がんかたうるふ 『ともえうた』 弐章 「しろたへの」 壱 忍者ブログ
こちらはサークル「がんかたうるふ」のうずみとみっしの二人組が、ラッキードッグ1とばさらのこばなしを黙々と投下する場所です。
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書き終えました、この章でちょっとだけ話が動きます。
多分この章はその四で終わり。



親三です、そして書いたのはうずみです。


(書いた人 うずみ)




 *****
 
 
 
 
 
 
<その壱>




 
 
 
 
 元親たちが四国に戻ってから、数日が経過した。
 
 
 安芸との話し合いもろくに行うことができず、おまけに交易すらできなかった航海。しかし部下たちからは不満の類の言葉は一切出てこなかったどころか、毛利から連絡を受けていた船員たちは元親と三成が戻り次第すぐに船を出せるように準備していてくれた。
 徳川家康の名は民にとっては恐怖の象徴。
 その事実を黙々と作業を進める部下たちの姿に改めて教えられた結果、元親は精神的に混乱しているらしい三成と共に船倉にこもることにした。誰も入らぬように厳命してから二人が行ったのは、今回の安芸域で得た情報の共有。三成は家康との会話の内容を、そして元親は毛利から聞いた安芸の現状を。四国を復興させるために話し合っていた時のように、一つずつ疑問を潰し答えへと近づいていく過程を経て。
 家康は今の四国にとって驚異ではない、二人はそういう結論を出した。
 感情を理解できぬが故に直接的すぎる手段に出てはいるが、家康の目的は戦無き世を継続すること。そのために力を付けてきた領地の力を削ぎ、当主同士の険悪な関係が続いている国は当主をすげ替え。戦の原因を潰しながら、彼はこの国から完全に戦を消そうとしている。
 平和な世を作るという理想は、家康の中から消えていないのだ。
 ならば彼の中では、四国の存在はかなり優先順位が低いはず。家康本人の言葉を借りれば、戦をする余裕のない四国にわざわざ介入する必要がないのだ。戦を起こさぬためにその力を削ぐ必要もなく、復興の手助けをしなければならないほど荒廃しているわけでもない。ゆっくりではあるが着実に復興していっている四国に家康が注視するのは、この調子ならば十年近くは先になるだろう。
 だから今は安心。
 しかしいつの日か、家康は確実に四国に手を伸ばしてくるだろう。
 周辺に侵略できるだけの力を取り戻た時、民の気持ちも考えずに家康は無慈悲な政と言う名の刃を振るうだろう。
 家康は目的のためだけに動いて、人の心を無自覚の内に傷つけ続けている。このまま彼が進み続ければ確かに彼が存命の間は戦は起こらないだろう。
 しかしいずれは誰かが動き始める。
 心なき暴君を倒し、自由な世の中を取り戻そうとするものが現れる。それを止めるにはどうすればいいか、そして四国を守るにはどうすればいいのか。
 長きにわたる二人の話し合いの結果、三成の主張を元親は受け入れた。
 
 家康が壊れた心を癒し、感情を取り戻せばいい。
 
 普段は希望的な観測で決断を下さない三成が望んだ、甘すぎるやり方。
 精神的に壊れてしまった家康に、記憶を失って混乱している自分を重ねている。はっきりとそう言った三成の思いを受け入れた元親だったが、それで全て上手くいくとは考えていなかった。
 だがそれでも、三成がそう望むのなら。
 一国を預かっている君主としての元親には、様々な問題が見えている。家康が心を取り戻して民の思いを汲んだ政治を行えばいいというものではないのだ。
 さて今後自分たちはどうなっていくことやら。
 この澄んだ海に抱かれた大地で、三成と共に生きていく。その望みを家康の来訪が打ち砕いてしまわければ、そしてこのままずっと平穏な日常を過ごしていくことができれば。
 元親の願いは、それだけだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 長曾我部元親の朝は、基本的には遅い。
 夜遅くまでからくりを作っている事も多いし、時間が過ぎるのも忘れて三成と色々と楽しんでいる日もある。朝早く起きたいので深夜まで貴様につきあっていられないと三成は毎回怒るが、そんな三成の着物を剥いで無理矢理事に及ぶのも楽しみの一環。
 朝になったら殴られるのも、醍醐味ということにしておこう。
 どんな日であっても三成は朝日が昇るのと共に目を覚まし、元親が眠っている間に今日行わなければ行けない政務を行う。それを完璧に仕上げてから元親を起こし、彼の最終的な決断を仰ぐのが三成の日課だったのだが。
 今日の三成は、深い寝息を立てながら眠り続けていた。
 元親が目を覚まし、自分の顔を見つめ続けていることにすら気がつかない。きっと安芸から戻ってきてからの連日の各所との折衝で疲れているのだろうが、その間二人はずっと行動を共にしていたのだ。ならば自分も三成と同じくらい疲れていてもいいはずなのだが、最初はそう思ったがすぐに自分と彼との根本的な違いに気がついた。
 様々な人間と目の前にある問題について意見を詰めていく。
 幼い頃よりそれに慣れきっている当主としての教育を受けた元親と、当主を支える側としてある程度の年齢から教えを受け始めた三成では心構えが違うのだ。話し合いというものは精神的な疲れを伴うもの、そう認識している三成は話し合いという行為自体を苦手としている。
 それが、決定する側と意見を出す側の差なのだろう。
 ならば家康との再会からのここ数日は彼にとって相当な苦行だったはず。家康が三成を見つけてしまったという事態は、元親に同行した船員たちの口からあらゆる人間へと伝えられている。そこから生まれた不安を打ち消すために動き続けた今までの時間は、三成に相当な負担を与えたわけだ。
「おい石田……朝だぜ」
「………………」
「起きろって、飯食いに行くぞ」
「……貴様……が食え……」
「一緒に食おうぜ、一人で食っても寂しいんだよ」
 寝所の隅っこ、今にもそこから落ちてしまいそうな場所で三成は白い夜着姿のまま丸まって眠っていた。
 腕に抱いているのは元親が眠る前に身に纏っていた夜着。着ていた物を奪われてしまっているので当然元親は全裸なのだが、そこら辺は全く気にしなかった。
 というか、暑いので全裸でいた方が楽なのだ。
 きっと三成のことだ、寝ぼけながら自分に甘えて抱きいていたのだろう。しかし抱きついて眠っている内に厚さで寝苦しくなり、元親の体から熱の高い部分だけを避けて抱きしめることにしたというわけだ。
 必要だったのは着物で、中身はいらなかったということか。
 なんとなく腑に落ちない物を感じながらも、元親は三成の身体の上に跨がりながら彼をを揺すり続ける。片目を眼帯で覆った全裸の逞しい体の男が、布を抱いて眠っている細身の青年の上にのしかかっている光景。
 端から見れば朝っぱらから何やってるんだと怒られそうだが、元親にとってこれは挨拶の一環なのだ。
 好きな相手ほど構いたくなるというか、常に側に置いて肌を触れさせておきたいというか。寝ている時に裸になりたがるのも三成と少しでも近づきたい故なのだが、当の本人には全く理解してもらえなかった。
 目が覚めて最初に見るのが逞しい男性の裸体。
 それに耐えられないという三成の主張は、当然だが一度も受け入れられたことはない。
「起きろよ石田~」
「……拒否する……私は休息を必要としている……というよりも……眼が開かない……」
「よし、じゃあ俺が!」
「眼をこじ開けることも拒否する……」
 元親の夜着をぎゅうっと抱きしめ直し、三成は更に体を丸める。
 普通の人間であれば相当疲れているのでもう少し寝かせておいてあげようと思う、しかし元親は普通の考え方をする人間ではなかった。
 疲れているのであればいっぱい飯を食えば元気になる。
 そんな長曾我部流元気の秘訣を三成に押しつけるために、全裸の元親は必死に三成を揺さぶり続ける。さすがにそこまでされると、眠気に支配された三成も耐えられなかったらしい。
 首を二三度振ってからゆっくりと眼を開き、自分の上に乗っかっている元親を見て大きく体を硬直させた。
「…………貴様……」
「よう、起きたか」
「……貴様……この中身をどこへやった!」
 元親の目の前に突き出されたのは、今まで三成が腕に抱いていた元親の抜け殻。
 まだおもいっきり寝ぼけているのだろう、完全に目が据わっている三成は自分にのしかかっている全裸の不審者を元親だと認識していなかった。
 なんか自分の上に全裸のおかしな人間が乗っかっていて、隣に寝ていた長曾我部がいない。
 そんな思い込みの元、言葉を連ねて自分を糾弾してくる三成に、元親は頭を掻きながら答えてやった。
「あのよ……お前の目の前にいるのは誰だ?」
「不審者だ」
「こんないい男の不審者がいるか?」
「……私から見てみれば、単なる全裸だ」
「こ、これはな……」
 夜眠る時は着る物を着て寝ろ。
 毎晩そう言われている元親としては、それを言われると何も言い返すことができなくなる。三成が元親が風邪を引かないように気遣ってくれているが故の発言だというのはわかるのだが、夏はやはり暑い。
 どうせ夜中に脱いでしまうのであれば、最初から全裸でもいいはずなのに。
 三成のそういう律儀で生真面目なところが愛おしくも可愛らしい。なので彼の要求を聞き入れてもいいのだが、そうすると元親は夏場の暑さを我慢しながら眠らなければならなうなる。
 さてどうするべきかと悩んでいると。
「私が眠る前に入っていた中身は、ちゃんと下帯を身につけていた。貴様のような堂々とした全裸など入っていなかったぞ」
 寝ぼけているくせに拳を握って力説する三成と、目が合ってしまった。
 全裸に押し倒されている割に妙に落ち着いている上に、妙な威圧感を感じるのは元親の気のせいだろうか。
 これが凶王(記憶を失う前)の風格か。
 そんなことを思いながら、着物の合わせ目から見える三成の胸元や乱れた裾から覗く足を観察する。清楚さを失わないくせに色気を感じさせる、無垢であるが故の妖艶さというか。
 白い襟に半分ほど隠された鎖骨が、やけに艶めかしい。
 これで三成が疲れておらず、寝ぼけていなかったらこのまま彼の着物を脱がして事に及んでしまうのに。一瞬そんな事を考えたりしたが、今は朝でおまけに朝食も食べていない。そう考えた途端に空腹を感じ始めた正直者の自分の身体に苦笑いしつつ、元親は手を伸ばして自分の着物を抱いたままの三成の片手を掴んだ。
 そしてそのまま無理矢理引っ張って、体を起こしてやる。
「……どうした……全裸……」
「いい加減起きろって、飯食いに行くぞ」
「食事……?」
 とりあえず何か食べなくては、そしてお疲れ中の三成にも食べさせなくては。
 湧き上がりかけた性欲を凌駕した食欲は、思ったよりも強力なものだったらしい。あくびをかみ殺しながら腕の中に落ちてきた三成の首元を撫でてやりながら、元親はそういえば昔家康もこうやって起こしてやったと。
 遠くはないはずなのにかなり昔の事に感じられる思い出を、記憶の奥底から引きずり出していた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 長曾我部家の朝食は、本屋敷の大広間で家人全員で食べるのが習慣であった。
 とはいえ全員が同じ時間に顔を合わせるのは難しいので、主である元親が現れる時間を目安にぱらぱらと人が集まり始めるのが常。今日も一番上座に置かれたお膳の上に置かれた食物をあっという間に平らげている元親の回りには、三成だけではなく様々な人間が集まっていた。
 その殆どは元親が拾ってきた農家の次男や三男坊。
 将来畑を継ぐことができない彼らは、元親に雇われ彼の私兵として治安の維持や交易などに力を尽くしていた。自らの土地を持つことができずに一生を雇われ百姓として生き続ける、そんな人生から救ってくれた元親に彼らの全てが深い恩義と忠誠を感じている。
 身内ともいえる逞しい青年たちに囲まれ、隣に黙々と食事を続ける三成を座らせ。
 鰹の内臓を塩と醤醢で漬け込んだ物をおかずに、飯を食べ続ける。塩気と魚の風味が絶妙に入り交じった味わいと飯の合わさり具合に舌鼓を打っていると、先程から一度もこちらに話しかけてこない三成が視界に入った。
 明らかに機嫌が悪そうな上に前髪が乱れている彼に、遠慮しながら声をかけてみる。
「考えたんだけどよ、お前も全部脱いで寝ればいいんじゃねえのか?」
「断る」
「俺だけが脱ぐから気になるんだろ? ならお前もぱーっと脱げば、気にならないだろ」
「何故私をも脱がそうとする。貴様……全裸の布教でもしているのか」
「俺をザビー教の奴らと一緒にするなよ……おかわり」
「わかった」
 朝食の匂いを嗅いでようやく完全に覚醒した三成は、文句を言いながらも元親が差し出した茶碗を受け取ってくれた。しかしまだ機嫌は直っていないし、お櫃を手元に引き寄せて杓文字を握る手は刃を握っているかのような殺気に満ちている。
 爽やかな朝の目覚めに全裸を見せたのがまずかったのか。
 自分も朝起きて最初に見るのが野郎の裸だったら機嫌が悪くなるだろうし、多分しばらく機嫌も悪くなる。もしかしたら自分は、三成に凄く嫌なことをしてしまったのではないだろうか。
 今更それに気がついた元親は、ぺたぺたとご飯を固めて穀物の塔を形成している最中の三成にそっと話しかけた。首を振って前髪を直そうとしているところが可愛らしいというか、妙な所で子供っぽいというか。
 元親のおかわりを用意することを優先して、髪を直すことは後回しにする。そんな些細な彼の行動に、元親は自分に対する彼の愛情を感じていた。
 だから明確な理由はつかめていないが、素直に謝ることにする。
「……悪かったな」
「どの事柄について詫びようとしている? 河川の整備のために用立てた金から、からくりの作成費を抜き取ったことか? それとも島津が来訪した時、酔い潰れて島津の膝枕で眠ったことか? どちらも違うのであれば……」
「ちょっと待て、怒ってんのそっちかよ!」
「貴様が全裸だろうが半裸だろうが、もう見慣れている。私が怒りを感じているのは、貴様が事あるごとにからくりの作成費用を手に入れようとすることだ」
「……………………」
「それに関してはもう対策を考えてある。なので私の今の怒りは、激怒の残り滓のようなものだ……気にするな」
「気になるだろ……その言い方の方が」
 家康に関する問題が片付けば、あとは通常の政務をこなすだけ。
 しかしこの日常的な政務というものをこなすのが、一番大変なのだ。領地の見回りを行いながら、これから起こるであろう問題の起点を見つける。外から交易で流入した物資の価格と量を調節し、経済的な破滅が起こらないように誘導する。
 それを行いながら治安の維持にも力を裂かなければならない。
 安芸から帰還してからの間のため込んでいた政務が一気に襲いかかってきている、それが今の三成の状況であった。元親ができる部分はもちろん行うが、細かい金や物資の調整を三成は元親にやらせようとしなかった。
 からくりの製作資金を無理に作ろうとしなければ、有能な領主なのに。
 過去何度か横領もどきをやらかしてしまったこともあり、三成は元親に対してそういう評価を下していた。だから金の流れがわかるような仕事は絶対に元親にはまわさなかったし、小遣い程度の金銭も三成が管理している。
 領主差別だと騒いで状況改善を目指したこともあったが、完全に元親が悪いので誰も味方になってくれることはなかった。
 そんな理由で伴侶(のようなもの)に財布の紐を握られている、立場の弱い領主が元親だった。事情を知っている毛利には自分の金すら管理できない男として散々馬鹿にされているが、面倒なことが嫌いな元親はこの生活を結構気に入っていた。
 新しいからくりを作る費用を用立ててもらえないのは辛いが、それ以外の必要な金を三成は必ず用意してくれる。必要な時に金が用意できずに貧困にあえいでいた以前の状況に比べれば、現在はまさに極楽。
 だから渡された茶碗に盛られているのが純粋な白米でなくとも。粟や稗や豆が混ざった色鮮やかな、飯として認めたくない物であっても。
 文句を言ってはいけない、みんな貧乏が悪いのだ。
「たまには白い米が食いたいよな……」
「市に行って物が買いたければ我慢しろ」
「行くのか?」
「そろそろ米や塩がなくなる、そのほかにも足りない物があるのでな。値段をつり上げている者がいるという噂もある……見てこなければならないだろう」
 茶碗を膳に置き、三成はため息をつきながら肩をすくめる。
 元親の伴侶として、三成はこの屋敷を維持するための差配を任されていた。通常であれば男の三成に正室が行わなければならない役目を託すのはおかしい話。しかし三成の能力の高さと馬鹿がつくほどの正直さは、長曾我部家の重臣たちの信頼と敬愛を勝ち得るだけのものだったのだ。
 毛利の妻が影で力を貸したというのもあるが、今では皆が三成のことを元親の『妻』として認めている。
 認めていないのは、自分は女ではないから妻ではないと主張する本人くらいのものか。
 そんな三成が本気で困っているのだ、この屋敷に残されている物資は相当少なくなっているのだろう。だからといって元親を慕う若者たちの食事を減らすわけにはいかないし、使える資金は限られている。
 きっと市で凄まじい値切りを行って、できるだけ多くの食料を買い求めるはず。
 そしてそれに荷物持ちとしてついていけば、元親は市を見回るついでに面白い物を買ったり探したりできるのだ。
 なので箸を持った手を上げ、暑いので上半身裸で荷物持ち立候補のために挙手しようとした元親を止めたのは。
「三成さんおかわり! 荷車と馬を出しますから、いっぱい買ってきてください」
「俺もおかわり! でかい籠を用意しておきますぜ!」
「いっぱいお願いします! 行李は必要ですか?」
「俺、この頃腹の肉が気になってきたんで少し少なめで……でもおかわり」
「……気になっているのであれば喰わなければいいものを」
 三成の方へ、次々と差し出される茶碗を持った腕の群れであった。
 それを一つ一つ順番に受け取り、三成は巨大なお櫃のご飯を茶碗へと移していく。かなり稗や粟の割合が多い飯ではあるが、食べ盛りの男がこれだけたくさんいるのだ。通常の領主であれば三食米を食べることも可能なのだろうが、元親は養っている人間が多すぎた。
 おまけに四国は米の収穫量が少ない。
 なので飢饉の際の備蓄や徳川家に上納しなければならない米を除くと、必然的に元親の手元に残る米は少なくなってしまうのだ。それでも四国は海産物で他国と交易できるので、金銭は手に入れる事ができた。
 だから経済的には上向きになってはきているものの、長曾我部家は基本貧乏なのだ。
 お金が入れば食費に消える、おまけに元親はからくりを作りたがる。三成は本当によくやってくれている、だからいつか彼の労苦に報いてやらなければ。
 いつもそう思ってはいるが、元親はなかなか三成を仕事的な意味で楽にしてやれない。 せめて三成が喜ぶことでもしてやることができればいいのだが。彼が自分を無言で見つめる三成に気がついたのは、そんなことを考えている時であった。
「どうした?」
「市での買い物を手伝って欲しいのだが」
「いいのか!?」
「私一人では運びきれない物もある、買う物が多いので手分けする必要も出てくるだろう。ならば私は貴様と共に行きたい」
「そうか……じゃあ行こうぜ。すぐ出るのか?」
「ああ、そのつもりだ。馬と荷車は用意してくれるそうなのでな、早めに行きたいとは思っている」
 元親の同意の言葉を聞いた瞬間、三成の顔がほんのわずかだが柔らかい笑みを浮かべる。
 共に出かけられるのが嬉しい、そう言いたげに口元を緩める三成は手に杓文字を握ったまま。
 可哀想になるほどぎゅうっと握られた杓文字は、三成の喜びを一心に受け止めていた。
 こんな些細なことでも喜んでくれるので、元親はなかなか三成のためにしてやれることを見つけることができないのだ。自分が側にいるだけで三成は喜んでくれる、ならばそれ以上のものを見つけるにはどうすればいいのか。
 なかなか大変な課題ではあったが、これも三成のため。
 自分のためだけに働き続けてくれる三成に、自分のため以外の楽しいことを与えてやる。なんとなく矛盾に近い何かを内包している気がする、しかし自分の魂に寄り添って生きようとしてくれる三成に別な物を見せてやりたいのも事実なのだ。
 
 自分を愛しながら、別な何かを見て欲しい。
 
 元親のそんな願いを時の流れは読んだのだろうか。
 他愛のない会話を交わしながら食事を続ける元親と三成の耳に、部屋の外から凄まじい勢いの足音が近づいてきたのはこの時であった。
 襖が派手に開く音と共に、肌を盛大に露出させた男が室内に転がり込んでくる。
「ア、アニキ! 大変ですっ!」
「……どうした、徳川の船でもこっちに向かってきたか?」
「な、な、なんでわかるんですか!? 徳川です、徳川家康が戦国最強に乗ってこちらに向かってきています!」
「戦国最強?」
「本田忠勝っていうのがいてな……空飛んで雷呼んで、そこらへんの物全部なぎ倒す化け物みたいな奴だ」
「人なのに空を飛ぶのか?」
 ぜいぜいと息を切らして床に突っ伏す男の報告を聞きながら、三成はずっと首を傾げ続けていた。
 記憶を失った三成は、当然本田忠勝のことを覚えていない。そんな彼に空を飛ぶ男が背に家康を乗せてこちらに向かってくると言っても、うまく理解できないのも無理はない。
 しかし本田忠勝は家康を乗せてここに近づいてきている。
 
 予想よりも早い。
 
 家康が緊急で片付けなければならない政務を片付け、四国に向かう段取りを整えるまであと数日はかかると思っていた。
 だから三成との暖かくも優しい日常をもう少しだけ続ける事ができると思っていたのに、一体徳川家で何が起こったというのだ。家康を中心に、徳川家の重臣たちは一枚岩となって新しい国作りを進めている。そんな彼らが家康の突発的に見える行動を素直に許すだろうか、いや多分理由を聞いてから判断するだろう。
 その時間も考慮に入れて、元親はあと数日かかると計算していた。
 ならば家康がこんなに早く動けたのには、それ相応の理由があるに違いない。三成の存在が徳川家にばれてしまったか、それとも家康の周囲の家臣たちが何かを企んでいるか。
 どちらにしても四国の利益に繋がるものではないだろう。
 普段は三成に細かい仕事をほとんど任せているが、最終的な決断をする権利は元親の方にある。
 得ている情報と、今までの経験と。
 そして潮の流れのように入り組んだ人の心を読み切ることで、四国を良い方向へと導くために決断という名の舵を切らなければならない。
 徳川家はきっと、家康の現状についてある種の決断を下した。
 その決断が四国にどんな影響を与えるかはわからないが、きっと本田忠勝は徳川家の重臣たちからの決定をこちらに告げてくるだろう。家康の意志と重臣たちの思いが乖離し始めているが故に、家康は四国に来ることができた。
 そう考えるしかない。
「長曾我部……」
 心配そうにこちらを見る三成も、元親と似たような結論に達したのだろう。
 所在なさげに周囲を見回し、疲れ切った様子で床に伏せる伝令役の男に何をしていいかわからず困った顔で元親を見つめ続けている。
 三成はこういう突発的な事態にすこぶる弱い。
 逆にこういう時は元親の方が慣れているというか、すぐに決断を下して動けるのだ。互いに足りないところを補い合って、二人は今までやってきたが。
 家康の来訪は何かを変えてしまうのだろうか。
「おい、そいつに水飲ませておいてくれ。それから石田……家康を迎えに出る、つきあってくれ」
「わかった……」
「そんな顔すんなよ。元はと言えばお前が四国に来いって言ったんだろうが」
「確かにそうだが……早すぎる」
「本田の早さなら一日で江戸に戻れるからな、まあいいところだろうよ」
「その本田というのは本当に人なのか!?」
 目を丸くしながらも、三成は元親に付き従うために立ち上がった。
 そんな彼の肩を落ち着かせるために軽く叩き、混乱しきっている彼を落ち着かせてやる。自分の中に生まれた不安もそれで打ち消すことができればいいのに。
 三成が側にいると湧き上がってこない心の奥底に潜む黒い物、それがざわりと鎌首をもたげたかのような感触に軽く身震いしながら。
 それでも元親は、三成を安心させるために片方の眼で優しく笑んでみせたのだった。
 
 
 
 
 






 
 
 
 
>その弐に続く






・アニキが全裸なのは、私が『アニキは肌を露出しているのがいいよ友の会』の会員だからです。
でも『第二衣装できっちりと服を着こんでいるのを脱がすのも素敵だよアニキ友の会』の会員でもあります。
PR
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色々説明






拍手現在豊臣家転生パロ中学生編入ってます
(現在2本 家三 チカナリです)


注意事項
・フリーリンクじゃないです、基本的にはリンクはお断りしています
・ひっそりこっそりが信条なので、黙々と
・捏造、not公式のこばなしが多いので、スルー推奨


ラキドでは幹部全員を溺愛しておりますが、ベルナルドとイヴァンは特に偏愛。ばさらは家三とか奥州の愉快な仲間達と毛長がメインです。うずみさんが現在官三とか官佐にずっぽりとはまり中。
基本は、愛想のかけらもない「ネット怖い~」の書き手が二人で色々書いている場所です。


書いている人


みっし

・生真面目で堅物でムキムキな男性と一見そうじゃなくても根は真面目極まり ないキャラをこよなく愛している、がんかたうるふの片割れ。編み物とお菓子作りが趣味という、第三者曰く可愛らしい一面を持つ反面、パニクると踊ったり、オロオロしだして周囲は見ていて楽しいらしい。荒ぶる舞は、職場の名物だったりする……らしい。
イヴァンちゃんと片倉さんとシズちゃんとスカイハイさんと陛下を思いっきり愛している。好きなアニメは銀魂と最近はFate/zero。型月ファンというよりは元から虚淵ファンでうずみさんからオススメされまくった末にようやっと手を付けて完読した。ライダー組おいしいです。エクシリアではダントツで陛下が好き。陛下が使用可能になる完全版があるなら複数買いしても構わないとのたまう日々。バサラの好きキャラは片倉さん一強だったはずなのに最近はアニキも熱い。かっちり着込むキャラがすきだったはずなのにいきなり露出度が高いキャラを好きになったのは何故か悩む日々。二次元の向かう愛と同じぐらい甥っ子への愛を叫んでいる気がしてならない。



うずみ
・相方を愛しすぎている変な人。趣味は畑仕事に漬け物作り、好きな物は不幸属性の美人(男女問わず)。ばさらでは石田さんと黒田さんをこよなく愛していたり、赤い子めんこいにゃぁとたまに叫んでいる。

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ばさら垢できました
こんな二人で、ここを更新しております。

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