こちらはサークル「がんかたうるふ」のうずみとみっしの二人組が、ラッキードッグ1とばさらのこばなしを黙々と投下する場所です。
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終わりました~
これでラストです。
これでラストです。
*****
大谷吉継が死んだという報せが家康の元に届いたのは、三成が越後へ向かってから半年程後のことであった。慌てて駆けつけた家康を待っていたのは小さな刑部の墓と、謙信の三成はもう越後にはいないという言葉。大谷が死んだ後、彼は旅に出ると言ってお市を連れて越後から姿を消したそうだ。
漆黒の馬に乗り一人の女を連れ、清々しい笑顔で去っていった三成。
そしてその後の行方を知るものは誰もいない。
手を尽くして探したし、三成の縁のある武将たちにも行方を聞いてみたが、石田三成という人間がいたという痕跡すら見つけることができなかった。海を越えて異国へ行ってしまったのでは、そう言い出す人間もいたが家康はそうではないとわかっていた。
いつかまた会おう、そう彼は言い残していったのだ。
そして家康が作る国で生きるとも言ってくれた。
己の信念を覆すことを何よりも嫌う彼が、約束を破るわけがない。だからきっとこの国のどこかで生きてくれているはずなのだ、三成は。
いつか会える、そして次に出会った時こそ離しはしない。そんな思いを抱きながら、家康は新しい国を作るために奔走してきた。
時代は流れ、人も変わっていく。
幸村は正式に信玄の後を継ぎ、先日家康に挨拶に来た。謙信も仏門に入っていたという甥を還俗させ、後を継がせるつもりらしい。政宗と小十郎は時々羽州と小競り合いを起こし、その度に家康が仲裁を行っている。
松永は……時折噂を聞くが、あれから一度も彼に会うことはなかった。
だからといって隠棲しているわけではなく、彼が起こす騒ぎは家康の耳に入ってきてはいたのだが。その騒ぎが小さな者で、天下人である家康自らが出向くようなことでもなかった。それ故彼とはすっかり疎遠になってしまったが、いつか彼とは雌雄を決する日が来るのだろう。
その時までに人としての力を蓄える。
酒の席でそう告げた時、元親は家康の首を抱きかかえながら喜んでくれた。その元親はといえば相変わらずの自由奔放ぶりで部下を泣かせているようだが、楽しく過ごしているようだった。船とからくりをこよなく愛し、自由に海を駆け回っては様々な宝を手に入れてくる。それを時折家康の元へ持ち込んでくるのは、気晴らしの機会がほとんど無い家康を気遣ってのことなのだろう。
何度か元親と共に駿河を訪れた毛利は渋い顔で元親の悪口を言っていたが、なんやかんやでこの二人は上手くやっているようだった。会う度に説教されるので毛利のことは正直苦手なのだが、元親と交わし合う視線のなまめかしさが増したというか。
正直、三成以外の同性に色香を感じてしまう自分が怖い。
その件を慶次に相談したことがあったのだが、彼から帰って来るのは妻と息子の自慢話ばかりで。前田利家の所にも子供が生まれ、島津は孫の話をすることが多くなった。
誰もが前に進み、輝かしい未来を作り上げている。
だというのに家康だけは立ち止まったまま。
どこかの誰かが幸せになるために、戦のない新しい国を作り上げる。
それによって幸せになった人間はたくさんいる、だけど家康だけは幸せを実感できたことなど一度もなかった。家康を幸せにしてくれるこの世でただ独りの存在である三成が、側にいてくれないのだから。
それが自分の負った罰だとわかってはいる。
秀吉を討ち、この国を作り上げたことに後悔はない。だが三成はそのために全てを失ってしまったのだ。全てを奪われた彼がもう二度と自分に会いたくないと思うのは当然。
いつか三成に再会し、そしてもう一度彼をこの腕に抱きたい。
「三成………お前は今どこにいるのだ………」
目の前を舞う桃色の花びら、そして上を見れば視界を染める同じ色。
大阪城から移動させて数年。
庭師たちの努力の甲斐があったのか、桜はようやく花をつけてくれた。淡く、雲と混ざり合ってしまいそうな淡い色の花びらが間断なく降り注ぎ、家康の心を過去に引き戻していく。
昔はこの桜の下で、皆で騒いで過ごしたのだ。
あの時はまだ半兵衛も生きていた、家康が殺すことになる秀吉も笑っていた。初めて出会った頃の三成はまだ背も伸びきっておらず、刑部の背中に隠れながら家康を睨み付けるのが日課の様な状態だったが。。
そんな三成の手を無理矢理引いて、この桜の下を二人でよく歩いた。
三成は文句を言いながら逃げようとしたが、何度も同じ事を繰り返すにつれ逃げようとしなくなり、文句を言うことも少なくなり。
いつしか笑ってくれるようになった。
この桜の下で三成と語り合い、時には技と力を競い。三成という男にこれ以上ない程の愛情を抱いたのだ、あの頃の自分は。
あの桜の下をもう一度歩きたい、そう望んだ三成は側にいないけれど。
三成が望んだ光景を家康も見ることができた、今はそれで満足しておこう。この桜が咲いたことを知れば、いつか三成もここへ来てくれる。
そんな確信のような物が家康の中にはあった。
「さて、そろそろ儂も行くとするか」
頭に降り注ぐ花を手で払いながら、家康はそう呟く。
完成したこの城に、家康は江戸城という名前をつけた。今日はこれからこの城の完成を祝う宴が開かれる。
家康と三成の戦いに助成し、そして今後も見守ってくれる武将たちを招いて。
城の主である家康が祝いの席に遅れたら、口うるさい毛利辺りに何を言われるかわかったものではない。無限に広がっているのではないかと錯覚しそうな桜の林の一番奥に、酒宴の準備がなされている。
家臣たちにはいつもの服で参加することについで散々言われたが、今日の客は家康のことをわかっている者ばかり。関ヶ原の戦いの後もずっと着続けた黄色の戦装束はかなりくたびれてはきているが。
これを着ていれば三成にすぐ見つけてもらえるのでは、そんな思いがあったなかなか脱ぐことができなかった。
家臣たちにまた怒られたくないので桜の中に逃げ込んでいたが、そろそろ行かなければ別な理由で怒られてしまう。少し早足で桜の中に作られた酒宴の場へ行くために足を動かそうとすると、何かが足にぶつかった。
「おおっ、随分と小さな客人だな」
「たぁたっ」
「お前は『たぁた』というのか?」
小さな、言葉もおぼつかない子供だった。
降り注ぐ花びらと同じ色の着物を着ており、黒髪には桜の花びらが絡みついている。黒目がちな瞳と整った顔は将来この子が凄まじい美姫になることを教えてくれるが、この子は一体誰の子供なのだろう。
慶次の子供かとも思ったが彼の子供は男だし、第一こんなに暗い色の髪ではなかった。
前田利家の子はまだ生まれたばかりなのでこんなに大きいはずがなく、他に子が生まれた家の話を聞いたことがない。どこかの子が迷い込んできた可能性も考えたが、着ている着物の布地がかなり上質のものであったのでそれも違うようだ。
ならば島津が孫でも連れてきたのだろうと家康は結論づけ、家康の周りをくるくると回り続ける子供を抱き上げ、一緒に連れて行くことにした。
おぼつかなげに歩いていた小さな足が、空中でぶらぶらと揺れる。
「お前の父か母を探しに行くか」
「…………あぃ!」
「元気のいい子だな、あとで長松とも遊んでやってくれ。妹が欲しいらしいのでな」
抱き上げられてきゃっきゃと喜ぶその子を抱きながら、桜の木々の間を進む。
家康が遠縁の親族から引き取った子供は、すくすくと育っている。忙しすぎてなかなか構ってやれぬが、忠勝が己が子のように愛おしんでくれているので全く心配していない。
今日も忠勝と一緒に、先に宴の場へ行っているだろう。
可愛い妹が欲しいとこの頃会う度に言っている長松は、この子を見たらどれだけ喜ぶだろうか。可愛らしく元気に満ちあふれ、なにか目新しい物を見つける度に手を振り上げて喜ぶ姿は家康の口元を自然とほころばせた。
「なあ、お前の名は何というのだ?」
「こぉたん」
「こおたん? おかしな名だな……」
幼い故まだ上手くしゃべれないのだろう、だが人なつっこいのか家康のことを警戒する様子が全くなかった。ぺたぺたと家康の顔に触ったり、鳥の羽音を聞いては自分も腕を動かしたり。顔に桜の花びらをつけ満面の笑みで笑うその子供が、目当てのものを見つけ大きな声を上げた時も、家康はなにも気に留めることはなかったのだ。
「たぁたん!」
途端に家康の腕から抜け出して飛び降りると、よろよろしながら一直線に駆けていく先。
「お江! こんなところにいたのか……どれだけ探したと思っている!」
「たぁたん」
「千徳は先に行っているぞ。このじゃじゃ馬娘が……あとで叔父上に叱ってもらうからな」
「やぁ~」
「やだではない、ふらふら歩くなといつも言っているだ………」
家康。
その唇が自分の名を紡ぐのを、家康は信じられない物を見るような顔で見つめることしかできなかった。
白い僧服に包まれた体、特徴的な前髪は同色の頭巾に包まれ。
はらはらと舞う桜の中、わずかな風に僧衣の裾を揺らしながら。
もう一度だけ彼は自分の名を呼んだ。
「家康………」
「……み…………みつ……なり…………?」
「久しぶりだな、あれから2年……いや3年か」
「生きていてくれたのだな」
「私が死ぬわけがなかろう。皆に生かされた命、無駄に捨てるわけにはいかん」
晴れやかな顔で、三成が笑う。
今まで何をしてきたのか、何故連絡してくれなかったのか。そして時間は彼の中の自分への憎しみを薄れさせてくれたのか。
聞きたいことはたくさんある、伝えたいことも。
だが最初にしたいことは一つだけ。
「三成………ようやく……会えた………」
一気に駆けだし、三成を腕の中へと閉じ込める。
最初は驚いた顔をしていた三成だったが、家康の腕の強さに何かを思い出したのか。
そっと家康の背に己の手を添えた。
「もっと早くに会いに来るつもりだったのだがな、叔父上がせっかくだからこの場にすればいいと」
「叔父上?」
「………何も聞いていないのか!?」
「すまぬが……何故三成がここにいるのか、儂はそこから理解できておらぬ」
「叔父上らしいというか……なんというか………」
家康の腕の中、目を細めて笑む三成は家康の肩に頭巾に包まれた額を乗せた。事情がわからぬ鳴りに何か嬉しいことが怒っていると理解したのか、三成の足にしがみついて喜びの声を上げている子供に頭を撫でてやりながら三成の話は続いていた。
「私は上杉家の養子……ではないな、早世した謙信の甥御殿の代わりになったということだ」
「代わり……?」
「今は上杉景勝として生きている、お市も私の妻として越後にいるが名ばかりの妻だな……これもお市の子だ。松永が武田に話をしてくれて、武田家の姫として私に輿入れしたことにしてもらった」
「儂は、三成は刑部の葬式の後旅に出たとしか聞いておらぬ」
「確かあの時は……色々と疲れたので前々から誘われていた武田に行っていたな。伊達にも年に一度は里帰りしているし、長曾我部や毛利も越後の湯がいいと湯治に来てくれる」
「つまり儂は………騙されていたということか?」
「私に心の整理をつける時間をくれたのだ、皆を責めるな」
皆が三成の行方を知らないと言ったのは、そういうことだったわけか。
越後からいなくなったというのでそれ以外の場所を探していたというのに、越後に残っていたのでは見つかるわけがない。いくら三成が可愛いからといってそれはないだろうと一度は思ったが。
これが三成を傷つけ続けた自分に対して、皆が考えた罰なのだろう。
そうでなければ、情に厚い元親や、感情のままに物事を口にする幸村辺りが教えてくれるはず。この程度の罰ですませてくれた彼らに後で感謝の言葉を言わねばと思っていると、三成の目は天を見上げていた。
彼の目に移るのは、絶え間なく舞い降る桜の花びら。
「約束を……守ってくれたのだな」
ふわりふわり。
舞う花の中、三成は笑みで顔を崩れさせる。
「これくらいしか三成にしてやれることがなかったのでな」
「私は見ていた……良き国を作ろうとする貴様を」
「まだ儂の国作りは始まったばかりだ……これからも様々な事があるだろうな」
「だがやりぬくつもりなのだろう?」
「当たり前だ」
見つめ合い、微笑みを交わし合う。
幸せそうに、満たされ切った顔で笑う三成。
それは家康がもっとも見たかった顔だった。
「時間というのは不思議なものだな……貴様への憎しみは薄れていくのに、会いたいという思いだけが膨らんでいく」
「それは儂もだ。三成の事を考えぬ日はなかった」
「……………………そうか」
短い言葉だったが、そこに込められているのは様々な思いだった。
こうやって笑えるようになるまで、三成は様々な事を乗り越え、そして苦しんできたのだろう。彼の性格上その道程について教えてくれることはないだろうが、こうやって自分の前に出てきたということは。
彼はこれから自分と生きてくれるのだ。
その家康の思いを裏付けるかのように、家康の腕から抜け出して足下の子供と手を繋ぎ。これ以上無い程美しい笑みを浮かべたまま家康の名を呼ぶと。
「行くぞ……皆が待っている」
そう言い、もう片方の手を家康に差し出してきた。
その手をわずかの躊躇もなく掴み、胸に湧き上がってくる喜びと未来への展望を味わいながら。
徳川家康と石田三成は、しっかりと手を繋ぎ。
桜の花びらが降る中を共に歩き始めた。
________________________________________
ということで、終わりました………言い訳とかは後で。
2/13オンリーの新刊はこの後の話とかを書き下ろします。
BGM「fall in love」
漆黒の馬に乗り一人の女を連れ、清々しい笑顔で去っていった三成。
そしてその後の行方を知るものは誰もいない。
手を尽くして探したし、三成の縁のある武将たちにも行方を聞いてみたが、石田三成という人間がいたという痕跡すら見つけることができなかった。海を越えて異国へ行ってしまったのでは、そう言い出す人間もいたが家康はそうではないとわかっていた。
いつかまた会おう、そう彼は言い残していったのだ。
そして家康が作る国で生きるとも言ってくれた。
己の信念を覆すことを何よりも嫌う彼が、約束を破るわけがない。だからきっとこの国のどこかで生きてくれているはずなのだ、三成は。
いつか会える、そして次に出会った時こそ離しはしない。そんな思いを抱きながら、家康は新しい国を作るために奔走してきた。
時代は流れ、人も変わっていく。
幸村は正式に信玄の後を継ぎ、先日家康に挨拶に来た。謙信も仏門に入っていたという甥を還俗させ、後を継がせるつもりらしい。政宗と小十郎は時々羽州と小競り合いを起こし、その度に家康が仲裁を行っている。
松永は……時折噂を聞くが、あれから一度も彼に会うことはなかった。
だからといって隠棲しているわけではなく、彼が起こす騒ぎは家康の耳に入ってきてはいたのだが。その騒ぎが小さな者で、天下人である家康自らが出向くようなことでもなかった。それ故彼とはすっかり疎遠になってしまったが、いつか彼とは雌雄を決する日が来るのだろう。
その時までに人としての力を蓄える。
酒の席でそう告げた時、元親は家康の首を抱きかかえながら喜んでくれた。その元親はといえば相変わらずの自由奔放ぶりで部下を泣かせているようだが、楽しく過ごしているようだった。船とからくりをこよなく愛し、自由に海を駆け回っては様々な宝を手に入れてくる。それを時折家康の元へ持ち込んでくるのは、気晴らしの機会がほとんど無い家康を気遣ってのことなのだろう。
何度か元親と共に駿河を訪れた毛利は渋い顔で元親の悪口を言っていたが、なんやかんやでこの二人は上手くやっているようだった。会う度に説教されるので毛利のことは正直苦手なのだが、元親と交わし合う視線のなまめかしさが増したというか。
正直、三成以外の同性に色香を感じてしまう自分が怖い。
その件を慶次に相談したことがあったのだが、彼から帰って来るのは妻と息子の自慢話ばかりで。前田利家の所にも子供が生まれ、島津は孫の話をすることが多くなった。
誰もが前に進み、輝かしい未来を作り上げている。
だというのに家康だけは立ち止まったまま。
どこかの誰かが幸せになるために、戦のない新しい国を作り上げる。
それによって幸せになった人間はたくさんいる、だけど家康だけは幸せを実感できたことなど一度もなかった。家康を幸せにしてくれるこの世でただ独りの存在である三成が、側にいてくれないのだから。
それが自分の負った罰だとわかってはいる。
秀吉を討ち、この国を作り上げたことに後悔はない。だが三成はそのために全てを失ってしまったのだ。全てを奪われた彼がもう二度と自分に会いたくないと思うのは当然。
いつか三成に再会し、そしてもう一度彼をこの腕に抱きたい。
「三成………お前は今どこにいるのだ………」
目の前を舞う桃色の花びら、そして上を見れば視界を染める同じ色。
大阪城から移動させて数年。
庭師たちの努力の甲斐があったのか、桜はようやく花をつけてくれた。淡く、雲と混ざり合ってしまいそうな淡い色の花びらが間断なく降り注ぎ、家康の心を過去に引き戻していく。
昔はこの桜の下で、皆で騒いで過ごしたのだ。
あの時はまだ半兵衛も生きていた、家康が殺すことになる秀吉も笑っていた。初めて出会った頃の三成はまだ背も伸びきっておらず、刑部の背中に隠れながら家康を睨み付けるのが日課の様な状態だったが。。
そんな三成の手を無理矢理引いて、この桜の下を二人でよく歩いた。
三成は文句を言いながら逃げようとしたが、何度も同じ事を繰り返すにつれ逃げようとしなくなり、文句を言うことも少なくなり。
いつしか笑ってくれるようになった。
この桜の下で三成と語り合い、時には技と力を競い。三成という男にこれ以上ない程の愛情を抱いたのだ、あの頃の自分は。
あの桜の下をもう一度歩きたい、そう望んだ三成は側にいないけれど。
三成が望んだ光景を家康も見ることができた、今はそれで満足しておこう。この桜が咲いたことを知れば、いつか三成もここへ来てくれる。
そんな確信のような物が家康の中にはあった。
「さて、そろそろ儂も行くとするか」
頭に降り注ぐ花を手で払いながら、家康はそう呟く。
完成したこの城に、家康は江戸城という名前をつけた。今日はこれからこの城の完成を祝う宴が開かれる。
家康と三成の戦いに助成し、そして今後も見守ってくれる武将たちを招いて。
城の主である家康が祝いの席に遅れたら、口うるさい毛利辺りに何を言われるかわかったものではない。無限に広がっているのではないかと錯覚しそうな桜の林の一番奥に、酒宴の準備がなされている。
家臣たちにはいつもの服で参加することについで散々言われたが、今日の客は家康のことをわかっている者ばかり。関ヶ原の戦いの後もずっと着続けた黄色の戦装束はかなりくたびれてはきているが。
これを着ていれば三成にすぐ見つけてもらえるのでは、そんな思いがあったなかなか脱ぐことができなかった。
家臣たちにまた怒られたくないので桜の中に逃げ込んでいたが、そろそろ行かなければ別な理由で怒られてしまう。少し早足で桜の中に作られた酒宴の場へ行くために足を動かそうとすると、何かが足にぶつかった。
「おおっ、随分と小さな客人だな」
「たぁたっ」
「お前は『たぁた』というのか?」
小さな、言葉もおぼつかない子供だった。
降り注ぐ花びらと同じ色の着物を着ており、黒髪には桜の花びらが絡みついている。黒目がちな瞳と整った顔は将来この子が凄まじい美姫になることを教えてくれるが、この子は一体誰の子供なのだろう。
慶次の子供かとも思ったが彼の子供は男だし、第一こんなに暗い色の髪ではなかった。
前田利家の子はまだ生まれたばかりなのでこんなに大きいはずがなく、他に子が生まれた家の話を聞いたことがない。どこかの子が迷い込んできた可能性も考えたが、着ている着物の布地がかなり上質のものであったのでそれも違うようだ。
ならば島津が孫でも連れてきたのだろうと家康は結論づけ、家康の周りをくるくると回り続ける子供を抱き上げ、一緒に連れて行くことにした。
おぼつかなげに歩いていた小さな足が、空中でぶらぶらと揺れる。
「お前の父か母を探しに行くか」
「…………あぃ!」
「元気のいい子だな、あとで長松とも遊んでやってくれ。妹が欲しいらしいのでな」
抱き上げられてきゃっきゃと喜ぶその子を抱きながら、桜の木々の間を進む。
家康が遠縁の親族から引き取った子供は、すくすくと育っている。忙しすぎてなかなか構ってやれぬが、忠勝が己が子のように愛おしんでくれているので全く心配していない。
今日も忠勝と一緒に、先に宴の場へ行っているだろう。
可愛い妹が欲しいとこの頃会う度に言っている長松は、この子を見たらどれだけ喜ぶだろうか。可愛らしく元気に満ちあふれ、なにか目新しい物を見つける度に手を振り上げて喜ぶ姿は家康の口元を自然とほころばせた。
「なあ、お前の名は何というのだ?」
「こぉたん」
「こおたん? おかしな名だな……」
幼い故まだ上手くしゃべれないのだろう、だが人なつっこいのか家康のことを警戒する様子が全くなかった。ぺたぺたと家康の顔に触ったり、鳥の羽音を聞いては自分も腕を動かしたり。顔に桜の花びらをつけ満面の笑みで笑うその子供が、目当てのものを見つけ大きな声を上げた時も、家康はなにも気に留めることはなかったのだ。
「たぁたん!」
途端に家康の腕から抜け出して飛び降りると、よろよろしながら一直線に駆けていく先。
「お江! こんなところにいたのか……どれだけ探したと思っている!」
「たぁたん」
「千徳は先に行っているぞ。このじゃじゃ馬娘が……あとで叔父上に叱ってもらうからな」
「やぁ~」
「やだではない、ふらふら歩くなといつも言っているだ………」
家康。
その唇が自分の名を紡ぐのを、家康は信じられない物を見るような顔で見つめることしかできなかった。
白い僧服に包まれた体、特徴的な前髪は同色の頭巾に包まれ。
はらはらと舞う桜の中、わずかな風に僧衣の裾を揺らしながら。
もう一度だけ彼は自分の名を呼んだ。
「家康………」
「……み…………みつ……なり…………?」
「久しぶりだな、あれから2年……いや3年か」
「生きていてくれたのだな」
「私が死ぬわけがなかろう。皆に生かされた命、無駄に捨てるわけにはいかん」
晴れやかな顔で、三成が笑う。
今まで何をしてきたのか、何故連絡してくれなかったのか。そして時間は彼の中の自分への憎しみを薄れさせてくれたのか。
聞きたいことはたくさんある、伝えたいことも。
だが最初にしたいことは一つだけ。
「三成………ようやく……会えた………」
一気に駆けだし、三成を腕の中へと閉じ込める。
最初は驚いた顔をしていた三成だったが、家康の腕の強さに何かを思い出したのか。
そっと家康の背に己の手を添えた。
「もっと早くに会いに来るつもりだったのだがな、叔父上がせっかくだからこの場にすればいいと」
「叔父上?」
「………何も聞いていないのか!?」
「すまぬが……何故三成がここにいるのか、儂はそこから理解できておらぬ」
「叔父上らしいというか……なんというか………」
家康の腕の中、目を細めて笑む三成は家康の肩に頭巾に包まれた額を乗せた。事情がわからぬ鳴りに何か嬉しいことが怒っていると理解したのか、三成の足にしがみついて喜びの声を上げている子供に頭を撫でてやりながら三成の話は続いていた。
「私は上杉家の養子……ではないな、早世した謙信の甥御殿の代わりになったということだ」
「代わり……?」
「今は上杉景勝として生きている、お市も私の妻として越後にいるが名ばかりの妻だな……これもお市の子だ。松永が武田に話をしてくれて、武田家の姫として私に輿入れしたことにしてもらった」
「儂は、三成は刑部の葬式の後旅に出たとしか聞いておらぬ」
「確かあの時は……色々と疲れたので前々から誘われていた武田に行っていたな。伊達にも年に一度は里帰りしているし、長曾我部や毛利も越後の湯がいいと湯治に来てくれる」
「つまり儂は………騙されていたということか?」
「私に心の整理をつける時間をくれたのだ、皆を責めるな」
皆が三成の行方を知らないと言ったのは、そういうことだったわけか。
越後からいなくなったというのでそれ以外の場所を探していたというのに、越後に残っていたのでは見つかるわけがない。いくら三成が可愛いからといってそれはないだろうと一度は思ったが。
これが三成を傷つけ続けた自分に対して、皆が考えた罰なのだろう。
そうでなければ、情に厚い元親や、感情のままに物事を口にする幸村辺りが教えてくれるはず。この程度の罰ですませてくれた彼らに後で感謝の言葉を言わねばと思っていると、三成の目は天を見上げていた。
彼の目に移るのは、絶え間なく舞い降る桜の花びら。
「約束を……守ってくれたのだな」
ふわりふわり。
舞う花の中、三成は笑みで顔を崩れさせる。
「これくらいしか三成にしてやれることがなかったのでな」
「私は見ていた……良き国を作ろうとする貴様を」
「まだ儂の国作りは始まったばかりだ……これからも様々な事があるだろうな」
「だがやりぬくつもりなのだろう?」
「当たり前だ」
見つめ合い、微笑みを交わし合う。
幸せそうに、満たされ切った顔で笑う三成。
それは家康がもっとも見たかった顔だった。
「時間というのは不思議なものだな……貴様への憎しみは薄れていくのに、会いたいという思いだけが膨らんでいく」
「それは儂もだ。三成の事を考えぬ日はなかった」
「……………………そうか」
短い言葉だったが、そこに込められているのは様々な思いだった。
こうやって笑えるようになるまで、三成は様々な事を乗り越え、そして苦しんできたのだろう。彼の性格上その道程について教えてくれることはないだろうが、こうやって自分の前に出てきたということは。
彼はこれから自分と生きてくれるのだ。
その家康の思いを裏付けるかのように、家康の腕から抜け出して足下の子供と手を繋ぎ。これ以上無い程美しい笑みを浮かべたまま家康の名を呼ぶと。
「行くぞ……皆が待っている」
そう言い、もう片方の手を家康に差し出してきた。
その手をわずかの躊躇もなく掴み、胸に湧き上がってくる喜びと未来への展望を味わいながら。
徳川家康と石田三成は、しっかりと手を繋ぎ。
桜の花びらが降る中を共に歩き始めた。
<了>
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ということで、終わりました………言い訳とかは後で。
2/13オンリーの新刊はこの後の話とかを書き下ろします。
BGM「fall in love」
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色々説明
拍手現在豊臣家転生パロ中学生編入ってます
(現在2本 家三 チカナリです)
注意事項
・フリーリンクじゃないです、基本的にはリンクはお断りしています
・ひっそりこっそりが信条なので、黙々と
・捏造、not公式のこばなしが多いので、スルー推奨
ラキドでは幹部全員を溺愛しておりますが、ベルナルドとイヴァンは特に偏愛。ばさらは家三とか奥州の愉快な仲間達と毛長がメインです。うずみさんが現在官三とか官佐にずっぽりとはまり中。
基本は、愛想のかけらもない「ネット怖い~」の書き手が二人で色々書いている場所です。
書いている人
みっし
・生真面目で堅物でムキムキな男性と一見そうじゃなくても根は真面目極まり ないキャラをこよなく愛している、がんかたうるふの片割れ。編み物とお菓子作りが趣味という、第三者曰く可愛らしい一面を持つ反面、パニクると踊ったり、オロオロしだして周囲は見ていて楽しいらしい。荒ぶる舞は、職場の名物だったりする……らしい。
イヴァンちゃんと片倉さんとシズちゃんとスカイハイさんと陛下を思いっきり愛している。好きなアニメは銀魂と最近はFate/zero。型月ファンというよりは元から虚淵ファンでうずみさんからオススメされまくった末にようやっと手を付けて完読した。ライダー組おいしいです。エクシリアではダントツで陛下が好き。陛下が使用可能になる完全版があるなら複数買いしても構わないとのたまう日々。バサラの好きキャラは片倉さん一強だったはずなのに最近はアニキも熱い。かっちり着込むキャラがすきだったはずなのにいきなり露出度が高いキャラを好きになったのは何故か悩む日々。二次元の向かう愛と同じぐらい甥っ子への愛を叫んでいる気がしてならない。
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うずみ
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