こちらはサークル「がんかたうるふ」のうずみとみっしの二人組が、ラッキードッグ1とばさらのこばなしを黙々と投下する場所です。
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ということで、1日目の続きです。
細かい解説とかは、気が向いたらやろうと思います。
細かい解説とかは、気が向いたらやろうと思います。
*****
AM 9:27 穏やかな朝食
「おい年寄りメガネ、マスタード取ってくれよ」
「年寄りをこき使うとは若者の風上にも置けない奴だな……ほら、ついでに冷蔵庫からトマトジュースを取ってきてくれ、お前が一番近いからな」
「ジジイをこれ以上働かせんのも可哀想な話だな……っと、おいジュリオ、ホットドッグに砂糖かけんじゃねーよ!」
「あましょっぱい……おいしい……」
「ソーセージに蜂蜜はやる人がいるがな、砂糖はさすがに……」
「今度は……蜂蜜にする……おかわり」
「おかわりかよ!」
泣く子も黙るマフィアCR-5の幹部連中は、何故かダイニングにピクニック用のシートを敷き楽しい朝食時間を演出していた。実際の所はソファーで食べようとしたらルキーノにお前らなら確実に汚す(特にジュリオ)から、ここで食えと場所を提供されただけなのだが。
しかしこれが中々楽しかった。
昨日若者二人が散々食い荒らしてしまっていたが、寝ている間にルキーノが配達してもらっていたらしい。2~3日は籠城できる位の食物の山に喜んだのは、ジュリオだけだった。
駆け落ちの意味も微妙にずれているが、喜ぶポイントもずれまくっている。
まあそれはいいとして、一晩ゆっくりルキーノの腕枕で眠らせてもらったらかなり体調も気持ちもすっきりした。今日の仕事の指示をすると言うことで今はこの場を離れているルキーノも、一番最初に誕生日を祝えたと言うことで今日は朝から上機嫌だったし、新しい一年の始まりとしてこの状況は面白すぎる。
こういう誕生日も面白いものだなと思いながら、ルキーノがわざわざ作ってくれたスモークサーモンとレタスのサンドイッチをゆっくりのんびり口に運ぶ。誕生日のケーキやら何やらはどうせ今日の夜のパーティで食べられるのだ。
軽くてあっさりとして、ついでにいい食べっぷりの二人をおかずに食べられる状況は中々楽しかった。
「おい開けろって! もう駆け落ちなんてやめて、さっさと帰って来いよ~!」
と玄関のドアを叩く音がずっと耳に聞こえ続けてさえいなければ。
「…………なあイヴァン、いいのかあれは?」
「俺も最初はこのヤロウに騙されて連れてこられちまったけどよ……さすがにあれはねーだろ」
「ま、まあな……」
泣きそうな声は、女房に逃げられて未練たらしく追ってくる旦那の如し。
せめて中に入れてやらないとルキーノの世間体とかCR-5のボスの品位とかが色々と追求されそうなので、さっさと中に入れてやった方がいいだろう。
それを当の駆け落ち中の本人たちに提案してみると、
「別に……ジャンが反省してくれる……なら………イヴァン………おかわり」
「まだ食うのかよ、しょうがねえな。オレはそーだな……別にかまわねーけどよ、ちょっと条件はつけさせてもらいたい」
「条件」
「駆け落ち……だったけか? このヤロウがなんでそうしたかは聞いちまったからな、オレとしても一言言ってやりたいけど……一応駆け落ち中だかんな」
にやっと笑ってイヴァンがジュリオの耳に囁き、それを聞いて顔を輝かせたジュリオが何度も頷くのを見ながら、ベルナルドは大変なことに気がついてしまった。
イヴァンの奴、この状況で遊んでやがる。
まあ確かに半ば騙された形で連れてこられて、ついでにこの状況である。誕生日を祝うべき相手はすぐ目の前にいるし、今日は大して大きな仕事もない。ここで状況を見ながら遊んでいた方がイヴァンにとっては楽しい事態になるということだ。
まあ彼のことだ、遊んでいるように見せかけて本当の目的は隠しきっているのだろうが。
相も変わらずぺたぺたと体を触れ合わせながら仲睦まじく過ごしている二人を見ながら、とりあえず玄関の鍵を開けてやろうとベルナルドは立ち上がりながら思っていた。
AM 11:33 逃げられた旦那の哀れさを観察する
「いや、俺が安請け合いしたのは悪かったから、それは認める。でも駆け落ちはないだろう!?」
「………イヴァンちゃんは……物じゃない………」
「将来のためになると思ったしさ、イヴァンだってそんなに嫌じゃないって思ったし……」
「テメー、それ以前に俺に聞いてねえだろうがよ」
「………えっと……それは………」
「言って……ない……イヴァンちゃんが……可哀想だ……」
「ちゃんづけすんじゃねーよ!」
ルキーノ家のピクニック会場には現在、地べたに頭を擦りつけてひたすら謝罪するカポの姿があったりする。時折ソファーに移動したベルナルドとルキーノに助けを求めるように目線を送ってくるが、ここはジャンの成長のためにも無視をしておくべきだろう。
話を聞いてみれば何のことはない、ジャンが勝手にイヴァンの貸し出しを請け負っていたのだ。
ピロータ氏が新規にホテルを開業するとのことで、人材活用や育成に関して目が届かない部分でイヴァンを貸して欲しいとジャンに話があったらしい。組織も落ち着いてきているし、なによりイヴァンの今後の成長や人脈形成のためにもなる。そう判断してピロータ氏に先にOKをだし、さてイヴァンを説得しようかと思った矢先に先にジュリオにバレて。
先手を打ったジュリオがイヴァンを連れて駆け落ちに至ったわけだ。
カポとしては間違っていないが、だがイヴァンとジュリオを公私にわたってのパートナーとしている人間としては失策というべき判断。彼らを自分の家族だとするのなら、先に相談すべきだったのだ。その結果がないがしろにされたこととイヴァンが離れていくことに怒ったジュリオと、さすがにそういう決断には当の本人として意見は言いたかったイヴァンになってしまったのである。
だがこれはジャンにとっていい経験になるだろう。
カポとして大きな家族をまとめるための決断、小さな家族の家長として家族を守る為にすべきこと。どちらを優先するかではない、その両方を幸福にするために考えなければいけないのだ、今の彼は。
その分筆頭幹部とはいえ自分は気楽でいい。
自分の肩を抱き、時折キスをせがんでくる男のことだけを考えていればいいのだから。
「ジャンも大人になったな……いいことだ」
「無理矢理大人にしたのはお前のような気もするんだがな」
「ジャンが昔自分で言ったんだ、お兄ちゃんなのになにもしてやれてないと……な。ならば今してやればいいだろう?」
「甘やかしているように見えて、手厳しい教育係だな」
「お前には常に甘いつもりだが?」
「これからベッドの中で甘やかしてくれてもいいが、どうする?」
「お子様には刺激が強い」
「それもそうだな」
笑い混じりに顔を寄せ合いキスを繰り返す。
あの二人も中身はまだまだ子供の部分もあるが一応は酸いも甘いもかみ分けた大人である。もう少しジャンが困ったりオロオロしたり、心底反省した姿を見せれば気持ちも変わるだろう。
時計を見ればそろそろ昼食の時間。
一度食事にしてあの三人の気持ちを軟化させるべきだろう、そう判断してルキーノにそっと耳打ちすると、それを見越していたかのように更にルキーノからいくつかの提案がなされた。
それに同意し、準備するためにさりげなく互いに立ち上がりながら地べたに座ったままの年少組を観察すると、ひたすら情けない顔をしているジャン以外の二人は余裕のある顔で時折目配せしながら微笑みあっている。
何があっても、どんなことでも許しあえる。
そういうところは恋人と言うより家族に近いんだなと思いつつ、ベルナルドは昼食の準備をルキーノに任せて自分の仕事を行うためにそっとその場を離れた。
PM 13:37 そして喜劇のお返しに
誰も気がついてなかったが、どうやらルキーノは相当お怒りだったらしい。
まあ夜遅くにいきなり駆け落ちの場所として家を占拠され、ついでに恋人の誕生日だというのに家に閉じ込められてしまっていたら腹が立つのはわかるが。
いくら何でもこれはひどすぎる気がする。
「み、水~!」
とジャンが叫んでも、その場にあるのは何故か思いっきり暖められた辛く味付けした肉団子入りのスープだけ。あまりの辛さに悶絶しながら床をごろごろと転げ回る年若い三人を見ながら、ベルナルドは優しい味わいがじんわりと胃に染みこんでいく、薄切りのパンチェッタを上に散らしたリゾットをゆっくりと口に運んでいた。
作りたてのリゾットは舌がやけどする程熱く、さすがに一気に口に入れることが出来ない。
トマトベースの味付けと米とスープに溶け込んだチーズの味わい。そしてベルナルドの体のことを考えてくれたのだろう、柔らかく煮込んだ野菜が濃い味に慣れた舌を優しく労ってくれる。
ズッキーニとブロッコリーの茎だろうか、赤いスープに緑の色合いが色鮮やかに踊っている。ちなみに今床で悶絶している年下組のリゾットには、普通の野菜の代わりにハラペーニョを刻んだ上に赤タバスコを嫌になるほど投入しているらしい。
「おい! ジュリオがうごかね~!」
「死ぬな、ジュリオ! 今日のベルナルドの誕生日にはデカいケーキ注文してあるんだからな、お前がいなかったら誰が全部食ってくれんだよ!」
「………………………………ケ、ケーキ………………」
全部食べなければ今回の件の損害請求を100倍にして計上する、被害者であるルキーノの言葉に泣きながら食べ始めた三人だったが、甘党のジュリオには地獄の審判を受けるよりも厳しい罰だったらしい。
全身から汗を吹き出しながら床に倒れ伏してけいれんする姿を見ていると、少しくらいは手伝ってやろうかなと考えたのだが。
「お前は絶対に食うなよ」
いつの間にか後ろにいたルキーノに止められた。
「いやあれは……さすがに可哀想じゃないかと」
「そんなに辛い物が食いたいっていうんだったら、俺のお姫様にはこんな物を用意してきたが」
「誰がお姫様だ………ああ、これはいいな」
後ろから差し出されたトレイには、皿にのったハラペーニョのピクルスと生ハム、そして日の光を受けて蜂蜜色に輝く白ワインの入ったグラスだった。
後ろを見てみれば、いつもはしっかりと着込んでいるシャツの前を軽く開き、腰にはシンプルなエプロンを身につけ。飲食店でウェイターでもさせたくなるようなぴしりとした姿勢で、ベルナルドの言葉を待っている赤毛の男がいる。
今日一日は忠実な従僕として奉仕してくれるということなのだろう。
「さてお姫様、他にご注文は?」
「そうだな、お姫様には王子様が必要だと思わないか……隣に」
「酒に酔うとろくでもないことを言う王子でよければ付き合わせてもらうが」
「まさか今年も酒で失敗する気はないだろう? それに去年のあれは、俺たちが越えなきゃいけない壁だった……そう思う事しようじゃないか」
ルキーノの視線がワイングラスとベルナルドの顔を何度か往復する。
去年の失敗が身にしみているのだろうが、ベルナルドとしてはこれだけ反省してくれていればもう何も言うことはない。
指を唇に当て軽く投げキッスを送り、おいでとでも言うかのように手招きすると、ルキーノの瞳から惑いの色が完全に消え去った。
「……もう1個、グラスが必要だな」
まだ床で転げ回っているジャンたちを見ることもなく、ルキーノはキッチンへと優雅に歩み去っていった。
PM 15:41 思案してはみるが
確か自分はここにジュリオとイヴァンを説得しに来たはずだというのに。
「今日は暑いな……少し脱いだらどうだ?」
「こら、いきなりボタンを外す奴がどこにいる」
「今日は主役だってのに、汗まみれでパーティに行くつもりか。洗って欲しいなら、丁寧に時間をかけて洗ってやるがな」
「お前に洗ってもらったら、体がいくつあっても足りないな」
それはもうべたべたいちゃいちゃと。
最初はからかっていたイヴァンですら顔を背け、ジュリオの背に隠れて出来るだけこの光景を見ないようにしていた。床に敷いた敷物に座る年下組と、それを上から見下ろしながら周囲の人間の体感温度が上がるくらいに密着している年上組。
いくら最年長者の誕生日とはいえ、自分たちが完全な負け組に成り下がっている状況にジャンは戦慄を感じずにはいられなかった。
先程の激辛を通り越して殺人的な昼食のせいで、こういう時に場の雰囲気を破壊してくれそうなジュリオは完全にダウンしてしまっている。うつろな目で足をぺたんと床に投げ出して座り、下手したら泣き出しそうな程目を見開いているのだから、こういう場合はそっとしておいた方がいいだろう。
なので、まだ正気を保っている方へとりあえずの休戦協定を持ちかけてみる。
「なあイヴァン……ベルナルドの誕生日パーティ、始まるのいつだったっけ?」
「7時だろうが、お前のうすらトンカチな頭はそんな大事なことまで忘れちまうのかよ」
「いやさ、このままここにいるのまずくないか?」
「オレら一応駆け落ち中……って事になってるからよ」
「そもそも騙されたにしても、お前なんでジュリオの言うこと聞いてるわけ?」
「テメーがオレに聞かずにオレの事を勝手に決めちまったからだろ?」
ぷいとイヴァンが顔を背ける。
それは確かに悪かったし、その思いも伝えたはずだというのに何故イヴァンはまだ怒っているのだろうか。それを聞こうとイヴァンに更に顔を寄せようとすると、大きな掌が二人の顔の間に指し込まれた。
「…………まだ……駆け落ち中……」
「ジュリオ~ そろそろ機嫌直せよ」
「……謝って……ない」
「謝ったろ、さっき」
「違う…………俺じゃ……ない…………イヴァン……に」
「いや、俺はお前らに謝って…………っ!」
確かに二人に勝手に決めて悪かったとは謝った。
大事な家族である二人には、今度から『家族』の一大事はちゃんと話し合って決めると。
だが『部下』としてのイヴァンには?
その事実に気がつき、改めてイヴァンを見る。
「ようやく気がついたか」
にやにやと、だがジャンの気づきを褒めるかのように眼を細め。
清々しい顔で笑うイヴァンを見た瞬間、ジャンの中で何かが始めた。
「イヴァン! 俺が悪かった、俺たちCR-5だもんな、5人で一つなのに勝手にお前をレンタル移籍なんて考えて……すまなかった! 許してくれ!」
「謝罪しながら部下に抱きつくのがテメーの礼儀かよ!」
ジュリオの手を押しのけ、無理矢理イヴァンを抱き寄せ約一日ぶりで彼の体の温かさを味わう。じたばたと暴れる体を押さえ込み、すりすりと頬ずりを繰り返していると、ジュリオがくっついている二人ごと抱きくるもうと手を伸ばしてきた。
「……………俺も」
肉団子のようにくっつき会いながら、ピロータ氏にどう謝罪すべきか考え始めながら。自分はこのぬくもりを短期間だが手放そうとしてしまっていたということに、改めて恐怖を感じるジャンであった。
PM 17:52 気がつくのが遅かった重大な事実
三人が本当の意味で仲直りしたのを見届けてから、のんびりルキーノとシャワーを浴びた。あと数時間で自分の誕生日パーティが始まるのだ、まさか祝われる側が汗まみれで会場に現れるわけにはいかないだろう。
ルキーノに頭を拭いてもらいながらダイニングルームに戻ると、今度は先程とは別の賑やかさがその場を支配していた。賑やかというよりは、悲鳴といった方がいいかもしれない。
「どうすんだよ、この甲斐性なし!」
「甲斐性があるか無いかじゃないだろこの場合は! これから準備かよ……着替えなんて持ってきてないよな、当然」
「駆け落ちに……荷物はいらないと………」
「誰だよ、テメーにそんな事吹き込んだのは!」
「ロザーリア……」
動き回れば事態が解決する訳じゃないのだが、いくら成長したといっても予想外の事態に彼らは相変わらず弱い。やッパリ先に準備をして置いて良かったと思いながら、床の上でごろごろと転がる年少組に声をかけてやる。
「あのなお前たち……」
「どうせ腹黒メガネは準備してあんだろ?」
「用意周到だもんな……こういう時」
「…………俺の……ケーキ……」
一人だけ論点がずれているが、それは気にしないことにしておく。
「まあそう言われてもしょうがないかもしれないが……お前たちの分も用意してあるから安心しろ」
「「「え???」」」
三人の声が綺麗に揃い、おまけに首まで同じ角度と方向に傾けられていた。
こういう所では息が合ってきたなと思いながら、今朝ルキーノと相談して先に準備して置いたことについて彼らに教えてやることにした。後ろからルキーノに甘やかしすぎだ、もう少し慌てさせてから話してやれと言われたが、見た瞬間に可哀想になってしまったのだ。
特にジャンが。
「昨日の夜の段階で、お前たちの分の礼服も用意してもらってここに届けてもらうように連絡してある。6時きっかりにと言ってあるから……それから準備して移動で20分、余裕を持って間に合うはずだ」
「ベルナルド……俺たちのために……」
「もうこういう行き当たりばったりの口約束や駆け落ちは止めてくれ、今回は俺も楽しませてもらったからいいが、毎回こんな調子でトラブルばかり引き起こされたら俺の前髪が本気で無くなってしまうぞ」
「…………それならルキーノのまえが……」
何かを言おうとしたジュリオの口が、イヴァンとジャンの手によって塞がれている。
後ろからルキーノの口からとんでもない罵倒の言葉が聞こえた気がしたが、それは聞いていないことにして、ベルナルドは自分が作ることの出来る最上級の笑顔をルキーノでも見ることが出来る角度に調整して浮かべることに終始した。
「さ、お前たちもシャワーを浴びてくることだな。せっかくの俺の誕生日だ、いい笑顔で仲良く……そう仲良く祝ってくれよ」
PM 18:55 そして宴の始まりに
昨年の彼の誕生日の事はほとんど覚えていない。
自分の誕生日は何故か乱入してきた年下組と共にそれはもう盛大に祝われたのだが、彼の誕生日に自分がしたことは彼を大きく傷つけることだった。おまけにそれを覚えていないという事が、人生の中でも最大の汚点となってしまったのだが。
そして今年の誕生日、彼は少しでも楽しんでくれただろうか。
今回のパーティの主役として、最後まで自分の身なりのチェックに余念がない彼にそっと近づき、そのことについて聞こうとすると彼の方から自分に言葉を向けてきた。
それも、一番欲しかった言葉を。
「今年は……いい誕生日だったな」
「ずっと俺の家で俺の料理を食って、それにあいつらが大騒ぎしてたのにか?」
「何を言うかと思えば」
眼鏡の奥で細められる瞳からは、わずかの偽りや虚勢も感じられない。
長く細い指でルキーノの額をつつくと、ベルナルドは心底楽しそうにくくっと笑い声を上げた。
そして口元に当てられている指には、赤く輝く指輪。
「ベルナルド……」
「今日くらいはいいだろう?」
「俺としては大歓迎だがな」
「お前みたいにいつもつけられないから、こういう時くらいはな。誰かに追求されたら、当然お前が庇ってくれるだろうし」
「当たり前だ。お前の評判にわずかの傷もつけさせはしないさ」
自分に全幅の信頼を置き、素直に心を委ねてくれる。
男として最上級の名誉を与えられ、ルキーノはこの場でベルナルドを抱きしめて愛の言葉を耳に吹き込んでやりたかったが。
「あれ、ジュリオは?」
「入り口で知り合いのジジイ連中に捕まってたぜ」
「ケーキつまみ食いさせてやろうと思ったんだけどな……」
「あのヤロウに食わせたら、始まる前にケーキが無くなっちまうだろうが」
「それもそうか」
すぐ側でイヴァンとジャンが世間話をしているものだから、それもできそうにない。
7時きっかりにパーティを始めるのだから、それまでは幹部は控え室で待機していろと言ったのは数日前自分だったが、まさかこんな目に遭うことになるとは。
ベルナルドが焦らしているわけでもないのに、つい恨みがましげに彼を見つめてしまうと。
「今日はこれで勘弁しろ」
そんな小さなささやきと共に、大きくベルナルドの体が傾いだ。
「ベルナルド!」
慌てて近寄ってこようとするジャンをふらりと上げた腕で押しとどめ、ベルナルドは一番近くにいた自分の肩へと掴まり。
「ちょっと目眩がしただけだ……涼しいところにルキーノに連れて行ってもらうよ……俺がいなくて悪いが、時間厳守だ。先に始めていてくれ」
「本当に大丈夫か?」
「どこぞのカポが俺に迷惑をかけてくれたのでね、ちょっと疲れただけだよ」
これを言われたらもうジャンは黙るしかない。
かくして長い髪で笑顔を隠したベルナルドは、ルキーノに体を押しつけると更に小さい声で厳粛な命令を下してきた。
「勿論、俺の体が良くなるまで側にいてくれるよな?」
仰せのままに、そう答えたルキーノがベルナルドを安心して休める場所へと連れて行ったことは言うまでもない。
・ということで、ベルナルド誕生日まとめでした。
誤字脱字ひどいんですが、直す気力がないのでこのままで……今回のMVPは頑張って駆け落ちしてくれたジュリオさんに、5月の新刊でみっしさんが書いたパートのとある台詞が好きで好きで大好きで、それがこんな話を書かせてくれました。
あ~面白かった!
BGM「サクラサクミライコイユメ」 by yozuca*
「おい年寄りメガネ、マスタード取ってくれよ」
「年寄りをこき使うとは若者の風上にも置けない奴だな……ほら、ついでに冷蔵庫からトマトジュースを取ってきてくれ、お前が一番近いからな」
「ジジイをこれ以上働かせんのも可哀想な話だな……っと、おいジュリオ、ホットドッグに砂糖かけんじゃねーよ!」
「あましょっぱい……おいしい……」
「ソーセージに蜂蜜はやる人がいるがな、砂糖はさすがに……」
「今度は……蜂蜜にする……おかわり」
「おかわりかよ!」
泣く子も黙るマフィアCR-5の幹部連中は、何故かダイニングにピクニック用のシートを敷き楽しい朝食時間を演出していた。実際の所はソファーで食べようとしたらルキーノにお前らなら確実に汚す(特にジュリオ)から、ここで食えと場所を提供されただけなのだが。
しかしこれが中々楽しかった。
昨日若者二人が散々食い荒らしてしまっていたが、寝ている間にルキーノが配達してもらっていたらしい。2~3日は籠城できる位の食物の山に喜んだのは、ジュリオだけだった。
駆け落ちの意味も微妙にずれているが、喜ぶポイントもずれまくっている。
まあそれはいいとして、一晩ゆっくりルキーノの腕枕で眠らせてもらったらかなり体調も気持ちもすっきりした。今日の仕事の指示をすると言うことで今はこの場を離れているルキーノも、一番最初に誕生日を祝えたと言うことで今日は朝から上機嫌だったし、新しい一年の始まりとしてこの状況は面白すぎる。
こういう誕生日も面白いものだなと思いながら、ルキーノがわざわざ作ってくれたスモークサーモンとレタスのサンドイッチをゆっくりのんびり口に運ぶ。誕生日のケーキやら何やらはどうせ今日の夜のパーティで食べられるのだ。
軽くてあっさりとして、ついでにいい食べっぷりの二人をおかずに食べられる状況は中々楽しかった。
「おい開けろって! もう駆け落ちなんてやめて、さっさと帰って来いよ~!」
と玄関のドアを叩く音がずっと耳に聞こえ続けてさえいなければ。
「…………なあイヴァン、いいのかあれは?」
「俺も最初はこのヤロウに騙されて連れてこられちまったけどよ……さすがにあれはねーだろ」
「ま、まあな……」
泣きそうな声は、女房に逃げられて未練たらしく追ってくる旦那の如し。
せめて中に入れてやらないとルキーノの世間体とかCR-5のボスの品位とかが色々と追求されそうなので、さっさと中に入れてやった方がいいだろう。
それを当の駆け落ち中の本人たちに提案してみると、
「別に……ジャンが反省してくれる……なら………イヴァン………おかわり」
「まだ食うのかよ、しょうがねえな。オレはそーだな……別にかまわねーけどよ、ちょっと条件はつけさせてもらいたい」
「条件」
「駆け落ち……だったけか? このヤロウがなんでそうしたかは聞いちまったからな、オレとしても一言言ってやりたいけど……一応駆け落ち中だかんな」
にやっと笑ってイヴァンがジュリオの耳に囁き、それを聞いて顔を輝かせたジュリオが何度も頷くのを見ながら、ベルナルドは大変なことに気がついてしまった。
イヴァンの奴、この状況で遊んでやがる。
まあ確かに半ば騙された形で連れてこられて、ついでにこの状況である。誕生日を祝うべき相手はすぐ目の前にいるし、今日は大して大きな仕事もない。ここで状況を見ながら遊んでいた方がイヴァンにとっては楽しい事態になるということだ。
まあ彼のことだ、遊んでいるように見せかけて本当の目的は隠しきっているのだろうが。
相も変わらずぺたぺたと体を触れ合わせながら仲睦まじく過ごしている二人を見ながら、とりあえず玄関の鍵を開けてやろうとベルナルドは立ち上がりながら思っていた。
AM 11:33 逃げられた旦那の哀れさを観察する
「いや、俺が安請け合いしたのは悪かったから、それは認める。でも駆け落ちはないだろう!?」
「………イヴァンちゃんは……物じゃない………」
「将来のためになると思ったしさ、イヴァンだってそんなに嫌じゃないって思ったし……」
「テメー、それ以前に俺に聞いてねえだろうがよ」
「………えっと……それは………」
「言って……ない……イヴァンちゃんが……可哀想だ……」
「ちゃんづけすんじゃねーよ!」
ルキーノ家のピクニック会場には現在、地べたに頭を擦りつけてひたすら謝罪するカポの姿があったりする。時折ソファーに移動したベルナルドとルキーノに助けを求めるように目線を送ってくるが、ここはジャンの成長のためにも無視をしておくべきだろう。
話を聞いてみれば何のことはない、ジャンが勝手にイヴァンの貸し出しを請け負っていたのだ。
ピロータ氏が新規にホテルを開業するとのことで、人材活用や育成に関して目が届かない部分でイヴァンを貸して欲しいとジャンに話があったらしい。組織も落ち着いてきているし、なによりイヴァンの今後の成長や人脈形成のためにもなる。そう判断してピロータ氏に先にOKをだし、さてイヴァンを説得しようかと思った矢先に先にジュリオにバレて。
先手を打ったジュリオがイヴァンを連れて駆け落ちに至ったわけだ。
カポとしては間違っていないが、だがイヴァンとジュリオを公私にわたってのパートナーとしている人間としては失策というべき判断。彼らを自分の家族だとするのなら、先に相談すべきだったのだ。その結果がないがしろにされたこととイヴァンが離れていくことに怒ったジュリオと、さすがにそういう決断には当の本人として意見は言いたかったイヴァンになってしまったのである。
だがこれはジャンにとっていい経験になるだろう。
カポとして大きな家族をまとめるための決断、小さな家族の家長として家族を守る為にすべきこと。どちらを優先するかではない、その両方を幸福にするために考えなければいけないのだ、今の彼は。
その分筆頭幹部とはいえ自分は気楽でいい。
自分の肩を抱き、時折キスをせがんでくる男のことだけを考えていればいいのだから。
「ジャンも大人になったな……いいことだ」
「無理矢理大人にしたのはお前のような気もするんだがな」
「ジャンが昔自分で言ったんだ、お兄ちゃんなのになにもしてやれてないと……な。ならば今してやればいいだろう?」
「甘やかしているように見えて、手厳しい教育係だな」
「お前には常に甘いつもりだが?」
「これからベッドの中で甘やかしてくれてもいいが、どうする?」
「お子様には刺激が強い」
「それもそうだな」
笑い混じりに顔を寄せ合いキスを繰り返す。
あの二人も中身はまだまだ子供の部分もあるが一応は酸いも甘いもかみ分けた大人である。もう少しジャンが困ったりオロオロしたり、心底反省した姿を見せれば気持ちも変わるだろう。
時計を見ればそろそろ昼食の時間。
一度食事にしてあの三人の気持ちを軟化させるべきだろう、そう判断してルキーノにそっと耳打ちすると、それを見越していたかのように更にルキーノからいくつかの提案がなされた。
それに同意し、準備するためにさりげなく互いに立ち上がりながら地べたに座ったままの年少組を観察すると、ひたすら情けない顔をしているジャン以外の二人は余裕のある顔で時折目配せしながら微笑みあっている。
何があっても、どんなことでも許しあえる。
そういうところは恋人と言うより家族に近いんだなと思いつつ、ベルナルドは昼食の準備をルキーノに任せて自分の仕事を行うためにそっとその場を離れた。
PM 13:37 そして喜劇のお返しに
誰も気がついてなかったが、どうやらルキーノは相当お怒りだったらしい。
まあ夜遅くにいきなり駆け落ちの場所として家を占拠され、ついでに恋人の誕生日だというのに家に閉じ込められてしまっていたら腹が立つのはわかるが。
いくら何でもこれはひどすぎる気がする。
「み、水~!」
とジャンが叫んでも、その場にあるのは何故か思いっきり暖められた辛く味付けした肉団子入りのスープだけ。あまりの辛さに悶絶しながら床をごろごろと転げ回る年若い三人を見ながら、ベルナルドは優しい味わいがじんわりと胃に染みこんでいく、薄切りのパンチェッタを上に散らしたリゾットをゆっくりと口に運んでいた。
作りたてのリゾットは舌がやけどする程熱く、さすがに一気に口に入れることが出来ない。
トマトベースの味付けと米とスープに溶け込んだチーズの味わい。そしてベルナルドの体のことを考えてくれたのだろう、柔らかく煮込んだ野菜が濃い味に慣れた舌を優しく労ってくれる。
ズッキーニとブロッコリーの茎だろうか、赤いスープに緑の色合いが色鮮やかに踊っている。ちなみに今床で悶絶している年下組のリゾットには、普通の野菜の代わりにハラペーニョを刻んだ上に赤タバスコを嫌になるほど投入しているらしい。
「おい! ジュリオがうごかね~!」
「死ぬな、ジュリオ! 今日のベルナルドの誕生日にはデカいケーキ注文してあるんだからな、お前がいなかったら誰が全部食ってくれんだよ!」
「………………………………ケ、ケーキ………………」
全部食べなければ今回の件の損害請求を100倍にして計上する、被害者であるルキーノの言葉に泣きながら食べ始めた三人だったが、甘党のジュリオには地獄の審判を受けるよりも厳しい罰だったらしい。
全身から汗を吹き出しながら床に倒れ伏してけいれんする姿を見ていると、少しくらいは手伝ってやろうかなと考えたのだが。
「お前は絶対に食うなよ」
いつの間にか後ろにいたルキーノに止められた。
「いやあれは……さすがに可哀想じゃないかと」
「そんなに辛い物が食いたいっていうんだったら、俺のお姫様にはこんな物を用意してきたが」
「誰がお姫様だ………ああ、これはいいな」
後ろから差し出されたトレイには、皿にのったハラペーニョのピクルスと生ハム、そして日の光を受けて蜂蜜色に輝く白ワインの入ったグラスだった。
後ろを見てみれば、いつもはしっかりと着込んでいるシャツの前を軽く開き、腰にはシンプルなエプロンを身につけ。飲食店でウェイターでもさせたくなるようなぴしりとした姿勢で、ベルナルドの言葉を待っている赤毛の男がいる。
今日一日は忠実な従僕として奉仕してくれるということなのだろう。
「さてお姫様、他にご注文は?」
「そうだな、お姫様には王子様が必要だと思わないか……隣に」
「酒に酔うとろくでもないことを言う王子でよければ付き合わせてもらうが」
「まさか今年も酒で失敗する気はないだろう? それに去年のあれは、俺たちが越えなきゃいけない壁だった……そう思う事しようじゃないか」
ルキーノの視線がワイングラスとベルナルドの顔を何度か往復する。
去年の失敗が身にしみているのだろうが、ベルナルドとしてはこれだけ反省してくれていればもう何も言うことはない。
指を唇に当て軽く投げキッスを送り、おいでとでも言うかのように手招きすると、ルキーノの瞳から惑いの色が完全に消え去った。
「……もう1個、グラスが必要だな」
まだ床で転げ回っているジャンたちを見ることもなく、ルキーノはキッチンへと優雅に歩み去っていった。
PM 15:41 思案してはみるが
確か自分はここにジュリオとイヴァンを説得しに来たはずだというのに。
「今日は暑いな……少し脱いだらどうだ?」
「こら、いきなりボタンを外す奴がどこにいる」
「今日は主役だってのに、汗まみれでパーティに行くつもりか。洗って欲しいなら、丁寧に時間をかけて洗ってやるがな」
「お前に洗ってもらったら、体がいくつあっても足りないな」
それはもうべたべたいちゃいちゃと。
最初はからかっていたイヴァンですら顔を背け、ジュリオの背に隠れて出来るだけこの光景を見ないようにしていた。床に敷いた敷物に座る年下組と、それを上から見下ろしながら周囲の人間の体感温度が上がるくらいに密着している年上組。
いくら最年長者の誕生日とはいえ、自分たちが完全な負け組に成り下がっている状況にジャンは戦慄を感じずにはいられなかった。
先程の激辛を通り越して殺人的な昼食のせいで、こういう時に場の雰囲気を破壊してくれそうなジュリオは完全にダウンしてしまっている。うつろな目で足をぺたんと床に投げ出して座り、下手したら泣き出しそうな程目を見開いているのだから、こういう場合はそっとしておいた方がいいだろう。
なので、まだ正気を保っている方へとりあえずの休戦協定を持ちかけてみる。
「なあイヴァン……ベルナルドの誕生日パーティ、始まるのいつだったっけ?」
「7時だろうが、お前のうすらトンカチな頭はそんな大事なことまで忘れちまうのかよ」
「いやさ、このままここにいるのまずくないか?」
「オレら一応駆け落ち中……って事になってるからよ」
「そもそも騙されたにしても、お前なんでジュリオの言うこと聞いてるわけ?」
「テメーがオレに聞かずにオレの事を勝手に決めちまったからだろ?」
ぷいとイヴァンが顔を背ける。
それは確かに悪かったし、その思いも伝えたはずだというのに何故イヴァンはまだ怒っているのだろうか。それを聞こうとイヴァンに更に顔を寄せようとすると、大きな掌が二人の顔の間に指し込まれた。
「…………まだ……駆け落ち中……」
「ジュリオ~ そろそろ機嫌直せよ」
「……謝って……ない」
「謝ったろ、さっき」
「違う…………俺じゃ……ない…………イヴァン……に」
「いや、俺はお前らに謝って…………っ!」
確かに二人に勝手に決めて悪かったとは謝った。
大事な家族である二人には、今度から『家族』の一大事はちゃんと話し合って決めると。
だが『部下』としてのイヴァンには?
その事実に気がつき、改めてイヴァンを見る。
「ようやく気がついたか」
にやにやと、だがジャンの気づきを褒めるかのように眼を細め。
清々しい顔で笑うイヴァンを見た瞬間、ジャンの中で何かが始めた。
「イヴァン! 俺が悪かった、俺たちCR-5だもんな、5人で一つなのに勝手にお前をレンタル移籍なんて考えて……すまなかった! 許してくれ!」
「謝罪しながら部下に抱きつくのがテメーの礼儀かよ!」
ジュリオの手を押しのけ、無理矢理イヴァンを抱き寄せ約一日ぶりで彼の体の温かさを味わう。じたばたと暴れる体を押さえ込み、すりすりと頬ずりを繰り返していると、ジュリオがくっついている二人ごと抱きくるもうと手を伸ばしてきた。
「……………俺も」
肉団子のようにくっつき会いながら、ピロータ氏にどう謝罪すべきか考え始めながら。自分はこのぬくもりを短期間だが手放そうとしてしまっていたということに、改めて恐怖を感じるジャンであった。
PM 17:52 気がつくのが遅かった重大な事実
三人が本当の意味で仲直りしたのを見届けてから、のんびりルキーノとシャワーを浴びた。あと数時間で自分の誕生日パーティが始まるのだ、まさか祝われる側が汗まみれで会場に現れるわけにはいかないだろう。
ルキーノに頭を拭いてもらいながらダイニングルームに戻ると、今度は先程とは別の賑やかさがその場を支配していた。賑やかというよりは、悲鳴といった方がいいかもしれない。
「どうすんだよ、この甲斐性なし!」
「甲斐性があるか無いかじゃないだろこの場合は! これから準備かよ……着替えなんて持ってきてないよな、当然」
「駆け落ちに……荷物はいらないと………」
「誰だよ、テメーにそんな事吹き込んだのは!」
「ロザーリア……」
動き回れば事態が解決する訳じゃないのだが、いくら成長したといっても予想外の事態に彼らは相変わらず弱い。やッパリ先に準備をして置いて良かったと思いながら、床の上でごろごろと転がる年少組に声をかけてやる。
「あのなお前たち……」
「どうせ腹黒メガネは準備してあんだろ?」
「用意周到だもんな……こういう時」
「…………俺の……ケーキ……」
一人だけ論点がずれているが、それは気にしないことにしておく。
「まあそう言われてもしょうがないかもしれないが……お前たちの分も用意してあるから安心しろ」
「「「え???」」」
三人の声が綺麗に揃い、おまけに首まで同じ角度と方向に傾けられていた。
こういう所では息が合ってきたなと思いながら、今朝ルキーノと相談して先に準備して置いたことについて彼らに教えてやることにした。後ろからルキーノに甘やかしすぎだ、もう少し慌てさせてから話してやれと言われたが、見た瞬間に可哀想になってしまったのだ。
特にジャンが。
「昨日の夜の段階で、お前たちの分の礼服も用意してもらってここに届けてもらうように連絡してある。6時きっかりにと言ってあるから……それから準備して移動で20分、余裕を持って間に合うはずだ」
「ベルナルド……俺たちのために……」
「もうこういう行き当たりばったりの口約束や駆け落ちは止めてくれ、今回は俺も楽しませてもらったからいいが、毎回こんな調子でトラブルばかり引き起こされたら俺の前髪が本気で無くなってしまうぞ」
「…………それならルキーノのまえが……」
何かを言おうとしたジュリオの口が、イヴァンとジャンの手によって塞がれている。
後ろからルキーノの口からとんでもない罵倒の言葉が聞こえた気がしたが、それは聞いていないことにして、ベルナルドは自分が作ることの出来る最上級の笑顔をルキーノでも見ることが出来る角度に調整して浮かべることに終始した。
「さ、お前たちもシャワーを浴びてくることだな。せっかくの俺の誕生日だ、いい笑顔で仲良く……そう仲良く祝ってくれよ」
PM 18:55 そして宴の始まりに
昨年の彼の誕生日の事はほとんど覚えていない。
自分の誕生日は何故か乱入してきた年下組と共にそれはもう盛大に祝われたのだが、彼の誕生日に自分がしたことは彼を大きく傷つけることだった。おまけにそれを覚えていないという事が、人生の中でも最大の汚点となってしまったのだが。
そして今年の誕生日、彼は少しでも楽しんでくれただろうか。
今回のパーティの主役として、最後まで自分の身なりのチェックに余念がない彼にそっと近づき、そのことについて聞こうとすると彼の方から自分に言葉を向けてきた。
それも、一番欲しかった言葉を。
「今年は……いい誕生日だったな」
「ずっと俺の家で俺の料理を食って、それにあいつらが大騒ぎしてたのにか?」
「何を言うかと思えば」
眼鏡の奥で細められる瞳からは、わずかの偽りや虚勢も感じられない。
長く細い指でルキーノの額をつつくと、ベルナルドは心底楽しそうにくくっと笑い声を上げた。
そして口元に当てられている指には、赤く輝く指輪。
「ベルナルド……」
「今日くらいはいいだろう?」
「俺としては大歓迎だがな」
「お前みたいにいつもつけられないから、こういう時くらいはな。誰かに追求されたら、当然お前が庇ってくれるだろうし」
「当たり前だ。お前の評判にわずかの傷もつけさせはしないさ」
自分に全幅の信頼を置き、素直に心を委ねてくれる。
男として最上級の名誉を与えられ、ルキーノはこの場でベルナルドを抱きしめて愛の言葉を耳に吹き込んでやりたかったが。
「あれ、ジュリオは?」
「入り口で知り合いのジジイ連中に捕まってたぜ」
「ケーキつまみ食いさせてやろうと思ったんだけどな……」
「あのヤロウに食わせたら、始まる前にケーキが無くなっちまうだろうが」
「それもそうか」
すぐ側でイヴァンとジャンが世間話をしているものだから、それもできそうにない。
7時きっかりにパーティを始めるのだから、それまでは幹部は控え室で待機していろと言ったのは数日前自分だったが、まさかこんな目に遭うことになるとは。
ベルナルドが焦らしているわけでもないのに、つい恨みがましげに彼を見つめてしまうと。
「今日はこれで勘弁しろ」
そんな小さなささやきと共に、大きくベルナルドの体が傾いだ。
「ベルナルド!」
慌てて近寄ってこようとするジャンをふらりと上げた腕で押しとどめ、ベルナルドは一番近くにいた自分の肩へと掴まり。
「ちょっと目眩がしただけだ……涼しいところにルキーノに連れて行ってもらうよ……俺がいなくて悪いが、時間厳守だ。先に始めていてくれ」
「本当に大丈夫か?」
「どこぞのカポが俺に迷惑をかけてくれたのでね、ちょっと疲れただけだよ」
これを言われたらもうジャンは黙るしかない。
かくして長い髪で笑顔を隠したベルナルドは、ルキーノに体を押しつけると更に小さい声で厳粛な命令を下してきた。
「勿論、俺の体が良くなるまで側にいてくれるよな?」
仰せのままに、そう答えたルキーノがベルナルドを安心して休める場所へと連れて行ったことは言うまでもない。
・ということで、ベルナルド誕生日まとめでした。
誤字脱字ひどいんですが、直す気力がないのでこのままで……今回のMVPは頑張って駆け落ちしてくれたジュリオさんに、5月の新刊でみっしさんが書いたパートのとある台詞が好きで好きで大好きで、それがこんな話を書かせてくれました。
あ~面白かった!
BGM「サクラサクミライコイユメ」 by yozuca*
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色々説明
拍手現在豊臣家転生パロ中学生編入ってます
(現在2本 家三 チカナリです)
注意事項
・フリーリンクじゃないです、基本的にはリンクはお断りしています
・ひっそりこっそりが信条なので、黙々と
・捏造、not公式のこばなしが多いので、スルー推奨
ラキドでは幹部全員を溺愛しておりますが、ベルナルドとイヴァンは特に偏愛。ばさらは家三とか奥州の愉快な仲間達と毛長がメインです。うずみさんが現在官三とか官佐にずっぽりとはまり中。
基本は、愛想のかけらもない「ネット怖い~」の書き手が二人で色々書いている場所です。
書いている人
みっし
・生真面目で堅物でムキムキな男性と一見そうじゃなくても根は真面目極まり ないキャラをこよなく愛している、がんかたうるふの片割れ。編み物とお菓子作りが趣味という、第三者曰く可愛らしい一面を持つ反面、パニクると踊ったり、オロオロしだして周囲は見ていて楽しいらしい。荒ぶる舞は、職場の名物だったりする……らしい。
イヴァンちゃんと片倉さんとシズちゃんとスカイハイさんと陛下を思いっきり愛している。好きなアニメは銀魂と最近はFate/zero。型月ファンというよりは元から虚淵ファンでうずみさんからオススメされまくった末にようやっと手を付けて完読した。ライダー組おいしいです。エクシリアではダントツで陛下が好き。陛下が使用可能になる完全版があるなら複数買いしても構わないとのたまう日々。バサラの好きキャラは片倉さん一強だったはずなのに最近はアニキも熱い。かっちり着込むキャラがすきだったはずなのにいきなり露出度が高いキャラを好きになったのは何故か悩む日々。二次元の向かう愛と同じぐらい甥っ子への愛を叫んでいる気がしてならない。
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うずみ
・相方を愛しすぎている変な人。趣味は畑仕事に漬け物作り、好きな物は不幸属性の美人(男女問わず)。ばさらでは石田さんと黒田さんをこよなく愛していたり、赤い子めんこいにゃぁとたまに叫んでいる。ついったのフォローは下 のアイコンから。
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