こちらはサークル「がんかたうるふ」のうずみとみっしの二人組が、ラッキードッグ1とばさらのこばなしを黙々と投下する場所です。
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○作家の毛利さんと大学生長曾我部くんのゆるぐだらいふ。意外と長くなってしまいましたがこれにて鶴姫編終わります。次は秋の話になる予定。
書いた人:みっし
書いた人:みっし
*****
「…本当に、大丈夫か?」
「くどい。大丈夫だと言っておろう」
「お兄ちゃんさっきから何回も言ってますよ、それ」
多くの人が行き交う駅。
その改札前の隅っこにて大荷物を抱えた少女・鶴姫と、比較的身軽な青年・元親と、何も手に持っていない手ぶらの青年?・毛利が深刻な面持ちで話していた。顔だけ見れば、一体どれだけ深刻なことを話しているのかと疑うだろう。
実際話していることを聞くと、そうでもないのだが。
「だけどよぉ…毛利だぞ?ようやっと無洗米で米が炊けるようになった毛利だぞ?それでも水加減間違えて異常に固くなったり、おかゆぐらいの柔らかさになるような米を炊く毛利だぞ?…一人にしておいて家が大丈夫なのか、今更不安になってきた…」
沈痛な面持ちで頭を抱える元親を見て、妹である鶴姫も困ったように眉根を寄せる。
「…レンジでゆで卵はアルミホイルを卵にまかなきゃ駄目なんですよー、って言ったのに普通にレンジで直接加熱して爆発させてましたしね…」
そして元親と鶴姫は心底案じるような、視線で目の前の毛利を見やる。
「…なんだその目は。大体そなたが来る前は一人でも生き延びていたのだから今更一週間や二週間は何も影響が無い」
「…自信満々に言われてもあんたに言われるほど説得力のねぇことはねぇよ!!」
「ないです!」
元親と鶴姫の二人が案じていたのは鶴姫と一緒に元親が実家に帰省する間、家事全般壊滅的な毛利がどうやって一人で生き延びられるのかということだった。
元親の妹である鶴姫が単身上京してきたのは、3月に進学の為に上京してきた兄が一向に家に帰ってこない事に業を燃やし、最終的には両親の承諾の元おうちに帰るまでは私がお兄ちゃんと一緒にいます!むしろ一緒に帰ります!言い出したためだ。
元親はというと選んだバイトが特殊だったこともあり、夏の間に一回は帰ればいいやぐらいに割と呑気に捉えていたのだが妹の襲来でそうも言えなくなった。何せ夏休み中は大掃除という名目で毛利宅の居候になっていたのだ。そこに己の妹までもが乱入するのはさすがに申し訳ない。とはいえ毛利の許しを得て、妹も一緒に毛利の家に世話になることになった。
これが、少しだけ前のこと。
なんやかんやあって鶴姫は毛利に懐き、意外なことにあの毛利も鶴姫は可愛がった。単純に元親も三人で過ごす事は楽しかった。だが、ずっとこうしているわけにはいかない。
何せ鶴姫はまだ小学生。既に二十歳を迎えている自分はともかくいい加減家に帰さなければ両親、特に父親が鶴姫恋しさにおかしくなる頃だろう。男親とはそういうものであるらしい。この辺は大谷から聞いた事である。
実家に帰りたい気持ちが元親の中にも無いわけでは無かった。何せ生まれ育った街だ。会いたい人も居るし、やりたいこともある。
ただ、頭の中でひっかかるのが毛利の事だった。生活能力皆無の雇い主を放置していくのも心苦しい。しかし妹は帰してやりたい。自分も帰りたい。日々家事を行いながらもうんうん唸って考え込む元親に助け船を出したのは意外にも毛利当人だった。
「とりあえずそれだけ悩むのならとりあえず一回は帰れ」
どこでどうやって知ったのかはわからないが、地元までに必要な大人一名、子供一名のチケットが手渡されたのだ。
そして迎えたのが今日のこと。
元親と鶴姫は、これから実家に帰る。毛利はその見送りのために二人を送ってきたのだった。
「…だから、子供ではないのだから心配はいらんと言っておろう!!」
先程から何度も何度も繰り返される行動にさすがの毛利も眉間に皺が寄ってきた。確かに何度も何度も同じ事を繰り返し言われるのは飽き飽きするのは道理だろう。
だが言う方にも事情はある。
「だって毛利だぞ!?」
「だって毛利さんですよ!?」
数ヶ月の付き合いがある元親と、数日間にわたり一緒に過ごしただけの鶴姫には、毛利の家事能力の無さ、もっと言えば生活能力の無さを嫌と言うほどに思い知っていた。
だから不安が無いと言うわけでは無く、正しくは不安しか無いのだ。
「…人間ゴミに埋もれても死なないから安心しろ…それに、何かあったときはメールなり電話なりをする。それで良いだろう。…大体親に何かあってからでは遅いのだから今からでも親孝行をしてこい」
もうすぐ時間だぞ。
そう言いながら毛利は半ば強引に二人を改札の向こうまで追いやろうとする。
「お兄ちゃん…毛利さん良いこと言ってるけど前半が何かおかしいです…」
「良いこと言ってるけど明らかに前半おかしいだろ…」
気の合う兄妹は気にするところも一緒だった。
ゴミに埋もれてとはどういうことだ。まずはゴミに埋もれない努力をしろ。そうは思ったが言えなかった。
「まぁ、確かに、親孝行しろってのは最も話だけどな」
数ヶ月は両親と会っていないのだから少しは親孝行しろという毛利の言葉は確かに納得が行くと元親も思う。
「そうですねぇ。折角浅草寺にも行ったのでお土産も渡したいですし」
そう言いながら鶴姫は今日の午前中に行ってきた浅草寺で購入したお守り一式が入った袋の中身を見る。
毛利は良いことは言っている。
癖はあるが、悪い人間では無いのだ。
ただ、駄目人間であるだけで。
「…まぁまたすぐ会える元親はともかく、鶴姫。また機会があったら来るが良い。…部屋は開けておいてやる」
不機嫌そうに言われたそれが、毛利にとっては最大限の譲歩であると気がつく人間は少ないだろう。
「わぁ!ありがとうございます!楽しみです!!」
毛利からの言葉を受けて鶴姫は心底嬉しそうに微笑んだ。
鶴姫はその毛利の譲歩に気がつく、少ない方に属する。というか子供嫌いの毛利が例外的に可愛がるのがこの鶴姫なのだ。
他の子供と違って自分と対峙してもギャーギャー泣くわけでも無い、むしろ押せ押せの姿勢を崩さず、その上で礼儀正しい一面もあり、その上小学生にしては家事全般がこなせるハイスペック小学生女児。それが毛利の中での鶴姫という少女の印象、そしてもう一つ重要な要素があった。
「…やはりこの妹という生き物は恐ろしい…!!恐ろしいぞ元親!?何だこの凶悪可愛らしい存在は…!!」
毛利元就は鶴姫の襲来からすっかり、妹萌えに目覚めていた。
作家として萌え要素を提供する作品を書きながらも、いまいちその萌えが理解出来なかった毛利だったが、鶴姫の訪問により妹萌えに開花したらしい。
そんなもんは別に知りたくなかったと思うのは元親だけだろうか。
興奮する雇い主のあまりの変貌に半ば引きながらも己の妹が褒められるのは嬉しい兄馬鹿である元親は、やはり少々引きながらも答えた。
「…まぁ前にも言ったけど鶴が色々出来るだけで世の中の妹が全てこんな感じじゃねーからな!?覚えておけよ!?」
むしろ見る女性全てに妹属性見つけて喜んでいるのだろうか。そんなに変態だったらどうしようと思いながら元親は問いかける。だがフッと得意げな毛利から放たれた言葉はやっぱり残念の極みだった。
「わかっている。我の妹萌えは長曾我部鶴姫限定ぞ…」
「余計に性質悪ぃ!!」
何で人の妹の名前をフルネームで呼ぶ。余計に残念だ…!!
外見はかっこいいはずなのに言動の残念さが全てを覆い尽くしている。
「お兄ちゃん?いもうともえってなんですか?」
「…まぁ可愛いって意味の一つだ。あんまりつかわねぇけどな…」
「わかりました!」
萌えの本当の意味がわからないまま笑う鶴姫を見て元親は思った。お前はどうか、毒されるなよ…!と。
毛利の事は嫌いでは無いし妹を可愛がってくれるのは良いのだが、その残念な言動から鶴姫が良からぬ事を学ばないかそれだけが心配な兄・元親であった。
その元親も、世間一般の兄と比べ妹に対してやや過保護な面があるという自覚は無い。
毛利にしても好きな長曾我部の妹だからより可愛いと思っているのだが、自覚は無い。
自覚が無い。
鶴姫を巡るこれらの件、その一点において元親と毛利は、とてもよく似ていた。
「…とりあえず、ゴミは捨てろよ。いや捨てなくても良いから一カ所にまとめておけよ?全部インスタントでもいいから、生ゴミ溜めるなよ!?本当にこの時期はやばいから気をつけろよ!?」
「毛利さん、本当にお世話になりましたー!」
最後まで慌ただしいまま、長曾我部兄妹は実家に帰るために、去って行った。
改札の向こうに行ってもぶんぶんと全力で手を振る鶴姫と、それとは反対側の手をしっかりと握る元親はあっという間に見えなくなった。
残されたのは、毛利一人。
「…これからしばらく、静かになるな」
呟くながら、家に帰るために歩き出す。
すれ違う人々は誰も毛利に反応しない。顔を出さない作家であるし、当然だろう。最も毛利にとってはそれが好都合だったのだが。
思えば夏休みに入ってから、元親が家にいない日はほとんど無かった。そしてここしばらくは元親に加えて鶴姫がいた。自分が嫌いなはずの賑やかで、騒がしい日々。これで静かになるのだ。だけれども、毛利は思う。
何故、それが寂しいと感じるのかと。
昔から、一人でいることが好きだった。
他者に気遣う必要も無く、自分が好きな事だけをしていれば、ただそれでよかったから。
子供の頃から、成人し、作家になってからもそれはずっと変わらなかった。
それが変わった理由は、自分が一番よく知っている。
「…随分と甘くなったものよ」
十歳以上年下の子供に絆されるとは、自分もまだまだだ。
そう一人心の中で思いながら、待ち受けるであろう締め切りへ気持ちを新たにするのだった。
それから一週間後のこと。
長曾我部家では久々に家族四人が勢揃いし、賑やかな日々を過ごしていた。墓参りに行ったり鶴姫の希望で買い物に行ったりと平穏な日々である。
兄である元親はというとほとんど課題を終えてしまったのでやっぱり家事をやっている。妹である鶴姫はというと、ここ最近は携帯とにらめっこしていることが多い。夏休みの宿題を終えたとは言っていたが一体何をしているのやら。
その時両親は買い物に行っていて家には元親と鶴姫しかいなかった。だから家中クイックルしていた元親はリビングで携帯をいじっていた鶴姫に尋ねたのだ。
「鶴?お前ここんとこずっと携帯いじってねえ?何してんだ?」
「あ、お兄ちゃん。毛利さんからメールがきたんですけど…何か変なんです」
「…毛利ぃー?…あいつ一体何送ってきたんだ?」
確か鶴姫が戻る前にメアド交換はしていたから連絡を取っていても不思議では無いのだが変とは何が変なのだろう。まさか妹萌えについて長々語っているわけじゃないよな…。
内心覚えながら鶴姫の隣に座り、元親は鶴姫用のピンク色の携帯に手を伸ばした。
『すいはんきのみずのりょうとはどちらにあわせるべきなのだ』
その言葉と共に表示された写真には炊飯器の水の量を指す毛利の指が写っていた。
「…なんだこれ」
「えーととりあえず『無洗米にあわせてください。数字は入れたお米の合数に合わせます』と送りました。」
何故炊飯器。
そして何故に米。
オールひらがなであるのは何故であろう。
「…普通の米と無洗米の水の量が違うって事に気がついて慌てふためいたのか…?」
「多分…」
次に来たのはこれです、と鶴姫は新たなメールを開く。
『みそをやく』
「……訳がわかんねええええええええ!!なんだこれ!?暗号か!?暗号なのか!?」
「お味噌は焼いても食べますけど、お味噌汁ならだしに溶かしてくださいね、って送ったんですけど…」
かゆ、うま。よりもわからない。毛利の暗号は難解すぎる。
「…つか俺がメール送っても『いじょうはない』しか書いてなかったのになんだこれ…」
一応というか毛利が心配だったので送ってもそれしか返事は無かったのに、何で鶴姫には送っているのか。
なんだかもやもやした気分に鳴っていたとき、玄関のチャイムが鳴ったと思うと、鶴姫がパタパタと駆けだしてしまったので元親も慌てて追いかける。
「はーい?どちらさまですか?」
ドアフォンの向こうには二人の人影が見える。
『長曾我部妹か。私だ。石田三成だ』
『ワシもいるぞー!!』
『…貴様はまず名乗れ!!』
ドアの向こうでドンゴンガンと物騒な音が響き渡る。
「石田のお兄ちゃんと徳川のおにいちゃん…ですね」
「…あいつら人の家の玄関壊すなよ…」
とはいえ騒がしいのは避けられないものの、見知った人間の来訪に元親はドアを開けたのだった。
「お前らも帰ってきたんだな」
リビングで人の家とは思えぬ勢いでだらける家康と、きっちり正座しつつも鶴姫と手遊びする石田。高校時代に見慣れた光景を目の端に捉えつつ、元親は二人とそして鶴姫に麦茶を差し出した。
「まぁ、夏休みも終わるしな…今年の夏は毛利殿のお陰で妖怪本を多数閲覧出来た良い夏だった…!!」
「色々突っ込みてぇんだけど東京行ったり北海道行ったりしたことを差し置いてまずは妖怪本!?お前の基準がわけわかんねぇ!」
とても楽しげな家康の言動につっこまざるをえない。何故基準が妖怪本なのだと。
「む!?確かに東京行きも北海道行きも楽しかった!…だが、妖怪はワシにとって人生の楽しみを与えてくれる存在なのだ!!」
拳を掲げて宣言するほどの事なのだろうか、そう思いながら元親は茶を啜る。
家康は長い海外生活の間、持って行った日本語の本が何故か妖怪漫画だけでソレを繰り返し読んでいるうちに妖怪ファンになったという経緯があるとは聞いたことがある。だから思い入れも強いのだろう。
「見ろ!!毛利殿の家にあった蔵書を繰り返し読んだ結果、某妖怪漫画の巨匠の絵を真似て書けるようになったぞ!!」
どこから取り出したのか小さなスケッチブックには何とも言えず、味のある絵で「みつなり」と確かに言われてみれば石田の面影を残した絵が描かれている。
「…すげぇけど日常生活で使えねぇ!!つか勉強しろよ受験生!!」
何というか人生を楽しんでいるのは間違いないのだろうが、それが正しいのかと言うと途端に首を横に振りたくなる元親だった。人生を楽しむのは大事だ。だがコイツは楽しみ過ぎている、と。
「見ろ!!元親も書けるぞ!!」
「かかんでいい!!落ち着け!!あと勉強しろって言った俺の言葉聞いてたか!?」
そんなキラキラした目で俺を見るな!!
元親が内心とても慌てたその時、「無駄だ」と声がかけられた。
「…家康に、勉強方法云々を言っても無駄だ。こいつの勉強法は、特殊すぎる」
それは鶴姫との手遊びを終えた石田の言葉だった。鶴姫はと言うと今度は家康の元に行き、妖怪漫画ちっくな絵を見ては喜んでいるようだった。
「…特殊って…どういう意味だよ?」
元親の問いかけに、石田は溜息をつきつつこう言った。
「家康の勉強法とは、暗記だ。ありとあらゆる教科書、参考書全てを読んでの丸暗記。…恐ろしいことにこいつはそれらを全て記憶することが出来るんだ」
「それって反則じゃねーか?」
ドラ○もんの秘密道具並みの反則さである。あちらは空腹で無ければ対処出来なかったがこちらはそんな制限も無い。
家康マジチート。
瞬時にそんな言葉が二人の脳内に浮かぶ。
「…とはいえ万能では無い。暗記が通用しない、たとえば現代文や古文などは、こいつの成績はすこぶる悪い。数式の応用などが可能な理数系の科目の方が良い」
「…まぁ文系は暗記で勝負するもんじゃないしな…」
文系科目に苦手意識を持つ元親は思わず頷く。
「だから、一緒に勉強とは言ってもペースが違うしやることが違うのだ。私が問題を解いてる一方で、家康はただ読んでいるだけだからな。当然家康の方が早く終わる。そして暇を持て余して、邪魔する…まぁ今回その餌食になったのは毛利殿だったがな…」
はぁ、と溜息をつく石田に疑問が湧く。
「…なんで、そこで毛利?」
「ああ、長曾我部と妹が帰った後のことなんだが…」
そうして石田は語り始めた。
毛利が夏休み期間中にも関わらず書き上げた次作のプロットが膨大すぎて、通常業務で手一杯の黒田のチェックが及ばなくなった。言っておくが黒田は有能な編集者である。ただ毛利がその処理能力を上回るぐらい仕事をしてしまうというだけで。とはいえ折角書き上げたプロットを放置しておくのはもったいないという社長・大谷の判断の下そこで白羽の矢が立てられたのが、間違いなく個人情報を保護できるであろう身内の人間、石田三成だったのだという。
文章を読める、日本語として正しい文章を知っている。誤字脱字のチェックも問題なしということで三成は短期バイトという扱いで黒田の業務を手伝ったのだという。
「…最初は刑部の会社で行っていたのだが、そのうち毛利が切羽詰まってきてな…家まで行くことになった。そこに、本を読みたがった家康もついてきたんだ」
「切羽詰まるって…毛利は確か…書くのは早いんだろ?何でだ?」
毛利の筆の速さはとんでもないものらしく仕事をし過ぎて逆に担当泣かせだと黒田がいつかぼやいていたのを聞いたことがある。その彼が何故切羽詰まらなくてはならないのか。それに執筆中の毛利は基本的に人を近づけさせないはずだ。
それに対して石田は苦々しげに顔を歪める。
「…早く書きすぎるのも問題らしい。周りへの注意能力が著しく落ちるし、挙げ句の果てに電話にも気がつかなくなった。毛利は自分で知っているのかはわからんが『書くこと』のみに感覚が特化して、他は何もできなくなるらしい。さすがに死んでたら困るから様子を見てこいということで私が行ったのだ。刑部も、黒田も休み明けで忙しかったからな」
「…あいつすげーけど駄目なんだな」
作家が仕事し過ぎて自宅で死亡なんてシャレにはならん。というか自宅で過労死しかねない勢いである。石田は頷き、そして続ける。
「まぁ体調管理も仕事の一環と言われれば、明らかに駄目な人間だな…。とはいえ普段はそこまで酷くは無いらしいが…今回はなんだか知らんがツボに入ったが如く周囲のものが見えない勢いで仕事をはじめたらしい。…よっぽど新作が書きたかったんだろうな…他の仕事は全て終えていたらしいから」
チェックも兼ねて水分補給と栄養補助食品を渡してきたのが三成のやったことだった。
「…家康がな…腹が減ったと言いだし、私が毛利の原稿チェックをしている間に…炊飯器に入っていた米を食い尽くすということを…」
「…腹壊さなかったのか?…それ…」
いつの米だそれは。
まぁ超人並の腹を持つ家康ならば大丈夫なのかもしれないが。
「一応ある程度は終わらせて周りが見えるようになって、そこでリビングに言って事の次第を把握した毛利はいきなり米を炊くと言い出してな…その途中で携帯を掲げたり、その後も味噌を焼くといってお玉に味噌を載せて焼こうとしたり…訳がわからんかった。ああ、でも米は炊けていたな。一升分」
「炊きすぎだろ!?」
「安心しろ。家康と毛利で味噌をおかずに平らげた」
「ごはんはおかずってレベルじゃねーな…」
しかし、それでようやくあの謎めいたメールの意味がわかった。あれは毛利なりの状況報告だったのだろう。多分。
だが、鶴姫へのメールが状況報告だったとするならば、元親が送ったメールへの返答である、あのメールは何だったというのだろうか。
「…あいつは、原稿中はメールやら何やらにはきづかないんだよな…?」
石田はああ、と言いながら頷く。
「…担当が踏み込んでやっと気がつくレベルらしいから、まず気づかないだろう。今回は特に酷かったらしい」
ならば、何故。
恐らくは修羅場まっただ中の毛利は、元親が送ったメールには返信をしたのだろう。
何故、それには気づいたのだろう。
その問いに、答えをくれる人間はいなかった。
毛利元就は疲れていた。
調子に乗って書きすぎたとも言える。しかし筆のノリが良い時に書いてしまいたいというのが作家という者で。かつ膨大な量を書いてしまうのが毛利という人間で、結果締め切り前なのに頼まれていた原稿のみならず、自分で書きたいからと新作を書いてしまった自分が悪い。
リビングのソファで寝転がりながらぼんやり考える。
家の中は静かだ。自分以外に人の居る気配がしない。ずっとそれが、当たり前だった。家政婦が居るとき、担当や大谷が来るとき以外は誰も来ない。それが日常だった。毛利元就が望んだ、平穏な暮らしだった。
「…つまらぬ、な…」
だけれども今は、望んだそれが酷く退屈に思える。
そう思うようになったのは、きっと、たった一人の存在のせいだ。
からかってやろうと思っていた。
派手な外見に似合わず、意外にも純情そうな青年を。
だけどどういうことだろう。気がつけばいつしか惹かれていた。そして多分、どうしようも無いところまで、来ている。
無理にこじ開ける訳では無く、彼は自然と入り込んでいた。馬鹿で、がさつで、だけど、人の心を思いやる不思議な男。どこか、孤独の影を背負った子供。
気づいた方が、負けなのだ。
「おーい、生きてっかー毛利」
気がつけば、望んだ存在が目の前にいた。
「…元親…?何故お前がここにいる…」
実家に帰っているはずでは無かったのか。帰る前よりも少々日焼けしたような、それでいて人よりは白い肌の色を見て、元親本人である事を再確認する。
「電話しても出ないし、メール送ったんだぜ?今日の午後にはそっちに戻るって」
見ると元親は駅から自宅には寄らず、毛利宅に直行したようで結構な大荷物を持っていた。慌てて毛利はそばに置いていた携帯を確認すると、それと同時に眉根を寄せる。
「…充電切れだ…」
「…んなことだろうと思ったぜ…とりあえず、簡単にでも今から掃除するから、寝るなら寝室で寝ろ」
そう言いながら元親はどこから持ってきたのか見慣れたエプロンを身につける。
何故、ここに居るのだろうか。
「…親孝行は、もう良いのか」
ふと口をついて出た言葉だった。深い意図があったわけでは無い。なのに、元親はそれを聞くと、溜息を吐きながらこういった。
「お兄ちゃんは、毛利さんの所に行ってあげてください。鶴がお兄ちゃんの分も親孝行しますから、お兄ちゃんは毛利さんのお世話をしてください…そう鶴の奴が言うからよぉ…俺としてもアンタが無事に生き延びてるのかどうか不安だったから、急いで帰ってきたんだよ」
どうやら予想外の早い帰宅は、鶴姫の提案だったらしい。
「それにあいつ、変なこと言うし…まぁ良いけどよ。…つか予想はしてたけど相変わらずひでぇな!!物が多すぎてルンバ止まってるじゃねーか!!…あー…水回りの掃除が恐ろしい…」
ぶつぶつ言いながらもすぐに準備を始めるのは家政夫としての宿命だろうか。毛利自身を寝室に追いやりながらもあれこれと次の予定を立てているようだ。
うるさい。
さわがしい。
だけど、不思議と落ち着く。
ああ、戻ってきた。毛利は自然に、そう思えた。
だから言った。
「元親」
「あ、どうした?」
寝室に入ろうとしている毛利を見送り、既に完全武装で掃除しようとしているらしい元親は怪訝な顔で問う。
「…おかえり」
それだけ言ってドアを閉めると、のたのたした動きでベッドに飛び込む。
帰ってきた。
それだけで嬉しくなる自分は、まだまだ子供なのかもしれない。そう思いながら、毛利の意識は夢の中に落ちていった。
「…どういうつもりだ…あいつ」
掃除しながらも元親の頭を占めるのは先程の毛利の言動だった。
おかえりなど、今まで聞いたことの無い言葉だった。それと共に鶴姫から言われた言葉が蘇る。
『お兄ちゃんは、帰るおうちいっぱいあります。でも、毛利さんはないです。そう言ってました。だからお兄ちゃんが帰ってあげないと、もうりさんは一人です。…一人は寂しいです』
あいつが寂しがるような人間かと思ったがそれは言わなかった。
『私は大丈夫です。だから、いってあげてください』
妹から、満面の笑みでそう言われてしまっては従う他ない。
ただ毛利が鶴姫を構うのを嬉しい反面、もやっとする気持ちやあのメールを見てもやっとするこの感情は何なんだろう。
元親がそれに気がつくのはもっとずっと後の事。
その後、毛利とメル友になった鶴姫が連休の度に上京するようになったのは、また別な話である。
○夏休み編おわりー。北海道旅行編も夏休みに含めるとめっさ長かった…。次からは秋編です。
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色々説明
拍手現在豊臣家転生パロ中学生編入ってます
(現在2本 家三 チカナリです)
注意事項
・フリーリンクじゃないです、基本的にはリンクはお断りしています
・ひっそりこっそりが信条なので、黙々と
・捏造、not公式のこばなしが多いので、スルー推奨
ラキドでは幹部全員を溺愛しておりますが、ベルナルドとイヴァンは特に偏愛。ばさらは家三とか奥州の愉快な仲間達と毛長がメインです。うずみさんが現在官三とか官佐にずっぽりとはまり中。
基本は、愛想のかけらもない「ネット怖い~」の書き手が二人で色々書いている場所です。
書いている人
みっし
・生真面目で堅物でムキムキな男性と一見そうじゃなくても根は真面目極まり ないキャラをこよなく愛している、がんかたうるふの片割れ。編み物とお菓子作りが趣味という、第三者曰く可愛らしい一面を持つ反面、パニクると踊ったり、オロオロしだして周囲は見ていて楽しいらしい。荒ぶる舞は、職場の名物だったりする……らしい。
イヴァンちゃんと片倉さんとシズちゃんとスカイハイさんと陛下を思いっきり愛している。好きなアニメは銀魂と最近はFate/zero。型月ファンというよりは元から虚淵ファンでうずみさんからオススメされまくった末にようやっと手を付けて完読した。ライダー組おいしいです。エクシリアではダントツで陛下が好き。陛下が使用可能になる完全版があるなら複数買いしても構わないとのたまう日々。バサラの好きキャラは片倉さん一強だったはずなのに最近はアニキも熱い。かっちり着込むキャラがすきだったはずなのにいきなり露出度が高いキャラを好きになったのは何故か悩む日々。二次元の向かう愛と同じぐらい甥っ子への愛を叫んでいる気がしてならない。
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うずみ
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