がんかたうるふ 「輪舞~真~」四章 啓蟄の刻 ~元親~ その1 忍者ブログ
こちらはサークル「がんかたうるふ」のうずみとみっしの二人組が、ラッキードッグ1とばさらのこばなしを黙々と投下する場所です。
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書き終わりました。


ということで、しばらくぶりの官兵衛さんの出番。
多分この章はその3で終わるはずで、次の章から……まあ色々。



 *****
 石田三成という存在は、大坂城にとってとてつもなく重要な人間だったらしい。
 忙しく場内を動き回り、時には手ずから秀頼の世話を行い。まだ言葉を話すことすらできない秀頼の後見人として豊臣軍を指揮する三成を、若さ故侮る人間は内外問わずいたわけだが。
 逆に三成がいなくなったことで、彼等は三成の真価を知ったようだ。
 今まで何も言わずに三成が処理していた様々な案件、それを官兵衛や大谷はそのまま彼等に振り分けた。三成が一人でやっていた仕事なのだからできて当然、その言葉と共に与えられた仕事は彼等を相当苦しめたらしい。
 自ら秀頼の面倒をみたいと言い、大坂城の居候となったお市はその姿が面白くて仕方がなかったのだろう。
 やみいろさんのおしごと、あのひとたちはできないの?
 と当人たちの目の前で笑顔で言った時には、大谷と二人で大笑いさせてもらった。本人に悪気は当然ないのだが、それ以来三成に対する批判がめっきり減ったのは事実。
 秀頼を膝に乗せ、身体を覆う布を引っ張られながら。
 大切な三成を褒め称える声が日に日に増えていくことを、大谷は喜びながら三成の帰りを待ち望んでいる。各国にまき散らそうとしていた策謀をことごとく官兵衛に阻止されたのが原因なのかはわからないが、彼の体調は日が過ぎるごとに悪化し始めていた。
 凄まじい勢いでやせ細り、呼吸に重い音が混ざるようになり。時折口元を必要以上に隠しているのはきっと、血を吐いたからなのだろう。
以前の時間では、こんな短時間に大谷が衰弱していくことはなかったのに。
 官兵衛が知らない何かが起こっているが、今はそれを知るための情報の欠片すら手に入らない。欲しくてたまらない時に欲しい情報が手に入らないのはいつものこと、だがゆっくり構えて待つ余裕はないのだ。
 今度は失敗するわけにいかないのだから。
 上杉経由で家康に送った文は、きっと家康の元へと届いているだろう。雑賀荘に行くと三成は書いていたから、家康が臆病者の馬鹿でなければ二人は再会できているはず。できれば顔を合わせて話をし、互いの中にあるわだかまりを払拭できている事が望ましい。だが、急に気持ちの整理をつけることは難しいはず。
 三成を生かすためには家康との和解が必ず必要になるが、それはもう少し後でもいい。
 もうとっくに終わっているはずだが、結果が伝わってこない雑賀荘での三成の行動について官兵衛がやきもきしている間にも時代の流れは大きく動いていた。
 奥州の独眼竜伊達政宗が家康と同盟を結び、北條家と上杉家も親徳川の姿勢を隠そうとしない。そして上杉の客将である前田慶次の助力で、前田家も徳川と同盟を結ぶ可能性が高まってきている。
 慶次を色仕掛けでたらし込んででも、前田家と徳川家の橋渡しをさせてくれ。
 そう佐助に頼んだのが功を奏したのか、徳川と前田の話し合いは予想以上に円滑に終了したらしい。上杉に文を運んで貰った際に佐助が慶次に何を言ったのか、なんとなく想像はつくが佐助は本当に頑張ってくれたのだろう。おかげで官兵衛の描いた天下統一のための戦いが、現実のものになってきた。
 東日本を家康が、西日本を三成がまとめ。
 全ての勢力を一度に同じ場所に集め、全てに決着をつける。小競り合いの繰り返しであった今までの戦いでは、地方は統一されてもこの国自体が一つになることはなかった。
 だが一度に全てを終わらせることができたら?
 誰もが納得できる戦いを、そして天下人を。できるだけ犠牲者は少なく、自分の土地を治め続けてきた領主たちが全てを失うことのない戦いを。
 長宗我部家は三成が説得を行っている。九州の島津家はこちらからの手紙に色よい返事を送ってくれているし、大友家はザビー教の保護という名の一国封じ込めと引き替えの同盟を受け入れるだろう。忠臣立花宗茂はザビー教の恐ろしさと危うさを知り尽くしている男、こちらとの同盟に反対してくる可能性もあるがそこは先に手を打ってある。
 ザビー教に理解はあるが関わりを持とうとはしない島津義久にも説得を行ってもらい、ザビー教が大友領より外に出た場合の危険性について話をする。そして時間をかけてザビー教を大友領より根絶する手伝いを行う用意があることも伝えるのだ。
 信仰という名の呪いは容易に人々の心を束縛し続けるだろうが、時間をかければあるいは。
 こちらから見せた誠意は、立花宗茂の心を変えてくれたらしい。今は耐え、時間をかけてザビー教の教えを領民に忘れさせる。
 たとえそれが主君の怒りを買う行為だとしても。
 大友と島津が協力をほぼ約束してくれているので、九州の他の将たちも三成に膝を折ることになるだろう。小早川はあの気弱すぎる上に優柔不断な青年がいる限り、豊臣を裏切ることができるわけがない。そういうわけであとは安芸の毛利と四国の長宗我部のみなのだが、はたして三成は上手くやってくれているだろうか。
官兵衛ではあのまっすぐな気性の男に策を隠して近づいたことを気づかれ拒まれる、身体の弱い大谷を四国まで行かせるのはしのびない。三成ならば嘘偽りを好まない素直すぎる性格故、少なくとも嫌われることはないだろう。
 三成は長宗我部を、そして官兵衛はといえば。
「我をわざわざ呼びつけた理由……聞かずともわかるが、一応貴様の口から聞いておくとするか」
「確認するのは大事ってことか?」
「……貴様が我が想像だにせぬ愚かなことを言い出したら、嘲笑ってやろうと思っているだけよ。くだらぬことを言うのなら、この場で貴様の首を切り落としてやる……覚悟して話すがいい」
「お前さんはそういう男だよな……わかっちゃいたが」
 大坂城の前庭にある豪奢な茶会用の離れに、その男と官兵衛はいた。
 真っ直ぐに切りそろえた真っ直ぐに流れる髪、そして流麗な美貌と男とは思えぬ程小柄で細い体。さすがに今日は戦装束で来訪しはしなかったが、この見るからに力のなさそうな男が戦場で鬼神の如き活躍をみせることを官兵衛はよく知っている。

 安芸の絶対的な専制君主、毛利元就。

 自領の海に入り込んでくる長宗我部家の軍船との小競り合いが日常と化している状況で、彼も国を離れたくなかったのだろう。こちらを見つめる目には不信感が満ちているし、官兵衛が少しでもおかしなことを言えば彼はすぐに安芸に戻るつもりだ。
 同盟と協力の約束を取り付けるのであれば、通常ならこちらから出向くのが礼儀。
 だが大谷の体調が日々悪化しており三成がいない状況では、礼に欠いた行動だとわかっていても呼ばないわけにはいかなかったのだ。まずはそれについて詫びるために口を開こうとすると、毛利は全てを察した様子で詫びはいらぬと短く言ってきた。
 さっさと本題に入れということなのだろう。
 暖かく雲一つない晴天とはいえ、今は真冬。火鉢は部屋の隅に置いてあるが手枷と鉄球を繋ぐ鎖は寒々しい印象を与えるし、なにより毛利の言葉が一番冷たい。
 この氷のような男にどうやって熱を吹き込んでやるか、それを考えながら官兵衛はゆっくり口を開き始めた。
「豊臣と同盟を結んでくれ、それ相応の対価は用意してある」
「尼子との調停の間に入る……その程度で我を動かせるとは思ってないだろうな」
「当たり前だ。尼子との間には当然入らせてもらうが、それだけじゃない……長宗我部との和平も間に入って進めてやるよ。その話のために三成が長宗我部領に行ってる所だ」
「長年にわたる安芸と四国の諍いを止められると? あれらが安芸に与えた被害がどれだけのものだかわかっているのか?」
「なら聞くが、長宗我部の船に奪われた物の名前と量を正確に出せるか? それができるなら全部取り戻してやるが……当然、できないよな? なら今後互いの船には手出ししませんって約束だけで、お前さんたちは仲良くできるだろうよ」
「何が奪われたかわからぬのなら、奪われた事実を無かったことにして和解しろということか…… 理にかなった言葉ではあるが、心情的には納得できぬ」
 手に持った扇子で己の腿を軽く叩き、毛利は苛立ちを顕著に表している。
 毛利家と長宗我部家の長年にわたる争いの原因のほとんどは、長宗我部家の領海侵犯と略奪行為が原因。水不足に悩まされるが故に農作物の収量が低く、経済基盤が弱い長宗我部量にとって略奪行為は他国との関係悪化を覚悟しても行わなくてはならないもの。
 では長宗我部に手を差し伸べれは略奪が終わるかといえば、それも違うのだ。
 隣国同士で争い続け、国力を減らしあうのは愚策の極み。それがわかっていても長い時間をかけて育まれた相手への恨みを払拭することは困難だろう、特に毛利側は。
 その数量として算出できない『恨み』を忘れて、和解を行え。
 いきなりそう言われれば毛利の機嫌が悪くなるのも当然だが、ここまでは互いにわかっていること。見た目は三成よりも若く見えることもあるが、彼は長年国を治め続けているのだ。
 ここでごねれば官兵衛がもっと上の条件を提示してくる。
 それがわかっているからこそ毛利は、自分が機嫌を損ねたことを誇示するような行動を取る。しかし官兵衛だって負ける気はない、こういう手合いの人間と上手く交渉するにはやり方は一つだけ。
「そこまで長宗我部を嫌うのなら……そうだな、奴と徳川の間を上手く裂いてこちらの味方につけてみるか? そうすりゃお前さんの方が立場は上だ、最初からこっちに味方していた奴と頼る先が無くなって仕方なく味方についた奴。どちらが上かは当然わかるよな?」
「…………………………」
「刑部の奴はお前さんにそう言ったか? だが小生はそういう汚いやり方は好まん、三成もお前さんとの交渉を小生に一任してきたんでな……刑部の奴は出てこれなくなっちまった」
「…………最初から全て見通していたという訳か」
「というわけで、さっさと諦めろ。それに小生は刑部より面白い条件をもう一つだけ、お前さんに用意できる」

 最初から核心を突き、自分の方が優位だと見せつけてやることだけ。

 事前に大谷と毛利は影で話を進めていたのだろうが、彼等の思うがままに状況を動かすつもりはない。三成が官兵衛の策に同意して自ら長宗我部の元へ行った今、大谷にできるのは秀頼の面倒を見ることと身体の負担にならない程度の政務を行うくらいか。
 大谷との策謀はもう進められない、そして官兵衛の言葉に含まれてる利を毛利はちゃんと理解していた。安芸を守るためには半兵衛によって作られたこの流れに乗る必要がある、そして優位に立つには徳川ではなく三成に協力した方がいいことも。少なくとも徳川家康は掲げている『絆』故に負けた将を処断することはないだろうが、三成は敗残者にどんな厳しい処遇を突きつけるかわからない。周囲がそう考えているのは、三成に対する周囲の人間の反応でわかる。
 ならば害が少ない方についた方が得策と考えるのが普通。
 ほんのわずかだけ目を細め、子どものように軽く唇をとがらせた毛利は官兵衛の言葉の続きを急かす。
「貴様の言う面白い条件……さっさと言ってみろ」
「……簡単かつ面白い儲け話だ。四国に足りないのは水……周りは海水だらけだがそれを畑に撒くわけにもいかんのはわかるよな?」
「我を小馬鹿にしているのか?」
「水溜を作るだけの能力を持ってはいるんだよ、ご自慢のからくりを使えば民と畑が干からびないくらいの大穴は開けられる。だけどな……それを作っても計算できる奴がいない。たとえば毛利……お前さんの所の優秀な工兵たちみたいな、水の流れる道を計算し尽くすことができる奴らがな」
「まさか……奴らに我が捨て駒を差し出せというのか?」
「今までの損害の分もふっかけて、高値で売ってやるんだよ……その技術と物資をな。安芸は大金が手に入る、向こうは安芸の船を襲う大義名分を失う。悪くはない話だと小生は思う」
 少ない水を有効活用するためには、水路を作り上げなければならない。
しかし治水工事の経験が浅い四国には、設計した上で指揮できる人間はなかなか育たなかった。ならば他国に借りるという手もあったのだろうが、略奪行為を仕掛けてくる国に貴重な人間を貸す国はまずなかったはず。
 ならば安芸がその人間を金銭や物品と引き替えに四国に貸し、四国の人間に教えながら工事を完遂すればいい。
 自国のために力を尽くしてくれる人間の母国を攻撃すれば長宗我部元親は民から責められるだろうし、海での揉め事が減れば安芸の民も心安らぐだろう。
細かい問題は起こるだろうが、少なくともこれなら誰かが不幸になることはない。
 完璧とは言わないが、過去の因縁をある程度払拭し未来に繋げるにはこれしかない。二つの国で物資や人材が行き来するようになれば、民たちの心も近づいていくはず。
 そうすればきっと、四国と安芸の民は海を挟んだ相手との争いを望まなくなる。
 未来までを見通した官兵衛の言葉に対し、毛利の言葉は鋭い刃のようにそれを論破しようとしていく。
「……一つ聞く。我が長宗我部を討ち、四国を手に入れればわざわざそのようなことをしなくてもいいのではないのか?」
「それが小生の望みだからだ。手を汚したくないなどという子供じみたことを言う気はないがな、無駄に国を一つ潰して頭をすげ替えるようなことをしたくはない」
「我からしてみれば、安芸に手出しする者全てが敵よ」
「なら小生はその考えを変えてくれと願うさ。戦で無駄に殺すくらいなら、無駄に生かしてやるのも面白いだろう?」
「貴様の語るのは夢物語よ」
「ああ、夢にしかすぎん。だがな……小生は夢を真にするつもりなんだよ」

 官兵衛が語るのは夢、毛利が語るのは現実。

 できるだけ争わないようにしていきたい、そんなことは無理だ。
 全ての者が仲良く話し合えるようにしていきたい、そんなことをできるわけがない。
 それは厳しい現実を見続けてきた官兵衛だってわかっているし、急にこの世を変えられる訳がないということも理解し尽くしている。
 だが今の官兵衛には三成がいた。
 どちらが勝つにしても、三成は戦が終わった後表舞台から身を引くつもりだろう。彼は二君に仕えられるような器用な男ではないし、秀頼の後見を続ける気もないだろう。亡き主君とその軍師のために戦う事を選んだ三成が、長い余生を家康を思いながら穏やかに過ごせるように。
 彼が心安らかに生きられる世界を作りたいのだ。
 家康のように思いをぶつけるわけではないし、表に出すつもりは決してないが。それが官兵衛なりの愛し方であり、愛おしい存在へ贈ることができる最良の贈り物だと思っている。
我ながら青臭くて恥ずかしいことを考えているなと思いはするが、ただ一人のためにこの国の争いを全て鎮めようとしているのだ。
 見る夢だけは大きい方がいいに決まっている。
「…………貴様の法螺まがいの大言壮語に我を巻き込む、そういうことか」
「できれば巻き込みたいな」
「鎖に繋がれた手のままで、よくもそんなことが言えるものだ」
「これか? 外そうとは思ったんだがな……三成がおかしな斬り方をしちまったからか、逆に外れなくなった」
 未だに手首についたままの枷を持ち上げると、毛利の表情がわずかに緩む。
「石田三成か、会ってみるのも面白いかもしれぬな。大谷と貴様がそこまでいれこむ男……興味深い」
「小生の話を受けてくれるっていう意味に取っちまうぞ、そんなことを言ったら」
「石田が長宗我部を連れてくるのであれば……考えなくもない。貴様の言うことは幼子の戯言よりもくだらなくもあり、安芸の繁栄にとって有意義な話でもありといったところか。まずはあの西海の鬼の返事待って、それから決めても遅くはない」
「そうか!」
喜んではみたが、毛利と長宗我部が直接会えばもめるのは必至。散々口論し合うだろうし実際に戦いになるかもしれないが、十分勝算のある賭であることを官兵衛はわかっていた。
 あの二人は腹を割ってはなせばきっと心を寄り添わせる関係になることができる、そして三成や甲斐に戻っている幸村を導いてくれるだろう。
 官兵衛の方の準備はこれで終わった。
 あとは三成が長宗我部相手に上手くやってくれていればいいのだが。

 心配なので間者でも出しておくか、それとも佐助に頼むか。

 全く連絡がないのはおかしいし、なによりも三成の身が心配だ。
 長宗我部元親は三成をいきなり斬り殺すような残虐な男ではないのはわかっているし、三成がそう簡単にやられるわけがないこともわかっているが。
 心配なものは心配なのだ。
 そんな心配性の官兵衛の書いた文が、各所で子煩悩の父のものとしてほほえましく受け取られている。それを知ることができるのは数日後、三成がげんなりした顔の長宗我部元親をひきずって大阪城に戻ってくる時のことなのだが。
 当然官兵衛はそんな事など知るわけがなかった。






















 黒田官兵衛の心配をよそに、石田三成はそれはもう生き生きと長宗我部領で日々を過ごしていた。
「なんだこの帳簿は! 無駄な金を使いすぎている、これならざるで水を汲んだ方がましだ!」
「だからな、これは俺個人の帳簿だからよ……」
「貴様の個人の帳簿だと? そのような物を作る暇があったらこのどこで穴埋めをしているのだかわからぬこちらの帳簿を修正しろ! 今すぐにだ!」
 周囲には山と積まれた帳簿、手の届く位置にあるのは湯気の立った温かいお茶。
 時折茶をすすり、採光性を考えられている割には暖かい室内の真ん中できちりと正座しながら。三成は筆と湯飲みを交互に持ち、石田三成はのんびりと帳簿の整理を進めていた。
 いや、本人にとっては『のんびり』なのだが、周囲の人間から見ると鬼気迫る早さで帳簿を片付けていっているように見えるらしい。だが本人は周囲の目を気にせず、横で見ている長曾我部元親を時々叱りつけながら楽しく仕事を行っていた。
 官兵衛が心配していた連絡が無かった理由、それは同行の者が長宗我部家に配慮した結果に他ならなかった。
 雑賀荘から長宗我部元親の元へ、簡単にたどり着けると思っていたのが予想以上に時間がかかったのは彼の性格を誰も理解していなかったから。気分で居場所を変える男を捕まえるのに四国中を歩き回ることになり、ようやく出会えたと思ったらそんな文を読む気はないのでさっさと帰れと言うありがたすぎる元親本人からの言葉。
 これでまず三成が本気で激昂した。
周囲の人間が止める間もなく長宗我部に打ちかかり、あまりの早さに誰もが止めることができず敵陣のど真ん中で大将をぶん殴るという暴挙に出た三成を。
 何故だか長宗我部家の家臣たちは大いに気に入ってしまったらしい。
自分の所の大将が馬乗りになって殴られ続けているのに喜んでいる家臣たちも変だと思ったのだが、その上に発っている人間はもっとおかしかった。自分を殴り続けていた三成の手を止め、癇癪を起こす子どもをあやすかのようにぐりぐりと頭を撫でたかと思うと。
 読むだけ読んでやるからよこせ、と唐突に言ってきたのだ。
 官兵衛の提示した同盟の条件を三成はその時まで詳しく知らなかったのだが、長曾我部家の人間は大きく心を動かされたらしい。四国各地に散らばっている主要な家臣たちを集めて討議したいということで、返事を待つ間客人として長曾我部家の城の一つに滞在することになったわけだが。
 暇を持てあました三成が、長曾我部家の仕事の手伝いをすると言い出したのが悪かったらしい。
 普段は敵を見つけたら周囲のことを考えずに突き進んでいく三成だが、書面の作成や帳簿の整理などに関しては異常な程に細かいのだ。途端に長曾我部家の穴だらけの整理されていない帳簿に怒り始め、夜を徹して修正を始めたというわけだ。
 金勘定が苦手な人間が多い長曾我部家にとって、整理してもらえるのはとてもありがたい。
 しかし他国の人間に直してもらったなんていう恥を大坂に伝えられては困るし、三成はそういう部分をぼかして報告する人間ではなかった。頼むから大阪城への報告は少し待って欲しい、家臣たちのそんな懇願に三成に同行してきた人間たちは受け入れ。
 そういう理由で大阪城への現状の報告は全く行われていない。
 三成としては目の前に乱雑な帳簿があるから修正しているだけだし、それを見て知った事実で長曾我部家を脅す気などない。むしろこれだけ農作物の収入が少ない状態で、上手く国を回せたものだとある意味感服すらさせられていた。
 帳簿の雑さには別な意味で驚かされたが、破綻しないようぎりぎりで利益を回し続けているのは見事と言うしかない。通常なら夏場に雨量がわずかに少ないだけで、その年の収量が大きく落ち込む。四国は海からの恵みが多いので過酷な環境とは言い難いが、それでも基本的に雨が少ないと農作物は他国よりも採れないだろう。
 米の収穫量がを少なすぎるというのは、国としては大きな問題。それが毎年続くのだ、自国の収入だけでは民たちが飢えてしまう。
 民を飢えさせないためにも、略奪行為を行わざるを得ない。
 そういう判断に達した長宗我部元親を三成は責める気にならないが、せめてもう少し上手く立ち回ればと思わなくもなかった。
 豊臣家は半兵衛がそういうところを上手くやっていたので、経済的にも軍事的にも孤立はしなかった。城下に大きな町を作り、そこで様々な物品がやりとりされるようにしていけば領民が物資不足で悩むことはない。戦で勝てばそれによって得た物を町に流せば更に活性化するし、豊かな町には人が集まりやすくなる。
 しかしそれができたのも大坂という恵まれた土地があったからこそ。
 四国という島国ではそれを行えないので、長曾我部の人間は略奪して物品を強制的に国内に流入させる道を選んだのだろう。当主としては正しい判断だが、いつかその咎を受けるのも当主。
 筆を指の間でくるくると回し目で帳簿を追いながら、三成は横で慌て続けている元親に話しかける。
「貴様個人の帳簿へ、国の金が流れていないことだけは評価してやろう。貴様は国の財源には手をつけていない……それはまともな君主である証だ」
「褒めてはくれんだな」
「だがわからぬこともある、貴様が個人の金で作ったからくりは国のために使われる。それならば国の金を多少は使ってもいいのではないのか? そうすればからくりの技術は貴様の代だけで終わることはない、貴様の跡継ぎを育てることもできるだろう」
「簡単な修理ならあいつらでもできるぜ?」
「だが貴様のように一から構想を練り上げ、それを形にすることができる者はいないのだろう。将来のことを考えるのなら、貴様の持つ技術は残しておくべきだ」
 まともなことを言ったつもりだったのだが、長曾我部は冗談と受け取ったのか。大声で笑い出しながら、三成の背をぱしんと叩いた。
 痛くはなかったので、あくまで親愛の情の表れなのだろう。
「これはあくまで俺の趣味だ、趣味に国の金を使えるか」
「だが貴様のからくりは実利を出している」
「国の金を使っちまったら、その瞬間から俺の好きなことはできなくなっちまう……あんたも城を預かってるのならわかるよな?」
「……わからなくは……ない」
 人を束ねる存在である自分と、個人としての自分。
 その二つを上手く両立していくには、ちゃんとした境目を作らなければならないのだろう。三成だって秀頼の後見人として豊臣軍を動かす立場の自分と、家康を恋い慕う自分の間で迷うことがある。
 三成にとっての境目が家康ならば、元親にとっての境目はからくりなのだろう。
 なんとなくだが理解できたのでこの話は終わりにすることにして、三成は他の気になっていることを聞いてみることにした。この城に滞在するようになって数日、協議は連日行われているがその結果がいつ出るのかが全くわからないのだ。
 三成をここに留め置いて何かを企んでいるのでは、そう言い出している今回の同行者たちもいる。彼等の動揺を誘わないためにも、三成は現状について聞いておかなければならない。
「貴様らの協議の結果はどうなっている? 私もやることがあるのだ、いつまでも貴様の帳簿を見ているわけにはいかない」
「俺は見てくれなんて頼んでないんだがよ……」
「暇だ」
「…………あと一日待ってくれ。ほぼ決まりってとこだが、反発してる奴もいるって感じでな……できれば一人で出歩かないでくれ」
「私を討って徳川方への手土産にしようという愚か者がいるのだな」
「あんたは俺の客だ、そんなことはさせねえ」
 元親は多くを語らない。
 だが三成はそこから多くの事を知った、元親が自分の側にいることの意味も。
 こちらが提示した条件は、家康との友情という不確かな関係よりも長曾我部の家臣たちを動かしたのだろう。そして元親もなんらかの理由から豊臣との同盟を望んだことで、親徳川派の一部の家臣たちは影で動き始めていた。
 三成をこの場で殺し、無理矢理豊臣との戦争に突入しようとしているのだ。
 それを阻止するために三成の側にいてくれる元親には感謝するしかないが、ここで自分に襲いかかってきた人間を返り討ちにした方が事が進みやすくなる。そう考えてしまうのは三成の方が血の気が多いからか。
 明るくさっぱりとした気性の人間ばかりだと思っていた長曾我部家だが、どうやらとんだ伏魔殿だったらしい。皆元親への忠誠心に満ちており、彼のために動こうとするからこそ意見が割れて衝突する。元親はきさくな男だし、三成に声をかけてくる人間もみな覇気のある明るい人間ばかりだというの。
 どうして人が集まると揉め事が起こるのか。
元親は明日までに決着をつけると言っているが、集団の中で生まれた意見の流れを変えることは本当に難しい。長曾我部の答えを受け取る前にここをでるのが一番いいのだろうが、そうすれば三成を臆病者と吹聴する人間が現れるに違いない。
 本当に面倒なことになったが、三成は今の状況を嫌だとは思っていなかった。長曾我部は話してみれば気のいい男だし、三成のことを弟のように軽口混じりではあるが可愛がってくれる。帳簿に触りながら一日が過ぎゆくことも嫌いではなかったし、こうしていると秀吉と半兵衛が存命の頃を思い出すのだ。
 あの頃は職務に励む三成を、二人が時折激励に来てくれた。
 暇を見つけては様子を見に来てくれる長曾我部に、彼等の影を見てしまったのは事実。懐かしくも愛おしい時間を思い出させてくれるここでの時間は、三成にとって一時の安らぎになっていた。
 安らぎの果てにあるのは新たな戦い。
 だからこの一瞬が貴重であり、常に得られるものではないことがわかる。明日までに自体がどう動くかはわからないが、せめてもう少しだけ。
「客を大事に扱いたいという気持ちはわかるが……その前に常に帳簿を見せられる状態にしておくことだな」
「普通の客は人の家の帳簿を見たりしねえんだよ」
「半兵衛様は私の城においでになった際は全てを確認していかれたが」
「…………………………」
 長い沈黙の後、続いたのは盛大なため息。
 がっくりと肩を落とし、何故だかわからないが三成の肩に慰めるかのように優しく触れると。
「あんたも大変だったんだな……」
 と、心底同情するかのように言ってきたのだった。








____________________________________________

官兵衛さんの思惑がなんとなくでてきたり。
四国の水不足については、香川とかの知り合いに教えてもらったのであまり確実ではないかも。水流弱めて節水したりとか、あちらの水道局の方は大変みたいですな……



BGM「星のかけらを探しに行こう」
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[443] [442] [441] [440] [439] [438] [437] [436] [435] [434] [433]
色々説明






拍手現在豊臣家転生パロ中学生編入ってます
(現在2本 家三 チカナリです)


注意事項
・フリーリンクじゃないです、基本的にはリンクはお断りしています
・ひっそりこっそりが信条なので、黙々と
・捏造、not公式のこばなしが多いので、スルー推奨


ラキドでは幹部全員を溺愛しておりますが、ベルナルドとイヴァンは特に偏愛。ばさらは家三とか奥州の愉快な仲間達と毛長がメインです。うずみさんが現在官三とか官佐にずっぽりとはまり中。
基本は、愛想のかけらもない「ネット怖い~」の書き手が二人で色々書いている場所です。


書いている人


みっし

・生真面目で堅物でムキムキな男性と一見そうじゃなくても根は真面目極まり ないキャラをこよなく愛している、がんかたうるふの片割れ。編み物とお菓子作りが趣味という、第三者曰く可愛らしい一面を持つ反面、パニクると踊ったり、オロオロしだして周囲は見ていて楽しいらしい。荒ぶる舞は、職場の名物だったりする……らしい。
イヴァンちゃんと片倉さんとシズちゃんとスカイハイさんと陛下を思いっきり愛している。好きなアニメは銀魂と最近はFate/zero。型月ファンというよりは元から虚淵ファンでうずみさんからオススメされまくった末にようやっと手を付けて完読した。ライダー組おいしいです。エクシリアではダントツで陛下が好き。陛下が使用可能になる完全版があるなら複数買いしても構わないとのたまう日々。バサラの好きキャラは片倉さん一強だったはずなのに最近はアニキも熱い。かっちり着込むキャラがすきだったはずなのにいきなり露出度が高いキャラを好きになったのは何故か悩む日々。二次元の向かう愛と同じぐらい甥っ子への愛を叫んでいる気がしてならない。



うずみ
・相方を愛しすぎている変な人。趣味は畑仕事に漬け物作り、好きな物は不幸属性の美人(男女問わず)。ばさらでは石田さんと黒田さんをこよなく愛していたり、赤い子めんこいにゃぁとたまに叫んでいる。

ついったのフォローは下 のアイコンから。




ばさら垢できました
こんな二人で、ここを更新しております。

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