きとしている。
食べ物を前にしたとき以外こんな毛利は見たことがない。
これは衝動買いという意味で非常に危険だ、そう判断した元親は咄嗟に声をかける。
「…毛利、あれはあくまで床が見えている綺麗な部屋で使うのが効果的であって、
そもそも床が見えない部屋では使いようがないからな!?」
「…わかっておる…」
面白くなさそうに答えるが手は未だにル○バに向けられている。
「嘘だろあんた買おうとしてただろ!!めっちゃ手ぇ出てただろ!!」
全く世間知らずという訳では無いにも関わらず元就がルンバを見る目は子供がおもちゃを欲しがるようなそんな目だ。いや、よくいう例え話のトランペットを欲しがる子供とはこんな顔をしていたのかもしれない。
そのぐらい今の毛利の目は危険だった。
駄目だこの男、放っておくと衝動買いの鬼になるに違いない。そう判断してからの元親は実に素早かった。
「良いか毛利…言っちゃ悪いが、俺が行かなきゃあんたの家じゃルンバがただの置物になること間違いないからな!!そんなのルンバに申し訳ねぇだろ!?あと衝動買いは正直後で後悔すること多いからやめとけ!!」
後半部分は説得として間違っているような気がしないでもないが、元親はとにかく必死だった。
「…貴様そんなに衝動買いに嫌な思い出でもあるのか」
「…いや違う…」
何で自分がこんなに必死になっているのか、改めて考えるとなんだか疲れが押し寄せてきた。相手は良い年した大人なのに、何故自分がここまで必死にならなければならないのか。
「…まぁ良い。どうせここで買うつもりは無い。…帰るぞ」
言うが早いが毛利は踵を返して歩き出す。
「ちょ、待てよ!!早すぎだろうが!!」
慌てて足早に歩き始めた毛利を追いかけた元親には、さっきの毛利の発言など綺麗に頭から抜け落ちていた。
「…ケーキはまだか」
昼食を食べて、ついでに食材も買って帰宅した直後に毛利が言う。
昼食に大盛りラーメン二杯平らげているはずなのに、何故もう腹が減るのだろうか。
最早毛利の顔には「ケーキが食べたい」としか書いていない。
元親にはこんな顔に見覚えがあった。妹と後輩達がこんな顔を、よく、していた。
「いくら簡単でもそんなすぐ出来るもんじゃねぇから、少し待ってろよ。」
「…うぬ…仕方がない」
資料の整理をして仕事してくる、と足を仕事場に向けて去っていく。
その後ろ姿は心なしか楽しげなのはやはりケーキのせいなのだろうか。
…毛利の整理、とは本人なりの使いやすさで積み重ねることを言う。そして最終的にはそれは塔になり、腐海の層を増していく。
また今度掃除だな、と思いながらも元親は目下の課題であるケーキ作りに取りかかることにした。
レシピに何も難しいものはない。
通常のホットケーキとほとんど変わらない材料をボウルに順に入れて泡立て器で良く混ぜていく。
だまが無くなるぐらい綺麗に混ぜたら、今度はサラダ油を軽く塗った炊飯器の釜に生地を流し入れる。
それを炊飯器の炊飯モードで焼くだけだ。
最も炊飯器によっては複数回炊飯ボタンを押す必要があるので竹串を刺して様子を見る必要がある。
ただそれだけのことなので普通にケーキを作るよりは遙かに簡単だった、少なくとも元親にとっては。
およそ一時間程度で焼き上がるだろうと判断したのでその間に別な準備をしておく。
先ほど買ってきたイチゴを洗ってへたをとり、鍋に入れる。
そこにグラニュー糖とレモン汁、ひたひたの水を入れて火にかける。
沸騰してきたらあくをとってしばし煮立てる。
それでイチゴのシロップ煮は完成だ。
冷めたら密封容器にいれておくことで色々な用途に使えるものではあるが毛利の胃袋を考えると今日中にほとんど食い尽くされそうだ。
そうこうしているうちに、ケーキの焼き上がりが近づいてきたので今度は生クリームを泡立てる。
何故か毛利宅には調理道具は豊富にあるので電動泡立て器を使用することにする。
生クリーム自体を冷やしておき、また泡立てるボウルを氷水に漬けておくことで早く泡立てる事が出来る。
ボウルに生クリームと砂糖を入れてかき混ぜていくことで、徐々に固まっていく。
「そういや…鶴の奴…かき混ぜすぎて分離させてたな…」
生クリームは泡立てると徐々に固まっていくが、泡立てすぎると最終的には分離してしまう。
それを知っているにも関わらず、妹は再三同じ事を繰り返していた。
『おにいちゃん、出来ません~』と涙ながらに訴えてくる姿を思い出し苦笑する。
「…あいつ手先は器用なはずなんだけどな…なんでなんだか…」
妹とお菓子作りをするときはデコレーションが妹の担当でそれは中々上手だったが、いかんせん基本の部分が全く出来ないままだったことを思い出しながらも作業を続ける。
今回は最終的に軽くつのが立つ程度でかき混ぜるのを止める。
絞り出すには柔らかいが、今回はケーキに添えるだけなのでこれぐらいがいいだろう。
「おっし、焼けたな」
さほど厚みも無かったためか二回の炊飯で完全に加熱出来たようだ。
「よ、っと」
そのままにしておくとしぼんでしまうためとりあえず炊飯器から取り出しておく。
あとはあら熱をとってから取りだして盛りつけるだけだ。
「茶の準備でもしておくか」
こうして、元親は第一の課題をこなす事に成功したのだった。
「遅いぞ」
「焼き上がるのに時間がかかるのは当然だろ…そのぐらい待てよ。手作りなんだから」
仕事部屋をノックするとすぐに出てきた毛利は不満半分楽しみ半分と言った様子だ。
「…うぬ…すぐ出来る手作りケーキとは無いものか」
「…無茶いうな…」
こいつ頭の中の大半は食い物でかつ甘味で占められているんじゃないだろうか、改めて思った。
「…これが、そうか」
毛利が座る食卓に置かれた皿に盛りつけられたのは作りたてのケーキだ。
炊飯器で焼かれたケーキは八等分されそのうちの一切れが更に乗っている。
その上にはふわっとした生クリームが惜しげもなく乗せられている。
さらにその上からはいちごのシロップソースがかけられており赤、白、黄色と見事な三色が食欲をそそる。
「コーヒーでいいんだよな」
「うぬ…」
いただきます、と手を合わせた毛利は静かにケーキを口に運ぶ。
そして一口食べた瞬間『カッ』という効果音が聞こえんばかりに目を見開いた。
「…びびった…あんたこえぇ、マジでこえぇ…」
元親が驚きやすいというのは否定出来ないとしても、一見すると切れ長の瞳が瞳孔開かれんばかりに目を見開く様を間近で目の当たりにするのははっきり言って怖すぎた。
「…こんな…こんなものが炊飯器で作れるだと…!?すばらしいぞ炊飯器!!」
毛利のバックに花が見えそうなほど、今の彼は輝いていた。
次いで二口目を口に運ぶ。
「…生クリームとイチゴの相性はおそるべし…そしてこの煮たイチゴがまた美味…」
「ジャムほど潰れてないから食べ応えあるだろ?」
こくこくと頷く毛利はもはや目の前のケーキの虜だった。
「ケーキってよりはホットケーキかもしれないけどな。
炊飯器で焼くと厚みが増すから食べ応えあるんだよ」
「ふむ…だから炊飯器ケーキか、なるほど」
あっという間に一切れ食べ終えた毛利はお代わりを要求し、はいはいと元親は再び盛りつけ渡す。
すると毛利は怪訝な顔で元親の左手を見やった。
「…?貴様、手に何かついているぞ」
言われて見ると元親の左手には盛りつけの時に着いてしまったのであろう生クリームがあった。
「ああ、生クリーム。大方さっきの盛りつけの時に着けたんだろ。悪りぃ、今拭くわ」
「待て」
慌てて拭こうとした元親の左手を毛利が止め、その手で掴む。
「?なんだよ。」
きょとんとした様子で見る元親を尻目に毛利は難なく、その左手のクリームを己の舌で舐め取った。
「…な…!?」
一瞬のことで咄嗟に身動きが取れない。
そんな元親をよそに毛利はクリームを綺麗に舐め取るとようやくその手を離した。
「美味かったぞ、クリーム」
そう言って笑う毛利はそりゃもう綺麗に笑った。
「な、な、な…なにしやがんだよあんたは!!変態か!?」
顔の熱が上がっていくのを止められない。
なんだこれなんだ。
「変態とは失礼な。生クリームが目の前にあったので喰らっただけよ」
そう言ってまた笑う。
「そうは言っても…なんで…」
「それだけよ、他意は無い」
「うぐ…」
そう言い切られてしまっては元親としては何も言い返せない。
毛利は先ほどのことなど忘れてしまったかのようにお代わりのケーキに手を付けていく。
そして元親は、一瞬だけ舐められたあの感触を思い出してはその場でのたうち回りたくなるような羞恥心に襲われることになる。
そうして、見ているだけで様々な事情で身動きがとれない元親とは対照的に毛利はケーキのほとんどを食べ尽くしておやつタイムを終えた。
「って結局買ってるんじゃねぇかあああああ!!」
「うるさいぞ貴様。我のサンデーを愚弄する気か」
「サンデー!?サンデーってなにそれ名前!?」
しばらく後、訪れた毛利家のリビングには、あの日確かに買うのを止めたはずのル○バがいた。
「店での買い物の良いが、やはりネット通販は手軽で良いものよ」
「…なにこれ、何でわざわざアメリカから通販してるんだよ…」
梱包をほどいたままの状態で放置してあったらしい箱を確認するが送り主がどう見ても日本国内ではない。
尋ねると毛利は実に楽しげに答える。
「今は未曾有の円高よ、海外で買う方が送料込みでも安いぐらいだった」
心なしか毛利はわくわくした様子でル○バの動向を見守っていた。
それはトランペットを欲しがって実際にトランペットを入手した子供の目だった。
-そもそも数万円はするル○バをポンと買うってやっぱりあれなの大人の衝動買いってやつなのか。でもわざわざ安いからってアメリカから通販までしてこの人なんなの、訳わかんねえ。
こんな大人には出来る限りなりたくない、固く元親は心に誓った。
「大人って…」
幸か不幸か、先日元親が片付けていった状態からさほど変わっておらずリビングは床が見えている状態だ。
ル○バは室内をぐるぐる動き回って掃除をしている。
…まともに機能するのはいつまでだろう。
少なくとも元親が通う限りは床が見える状態を維持しよう。今そう決めた。
障害物で動きが止まるル○バなんで可哀想すぎる。
ひとしきり動くル○バを眺めていた毛利は非常にご満悦だ。
「ふむ…中々に面白い。これなら十分資料になってくれそうぞな」
「資料?」
「最初は見た目が面白いから興味を引かれたのだがな、よくよく見ると今度の新作の資料になってくれそうだったので買ったまでよ」
ル○バが資料になりそうな小説って一体どういうジャンル?SF?
「SFではないぞ」
とまるで目を白黒させている元親の脳内を先読みしたかのように毛利は呟く。
毛利は非常に勘がよい。毛利に言わせると元親がわかりやすすぎるのだと言われるがこれに関しては今更どうしようも出来ない。
「…毛利って、どういう小説書いてるんだ…?」
「企業秘密だ」
そう右手の人差し指を唇の前に当てて優美に笑いながら年齢不詳の雇い主は呟いた。
元親が雇い主が本当に何者なのか気になり始めた、春の日のことだった。
○途中のおかしレシピの部分は削ろうか迷ったんですがそのまま載せました。
このシリーズは別名毛利がアニキに餌付けされていく話でもいいんじゃないかと思う今日この頃。
毛利ファンの方々には全方位土下座した方が良いんじゃないかと思うようになってきました。
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色々説明
拍手現在豊臣家転生パロ中学生編入ってます
(現在2本 家三 チカナリです)
注意事項
・フリーリンクじゃないです、基本的にはリンクはお断りしています
・ひっそりこっそりが信条なので、黙々と
・捏造、not公式のこばなしが多いので、スルー推奨
ラキドでは幹部全員を溺愛しておりますが、ベルナルドとイヴァンは特に偏愛。ばさらは家三とか奥州の愉快な仲間達と毛長がメインです。うずみさんが現在官三とか官佐にずっぽりとはまり中。
基本は、愛想のかけらもない「ネット怖い~」の書き手が二人で色々書いている場所です。
書いている人
みっし
・生真面目で堅物でムキムキな男性と一見そうじゃなくても根は真面目極まり ないキャラをこよなく愛している、がんかたうるふの片割れ。編み物とお菓子作りが趣味という、第三者曰く可愛らしい一面を持つ反面、パニクると踊ったり、オロオロしだして周囲は見ていて楽しいらしい。荒ぶる舞は、職場の名物だったりする……らしい。
イヴァンちゃんと片倉さんとシズちゃんとスカイハイさんと陛下を思いっきり愛している。好きなアニメは銀魂と最近はFate/zero。型月ファンというよりは元から虚淵ファンでうずみさんからオススメされまくった末にようやっと手を付けて完読した。ライダー組おいしいです。エクシリアではダントツで陛下が好き。陛下が使用可能になる完全版があるなら複数買いしても構わないとのたまう日々。バサラの好きキャラは片倉さん一強だったはずなのに最近はアニキも熱い。かっちり着込むキャラがすきだったはずなのにいきなり露出度が高いキャラを好きになったのは何故か悩む日々。二次元の向かう愛と同じぐらい甥っ子への愛を叫んでいる気がしてならない。
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