こちらはサークル「がんかたうるふ」のうずみとみっしの二人組が、ラッキードッグ1とばさらのこばなしを黙々と投下する場所です。
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書き終えました……さて、えろすーんの準備っと。
そして支部に四章をまとめて投稿しようと思ったら、字数オーバーして面倒になった私がここにいます……
*****
その日の酒宴は喜びに満ちているというのに、奇妙な静謐さに支配されていた。
まるでそこが嵐の中心であるかのように、杯を持った男たちと赤子を抱く美女はずっと無言のまま。かといって彼等の顔が暗い感情に支配されているといえば、そうではなかった。
静かな喜びで目を輝かせ。
未来への希望で口元をほころばせる。
そして彼等の眼差しは中心にいる二人の男性へと、向けられ続けていた。
前髪をだらしなく伸ばして目元を隠す男と、鼻元まで伸びる特徴的な前髪を持った細身の青年。共に一度も杯に口をつけず、膝の上に置いた手で持ったまま二人は肩を並べて時折顔を見合わせる。
何度目かの視線の交錯の後、語り出したのは両手に壊れた枷をつけた男、官兵衛の方であった。
「……正直、ありがたいと思っている。まさか全員揃って雁首並べてきてくれるとは思ってなかったんでな。まあ、金吾が遅れたのはいつものことか」
「ひどいよ官兵衛さん! 僕だって遅れないように頑張ったんだから……遅れちゃったのは事実だけど」
「金吾が間に合わぬのはいつものことだ」
いつものように両手を動かしてあわあわし始める小早川へ前髪を揺らしながら三成がそう言うと、全員が声を上げて笑い出した。つい数刻前まで威厳に満ちた三成の声に支配されていた場に満ちる平穏。
誰もが笑顔で、誰もが三成を案じてくれている。
これが官兵衛が望んだ形であり、目指した未来の形であった。決して憎しみ等の負の感情で繋がるのではなく、純粋な利害関係と互いへの思いで力を貸しあえる。
これならば最も理想的な形で天下分け目の戦を行うことができる。
三成と家康が共に生き延び、戦のない平和な世の中を作り出すことができる。戦いが無くなってしまえば官兵衛はもう軍師ではなくなってしまうだろうが、三成が身を引くのならば官兵衛はそれにつきあうつもりだったので別にそれはどうでもよかった。
これからの人生を三成と共に穏やかに生きられる、たとえ彼の愛しているのが自分ではなくとも。
男たちの輪の外、ようやくよちよち歩きで城内を歩けるようになった秀頼。今は疎々し始めている彼を抱くお市の信頼に満ちた眼差しに頷き返してやりながら、官兵衛は数度瞬きしてから話を始めることにした。
「本当なら三成に話をさせるべきなんだろうがな、こいつの口下手は知っての通りなんで小生が話をさせてもらう……本当にさっきのあれはなんだったんだろうな、まさかお前さんがあんなに話せるとはな」
「……私もあれだけ話せるとは思わなかった」
「ま、お前さんにしてはよくやったさ、十分すぎるほどだ」
「本当に素晴らしいお話でございました! 某、感動して思わず涙が……」
感情の動きが人一倍激しすぎる幸村が大仰な動きで感動を表現すると、彼の横に座っていた長曾我部元親が三成の背を思いっきり叩きだした。
「だからってあの場で号泣する奴がいるかよ……ガキじゃねえんだから」
「ガキではございませぬ!」
「そうそう、旦那は人一倍よく泣いたり笑ったりするだけなんだよね。ついでによく食べるしよく飲むし……」
「佐助……」
がっくりと肩を落とした三成に、後ろに控えていた佐助だけでなく全員が肩を震わせはじめた。
各国の君主が揃う中、通常ならば忍びが同席することなど許されないのだが。今の武田領は彼の力なくしては立ちゆかない状況、ならば別に彼を同席させてもいいのでは。そういう意見がどこからともなく出てきたので、忍び装束の佐助はこの場に普通に参加することになった。
おまけに彼の手にも、質素な白い杯。
まだ口をつけていないそれを大切な宝物のように手の中に収めている佐助が周囲に受け入れられていることを喜んでいると、膝に扇子を置いた毛利元就が話の続きを急かしてきた。
勿論彼の手にも杯が。
「さっさと続きを話すがいい、我は馴れ合いは好かぬ」
「だがお前さん……結構今の状況を楽しんでるんだろう?」
「貴様が何を話すのかには興味がある」
「そうか、なら話を続けさせてもらうぞ。ここに集まってもらった奴らには、ある程度は話してあるな。小生が目指す……いや、今この場に集まってくれた皆が望むのは戦のない平和な世だと思っている。田畑を焼かれるのも、民を苦しめるのも、誰もが望んでいる事じゃない。だから小生は考えた……誰もが納得してこの戦乱の世を終わらせる方法をな」
一度言葉を切るが、誰も官兵衛に話しかけてはこなかった。
早く官兵衛の言葉を聞きたい、それ故に押し黙ってこちらを見つめるだけの男たち。彼等の要望に応えるために、軽く息継ぎをしてから話を再開し始めた。
「この国の全ての将たちを一カ所に集めて、最後のでかい戦をおっ始める。三成と家康を降参させた奴がこの国の新しい主だ、そいつのやることに全て従う。ただし、そいつがおかしな事をし出したら全員で止める……この言葉を使うのは好きじゃないが、それだけの『絆』って奴はもうできあがってるよな?」
幸村と佐助は笑顔で頷きあい。
長曾我部と毛利が無言で顔を見合わせる。
お市と小早川は共に秀頼の手を握り。
島津と立花はそんな若者たちを目を細めて見守っていた。
「三成と家康の生死は問わない、この国を治めたい奴は勝手にこいつらに挑めばいいし白旗を揚げさせりゃあいいだけだ。家康も今頃同盟を結んだ奴らにこの話をしているだろうし、あいつのことだから絆が全てを解決するとでも言ってるんだろう」
「それだけ聞くと、家康が単なる絆バカみてえだな」
「何を言っている、あの男は相当の絆馬鹿だろうに」
「おい毛利、俺のダチに何言いやがる……」
言い争ってはいる様に見えるが、実際はこうやってじゃれ合っているだけなのだ。
それがわかっているので誰も止めないし、官兵衛も好きなだけやらしておくことにした。互いが気になって仕方がないだけなのだ、少しだけ話を続ければすぐに納得する。
互いが側にいることを悪口をぶつけ合うことで確認する。
それが彼等の形なのだ、官兵衛が口を挟むことはない。
「小生としては、家康と三成の一騎打ちを邪魔する奴らを誰かが止めてくれる事を期待するんだが……元々はこいつらが始めた戦いだ、この国の全てがどうしても欲しいっていう馬鹿には邪魔して欲しくない」
「オイがそげんことはさせん」
「爺さんにそう言ってもらえるのはありがたいな。戦の時期は考えているが、爺さんが嵐に巻き込まれて駆けつけられない……なんてことが起こらんようにするさ」
「そりゃありがたい、最後の戦……精々派手に暴れさせてもらうか」
前の時間の戦の時には、最も頼りにしていた彼は戦場に姿を現すことができなかった。
嵐に巻き込まれてしまい船も陸路も使用不可能になってしまったのだ、今回はそのようなことがないようにしなければならない。
ばらばらに各地で戦を行い、各地の田畑を荒らし兵を殺せば国が廃る。
それならば一カ所に兵たちを集めて、戦乱の世を一度に終わらせてしまえばいい。最初は荒唐無稽な実現不可能な策だと思っていたが、徐々に形はできあがり始めている。
ここに集った将たちは三成を守り、家康との一騎打ちという状況を作り出してくれるだろうし、家康の周りにも彼を信じる仲間たちが集まり始めている。
体調を崩したといって天海と名乗る僧と共に自室に戻った大谷の動向は気になるが、彼と天海には人をつけている。何かおかしな事を二人で話し始めれば、すぐに官兵衛に報告がくるようにしているので今のところは問題はないだろう。
しかしあの天海という僧。
人を諭し導く立場にいるとは思えないほどに暗い何かを抱えており、そしてそれの正体を決して見せようとしない。まるで蛇のようにするりと人の心に入り込み、毒に満ちた牙の様な甘言を吹き込むのだ。
余程の精神力の人間でなければ、あれには騙される。
事実小早川家の家臣たちは彼に心酔する者が増えてきているらしく、当主である秀秋の言葉も軽視されている始末。本人は自分に付き従ってくれている天海の言葉が重く見られることを、自分の力の一部だと勘違いしているのかもしれないが。
小早川領は、このままいけば沈む。
気持ちの優しすぎる小早川には天海を切るという選択肢はないのだろうが、このままでは彼も領地もぼろぼろにされてしまう。三成は何度か天海に会ったことがあるらしく、あれが側に侍るようになってから金吾が更に軟弱になったとぼやいていたが。
妙な所で三成も鋭いというか。
ところで先程から一言も発言していない三成は、一体何を考えているのやら。秀頼のふくふくした手を握りながら遊んでやっている小早川から、隣の三成に視線を移すと。
「おい三成、寝るなよ」
「…………話はもう終わったのか……?」
「終わってないに決まってんだろうが。お前さんが話をしないでどうする」
「私の仕事は先程で終わったのだろう……」
「寝るなぁぁぁぁぁ!」
緊張の糸が切れてしまったのだろう。
隣で膝をそろえて座っていたはずの三成は、その姿勢のまま目を閉じて大きく前に倒れかけていた。
今日の三成は本当によくやったし、疲れているのもわかる。
自分に向けられる負の感情を真っ正面から受け止め、それら全てを自らの言葉だけで忠誠へと変えてみせたのだ。上手く自分の思いを伝えられない三成にしては上出来、どころではなく。
まるで秀吉が乗り移ったのかと思った。
全てを終えた後にそう話している家臣たちもいたほどに、あの時の三成は神がかっていた。淡々と語りながらも、話を聞く人間に明確な未来を示す。本人は自分の行ったことの凄さを自覚していないようだが、あれだけの事ができるのは老練かつ人心掌握に長けた君主だけだろう。
島津や毛利ならば行えるだろうが、今の三成では何もかもが足りなさすぎる。
戦って前に進もうという一心がそのような奇跡を起こしたのか、それとも本当に秀吉の加護があったのか。
どちらにしても三成が頑張ったのは事実なのだが。
いきなり寝ることはないだろうに。
唐突に寝るのは三成の得意技だが、この状況で眠ってしまってはこの場にいる人間に示しがつかない。ぐらぐらと揺れながら寝息を立て始める三成を横から揺すぶり無理矢理覚醒させると、官兵衛は手に持つ杯を高々と掲げた。
「当の三成がこんなになっちまってるが、ここに集ってくれた奴らは同じ意志を持って協力してくれると信じてる。だからこれは固めの杯ってやつだな……三成、寝る前になんか一言くらい言っておけ」
「…………私は……官兵衛と家康を信じている……だから私の言葉など必要ないはずだ。どうしても何かを言えというのならば……私を家康の元へと導いてくれ……」
「妙な所で嬉しいことを言ってくれるな、お前さんは。三成の言葉はこんなもんだが、何か言いたい奴はいるか?」
言葉の代わりに、皆が杯を掲げる。
お市だけは杯の代わりに三成より先に眠り始めた秀頼の手を上げ、もう半分眠りかけていた三成は官兵衛の肩に身を預けながらよろよろと手を伸ばし。
膝に酒の滴がかかるのを気にせずに、首を振って何とか眠気を飛ばそうとしている三成に幸村が声をかけた。
「石田殿の思い……そしてお人柄に某は惹かれたからこそ、お力を貸したいと思ったのです。石田殿が望むのならば家康殿へと続く道、この真田源次郎幸村が作ってさしあげましょうぞ」
くいと一息に飲み干すと、幸村はそのまま小さな杯を床へと叩きつけた。
忠実な従者である佐助もそれに続く。
忠実な従者である佐助もそれに続く。
小さな音を立てていくつかの破片へとなった杯を目にし、他の者たちも言葉を述べながら次々と杯を叩き割っていく。
「貴様の望みになど興味はないが、安芸の安定のために力を貸してやろう」
毛利元就の喉が動き、笑みを含んだ目線が隣の長曾我部へと飛ぶ。
「石田のことは家康に頼まれてるんでな、精々面倒を見てやるさ」
毛利の目線を余裕の笑みでもって受け止めた長曾我部は、合図も何もなく毛利とほぼ同時に杯を破片へと変えていった。
「若いモンの未来のため……この老いぼれも最後の戦を楽しませてもらおうかの」
「我が君と大友の未来を示してくださったことへの恩義に……全ての力を預けましょう」
島津と立花が言葉と共に力を込めて杯の酒を飲み干す。
「ぼ、僕は……よくわからないけど……でも今の三成君はあまり痛いことをしないから嫌いじゃないよ……それにお市さんも秀頼君もいるし……」
酒はあまり得意じゃないのか、ゆっくりと時間をかけて飲み干してから小早川はぺちっと力なく床に杯を落とした。
他の将たちを信頼していないわけではないが、真意を明かしたのはここにいる者たちだけ。
この戦乱の世を憂い己の領土を繁栄させたいと願っているからこそ、彼等は官兵衛と三成の言葉に耳を傾けてくれた。長曾我部も家康に頼まれ三成に半ば引きずられるように船に乗せられたらしいが、話を聞くうちに官兵衛を信頼するようになってくれた。
この布陣ならば、三成のために家康への道を作ってやれる。
自分のやってきたことは、三成を生かすための最良の策に繋がった。その事実に満足しながら官兵衛も白い宝玉のような杯に唇をつけた。
そのまま一気に辛い酒を喉へと流し込む。
横を見れば三成はもうとっくに飲み終えており、酒に酔ったわけでなく眠気でとろんとした目で官兵衛をじいっと見つめていた。
信頼と友愛に満ちた、わずかの苦悩も混ざっていない瞳で。
今思えば前の時間の三成は、自分に対して罪悪感と引け目を感じていたのだろう。こんなに素直に自分に好意を向けてくれたことなど、数えるほどしかなかった。
別な相手を思っているというのに、他の誰かに思いを寄せられることは本当に辛かったのだろう。
彼を追い込んでいたのは自分、だが彼を幸せに導くことができるのも自分。こんな目で見てもらえるのなら、思いを伝える前に失恋するのも悪くない。
愛おしさとわずかのもの悲しさと、そして家康へのわずかな嫉妬を抱えながら。
「お前さん方にはどれだけ言葉を尽くして感謝しても足りないくらいだな……三成はもう寝ちまってるみたいなんだ、小生が代わりに言わせてもらう」
ありがとう、そしてよろしく頼む。
その言葉のあとに器用に手を上に掲げながら寝息を立て始めている三成の手を取り、官兵衛は二人分の杯を床へと叩きつけ。
「こいつには頑張ったご褒美を用意してあったんだがな……まあ、伝えるのは後ででいいな」
誓いの言葉の代わりにそうぼやくと、笑い声と賑やかさに満ちた酒宴を行うために開始の言葉を述べ始めたのだった。
朦朧としながらなんとか宴に参加し、目が覚めたら何故か旅支度が調えられていた。
家康に文を送っておいた、きっと待っていれば稲葉山の別邸に来るだろう。
今回のことで疲れただろうから、家康にこの文を届けるついでに少し休んでこい。
官兵衛に唐突にそう言われ、しのと数少ない従者と共に城を出された三成が事の次第を理解したのは馬に乗ってから。豊臣軍は戦で使用するために上質な馬を取りそろえているが、その中でも持久力があり長距離の行軍に耐えられる馬ばかりが集められていることに気がついた時であった。
三成は稲葉山の別邸までどれだけ急いでも五日はかかる、だが家康は忠勝に乗れば一日で到着できるだろう。
できるだけ長く走り続けられる馬で、できるだけ早く家康に会ってくればいい。
そんな官兵衛の心遣いに感謝しながら数日間の旅路を踏破し、稲葉山の別邸に到着したのは日もとっぷりと暮れた時間であった。家康が待っていてくれるかと思ったのだが、屋敷のどこを探しても彼はおらずもぬけの殻のまま。
しかし三成は特に気落ちすることはなかった。
待っていれば家康は必ず来てくれる、今までだってずっとそうだったのだ。だからいつものように別邸の掃除を黙々と行い、しのが捕まえてくる獣を不器用ながら捌いて夕食の材料にしたりしてのんびりと時間が流れるがまますごしていた。
そんな時間を楽しんで数日、その日も三成はしのが捕らえてきた巨大な猪を前にして真剣な顔で考え込んでいた。
暖かくなってきた風と日の光が、三成としのの身体をそっと撫でていく。
「しの、猪は確かに食いでがある……それは私も認めよう。熊よりも美味い、皮も使えなくはない……しかし、私は猪はどうも……」
血が飛ぶので質素な着物に着替え、三成は子供の背丈ほどの大きさの庭石の上に座っている。
その石の横に座ったしのは褒めて欲しいと言わんばかりに三成に向けて頭を差し出しているが、当の主人はこの猪をどうするかで頭がいっぱいになっていた。それでも自分のために狩りをしてきてくれたしのに感謝の念はあるので、白い毛皮に包まれた頭に手をやって撫でてやることは忘れていない。
だが口から出るのは猪と今後の自分に対する不安ばかり。
「熊は肝や掌をもっていけば刑部が喜ぶ……薬になるのでな。しかし猪は刑部が好んでいない、私も肉はあまり……好みではないのだ……それに私が捌けば昨日の様な結果になるのが目に見えている……」
一人でぶつぶつと呟きながら思い出すのは、小早川が以前作った鍋のこと。
「金吾の作った猪の鍋はまあ……不味くはなかった。味噌の味が染みた肉は嫌いではないが、ここには金吾がいない」
呼びつけるか。
一瞬そんなことを考えたが、まず呼ぶまでに数日かかるし彼がこちらにどれだけ急いで向かってきてもその間にこの猪は腐ってしまうだろう。主人に頭を撫でられ目を細めて尻尾をぱたつかせる純白の虎に肝を喰わせるという手もあるが、取ってきたしのにいらない部分を押しつけるようで気が乗らない。
三成が捌くと色々と問題が出てくるが、捌くのはそんなに手間ではない。なのでさっさとすませ、内臓の一部は燻製にしてしまおうか。先にまとめて燻製にして食べられない部分は捨てるのが一番いいだろうと結論を出し、膝の上に置いた幅広で大きく湾曲している狩猟刀に手をやった時。
決して不快ではない視線が自分に向けられていることに気がついた。
「……家康か、遅かったな」
「儂もできるだけ早く来るつもりだったのだがな、色々とあったので遅れてしまった。三成はずっと儂を待っていてくれたのだな」
「官兵衛から貴様に文を渡すまで戻ってくるなと言われているだけだ……それと家康、貴様薬には詳しかったな? 猪の肝は刑部の薬になるのか?」
「そう矢継ぎ早に聞かれると、どれから答えていいのかわからなくなる……三成は、相変わらずだな」
すっかり額の傷も癒え、頭を布で覆い隠すことなく。
いつもの黄色い装束のまま普通にこちらに向けて歩いてくる徳川家康を、三成はいつも通りに受け入れた。特に再会を意識することなく、彼との出会いに大きく心を動かすこともなく。
ごく普通に彼を自分の側に寄せようと思ったのだが。
しのの頭にのせていた手に家康のそれが重なっても、動揺することない……というわけにはいかなかった。
「い、家康! 許可無く私に触れるな!」
「驚かせたようだな、すまなかった」
「驚いてなどいない……ただ……貴様と会うのは久方ぶりだったのでな、心の準備ができていない」
「これくらいいつものことだったろう?」
「確かに、昔はそうだったな……」
過去の『いつものこと』は現在でも『いつものこと』ではない。
家康とじゃれ合う子供のようにすごしていられた時間は、もう失われてしまった。
かわりにあるのは彼と共に生き残り、太平の世で共に過ごすための戦いの日々。それを選んだことを後悔してはいないし、家康と会って話ができることは本当に嬉しいのだが。
家康が望むのならば何をされても構わない。
以前官兵衛と話していた時に口にした言葉が、何故か脳裏で蘇るのだ。家康は浅ましい男ではないので、自分のような痩せぎすで長身な同性の身体など求めてこないということはわかっている。
しかし口にしてしまって以来、どうも気になってしまうというか。
過去には共に水浴びをしたり、半兵衛にだらしないと怒られるような格好で身体を寄せ合って眠っていたから家康の身体のことはよく知っていた。筋肉質だが太っている印象を与えず、どこか一カ所だけが発達しているわけではない均整のとれた身体。基本的な食事量が違うので自分はああなれないことはわかっていたが、三成にとって家康の肉体はある意味憧れであった。
秀吉ほど高みにあるわけではない、身近にある理想。
それが自分の手を包み込むように握りしめてくれるのは嬉しいが、家康をある意味疚しい目で見てしまっている自分に罪悪感を感じてしまうのだ。
「とにかく離せ……」
「大きい猪だな、これから捌くつもりだったのか」
「どこが食べられるのかがよくわからない」
「そうだな……肝もほとんどは食べられたはずだが、まずは血抜きをした方がいいだろう。その刀を儂に貸してくれ、さっさとすませてしまおう」
その言葉と共に三成の膝の上の狩猟刀を掴んだ家康は、背中にじゃれついてくるしのの相手をしてやりながらてきぱきと作業をこなしていく。屋敷の中では共の者たちが忙しそうに働いていたので三成一人でなんとかやってみようと思ったのだが、やはり誰かに任せるのが正しかったらしい。
少なくとも三成では、ここまで器用に手を動かすことはできないだろう。
「上手く喉を食い破って仕留めているな、これならば肝が破れていることはない。虎は狩りに長けていると聞いたことはあるが、見事なものだ!」
「私は貴様の方が素晴らしいと思うが」
「いきなりどうした?」
「私は獣をそこまで器用に捌くことはできない。貴様のように薬等の知識もないし、なにより私は人の上に立つ器ではない……それは私が一番よくわかっている」
器用に手を動かし、腹を割いて心の臓刃で突き破って血抜きをしている家康の背。
石の上に座り足を時折揺らす三成の方を見るわけでもなく、声も平静そのものであったがどことなく。
緊張しているように見えるのは、三成の気のせいだろうか。
この状況で家康が緊張する必要がどこにある。
恋しい相手に会えたからといって緊張することはない、冗談めかしてそう伝えてみると大きな叫び声とともに家康の手が大きく滑った。
「み、三成! いきなり何を言うのだ……胃が破れてしまったではないか」
「開いて乾かすものなのだろう?」
「胃の腑は中身がこぼれるので取り出してから開くのだ……それと……儂も色々我慢しているのだから、あまり挑発するような言葉を口にしないでくれ」
「緊張? 貴様が?」
待ち合わせて会っただけだというのに、何故家康が緊張する必要があるというのか。
一体家康は何を考えているのだろう、そう思いながら彼の背を見つめているとぽつりぽつりと彼の声が聞こえ始めた。
家康の背に己の身体を擦りつけるしのの毛並みが、日の光を受けて鮮やかに輝く。
「……少し疲れたのでな、三成の姿を目に収めて声を聞けば落ち着くと思ったのだが……逆に落ち着かなくなってしまった」
「私は貴様に会えて嬉しいと思っている」
「儂だって嬉しい。だが……なんというか……三成を見るだけで胸がこう……ざわめくのだ。このまま三成に甘えてしまいそうな自分が……怖いといえば怖い。三成も大坂で戦ってきたというのに、儂だけ甘えていいのかと」
「私には官兵衛がいた、だが貴様は一人だった。貴様の方が強い心労を感じるのは仕方がないことだ、甘えたければ甘えればいい」
「多分儂の『甘える』と三成の『甘える』は多分意味が違う……」
「そうか? 私は貴様以外の人間を甘えさせる気はない、つまり貴様は私に何をしてもいいということだ」
その言葉で家康は更に動揺したらしい。
刀を持つ手が思いっきり震えているが、事実を述べただけなので訂正するつもりはない。それにしてもどうして家康はこの程度の言葉で心を乱すのだろうか。
雑賀荘で決着をつけた時から、自分は彼のものだというのに。
しのに後頭部を舐められ唾液まみれにされながら何かに耐えるかのように硬直している家康を見て、三成は官兵衛に頼まれていた用を思い出す。官兵衛もよく唾液まみれにされて悲鳴をあげているので、二人の姿が重なったのだ。
「そうだ、官兵衛から文を預かっている。屋敷の中に置いてあるのであとで確認しろ」
「…………三成は……儂をいじめたいのか?」
「金吾はいたぶっても貴様にそのようなことをするつもりはない」
「それはそれで金吾が可哀想なのだが……」
「だがそれが真実だ」
「三成のそういう所が好ましくあるのだが、儂には儂の事情があるのだ」
「事情だと? 貴様……私に言えぬ事があるのか!」
「言えぬと言うか、言いづらいというか……まあ正直に言えば、三成に触れたいだけなのだがな」
「触れたければ触れればいい」
「そう言ってくれるのがわかっているからこそ、触れづらいのだ。もう少しだけ考えさせてくれ……まずはこれを捌いて、官兵衛からの文を確認してからだ」
それまでの間、三成の側で考え続けたい。
ため息と共に家康の口から出た言葉は、それが最後だった。
家康との間に流れる沈黙は嫌いではないし、彼の手が動くのを眺めているのは楽しかった。家康も特に自分の事が嫌いになったわけではないのだろう、時折振り返って自分に向ける目は自分への愛情に満ちている。
三成は人の心の機微に敏感ではないので、家康が何を悩んでいるのかはよくわからない。
触れたいのなら触れればいいし、もしこんな自分の身体を抱きたいという酔狂な思いを抱いているのなら抱けばいい。
家康の望みならば、三成は全てを受け入れる。
それだけのことだというのに、どうして家康はそれを口にしようとしないのか。
軽快に動く家康の手、そしてそれとは裏腹に悩み続けているであろう心。彼にこれ以上何を言えばいいのか、そしてどうすればいつものように接してくれるのか。
わからないまま三成は家康の背を見つめ続ける、そうしていれば彼の心の奥まで見透かすことができると信じているかのように。
二人の間を流れる風は、春の暖かさを含んで吹き抜けていった。
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風邪でダウン中です……身体痛い……
ということで、次はえろすーん予定。
BGM[POP MASTER」
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色々説明
拍手現在豊臣家転生パロ中学生編入ってます
(現在2本 家三 チカナリです)
注意事項
・フリーリンクじゃないです、基本的にはリンクはお断りしています
・ひっそりこっそりが信条なので、黙々と
・捏造、not公式のこばなしが多いので、スルー推奨
ラキドでは幹部全員を溺愛しておりますが、ベルナルドとイヴァンは特に偏愛。ばさらは家三とか奥州の愉快な仲間達と毛長がメインです。うずみさんが現在官三とか官佐にずっぽりとはまり中。
基本は、愛想のかけらもない「ネット怖い~」の書き手が二人で色々書いている場所です。
書いている人
みっし
・生真面目で堅物でムキムキな男性と一見そうじゃなくても根は真面目極まり ないキャラをこよなく愛している、がんかたうるふの片割れ。編み物とお菓子作りが趣味という、第三者曰く可愛らしい一面を持つ反面、パニクると踊ったり、オロオロしだして周囲は見ていて楽しいらしい。荒ぶる舞は、職場の名物だったりする……らしい。
イヴァンちゃんと片倉さんとシズちゃんとスカイハイさんと陛下を思いっきり愛している。好きなアニメは銀魂と最近はFate/zero。型月ファンというよりは元から虚淵ファンでうずみさんからオススメされまくった末にようやっと手を付けて完読した。ライダー組おいしいです。エクシリアではダントツで陛下が好き。陛下が使用可能になる完全版があるなら複数買いしても構わないとのたまう日々。バサラの好きキャラは片倉さん一強だったはずなのに最近はアニキも熱い。かっちり着込むキャラがすきだったはずなのにいきなり露出度が高いキャラを好きになったのは何故か悩む日々。二次元の向かう愛と同じぐらい甥っ子への愛を叫んでいる気がしてならない。
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