こちらはサークル「がんかたうるふ」のうずみとみっしの二人組が、ラッキードッグ1とばさらのこばなしを黙々と投下する場所です。
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パティシエ兄貴と彼を巡る人々の話。今回も過去編。
元親にとっては今も昔も兄貴分である一人の男の話。折角官兵衛さん登場させたので官親と言いたいところだけども明らかにCP未満。なのでCP表記はしないでおく。ようやく最後に名前だけのあのお方が登場。このシリーズでアニキ中心のオールキャラでいいんだろうか。まだオールじゃないけども。次回からようやく毛長前提設定の本領発揮タイムにしたいところ~。
書いた人:みっしー
*****
昔話をしようか。
幼い頃の、たわいもない話を。
黒田官兵衛という男がいる。
しがないただの料理人だと本人は言うが、その腕もさることながら雇われ店長とはいえ
営センスはなかなかのものがあり、会社全体の売り上げに貢献していた。ただ、彼個人はどうしようもないレベルで不幸な出来事に遭遇する男ではあったのだがこの場においては割愛する。今その黒田の手元には一通の手紙がある。差出人の名前は、長曽我部元親。官兵衛にとっては血のつながらないものの、今なおつき合いのある弟分の名前だった。
元親と官兵衛の関係についてを語る前に、官兵衛の生い立ちについて語る必要がある。官兵衛の母はなかなか裕福な家の出身だったが、子育てにはあまり向いていない人で、両親の不和は成長するにつれて決定的になり官兵衛が高校に入学した後に離婚した。両親が結婚した経緯などしらないが、どうして結婚したのかと思うぐらい様々な価値観が異なる二人であった。官兵衛はどちらかというと父を慕って育ち、父親に似たので自分から母の面影を探すことは難しいだろうと思っている。前置きが長くなってしまったが元親は官兵衛にとっては別れた母親の妹である叔母にとっての義理の息子だった。
要するに官兵衛と元親は血のつながらない従兄弟だったのだ。従兄弟とはいえ離別した母親の妹である叔母の夫の、亡くなったした先妻の遺児と今なおつき合いがある理由は、とても些細なものだったと黒田は思っている。
親族同士の正月の顔合わせという名目の集まりが行われた母の実家で初めて会った長曽我部元親という少年はひどく心細そうで、また居心地が悪そうにしていた。黒田が14、5歳で当時の元親は最低でも10才は年下であったから、まだ小学生にもなっていなかったと思われる。誰かを頼ろうにも一緒に来た父母は親族と熱心に話しており、周りにいるのは大人ばかり。いつの間にか広間を離れて庭の近くに出てきたらしい元親と出会ったのはそんな時だった。すでにその頃親戚づきあいが鬱陶しくなっていた官兵衛は親族の誰とも顔を合わせる事が嫌で、人気のない縁側に座っていた。
「あ、ご、ごめんなさい…」
先客がいたことに気がついたらしい元親はぺこりと申し訳層に頭を下げる。そうしてすぐに立ち去って中に戻ろうとしたのを官兵衛が止めた。
「戻るこたぁ無いだろう。どうせ無駄に広い庭なんだからあんたも好きにしたらいいさ。」
そう言って出ていこうとするのを止める。
官兵衛は昔から、母親の親族といえども祖父母含めてあの人たちが好きではなかった。皆、腹に一物買ってるような人間は到底好きにはなれなかった。
しかし少年はおずおずと申し訳無さそうにつぶやいた。
「…だって、みんな、ちかがいたらいやがるよ。」
改めて勘兵衛は目の前の少年をみる。
少年の亡き母から受け継いだという銀の髪、青い瞳の気弱な少年。集団における異分子として疎外されるような扱いを受けてきたのだろうか。まだ、こんなに幼いというのに。その少年に哀れみを抱いたわけではない。だけれども、彼からは官兵衛が嫌いな口だけの人間とは違う雰囲気を持っていたから、こう言った。
「小生はそんなことは言わん。小生は好きにするからお前さんも好きにしたらいい。」
そう言ってから縁側に座り、寝ころんだ。
母の実家に来るのは昔からあまり好きではなかったが、この庭だけは別だった。無駄に広いだけあって手入れの行き届いた木々や花たちは美しく、見ているだけで時間が潰せた。どうせ自分がいてもいなくても宴は進むのだ。時間つぶしをしていても構うまい。
そう思っていたとき、隣にぽすっと音がしたかと思うと少年が座り込んでいた。心細げな様子は変わらないが少しは落ち着いてきたようだ。
ぽつりと目の前の少年がつぶやく。
「おにいちゃんは、ちかのことなにもいわないね。」
「…話は前に聞いたことあるからな。」
叔母にとっては血のつながらない息子であるこの少年とまじまじと顔を合わせたのは今日が初めてだった。子連れの男性と結婚するに当たり、叔母は親族から相当な反対を受けたと聞く、それから数年に渡り連絡を取っておらず、祖父母にようやく許しをもらえたのが数ヶ月前だったと官兵衛は母から聞いていた。だから、彼と出会うのも、また彼の両親と出会うのも今日が初めてだった。
その少年は亡き母の容貌を写したかのように、日本人離れしていると聞いたものの、今まで会ったことは無かったのだ。
「…ちかはちがうって、みんないう。いわれるのいやだからあそばない。あそびたいけど、わからない。」
なんでちかはみんなと違うのかな、と呟く。
それは、どこにも吐き出せなかった少年の、本音だったのだろう。
「…難しいなぁ。」
官兵衛が呟くとこくりと頷く。
「おとうさんとおかあさんは、がんばりなさいっていう。いまよりもっともっとがんばったらいいっていう。でもちかはそれがわかんない。ばかだからなかな。」
訥々と語る少年に表情の変化は少ない。
きっと常々、家でも言われていることなのだろう。
「…がんばれって…言われる方は重いよなぁ。」
「おもい?」
「そうだなぁ…言われる方も大変ってことだ。」
「ちか、たいへん?」
きょとんとした様子で官兵衛を見る少年―確か元親という名前だった―が呟くのでそれに対して頷く。
「そう。そんなに頑張らなくてもいいんだぞ?疲れるだろ?」
「がんばらなくてもいい…」
確認するように元親は何度か口にする。きっと家でも常々両親から言われているのだろう。だけれどもそれはまだ両親の庇護を必要とする子供にはいささか早すぎやしないだろうか?子供を育てたこともない勘兵衛には彼の両親の子育てについて、間違っているとはいえないが、少しはありのままのこの子を受け止めてくれてもよいのではないか、そう思ったときだった。
すくっと少年は立ち上がり、改めて官兵衛に顔を向ける。
「…でももうちょっとがんばる。おとうさんとおかあさんがほめてくれるなら、がんばってみる。」
ありがとう、お兄ちゃん。
そう言ってはにかんだように笑うと少年はパタパタとまたいなくなってしまった。一人になってしまった庭で官兵衛は一人呟いた。
「難儀だねぇ…。」
頑張らなくても良い、そう言われたのは初めてだったのだろうか。とても驚いた顔をしていた。叔母はあまり会ったことがなかったが、あのようなひとだっただろうか。いずれにしろ、元親がいつも言われている言葉は彼にはまだ酷なものが多かった。
どうか少年が健やかに育っていくことを、願った。
そうして数ヶ月後には元々不仲だった両親の関係が修復不可能なレベルにまで達したことをきっかけに母とは別居、その末に両親は離婚し、官兵衛は母の実家とも完全につき合いが途絶え、やがて10年近い歳月が流れた。
官兵衛は高校を卒業すると料亭に弟子入りし、住み込みで修行した。そうして数年の後に料亭を離れ、様々な飲食店を転々とした結果、現在は繁華街にある居酒屋の雇われ店長をしていた。繁華街だけあってトラブルはあるにはある。悪質な客とのトラブルだったり、よっぱらいとのトラブルであったり、警察との駆け引きであったり…官兵衛個人が個人的にトラブルに見舞われやすい体質であることも関連し、そんな日々を繰り返すうちにすっかり官兵衛は荒事には強い体質になっていった。具体的に言うとトラブルには巻き込まれやすいが、自分でそのトラブルを解決してしまうのである。そんな日々を過ごす内に彼の名は知れ渡り、彼の店でのクレーマーはほとんどでなくなっていった。
その日は店の裏口の近くで、学生の不良同士の喧嘩が店の前であったのだ。店員に任せていたが、どうにも勢いだけはある連中のようで簡単には収まらず、厨房に入っていた官兵衛が出る羽目になったのだ。
「黒田さん!!すみません、本当にすみません!!」
米つきバッタのように頭を下げる部下をなんとか宥めつつ店の前に出る。
「おい!!お前ら!!店の裏で乱闘すんじゃない…?」
喧嘩は、あまりに一方的な状況で幕を閉じていた。
立つのは1人、あまり広いとは言えない路地裏に倒れ伏すのは10人以上。
恐らくは1対多数の喧嘩だったと思われるがそれを一人で伸してしまったのだろうか。そうして官兵衛はただ一人その場に立つ少年を見やる。
銀の髪、青い瞳、ライオンのように逆立てた髪型。
そのなにもかもがあのころとは異なっている。
だけれども、あのころと同じだ、とも思う。
「…元親か…?」
とっさに声を出した官兵衛に反応するように、ふと元親と思わしき少年が顔を上げると、その顔が驚愕に満ちたものに変わっていく。
「……あんた…まさか…官兵衛か…!?」
それはおよそ10年越しの再会であった。
「またえらく派手にやったな…ほれ、終わりだ。」
「…どーも。」
ラッシュタイムの過ぎた店内は比較的落ち着いていたので部下に店を任せると、元親を連れて官兵衛は社員用の休憩室に飛び込んだ。ちなみに地に伏していた不良達はもう一度元親の姿を見ると恐れおののくように逃げ出していった。警官が駆けつける前に元親を連れて店の中に入ったものの、後で事情を説明をしに行った方がよさそうだ、と思いながら元親の傷の手当をしてやった。顔には青あざ、あちこちに切り傷があり何とも痛ましい。
官兵衛が元親に会ったのは高校受験間近の正月での集まりで、それが最初で最後だった。それから半年後には両親は離婚し、父親に引き取られた官兵衛は母方の親戚とは縁遠くなってしまったのだから。
気弱で、それでも優しく笑っていた子供の面影を、今の元親から探し出すのは難しい。それでも官兵衛が元親だとわかったのは、銀の髪に青い目と外見的な特徴はあまり変わっていなかったからだ。だけれども、左目につけられた眼帯とそして何よりも元親自身が醸し出す印象が他者を拒絶してしまっていた。
「お前…いくつになった?」
官兵衛は目の前の、すっかり様変わりしてしまった従兄弟に問う。
「…15。」
ぶっきらぼうに呟かれた言葉はやや低い男の声だった。声変わりもすませてしまったらしい従兄弟の姿に、官兵衛は確かな時間の流れを感じる。
「10年前に会ったきりだったもんな…。まぁ小生も人のことはいえないが、お前もよく覚えていたな。」
「…ああ。あんた、ぜんぜん顔、変わってなかったから。」
「…それは喜んでいい所かね。」
どうせ小生は昔から老け顔だよ、とぼやくと僅かながら元親の雰囲気が和らいだように見えた。とはいえどこか淀んだ目をしているのは全く持って変わらないのだが。
どうして、いつから、変わってしまったのだろう。
少なくとも、官兵衛が知っていた長曽我部元親という少年は、これほどまでに絶望した目をしていなかった。
なぜ、どうして。
それはやはり、彼自身から聞き出さねばならないだろうか。
「…いつからこんなことやってるんだ」
未だに俯きがちな元親に対して備え付けのポットからコーヒーを入れ、手渡しながら尋ねる。あれだけの多勢を一人で相手にしていたにしては手際が良すぎた。あれは経験を積まなければどうにかなるものではない。
「…中1…。」
受け取りながら、それでも拒否することなく、元親は言う。未だにうつむいたままでその感情は読みとれない。
「2年もやってんのか!?…っていうかお前受験生…」
「…そんなのもう関係ねぇ…」
続けようとした言葉は元親自身が発しようとした言葉によって遮られた。
「…頑張った。俺は俺なりに頑張ったつもりだった。でも駄目だった!!1番にはなれなかった!!…だから、あの人達にとって、おれはもういらないんだ。おれにはもうなにもないんだから!!」
痛切な叫びは、今まで聞いたことがないものだった。
まるで泣いているようだと官兵衛は思う。だけれども元親本人は涙を流さずに言葉を続ける。
「…一番じゃないと、100点じゃないと意味がない…あの人達は、それしか見てくれない。…いやちがう。ずっとそれしか見てなかったのが…事故の時にわかっただけだ。」
頑張ればいつか認めてもらえる。
それが、ずっと、元親にとっての救いだった。彼はずっと頑張れば認めてもらえるかもしれないと思い続けてきた。だけれども一番認めて欲しかったのは両親にだ。頑張ったね、その一言が言って欲しかった。だけれども事故をきっかけに、それが叶わないものだと言うことに気がついてしまったのだという。
―両親は、元親自身ではなく、あくまで家の名を重視していることに。
事故で左目を失明したというが、その時なにがあったのか詳しくは元親は語らなかった。だが、それがきっかけだったのだろう。それからは夜な夜な繁華街をうろついていたらしい。ちょうど成長期を迎え、体が急成長していったこともあり、彼の体格は中学生には見えなかった。喧嘩は苦手だったが、体格の良さと頑丈で怪我には強かったことから、いちゃもんを付けてくる人間はまとめて伸したという。ある時は暴走族を潰したら妙にメンバーから懐かれてしまったりと、可愛い弟分の予想だにしない過去の逸話に官兵衛は呆れつつも話しに耳を傾けていた。
―自分達の望み通りのお人形が欲しかったんだよ。あの人達は。
そう言って元親は皮肉気に笑った。
元親があれからどうやって育ったのかを官兵衛は知らない。
彼の両親がどういう思いで彼と接していたのかも知らない。
ただわかるのは、こじれてしまった親子の関係は、簡単には元には戻らないという事だけだった。少なくとも、今の元親が両親に心を開くことは無いのだろう。元親自身がそれに結論をだせるようになるまで、きっと長い時間が必要だ。
官兵衛はただ、黙って元親の話に耳を傾けていた。
やがてそれが嗚咽に変わって泣きやむまで、ずっとそばにいた。
「なんだよこれ…」
「腹が減ったらろくなことが考えられんからね。」
店は落ち着いていることもあり、厨房で少々料理をこしらえると官兵衛は再び元親の元に戻った。まぁとりあえず食えと夜食を出す。賄いと言っても今日の残り物でこさえたおにぎりと味噌汁だがどちらも官兵衛が作った特別品だ。
「…あとこのおにぎり…なに?でけぇんだけど…」
「食えばわかるよ。」
通常のおにぎりの三倍はあろうかという巨大なおにぎりを前に元親はものすごく疑わしそうな顔をしていたが、空腹には勝てなかったのか、やがておそるおそるかぶりついた。
一瞬、きょとんとしてかぶりついたおにぎりを見る。
「…え?…なんだこれ…なんでこんなにいろんなもんがはいってんの?」
元親が驚くのも当然と言えば当然だった。
このおにぎりは店の人気メニューの一つ。ばくだんおにぎりという。この店を作ったグループ全体の社長が考案したメニューであり今なお根強い人気がある。
「鮭とおかかと昆布入りだ。どうだい。結構食べ応えがあるだろう?」
こくこくと頷く元親に今度は味噌汁を勧める。味噌汁にネギが入っている。ごくふつうの味噌汁だ。
「卵…?」
この味噌汁の具は落とし卵だ。この味噌汁は別名ばくだん味噌汁という名前があり、おにぎりともども、ばくだんセットとして店の人気商品でもあった。
「…うまい。」
気に入ったのか元親は味噌汁もおにぎりもペースよく食べていく。
「居酒屋料理も悪くないだろ。」
言いながら先ほど入れたほうじ茶を置いた。
「…官兵衛は、いつからここで働いてんだ?」
おにぎりを半分以上たいらげたことで空腹が満たされ、心の落ち着きも取り戻してきたらしい元親が尋ねてきた。少しずつながら、官兵衛への警戒心が薄れてきたらしい。
「小生かい?…こっちに飛び込んだのは高校卒業してすぐだよ。この店で働くようになったのは…まぁ2年ぐらい前かね。」
官兵衛がこの店を預けられたのは、あの奇妙な社長に気に入られたからだ。同じようにスカウトされて店を任せられた人間は数人おり、いずれの系列店も繁盛しているようなので社長に見る目はあるのだろう、見る目は。…相当な変人であることは間違いないが経営者としての才覚も間違いは無いようだ。
「学校の成績とかは関係ないがね…料理ってもんはやってみるとおもしろいし、意外に大事なもんを教えてくれたんだよ。」
「…ふーん…」
そう言いながら元親は残りのおにぎりをほおばって食べる。官兵衛の話をあまり興味がなさそうに聞いていたが、その目にはほんの僅かではあったが、楽しさがにじみ出ていた。おそらくそれに気が付いたのは、本人ではなく、隣に座っていた官兵衛だけだったのだろうか。
その日は結局、店の上の官兵衛の自宅に泊めさせ、そうして言ったのだ。小生がいるときならいつでも来ていていいぞ。そう伝えたからだろうか。それから元親は結構な頻度で店に顔を見せるようになった。聞けば元親の自宅からは電車で結構離れているのだが、暇つぶしがてら歩いて移動しているらしい。再会したのが夏休みの始まりだったのでそれからほぼ毎日来るペースだった。そして何かを作ってみたいという彼に毎日学校に行くならという条件付きで官兵衛の自宅のキッチンを貸したこともあった。菓子作りの経験は無いとのことだったが、センスがあるのか意外にも手際よく菓子作りをするその姿に感嘆を覚えた。
元親の両親、特に母は彼がそういうことをするのはよく思わないらしい、とぼやいていた。元親の中では信頼が無いに等しいとはいえ親は親なのだ。自分のやろうとしていることを反対されれば良い思いはしないし、親の言動に一喜一憂しない子供はいないのだ。今まで元親には心の底から信頼できる大人はいなかったのだろうか、と年下の従兄弟を思って官兵衛は悲しくなった。確かに元親の外見は奇異なものに入るかもしれないし、周囲との軋轢もあるだろう。叔母にしたって血のつながらない息子を前にどうしたら良いかという思いもあったのかもしれない。だけれども、誰か一人ぐらいは、彼をこうまで思い詰める前に救ってやることができなかったのかと考えてしまうのだ。もっともそれは部外者である官兵衛の考えであり、当事者達にはまた別な思いがあるのだろう。そうしてなにより、官兵衛は、彼が一番苦しんでいた時になにもしてやることができなかった。すべては、後の祭りだった。
高校に入学し、少しずつながらも友人もできたり、近所でも年下の友達ができたと嬉しそうに話す元親の姿は再会したあの頃とは全く違ったものになっていた。俗に言う暴走族を率いていた少年と同一人物とは思えない。その変化が官兵衛には嬉しかった。その一方で元親と両親との関係は相変わらずらしく、家にいることを嫌がっているようだった。
「…大学いけってうるさいんだよ、最近は特に。」
「大学ねぇ…行って何するんだ、お前。」
しらねぇ、と言いながら元親は官兵衛と並びながら本日の賄いであるラーメンを啜る。鳥がらで丁寧にだしをとったこのラーメンは店での裏メニューでもあり隠れた人気商品でもあった。
高校生になった元親は結構な頻度で店を訪れ、そして厨房の手伝いに入ることが増えていた。そのおかげで今ではほとんどの店員と顔見知りだ。なにかと訳ありな人間も多いこの店の部下は、毛色の違うガラの悪い人見知りの子供を難なく受け入れた。
「おれさ、あれになりたいんだ。…お菓子とか作る人。」
「…パティシエ?」
「そうだそれ。政宗も言ってた。」
政宗というのは高校での友達らしい。この元親から友達という言葉が出てくるなんて…!!と聞いたときは部下ともども感動の涙を流したものだ。なんというか捨て猫を見ているようで危なっかしくて目が離せない、らしい。
「昔さぁ、初めてここにきたときに、あんたおにぎり作ってくれただろ?…俺、思い返してみても、あれがすんごい嬉しかったんだ。」
あらかた食べ終えた元親が思いの外穏やかな顔で言う。
確かに官兵衛は元親がここに来たときにおにぎりをつくってやった。なんの飾り気無いメニューではあるが、米から梅干しから何からこだわり抜いた、素材だけで言えば居酒屋らしからぬ自慢の一品だった。
あれがそんなに心に残っていたとは。
「食べ物っていうか食べることって凄いんだなって。言葉以上に、いろんなものを伝えてくれる。…俺も、そういうことができる人になりたい。でも俺、料理あんまり得意じゃないからお菓子作る人になりたいんだ。」
無理かもしれねぇけど、と少し恥ずかしそうに言った。
かつて、自分にはなにもないと言い放った少年が、そう言えるようになったことが、夢を持てるようになったことが、ただ嬉しかった。
「…お前、卒業までに親を説得できる自信はあるか?」
官兵衛が問うと元親は一瞬目を見開いて動きを止めるがすぐに首を横に振る。
「…正直言って、ない。俺の言うこと聞いてくれないからなぁ…。」
まぁ今じゃ向こうが俺と話したくもないんだろうけど、そう言って元親は皮肉気に笑った。まぁ確かに長年に渡り遺恨を増やしつつある両親と交渉しろと言うのは酷な話だろう。だから、官兵衛は少しだけお節介をやくことにした。
「本気でやってみたいのなら…小生が紹介してやるがね。うちの社長は凄まじく胡散臭いが、夢を持つ馬鹿には好意的だから、きっとなんとかしてくれる。」
その瞬間の元親のなんともいえないきょとんとした顔を官兵衛は忘れないだろう。言われたことが信じられないとでも言うように目を瞬かせている。
「え…?でも、迷惑かかるんじゃねーのか…?」
こいつは本当に、自分が誰かの負担になることを厭う。そんなことはないのだと言っても、自分を肯定することができないままに育った元親には仕方がないことなのかもしれない。ならば、そう考えられるよう、支えていてくことしかできないのだ。
「ガキがんなこと気にしなくていい。…まぁ、おまえさんが本気じゃなかったら、持ちかけはしないよ。」
どうする?と問いかけた元親は、全身全霊の力を込めたかのように力強く頷いた。そうして、頬を紅潮させて、とても楽しそうに言った。
「ありがとう。」
それは初めて会ったあの日にみた笑顔と、とてもよく似ていた。
自分は元親に、何かをしてあげられただろうか。
そう、官兵衛は今でも思う。
複雑な家庭に育った年下の従兄弟に対して、明確な何かができたたわけではない。むしろ共に過ごした歳月よりも離れていた時間の方が長いのだ。だけれども彼は店に来ては楽しそうに笑い、過ごし、そして旅立っていった。
この店で過ごした日々をきっかけに、夢を抱き、そしてそれを掴んでくれればそれに越したことはない。
そうして官兵衛は弟分の幸せを願った。
それからまた時は流れる。
官兵衛は未だに居酒屋の店長を勤めている。部下の入れ替わりはあれどもこのご時世に店は繁盛している。まぁ良いことだ。
高校卒業と同時に家を飛び出してきた元親を社長に会わせ、あれよあれよという間に彼の行く先は決まってしまいそのまま離れたが元親からは度々手紙が来ていた。社長の紹介で勤め始めたのは元親の地元から遠く離れた場所にある、とある店だったが、最初は主にその店のことに関してが書き綴られていた。勤め始めた店の店長が嫌みだとか、腹が立つけど言ってることは正しいから悪い奴ではないみたいだ、とか他愛のないものだった。
ある時手紙の中にこう書かれていた。―好きな人ができた、と。相手に関しては書かれていなかったが、それまえの手紙を見ているとなんとなくだが想像は付いた。そうして手紙はやがて恋人ができたこと、知らせる手紙に変わっていった。
だが、数年後のある時送られてきた手紙にはこう書かれていた。
―恋人と別れました。仕事も辞めました。親に数年ぶりに会いにいきました。勘当されました。すっきりした。これを投函してからフランスにいきます。官兵衛もいままでありがとう。―
どこからつっこんだらよいのかわからないような、これだけ書かれた手紙だったことをよく覚えている。かなり急いで書いたのか字は崩れめちゃくちゃだった。
慌てて会いに行ったが、手紙通り元親は既に旅立った後であった。代わりに出迎えたのは彼の元恋人だった。そして事情を聞くと、それは実にどうしようもない話だった。お互いが、素直になっていればそれは違う展開を迎えていたのだろうに、どちらも素直にはなれなかった。だから、別れた。
お互いがお互いを嫌いでないのに別れてしまったという後味の悪い展開を知った官兵衛は、何とか元親と連絡を取ろうと試みた。だが無理だった。フランスに行った元親はそれから何年にも及び、消息不明だったのだ。
それが今、官兵衛の手元には元親からの手紙が届いている。そこには長年の不義理を詫びる内容と、色々あった末に高校時代の友人が経営するケーキショップでパティシエとして働いている、という旨が書かれていた。社長に電話で尋ねると非常に胡散臭い日本語で「オーウ!!アンティーク!イマトッテモヒョウバンノケーキショップネィ!ミーモオミヤゲデモラッテタベタケドトテモビミデシター!エ?モトチカイル?ソレハシリマセンデシター。アノボーイニホンハナレタトオモタラカエッテキタデスネー」と話をされた。
パティシエになるという夢を叶えたのだ。それは喜ばしいことだろう。
だけれども、お前は大事なものを無くしたままじゃないのか?元親。
生まれて初めて得た恋人と、些細な諍いで誤解のままに別れてしまった事は、あの元親にとって大きな傷になっているはずだった。例え表面上はなんて事無い顔をしていても、その裏では絶えず傷に苦しんでいるだろう。元親は、そういう男だ。送られてきた手紙には、ご丁寧に店の住所までもが記されていた。
―お前は、お前自身が望む幸せを手に入れてもいいんだ、元親。―
それはお節介かもしれないし、余計なお世話だと罵られるかも知れない。だがそれでも構わない。自分に小さな不幸が被さってくるのは構わない。だけれども、元親。お前は愛されていたんだということを、彼自身に教えたかった。いや教えなくてはならないと思ったのだ。
そうして黒田は手元にあった携帯で電話をかけ始める。
携帯の画面に記された名前は毛利元就。
元親にとっては恋人だった男の名前だった。
○ようやく本命登場。
あと二話で終わりの予定です。
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色々説明
拍手現在豊臣家転生パロ中学生編入ってます
(現在2本 家三 チカナリです)
注意事項
・フリーリンクじゃないです、基本的にはリンクはお断りしています
・ひっそりこっそりが信条なので、黙々と
・捏造、not公式のこばなしが多いので、スルー推奨
ラキドでは幹部全員を溺愛しておりますが、ベルナルドとイヴァンは特に偏愛。ばさらは家三とか奥州の愉快な仲間達と毛長がメインです。うずみさんが現在官三とか官佐にずっぽりとはまり中。
基本は、愛想のかけらもない「ネット怖い~」の書き手が二人で色々書いている場所です。
書いている人
みっし
・生真面目で堅物でムキムキな男性と一見そうじゃなくても根は真面目極まり ないキャラをこよなく愛している、がんかたうるふの片割れ。編み物とお菓子作りが趣味という、第三者曰く可愛らしい一面を持つ反面、パニクると踊ったり、オロオロしだして周囲は見ていて楽しいらしい。荒ぶる舞は、職場の名物だったりする……らしい。
イヴァンちゃんと片倉さんとシズちゃんとスカイハイさんと陛下を思いっきり愛している。好きなアニメは銀魂と最近はFate/zero。型月ファンというよりは元から虚淵ファンでうずみさんからオススメされまくった末にようやっと手を付けて完読した。ライダー組おいしいです。エクシリアではダントツで陛下が好き。陛下が使用可能になる完全版があるなら複数買いしても構わないとのたまう日々。バサラの好きキャラは片倉さん一強だったはずなのに最近はアニキも熱い。かっちり着込むキャラがすきだったはずなのにいきなり露出度が高いキャラを好きになったのは何故か悩む日々。二次元の向かう愛と同じぐらい甥っ子への愛を叫んでいる気がしてならない。
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うずみ
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