こちらはサークル「がんかたうるふ」のうずみとみっしの二人組が、ラッキードッグ1とばさらのこばなしを黙々と投下する場所です。
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よりにもよってみっしさんが全部読んでいないことが昨日発覚したので、アップしてみました。続きは明日にでも。
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6/13
PM 22:30 はじまりのはじまり
日が沈む頃に家に帰ろうとしても、仕事が残っていれば帰れないのは責任ある立場故。
明日が誕生日だろうと、今日これから恋人との待ち合わせがあることがわかっていたとしても、明日に回しても十分間に合う仕事まで片付け始めているのは、生来持って生まれた性格から。
ついでにビール瓶片手に人の仕事部屋に乱入してきたカポの対応をするのは、彼に対する個人的な好意のためであった。彼以外の人間が仕事を邪魔しに来たのであればまず部屋に入れる事自体しないであろうし、それ以前にベルナルドの部下が入り口で止めてしまうだろう。
ベルナルドの部下が敬意を払い、主の仕事部屋へと招く存在。
組織全てが忠誠を誓う存在であるカポが机の縁に腰掛け、表情をくるくると変えながらビールを飲み下す様は、ベルナルドにとって頭痛を増やす一要素でしかなかった。が、ジャンは可愛いのだ、ここで逃げ出すわけにはいかない。
「……ベルナルド、俺の話聞いてんのかよ!」
「聞いてるよ、ジャン。俺はイヴァンとジュリオの行方を捜せばいいんだろう?」
「ついでに説教もな。明日はベルナルドの誕生日だっていうのに、あいつら駆け落ちだなんて……」
「まだ完全な駆け落ちと決まったわけじゃない、少し落ち着くといい」
「これを見てもそう言えるのかよ……っ!」
書類の山の上に、派手な音と共に一枚の紙が叩きつけられる。
手に取ってみると何の変哲もないただのメモ紙で、何かの香りがついているとか暗号が書かれているということもない。ただ流暢かつ丁寧極まりない字で『駆け落ちします、探さないでください』と書かれているだけ。
それがイヴァンの字で書かれているからこそ、ジャンの精神を大幅に乱しているのだ。
だが、
「駆け落ちする原因はどこにあるんだ? 今日二人に会っているが、そんな素振りはわずかも感じなかったが……」
その駆け落ちする理由がまずわからない。
そして実際にジャンの前から姿を消したという二人が今どこにいるのか、それもわからないのだ。
「それがわかれば俺も苦労しないって」
盛大に肩を落としながらまたビールをあおるジャンを制止する。
このまま大事なカポにアルコール中毒になられても困るし、彼の記憶を頼りにしなければこの事件は解決しそうもないのだ。
ゆっくり、言い含めるようにジャンに話しかける。
「ジャン……あいつらが何故いなくなったのか、それをまず思い出してくれ。絶対に理由があるはずなんだ」
理由も経過もわからない、分かっているのはジュリオとイヴァンがそろって姿を消したことだけ。これだけの材料で人を探せというのが無理な話なのだが、これだけはなんとかやり遂げなければならない。
明日は自分の誕生日。
昨年の誕生日もさんざんな目にあったというのに、今年もトラブルとアンラッキーに愛される誕生日にだけはしたくない。そういえば昨年はルキーノにさんざんな目に遭わされたが、今年はどうやらジャンに振り回される誕生日になるらしい。
今日はもう会うのは無理、そう結論づけるとベルナルドは恋人に電話を入れるために一番右手に近い受話器を手に取った。
PM 22:47 その頃駆け落ち組は
「ジュリオとイヴァンが行方不明なんで探して欲しいそうだが……」
どうするお前ら?
と赤毛の巨体に聞かれ、ジュリオは咀嚼していたクッキーを飲み込んでから、ルキーノに答えた。
「駆け落ち……中………」
「そうか」
自分の家のダイニングルームを占拠されているというのに、ルキーノの態度はいつもと変わらなかった。暴れはしないがあきらめ顔のイヴァンの腕を引っ張りながら無理矢理家に上がり込み、ついでにナイフで脅しつけてみたりしたが。子供の悪戯を楽しんでいるかのよう顔で、悠然と二人をダイニングへと招き入れてくれた。
ついでに好物のアプリコットジャムがたくさんのせられたクッキーまでごちそうしてくれたのだ、今日のルキーノはすこぶるいい人すぎる。酸味の強い温かいコーヒーを隣に座って味わっているイヴァンも、空腹なのか日頃はつままないクッキーを時折口に運んでいた。
せっかく駆け落ちしたのだ、お兄ちゃんである自分がしっかりしないと。
そう思いはするのだが、今日一日準備で走り回っていたのだ、まずは食べないといい考えも浮かんでこない。
「というわけだ、俺の家にいるが今駆け落ち中なんで相手できないそうだ」
電話の相手が誰なのかはわからないが、自分たちが駆け落ち中だと教えておいてくれるのはいいことだ。ジャンには悪いと思っているが、今回ばかりはジュリオも納得できないのだ。
ジャンとイヴァンが自分のいない間に仲良くしていたのは許す気にもなれるが、更にあんな事を受け入れてしまうなんて。
「………………………………………」
思い出してまた不機嫌になってしまい、クッキーをまた口に入れると横に座っていたイヴァンが自分の服を引っ張っていた。
「ひふぁん?」
「おい、駆け落ちってなんだよ?」
「………俺と……イヴァンが……駆け落ち………」
「はぁ?」
「…………手紙……書いてくれた………」
「あれ、頼まれモンじゃなかったのかよ!?」
「俺たちの駆け落ち……記念日………」
「記念日じゃねぇぇぇぇぇっ!」
自分の首を絞める勢いで襟を掴み、体をがくんがくんと揺さぶるイヴァンの頭を撫でてやりながらジュリオは思った。
何故イヴァンは急に暴れ出したのだろう、と。
PM 23:03 伝わった先は
「イヴァンとジュリオが見つかったが……」
呆れとため息が混ざったベルナルドの声に、ジャンの首が盛大にひねられた。
何故駆け落ちなんて始めたか、どうせジュリオの発案なのだろうが、それにイヴァンが何故ほいほいとついて行ったのか。わからない事だらけなのに、更に疑問なのはベルナルドの顔が何故完全に感情の色を失っているのか。
聞くのが怖いが、聞かなければ話が進まない。
「えっと……どっかでご迷惑かけてる……とかじゃないよな?」
「ナイフを持って立てこもり中らしい…………家中の菓子を食い荒らしてるそうだ」
「…………俺、それも弁償しなきゃいけないワケ?」
「安心しろ…………立てこもり先に選ばれた不幸な家は………」
PM 23:38 立てこもり班と説得係の会話の応酬
「ジュリオ……だよな」
「……ジャン……」
「あのな……お前らが今やってることわかってんだよな?」
「ルキーノの……クッキー…………おいしいです……」
「そうじゃなくてな。まず駆け落ち自体がいい事じゃないし、それに……な」
「ジャンは……一緒に駆け落ち……しません」
「駆け落ちの意味知ってるか? 今の状況で結ばれないってわかってるからどっかに逃げることを言うんだぞ? お前ら普通に四六時中いちゃいちゃしてるだろ?」
『いちゃいちゃなんてしてねぇ! このヤロウが勝手に……っ!』
「…………俺と……イヴァンがこのまま……一緒にいられなくなるなら………俺はイヴァンと…………」
「だから、何でそういう考えになるんだよ?」
「ジャンが……今朝………電話で……」
「電話? ちょ、ちょっと待てってあれは…………」
「ジャンが考えを変えてくれるまで……俺は………」
『何の話だよ、オレにもわかるように説明しやがれ』
「イヴァンには……後で……話す。あと……それはオレのチョコ……」
『腹減ってんだよ、テメーばっかり食うんじゃねえよ』
「あの~、俺は仲間に混ぜてもらえないわけ?」
「今日は……駄目…………です……電話……切ります」
「おいこら、待てって! あ~あ、あいつ切りやがった………」
「どうだった?」
「全然ダメだ、こりゃ。それでも理由はわかったからな……なんとかできそうかな」
「そうしてもらえるとありがたいね……さて、俺はそろそろ帰らせてもらうかな」
「ちょっと待てって! 可愛いあいつらに逃げられた俺を置いて帰るのかよ!?」
「ああ、普通に帰らせてもらう。今日は最初から約束があったんだ……イヴァンとジュリオも見つかったし、ルキーノ相手に立てこもるなら周囲に害を及ぼすことはないだろう。それなら俺に出来ることは明日の誕生日に備えてさっさと寝ることだけだ」
「随分冷たいのな……」
「冷たくて結構。ということで、後のことはよろしく頼むよ……俺はこれからルキーノの家に行って来る」
「……………………………………………へ?」
「説得するにもルキーノを怒るにも、その場に行った方がいいだろう? どうせアイツの家に泊まるつもりだったんだ、ついでに向こう見ずな坊やたちを叱ってくるさ。明日の朝には連絡する、明日はジャンも忙しいんだ、ゆっくり休む事だね」
「ベルナルド…………」
「それじゃ、おやすみ」
AM 0:03 そして誕生日の始まり
「随分搾取されたようじゃないか」
笑い混じりに擦り寄せられる体を受け止め、ルキーノは久しぶりに出会えた恋人の柔らかく波打つ髪に顔を埋めた。ベルナルドに笑われるのも無理はない、家にある食物は二人の欠食青年たちにほとんど食い尽くされてしまったし、自棄になったイヴァンには秘蔵のビールが次々と飲まれていってしまっている。
いきなりナイフをひらめかせながら家に入ってきた時だけは驚いたが。
ままごとをしている子供のような不器用な二人の姿を見て、思わず協力することにしてしまったのは、ジュリオの目が真剣だったからなのだろう。イヴァンと離れたくないから駆け落ちする、シンプルでまっすぐな思いは、訳もわからずついてきていたイヴァンの心も多少動かしたようだった。
最初は散々文句を言っていたが、もう何も言う気はないらしい。酒を口に運ぶペースはいつもよりかなり速いが、それでもソファーの上で二人で体を寄せ合い、仲良く食事をしているのだから基本的には仲がいいのだ。
いつもならこれにジャンが入り、賑やかで完全な三角形を作ってくれるのだが、今日はそれを見ることは出来ないようだ。玄関での挨拶の抱擁を終え、ダイニングルームに顔を出したベルナルドに最初にかけられたのはジュリオの厳しい声だった。
「何を……しに来た」
「名目はお前たちの説得、本当のところは疲れたから寝に来ただけだ」
「…………何故?」
「何故といってもな……ジャンは理由に心当たりがあると行っていた、ならばお前たちの説得はジャンがするだろう。俺は疲れてるんだ、ついでに久々にでかいベッドで寝たい。俺の家に帰るよりこっちの方が近かったしな」
整然とそう並べ立てられ、ジュリオの瞳から敵意がわずかに薄れた。
さすがのベルナルドも敵意丸出しのジュリオ相手だと多少気を遣ったのだろう、肩の力を一気に抜くと小さい声でネクタイと呟き、ジュリオには柔和な笑顔を向けている。その後ろに立っているルキーノは、愛しい恋人のご要望通り肩から手を回してシャツ越しに鎖骨の感触を楽しんでからゆっくりとネクタイの結び目に指を通し始めた。
彼のやせぎすの体の中でも、鎖骨は触っていて心地よい部分の一つである。
堅く揺るぎない彼の心のように、堅いが鋭さのない暖かさを与えてくれる。ここに舌を這わせて、焦れるベルナルドを弄ぶのが楽しいのだが、さすがに今日はそれをする気にはならなかった。
大きなお子様二人が同じ家にいるというのに、事に及ぶのはさすがに勘弁したい。
だが後数分すれば彼の誕生日になってしまう。昨年の誕生日も自分と彼にとって色々あった誕生日だったが、今年はまさか駆け落ちに巻きこまれることになるとは。まさか来年も何か騒動が起こるのではと内心心配しつつも、ルキーノは心のどこかでまあこういう誕生日もありだろうと思ってもいた。
自分たちの上には幸運を司る若き王者がいるのだ。
ちょっとくらいのトラブルならば、彼の幸運が吹き飛ばしてくれる。それに今年のこの騒動は、自分とベルナルドは外から見ていることができそうなので、その面では安心だった。
昨年の失敗を踏まえて、明後日までの間酒は一滴も飲まないとも決めている。
あの時のようにまたベルナルドを泣かせてしまったら、そう考えれば酒なんて簡単に我慢できる。
「………おい、何かタイピンにつけてるのか?」
首筋を軽くいじりながらネクタイを首から抜こうとすると、タイピンが引っ張られる感触。
「ああ……もう落としたくないんでな、タイピンからも鎖をつけてある」
「面倒なことしやがって……何本鎖つけてんだ?」
「5本くらいか」
「もう落としたりしないさ、安心しろ」
ベルナルドの首に掛かっている鎖、その先にあるルキーノの去年の誕生日プレゼントを落とさないために幾重にも鎖を重ねているのだろう。そして最後の保険としてその鎖の1本をタイピンにつなげている。
どれだけ自分と自分のプレゼントを愛してくれているのだろう。
唇をきゅっと引き結んでそれ以上何も言おうとしないが、ベルナルドも気恥ずかしさは感じているのだろう。妙なところで大人になりきれてないというか、少女めいた感傷にとらわれることがあるというか。
だがそんな彼が愛しいのだ、時計を何度も確認し、早く日付が変わって欲しいと祈る程には。
「14日に……なったな」
「そうか」
「誕生日おめでとう、ベルナルド」
「今回は素直な祝いの言葉だな……前回は……」
「あれは忘れてくれ」
ゆっくりと回した手に力を込める。
今年は彼の一番側で一番に誕生日を祝うことが出来た。
そのことに満足し、そして相変わらず仲良くしているソファーの上の二人をどうすべきか考えながら。
ルキーノは二人の大きな子供に気づかれぬように、ベルナルドの首筋にキスという名の最初のプレゼントを贈った。
・5月の新刊『early summer vacation』の続きですので、年下組の馬鹿さ加減がすごいことになってます。昨日電話で話していたみっしさんが「本気で続いてますね~」と言ってましたが、5月の新刊は本当に書いていて楽しかったので。
BGM「ガチャガチャきゅ~と・ふぃぎゅ@メイト」
PM 22:30 はじまりのはじまり
日が沈む頃に家に帰ろうとしても、仕事が残っていれば帰れないのは責任ある立場故。
明日が誕生日だろうと、今日これから恋人との待ち合わせがあることがわかっていたとしても、明日に回しても十分間に合う仕事まで片付け始めているのは、生来持って生まれた性格から。
ついでにビール瓶片手に人の仕事部屋に乱入してきたカポの対応をするのは、彼に対する個人的な好意のためであった。彼以外の人間が仕事を邪魔しに来たのであればまず部屋に入れる事自体しないであろうし、それ以前にベルナルドの部下が入り口で止めてしまうだろう。
ベルナルドの部下が敬意を払い、主の仕事部屋へと招く存在。
組織全てが忠誠を誓う存在であるカポが机の縁に腰掛け、表情をくるくると変えながらビールを飲み下す様は、ベルナルドにとって頭痛を増やす一要素でしかなかった。が、ジャンは可愛いのだ、ここで逃げ出すわけにはいかない。
「……ベルナルド、俺の話聞いてんのかよ!」
「聞いてるよ、ジャン。俺はイヴァンとジュリオの行方を捜せばいいんだろう?」
「ついでに説教もな。明日はベルナルドの誕生日だっていうのに、あいつら駆け落ちだなんて……」
「まだ完全な駆け落ちと決まったわけじゃない、少し落ち着くといい」
「これを見てもそう言えるのかよ……っ!」
書類の山の上に、派手な音と共に一枚の紙が叩きつけられる。
手に取ってみると何の変哲もないただのメモ紙で、何かの香りがついているとか暗号が書かれているということもない。ただ流暢かつ丁寧極まりない字で『駆け落ちします、探さないでください』と書かれているだけ。
それがイヴァンの字で書かれているからこそ、ジャンの精神を大幅に乱しているのだ。
だが、
「駆け落ちする原因はどこにあるんだ? 今日二人に会っているが、そんな素振りはわずかも感じなかったが……」
その駆け落ちする理由がまずわからない。
そして実際にジャンの前から姿を消したという二人が今どこにいるのか、それもわからないのだ。
「それがわかれば俺も苦労しないって」
盛大に肩を落としながらまたビールをあおるジャンを制止する。
このまま大事なカポにアルコール中毒になられても困るし、彼の記憶を頼りにしなければこの事件は解決しそうもないのだ。
ゆっくり、言い含めるようにジャンに話しかける。
「ジャン……あいつらが何故いなくなったのか、それをまず思い出してくれ。絶対に理由があるはずなんだ」
理由も経過もわからない、分かっているのはジュリオとイヴァンがそろって姿を消したことだけ。これだけの材料で人を探せというのが無理な話なのだが、これだけはなんとかやり遂げなければならない。
明日は自分の誕生日。
昨年の誕生日もさんざんな目にあったというのに、今年もトラブルとアンラッキーに愛される誕生日にだけはしたくない。そういえば昨年はルキーノにさんざんな目に遭わされたが、今年はどうやらジャンに振り回される誕生日になるらしい。
今日はもう会うのは無理、そう結論づけるとベルナルドは恋人に電話を入れるために一番右手に近い受話器を手に取った。
PM 22:47 その頃駆け落ち組は
「ジュリオとイヴァンが行方不明なんで探して欲しいそうだが……」
どうするお前ら?
と赤毛の巨体に聞かれ、ジュリオは咀嚼していたクッキーを飲み込んでから、ルキーノに答えた。
「駆け落ち……中………」
「そうか」
自分の家のダイニングルームを占拠されているというのに、ルキーノの態度はいつもと変わらなかった。暴れはしないがあきらめ顔のイヴァンの腕を引っ張りながら無理矢理家に上がり込み、ついでにナイフで脅しつけてみたりしたが。子供の悪戯を楽しんでいるかのよう顔で、悠然と二人をダイニングへと招き入れてくれた。
ついでに好物のアプリコットジャムがたくさんのせられたクッキーまでごちそうしてくれたのだ、今日のルキーノはすこぶるいい人すぎる。酸味の強い温かいコーヒーを隣に座って味わっているイヴァンも、空腹なのか日頃はつままないクッキーを時折口に運んでいた。
せっかく駆け落ちしたのだ、お兄ちゃんである自分がしっかりしないと。
そう思いはするのだが、今日一日準備で走り回っていたのだ、まずは食べないといい考えも浮かんでこない。
「というわけだ、俺の家にいるが今駆け落ち中なんで相手できないそうだ」
電話の相手が誰なのかはわからないが、自分たちが駆け落ち中だと教えておいてくれるのはいいことだ。ジャンには悪いと思っているが、今回ばかりはジュリオも納得できないのだ。
ジャンとイヴァンが自分のいない間に仲良くしていたのは許す気にもなれるが、更にあんな事を受け入れてしまうなんて。
「………………………………………」
思い出してまた不機嫌になってしまい、クッキーをまた口に入れると横に座っていたイヴァンが自分の服を引っ張っていた。
「ひふぁん?」
「おい、駆け落ちってなんだよ?」
「………俺と……イヴァンが……駆け落ち………」
「はぁ?」
「…………手紙……書いてくれた………」
「あれ、頼まれモンじゃなかったのかよ!?」
「俺たちの駆け落ち……記念日………」
「記念日じゃねぇぇぇぇぇっ!」
自分の首を絞める勢いで襟を掴み、体をがくんがくんと揺さぶるイヴァンの頭を撫でてやりながらジュリオは思った。
何故イヴァンは急に暴れ出したのだろう、と。
PM 23:03 伝わった先は
「イヴァンとジュリオが見つかったが……」
呆れとため息が混ざったベルナルドの声に、ジャンの首が盛大にひねられた。
何故駆け落ちなんて始めたか、どうせジュリオの発案なのだろうが、それにイヴァンが何故ほいほいとついて行ったのか。わからない事だらけなのに、更に疑問なのはベルナルドの顔が何故完全に感情の色を失っているのか。
聞くのが怖いが、聞かなければ話が進まない。
「えっと……どっかでご迷惑かけてる……とかじゃないよな?」
「ナイフを持って立てこもり中らしい…………家中の菓子を食い荒らしてるそうだ」
「…………俺、それも弁償しなきゃいけないワケ?」
「安心しろ…………立てこもり先に選ばれた不幸な家は………」
PM 23:38 立てこもり班と説得係の会話の応酬
「ジュリオ……だよな」
「……ジャン……」
「あのな……お前らが今やってることわかってんだよな?」
「ルキーノの……クッキー…………おいしいです……」
「そうじゃなくてな。まず駆け落ち自体がいい事じゃないし、それに……な」
「ジャンは……一緒に駆け落ち……しません」
「駆け落ちの意味知ってるか? 今の状況で結ばれないってわかってるからどっかに逃げることを言うんだぞ? お前ら普通に四六時中いちゃいちゃしてるだろ?」
『いちゃいちゃなんてしてねぇ! このヤロウが勝手に……っ!』
「…………俺と……イヴァンがこのまま……一緒にいられなくなるなら………俺はイヴァンと…………」
「だから、何でそういう考えになるんだよ?」
「ジャンが……今朝………電話で……」
「電話? ちょ、ちょっと待てってあれは…………」
「ジャンが考えを変えてくれるまで……俺は………」
『何の話だよ、オレにもわかるように説明しやがれ』
「イヴァンには……後で……話す。あと……それはオレのチョコ……」
『腹減ってんだよ、テメーばっかり食うんじゃねえよ』
「あの~、俺は仲間に混ぜてもらえないわけ?」
「今日は……駄目…………です……電話……切ります」
「おいこら、待てって! あ~あ、あいつ切りやがった………」
「どうだった?」
「全然ダメだ、こりゃ。それでも理由はわかったからな……なんとかできそうかな」
「そうしてもらえるとありがたいね……さて、俺はそろそろ帰らせてもらうかな」
「ちょっと待てって! 可愛いあいつらに逃げられた俺を置いて帰るのかよ!?」
「ああ、普通に帰らせてもらう。今日は最初から約束があったんだ……イヴァンとジュリオも見つかったし、ルキーノ相手に立てこもるなら周囲に害を及ぼすことはないだろう。それなら俺に出来ることは明日の誕生日に備えてさっさと寝ることだけだ」
「随分冷たいのな……」
「冷たくて結構。ということで、後のことはよろしく頼むよ……俺はこれからルキーノの家に行って来る」
「……………………………………………へ?」
「説得するにもルキーノを怒るにも、その場に行った方がいいだろう? どうせアイツの家に泊まるつもりだったんだ、ついでに向こう見ずな坊やたちを叱ってくるさ。明日の朝には連絡する、明日はジャンも忙しいんだ、ゆっくり休む事だね」
「ベルナルド…………」
「それじゃ、おやすみ」
AM 0:03 そして誕生日の始まり
「随分搾取されたようじゃないか」
笑い混じりに擦り寄せられる体を受け止め、ルキーノは久しぶりに出会えた恋人の柔らかく波打つ髪に顔を埋めた。ベルナルドに笑われるのも無理はない、家にある食物は二人の欠食青年たちにほとんど食い尽くされてしまったし、自棄になったイヴァンには秘蔵のビールが次々と飲まれていってしまっている。
いきなりナイフをひらめかせながら家に入ってきた時だけは驚いたが。
ままごとをしている子供のような不器用な二人の姿を見て、思わず協力することにしてしまったのは、ジュリオの目が真剣だったからなのだろう。イヴァンと離れたくないから駆け落ちする、シンプルでまっすぐな思いは、訳もわからずついてきていたイヴァンの心も多少動かしたようだった。
最初は散々文句を言っていたが、もう何も言う気はないらしい。酒を口に運ぶペースはいつもよりかなり速いが、それでもソファーの上で二人で体を寄せ合い、仲良く食事をしているのだから基本的には仲がいいのだ。
いつもならこれにジャンが入り、賑やかで完全な三角形を作ってくれるのだが、今日はそれを見ることは出来ないようだ。玄関での挨拶の抱擁を終え、ダイニングルームに顔を出したベルナルドに最初にかけられたのはジュリオの厳しい声だった。
「何を……しに来た」
「名目はお前たちの説得、本当のところは疲れたから寝に来ただけだ」
「…………何故?」
「何故といってもな……ジャンは理由に心当たりがあると行っていた、ならばお前たちの説得はジャンがするだろう。俺は疲れてるんだ、ついでに久々にでかいベッドで寝たい。俺の家に帰るよりこっちの方が近かったしな」
整然とそう並べ立てられ、ジュリオの瞳から敵意がわずかに薄れた。
さすがのベルナルドも敵意丸出しのジュリオ相手だと多少気を遣ったのだろう、肩の力を一気に抜くと小さい声でネクタイと呟き、ジュリオには柔和な笑顔を向けている。その後ろに立っているルキーノは、愛しい恋人のご要望通り肩から手を回してシャツ越しに鎖骨の感触を楽しんでからゆっくりとネクタイの結び目に指を通し始めた。
彼のやせぎすの体の中でも、鎖骨は触っていて心地よい部分の一つである。
堅く揺るぎない彼の心のように、堅いが鋭さのない暖かさを与えてくれる。ここに舌を這わせて、焦れるベルナルドを弄ぶのが楽しいのだが、さすがに今日はそれをする気にはならなかった。
大きなお子様二人が同じ家にいるというのに、事に及ぶのはさすがに勘弁したい。
だが後数分すれば彼の誕生日になってしまう。昨年の誕生日も自分と彼にとって色々あった誕生日だったが、今年はまさか駆け落ちに巻きこまれることになるとは。まさか来年も何か騒動が起こるのではと内心心配しつつも、ルキーノは心のどこかでまあこういう誕生日もありだろうと思ってもいた。
自分たちの上には幸運を司る若き王者がいるのだ。
ちょっとくらいのトラブルならば、彼の幸運が吹き飛ばしてくれる。それに今年のこの騒動は、自分とベルナルドは外から見ていることができそうなので、その面では安心だった。
昨年の失敗を踏まえて、明後日までの間酒は一滴も飲まないとも決めている。
あの時のようにまたベルナルドを泣かせてしまったら、そう考えれば酒なんて簡単に我慢できる。
「………おい、何かタイピンにつけてるのか?」
首筋を軽くいじりながらネクタイを首から抜こうとすると、タイピンが引っ張られる感触。
「ああ……もう落としたくないんでな、タイピンからも鎖をつけてある」
「面倒なことしやがって……何本鎖つけてんだ?」
「5本くらいか」
「もう落としたりしないさ、安心しろ」
ベルナルドの首に掛かっている鎖、その先にあるルキーノの去年の誕生日プレゼントを落とさないために幾重にも鎖を重ねているのだろう。そして最後の保険としてその鎖の1本をタイピンにつなげている。
どれだけ自分と自分のプレゼントを愛してくれているのだろう。
唇をきゅっと引き結んでそれ以上何も言おうとしないが、ベルナルドも気恥ずかしさは感じているのだろう。妙なところで大人になりきれてないというか、少女めいた感傷にとらわれることがあるというか。
だがそんな彼が愛しいのだ、時計を何度も確認し、早く日付が変わって欲しいと祈る程には。
「14日に……なったな」
「そうか」
「誕生日おめでとう、ベルナルド」
「今回は素直な祝いの言葉だな……前回は……」
「あれは忘れてくれ」
ゆっくりと回した手に力を込める。
今年は彼の一番側で一番に誕生日を祝うことが出来た。
そのことに満足し、そして相変わらず仲良くしているソファーの上の二人をどうすべきか考えながら。
ルキーノは二人の大きな子供に気づかれぬように、ベルナルドの首筋にキスという名の最初のプレゼントを贈った。
・5月の新刊『early summer vacation』の続きですので、年下組の馬鹿さ加減がすごいことになってます。昨日電話で話していたみっしさんが「本気で続いてますね~」と言ってましたが、5月の新刊は本当に書いていて楽しかったので。
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色々説明
拍手現在豊臣家転生パロ中学生編入ってます
(現在2本 家三 チカナリです)
注意事項
・フリーリンクじゃないです、基本的にはリンクはお断りしています
・ひっそりこっそりが信条なので、黙々と
・捏造、not公式のこばなしが多いので、スルー推奨
ラキドでは幹部全員を溺愛しておりますが、ベルナルドとイヴァンは特に偏愛。ばさらは家三とか奥州の愉快な仲間達と毛長がメインです。うずみさんが現在官三とか官佐にずっぽりとはまり中。
基本は、愛想のかけらもない「ネット怖い~」の書き手が二人で色々書いている場所です。
書いている人
みっし
・生真面目で堅物でムキムキな男性と一見そうじゃなくても根は真面目極まり ないキャラをこよなく愛している、がんかたうるふの片割れ。編み物とお菓子作りが趣味という、第三者曰く可愛らしい一面を持つ反面、パニクると踊ったり、オロオロしだして周囲は見ていて楽しいらしい。荒ぶる舞は、職場の名物だったりする……らしい。
イヴァンちゃんと片倉さんとシズちゃんとスカイハイさんと陛下を思いっきり愛している。好きなアニメは銀魂と最近はFate/zero。型月ファンというよりは元から虚淵ファンでうずみさんからオススメされまくった末にようやっと手を付けて完読した。ライダー組おいしいです。エクシリアではダントツで陛下が好き。陛下が使用可能になる完全版があるなら複数買いしても構わないとのたまう日々。バサラの好きキャラは片倉さん一強だったはずなのに最近はアニキも熱い。かっちり着込むキャラがすきだったはずなのにいきなり露出度が高いキャラを好きになったのは何故か悩む日々。二次元の向かう愛と同じぐらい甥っ子への愛を叫んでいる気がしてならない。
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うずみ
・相方を愛しすぎている変な人。趣味は畑仕事に漬け物作り、好きな物は不幸属性の美人(男女問わず)。ばさらでは石田さんと黒田さんをこよなく愛していたり、赤い子めんこいにゃぁとたまに叫んでいる。ついったのフォローは下 のアイコンから。
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