こちらはサークル「がんかたうるふ」のうずみとみっしの二人組が、ラッキードッグ1とばさらのこばなしを黙々と投下する場所です。
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鬱々したり、ストレスで胃が痛くなったりしているけど書いてる……書くのが好きで書いていて、それが原因で鬱になって……エンドレスだなあ……
*****
「まだ着かないのか?」
「さっきもそれは聞いただろうが、あと五……いや四里くらいだ」
「貴様はずっとそれしか言わない!」
揺れる馬の上で何度となく行われているそのやりとりに、周囲の大人たちは頬を緩まされ続けていた。官兵衛に昔から付き従っている部下たちは、基本的に佐吉が可愛くて仕方がない。生意気出し口答えもしてくるのだが、人を傷つける言葉を悪意で口にすることはない純粋な少年を誰もが気に入っていたのだ。大阪城を出発してから十数日、馬と船を乗り継いでの旅は佐吉の気力と体力を奪い尽くしていたが。彼らの細かな気配りで、佐吉は倒れることなくここまで来ることができたのだった。
大人でもきつい馬に揺られての旅だ、佐吉が疲れ果てても当然誰も文句は言わないのだが。
できる限り迷惑を掛けたくないと思っている少年が自分の事を足手纏いだと感じない様に、大人たちは気付かれないように色々してきた。それでも今日は馬の上で居眠りをして何度か落馬しそうになっているので、半ば無理矢理官兵衛と同じ馬に乗せられることになったわけだ。
鞍を大きめの物に変え佐吉を前に乗せれば、官兵衛が手綱を握っている限り落馬することはない。おまけに暖かい背もたれに寄りかかり放題なのだ、ある意味大人たちよりも大変だった佐吉にとってそれは素晴らしい褒美になったらしい。自分で手綱を握る必要もなく、官兵衛にいくら甘えても一緒の馬に乗っているという大義名分がある。ついでに言えば佐吉をからかうような人間もここにはいないのだ。幼さの抜けきらない柔らかな頬を紅潮させ、後ろにいる官兵衛を見上げては嬉しそうに笑みを零す。
九州に上陸するまでの間佐吉は本当に色々と頑張ってくれたのだ、いくらでも甘えればいい。
官兵衛はそう思っていたので佐吉の思うがままにさせていたし、今日の夕方までには目的地に着くことができるはず。小さな体で大人たちの役に立とうと動き回る佐吉の姿は官兵衛と部下たちの心を癒してくれたし、大阪城に戻れば誰かに甘えることもできないのだ。
誰かに寄りかかろうが、馬の上で船を漕ごうが。
官兵衛の領地の周辺であれば誰にも怒られないし、誰かに文句を言わせるつもりもない。後ろから抱き止められる様な姿で時折馬の鬣を撫で、物珍しそうに周囲を見回し続けている佐吉。そんな彼の頭を手綱を持ち変える間にさっと撫でてやりながら、官兵衛は口元を笑みで飾る彼に話しかけてやった。
「それにしても……佐吉、お前さんのおかげで助かった」
「もうあんなことはしないからな」
「だが結構似合ってたぜ……あのまま毛利の家にいりゃあよかったのに」
「それだけは断る!」
大阪城から安芸までは馬で移動し、そこから毛利家の船を借りるためと今後の話をするために数日間滞在した。官兵衛にとってそれは九州で行うことの下準備であり、豊臣軍の今後を見据えた交渉。官兵衛が毛利元就との知略を尽くした戦いを行っている間、佐吉は体をゆっくりと休めることができたはずだった。
毛利元就の息子たちに発見されなければ。
一番上の息子ですら佐吉より年下、おまけに揃いも揃ってやんちゃ極まりない。そんな子供たちに囲まれ必然的に『お兄ちゃん』として彼らの面倒を見なければならない立場になってしまった佐吉は、生来の生真面目さ故に元気な子供たちを相手に彼なりの戦を行うことになった訳だ。
自分の子供を可愛がってもらって、気分を害する親はいない。
それによって毛利元就の機嫌が良くなったことで、官兵衛は思うとおりに話を進めることができた。豊臣軍が西の各地へ向けた戦略を進めるためには、安芸という要を押さえている毛利の協力は必要不可欠。そして毛利も安芸を狙う他の国に対抗するために、豊臣の強大な軍事力を必要としているのだ。
そんな思惑を抱え、だが相手を探りあいながらの話し合いを続けている中。子供たちが群れ遊ぶ様は、堅苦しい話に終始しなければならない大人たちの心を和ませてくれたのは事実。そして毛利元就の子供たちが将来この国を継ぐことになるのであれば、幼い頃に遊んでくれた佐吉に対して悪い印象を持つことはないだろう。豊臣軍へのいい印象を毛利家に与え今回の話を終わらせられたことはきっと、今後の軍略の大きな助けになる。
佐吉のおかげで順調すぎるほどに進んだ交渉を元に、九州でも各家と話を付けなければならないが。その全てに官兵衛は佐吉を同行させようと考えていた。
この少年には遠くまでを見通す戦略眼は備わっていない。
その代わりに彼は周囲を見渡し熟考してから自分の行うべき事を実行する、堅実な賢さを持っている。
外交を教え込んでも彼は目先の利益だけを見て物事を決めてしまうだろうが、現実的な利益の計算をすぐに行うことができる人間というのもなかなかに貴重なのだ。半兵衞が目をかけていたもう一人、佐吉の数少ない友人の一人である大谷吉継はきっと佐吉の欠けた部分を補う才の持ち主なのだろう。
突出した一つの才に、それを補う才を寄り添わせる。
半兵衞が目指す未来の豊臣軍が目指す形がそれなのだろうが、官兵衛はそれとは別なことを考えていた。
こんな素直な心を秀吉への狂信で塗りつぶし戦に駆り立てるのか、と。
築城中の官兵衛の本拠地を誰よりも先に発見しようときょろきょろしている素直な佐吉の心を汚してまで、自分は戦を行うことができるのだろうか。彼に会うまでの官兵衛であれば、自分の才能と価値を周囲に知らしめる戦という機会を逃すつもりはなかった。自分の名が天下に轟くことを何よりも喜び、評価してくれる人間が増えることだけを生き甲斐にしてきたはずなのに。
どうしてこの少年は今までの自分を後悔させるてくれるのか。
「…………官兵衛、痛いぞ!」
恨み半分愛しさ半分、そんな気持ちのまま彼の頭をぐりぐりと撫で続けていたのだろう。
頬を膨らませて抗議してくる佐吉の顔を今度は優しく撫でてやろうとすると、
「あれか! あの大きいのだな!」
山の頂上からわずかに天守閣を覗かせる目当ての物を見つけたのだろう。
まるで白鳥の首のように伸びる白く高いそれに歓声を上げ、だがじいっと見続ける佐吉の姿に周囲から大きな笑い声が聞こえ始めたが。
佐吉はもうそれを聞いていなかった。
大阪城とは違う意図と目的を持って作られた城は、当然大阪城とは形も大きさも大きく違う。これからしばらくの間ここで過ごすことになるという事から生まれた興奮よりも、官兵衛の城である中津城の美しさに彼は完全に魅入られていたのだ。
角度によっては大きな湾の中央に建っているかのように見える白壁の巨城。
まだ外側が出来上がったばかりで、官兵衛が意図する完成からはほど遠い。おまけに今日官兵衛たちが寝る部屋もあるかどうかわからない状態。
それでも佐吉はあの城を気に入ってくれる。
男の子というのは見た目が大きくてかっこいい物と、何かを作り上げる現場を見ることが大好きな生き物なのだ。そう、この城に様々な仕掛けを盛り込むために戻ってきた官兵衛のように。
無駄だとわかっていても面白いことがしたくなるのが普通の少年。
そこまで考えて官兵衛はふと、とあることを思い出す。あの徳川家康という少年……いや青年は、その目に年頃の青年らしい子供じみた輝きを持ち備えていなかった。
きっと彼に対する違和感の原因はそれなのだろう。
佐吉のように素直に感情を表に出し、真っ直ぐに生きることができていたら。彼も子供のように笑うことができるのだろうか。
まあそんなことを官兵衛が考えても仕方がない、今の官兵衛のやるべきことは佐吉を護り導きながら豊臣家の天下取りの戦を効率的に進めることだけ。
そのためにもらった時間を有効的に使うために、まずは何からすべきなのか。
「官兵衛、今日はあの天守閣で寝るのか? 秀吉様はいつも天守閣で寝ているのだ、貴様も当然そうなのだろう!?」
「あそこはまだ内側の壁が塗り終わってないんだよ……今日は多分外の蔵で寝ることになるはずだ」
「そうか……よし、私が明日壁を塗ってやろう。そうすれば貴様もあそこで寝ることができるはずだ!」
「一日やそこらで壁が乾くか、それにお前さんは職人じゃないだろうが。まあ今日は蔵で我慢して……明日は下で寝るか。あっちの方が進みが早いはずだからな」
「下?」
馬が進む度に姿をあらわしていく城に目を奪われながら首を傾げる佐吉の頭を今度は優しく撫でてやり。
この城についてどこから、そして半兵衞に告げ口されないようにどう言いくるめるべきか。
それを考え始める官兵衛であった。
一日目は真新しい白壁を持つ城の下にある蔵で眠った。
官兵衛の久々の帰還を祝う宴の会場の隅で、酒の匂いをかぎながら眠ってしまったのはいつ頃だったのだろうか。疲れで熟睡していたらしい佐吉は珍しく官兵衛に叩き起こされ、ようやく城の中へ足を踏み入れることを許された。
はずだったというのに。
「官兵衛……何故私たちは下へ向かっているのだ」
「お前さんが城の中を見たいと言ったからだろうが」
「城というのは普通上に向かっていくものではないのか? それにここはどう考えても……」
城ではなくて洞窟だろう。
先程からずっと言いたくてたまらなかった言葉をようやく口にすると、佐吉は隣を歩くいつもと違う格好の官兵衛を睨み付けた。よれよれになっているとはいえいつもは普通の着物を着ているというのに今日は足元が汚れないように固そうな皮の沓に袴の裾を全て押し込め。佐吉の足が汚れないように時折背中に手を回したり肩を引き寄せたりしながら、巧みに水たまりができていない方向へと導いていく。
天井近くには水よけなのか大きな覆いの付けられた灯りが輝いており、足元が見えにくいということはないのだが。悪路というしかないところどころが大きくへこみ、下っているはずなのに大きく登ることになったりする起伏の激しすぎる道を歩くには、佐吉の柔らかい草履ではかなり大変だったのだ。
官兵衛に気安く声を掛けてくる工兵たちに手をあげて答えてやっている官兵衛の様子に、佐吉は改めて彼がここの主であることを理解させられる。大阪城での彼とやっていることは変わらないのに、彼の一挙手一投足で人々が動く。官兵衛に誘導されても足先に染みこんでくる冷たい物を感じながら、佐吉は魅入られるかのように目の前を行く大きな背中を見つめ続けていた。
足先が濡れてきていることをわかっていたが、官兵衛はここを見たいという佐吉の思いを尊重したいのだろう。
「佐吉……こっちに来い」
「………………何故だ?」
「負ぶってやる」
「私は子供ではない!」
「だがな、ここから先はまだ水抜きが終わってないんでな……お前さんに見せてやりたい物はまだ下にあるんだよ。その足じゃ、ここから下は無理だ」
「だから、ここは一体何なのだ?」
「小生の城だと言っているだろうが。上のは張りぼての囮だと思ってくれりゃあいい……だから上には大した金もかけてないしな」
「ここが城…………?」
こんな巨大な坑道のような、土と岩が剥き出しになっている場所が城だというのか。
官兵衛の言葉の意味を考えながら首をひねっていると頭のてっぺんに冷たい感触。上から時折滴が落ちてくるが、どうしてこの水はこんなに冷たいのだろうか。
頭皮を伝って耳の側にまで落ちてきた水を指で拭おうとすると、鼻に届いたのはわずかな潮の香りだった。
上から降ってきた水から潮の匂いがするということは。
「官兵衛、もしかしてここは海の下なのか!?」
「正解だ、少しは賢くなったようだな……お前さんも」
「海の下にまで道を作るということは……」
「もしもの時の逃げ道、もしくは上の城だけを兵糧攻めにしてくれてもここから兵糧を運び込むことができる……ここから抜け出して城を囲んでいる敵の兵を後ろから襲っちまうのもいいかもな」
「だからこちらが本当の城なのか……」
「まだ道を造り終わったばかりでな、城というには綺麗さが足りない。せめて人が不便なく住める場所にしなきゃならんが、まだ金も時間もかかるだろうな。金に関しては心配してないが……」
少し眉根を寄せて困ったような顔をした官兵衛だったが、すぐに気持ちを切り替えたらしい。立ち止まった佐吉を無理矢理自分の方へと引き寄せ、真剣な顔でこう問うてきた。
「小生に負ぶられるのと抱かれるの、お前さんはどちらがいい?」
「どちらも嫌だ!」
「誰も見ていない……心配すんな」
「そういう問題ではない、私はもうこんなに大きくなったのだ……貴様が疲れるではないか」
「心配してんのはそっちかよ」
自分で言うのもなんだが、官兵衛の元に来てから佐吉の背はかなり伸びた。
まだ官兵衛の胸元までしかないが、きっと数年後には彼に並ぶほどには大きくなると佐吉は信じている。身長と共に目方も増えたはずなので、いくら体格のいい官兵衛でも長時間佐吉を抱いていれば疲れるはず。
自分を前に乗せて馬を操り続けていた官兵衛にこれ以上迷惑を掛けたくない。
その思いを素直に伝えると、体を屈めてこちらに視線を合わせてきた官兵衛がにかっと笑った。
「小生がお前さんに見せてやりたいだけだ。お前さんは小生に無理矢理つきあわされるんだから、抱かれるくらい当たり前……そう思っておけ。それにな、お前さんにここについて半兵衞に告げ口されると小生も困るんだ」
「……半兵衞様には内緒なのか?」
「こんなこと知られてみろ……豊臣に反逆の意志有りとか、勝手な理由を付けてここに攻め込んでくるぞ? 小生は天下に名を轟かせる奇城を造りたいだけだ、あいつに余計なことをされたくないんだよ」
「私には、教えていいのか?」
「お前さんは小生の『相棒』だろうが」
さらりと、ごく当たり前のように官兵衛はそう言う。
大阪城で共に生きる相棒だからこそ、秘密は無しにしたい。それが佐吉を対等として扱ってくれているからこそ出た言葉だと知り、佐吉は一瞬だけ躊躇し。
次の瞬間には素直に差し出された官兵衛の腕の中へと自ら飛び込んでいった。
「少し、重くなったな」
「これからもっと重くなるぞ。いつか貴様を逆にだっこしてやる、覚えておけ」
「そんなに図体のでかくなったお前さんなんて、想像できないがな……」
「秀吉様と同じくらい大きくなるのだ」
「そりゃ無理だ、諦めろ」
「なんだと!?」
大きな官兵衛の腕に抱きかかえられ、彼の首の腕を回してできる限り負担にならぬようにする。周囲で作業をしている工兵達に笑われるかと思ったが、彼らが口々に言う言葉は明日までに佐吉用の革靴を用意しようとか濡れて風邪を引かぬように外套も用意しようとか。
遙か遠く大阪の地からやってきた少年を労る言葉だけだった。
だから佐吉は彼らの好意に感謝の言葉を口にしつつ、草履の先から小さく滴る水を見ながら。官兵衛の首元に顔を埋め、緩み始める顔を隠しながら。
小さな吐息のような笑い声を漏らした
_____________________________________
ということで九州編開始。
しばらく九州で仲良く過ごす予定です……戻ったら大坂城がどうなっているかは……まあ想像できる方もいるのでは。
BGM「SHOOT!」
「さっきもそれは聞いただろうが、あと五……いや四里くらいだ」
「貴様はずっとそれしか言わない!」
揺れる馬の上で何度となく行われているそのやりとりに、周囲の大人たちは頬を緩まされ続けていた。官兵衛に昔から付き従っている部下たちは、基本的に佐吉が可愛くて仕方がない。生意気出し口答えもしてくるのだが、人を傷つける言葉を悪意で口にすることはない純粋な少年を誰もが気に入っていたのだ。大阪城を出発してから十数日、馬と船を乗り継いでの旅は佐吉の気力と体力を奪い尽くしていたが。彼らの細かな気配りで、佐吉は倒れることなくここまで来ることができたのだった。
大人でもきつい馬に揺られての旅だ、佐吉が疲れ果てても当然誰も文句は言わないのだが。
できる限り迷惑を掛けたくないと思っている少年が自分の事を足手纏いだと感じない様に、大人たちは気付かれないように色々してきた。それでも今日は馬の上で居眠りをして何度か落馬しそうになっているので、半ば無理矢理官兵衛と同じ馬に乗せられることになったわけだ。
鞍を大きめの物に変え佐吉を前に乗せれば、官兵衛が手綱を握っている限り落馬することはない。おまけに暖かい背もたれに寄りかかり放題なのだ、ある意味大人たちよりも大変だった佐吉にとってそれは素晴らしい褒美になったらしい。自分で手綱を握る必要もなく、官兵衛にいくら甘えても一緒の馬に乗っているという大義名分がある。ついでに言えば佐吉をからかうような人間もここにはいないのだ。幼さの抜けきらない柔らかな頬を紅潮させ、後ろにいる官兵衛を見上げては嬉しそうに笑みを零す。
九州に上陸するまでの間佐吉は本当に色々と頑張ってくれたのだ、いくらでも甘えればいい。
官兵衛はそう思っていたので佐吉の思うがままにさせていたし、今日の夕方までには目的地に着くことができるはず。小さな体で大人たちの役に立とうと動き回る佐吉の姿は官兵衛と部下たちの心を癒してくれたし、大阪城に戻れば誰かに甘えることもできないのだ。
誰かに寄りかかろうが、馬の上で船を漕ごうが。
官兵衛の領地の周辺であれば誰にも怒られないし、誰かに文句を言わせるつもりもない。後ろから抱き止められる様な姿で時折馬の鬣を撫で、物珍しそうに周囲を見回し続けている佐吉。そんな彼の頭を手綱を持ち変える間にさっと撫でてやりながら、官兵衛は口元を笑みで飾る彼に話しかけてやった。
「それにしても……佐吉、お前さんのおかげで助かった」
「もうあんなことはしないからな」
「だが結構似合ってたぜ……あのまま毛利の家にいりゃあよかったのに」
「それだけは断る!」
大阪城から安芸までは馬で移動し、そこから毛利家の船を借りるためと今後の話をするために数日間滞在した。官兵衛にとってそれは九州で行うことの下準備であり、豊臣軍の今後を見据えた交渉。官兵衛が毛利元就との知略を尽くした戦いを行っている間、佐吉は体をゆっくりと休めることができたはずだった。
毛利元就の息子たちに発見されなければ。
一番上の息子ですら佐吉より年下、おまけに揃いも揃ってやんちゃ極まりない。そんな子供たちに囲まれ必然的に『お兄ちゃん』として彼らの面倒を見なければならない立場になってしまった佐吉は、生来の生真面目さ故に元気な子供たちを相手に彼なりの戦を行うことになった訳だ。
自分の子供を可愛がってもらって、気分を害する親はいない。
それによって毛利元就の機嫌が良くなったことで、官兵衛は思うとおりに話を進めることができた。豊臣軍が西の各地へ向けた戦略を進めるためには、安芸という要を押さえている毛利の協力は必要不可欠。そして毛利も安芸を狙う他の国に対抗するために、豊臣の強大な軍事力を必要としているのだ。
そんな思惑を抱え、だが相手を探りあいながらの話し合いを続けている中。子供たちが群れ遊ぶ様は、堅苦しい話に終始しなければならない大人たちの心を和ませてくれたのは事実。そして毛利元就の子供たちが将来この国を継ぐことになるのであれば、幼い頃に遊んでくれた佐吉に対して悪い印象を持つことはないだろう。豊臣軍へのいい印象を毛利家に与え今回の話を終わらせられたことはきっと、今後の軍略の大きな助けになる。
佐吉のおかげで順調すぎるほどに進んだ交渉を元に、九州でも各家と話を付けなければならないが。その全てに官兵衛は佐吉を同行させようと考えていた。
この少年には遠くまでを見通す戦略眼は備わっていない。
その代わりに彼は周囲を見渡し熟考してから自分の行うべき事を実行する、堅実な賢さを持っている。
外交を教え込んでも彼は目先の利益だけを見て物事を決めてしまうだろうが、現実的な利益の計算をすぐに行うことができる人間というのもなかなかに貴重なのだ。半兵衞が目をかけていたもう一人、佐吉の数少ない友人の一人である大谷吉継はきっと佐吉の欠けた部分を補う才の持ち主なのだろう。
突出した一つの才に、それを補う才を寄り添わせる。
半兵衞が目指す未来の豊臣軍が目指す形がそれなのだろうが、官兵衛はそれとは別なことを考えていた。
こんな素直な心を秀吉への狂信で塗りつぶし戦に駆り立てるのか、と。
築城中の官兵衛の本拠地を誰よりも先に発見しようときょろきょろしている素直な佐吉の心を汚してまで、自分は戦を行うことができるのだろうか。彼に会うまでの官兵衛であれば、自分の才能と価値を周囲に知らしめる戦という機会を逃すつもりはなかった。自分の名が天下に轟くことを何よりも喜び、評価してくれる人間が増えることだけを生き甲斐にしてきたはずなのに。
どうしてこの少年は今までの自分を後悔させるてくれるのか。
「…………官兵衛、痛いぞ!」
恨み半分愛しさ半分、そんな気持ちのまま彼の頭をぐりぐりと撫で続けていたのだろう。
頬を膨らませて抗議してくる佐吉の顔を今度は優しく撫でてやろうとすると、
「あれか! あの大きいのだな!」
山の頂上からわずかに天守閣を覗かせる目当ての物を見つけたのだろう。
まるで白鳥の首のように伸びる白く高いそれに歓声を上げ、だがじいっと見続ける佐吉の姿に周囲から大きな笑い声が聞こえ始めたが。
佐吉はもうそれを聞いていなかった。
大阪城とは違う意図と目的を持って作られた城は、当然大阪城とは形も大きさも大きく違う。これからしばらくの間ここで過ごすことになるという事から生まれた興奮よりも、官兵衛の城である中津城の美しさに彼は完全に魅入られていたのだ。
角度によっては大きな湾の中央に建っているかのように見える白壁の巨城。
まだ外側が出来上がったばかりで、官兵衛が意図する完成からはほど遠い。おまけに今日官兵衛たちが寝る部屋もあるかどうかわからない状態。
それでも佐吉はあの城を気に入ってくれる。
男の子というのは見た目が大きくてかっこいい物と、何かを作り上げる現場を見ることが大好きな生き物なのだ。そう、この城に様々な仕掛けを盛り込むために戻ってきた官兵衛のように。
無駄だとわかっていても面白いことがしたくなるのが普通の少年。
そこまで考えて官兵衛はふと、とあることを思い出す。あの徳川家康という少年……いや青年は、その目に年頃の青年らしい子供じみた輝きを持ち備えていなかった。
きっと彼に対する違和感の原因はそれなのだろう。
佐吉のように素直に感情を表に出し、真っ直ぐに生きることができていたら。彼も子供のように笑うことができるのだろうか。
まあそんなことを官兵衛が考えても仕方がない、今の官兵衛のやるべきことは佐吉を護り導きながら豊臣家の天下取りの戦を効率的に進めることだけ。
そのためにもらった時間を有効的に使うために、まずは何からすべきなのか。
「官兵衛、今日はあの天守閣で寝るのか? 秀吉様はいつも天守閣で寝ているのだ、貴様も当然そうなのだろう!?」
「あそこはまだ内側の壁が塗り終わってないんだよ……今日は多分外の蔵で寝ることになるはずだ」
「そうか……よし、私が明日壁を塗ってやろう。そうすれば貴様もあそこで寝ることができるはずだ!」
「一日やそこらで壁が乾くか、それにお前さんは職人じゃないだろうが。まあ今日は蔵で我慢して……明日は下で寝るか。あっちの方が進みが早いはずだからな」
「下?」
馬が進む度に姿をあらわしていく城に目を奪われながら首を傾げる佐吉の頭を今度は優しく撫でてやり。
この城についてどこから、そして半兵衞に告げ口されないようにどう言いくるめるべきか。
それを考え始める官兵衛であった。
一日目は真新しい白壁を持つ城の下にある蔵で眠った。
官兵衛の久々の帰還を祝う宴の会場の隅で、酒の匂いをかぎながら眠ってしまったのはいつ頃だったのだろうか。疲れで熟睡していたらしい佐吉は珍しく官兵衛に叩き起こされ、ようやく城の中へ足を踏み入れることを許された。
はずだったというのに。
「官兵衛……何故私たちは下へ向かっているのだ」
「お前さんが城の中を見たいと言ったからだろうが」
「城というのは普通上に向かっていくものではないのか? それにここはどう考えても……」
城ではなくて洞窟だろう。
先程からずっと言いたくてたまらなかった言葉をようやく口にすると、佐吉は隣を歩くいつもと違う格好の官兵衛を睨み付けた。よれよれになっているとはいえいつもは普通の着物を着ているというのに今日は足元が汚れないように固そうな皮の沓に袴の裾を全て押し込め。佐吉の足が汚れないように時折背中に手を回したり肩を引き寄せたりしながら、巧みに水たまりができていない方向へと導いていく。
天井近くには水よけなのか大きな覆いの付けられた灯りが輝いており、足元が見えにくいということはないのだが。悪路というしかないところどころが大きくへこみ、下っているはずなのに大きく登ることになったりする起伏の激しすぎる道を歩くには、佐吉の柔らかい草履ではかなり大変だったのだ。
官兵衛に気安く声を掛けてくる工兵たちに手をあげて答えてやっている官兵衛の様子に、佐吉は改めて彼がここの主であることを理解させられる。大阪城での彼とやっていることは変わらないのに、彼の一挙手一投足で人々が動く。官兵衛に誘導されても足先に染みこんでくる冷たい物を感じながら、佐吉は魅入られるかのように目の前を行く大きな背中を見つめ続けていた。
足先が濡れてきていることをわかっていたが、官兵衛はここを見たいという佐吉の思いを尊重したいのだろう。
「佐吉……こっちに来い」
「………………何故だ?」
「負ぶってやる」
「私は子供ではない!」
「だがな、ここから先はまだ水抜きが終わってないんでな……お前さんに見せてやりたい物はまだ下にあるんだよ。その足じゃ、ここから下は無理だ」
「だから、ここは一体何なのだ?」
「小生の城だと言っているだろうが。上のは張りぼての囮だと思ってくれりゃあいい……だから上には大した金もかけてないしな」
「ここが城…………?」
こんな巨大な坑道のような、土と岩が剥き出しになっている場所が城だというのか。
官兵衛の言葉の意味を考えながら首をひねっていると頭のてっぺんに冷たい感触。上から時折滴が落ちてくるが、どうしてこの水はこんなに冷たいのだろうか。
頭皮を伝って耳の側にまで落ちてきた水を指で拭おうとすると、鼻に届いたのはわずかな潮の香りだった。
上から降ってきた水から潮の匂いがするということは。
「官兵衛、もしかしてここは海の下なのか!?」
「正解だ、少しは賢くなったようだな……お前さんも」
「海の下にまで道を作るということは……」
「もしもの時の逃げ道、もしくは上の城だけを兵糧攻めにしてくれてもここから兵糧を運び込むことができる……ここから抜け出して城を囲んでいる敵の兵を後ろから襲っちまうのもいいかもな」
「だからこちらが本当の城なのか……」
「まだ道を造り終わったばかりでな、城というには綺麗さが足りない。せめて人が不便なく住める場所にしなきゃならんが、まだ金も時間もかかるだろうな。金に関しては心配してないが……」
少し眉根を寄せて困ったような顔をした官兵衛だったが、すぐに気持ちを切り替えたらしい。立ち止まった佐吉を無理矢理自分の方へと引き寄せ、真剣な顔でこう問うてきた。
「小生に負ぶられるのと抱かれるの、お前さんはどちらがいい?」
「どちらも嫌だ!」
「誰も見ていない……心配すんな」
「そういう問題ではない、私はもうこんなに大きくなったのだ……貴様が疲れるではないか」
「心配してんのはそっちかよ」
自分で言うのもなんだが、官兵衛の元に来てから佐吉の背はかなり伸びた。
まだ官兵衛の胸元までしかないが、きっと数年後には彼に並ぶほどには大きくなると佐吉は信じている。身長と共に目方も増えたはずなので、いくら体格のいい官兵衛でも長時間佐吉を抱いていれば疲れるはず。
自分を前に乗せて馬を操り続けていた官兵衛にこれ以上迷惑を掛けたくない。
その思いを素直に伝えると、体を屈めてこちらに視線を合わせてきた官兵衛がにかっと笑った。
「小生がお前さんに見せてやりたいだけだ。お前さんは小生に無理矢理つきあわされるんだから、抱かれるくらい当たり前……そう思っておけ。それにな、お前さんにここについて半兵衞に告げ口されると小生も困るんだ」
「……半兵衞様には内緒なのか?」
「こんなこと知られてみろ……豊臣に反逆の意志有りとか、勝手な理由を付けてここに攻め込んでくるぞ? 小生は天下に名を轟かせる奇城を造りたいだけだ、あいつに余計なことをされたくないんだよ」
「私には、教えていいのか?」
「お前さんは小生の『相棒』だろうが」
さらりと、ごく当たり前のように官兵衛はそう言う。
大阪城で共に生きる相棒だからこそ、秘密は無しにしたい。それが佐吉を対等として扱ってくれているからこそ出た言葉だと知り、佐吉は一瞬だけ躊躇し。
次の瞬間には素直に差し出された官兵衛の腕の中へと自ら飛び込んでいった。
「少し、重くなったな」
「これからもっと重くなるぞ。いつか貴様を逆にだっこしてやる、覚えておけ」
「そんなに図体のでかくなったお前さんなんて、想像できないがな……」
「秀吉様と同じくらい大きくなるのだ」
「そりゃ無理だ、諦めろ」
「なんだと!?」
大きな官兵衛の腕に抱きかかえられ、彼の首の腕を回してできる限り負担にならぬようにする。周囲で作業をしている工兵達に笑われるかと思ったが、彼らが口々に言う言葉は明日までに佐吉用の革靴を用意しようとか濡れて風邪を引かぬように外套も用意しようとか。
遙か遠く大阪の地からやってきた少年を労る言葉だけだった。
だから佐吉は彼らの好意に感謝の言葉を口にしつつ、草履の先から小さく滴る水を見ながら。官兵衛の首元に顔を埋め、緩み始める顔を隠しながら。
小さな吐息のような笑い声を漏らした
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ということで九州編開始。
しばらく九州で仲良く過ごす予定です……戻ったら大坂城がどうなっているかは……まあ想像できる方もいるのでは。
BGM「SHOOT!」
PR
色々説明
拍手現在豊臣家転生パロ中学生編入ってます
(現在2本 家三 チカナリです)
注意事項
・フリーリンクじゃないです、基本的にはリンクはお断りしています
・ひっそりこっそりが信条なので、黙々と
・捏造、not公式のこばなしが多いので、スルー推奨
ラキドでは幹部全員を溺愛しておりますが、ベルナルドとイヴァンは特に偏愛。ばさらは家三とか奥州の愉快な仲間達と毛長がメインです。うずみさんが現在官三とか官佐にずっぽりとはまり中。
基本は、愛想のかけらもない「ネット怖い~」の書き手が二人で色々書いている場所です。
書いている人
みっし
・生真面目で堅物でムキムキな男性と一見そうじゃなくても根は真面目極まり ないキャラをこよなく愛している、がんかたうるふの片割れ。編み物とお菓子作りが趣味という、第三者曰く可愛らしい一面を持つ反面、パニクると踊ったり、オロオロしだして周囲は見ていて楽しいらしい。荒ぶる舞は、職場の名物だったりする……らしい。
イヴァンちゃんと片倉さんとシズちゃんとスカイハイさんと陛下を思いっきり愛している。好きなアニメは銀魂と最近はFate/zero。型月ファンというよりは元から虚淵ファンでうずみさんからオススメされまくった末にようやっと手を付けて完読した。ライダー組おいしいです。エクシリアではダントツで陛下が好き。陛下が使用可能になる完全版があるなら複数買いしても構わないとのたまう日々。バサラの好きキャラは片倉さん一強だったはずなのに最近はアニキも熱い。かっちり着込むキャラがすきだったはずなのにいきなり露出度が高いキャラを好きになったのは何故か悩む日々。二次元の向かう愛と同じぐらい甥っ子への愛を叫んでいる気がしてならない。
@3missiy3をフォロー
うずみ
・相方を愛しすぎている変な人。趣味は畑仕事に漬け物作り、好きな物は不幸属性の美人(男女問わず)。ばさらでは石田さんと黒田さんをこよなく愛していたり、赤い子めんこいにゃぁとたまに叫んでいる。ついったのフォローは下 のアイコンから。
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こんな二人で、ここを更新しております。
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