がんかたうるふ 「輪舞~偽~」  小暑の刻~閉幕~ その2 忍者ブログ
こちらはサークル「がんかたうるふ」のうずみとみっしの二人組が、ラッキードッグ1とばさらのこばなしを黙々と投下する場所です。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

書き終えました、次で終わりです。

あ、それと私もぷちばさ!弐の原稿アップしておりますので!
諸事情でぷち入稿は週明けに、A5の76Pで確定です。


私は31P、みっしさんも3P分書き下ろし+新規ちびの紹介頁が3Pで結構書き下ろしたなあ……あとみっしさんの書き下ろし分で盛大に吹いた、なにあれw



 *****
 夜明けの日の光を、その場にいる者は誰一人として浴びることができなかった。
 空を覆う重い色の雲と、そこから降り注ぐ霧のような雨。髪に滴を生み出す程ではないそれを全身に受け、兵たちは黙々と己のやるべき事をこなしている。
 柔らかくなった土に足を取られ、持った荷を地面へと落とす者。
 空を見上げて、空に見放されたこの戦を思い嘆く者。
 忠義と信念で目を輝かせ、敵と刃を打ち合わせることを待ち望む者。
 その全てが大将用の天幕から姿を現した三成に敬意と畏怖をこめた眼差しを向け、そして深く頭を下げる。


 戦の支度を調え始めている兵たちの間を抜け、彼は悠然と歩み続ける。

 後ろに従うのは純白と見まごうばかりの巨体の虎。

 そして彼の純白の戦装束と太刀は曇天の空を切り裂くかのような光を放つ。


 主君が姿を現したことで、思い思いの行動をしていた兵たちの動きが止まり始める。
 遙か遠く、地平線の彼方に見える黒き小山のようにすら見える敵軍の方へと足を向け、時折体を寄せてくる純白の虎の背に手を触れてやると。三成は少し距離を置き後ろをついてくる官兵衛へと向き直った。
 いや、用があるのは官兵衛だけではないのだろう。
 三成の来訪を知り集まってくる兵たちを見回し、微笑みかけはしないがそれでも表情を和らげた三成は。
 湿気のため重くなった前髪をかきあげつつ、周囲の者へと聞かせるようにその言葉を呟いた。
「…………秀吉様…………あの男の首をすぐにお持ちいたします…………」
 陶然と、いやそう見えるように。
 亡き主君への忠誠と家康への偽りの憎しみを周囲へと聞かせると、鉄球を引きずったままついてくる官兵衛の方へと向き直った。周囲の兵たちの具足は泥で汚れているというのに、彼の戦装束には泥一滴すら跳ねていない。
 暗く重い空間の中、白い輝きを放っているのは三成だけ。
「官兵衛、徳川はそろそろ動くか」
「兵の展開は終えたようだが……動きがおかしい」
「私にはそう見えないが」
「伊達と最上の連携がな。もともとあそこは仲がいいとは言えないからな、もめてると見た方がいい。小生としては戦の開始をもう少し先延ばしにして、散々内輪もめしてもらいたいところだが…………うちの大将様は当然待てないよな?」
「当たり前だ! 目の前に家康がいるというのに待てと貴様は言うのか!?」
「んなことさせるわけないだろうが……」
 すぐ側に家康がいる、そして彼の元へ行くことができる。
 自らの死がそこに待っているというのに、三成が見ているのは遙か彼方にある敵陣だけ。官兵衛の思いを知りながらも受け入れることなく、思うのはただ一人。

 彼を生かすために、様々な策を練った。

 家康への思いを諦めさせようとしてみた。

 しかし三成の心は何があろうとも変わることはなかったのだ。

 それをわかっているからこそ、官兵衛はもう三成を止める術がない。
 打つ手があるとすれば三成と家康の最後の戦いの場に出向き、二人の間に割って入ることだけ。この天候ならば兵たちの進軍速度も遅くなるだろうし、大筒の類はほとんど使えない。おまけに官兵衛の鉄球は、凄まじい脚力を誇る三成についていく邪魔をしてくれるだろう。
 さてこの苦境をどう乗り切るべきか。
「…………おい、その大筒は使えるか?」
 三成の輝くような姿に見とれて手を止めていた側にいた兵に声を掛ける。
 彼に手入れされていたのは、多分この戦場に現存する中では最高の射程距離を持つであろう大筒。れならば家康の本陣に届きはしないにしても、相手には宣戦布告だと判断してもらえるだろう。
 官兵衛に声を掛けられ、三成に見据えられ。
 顔を紅潮させながら返事をしたまだ年若い兵は、慌てながらだがしっかりと筒の準備を行っていく。半兵衞が豊臣軍の末端まで浸透させた兵としての在り方、それをこんな若い兵までが即座に実践することができる。
 これだけの兵を持つのは未だに豊臣軍だけ。
 一人の精強な将だけでは軍を支えられない、強く規律正しい兵たちがその下にいなければ。半兵衞が遺した最高の宝は、物は三成を確実に助け続けている。
 周囲の兵の羨望の眼差しを受けながら準備を進めていた若き兵は、三成の方へと向き直り静かに頷いてみせる。
 それは準備が終わったことの証。
「家康に豊臣軍の力を見せつけてやるのだ、そしてあの男の首を秀吉様に……」
 ねぎらいの言葉の代わりに家康への呪詛を口に乗せ。
 笑んでみせた三成の顔を見て、兵が動き出す。火種を方へと近づけ、ぱちぱちと音を立て湿気をものともせずに爆ぜだす炎の道を手で守り。
 周囲の兵が音を警戒して耳を塞ぎ遠ざかっていく中、三成と官兵衛だけは自分の側にいることに安堵しながら。
 名すら知らぬその兵が、戦の始まりの号砲を敵へと向けて放ったのは。


 雲の合間からほんのわずかだけ光が差し込んだ、その瞬間だった。


 体を震わせるような衝撃を伴った音、そして敵方へと向かって飛んでいく砲弾と尾のように続く煙。遙か遠くにある徳川家の陣に届くことはまず無いだろうが、彼らはこう考えるだろう。

 向こうから攻撃してきたのだから、もう攻撃を仕掛けてもいいと。

 官兵衛の予想通り、両軍を驚かせた砲撃の後生まれたのは一瞬の静寂。
 そしてそこから生まれたさざ波の様なざわめきは、敵方だけではなくこちらの陣営にも動きを与え始めていた。
「官兵衛、私は出る」
「そうか……」
「先程毛利と話をした、これからの毛利の行動に我々は一切手出しはしない。私と毛利の間の取り決めだ、全ての兵に守らせろ」
「わかった、武運を祈ってるぜ。それとな……俺も後ですぐ追いかける」
「貴様が私についてくるだと? 足手纏いだ」
 短くそう言いきった三成は、陣羽織の中に手を素早く入れる。
 そこから何かを取り出すと、わずかも躊躇うことなく小さく光るそれを後ろに控える官兵衛へと投げてみせる。いきなりの行動だったのと両手を拘束されたままで動きを取りづらかったということもあり、それが自分を縛っている鍵だと気がついた時には。
 ぬめった地面に半ばめり込むようにして埋没しかけていた。
「小生の鍵!」
「私の後をついてくるというのなら、それを外してからくることだな」
「開け方を知っているのはお前さんと刑部だけだろうが!」
「では刑部に頼め」
 そう言い放つと三成は腰の刃に手を掛けた。
 すらりと一気に抜き放ち、その動きだけで周囲の兵にこれから突撃をかけることを示してみせると。


「官兵衛……貴様には世話になった、礼を言う」


 優しく、あどけない。
 だが男性としての力強さも備えた美しい笑みを一瞬だけ勘兵衛へと向け。三成は沓の先に力を込め、大声を上げながら集ってくる兵たち先んじて。
 官兵衛では追いつけない速度で、去って行ったのだった。
「…………畜生、この小生を騙しやがって……」
 後に残されたのは、鎖に繋がれたままの官兵衛と後衛に残る弓兵と砲兵たちのみ。
 それぞれの武具を手にし、三成に率いられるようにして我先にと敵陣へ向かって突き進んでいく兵たちの背中を見ながら。官兵衛が思うのは三成に騙されたという事実だけだった。

 最後まで共をさせてくれると思っていたのに、三成が口にしたのは別れの言葉。

 おまけに鍵まで自分に渡してきたのだ。
 開け方を知っているのは三成と大谷だけだが、鍵さえあれば時間を掛ければ開けることはできるだろう。問題なのはその時間が今ないこと、そして大谷も決してこの鍵を開けてはくれない。
 これでは三成と家康の最後の戦いに間に合わない。
 ならばこの手を犠牲にしてでも先に進むか、それとも別な手段をとるか。考える時間すら惜しまなければならない程、三成と彼に率いられた軍勢はあっという間に遠ざかっていく。
 この濡れた大地であれば進軍速度が遅くなると思っていたのだが、勢いと情熱に後押しされた軍勢は官兵衛の予想を遙かに超えた速さで進んでいくのだ。きっと一方的に宣戦布告され、いきなり進軍してきた石田軍に向こうもかなり慌てているのだろう。
 軍勢の動きが遠目で見てもわかる程乱れている。
「まずは刑部か……時間がないな」
 濡れた下草が足に張り付くのを苛立たしげに踏みつぶしながら、官兵衛はまず大谷の元へ行くことにした。三成は先走って動き出したが他の軍との連携も取らなければならないし、この枷を取ってもらう必要もある。
 それに三成が言い残した毛利の行動を止めるなという言葉が気になる。
 まだ天幕の中にいるはずの大谷を訪問し、恫喝してでも枷を外させようとしていると。
「…………よう、よくも俺を騙してくれやがったな」
「長宗我部……」
 派手な戦装束、そして片目を覆う眼帯。
 錨を模した大槍を肩に乗せ、官兵衛を睨み付けてはいるがその目からは憎しみの類は感じられない。そのかわりに詰め込まれているのは、憤りと惑い。
 部下を殺した官兵衛を許しはしたくないが、憎むこともできない。
 そんな奇妙な感情に支配されながら、長宗我部は大谷のいる天幕へと向かおうとしていた官兵衛に肩を並べて共に歩き始めた。
「刑部に用か?」
「あいつには色々と言ってやりたいことがあるんでな……勿論、あんたとの結着も後で付けさせてもらうが」
「…………そうか……」
「あんたが大谷の奴に命令されてたってことは知ってる、許せねえのは大谷の奴だ。あいつをぶち殺して、俺は野郎どもとここから上手く逃げ出す…………家康に謝らなきゃならねえんだ……」
「…………すまなかった」
「毛利の奴も上手くここから逃げ出すつもりらしい。朝一で石田にそれを言いに行くと言ってたが……あんた、聞いてるか?」
「手出し無用とは聞いた」
「石田らしいな」
 小さく唇を歪ませた長宗我部は、三成のことだけは憎んでいないのだろう。
自分と大谷が巻いてしまった憎しみの種だが、その結果は三成に波及しなかった。それだけは救いだと感謝しながら、官兵衛はふとこんな事を思う。

 もし長宗我部と普通に同盟を組むことができていたら。
 佐助の処刑自体が行われなければ。
 いや、大谷の動きを最初から止められていたら。

もっと自分たちに優位な展開でこの戦は行われていたのだろうか。
 長宗我部と毛利は戦線を離脱する機会を狙っており、他の軍も問題を抱えている。この状況で徳川とその同盟軍をどれだけの間食い止めることができるのやら。
 早めに動かなければ、両軍の犠牲が増える一方。
 こうやっている間にも、三成は相手方と接敵するために軍を動かしているのだ。早めに動けるようにならなければ、三成が犠牲になってもこの戦は普通に終わることができなくなる。

 行われるのは、どちらかが殲滅するまでの虐殺。

 憎しみで動く軍は、相手の命を奪うことを躊躇しないのだ。
「ここが大谷の野郎の天幕か……」
「刑部の奴も、このところ伏せることが多かったからな……ぎりぎりまで休むつもりなんだろうよ」
「暢気なこった」
 そう吐き捨てた長宗我部の顔が、凄絶な憎悪の色に染まる。
 勘兵衛に向けなかったそれを大谷が休んでいる天幕へと向けた彼は、天幕を守っている兵たちに声を掛けることなく押し入ろうとし。
「入るぞ、大谷! てめえ、よくも俺を騙しやが……」
 そのまま体を大きく震わせ。

 背から黒い闇の腕を血と共に吐き出しながら、大きく痙攣しながら鈍い音を立てて地面に膝をついたのだった。













 戦の開始を告げる轟音と共に、石田軍は一気に動きだした。
 この空気自体が多量に水分を含んでいるが故に火器はほとんど使えぬ状況なので後方支援の兵を後ろからゆっくりと進軍させ、三成と精鋭の兵だけが徳川の本陣へと向かい凄まじい勢いで進み始める。それを止めるために徳川軍も動き始めてはいるが。

 両軍の両翼は、どちらも動く気配すらみられなかった。

 けん制するために弓は鋳掛けてくるが、軍を勧めてくる気配すら見られない眼前の毛利軍。そして逆翼長宗我部軍は、周囲に恐怖と威圧感を与える程の沈黙を保ち続けている。小さな軍の小競り合いは始まっているが、少しずつ近づきつつあるその時に向けて、ほとんどの軍は力を蓄えている段階。
 首筋からわずかに入ってくる風に涼を得ながら、伊達政宗はそう状況を理解していた。
 どのような状況であろうとすぐに大将本人が判断を下し動けるように、常に軍の先頭に立つ政宗だったがこのような待ち戦は苦手としか言いようがなかった。
 こちらが突撃しようとする素振りを見せれば、向こうはけん制のため雨か何かのように矢をこちらに向けてくる。しかしこちらが何もしなければ向こうも動かないのだ、一体毛利は何を考えているのやら。
「……何を考えてやがる」
 心の中で思っていたことを思わず口に出すと、後ろに控えていた小十郎がすかさず近づいてきた。
「この戦から離脱する気ではないかと」
「why?」
「あの毛利元就がこちらの動きに合わせた対処しか行わないのは、もうその理由しかないのでは。石田軍との関係が悪化する何かがあったのでしょう……」
「そんな話は聞かなかったがな」
「私もそのような情報は掴んでおりません。ですが、今でしたら政宗様の憂いを取り除くことができるのでは」
「憂いだと?」
 六爪を腰に泥に覆われた大地の彼方にいる毛利軍を見つめていた政宗は、小十郎の言葉に首をかしげる。
 確かに気になることはたくさんあるのだ、家康から聞いた手を差し伸べてはいけないという言葉、そして家康と石田三成との結着の行方。鶴姫の方は数少ない兵と共にこちらへと進軍してきた立花宗茂の手勢との戦いを始めているようだが、数は圧倒的に鶴姫側が有利。おまけに敵方の動きはまるで何かに追われているかのように性急で、陣形すらほとんど維持できていない始末。
 一度は手助けしようかとも考えたが、鶴姫の後ろには最上軍が控えている。
 彼がいるのに横から余計な手を差し伸べればこの戦が終わった後難癖をつけられるし、最上が狙っているのは伊達軍の弱体化だ。毛利軍と伊達軍が争い、弱った両軍を一度に片付ける。
 そして毛利軍を滅ぼした手柄を嬉々として家康に報告するくらい、あの強欲男なら平気でやってくるはず。
 もう戦の後の利権の奪い合いのことを考え始めている人間が多い中、鶴姫の側に軍を配置できたことは正直ありがたかった。あの姫には言動はまだまだ子供だが、一段高い視点で物を見ている。権力や支配欲でこの戦に参加したのではなく、家康に味方することが自分の天命と言いきる少女の存在は相当家康の助けになっていただろう。
 五倍以上の戦力で立花軍と戦い続ける鶴姫の様子はわからないが、なんとか見て取ることができる立花軍の旗が凄まじい勢いで減り始めている。あの状況ならばすぐに終わらせることができるだろうとは思うが、何故だろうか。
 この戦場のおかしさは、政宗の心をざわめかせるのだ。
 そんな状況で小十郎の口から出てきた言葉は、不安と名付けてはいけないそれに更に力を与えることになった。
「真田幸村率いる甲斐の軍勢が上杉軍との戦いを開始したようです」
「長宗我部はどうした?」
「ようやく動き始める気配を。ですが長宗我部元親の姿が見られぬとのこと」
「石田のヤツに脅されて動いたか?」
「そうでしょうな、大谷吉継の軍勢が長宗我部軍の背後に移動しております」
 後ろから石田軍に攻撃されかねない状況で無理矢理戦わされ、上杉軍を潰すために動く事になる。長宗我部元親に何があったかはわからないが、あの男はそんなことを受け入れるような器の小さな将ではなかったはず。
 一体何が起こっているというのだ。
 毛利軍とにらみ合いをするしかない状況に苛立ちすら覚えてはいるが、兵の手前それを表に出すことができない。おまけに真田幸村という名前を戦場で聞いてしまったのだ。この世でただ一人の好敵手が別の相手と戦っているのに、何故自分はここで足止めを喰らわなければならないのか。
 唇を噛みながら今すぐ幸村の元へと向かいたい思いを押さえ込んでいると。
「政宗様、上杉殿の加勢に行かれては」
「小十郎、お前……何を言っているのかわかっているんだろうな」
「毛利は動かないでしょう、彼らの目標はこの戦場から兵を減らさずに脱すること。政宗様の離脱は彼らに脱出の好機として映るのでは」
「最上はどうする?」
「あの狐の現在の目的は徳川殿に取り入ること。動かぬ毛利軍ではなく苦戦している上杉軍を助けに向かうと徳川殿と最上殿の両者に伝令を送れば、最上殿も動かないわけにはいかないでしょう」
 冷静にそう言う小十郎であったが、その目には政宗に対する信頼が溢れている。
 政宗がどういう決断をしようと、小十郎はそれに従うであろう。自分の言葉はあくまで政宗の決定の選択肢を増やすためのもの、何があろうとも最後に決めるのは政宗。
 それほどまでに小十郎は政宗の決断を信じてくれているのだ。
 ならば政宗にできるのはただ一つ、奥州筆頭として最高の決断を下すことだけ。
「小十郎、馬を出せ……まずはあの姫さんのところからだ」
「鶴姫殿の救援に向かうと?」
「あっちの方が近いんでな、すぐにカタをつけて戻ってくる。その間に毛利に動きがなきゃ、そのまま上杉の方へと全軍を向かわせる。その間に撤退しそうな素振りをみせるんだったら、大人しく逃がしてやれ」
「承知いたしました。さすが政宗様」
 賞賛で顔を輝かせる小十郎から恥ずかしくて目をそらすと、政宗は遙か彼方にいる好敵手へと思いを向ける。


 自分が行くまで死ぬな、そして道を違えるな。


 あの赤き輝きを今は取り戻せないとしても、彼に生きていてもらいたい。
 光を通さない雲に覆われた霞んだ世界を見渡しながら、政宗は自分の背後が途端に活気づくのを感じ。そこから力を得始めている事を実感しながら、徳川家康がどう動くのかを考え始めていた。










 伊達政宗が鶴姫の援護のために動き始めた頃、黒田官兵衛が感じていたのは血に濡れた長宗我部の体が凄まじ勢いで軽くなっていく感触だった。長宗我部が立ち入ろうとした天幕の中に満ちるのは闇、そしてその中央にはお市を横に従えた輿に乗った大谷の姿。
 鈴を転がすようなお市の笑い声に大谷のしゃがれた声が絡み合い、官兵衛ですら恐怖を抱いた時。
「長宗我部……何故ぬしが真の敵を知ることができたと思う? もうぬしは用済み、ならば真実を教えてやってから逝かせてやった方が面白かろう」
「ちょうちょさん……いちはこれから……あそびにいってもいいのね……?」
「行ってくるがよい。我を裏切った毛利とその軍勢と……思う存分遊んでくるがよい」
「…………いっぱい……おはなをつんでくるの……そうすれば……さまもよろこぶから……」
 愛らしい微笑みのまま、お市は大谷の影の中へ姿を消していく。
 それと同時に長宗我部の腹から背中へと突き抜けていたお市の闇の腕が抜け、血の滴を先端に伝わらせながら主を追うように消えていく。
 満足げにお市を見送り、長宗我部の体を後ろから支えるようにしている官兵衛に凄絶な笑顔を向け。
 大谷は官兵衛へと明確な殺意に近い感情を向ける。
「ぬしのせいよ……ぬしさえ三成に近づかなければ……」
「同盟軍の大将を殺っちまおうとするお前さんに言われたかないね! おい長宗我部、大丈夫か!?」
「…………なんとか……な……」
「ぬしの軍勢のことは心配するでない、今頃我の手の者が後ろから追い立て、上杉軍の方へと向かわせている所よ。それとぬしの命は我が握っていると伝えてある……さて、ぬしを失ってどこまでやってくれるか……」
「て…………てめぇ…………」
 官兵衛の支えを振り払い、己の力で立とうとするが。
 長宗我部の体からは血潮と共に生命が失われ始めていた。体の内側を貫いただけではなく、お市の手は長宗我部の内側をかき回したのだろう。口から零れる体液は赤い色だけではなく、様々な色合いが混ざり始めていた。
 それでも彼は己の手の内にある武器を杖にして、徐々に大谷へと近づいていく。
 息を吐く度に口から多量の液体が零れ、足からは力が抜けていく。それでも嘲笑うかのように口元の包帯に皺を多く作りながら語り続ける大谷へと少しづつ距離をつめ、その目に最後の炎を燃やし続ける。
 彼はまだあきらめていない、臣下の仇を討つことを。
 そしてもう一つ、楽しげに語る大谷には聞こえていないであろうかすかな長宗我部の声から、
「…………毛利の奴だけは…………無事に逃がしてやらねえとな…………」
 官兵衛は長宗我部が誰を守ろうとしているかを知ることができた。
 ここは長宗我部に加勢すべきかと思ったが、官兵衛の鉄球は天幕のような狭いところでは力を発揮しない。逆に天幕ごと破壊して、長宗我部をこれ以上傷つけてしまうわけにもいかないだろう。そして長宗我部は自分の仇討ちに人の手を借りることを受け入れはしないだろう、彼は誇り高き海の男なのだ。
 ならば官兵衛にできるできる事はただ一つ。
「刑部、これがお前さんの望む大戦ってやつなのか?」
 死に逝く長宗我部の刃は自分に届かない、そう思い込み彼を嘲笑う大谷にできる限りの隙を作ってやることだけ。三成のことは気にかかるが、長宗我部を見捨てることもできない。彼は己の命を賭けているのだ、それに答えてやれなければ官兵衛も男ではない。
 その心意気を長宗我部も感じてくれたのだろう。
「……外で……待ってる奴がいる、あんたの役に立つ男だ……」
 小さな声でそれだけを言い、長宗我部は大きくよろめきながら一歩だけ前に踏み込む。今の体の状態では体を動かすだけで激痛が襲うだろうに、長宗我部はわずかも止まろうとしない。自らの心を裏切らないために、そして自分を信じてくれた者を守るために。彼は遅々とした歩みではあったが仇の方へと進み続けていた。
 その間にも大谷の言葉は続く。
「三成は我を拒んだのよ……凶王の治める世は太閤殿が望むものではないとな……ならば全てが滅べばよい。屍を並べ……血の雨を降らし……家康の首を手に持てば……三成の心も変わるであろうよ」
「変わらないさ、あいつは凶王なんかじゃない。秀吉の後を継いだ……次代の覇王だ」
「やはりぬしか……ぬしさえいなければ……」
「知るか、小生はこれから三成の所へ行く。家康とやりあうのはいいが……素直に首を差し出しちまうかもしれなからな。お前さんはそこで謀略ごっこでもしてりゃいいさ、小生は遊びで満足できるほどガキじゃない。欲しい者はこの手で奪い取りに行くのが、本物の軍師って奴なんだよ……ま、お前さんには一生できそうにもないがな」
「…………今日は随分と余計な口をきくものよ」
「小生の今やるべき事はお前さんの言う『余計な口』って奴を叩く事でな」
 長宗我部が大きく前に一歩踏み出したのを見計らって、天幕の入り口の布を力一杯上へと跳ね上げる。
 もう朝だというのに明るさをほとんど感じはしないのだが、ずっと闇の中にいた大谷にとって外から差し込んでくる光はしばらくの間目を焼く程の輝きを持っていたのだろう。
 思わず手で目を覆い苦鳴の声を上げた大谷の胸に、長宗我部の錨を模した大槍が突き刺さったのは次の瞬間のことであった。
 信じられない物を見たかのように顔を強張らせ、輿ごと地面へ落ちた大谷の体はそれだけで生命の火を消してしまったのか。指先すら動かすことなく、体を庇うことなく地面へと大きな音を立てて激突した大谷を見て、長宗我部は満足げに水音の混じる息を吐いた。
「…………ざまあ……みやがれ…………」
「長宗我部!」
 全ての力を込めて槍を大谷の体に叩き込んだ長宗我部の体は、支えを失い一気に倒れ込む。慌てて長宗我部を介抱するために近づこうとした官兵衛を止めたのは、死に向かおうとしているのに力を失わない男の声であった。
「行け……俺のことは気に……すんなよ」
「だがっ!」
「石田を……助けてやるんだろ……それに……俺にもまだやることがある…………黒田、あんたのことは許しちゃいないが…………」


 あんた程いい男もいなかった。


 倒れ伏したままそれだけを言い、長宗我部は膝に力を入れ始めた。
 言葉で官兵衛を追い払うために言ったのではない、彼は本当に最後までやり抜くつもりなのだ。長宗我部がそれだけの心意気で答えてくれるのならば、官兵衛もそれに応えないわけにはいかない。
 それがきっと長宗我部が自分を認めてくれたことに対する、礼の証なのだ。
「わかった……あとは頼んだ」
「…………おう」
 離れがたい気持ちを無理矢理押し殺し、天幕の入り口を開け放ったまま官兵衛は長宗我部から離れていく。まずは三成に追いつくための方法を探さねばと思っていると、それを見計らっていたかのように数人の男が近づいてきた。
 鎧に染め抜かれている家紋を見て長宗我部家の臣下だと気がつき、手短に長宗我部の現状について伝えたが将が将なら部下も部下。冷静に状況を判断し、一人のみが長宗我部の元へ。あとの兵たちは官兵衛の元へと残り、長宗我部が切り札として持ってきたとある物が使用できることと、鍵があるのならば官兵衛の手枷を外せるかもしれない。
 それを官兵衛へと伝えてきたのだった。






_______________________________________
ということで、終幕の始まりです。
次で終わりますが……長かったなあ……本当に長かった


BGM「MAGIA」
PR
[368] [367] [366] [363] [361] [360] [359] [357] [356] [355] [354]
色々説明






拍手現在豊臣家転生パロ中学生編入ってます
(現在2本 家三 チカナリです)


注意事項
・フリーリンクじゃないです、基本的にはリンクはお断りしています
・ひっそりこっそりが信条なので、黙々と
・捏造、not公式のこばなしが多いので、スルー推奨


ラキドでは幹部全員を溺愛しておりますが、ベルナルドとイヴァンは特に偏愛。ばさらは家三とか奥州の愉快な仲間達と毛長がメインです。うずみさんが現在官三とか官佐にずっぽりとはまり中。
基本は、愛想のかけらもない「ネット怖い~」の書き手が二人で色々書いている場所です。


書いている人


みっし

・生真面目で堅物でムキムキな男性と一見そうじゃなくても根は真面目極まり ないキャラをこよなく愛している、がんかたうるふの片割れ。編み物とお菓子作りが趣味という、第三者曰く可愛らしい一面を持つ反面、パニクると踊ったり、オロオロしだして周囲は見ていて楽しいらしい。荒ぶる舞は、職場の名物だったりする……らしい。
イヴァンちゃんと片倉さんとシズちゃんとスカイハイさんと陛下を思いっきり愛している。好きなアニメは銀魂と最近はFate/zero。型月ファンというよりは元から虚淵ファンでうずみさんからオススメされまくった末にようやっと手を付けて完読した。ライダー組おいしいです。エクシリアではダントツで陛下が好き。陛下が使用可能になる完全版があるなら複数買いしても構わないとのたまう日々。バサラの好きキャラは片倉さん一強だったはずなのに最近はアニキも熱い。かっちり着込むキャラがすきだったはずなのにいきなり露出度が高いキャラを好きになったのは何故か悩む日々。二次元の向かう愛と同じぐらい甥っ子への愛を叫んでいる気がしてならない。



うずみ
・相方を愛しすぎている変な人。趣味は畑仕事に漬け物作り、好きな物は不幸属性の美人(男女問わず)。ばさらでは石田さんと黒田さんをこよなく愛していたり、赤い子めんこいにゃぁとたまに叫んでいる。

ついったのフォローは下 のアイコンから。




ばさら垢できました
こんな二人で、ここを更新しております。

ツイッターは基本鍵をかけていますが、フォロー申請してくださったらフォローさせていただきます。
カウンター
忍者ブログ / [PR]
/ Template by Z.Zone