がんかたうるふ ぷちばさ! 参 序章 その2 忍者ブログ
こちらはサークル「がんかたうるふ」のうずみとみっしの二人組が、ラッキードッグ1とばさらのこばなしを黙々と投下する場所です。
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書き終わった。


これで序章は終わりです。
参はこれの続き……とんでもえせえろす~んな話になる……といいなあ、な書き下ろしの予定。
このまま瀬戸内海で石田さんが大暴れする周囲に頭を悩ませる話……になればいいなあ。

あ、それと在庫整理していたら何故かスパークの戦利品のなかから「とよとみけてんせいぱろ しょうがくせいへん」が数冊出てきた……なんで?



 *****
「起きられないんじゃなくて、寝られねえんだろ?」

 不機嫌そうに自分を睨め付けてくる人生の相方に、元親が最初に伝えたのはその言葉だった。
 石田三成は朝起きられない、と文に書いてきた。

 だが三成は毛利に聞こえないように小声で言ったのだ、ちびたちは毛利とは逆によく眠るようになった、と。

 文で伝えてきた事も真実、口で伝えてきた事も真実。
 三成が嘘をついて元親を呼び出すわけがないので、それぞれの段階ではそれは本当のことだったのだ。三成が最初に異変に気がついた時には毛利は朝起きられぬ状況で、今は逆に眠れなくなっている。
そう考えるようにすれば、三成の言葉の矛盾も納得がいくのだ。
 膝の上にチカを乗せ、腰に抱きついてくるナリの頭を撫で。彼等には柔和な表情を向けるくせに、元親に対してはこれ以上近づいてくるなと毛利は雰囲気で威嚇してくる。
 体はくれてやった、心もある程度は預けてやる。
 だが望まぬ時に自分の内に入ってくることだけは許さない。そう言いたげに殺気にも近い威圧感をぶつけてくる毛利は、余程弱っているのだろう。調子のいい時は好きなようにさせてくれるが、苦しんでいる時は側に寄ることすら許してくれない。
 それが毛利という男なのだ。
 それでも今はナリとチカが側に来ることだけは許すのでいいが、昔は本当に大変だったのだ。取り尽く島もないどころか、側に行くのも命がけ。ここまで態度を軟化してくれるようになるまで、どれだけこの体に下手すれば死にかねない傷を刻まれたことか。
 さてこの優美な獣のような男は、今回はどのような甘えと紙一重の攻撃を食らわしてくるのだろうか。
 海を挟んだ一国の当主同士の会談という名のご機嫌伺いの場所は、毛利の私室。普段政治絡みの細やかな話し合いをする時には別の部屋を使用するので、今日は私的な話をするということでいいのだろう。
 たとえば急速に弱っていくこの館の主人についての話とか。
「…………………………」
 元親の問いに答えることなく威嚇しながら睨み付けてくる毛利の顔には、疲労どころか死の影が浮かび上がり始めていた。先程は日の光が降り注ぎ続ける庭にいたので気がつかなかったが、障子から差し込む光は暗い影を際立たせる。
 まるで彼が刻一刻と暗い影に覆われているかのように。
 松の葉色の着物をきっちりと着込んだ毛利の体に、障子の影がまるで獲物を飲み込む蛇の様に絡みつくのを忌々しいものの様に感じながら、元親は何から切り出していいのかわからずとりあえず口を開いてみた。
「あのよ……」
「心配はいらぬ。多分今宵で全ては終わるはずだ」
「理由わかってんのか!?」
 とりあえず会話だけは繋げようと、色々と考えていると毛利本人から思いも寄らぬ言葉。
「今晩が勝負といった所か。少なくとも我が死ぬことはないであろうよ」
「そこらへん……少しわかりやすく説明してくれよ」
「説明できれば、石田におかしな文など書かせなかったわ」
「つまり、わかっちゃいるけど説明できないってことか」
「ぴぃ!」
 毛利の代わりにナリが腰に手を当てて、こくこくと頷く。
 膝の上でうとうとしているチカも全ての事情を理解しているのか、鷹揚に手を振って心配ないとこちらに伝えてきていた。
 三成には佐吉と竹千代という最強の守護者であり世話を焼くべき存在がいる。
 そして毛利と元親の側にも、ナリとチカがいた。当然のように毛利の側にいて、彼の愛情を享受する代わりに守ることを己に課して。
 なんでもないことをしているかのように振る舞うのだ。
 だから元親もつい忘れてしまう。自分が子供のように愛おしんでいる存在が人間ではないこと、そして人には持ち得ない能力を持っていることを。
 そんな彼等が毛利を害するものを放置するわけがない。
 今回の件は毛利の生死に関わることではない、それを納得した瞬間殺気に近い威圧感が消えた。弱っている毛利を助けたい、その思いでわざわざやってきた元親に弱みを見せるのが心底嫌だったのだろう。
 肉に落ちた頬をわずかに緩ませ、笑顔に近い物を形作る。
「折角来たのだ、茶くらいは出してやろう。蜜柑は皆飽いたそうなのでな、貴様が全て喰って帰るがいい」
「蜜柑嫌いだったか?」
「ぽんぽこ狸どもには不評きわまりない。だというのにあれらは際限なく食べ続ける……このままでは肌が蜜柑色に染まるのではないかと石田が気を揉んでいるのだ」
「ぎゃぎゃ~」
 蜜柑は美味しいけど、毎日だとやっぱり飽きちゃう。
 顔を見合わせて囁きあっているちびたちの姿に、自分の毎回の土産が無駄だった事を悟る。子供はみんな蜜柑が好きなはずなのに、どうして蜜柑を毛嫌いする。確か大坂城のちびたちは夏蜜柑とよく似た味の金柑は大好きだと聞いていたのに。
 夏蜜柑は大きくて皮が固いが、金柑はちびたちの口にはちょうどいい大きさでついでに皮も薄くて食べやすい。その事実に元親が気がつくのはかなり先の話で、夏蜜柑を普及しようと今後も彼は山のような蜜柑を毎回持ち込んで怒られることになる。
 とはいえ今目の前にある問題はそれではない。
「茶を飲むついでに、何がどうなってんだか説明してくれる……なんてことはねえよな?」
「我にも上手く説明できぬと先程申したであろうが」
「俺がそうじゃねえかって言っただけだ、あんたの口から直接聞いてねえって。寝不足で呆けたか?」
「……どうやらそのようだな」
 膝の上のチカのぬくもりが心地よいのか、時折目元に手をやりながら毛利は眠たげに首を振っている。
 相当眠いのに眠っていないらしいことはわかる。なので元親としては、少し会話を途切れさせてそのまま眠ってもらいたいところ。しかし毛利は何があっても眠りたくないのだろう、しかめっ面をして耐えているようだがそろそろ限界のはず。
 何が理由で毛利は眠りたがらないというのか。
「理由は上手く言えねえ、寝たくもない……困ったもんだな」
「貴様に迷惑をかけたつもりはないが」
「あんたにそんな顔色でふらふら歩き回られたら、俺が気が気じゃねえんだよ」
「……我が病めば貴様も病むか? そうだな……ならば今宵我につきあうといい」
「あんたから誘ってくるとはな」
「ナリとチカがそう言っておる。貴様にも『あれ』を見せるべきだとな」
「あれ……?」
 意味がわからぬうちに話が進んでいった
 どうやら全てを知っているらしいナリとチカの方を見ると、毛利の体の周囲でくつろぎながら口に指を当ててまだ内緒と言いたげに顔を見合わせて笑っている。毛利大好きな彼等が毛利を苦しめることをするわけがないし、笑っているということは何もかもが上手くいくということ。
「それなら川の字で寝るか!」
「ナリとチカを縦に並べて眠るつもりか? それに我らは常に小の字で眠っておるわ」
「ぎゃ」
「それで思い出したんだけどよ……こいつら最初は一月おきに預かるんじゃなかったか? 俺のところに全然こないんだけどよ……」
「ぴぃぴぃ」
「貴様が船に乗せて連れて行っている時も、貴様に割り当てられた日数として計上している。月の半分は遠洋に連れて行っているであろう、つまりそういうことよ」
「……そ、そうだったのか?」
 知らなかったの?
 そう言いたげに首を傾げるちび二人と毛利に見つめられながら、元親は思う。たまには四国に連れて行って、からくりの作り方を教えたりしたかったのに。ちびたちが船で出かけることを喜ぶので、どうしても彼等を長い航海に連れて行ってしまうのだ。
 そしてこうも思う。
 毛利がちびたちを預かっていてくれるからこそ、元親はからくりの作成や合間の政務に集中できる。家を守る妻がいるからこそ仕事にのめりこむ事ができるのと同じ原理なのだろうが。
 この『妻』は一筋縄ではいかない相手なのだ。
「どうしても貴様が気になるというのならば、貴様がナリとチカを船に乗せて連れて行っている日数を正確に算出して出してもいいが?」
「…………………………」
「ついでと言ってはなんだが、貴様が先日安芸の領海に無理矢理入り込んできた件についても賠償を……」
「それ、全部なしにしてくれ」
 これ以上の物はないであろうという会心の笑顔を返すと、途端に二人と一人の顔が顰められた。
「ナリ、チカ……あれに近寄ってはいけぬ……わかったな。それと……そろそろ準備を始めるとするか」
「ぴぃ……
「ぎゃ……」
「俺を気持ち悪い物を見るような眼で見んなよ……」
 足をだらしなく崩しながらそう抗議すると、それを無視して毛利たちが動き始めていた。
てきぱきと部屋の隅に積み重ねてある布団を敷き、ちびたちは枕を二人で協力して運び。あっという間に寝床を整えた彼等は、まだ日の光が降り注ぐ時間帯だというのに布団に潜り込み。
「眠るぞ、さっさと来るのだ」
 布団から手を少しだけ出してこちらに手招きしてきた。
「………………今から……か?」
「我はさっさとこの件を片付けて思う存分眠りたいのだ。貴様が我と行動を共にしても良いと言うからあのような夢でも見てやろうと思ったというのに……」
「ぴぃぴぃぴぃ~」
 もう軽いいびきをかき始めているチカと違い、毛利の横に陣取ったはまだ眠っていないらしい。
 おかさんはあまえんぼうだよね、おっきいあまえんぼう。
 そう言いながら小さい甘えん坊らしく体をすり寄せるナリに、思わず元親の顔に先程と質の違う笑いが浮かんだ。

 さっさと片付けたい。
 貴様が行動を共にしても良いと言うから。
あのような夢でも。

 言葉の端々から感じられるのは、自分が側にいればどのような苦境でも立ち向かうという意志。
 彼から自分に向けられる愛情は本当にわかりづらいが、彼は自分を信頼し愛おしんでくれている。それがわかる何気ない瞬間をこよなく愛していることを実感しながら、元親は腰を浮かして家族が待っている布団にそのまま入り込む。
「ぎゃっ!」
「せめて上着は脱げ! そのおかしな襟が頭に刺さる!」
「脱いだら生肌であんたを抱くことになるがそれでもいいのか?」
「ぴぃ」
「…………勝手にするがいい」
 間にいるナリを潰してしまわぬように、力を加減して毛利を抱き寄せる。彼にくっついて近づいてきたチカの頭を撫でてやり、抱きついてくるナリを受け止めてやると手の空きがなくなってしまう。
 なので近くにある毛利の額に唇を落とす。
 手は二本しかないのだ、可愛い子供たちのために使ってしまえば毛利に与えてやれるのはこれくらいしかない。どんな反応をしてくるのか、もしかしたら殴られるだろうか。そう思いながら毛利の顔から己の顔を話してみると。

 当の本人はもう寝息を立て始めていた。

「どんだけ寝てなかったんだよ……この意地っ張りが……」
 もう一度顔を近づけ、今度は頬に己のそれを触れさせる。
 自分が来なかったらぎりぎりまで眠らないつもりだったのか、そして自分が来たから瞬時に眠ってしまったのか。愛され頼られている実感と、それに付随する強くならねばならないという思いに満たされながら。
 元親も愛しい存在たちを抱きながら、片方しかない目を閉じることにした。

















 目が覚めたら、何故か足を水に濡らして歩いていた。
 どこだかわからないほどの薄闇の中で足を持ち上げてみると、重い水音と共に何も履いていない足の先から何かが滴った。指の間をぬめる何かが通り抜けていく感触がどうにも気持ち悪く、足を動かして乾いた大地を探してみるが。
 何も見つからないどころか水位は徐々に上がっていく。
 どちらに進めばこの水のない所に行けるのか。かろうじて自分の手を確認できる程度の明るさの中、とりあえず更なる灯りを求めて歩いていると。
「やはり貴様も来ることができたか」
 そんな言葉と共に、ぽんと肩を叩かれた。
「ももももも、も、毛利!?」
「我の名前を勝手に変えるな、桃の親戚になってしまうではないか」
「ぴぃ~」
「ナリとチカもいるのか?」
「ぎゃっ」
 暗いので顔を視認することはできないのだが、肩に当たる声の位置と質を考えれば毛利以外の人間の訳がない。先程から妙に背中が重いというか、何かが背中に張り付いている気がするのだが。彼の声が並んで立った時自分のどこに触れるのかくらい、元親はちゃんと理解している。
 ナリとチカの声も毛利の肩の辺りでするので、彼等は毛利の肩に掴まって移動しているのだろう。声を聞く限り毛利もちびたちも元気そうなので安心したが、そもそもここはどこなのだろう。
 それを隣に移動してきた毛利に聞くと、彼は簡潔明瞭かつ驚愕するような答えを口にした。
「ここは我の夢の中よ」
「おい……あんたの夢は出入り自由なのか……?」
「我とて確証はなかったが、貴様も我もあの鏡に触れている。ならば同じ夢を見られるのではと推察したまでよ……ナリ」
「ぴぃ」
 夢の中、と説明してくれたこの状況にもう慣れきっているのか、毛利は決められた手順を行うかのように淡々とナリの名を呼ぶ。すると小さくそれに答えたナリの周囲が、ぽうっと光り始めた。
 いや、光っているのは。
「……デコが光ってんのかよ」
「役に立つ物はなんであろうと使わねばならぬ。たとえナリの発達した額であろうともな」
「ぎゃぎゃぎゃ~」
「チカも光って損はないと言っておる」
「確かにそうだけどよ」
 蛍のように額だけが光っているというのも、なんだか思いっきりおかしい。
 しかしそれのおかげで周囲の状況を理解することができるようになった。元親たちの足下を流れているのは、黒々とした水のような物。周囲は自然の石に覆われており、どうやら自分たちは洞窟のような場所にいるらしかった。
 水の流れは緩やかだが、それは確実に遙か遠くへと続いている。
 そこが出口であり、毛利が目指している場所なのだろう。こちらに声をかけず、無言でその先へと急ごうとする毛利についていこうとして元親はあることに気がついた。
「お前……なんでその格好なんだ?」
「この先にあるものと、争わねばならぬかもしれぬからよ」
「争う?」
「己の姿を見ておらぬのか? 槍まで背負って……どこに攻め込むつもりなのやら」
 毛利の体を包むのは、翡翠色の戦装束。
 無駄に長い兜はつけていなかったが、両腰腰には独特の曲線を描く曲刀。そしてナリの作ってくれた輝きが映し出したのはそれだけではなかった。
 自分の体も、戦装束を纏っている。
 その事実と背に感じた重みに手をやってみると、触れたのは扱い慣れた碇槍の柄。一応現在は友好国に近い扱いになっているとはいえ、毛利の屋敷に入る時に武器を持ち込むことは非常時以外許されていない。巨大な魚を狩りたいとか、山にいる熊を殺して夕食の材料にしたいとかを『非常時』と言い張っても許されてはいたが。
 今回は持ち込んではいなかった。
 その事実でようやくこれが夢であるという実感が湧いてきたわけだが、毛利はそんな元親を鼻で笑う。
「夢であることを理解したか」
「あんたの口からおかしなこと言われて、すぐに納得できるか」
「我は全てを受け入れることにした……これらと暮らすには、そうせねばならぬからな」
「ぎゃ♪」
「ま、確かにな……」
 角やら獣の耳やらが生えた、小さな人間のような者と日々暮らしていれば、そんな考え方を持つに至るのだろう。
「共寝した人間と夢を共有できようが、額が光ろうが気にしても仕方がない。これらはそういう存在で、我らはそれを『この世にあってもいいが無くても困らぬ』程度の認識で享受する」
「いれば楽しいが、いなくても困んねえって言いたいのか?」
「我が無くても困らぬとしているのは、これらの……ちびたちの力のみ。ナリとチカには、我と共にいてもらわなければな」
「ぴぃぴぃ」
「あんたもすっかりこいつらの『おかさん』になっちまったなぁ……」
「ぎゃぎゃぎゃっ」
「母呼ばわりは気に喰わぬが、慕われるのは……悪くはない」
 足を若干速める毛利の顔は、わずかに赤らんでいる。
 恥ずかしいことを言ったと思っているのか、こちらと目を合わさないようにしているが自分の発言を悔いているというわけでもないらしい。ぴょこんと元親の方へと飛びついてきたナリと、毛利を独り占めできて嬉しいのか首筋に抱きついてきたチカ。そんな彼等へ慈愛に満ちた目線を向けたのもつかの間、一気にその表情が引き締まった。
「そろそろ……か」
「何を勝手に理解してんだか知らねえけどよ、そろそろ教えてくれてもいいんじゃないのか? この夢……だと俺たちが思ってるものは、何に繋がってるんだ?」
「……我が最初にここに来た時……ナリとチカはまだここに来てはいなかった。我がこれらに話をした日の夜から、ナリとチカは我の旅路に同行してくれるようになったのだ。相当疲れるようなのでな、あまり無理はさせなくないのだが……」
「ぎゃ~」
 平気だよと言いたげに胸を張るチカを褒めてやろうとした時、その音が聞こえた。

 悲鳴、いや慟哭。

 普段から賑やかではあったが、感情をむき出しにして叫ぶことなどないはずなのに。。
 元親の中ではそういう印象だったある青年の声と、その悲しみと狂気を秘めた叫びはとてもよく似ていた。
 本人だと思いたくない、そう聞いた人間が願うほどに。
「毛利」
「行くぞ」
 毛利も同じ事を考えたのだろう、チカが肩から落ちぬように手を伸ばして彼を抱き足を速め始める。元親も同じようにしてナリを腕に抱くと、小走りになりながら声の聞こえた方へと一気に近づいていった。
 最初は点の様であった出口を指し示す光。
 それが広がり、道の終わりを形作っていくのを見ながらそこへと近づいていく度に声は嘆きと苦しみへと満ちていく。
「…………ぜ…………う……て…………っ!」

 この世の全てを悔やみ。

「…………しを…………て……く…………のだ!」

 呪い。

「……は…………り……こ……す…………と……のに……」

 己自身を言葉の刃で切り刻んでいく。

 そんな言葉が更に元親たちの足を速め、いつしかそれは全力疾走になっていった。
 あのまま『彼』に叫ばせていてはいけない、彼を嘆かせ続けてもいけない。これはあくまでも夢だが、この嘆きの先には。


 現実の滅びがある、きっと。


 腕の中にあるナリのぬくもりと、横を走る毛利とチカの存在に心を支えられながら走る。元親が最初に気がついたのは、自分の足下を流れ続ける水の存在だった。蕩々と流れ続け、光指す出口へと向かっていくそれは。
 黒ではなく、血潮の色をしていた。
「なんだ!?」
「今後流される血で生まれた川よ……そして、その終幕はそこにある。見るがいい、あれが……」

 我らが見届けなくてはならぬもの。

 切なげに、そして苦しげに言い放った毛利の指さす先、そこから血の流れは生まれていた。
 日の光の色の戦装束の青年が、黎明の色に包まれた青年を嘆きながらかき抱く。彼等の足下から生まれ続ける血の流れは、元親たちの足を濡らし。
 多くの者たちを血で汚そうと、各所へ流れていくのだ。
「最初に我が見たのは……徳川が豊臣秀吉と竹中を誅殺する姿だった。次に見た時には、黒田の命が奪われていた……その次は大谷……一人一人死んでいき、最後は……」
「石田を殺すっていうのか? 家康が!」
「様々な手を試してみたが、我の声はあれらには聞こえぬし、姿も見えぬらしい。ただの傍観者に過ぎぬということよ……口惜しいがな」
「ずっと……一人で見てきたのか?」
「これに触れてしまったせいであろうが、鏡までが汚れるようになってしまってな。ナリとチカには全てを話し、同道してもらうようにはなった。それでもこれを見たくはなかったのは事実。それ故眠ることを拒否していたのだが……やはりこの結末は避けられなかったか」
「家康が石田を殺すわけがない! あいつくらい石田のことを愛してる奴がいるはずがないんだよ……それなのに……あいつ……」
「ぴぃ……」
 元親の叫びを聞いて、腕の中のナリが悲しげな顔で強く体を擦りつけてくる。
 そんなナリに何かを返してやることもできぬまま、元親の目は目の前で繰り広げられている光景を見つめ続けていた。体の各所に矢を無理矢理引き抜き肉がめくれ上がった傷、そしてそこから吹き上げた血が目を開けることのない全身を染めきっている。指の先まで完全に力が抜け、呼吸のために胸元が動くことすらない細身の体は命の息吹を完全に失ってしまっているのだろう。
 その体を抱きしめ嘆き続ける家康の体も三成の血で汚れてはいるが、目立つ外傷はほとんど見られない。
 どのような事情があり、どのような戦いを繰り広げたのか。元親には推察することすらできないが、三成が一人で戦い続けたことだけは知ることができた。
 甲冑に包まれていない部分の肌には塞がりきっていない生傷が幾重にも刻まれており、手当すらされていなかった。もし今三成が傷を負ったとなれば竹中半兵衛や大谷吉継が血相を変えて手当するだろうし、家康が半狂乱になるのが目に見えている。
 だが元親の目の前の死骸の三成は、誰も傷の手当てをしてやらなかったのだ。
 三成を愛する人間たちが全て討たれたから、彼を心配する者は誰もいなくなった。だからこそ三成は誰にも体を触らせず、傷の手当てすらろくに行わず。孤独に仇である家康に挑み、傷だらけの体で戦い散ったのだ。
 そこまで考えて、背筋に冷たいものが走る。
「……おい……これがもし本当に未来だっていうのなら……」
「我は死んでいるということになるであろうな。少なくとも我は、石田の傷をあのままにしておく様なことはせぬ」
「……………………」
 毛利だって、三成のことは相当気遣っている。
 この『未来』で毛利が生存しているのなら、三成をこんな状況で戦わせはしないだろう。安芸の安泰を最優先にするとしても、できるかぎりの援助は行うはずなのだ。
 それがなく三成が一人で戦うということは、毛利はこの段階で存命していない。
 淡々とその事実を語る毛利であったが、それを押しとどめる者がいた。
「ぴぃっ!」
「ぎゃぎゃっ!」
「……ナリ……チカ……」
「お前ら……俺たちを守るっていうのか……?」

 おとさんとおかさんはぜったいだいじょうぶ。
 ぼくたちがまもるよ。

 小さいくせに腕の中でそれぞれ必死に強がって。
 眼に涙をいっぱいにためて、自分の愛しい『子供たち』は言ってくれるのだ。これほど凄惨なものを見せ続けられた毛利が何故落ち着いているのか、恐怖に囚われないのか。
 それはこの小さな家族がいてくれるから。
 未来への恐怖に小さな体をすくませず、必死に戦おうとしているちびたちの前で畏れを顔に出すわけにはいかない。彼等が守ると言ってくれるのなら、自分たちも彼等を守らなければいけないのだ。
 恐怖に屈しない勇気と、家族に向ける愛情で。
「……ありがとよ」
「何故貴様が礼を言う」
「これを見せるくらいには、俺を信じてくれてんだろ?」
「その程度には……だがな」
「なら、俺も怯えることはねえな。全てはなるようになる……それに……家康の奴を止めてやれるのは俺だけだろうからな」
 目の前の光の中で、家康は変わらず三成の身体を抱いて嘆き続けている。
 物言わぬ死体となった三成と、頬全体を濡らすほどの涙を流し叫び続ける家康。


 そんな彼等の側に、狐耳と狸耳のちびがいない。


 その事実に元親が気がついたのは、毛利の肩を抱きながらそれを見守っていた最中ではなく。
 がくがくと身体を震わせ、全身を汗で濡らしながら夢から目覚めた後のことであった。
















 目が覚めたら外は茜色に染まっていて、何故か目の前には竹千代がいた。
 横を見れば毛利もナリもチカもまだ熟睡しているし、いつの間にか佐吉がその中に潜り込んで一人と三人が眠っている状況になっている。
 竹千代だけが元親の胸の上に立っており、無言でこちらを見下ろしていた。
「……なんだ……? 入りたきゃ入ってこいよ」
「…………きゅ」
 てっきり竹千代も布団の中に入りたいのかと思っていたのだが、彼は今まで見たことがない細真剣な顔で首を振ってそれを否定した。
 色鮮やかで残酷すぎる夢にまだ指先は震えているし、首筋は汗で濡れきっているので一気に冷え始めている。身体を起こすのも億劫なので自分の身体の上に立つ竹千代を無理に移動させず、元親は静かな声音で竹千代に話しかけた。
「俺たちが何を見たか……知ってんだろ?」
「きゅ」
「なら教えてくれや。なんでお前たちは『あの場所』にいねえんだ?」
「きゅきゅっ きゅきゅきゅ」
「…………そういや、お前の言葉はわかんねえんだった」
「きゅ~きゅ~」
 何か大事なことを伝えていてくれているようだが、元親は竹千代の言葉を理解することができなかった。ここで毛利が起きていてくれたり、通訳兼毒筆係である佐吉が起きていてくれれば話は早いのだが。
 どちらもぐっすりと眠っている。
 それに同時に気がついたのか、元親と竹千代はしばし無言で見つめ合い。
「ま、その話は後でにしとくか。俺とお前じゃ話が進まねえしな」
「きゅ!」
とりあえず問題の解決を先延ばしにすることにした。
 夢で見たあの『結末』はまだまだ先の話だろうし、通訳がいなければ会話もままならないのだ。ならば自分たちの大切な存在が起きてから話をしても遅くない。

 この時はそう思っていたのだ。

 竹千代と佐吉というある意味守護者のような存在と離れた場所で昏々と眠り続けている三成に、とんでもない自体が迫っていることなど。
 元親の誘いのままに布団に潜り込んで遅い昼寝をし始めた竹千代も、誘った元親本人も気がつくわけがなかった。



 そして毛利家最大の騒ぎともいえるその事件は静かに。
 悪夢の様に人々の心に忍び寄りながら、始まったのだった。








____________________________________________

おろち2のおかげで文章が進まない……全部きょういとりくそんがかわいいのが悪い。

あと司馬兄……なにあのクール系……


うふふふ、おろちに浮気しても許してね……私もうどうすれば……あとみっしさんに布教されたけど、りょうとうもめんこいにゃですね……なにあのたれめつんでれ……




そんな感じで、毛利さんの夢見が悪いフラグがようやく解消に。
鏡と毛利さんの関係は……まあこれは参で。
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[427] [426] [425] [424] [423] [422] [421] [420] [418] [417] [415]
色々説明






拍手現在豊臣家転生パロ中学生編入ってます
(現在2本 家三 チカナリです)


注意事項
・フリーリンクじゃないです、基本的にはリンクはお断りしています
・ひっそりこっそりが信条なので、黙々と
・捏造、not公式のこばなしが多いので、スルー推奨


ラキドでは幹部全員を溺愛しておりますが、ベルナルドとイヴァンは特に偏愛。ばさらは家三とか奥州の愉快な仲間達と毛長がメインです。うずみさんが現在官三とか官佐にずっぽりとはまり中。
基本は、愛想のかけらもない「ネット怖い~」の書き手が二人で色々書いている場所です。


書いている人


みっし

・生真面目で堅物でムキムキな男性と一見そうじゃなくても根は真面目極まり ないキャラをこよなく愛している、がんかたうるふの片割れ。編み物とお菓子作りが趣味という、第三者曰く可愛らしい一面を持つ反面、パニクると踊ったり、オロオロしだして周囲は見ていて楽しいらしい。荒ぶる舞は、職場の名物だったりする……らしい。
イヴァンちゃんと片倉さんとシズちゃんとスカイハイさんと陛下を思いっきり愛している。好きなアニメは銀魂と最近はFate/zero。型月ファンというよりは元から虚淵ファンでうずみさんからオススメされまくった末にようやっと手を付けて完読した。ライダー組おいしいです。エクシリアではダントツで陛下が好き。陛下が使用可能になる完全版があるなら複数買いしても構わないとのたまう日々。バサラの好きキャラは片倉さん一強だったはずなのに最近はアニキも熱い。かっちり着込むキャラがすきだったはずなのにいきなり露出度が高いキャラを好きになったのは何故か悩む日々。二次元の向かう愛と同じぐらい甥っ子への愛を叫んでいる気がしてならない。



うずみ
・相方を愛しすぎている変な人。趣味は畑仕事に漬け物作り、好きな物は不幸属性の美人(男女問わず)。ばさらでは石田さんと黒田さんをこよなく愛していたり、赤い子めんこいにゃぁとたまに叫んでいる。

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ばさら垢できました
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